クリスマス・イヴの贈り物

作者:沙羅衝

「ご馳走様でしたー!」
 今日はクリスマス・イヴ。日は落ち、暖かな晩御飯を食べた女の子が、幸せそうに微笑む。ここは奈良県南部にある天川村。近くには温泉やキャンプ場、それに少しの観光施設がこの町を潤しているのだが、専ら第一次産業が収入源である。
 女の子、生田・浩子は小学校6年生となり、来春からは中学生だ。
「ねえ! サンタさん。今年はどんなプレゼントをくれるかな?」
 そんな彼女は、サンタクロースが実在することを信じてやまない。
「さあ、どうかしら? ふふふ……」
 母親は晩御飯の片付けをしながら、にっこりと微笑み、庭に植えているモミの木を見る。高さは10メートルはあるだろうか。二階建ての家の屋根よりも高くなっており、その先端から地面にかけて、綺麗なLEDでイルミネーションが施されていた。
「ちょっと見てくる!」
 母親の視線に気が付いた浩子は、コートを羽織り、庭に出て行った。浩子が庭に出ると、澄み切った空気に電飾の灯りが、いっそう眩しく映った。辺りには余り家も無い為、遠くからでもここにクリスマスツリーがあるという事がわかるだろう。
「きっと、サンタさん。この大きさだったら、大丈夫だよね」
 彼女の言葉と共に、息が白くなって漂う。
 ザザ……。
「え?」
 すると、見とれていた彼女に、モミの枝が纏わり付いていく。その異変にすぐには気がつく事が出来ず、あっという間に口を塞がれ、身動きをとる事が出来なくなってしまった。
「どうやら、この木が気に入っているようだが……」
 モミの木の先端部分に、一人の少女がいた。鬼薊の華さまと呼ばれるデウスエクスだ。
「自然を破壊してきた報いだ。自然の一部となりこれまでの行いを悔い改めるがいい」

「今日みんなに集まってもらったんは、他でもない。イヴに小学生が攻性植物に取り込まれてしまう事件が発生することが、スノーちゃんの調査でわかったんや」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、そう言って隣に居るスノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)に頷きかけた。
「そう言うことですの。折角のクリスマス・イヴ。楽しみにしている女の子を救います。協力をお願いいたしますわ」
「場所は奈良県南部、天川村。そこに人型の攻性植物が現れた。こいつらは、植物を攻性植物に作り変える謎の胞子をばら撒いていっているらしくてな、その場に居た一般時を襲って宿主にしよる。依頼はこの攻性植物を倒すこと、や」
 絹とスノーの話を聞き、ケルベロス達は力強く頷き、状況の説明を求めた。
「今回の攻性植物はモミの木に寄生した1体。モミの木を攻性植物にした人型のヤツはもうどっかに言ってしもて他はおらん。
 で、肝心の取り込まれてしもた小学生、生田・浩子ちゃんは、この攻性植物と一体化しててな、普通にたおしてしもたら、一緒に死んでしまう。
 でも、知ってる人は知ってるやろけど、相手にヒールしながら戦うことで、戦闘終了後に取り込まれた彼女を救うことが出来る可能性がある。ヒール不能ダメージを蓄積させていって粘り強くダメージを与えていく方法や。でも、気をつけて欲しいのは、ヒールをかけるわけやから、そのタイミングで、浩子ちゃんの意識は回復するやろ。彼女が取り乱さんように、言葉で彼女を勇気付けるのも、大事な仕事や。せやないと、そっちの事に気を取られてしもて、作戦が上手くいかへん可能性もあるかもしれんからな」
 成る程、と頷くケルベロス達。すると、後ろで控えていた、リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が口を挟む。
「とはいえ、どうする? 彼女を勇気付ける言葉といっても、個人個人の考えはまた違うだろう?」
「私に一つ考えがありますの。どうやら彼女はサンタクロースを信じているそうですわ。プレゼントの為に頑張って頂くというのも手でしょうし、……そうですわ、我々がサンタクロースに扮するというのも、良いかもしれませんわ」
 スノーの調べに、顔を見合わせるケルベロス達。
「成る程な。確かにしんどいときにサンタが来たら、きっと勇気付けられるやろな。衣装なんかリクエストあるんやったら、用意するで。せやから、攻性植物倒して、彼女も救って欲しい。折角のクリスマスや。悲しい事にはさせたくない。頼んだ!」


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
ノルン・ホルダー(星剣の少女・e42445)

■リプレイ

●聖夜にサンタはやってくる
 シャンシャンシャン……。
 響き渡る鈴の音。
 ここは、絹の話にあった奈良県南部、天川村。夜はかなり冷え込み、人の姿はない。
 その音の正体は、少し上空にあった。
「ねえ、神崎君……」
 トナカイの着ぐるみを纏いソリを引くガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)が、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)に話しかけた。
「ん? どうした?」
 晟はサンタクロースの格好だ。
 白い付け髭に、眉毛、そして元々大柄なドラゴニアンであるが、腹に詰め物をして更にボリュームアップをしている。
「いやね……、どうしてボクがソリを引いて、神崎君が乗っているのかなと……。それに、神崎君もトナカイの角つけてない?」
 怪力無双も加えて翼での飛行で苦ではないのだが、いささか腑に落ちないガロンドであった。ただ、その仮装っぷりは見事であったので悪い気はしていない。ただ一点、サンタクロースには似つかわしくないトナカイの角が彼の頭の帽子から覗いているのが気になった。
「去年の正義のサンタに引き続き、これは飾りということで付け足してみたんだが、うむ。まぁ、もう一体のトナカイは病欠のため私自身が代わりにという体で……」
「ええええ……」
 特に理由は無いらしい。ノリだった。

 そんな二人のドラゴニアンが上空に待機しているのを音で確認しながら、他のケルベロス達は地上から目的の家を目指す。目的の家には巨大なモミの木にイルミネーションが施されていると言うことだった。
「あれ、だよね」
 普段は無口な黒猫のウェアライダー、ノルン・ホルダー(星剣の少女・e42445)も、夜に映えるその光に少しの感嘆をこめながら、他のケルベロスに確かめる。
 その光は冷たい空気に導かれ輝き、確かに近くに来るまでもなく、かなりの距離からその存在が分かった。
「そうですね。間違いないでしょう」
 柚野・霞(瑠璃燕・e21406)はノルンに頷く。そしてルーンアックス『Mors Nigra -Memento mori-』を出現させる。
「今動いた、ね。急ごう」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)がその電飾の揺れが、自然に起こる風の動きではない事に気がつき、声をかける。
「もう少しね。リコス、話していた通り家族への説明の後、戻ってきてね」
「分かった。任せろ。すぐに戻るから、そちらは頼む」
 にわとりのファミリア『メイ』を連れた黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)がリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)に作戦を伝える。少女が攻性植物に捕らわれていると知れば、家族が現場に飛び出してしまうのは自然の事。ただ、万が一の犠牲が発生するという事でもある。それをフォローするというのが、リコスの任務となっていた。
 ケルベロス達はそう言いながら、現場に走る。
「それにしても、なんかすごいスカートの丈の短いサンタですわね……サンタ服……。そもそもサンタって、スカートでしたっけ……?」
 スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)はそう言いながら、自らのサンタクロース服を確かめる。
「だよね。これミニスカワンピって言うやつだよ。スノーさん何でこれにしたの?」
 瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)も頷く。彼女達はほぼ同じような裾の短いサンタクロースの服を着用している。うずまきはミニスカと言ったが、オフショルダー全開の所謂セクシーサンタと呼ばれるものである。当然寒い。
「急いで買いに行ったら、普通の物は売り切れだったのですわ」
 露出した肩をさすり、スノーはその理由を答えた。
「わたしは、動きやすいからこれでいい。ちょっと違うかもしれないけど……」
 ノルンはそれ程苦にしていない様で、納得はしているようだった。
「さて、着いたわ。行くわよ!」
 目的の家の前に来たケルベロス達は、うごめき始めたモミの木を確認し、舞彩の号令で庭へと突入して行った。

●何度だって
 モミの木は今まさに家へとその枝を振り上げ始めていた。ケルベロス達が目撃したモミの木は、針葉樹独特の細長いシルエットから、無数の枝葉を広げていく。
「ケルベロス……じゃなかった、サンタクロースの到着ですよ! いまお助けしますから……! ですから、少しだけ、待っていてくださいね」
 重武装モードさせたサンタクロース服を着た霞が庭へと飛び出し、魔術書「ソロモンの小さな鍵」に記載されている悪魔ブエルを呼び出す。
『ブエルよ、50の軍団を統率する地獄の長官よ。癒しの力をかの者に。』
 その力は舞彩へと注がれ、癒しの力を上昇させる。
 続いて陽葉が自身のグラビティ・チェインを無数の葉に変換し始める。
『大丈夫。何度だって癒してあげる』
 一陣の風が、モミの木の攻性植物を癒していく。
「あ……れ?」
 すると、ケルベロスより高い箇所の幹に繋がれた浩子が目を覚ます。どうやら自分の今の状況が分からず、混乱しているようだった。
「ほら貴女が目を覚まさないからサンタが心配して沢山集まってきたわよ。可愛い可愛い眠り姫さん目覚めなさい? シンデレラの時間はもう終わりよ!」
 スノーはそう言いながら、前を行くうずまき、ノルンへと歌によって魂を呼び寄せ、それを纏わせる。
「サンタ……さん?」
 ぼうっとした顔で、おぼろげながらに今の状況を確認する浩子。
「そう、サンタとトナカイが君を助けに来たよ。だから、もう少しだけ頑張ってね クリスマスをもっと楽しむためにね」
 陽葉の声に、少し自分の状況が分かる。
「え、あ、動け……ない? それに……ちょっと痛い、かな」
 浩子は目の前に現れたサンタに、声をかけられ少し安心した表情を浮かべるが、まだはっきりと状況を把握しているわけではないようだった。
「サンタさんは、もっとくるわよ。わかる? どんな子のところにくるか」
 もこもこトナカイの格好をした舞彩が、優しく声をかける。
「……良い子、かな? じゃあ……頑張る」
「良い子ね。それっ」
 舞彩はブラックスライムを捕食モードに変形させ、敵の動きを阻害するべく広げていく。
 ドォン!!
「ふぉっふぉっふぉ……正義のサンタ、参上だ!」
 ゲシュタルトグレイブで枝葉を切り落としながら、上空から晟、もとい正義のサンタと正義のボクスドラゴン『ラグナル』が現れた。
「いたっ……!」
 その攻撃は、浩子への攻撃でもある。その痛みは彼女へと繋がっているのだ。
 すると、ソリを引いた黄金のトナカイが、空から猛スピードで突っ込み、そして急激にUターンをする。
『もうひとりの相棒の出番だねぇ…いけ!黄金龍の果実(ドラゴンフルーツ)!!』
 トナカイは攻性植物に近づいた瞬間に、龍の頭のような形状を持つ黄金龍の果実とミミックの『アドウィクス』を、浩子に投げつける。アドウィクスが幹の部分に噛み付き、そしてその果実は彼女の傍へ来ると、突然輝きだした。
「あ……、あったかい?」
 ガロンドの果実は、浩子だけを回復させることに成功したのだ。
「わたしはサンタの見習い、浩子のピンチに特別に来た」
 ノルンはそう言い、雷を手の平に集めだす。
『ライトニング・スタン』
 バリバリバリ!
 しかし、彼女の放った雷は、その素早い動きによって避けられる。
「少し早いね! でも、焦っちゃだめだよ!」
 そう言ってうずまきは、自ら回復を始めた攻性植物を見ながら、自分、ガロンド、ノルン、晟、そしてラグナルへと破魔力を与える。そしてウイングキャットの『ねこさん』が、邪気を祓う。

『苦しまないように』
 舞彩が手の爪を超硬化させ、浩子だけを回復させる。
 ケルベロス達の攻撃は、最初は余りヒットしなかった。しかし、決して焦ることなくダメージを与えていった。そのうち、攻性植物の動きが鈍り始め、徐々に効果的なダメージを与えていくことに成功していった。
 攻性植物からの攻撃は、最初のうちは脅威であったが、霞を中心に、素早く対処されいった。そしてまた、攻撃を繰り返し、彼女だけを癒す。
 晟がフェアリーブーツで美しい虹を描く急降下蹴りを浴びせることにより、敵の攻撃も晟に集中し始めた。だが、
 バシュ!
 鞭がしなるように伸ばされた枝が、ノルンを直撃する。
「ぐ……!」
「ノルン!!」
 その傷は深く、サンタ服が切り刻まれ、その下に着込んだ黒猫のクロスが露になる。
「あ……。み、見習い、さん!」
「だいじょう……ぶ!」
 すぐさま霞が駆け寄り、ヒールを施していく。
(「何度でも。何度だって立ち上がってやる。……強くなるんだ、この星剣に誓って!」)
 よろよろと立ち上がるノルン。そして、自分の武装全てを『最終決戦モード』に変形させ、気丈に振舞うのだ。
「浩子、絶対……助ける」
 自分と同い年の女の子。自分はケルベロスになったが、彼女はそうではない。でも、それが自分の生きる道と決めたんだ。
「だから、浩子も頑張って!」
 ノルンは愛用のゾディアックソード『シュヴェルトラウテ』を振りかざした。

●信じる
 ケルベロス達の攻撃は、確実に攻性植物の生命力を削っていっていた。敵の動きはどんどんと鈍り、少しケルベロス達にも余裕が出てくる。
「もう少し……かしら?」
「そうだねぇ。どうやら、彼女だけを回復している事が、上手く行くかもしれない。このまま行こうか」
 舞彩の言葉に、ガロンドが応える。
 ガラッ!
 するとその時、庭へと続く扉を開け、リコスが現れた。
「じんぐるべーる♪ じんぐるべーる♪ すっずがーなるー♪」
 サンタの姿をしたリコスは、調子っぱずれの音程で何かの魂を呼び出していた。
「リコス……あなた……」
 あまりの音程の酷さに、思わず舞彩の力が抜ける。
「ん……、あ、あーあー♪ いやあ、歌うというものは良いな。……と、最後のさんたくろーすの、参上だ!」
 ふふりと得意げに笑みを浮かべ、パイルバンカーを構えるリコス。本人は至って本気である。
「あ、あの。ちょっと聞きたいかなって思ってたんだけど。皆さん、その、ケルベロス……さん。だよ、ね?」
 浩子のその声に、固まるケルベロス達。
(「あれ? バレた?」)
(「そのようです、ね」)
 陽葉と霞が顔を見合わせる。晟とガロンドを除くメンバーは全員女子であり、重武装したサンタクロース服や、ミニスカワンピという奇抜な格好の者も居る。トナカイは良く見れば着ぐるみであったりハリボテであったりと、サンタクロースが好きな女の子にとっては、それはサンタクロースではないという結論に至るには、自然の事だった。
 しかも、ケルベロス達は、浩子だけを集中的に回復させており、朦朧としている時は兎も角、彼女がしっかりとした意識を持つ事も十分に手伝っていた。
(「恐らくもう少し、なのですけど、どうします?」)
 霞がうずまきを見るが、彼女は取り乱したのか、スレイベルを取り出して、シャンと鳴らしただけだった。
「なんか、有難う、かな……」
 彼女は助けに来てくれたサンタクロースがケルベロスだったことに、明らかにがっかりとした表情をしてしまう。
「へへ……」
 浩子は無理に笑みを浮かべながら、涙をポロリとこぼした。
「あたしも、ちょっとは気がついていたんだ。学校の友達は、そんなのいないって言うし。だから、無理、しなくて良いよ。有難う、ケルベロスさん」
 小学生から中学生へと変わる。そんな環境では、良くある事だ。サンタクロースは居ないと騒ぎ立てる男子など特に。しかし、浩子はその事実を受け止めたくなかったのであろう。そんな表情をした彼女を見て、ケルベロス達は迷った。
 が、一人のヴァルキュリアが毅然と立ち向かい、叫んだ。
「違いますわ!」
 スノーだ。彼女はそう言って胸を張る。
「そう、確かに私達はケルベロスです。ですが、それがサンタが居ないと証明するものではないのではなくて? お友達が何と言おうと、アナタが信じる事こそがアナタの真実ではありませんこと?」
「あたしが……信じる……」
「そう、信じる力が本当の真実。僕達もそれに立ち向かっている。だから、その素敵な真実を信じてはくれないか?」
 陽葉も頷きながら、攻性植物の攻撃をいなしながら、浩子を真直ぐ見る。
「……今まで出会った楽しい思い出と……これから経験する幸せを……思い浮かべて……!
 それに、笑ってれば元気になれるよ☆ ね? ボクに笑顔を見せて」
 うずまきはスレイベルを腰に差し込み、にこりと微笑んだ。
「ああ、私達に任せろ。そして、サンタクロースを待とうじゃないか。君が信じていることが全て、それで良いじゃないか。ふぉっふぉっふぉ……」
 正義のサンタもそれに習い、口ひげを撫でた。
 すると、浩子は目を開き、頷いた。
「……うん。分かったよ。信じる。あたしだけは、絶対に!」

●それはクリスマス・イヴの贈り物
「よし、ではこれから仕上げをする。少し痛いかもしれないが、気を確り持って欲しい」
「大丈夫。絶対に助けるよ」
 晟と陽葉はそう言うと、それぞれのゲシュタルトグレイブ『【漣】』と『奏氷の薙刀』を構え、ラグナルと共に突進する。
 バリバリバリッ!
 晟と陽葉、それにラグナルの一撃が、確実に攻性植物を傷つけていく。
「さあ、頑張れ!」
 そして、ガロンドの黄金龍の果実が、浩子だけを癒す。
「ねこさん!」
 うずまきがねこさんに指示をして、尻尾の輪っかを射出させる。そして自らはエアシューズで細かい葉を吹き飛ばした。
 続いて霞が黒い翼で少し浮きながら、根の部分に蹴り付けると、そこにひびが入っていく。
「頑張って。必ず助けるから」
 舞彩が再び超硬化した爪で、浩子に癒しの力を注入する。
「良い子にしてたら、この後にちゃんとサンタ来る!」
 ノルンが身体をしならせ、獣化させた高速の拳を打ち込む。
「行きますわ! はっ!」
 スノーが光の翼を広げ、電光石火の勢いで、モミの木の根元に蹴り付ける。
 バキバキバキ……。
 ひびが入った箇所が大きくなっていく。その勢いは徐々に加速し、一気にモミの木は倒れ、そして消滅したのだった。

「よく頑張ったわね。こちら、……私からのプレゼントよ」
「わあ、有難う! 開けて良い?」
「もちろんですわ!」
 スノーはそう言って、オルゴール付きのスノードームをプレゼントした。本当はサンタから預かったという予定だったのだが、それもバレてしまっては意味が無い。自分から、と素直にそう言ったのだ。
 ケルベロス達は、彼女の服をクリーニングし、出来るだけ手作業で直せる箇所は直し、どうしようもない所はヒールを施した。
「有難う御座いました」
「いやいや、無事で良かったです」
 庭で母親に礼を言われるガロンドだが、問題ないと伝えた。
「しかし、あの木は惜しかったな。立派な木だったが……」
 晟はそう言って、モミの木があった場所を見る。しかし、既にそこには何も無く、ただ何かがあったというだけの場所になってしまっていた。
「そうだね。僕達が倒してしまったわけだから、無くなってしまうのも当然なのかな」
 陽葉も残念そうに呟く。
 辺りには、イルミネーション用のLEDだけが、無造作に散らばっている。
「これくらいは、直せそう、ですね」
「……うん」
 霞とノルンはそのLEDを集め、電線の部分にヒールをかけ始めた。すると、切断された部分が結合されていき、壊れたLEDは奇妙な姿で蘇った。ただ、元々クリスマス用のLEDである為、その奇妙さもまた面白い姿となっていた。
「あれ? うずまきとスノーは何をやっているのかな?」
 陽葉が部屋を見ると、スノーが何かを差し出し、うずまきがひったくって後ろを向いてごそごそしていたのだ。どうやら、サンタ服の買い物のついでに『胸が五倍盛り盛りパッド』という物を見つけたらしい。それを素早く装着したうずまきは何気なく、ベルを鳴らしている。
(「肩がずれなくなった……。そうだよね。こっちのほうが安定するよね……」)
 とは思ったが、声には出さなかった。まあ、表情で一発で分かるのだが。
「でも、ちょっと残念、かなあ」
 浩子はそう言って、庭を見る。母親の話によると、このモミの木は、彼女が生まれた時に植えられた木だったそうだ。
「……そうね。何か変わりの、というのもね」
 舞彩がそう言うと、抱えていたにわとりファミリアが、腕を飛び出して、庭に向かって行った。
「あ、もう。大人しくしなさい! ……あれ? 戻ってきたわ」
 にわとりは、庭に飛び出したと思ったら、その地面を突っつき、また戻ってきたのだ。
 そして、なにやら咥えている。
「あ! 種!?」
 それはモミの種であった。
 季節はずれではあるが、モミの木にくっついていたのだろう。まだ発芽していない種が、地面に落ちていたのだ。
「あはっ、有難う! この子えらいね!」
 そう言ってにわとりを抱え上げる浩子。
「何だったら、プレゼントするわ」
 舞彩の言葉に、にわとりをぎゅっと抱えながら、目を輝かせる。
「いいの!? えっと名前は……」
「彩子よ。たまに様子を見に来て、ちょっと連れて行く時もあるかもしれないケド、宜しくお願いしようかな」
「やったー!」

 こうしてケルベロス達は、新しく種を植える手伝いをした後、ヘリオンへと帰っていった。
 サンタクロースを信じた少女は、これからまた成長をしていくのだ。
 新しく植えられたモミの木と共に。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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