雪の影は降りおりて

作者:幾夜緋琉

●雪の影は降りおりて
 栃木県日光市。
 イロハ坂を上がった所にある奥日光は、自然と一体になった、美しい温泉地。
 ……そんな自然の傍らを歩く、一組のカップル。
『そろそろ雪も降って、この湖面も美しく色付くんだろうなぁ……』
『そうねぇ……』
 若いカップルは、深夜のデートという事で、ちょっとフザケながらも歩いている。
 そんな彼らにそっと、近づく緑の影。
『…』
 声はなく、伸ばされる触手。
 その触手は頭上と背後から静かに忍び寄り……彼女に巻き付き、絡み取る。
『え……き、きゃああ!!!』
 と悲鳴を上げる彼女に、彼は。
『な……ひ、ひいいいい!!!』
 恐怖におののき、彼女を残し……其の場を逃げていってしまうのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に軽く一礼し、早速。
「今回皆さんには、栃木県日光市の奥日光に現れた、攻性植物の退治をお願いしたいのです」
「どうもこの攻性植物は、何らかの胞子を受け入れ、突然攻性植物へと変異してしまったものの様で、その性格は狂暴の様なのです」
「そして、この攻性植物は、偶然近くを歩いていたカップルの女性を一人に狙いを定め、捕らえ宿主にしてしまった様なのです。皆さんにはこの捕らえている攻性植物の撃破をお願いします」
 更にセリカは、詳しくケルベロス達に説明を始める。
「今回、彼女を捕らえた攻性植物は一体のみで、他に攻性植物の手下の様な物は居ない様です」
「とは言え彼女をその身体に取り込むようにしている為、普通に攻撃しようとしたりすると、彼女にもそのままダメージが及んでしまいます。当然ながら、そのまま攻撃をし続けると、彼女と共に攻性植物を倒す、という事になってしまうでしょう」
「ただ、攻性植物にヒールを掛けながら戦う事で、戦闘終了後に攻性植物に取り込まれていた人を救出出来る可能性があります。可能であれば、回復しながら攻性植物を倒す様にして頂ければと思います」
「尚、攻性植物自身の攻撃手段はその蔓の触手を伸ばし、手足を拘束しながら締め上げる攻撃と、地面の下から不意に突き上げる攻撃の二つが確認されています。また、地面から養分を吸収する事での自己体力回復と、癒アップの効果がある様なので、思った以上に回復してしまう……と言う事が起こりやすいので注意して下さい」
 そして、最後にセリカが。
「この攻性植物に寄生された方を救うには困難が伴います。しかしながら、可能性があるのであれば、皆さんの力で、彼女を救っていただける様、宜しくお願いします」
 と、深く頭を下げた。


参加者
殻戮堂・三十六式(祓い屋は斯く語りき・e01219)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)

■リプレイ

●美景の別れ
 栃木県日光市のいろは坂を上がった所、奥日光。
 美しい温泉地には、雪も間もなく降り始める頃……そして、自然が一体となり、美しい景色が広がっている。
 ……そして、そんな美景に気持ちが舞い上がってしまい、若いカップル達は、イチャついたり、ふざけたり……そんな若いカップルに襲いかかるのは、恐ろしき攻性植物達。
 不意を突いて、カップルの片方、女性を背後から絡みつかせ、まき付け、絡め取ってしまう……という事件。
 悲鳴を上げる彼女と、それを捨てて逃げてしまった男性……まぁ、突然目の前で、彼女が縛り上げられられたら、普通の人間は混乱し、逃げてしまうのも理解出来る。
「うーん……恋人に逃げられて、精神的にも参っているだろうね。そんな絶望の中で死んでいったら悲しいよ、必ず助けてあげないと」
 と、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が元気よく言うと、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)も。
「そうですな。助かる者は助けましょう。手遅れにしたくはありませんからな」
 その仲間達の言葉に、ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)は。
「ああ、救済の時間だ。植物に還るならば、私の胎に還れ……さあ、胎内回帰を始めよう」
 と母の如き微笑みを浮かべる。
 ……と、そんな仲間達を見わたし、くすりと笑みを浮かべる暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)。
「……ん? 何だ?」
 と殻戮堂・三十六式(祓い屋は斯く語りき・e01219)が首を傾げると、それに守人が。
「いや、今回は味方に、何度か今迄に一度戦った人や、ケルベロスとして名前の通っている人が多いし、かなり心強いかな、ってね」
「……まぁ、な」
 肩を竦める三十六式に対し、いやいやいやいや……と謙遜するは中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)。
「そんな事ないっすよ! 守人さんには適わないっす!!」
 調子よい言葉を継げる憐に、周りの仲間達は苦笑。
 そしてキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)と龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)が。
「では……参りましょうか」
「ああ……必ず救い出そう」
 と頷き合い、そしてケルベロス達は、攻性植物が現れてしまった森の中へと急ぐのであった。

●影と闇
 そして、ケルベロス達は自然の中を駆ける。
 ……森を進むと、その先から走り来る……男の姿。
『ひ、ヒィイイイイ……!!』
 悲鳴を上げて逃げてくる男……その表情は憔悴しきっている。
 そんな彼を妨げること出来ず、そのまま森の外へと逃げて行ってしまう……。
「……うーん、そんだけ怖かったのかな?」
 と守人は肩を竦めつつも、逃げてきた方向へと急ぐ。
 そして……森の中の一本の樹の中に、捕われの女性の姿。
 ……身体の半分以上が埋まる様になっており、その表情は最早虚ろ……。
「我々は君の恋人に呼ばれて助けに来たケルベロスだ。必ず助けるので気を強く持て!」
 と力強い言葉で、隆也が元気づけるように叫ぶと、それに促される様に三十六式と憐も。
「安心しろ、俺たちがなんとかする。少しばかり長く時間がかかるかもしれないが、必ずアンタを助けるよ」
「そうっす。俺達ケルベロスが来たからには、安心っす!」
 と声を掛ける。
 が……対する攻性植物に捕われの彼女は、目を朧気に瞬かされるがのみ。
「……植物を視認する。何故か胎が減って、たまらない」
 とユグゴトが『立ち去れ』と書かれた鉄塊剣を構えると、それに合せて守人が殺界形成を発動。
「今回は連携とバランスが重要になるね。周囲に気を配り、動きを見ながら攻撃方法を調整しないと。殺し過ぎない様にも気をつけないとね」
「ええ……これ、どうぞ」
 とキャロラインは、何故か手にしていた買い物袋の中から、用意したコンバットライトを差し出す。
 そしてその灯りを灯し、目前の攻性植物に対し照らす事で、其の場の灯りを確保。
 尻尾の先に「雨宿のランプ」をくくりつけた赤煙も、多少高い位置に上げて視界を確保した上で。
「では……いきましょう」
 と短く言うと共に、ケルベロス達は仕掛け始める。
 先陣を切るは隆也。
「手加減はなしだ、死んでもらうぞ」
 と端的に言い放ち、【憤怒の魔剣】を一閃し、取りあえず蔓一本を斬り落とす。
 が……直ぐに蔓は再生し、地面をビタンビタンと叩き、怒りを表現。
 そして、身体の中に捕らえた彼女を更に強く締め付け……苦しめる。
 彼女の顔は、苦しげに歪む……そんな彼女に赤煙が。
「辛いでしょうが、少しの間堪えて下さい。我々が必ずあなたを助けます」
 と気丈に声を掛け、励ましつつ、ウィッチオペレーションでの回復。
 ただ、赤煙の回復だけでは、まだまだ危険領域……更に憐が。
「ここで死んだらあなたの家族が悲しむっす! 絶対死なないと思って頑張れば、本当に死なないっす! 俺達も頑張りますから!!」
 と、頑張る様に、力強く声を掛ける憐。
 二人の声掛けを聞いて、力をどうにか振り絞る彼女……そして。
「その傷ついた翼を広げ 再び大空高く羽ばたいていけ!」
 と、キャロラインはバイオレンスギターを爪弾き【折れない翼】を奏でて仲間達にBS耐性のエンチャントを付与し強化。
 そして守人が自分に分身の術を使い、強化すると共に攻性植物の手前に近接し、真っ正面に対峙。
 そして、その後ろから桜子が。
「必殺のエネルギー交戦だよ、これでも喰らいなさい!」
 とコアブラスターを放ち、更にユグゴトがデストロイブレイドで一閃。
 そこまでの、敵の体力状況を一端見据え。
「……まだ大丈夫そうか」
 と言うと共に、旋刃脚で敵の動きを制限。
 続く刻、攻性植物はその蔓をケルベロス達に伸ばし、拘束しようとするが……その攻撃は上手くいかない。
 ただ、彼女の身を縛り付ける勢いは、更に一層強くなる為、苦しみをじりじりと与えていく。
 ……憐と赤煙の声掛けに、更に同じ女子の桜子も。
「生きる希望を忘れないで、必ず助けてあげるから、辛抱してね」
 と、元気づける様に声を掛けつつ、回復と攻撃のバランスを取る。
 時折、攻性植物自身が、地面に伸ばした根から養分を吸収し、回復と癒アップの効果を受ける事も在り、回復量が増加する事も多々。
 しかし、敵の状況を見据えた上で、その際には回復を抑える事で、その体力の回復具合を調整。
 そして、敵の攻撃をディフェンダーポジションにて受け止めながらユグゴト、桜子、守人が。
「嗚呼、自分の身の保身の為に他者を利用する。全く、困った仔だ」
「うん。古代の禁じられた魔法よ、敵を石化させる光を放て」
「攻性植物だから、養分か養分でないか、位にしか考えてないのかもしれないね……でも、これ以上彼女を苦しませない」
 それぞれが言葉を口にし、【感情地獄】とペトリフィケイション、そしてシャドウリッパーで攻撃。
 更に三十六式、隆也のクラッシャーは、癒アップの効果を上回るダメージを与える為、禁縄禁縛呪と指天殺にて、大ダメージを与える。
 大ダメージを与えた次の刻には、回復の手を増やす事で、危険域に近づいた彼女の体力を回復。
 ……数分の刻、駆け引きにて、攻性植物の傷を少しずつ積み重ねる。
 そして……仕掛けてから十数分が経過した時。
 何度目かの攻性植物の蔓が地に落ちる……が、その部分が、再度再生されない。
「……ん?」
 三十六式がそれを不審に思いつつ……更にもう一本の蔓を一閃。
 やはり、蔓が再生する事は無く……攻性植物の手数は減少。
「どうやら、そろそろ限界の様ですね……皆様」
 と、後衛から指示を飛ばすキャロラインに頷く守人。
「了解。そろそろ邪魔な枝葉を落とさせて貰うよ!」
 と威勢をつけながら、騒音刃の一撃を食らわせる。
 その一撃、攻性植物の上部を一閃し、木の幹を晒す。
 そして……。
「そろそろ、決着を付けるとしよう」
 と隆也の宣告と共に、至近距離で放つ旋刃脚。
 その一撃は、攻性植物を横から叩き……その衝撃に、彼女の身体が僅かに抜けかける。
 そして。
「これで終わりだ」
 三十六式が放つ旋刃脚は、彼女を縛り付ける蔓を全て切断し……そして攻性植物は、そのまま爆発する様に消失した。

●苦しむ心
 どうにか、攻性植物を倒したケルベロス達。
 樹が失せて、その幹だった所に横たわるは、囚われの彼女。
「だ、大丈夫っすか!!」
 と、慌てて彼女の元へと駆け寄り、抱き上げる憐……呼吸はある様で。
「ふぅ……だ、大丈夫みたいっすよ!」
 サムズアップで仲間達に知らせると、ユグゴトが。
「そうか。ああ、救われた。私も皆も救われたのだ……」
 安堵の溜息を吐きながら、身体の力が抜けて、其の場に横たわってしまう。
 そして、他のケルベロス達も、そんな彼女の元へと駆け寄り、攻性植物によって傷付けられた手、足の擦り傷や締め付けの後などを見て。
「うーん……結構細かい傷が多いかな? 辛かっただろうね……」
 と、桜子はぽつりと呟きながら、しっかりと包帯などで応急手当。
 ……と、そんな応急手当をしていると、程なく。
『……ぅ、ぅん……あ……あれ……?』
 朧気に、瞼を開く彼女。
「あ、気づいた様でございますね」
 とキャロラインは気づくや否や、その傍らの買い物袋を開き、ごそごそと。
『……??』
 きょとんとしている彼女。起きたばかりで、意識がぼんやりしているのがあるかもしれないが。
 ……そんな彼女に、買い物袋の中から取りだしたのは、フライドチキン。
 唐突に差し出されたフライドチキンにえ、えっ……と戸惑っていると。
「今日はクリスマス。まあ、機械である私が言うのも何ですが……クリスマスは美味しいものを食べるイベントでございますよ。さぁ、元気を出して」
 と。
『クリスマス……あ! あれ……あの人……』
 周りをぐるりと見渡す彼女……当然、彼氏の姿はない。
「我々は、君の恋人に呼ばれて助けに来たケルベロスだ」
 と隆也が強い口調で宣言するが……彼女は。
「それって……あ……うう……」
 自分を置いて逃げていったのを、段々と思い出し始める彼女。
 ふつふつと怒りが沸いてくるが……憐と桜子が。
「突然の事でパニックに陥るのは、おかしな事じゃないっす。それでも、恐怖の中あなたを救おうと考えてたのは間違い無いっす!」
「そうだよ。怖くて逃げ出すのは仕方ないと思うの。でも、どうか嫌いにならないであげて?」
 二人のフォローの言葉、それに赤煙が。
「そうです。気持ちの整理はつかないかも知れませんが、あの時逃げなければ彼も死んでいたでしょう」
 と、確りとした口調の中、更にフォロー。
 そんなケルベロス達のフォローに、守人が。
「まぁ、彼はきっとホテルに先に帰っていると思うよ。でも、貴方の帰りを待ってる筈だから……でも、喧嘩しないで欲しい」
 と元気づける様に、肩を叩く守人。
 そんな仲間達に頷きつつ、フライドチキンを彼女の傍らにおいて。
「さぁ……元気を出して。ハッピークリスマスが、どうぞ貴方に幸せを運びます様に」
 と、ギターを爪弾きながら、メロディを奏でる。
 ……そして、彼女の怪我の治療も終わり、彼女が落ち着いた後……彼女をホテルの方まで送り届けて。
「さて、と……終わったかな? 折角奥日光まで来たんだし、温泉に浸かってから帰りたいな」
 と守人の提案に、桜子も。
「あ、そうだねー! 寒くなってきたから、お風呂入りたいねー」
 と頷き、そしてケルベロス達は、冷えた身体を温める為に、温泉へと向かうのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。