冬薔薇の櫃

作者:朱乃天

 好奇心に誘われるが侭に、街外れにある森の中を覗き込んだ先。
 小路に敷き詰められた落ち葉の絨毯を、踏み締めながら木々の隧道を潜り抜けると。やがて目の前に一軒の小屋が見えてくる。
 煉瓦造りの可愛らしい建物の隣にあるのは、アンティークな英国式の優雅な薔薇庭園。
 まるで童話の世界に迷い込んだようなその場所は、花の香りと幻想的な雰囲気薫るカフェだった。
 深藍色の空に橙色が薄ら溶け込む夜明けのグラデーション。眠り微睡む夢の中から目が覚めて、清々しい朝の光が新たな一日の始まりを告げる。
 薄明照らす庭園に、一人の女性が訪れる。彼女はカフェのオーナーで、早朝から薔薇の手入れに余念がない。
「フフ、今日も綺麗に咲いているわね。今朝みたいに天気のいい日は、特にご機嫌かしら」
 朝陽を浴びて鮮やかに咲く真っ赤な薔薇達を、うっとりしながら眺めていたが。花に夢中になっていたせいか、一人の『客』が来ていたことに気付いていなかった。
「自然に在るべき花を、見世物にするとは実に下らぬ。欲深き人間よ……自らも自然の一部となって、これまでの行いを悔い改めるがいい」
 ――いつから『彼女』はそこにいたのだろう。
 紫紺の軍服姿の少女が、薔薇に不思議な粉を振り撒くと――力を注ぎ込まれた緋色の花はみるみるうちに肥大化し、異形の怪物へと変貌してしまう。
 攻性植物となった薔薇は花の世話をしていた女性を突如襲い、蔓を伸ばして巻き付ける。
「……えっ? これって一体……きゃあああぁぁぁっ!?」
 巨大な薔薇に囚われた女性は、瞬く間に花の胎内に呑み込まれ、その様子を観察していた少女の攻性植物――鬼薊の華さまは、全てを見届け終えると満足そうに微笑んで、緑葉の翼を羽搏かせながら去っていく。

「薔薇の世話をしていた女性が、薔薇に襲われるだなんて……何とも痛ましい話だね」
 何となく胸騒ぎはしていたのだが。ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)は嫌な予感が的中してしまったと、眉を顰めて青い瞳を曇らせる。
 彼の気持ちを察するように、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が小さく頷きながら、予知した事件について語り出す。
 これまでも人型攻性植物の一派が起こしている『人は自然に還ろう計画』なる作戦。今回の事件も同様に、その者達によって引き起こされたものである。
「今回被害に遭ったのは、街外れでカフェを営む女性だよ。カフェには庭園もあって、彼女はそこで花を育ててたんだけど、その時に攻性植物に取り込まれてしまったようなんだ」
 この事件の首謀者である人型攻性植物は、既に姿を消している。従ってケルベロス達が戦うべき敵は、女性を宿主にした攻性植物のみとなる。
 普通に戦い倒してしまう分には容易だが、取り込まれた女性は攻性植物と一体化している状態の為、それだと彼女の命も巻き込んでしまう。
「でもヒールを掛けつつ戦って、ヒール不能ダメージを粘り強く積み重ねていけば、攻性植物だけを倒して女性を助けることも可能だよ」
 敵を回復させながらの戦闘となれば、長期戦を視野に入れた戦い方が重要となる。
 万全に備えた上で、それを実行する連携力が求められるのが今回の任務だが。これまでと同様に、今回もきっと成し遂げてくれるだろうとシュリは願う。
「それと、もし無事に女性を救出できたら、少しばかりカフェでゆっくりしていくのも悪くないかもしれないね」
 ケルベロス達が自分の店を利用してくれるなら、そのことが女性にとって一番の特効薬になるだろう。
 真冬の寒い時期に咲く薔薇も、趣があって良い。いや――。
 だからこそ、より気高く凛と咲き誇って見えるだろう――。
 冬の寒さに負けない生命の輝きに、ラウルは思いを馳せつつヘリオンへと乗り込んだ。


参加者
燈・シズネ(耿々・e01386)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
輝島・華(夢見花・e11960)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)

■リプレイ


 寒空の下に咲く緋色の花には、凛とした気高い美しさが備わっている。
 しかし花本来の在り方を歪められ、醜い異形に変じた薔薇の怪物が、獰猛な肉食獣の如く人間に牙を剥く。
「美しい薔薇には棘があるって言うが、育て主を刺すどころか襲うなんてなあ」
 庭園に足を踏み入れるや否や、巨大化した薔薇の攻性植物を目の前にして、燈・シズネ(耿々・e01386)は半ば呆れるように言葉を吐き捨てる。
 日頃から薔薇に愛情注いで世話をしていた女性が、薔薇に襲われてしまうという悲劇。
 そんな不条理な悪夢はここで終わらせよう――シズネは強い決意を抱きつつ、武器を持つ手に力を込める。
「薔薇愛でる優しい彼女に、異形の花は似合わない。……返して貰うよ」
 ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が地面を蹴って高く跳ぶ。風で薔薇の花弁が舞う空を、飛翔するかのように身を翻し、攻性植物目掛けて重力乗せた蹴りを見舞わせる。
「――ターゲット」
 ラウルの攻撃を浴びて、小刻みに震える攻性植物。そこへ千歳緑・豊(喜懼・e09097)が狙いを定め、炎の獣を出現させる。
 獣の五つの目が不気味に光り、威嚇するかのように吼え叫び、相手の動きを攪乱するよう敵の周囲を駆け回る。
「攻性植物を撃破して、囚われた女性も必ず救出してみせる。彼女もこの店も、見捨ててはおけないからな」
 瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)の青い瞳が見据えているのは、攻性植物の中で眠る女性の存在だ。
 植物の檻に囲まれているせいで、その姿は確認できないが。この手が彼女に届くようにと願いを込めて、回転する螺旋の杭を薔薇の茎へと突き立てる。
「うん、絶対に助け船、出そうね!」
 葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)の細腕が、巨大な鉄の管を軽々持ち上げて。勢いよく叩き込まれた無骨な鉄塊が、薔薇の異形の身体を大きく揺さぶった。
 攻撃を重ねるケルベロスに対し、攻性植物も反撃に出る。幾重もの蔓を一つに束ね、触手のように伸ばして静夏の肢体に絡ませる。
「くっ……!? でも、これしきのことで……!」
 蔓の触手が蠢きながら静夏の身体を締め付ける。しかしこうした苦痛も、戦いを楽しむ為のスパイスであると割り切って。受ける痛みも甘受して、闘志の炎を燃え上がらせる。
「――冥黒裂閃、天滑べ地駆け喰らい尽くせ」
 藍染・夜(蒼風聲・e20064)の手に握られた、宵闇の如き鷹羽を纏う銀の槌。速翼の鳥が天駆けるように放たれた一撃は、宵闇を裂き、黄泉路を拓かんとする序曲。
 冥府に誘う颯なる鳥の羽搏きに、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)が重ねるように歌を紡いで響かせる。
「これは、あなたの歌。想い、覚えよ……」
 攻性植物に向けて翳した手から、書物が顕れ、頁が風に運ばれ花弁のように虚空に舞い。記された言の葉は、鞠緒の声に結われて音となり、旋律が唇から流れるように零れ出る。
 それは囚われの女性の心の中にある『イデア』。彼女に生きる力を与えんと、昇華の歌の力が攻性植物の傷を慈しみ、愛おしむように優しく癒す。
 ただ一方的に攻撃を仕掛けて倒すだけでは、中の女性の命までも奪ってしまう。そこで彼等は女性を救出する為に、敵に治癒を施しながら回復不能ダメージを重ねようと試みる。
「今の私ができる最善のことをする……それだけですの」
 輝島・華(夢見花・e11960)も攻性植物への治療役として、治癒の力を行使する。少女の可憐な指先から煌めく魔力の糸が織り成され、攻性植物の傷口を縫合して瞬く間に塞ぐ。
 敵に回復行為をすることにより、戦いは否が応でも長期戦を余儀なくされる。それでも全ては想定内だと、この場に集った全員が、この戦いへの覚悟を決めていた。


「一気に倒しちまうのは簡単なんだが……宿主を助ける為にも、ここはふんばらねぇとな」
 シズネが眼光鋭く攻性植物を睨み付け、迷うことなく太刀を振るう。放たれた刃の軌跡は三日月のように弧を描き、攻性植物から伸びる触手を斬り落とす。
 それならばと攻性植物は、今度は蔓を巨大な口に変形させて、大きく顎門を開いてシズネに喰らい掛かろうとする。
「おっと、彼には手出しさせないよ」
 そこへラウルが咄嗟に間に割り込み、身を挺して攻性植物の牙を一身に受け止める。
 牙が身体に喰い込むのにも耐え、傷を負ったラウルにすかさず駆け付けるのは、夜朱、ルネッタ、ヴェクサシオンの、三体のウイングキャットの回復部隊。
 名付けて『にゃんこ癒し隊』がラウルを囲むように飛び回り、翼を羽搏かせると清浄なる風を呼び起こす。そんな天使のような羽猫達に、負傷の痛みも忘れる位、身も心も癒されるのだった。
「何とも微笑ましい光景ではあるねえ」
 今回引き連れているサーヴァントが全て羽猫だということに、豊も見ているだけで和んだ気分になっていた。
 とは言え戦いは一瞬の油断が命取りになる。豊は気を引き締めながら懐へと手を忍ばせて、一服の清涼剤のお礼だと、目にも止まらぬ速さで銃を突き付けトリガーを引く。
 撃ち込まれた銃弾は、寸分違わず攻性植物へと命中し、赤い花弁が血飛沫のように散る。
「こいつはさっきのお返し――夏の暑さも、あなたの力も、風鈴の音で少し和らげるよ」
 静夏が間合いを詰めて接敵し、左拳に闘気を溜めて薔薇怪物を殴打する。更に拳を振動させて、激しく唸る闘気の渦が樹皮を抉る度、チョーカーの風鈴から涼しい音色が奏で鳴る。
「冬枯れの森に彩り満つ花園を、無粋な妖に踏み躙らせる訳には行かない」
 宵闇の衣を纏う夜の腕には、月光の如く研ぎ澄まされた日本刀。そして隣には、彼とよく似た髪色の灰が並び立つ。二人は互いに視線で合図を送り、息を合わせて同時に動く。
 先ずは夜が仕掛けて、太刀を抜く。疾る刃の軌跡は、葬送を謳う月の閃華。絢花を添えて奏でる姿は艶やかに、花の妖たる化生の物を華麗に斬り裂く。
「今度は俺の番だな。まだ終わらせない」
 夜が攻撃した直後、灰が間髪を入れず突撃をする。強靭な脚力から繰り出される蹴撃が、大気を薙いで炸裂し、ミシリと根元をへし折る音がした。
 ――攻性植物が人との在り方を決め、全てを自然に還すなどとは、それこそ攻性植物の傲慢ではないか。
 元凶たる件の一派のやり方に、鞠緒の心は憤りを隠せない。少なくとも犠牲になったこのカフェのオーナーと、薔薇の関係は幸せなものであった筈。
「わたしが薔薇を歌うのも、人の罪だというのなら――喜んで冒しましょう」
 償い方を決めるのは、誰でもない自分自身なのだから。鞠緒の意思は迷いなく、揺るがぬ想いを歌に乗せ。鈴の転がるような澄んだ高音が、女性の理想の未来が叶う物語を詠う。
「鬼薊の華さま……ですか。私と同じ名前の敵ならば、尚更放っておけません」
 自分と同じ名を持つ敵が起こした事件に、何の因果もないものの。しかしだからこそ、華にとっては無関係ではいられなかったのかもしれない。
 その為にも自分の手で被害者の命を救いたい。小さな掌に込めた想いを、魔力に変えて解き放ち。オーラが花の形を成して、癒しを齎す光の花が咲き誇る。
 ケルベロス達は攻性植物への攻撃と回復を繰り返し、徐々に敵の生命力を削いでいく。
 相手の攻撃も、にゃんこ癒し隊の活躍によって消耗を最小限に抑え込み、戦いはいよいよ佳境に突入していった。

「薔薇は品種改良して生まれた物も多いんだがね。人間が居なければ、生まれなかったものもいる……」
 それ故に、人間が自然を壊しているなどと言う理屈は身勝手過ぎると、攻性植物の思い上がりに豊は失笑せざるを得なかった。
 そして豊は憐れむようにリボルバー銃に地獄の力を装填し、攻性植物に向けて発射された炎の銃弾が、蛇の如く纏わり付いて生命力を貪り喰らう。
「行くよひまわりちゃん、やっちゃって!」
 戦いが深まるにつれ、静夏の戦闘狂の血が騒ぐ。腕に巻き付く向日葵の攻性植物が、静夏の言葉に応じて薔薇を狙い、踊るように敵に絡んで締め上げる。
「後もう一息といったところかな。……それじゃ、これで一気に決着を付けようか」
 ここまで敵を追い詰めることができたのも、気心知れた仲間達がいてくれたから。ラウルは仲間の顔を見回しながら、小さく頷き一拍置いて、全ての力を集中させる。
 すると嵌めた指輪が光を帯びて剣と化し、ラウルは渾身の力を込めて攻性植物を斬り付ける。
「わたしも加勢します! これでも食らいなさい!」
 今が勝負所と判断し、鞠緒も攻め手に転じて攻勢を掛ける。青薔薇の着物の裾がふわりと捲れ、妖精の理力を纏った脚を露わに蹴り込むと。数多の星のオーラが流星群となり、攻性植物を射抜くように降り注ぐ。
 ケルベロス達の息もつかせぬ波状攻撃に、手負いの攻性植物が追い詰められていく。だがそれでも死力を尽くして食い下がろうと、光を花に集めて、膨大な熱量の光線を撃ち放つ。
 最後の命の火を燃やすかのような炎の奔流が、鞠緒を狙って迫り来る。しかしその時――藍色の髪の青年が、彼女の前に立ち塞がって盾となる。
 炎は前を遮る灰の躯を呑み込んで、魂をも焦がすような激しい痛みが全身を蝕んでいく。ところが灰は、その炎すらも糧にしようと、降魔の力を練り上げる。
「――さあ、もう一度だ」
 湧き立つ力は、毒を糧とし芽吹く種。新生を繰り返し、再生へと受け継がれ、灰の身体を包む炎は体内へと吸い込まれ、全ては廻る輪廻の糧となる。
「こいつでケリをつけてやる――じゃあな」
 シズネが腰を屈めて、日本刀の柄に手を添える。力を極限まで凝縮し、カチリと鯉口を切る音がした瞬間――不可視の無数の斬撃が、女性を閉じ込めている植物の檻を斬り刻む。
 刃を鞘に納めて、攻性植物の方を一瞥すると。植物の身体の中の更に奥、埋もれる女性の姿がシズネの瞳に映り込む。
「もはや還ること適わぬその命――せめて天上で咲き誇れるよう、鮮やかに散らそう」
 この薔薇も、本来は大切に育てられた花だった。尊い命であることには変わりはないと、夜は祈りを捧げるように太刀を掲げて――振り下ろされた刃は、終焉を描く一閃となる。
 できれば薔薇の花も救いたかったけれども、と。華は崩れ堕つ攻性植物を見て、心の中で『ごめんなさい』と呟いた。
 せめて最期だけは安らかに送り届けたい……切なる願いを魔力に注ぎ、包むように握られた手が、攻性植物に捧げるように開かれる。
「さあ、よく狙って――逃がしませんの!」
 華の掌から舞う百花の花弁を、散り逝く薔薇への餞として――。
 生命尽きた攻性植物は、枯れ朽ち果てて消滅し――解放された女性を、夜が両手を広げて抱き止めて。ケルベロス達は無事に彼女を助け出し、見事勝利を収めたのだった。


「皆様のおかげで助けて頂いて、本当に有難うございます。お礼はこれ位しかできませんけど……良かったら、どうぞお召し上がり下さい」
 カフェのオーナーでもある女性は、ケルベロス達に感謝の気持ちを伝えると。せめてものお礼とばかりに、ローズティーを用意する。
「あはは、私達は当然のことをしたまでだから。でも、折角だしのんびりさせてもらうね」
 人の好意は素直に受け取った方が良い。静夏はそんな風に考えながら、ここはお言葉に甘えさせてもらおうと、すっかり寛ぎモードになっていた。

 店内にいれば暖が取れる。寒いのは少々苦手だからと、灰はローズティーのカップを手にして、口に運ぶ。
 喉を通って身体の芯まで温まるような味わいに、心落ち着かせて隣のテーブルへと視線を移す。そこではにゃんこ癒し隊の三匹が、お皿に入ったミルクを美味しそうに飲みながら、仲良く戯れていたりした。
 羽猫同士で親睦を深めている様子を眺めていれば、心も自然と温かくなる。
「うぅ……猫さん達、とっても可愛いです……」
 灰と一緒のテーブルでお茶をしていた華も、羽猫達のふわふわした愛くるしさに、目を輝かせながらつい見惚れ、思わず撫でたい衝動に駆られるのであった。

 その一方で、ラウルとシズネは別のテーブルで、二人だけの時間を語り合っていた。
 先の戦闘で、シズネは自分を庇って怪我をしたラウルのことを気に掛けていて。戦いが終わった今でも、心配そうに彼の顔を見る。
 そうしたシズネの優しさに、ラウルは眦緩ませ微笑みながら、頑丈さには自信があると手を差し出して。シズネは誘われるが侭に、彼の手に触れ、その温もりを確かめた。
「オレには似合わねぇけど、おめぇは薔薇に負けねぇなあ」
 ローズティーの甘く優雅な香りに包まれて、シズネにそう例えられた青年は、はにかみながら庭園に咲く薔薇に目を向け、言葉を綴る。
 ――この凍空の下、風や雪を纏っても、凛と咲く逞しさ。美しさ。
「そこに在る命の煌きは……シズネに似ている」
 不意に口から溢れた一言に、言われた当の本人は、フンと顔を背けて誤魔化すが。それも彼特有の照れ隠しだと、ラウルは花咲くような笑みを燈しつつ。
 また冬薔薇に逢いに行こうね、と。約束交わして、紅茶の薫る幸福なひと時を愉しんだ。

「手入れが行き届いた、良い庭だね」
 冷たい冬の風が吹き抜ける。庭園を散策する豊は、それもまた趣があって良いと思い、風に揺られる薔薇の一つに目を留める。
 特に薔薇に詳しいわけでもない。そんな自分でも、美しい花は知識の有無に関わらず、見る者の目を楽しませてくれるものだと、感慨深く息を吐く。

 寒さに耐えて、慎ましやかに咲く冬薔薇に魅了され。夜は心惹かれるように、花の小さき葉へと手を伸ばす。
 指先でそっと触れ合うその感触は柔らかく。けれどもどこか儚くもあり。
 そこに伝わり響くは、命の謳歌。自然の鼓動に聞き入るように、夜は静かに眸を閉じる。
 耳を澄ますと聴こえてくるのは、囁くような清廉なる調べ。心安らぐ音色の主は、鞠緒が紡ぐ歌だった。
 冬枯れの庭を彩る花達は、気品に溢れながらも生命力に満ちた美しさがあって。
 鞠緒が口遊む旋律もまた、凍てる褪せた景色に色を添え、幻想的な世界を創り出す。
 ――花を愛する全ての人に幸せを。
 自然を想い、慈しむ。心に咲かせる花こそが、何より貴く、美しいのだから――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。