合い言葉は正義

作者:土師三良

●法律のビジョン
「三文小説や三流ドラマの多くは『法が裁けぬ悪を私的に裁く』だの『同情の余地のある犯罪者を見逃す』だのといったシチュエーションを美談に仕立てあげているが……実に許し難い!」
 黒衣のビルシャナが雑居ビルの屋上で声を張り上げていた。
「正義のためならば、法律を無視しても構わない――そんな思想は不届き千万! 正義とは一切の例外なき鉄壁のルールなのだ! 正義のために成した行為であっても、その過程でルールを少しでも破ってしたまったら、それはもう正義とは言えない!」
 ビルシャナの前には七人の青年がいた。皆、真剣な顔をして聞き入っているのだが、目に理性の光がない。それに知性の光も。
「もちろん、小説やドラマのようなフィクションに限ったことではないぞ。現実の世界でも正義とルールは同義。たとえば……そう、池で子供が溺れていたとしよう。子供を救うために池に飛び込むという行為は正義だ。しかし、その池に『遊泳禁止』の立て札があるのなら、絶対に飛び込んではいかーん! 『遊泳禁止』のルールに反した時点で正義ではなくなってしまうのだから!」
「では、子供を見捨てるのが正義なのですか?」
 青年の一人が問いかけると、ビルシャナは即座に否定した。
「違う! 池に飛び込まずに子供を救えばいいのだ! 携帯電話でレスキューを呼ぶもよし。十フィートくらいの棒を探してきて子供に差し出すもよし。池の外から子供に泳ぎ方をレクチャーするもよし。池の水をバケツで汲み出すもよし」
 まともな人間なら、『いや、そんなことをしている間に子供は溺れ死んじゃうよね?』とツッコミを入れることだろう。だが、青年たちは納得の表情を見せている。『まともな人間』と呼べるような精神状態ではないらしい。
 理性(と知性)なき彼らの視線を浴びながら、ビルシャナは身を反らして夜空に吠えた。
「清廉ならざる者に正義を語る資格なし! いついかなる時でも法を厳守せよ! ルールを尊重せよぉーっ!」

●サーティー&音々子かく語りき
 ヘリポートに並ぶケルベロスたちにヘリオライダーの根占・音々子が顔で告げた。
「正義について熱く語るビルシャナが愛媛県宇和島市に現れました」
「ふーん、セイギねえ」
 面倒くさげに頭をかくのはサーティー・ピーシーズ(十三人目・e21959)。
「まあ、しょーもない趣味嗜好をごり押しするビルシャナに比べりゃあ、なんぼかマシかもな」
「マシじゃないですよぉ。そのビルシャナは病的なまでに融通のきかない奴でして、法律とかルールとか掟とか決まりとかを絶対視してるんです。信者たちにも『池で子供が溺れていても、遊泳禁止と定められていたら、飛び込んで助けるのはNG』なんて説法を聞かせてますし……」
「ひでぇビルシャナだな。セイギが聞いて呆れるぜ。自分で自分のケツを拭く覚悟がねえもんだから、すべての判断を誰かのルールに丸投げしてるだけじゃねえか。思考停止もいいところだ」
「まったくです」
 音々子は小さく頷いた後、芝居がかった所作で斜め上方を見上げた。グルグル眼鏡をしているので判り辛いが、本人は遠い目をしているつもりなのだろう。
「その『誰かのルール』という言葉を『国家』や『宗教』に置き換えたら、人類の愚行史の大部分を語ることができるでしょうね……」
「いや、無理して社会派キャラぶらなくていいから」
 鼻白むサーティーであったが、どうにか気を取り直し、話を本題に戻した。
「さっき、信者がどうこうって言ってたよな。今回のビルシャナにも信者どもが群がってるってことか?」
「はい。七人の男性が洗脳されて、ビルシャナに心酔しまくっちゃってるんですよ。正義がどうこうという話にあっさりと感化されるあたり、すごく真っ直ぐというか単純な人たちなんでしょうね」
「ビルシャナをシメる前にその単純な連中の洗脳を解かないと、面倒なことになっちまうなぁ」
「そうですね。だから、皆さんなりの正義論みたいなものをぶつけて、彼らの目を覚まさせてください。『ルールを厳守したために大切なものを守れなかった』とか『あえて法律を破ったからこそ、誰かの命を救えた』みたいな体験談を聞かせるのも効果的かもしれません」
「そんな体験談なんて、そうそうあるもんじゃねえだろ」
「べつに事実をありのまま語る必要はありませんよ。盛りまくっても構わないし、まったくの作り話でも構わないんです。だって――」
 音々子はまた斜め上方を見た。
「――所詮、この世は虚構まみれなんですから」
「だから、社会派キャラぶらなくていいって……ぜっんぜん似合ってねーし」


参加者
スレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
小森・カナン(みどりかみのえれあ・e04847)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
狗塚・潤平(青天白日・e19493)
サーティー・ピーシーズ(十三人目・e21959)
空舟・法華(回向・e25433)
リュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)

■リプレイ

●J for Justice
「ふはははははは!」
 雑居ビルの屋上に響き渡る笑い声。
 そこにはビルシャナと七人の信者がいたが、笑っているのは彼らではない。
「な、何者だ!?」
「悪が呼ぶ! 邪が呼ぶ! 人が呼ぶ! 正義を嗤えとボクを呼ぶ!」
 ビルシャナの誰何の声に応じて、哄笑の主が姿を現した。
 黒いマスクとマントを身に着けたウェアライダー――ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)だ。
「所詮、この世は金! 権力! 暴力! そんな弱肉強食の世で生きる貴方たちを正義なるものは守ってくれるか? 否! 生き残るために進むべきは正義ではなく、悪の道だ!」
 悪の伝道者になりきり、芝居がかった調子で語りかけるミリム。他のケルベロスたちも次々と屋上に現れ、彼女の横に並んでいく。
 その光景を前にして、ビルシャナと信者たちは立ち尽くしていた。ミリムの話に聞き入ってるわけではない。呆然としているのだ。
「悪の道を恐れるな! その先にあるのは真の正義! さあ、いざ行かん! 正義へと至る悪の道へぇーっ!」
 ミリムはマントを翻し、ポーズを決めた。
 冷たい夜風が屋上を虚しく吹き抜けていく。
 その風の音が止んだところでビルシャナは我に返り――、
「見ろ。これが法と秩序をないがしろにした輩の成れの果てだ」
 ――と、ポーズを決めたままのミリムを指し示し、信者たちに言った。
「我々が正義の教えを広めねば、こんな恥知らずな連中が跋扈する世界になってしまうだろう」
「いやいやいやいや」
 と、ショウドウエルフの少年と少女が揃ってかぶりを振った。ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)と小森・カナン(みどりかみのえれあ・e04847)だ。
「正義とか言ってるけど、君らが絶対視しているのは正義じゃなくて法律だよね?」
「よくいるっすよねー。正義と法律をはき違えてる人って」
 二人の言葉を聞くと、ビルシャナは怒りに顔を紅潮させた。
「はき違えるもなにも正義と法律は同義なのだ!」
「ぜっんぜん違うよ。正義っていうは道徳倫理宗教その他もろもろからの視点も含めて語るべきものなんだから。それに法律は僕たちを守ってくれるかもしれないけど――」
 ヴィルフレッドは一拍の間を置いた後、斜め四十五度を見上げた。
「――決して救ってはくれないんだ」
 芝居がかった所作と言葉。本人はかっこよく決めたつもりなのだ。
「音々子といい、おまえといい……ドヤ顔をして、なんか深そうなことを言うのが流行ってんのか?」
 サーティー・ピーシーズ(十三人目・e21959)が白い目を向けたが、ヴィルフレッドは無反応。夜空を見上げたまま、自分の言葉の余韻に酔っている。
「救ってもらう必要などない!」
 と、ビルシャナが叫んだ。
「逆に我々こそが救うべきなのだ。今、危機に瀕している正義を!」
 今度はビルシャナが斜め四十五度を見上げた。信者たちも一斉に同じ角度に視線をやった。全員がドヤ顔だ。十四歳のヴィルフレッドのドヤ顔には微笑ましいものがあったが、いい年をした男たち(しかも一人はビルシャナ)のそれは見苦しいことこの上ない。
「端から順に殴り飛ばしたいぜ」
「まあ、落ち着け。気持ちは判るが……」
 苛立つウェアライダーの狗塚・潤平(青天白日・e19493)をなだめつつ、スレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)が前に出た。
「ちょっと思考実験をしてみようか」
「思考実験だと?」
 ビルシャナが視線を地上に戻した。
「そうだ。正義が危機に瀕していると言っていたが、自分や身内が危機に瀕している状況を想像してみろ。たとえば、鍵のかかった部屋におまえたち全員が閉じ込められているとしよう。各々の家族とともにだ。そこに一家族分の食糧が投げ込まれたら、おまえたちはどうする?」
「愚問、愚問!」
 ビルシャナはわざとらしく肩をゆすって嘲笑した。
「皆で公平に分け合うに決まっているだろうが!」
「一家族分しかないと言ったはずだが?」
「では、食料などいらぬ。扉を破壊して部屋から脱出すれば済むことだ」
「それは器物破損じゃないのか? たとえ人命救助のためであっても、遊泳禁止の池に飛び込むことは正義に反している――そう主張するおまえたちからすれば、家族の命を救うために扉を壊すことも正義ではないはずだ」
「ならば、座して死を待つのみ!」
「おまえたちはそれで満足だろうが、家族はどうなる?」
「私に家族はいないが、仮にいたとしたら、ともに正義に殉ずる道を選ぶはずだ。この勇気ある信者たちと同じように!」
 しかし、ビルシャナの言葉に反して、彼の背後に立つ信者たちの顔には当惑の色が浮かんでいる。今の問答を見て、迷いが生じたのだろう。
 それに気付くことなく、ビルシャナは両腕を広げて叫んだ。
「正義の内に私心なく、法の外に正義なーし!」

●J for Joker
「法の外に正義はないかー。なるほど、なるほど」
 オラトリオのリュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)がしかつめらしい顔で頷いてみせた……と、思いきや、次の瞬間には破顔一笑し、まったく脈絡のない言葉を口にした。
「でもさ。僕って、可愛いじゃん」
「……へ?」
 ビルシャナの目がテンになった。まぬけ面だが、先程のドヤ顔よりもは可愛いと言えるかもしれない。
 一方、『かもしれない』が付かない可愛らしさに満ちた笑みを浮かべたまま、リュイェンは珍妙な主張を始めた。
「可愛いらしさを測れる法はない。でも、可愛いことは正しいんだよ。そう、可愛いは正義!」
「……この娘はいったいなにを言ってるんだ?」
 と、リュイェン以外のケルベロスたちに尋ねるビルシャナ。
 救いを求めるような彼の視線を受けて、潤平が肩をすくめた。
「いや、『娘』と呼べるような年齢じゃないらしいぜ」
「……黙れ」
 と、潤平に小声で(笑顔を維持したまま)警告した後、リュイェンは歩き始めた。
「可愛らしさとは、絶対不変の生き物としての価値観からくる判断。容姿が好みなら、なんでも正当性を持ち始める。その証拠を見せてあげ……おっと!」
 足がもつれ、体勢が崩れる。いや、わざと躓いたのだ。
 飛び込むように倒れた先は一人の信者の胸の中。
「あ、ごめん……大丈夫?」
 と、恥らう乙女の微笑をその信者に見せるリュイェン。
 そして、すぐさま離れ、びしりと指さして問いかけた。
「はい! 今のこれを好みじゃない人にされた場合の感情の動きを述べよ!」
「え? いや、その……」
『述べよ』と言われても、信者はなにも述べられなかった。頬を微かに赤く染めて、視線を巡らせるばかり。おろおろと。どぎまぎと。
 その様子を満足げに見ながら、リュイェンは腰に手をあて胸を張った。
「どうだい、可愛いっていうのは正しいだろ? 法律のどこにも書いてないけどー」
 一瞬、彼女の笑顔が先程の『恥らう乙女の微笑』から何千光年も離れたものに変わった。女狐と古狸の両方の要素を持った、とてつもなく下種な笑顔。
 幸いなことに信者たちはそれを見ていなかったが(見られるようなミスを犯すリュイェンではない)、他のケルベロスたちは見逃さなかった。
「悪い顔だなぁ、おい」
「うむ。悪い顔だ」
 顔を微かに引き攣らせて囁き合うサーティーとスレイン。
 彼らだけでなく、悪の伝道者たるミリムの顔もマスクの内側で引き攣っていた。
「ボ、ボクよりもあっちのほうが悪のレベルが上かもしれない……」
「ふざけるなー!」
 地団太を踏みながら、ビルシャナが怒号を発した。
「今のはただの色仕掛けだろうが! いいか、正義というものは――」
「――おっぱいっす」
 と、割り込んだのはカナンだ。
「正義はおっぱい。おっぱいは正義。大きいおっぱい、小さいおっぱい、すべてのおっぱいが正義っす! ジーク、おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
 片方の拳で胸を叩く動作とともにカナンはおっぱいコールを始めた。シャーマンズゴーストのぶろっこりーも主人の声に合わせて踊り出す。
「じゃかましいわぁーっ!」
 ビルシャナが先程よりも激しく地団太を踏みながら、先程よりも大きな怒号を発した。
「いいかげんにしろ! 正義のなんたるかも判っていない匹婦どもが!」
「そういうおまえは判ってんのか?」
 と、サーティーが半畳を入れた。
「もちろん、判っているとも」
 ビルシャナは地団太を踏むのをやめた。表情に余裕が戻っている。パンクな恰好をしたサーティーのことを自分より知識レベルが劣る者と見做し、マウントを取ることができると思っているのだろう。
「私は法の大家……いや、法の権化といっても過言ではないのだからな!」
「ゴンゲだぁ? 笑わせるなよ。法ってのを本当に心得ているなら、スレインの『器物破損が云々』の話がトラップだってことに気付くはずだぜ。いや、それ以前に遊泳禁止がどうこうなんてふざけた例を挙げたりしねえだろ」
「ふざけてなどいない! たとえ人命救助のためでも、泳ぐことを禁じられている池では……」
「黙ってろ、鳥野郎!」
 ビルシャナがお得意の『遊泳禁止の池』の話を始めようとしたが、サーティーはそれを一喝して遮った。
「いいか? 法は法のためにあるんじゃない。人のためにあるんだ。だから、人の命がヤバいって時には例外になる決まりがある。そういうのを『緊急避難』つうんだよ。覚えとけ」
 ビルシャナの表情からまたもや余裕が消失した。目の前にいるパンク青年が実は自分よりもよほど知識レベルが高いことに気付いたらしい。
 それでも自称『法の権化』は負けを認めなかった。
「バ、バカにするな! この私が救急肥満を知らないわけないだろう!?」
「……いや、救急肥満じゃなくて緊急避難な」
 と、しらけきった顔で間違いを正して、サーティーは信者たちに目を向けた。
「おまえらよー。この醜態を見ても、まだこいつを信じるのか? つーか、助けられる奴を助けにいかないってことを主張している時点でヤベーことに気づけよ。命ってヤツは……わりかし重いぞ。マジでな」
「そう、命は――」
 斜め四十五度を見上げたまま、ヴィルフレッドが呟いた。
「――重いんだ」
「人の言葉に便乗してドヤ顔を決めてんじゃねえ」

●J for Judgement
「でも、他の方々がなんと言おうと、『法の権化』たる先生のことを私は信じています」
 無知無能ぶりをさらけ出してしまったビルシャナに意外なところから助け船が入った。
 ケルベロスの一人、空舟・法華(回向・e25433)だ。その手にあるのは法学に関する参考書。その頭に巻かれているのは、『束大合格』と記された鉢巻き。
「私、東大のホーガクブを受験しようと思っているんです。法律について是非とも御教授ください、先生!」
「いや、『東大』が『束大』になっているんだが……」
 ビルシャナが鉢巻きの誤字を指摘したが、法華はそれを真顔でスルーし、逆に問いかけた。
「昭和三十二年に仙台地裁で開かれた所謂『ずんだ裁判』では、原告側が不正に入手したずんだ餅が証拠として採用されておりますが、それについての先生のご意見を聞かせてください」
「え? ちょ、ちょっと待っ……」
「また、その件が再注目される切っ掛けとなった平成十二年の通称『フナムシ裁判』において……」
 と、考える暇を与えることなく、難解な話を矢継ぎ早にぶつけていく法華。難解な話といっても法華が適当にでっちあげたものなのだが、ビルシャナに見抜けるはずもない。できることといえば、『あー……』『えー……』『んー……』と言葉になっていない声をしどろもどろに返すことだけ。
 そんな彼に対する信者たちの眼差しは冷たかった。心酔と熱狂の炎はもう消えかけているようだ。
 それを完全に消し去るべく、潤平が言った。
「おい、おにーさんがたよ。正義ってのは成し得た行動のことじゃねえ。そこに向かう心構えのことなんだ。だからこそ、それぞれに違う正義の形がある。ここに集まった俺らの正義もバラバラだっただろう? 『悪こそが正義』だの『可愛いは正義』だの『ジーク、おっぱい』だのよ」
「おまえらは正義のためとか言ってっけど――」
 と、カナンも信者たちを睨みつけた。
「――それ、正義でもなんでもねーっすよ。ただのルール厳守。融通が利かねーだけ。正義を謳うなら、ルールを破ってでも人を助けろっす! 『遊泳禁止』の立て札なんか気にせずに飛び込めよっす!」
 続いて、ヴィルフレッドが口を開いた。ドヤ顔のままで。
「僕は、自分や仲間にとって有益な行動が正義だと思ってる。自分で考え抜いた上でね。もし、そんな僕の正義がおかしいと思うなら、君たちの正義を示してよ。ただし、借り物じゃなくて――」
「――自分の脳みそと心で考えた正義だ」
 と、潤平が後を引き取った。
 そして、叫んだ。
「法を正義の隠れ蓑にするんじゃねえ! てめえらの正義はなんだぁー!?」
「……」
 信者たちからの答えはなかった。
 誰も答えられないのだろう。
 自らを恥じて俯くばかりの彼らにスレインがとどめを刺した。
「おまえたちの論理は……正義を貫くには余りにも脆すぎる」
「脆くなどなーい!」
 と、ビルシャナが反駁しかけたが、法華が問いという形で邪魔をした。
「先生、最後の質問です! 先生の仰る『正義のためといえども、法律を無視してはいけいない』という法律は何法の第何条に記されているのですか?」
「……え?」
「何時何分何秒、地球が何回まわった時に決まったのですかっ?」
「……」
「漫画版の六法全書の何巻の何ページの何コマ目に描かれているのですか?」
「……」
 なにも言えず、ただ嘴をぱくぱくと開閉するビルシャナ。実に無様である。
 彼の背後にいた信者たちが背中を丸め、すごすごと去り始めた。
「さーて、クリスマスは過ぎたが――」
 信者が一人残らず消えたところでサーティーが拳の骨を鳴らした。
「――このターキーを丸焼きにしてやるか。俺ァ、こいつみたいに正しさを振りかざす奴が死ぬほど嫌いなんだよ」
「右に同じ」
 と、リュイェンが頷いた。
「正義漢ぶってる奴、だいっ嫌い」
 彼女の横で潤平が身構えた。
「おい、鳥野郎。おまえはこの潤平様の正義基準で悪と判断された。よって、ぶっ倒ぉーす!」
 彼らの殺気を浴びると、虚しく開閉を繰り返していたビルシャナの嘴から声が流れ出た。挑戦に応じて雄々しい言葉を発したのか、あるいは命乞いをしたのか……それは判らない。
 悪の必殺技の名前を叫ぶミリムの声にかき消されたからだ。
「暗黒面のパワーを思い知れ! イビルインパクトォーッ!」
 ただのアイスエイジインパクトなのだが。

 そして、ビルシャナはあっさりと死んだ。
 法を深く愛した彼であったが、法は彼を救ってくれなかったのだ。
 ヴィルフレッドが言ったように。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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