天下無双の鎧武者

作者:天木一

「ちぇえええええええいっ!!」
 裂帛の声が森に木霊し、黒い当世具足を纏った男は重々しい太く長い木刀で大木を叩く。手に伝わる反動で振り上げるともう一度叩きつけ、何度も何度もそれを愚直に繰り返す。
「きえええええええええぃっ!!」
 やがて木が傷跡だらけになると、ようやくその手を止めて残心する。
「まだ足りん、最強のもののふとなるには、まだまだ鍛錬せねば……」
 周囲を見れば、同じように傷だらけでいつ倒れてもおかしくないような木も何本もある。
「戦国の世ならばもっと切磋琢磨できたろうに……否! 己が現代に天下無双のもののふを蘇らすのだ!」
 頭を振って弱気な心を追い出し、男はもう一度木刀を構える。そこへ幻武極が姿を現した。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 その一言でリミッターが外れ、木刀を振り上げた男は獣のような雄叫びを上げる。
「おおおおおおおおおおお!!!」
 振り下ろされた木刀が脳天を叩き、上段からの振り下ろしが連続で打ち込まれる。疲れを知らぬような連打もやがて雄叫びの終わりと共に止まる。だが幻武極は傷一つ無い姿でそこに立っていた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 幻武極は無造作に近づくと手にした鍵を胸に突き刺す。眠りに落ちるように男は意識を失いその場にガシャッと崩れ落ちた。
 その男のすぐ傍に、同じ顔をした赤い鎧武者が現れる。その手には長い真剣の大太刀が握られていた。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 そう幻武極が告げると、武者は七尺一寸もある大太刀を軽々と振るい猛る。
「ちぇえええええええええっ!!」
 刃は木を両断し勢い余った剣気が地面をも深く割った。闘争本能のまま武者は刀を担いで駆け出す。それは山の麓、町のある方向だった。

「今度のドリームイーターは鎧武者だそうですよ。時代劇に影響でもされたんですかねぇ」
 リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)がそう言って新たな敵が現れる事を告げる。
「ドリームイーターの幻武極が起こす事件です。武士のような剣術の稽古をしている男性を襲い、自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が事件の情報を提示する。
「ですがモザイクは晴れず、幻武極は新たなドリームイーターを生み出して暴れさせようとしています」
 男性の目指す最強の武士をイメージしたドリームイーターが生まれ、その武力で人々を襲ってしまう。
「今から向かえば一般人が襲われる前に敵と戦えます。被害が出てしまう前にドリームイーターを倒してほしいのです」
 山から町へ続く道で待ち構えれば敵の方からやって来る。
「ドリームイーターは30代の男性の姿をしていて、その理想像として人を超えた力を発揮します。武士の着る具足に身を包み、大きな太刀を武器とするようです」
 武器も防具も現実のものよりも高い性能を発揮し、簡単に人を両断し、銃弾すらも防ぐ。
「場所は長野県の山の麓にある町です。周辺には避難警報が出ているので一般人を巻き込む心配はありません」
 すでに戦場となる道から町の反対側へと避難を始めている。
「それと敵は自分の武を知らしめたいと思っているようです。ですので戦いを挑めば喜んで受けるでしょう」
 戦いが始まれば逃げる心配も無く、一般人が狙われるような事はない。
「せっかくの鍛えた技が人を殺す為に利用されるなど本望ではないはずです。ドリームイーターを倒し人々と男性を助けてあげてください」
 一礼しセリカがヘリオンへと向かい出撃の準備に取り掛かる。
「一人で鍛え続けるなんてストイックですねぇ。その理想がどれほど高いか腕試しと参りましょうか」
 穏やかにリチャードが笑みを浮かべる。己を鍛え上げたケルベロス達も戦いが楽しみだと同意し、素早く準備に動き出した。


参加者
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
神宮時・あお(壊レタ世界ノ詩・e04014)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)
千種・終(虚ろの白誓・e34767)

■リプレイ

●鎧武者
 冷たい風が吹き抜ける木々の生い茂る町から山へと続く道にケルベロス達が待ち構えていた。
「ゲームに憧れて剣術の世界へ、かー」
 光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)は自分がヒーローに憧れた時の事を想い出す。
「私もヒーローに憧れてたらこんな戦闘スタイルになった感じだし、気持ちは分かるなー。気持ちが分かるからこそ、助けたいしドリームイーターが許せないよね!」
 人の夢を奪う敵を許せないと意気込んだ。
「ドリームイーターに見出されるほどの剣技には興味があります」
 どのような剣を振るうのか、西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)は眼鏡の奥の瞳に好奇心を宿す。
「それに、一点に特化した思い切りの良さには、少しだけ憧れますね。所詮私が鬻げるのは不祥の暗殺剣ですから……」
 そして己が殺しの技を振り返り自嘲した。
(「……己を、高めるために、鍛錬する、姿勢は、すごいと、思いますが……。……これは、何かが、違うの、では、ない、でしょうか……」)
 無表情に口を開かぬ神宮時・あお(壊レタ世界ノ詩・e04014)は微かに頭を傾げて疑問を浮かべた。
「天下無双の武士ですか、私も至高の刃を求める身。良い敵となれそうです」
 これからの戦いを想像して西院・織櫻(櫻鬼・e18663)は口元に笑みを作った。
「今回は。剣術遣い、ですか……剣術には、あまり……含蓄、ありませんが。不謹慎ですが……楽しみです。まあ。相手が……所詮、夢喰いでは。浪漫半減、ですが……」
 そう言って櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)は期待半分で敵の到着を待つ。
「猪突猛進というやつかな、泥臭いのは僕は好きではないけれど」
 無骨な敵に千種・終(虚ろの白誓・e34767)は肩を竦める。
「まあ、与しやすいのは何よりだ。さっさと片付けるに限るね」
 猪武者なら倒すのは容易いと自然体で警戒していると、道の先から真っ赤な当世具足を纏った武者が走ってきた。長い抜き身の大太刀を担ぎ、一直線に町へと向かって来る。
「お、赤備えですか。良いですね。やはりこの時代の甲冑は目立ってなんぼですしね。とは言え私ならここに陣羽織と旗指物か母衣をつけますかね?」
 リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)は自分ならもっと派手に飾り付けると駄目出しする。
「さて、西洋の甲冑騎士と日ノ本の甲冑武士の力比べと行きましょうか、とは言え私も亜流の甲冑騎士ですが」
 距離が縮まる間に己が身に西洋甲冑を纏い、ツヴァイヘンダーを抜き放った。
「天を衝くが如き上段の構え、名高き薬丸の剣か。私も剣士の端くれ、是非とも一度刃を合わせてみたかった」
 ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)はぬうっと三尺程の長刀を抜き放つ。
「雷の如き一撃、どれ程のものか見せてもらおう」
 そして正眼に構え敵の初太刀を待ち構える。
「ちぇえええええええいっ!!」
 駆けつけた勢いのまま裂帛の気合と共に放たれる振り下ろしの一撃。それをヴァルカンは長刀を横にして受け止める。火花を散らし刃と刃がぶつかり合った。

●斬り合い
「それじゃあ始めようか」
 終は身に纏うメタルからオウガ粒子を放出し、仲間達の超感覚を目覚めさせる。
「私の名は西条・霧華。剣を鬻げる者として、お相手願います」
 敵の気を引くため名乗った霧華は眼鏡を外し表情を消すと、左手に持った鞘に納まった刀の柄に手を掛ける。互いの息が合ったとみるや刀を抜き打ち胴を薙ぐ。それに対して敵は大太刀を立てて受け止めた。
「戦いの中、互いの血肉でこそ刃は磨かれる。良い死合いをしましょう」
 二刀を抜いて鋭い視線を合わせた織櫻は、一気に間合いを詰めると右の刃で左脚を斬りつけ、左の刃が左腕を裂いた。
『ここを、通りたければ、ボク達を、倒してからに、してください、です』
「立ち塞がる者は、全て斬る!」
 書き記してあおが見せると、応じた武者が大きく踏み込み大太刀を振り下ろす。舞い踊るようにあおは回転して大太刀を避け、跳躍して回し蹴りを腹に叩き込み反動で距離を取った。
「状況、開始。戦闘出力、ミリタリーまで……解放。それでは……お相手、務めさせて……頂きましょう」
 背中のフィンを展開した叔牙は、両掌の電撃端子を展開し合わせて小さな雷電を生み出すと、飛び込み敵の背に叩きつけて雷撃を流して全身にショックを与えて麻痺させた。
「人の大切な夢を奪うドリームイーターはここで退治しちゃうよ!」
 元気一杯に睦が歌い始めキュートでポップな虹色ハートの音符を飛ばして、ぽよんと踏み台にして跳んで二―キックを敵の胸に叩き込み、鎧に大きなひびを入れた。
「きええええええ!」
 武者は柄をぶつけて睦を地面に叩き落とし、大太刀を振り下ろして肩を斬り裂いた。
「我は魏が武帝が五男陳王が裔、性は曹、名は文学。いざ尋常にお手合わせをねがおうか!」
 堂々と正面に立ったリチャードが名乗りを上げ、敵の背後にグラビティを集めて爆発を起こし、前のめりになったところへ剣を籠手の内側の隙間に突き入れた。
「腕を持っていかれるかと思う程の凄まじい膂力。返礼に次はこちらが剣技をお見せしよう」
 続いて踏み込んだヴァルカンは炎を纏わせた長刀を横に薙ぎ払い、鎧の胴を深く抉る。
「初手はそちらに合わせましたが、ここからは私の剣をお見せしましょう」
 抜き身の刃に炎を宿した霧華は、先とは違い意を殺してすっと間合いを詰めると袈裟斬りに振り下ろす。刃が鎧を裂き肩を焼きながら裂傷を与えた。
「こっちも負けてられないよ! 思いっきりいくからね!」
 突っ込んだ睦はメリケンサックを嵌めた拳を腹に食い込ますように叩き込み、同時に敵の生命力を吸い取って傷を癒した。
「ええええぃっ!」
 攻撃を受けても怯む事無く武者は大太刀を振るう。
(「……鋭い、太刀筋……。でも、決して、届かせは、しません、です」)
 そこへあおは砲撃を合わせ、振り下ろされる刃が爆発を起こし衝撃で大太刀を撥ね上げて隙を作った。
「具足で身を固めても、必殺の一撃を防げるとは思わない事です」
 刀に雷を宿した織櫻は閃光の如く突きを放ち、甲冑の胸部を貫いて胸を刺す。
「一点を穿つ。武者を倒すときの常道よ」
 背後から踏み込んだヴァルカンは長刀を突き入れ、胴の鉄板を穿ち背中を貫いた。
 続いてリチャードが剣を振り抜くと敵が大太刀の根本で受け止める。敵はその膂力で押し戻しそのまま断ち切ろうと力を込める。
「単純な力技では勝てませんね。ならば勝てる戦い方をしましょうか」
 リチャードは一歩横に退いて肩を押して受け流し、首の後ろを斬りつけた。
「凍結させ、行動力を……低下させて、いきます」
 叔牙は冷たい氷の螺旋を放ち敵を包み込んで全身を凍らせていく。
「いえぇええぃ!」
 だが敵は凍った体のまま踏み込み大太刀を振り下ろし、叔牙の肩からばっさりと斬りつけて薙ぎ倒した。
「一撃の威力は高いようだが、治療体制は万端だ」
 終が詠唱を始めると左頬から首筋、肩を通って左手の甲に白い魔術刻印が淡く光り、叔牙の脳細胞に常軌を逸した強化を施し、肉体を強化して治療を行う。
「一瞬の隙も見逃しません。そしてどのような守りにも穴はあります」
 じっと敵が動くのを待っていた霧華は敵が振り下ろした瞬間動き出し、切っ先を鎧の隙間に突き入れ脇の下を貫いた。
(「……一撃の、威力は高い、です。……それなら、攻撃させない、ように、工夫します、です」)
 あおは敵の足元に冷凍光線を放ち、地面ごと凍結させて動きを止めた。
「まだ、この程度では……墜とされる訳には、いきませんね……」
 起き上がり飛行するように高く跳んだ叔牙は、木を蹴って急降下し踏みつけるように飛び蹴りを浴びせた。
「ちぇえええええい!!」
 蹴られ後ろによろめいた武者はそれでも大太刀を斬りつける。
「ほんとは、やられる前に殴り倒しちゃいたいんだけどね!」
 睦はメリケンサックを嵌めた拳を打ち合わせて大太刀を止める。拳から血が流れるが、それを無視して押し戻し反対の手に握り込んだナイフを脇腹に殴り刺した。
「その一撃必殺の技を支えるは足腰の強さ。ならばその土台を崩す」
 長刀に霊力を纏わせたヴァルカンは出足に引っかけるように振り抜き、臑当を斬り裂き踏み込みの勢いを殺した。
「具足を砕く力がなくとも、鎧の隙間をを突けばいいだけです」
 リチャードは腰を狙い剣を突き放つが、敵はそれを無視して大太刀を振り下ろす。相討ち狙いの一撃をリチャードは剣を引いて受け止め、片膝をつきながら堪える。
「きえええぃっ!」
 もう一度振り上げた大太刀が振り下ろされる前に織櫻は密着する程間合いを詰める。
「刃を振るうだけが武術ではありません」
 織櫻は互いに刃振れぬ状態から柄頭で腹を殴りつけ、螺旋の力を流して体内から破壊する。
「まだ元気だね、油断せずにいこうか」
 終はオウガ粒子を撒き、仲間達の傷を癒し感覚を高めていく。

●一刀
「きぃえええぇええええ!!」
 武者が高い声で吠えると、空気が震えケルベロス達の体を委縮させる。その隙に大太刀が頭上から振り下ろされる。
「どれ程力があろうと、守るべき者なき剣に重みはない」
 ヴァルカンは長刀を振るって大太刀を受け止め、力をずらして刃を空振りさせ胴を薙いだ。
「虹のステップ飛び越えたら、きらめく魔法キミにあげる――♪」
 ポップな歌で睦はハートの音符を生み出して踏むと、ぽよよんと大きく跳躍して頭上を取り上から二―キックを浴びせた。
「おおおお!」
 額から血を流しながらも武者は大太刀を斬り払って睦を吹き飛ばし上段に構える。
「間合いは掴みました。ここなら私が先です」
 下段に構えた刀身に霊力を帯させた霧華は、下から掬い上げるように出足を斬りつけて、鎧の抉れている部分をなぞり深く脚を斬り裂いた。武者は体重を支えられずに膝をつくと大太刀を横に薙いだ。
(「……憧れから、武術を、極める……。……なかなか、出来ない、すごいことだと、思い、ます。……その、努力を、奪うのは、いささか、憤りを、感じます、ね……」)
 夢を取り戻そうと、軽やかに跳躍したあおは刃の上に乗り、さらに跳んでボールを蹴るように顎を打ち抜いた。
「どれほど、威力の高い、一撃でも……何度も見れば、対応できます」
 仰け反ったところへ叔牙は両掌の間に雷電の塊を作り、胸に叩き込んで全身へと駆け巡らせる。
「ぬおおおおお!」
 それでも血が流れる程歯を噛み締めて武者は立ち上がり、大太刀を斬り下す。
「一刀に全てを掛ける覚悟、見事なものだ」
 上機嫌に織櫻は左の刀を斬り上げて攻撃を逸らし、右の刀を振り下ろして袈裟に斬りつけ、そして左の引いた刀を胸に突き立てた。
「大振りの剣など隙を生み出すだけで、こうして小技に翻弄される事になります」
 敵の脚元に視線を向けてリチャードは爆発させ、ぐらりと揺れた瞬間に太腿の内側に剣を突き刺した。
「まだ動けるだろう?」
 白い魔術刻印を光らせながら終は最大限に睦の脳細胞を強化し、反応速度を極限にまで高めた。
「一撃必殺。当たらねば、当たるまで打てばよい!」
 武者が力強く踏み込み渾身の力で大太刀を振り上げる。
「先の先。それを更に先んじるのが私の暗殺剣です……」
 その呼吸を盗んで一足で間合を縮めた霧華は、敵の初動を潰すように刀を薙いで籠手を斬り裂いた。
「そろそろ終わりにしよう」
 もう何もさせないと終は蹴りを膝に放ち、敵の体勢を僅かによろめかせる。
「正面からだって負けないだから!」
 懐に飛び込んだ睦はナイフを握り込み敵の顔を殴りつけて切り裂き、舞い散る血を吸って自らの傷を癒し、その場で何度も殴りつける。その頭上から刃が迫る。
(「……世界を、覆い、隠す、最果てへと、誘う、悲しき、調べ」)
 祈るように目を閉じたあおから音の波紋が広がる。その音色は敵の感覚を奪っていき、やがて存在すらも奪うように魂と共鳴して侵食し、刃は狙いを狂わせ睦を掠めて地面を抉った。
「全ての力を出し尽くす!」
「こちらも全力で応じさせてもらおう」
 織櫻は瞬きする間に左右の刀を振り終え、両手両脚を斬りつけた。遅れて大太刀が落ちて来る。
「敵戦闘力、低下。このまま……押し切って、しまいましょう」
 そこへ叔牙は氷雪の渦を巻き起こして敵を氷漬けにした。
「一意専心――いざ、参るッ!」
 長刀に炎を纏わせると熱気で陽炎を生じさせ、ヴァルカンは大上段から斬り下ろす。刀身が揺らぎ見切らせぬ一刀は肩から深く入り胸へと達した。
「命尽きるまで、振り続けるのみ!!」
 大きく振り上げた大太刀が、最後の力を振り絞って下される。
「最後の力比べと行きましょう。私なりに、ですがね」
 リチャードはそれに合わせるように剣を振り抜く。だが剣の軌道をずらし空振りさせて意表を突き、半身になって肩当で大太刀の根本を受けて滑らすと、脇の下の損傷した部分に剣を突き刺し心臓まで届かせた。口から血を溢れさえ、満足したように武者は消え去った。

●武の道
「確か剣の修行中に……」
 目覚めた男性に介抱していたケルベロス達が事情を説明した。
「目が覚めたか、なら任務完了だな」
 語る言葉を持たぬ終は、無事に終わったと確認して背を向けた。
「荒々しい正に戦国の世の剣技でした」
「中々豪腕でしたね。いやはやあぶない所でした」
 霧華がその真っ直ぐで荒々しい剣を評し、同じ土俵で満足いく戦いが出来たとリチャードが微笑む。
「ん……肉体や、剣技を。鍛える事も、宜しいですが……『力無き魂は、虚ろ。魂無き力も、また虚ろ』と、言いますから。ただ単に、闇雲に。鍛えるだけでなく……『何の為に強くなるのか、なりたいのか』も。自問なさっていくと、良いのでは無いかと……思います」
 叔牙がただ剣技を鍛えるだけでは真の強さは得られないと意見する。
「天下無双を目指す志は見事……だが、その先に何を求める? 鍛え上げた力を使い為すべきことを見据えたならば、貴殿の剣もより鋭さが増すのではないかな」
 ヴァルカンも目的を訪ね強さの根幹が大事だと説く。
「……確かに強さの先にあるものが必要かもしれません」
 男は感じ入り鍛錬に活かそうと考え始めた。
「一人修練するのも良いですが、相手がいてこそ磨かれる物もあります。あなたが天下無双を目指すならいずれ改めて私と刃を交わしましょう」
「もっと強くなったらまた戦おうね!」
 ドリームイーターなどよりも強くなったら戦おうと、織櫻と睦が発破をかける。
「ああ、必ず、次は自分自身で闘ってみせるとも!」
 生気を漲らせ、これから稽古をしようと男は気合を入れた。
(「……努力は、自分を、裏切らない、です」)
 そんな様子にあおは、きっとこれから強くなるだろうと踵を返した。
 凍えるような冷たい風にもびくともしない、そんな強い意志が人を強くするのだとケルベロス達は知っていた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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