土は土に、ヒトは自然に

■リプレイ

●Dust to dust
　大晦日を前にした金華山で、紫の花が咲く。
　人間の環境破壊に対する怒りを抱く『鬼薊の華さま』によって攻性植物へと変貌させられたそれは、三十路の男性に寄生し、依り代としていた。
　全ての人間を攻性植物と一体化させる人類絶滅計画こそが、『鬼薊の華さま』らが企てている『人は自然に還ろう計画』なのだ。
「自然に帰ろう、か。……言葉面は良いけれど、やっていることは外道だね」
　館花・詩月（咲杜の巫女・e03451）は呟く。その戦意は囚われた男性を救出するため、『人は自然に還ろう計画』についての情報を得るために高揚していた。
「お花をゆっくり眺めたい……、て言う気持ちは、わかるなぁ」
　八千草・保（天心望花・e01190）は男性に感慨を寄せていた。山の花は採取してはいけない、そうやって自然と人は共存できるのではないかと。
「植物を攻性植物へ作り変えるなんて全然自然じゃないです。正に自然を破壊する行為ですよね」
　土竜・岳（ジュエルファインダー・e04093）は、おなじ自然の存在である人間を、自らの手でその在り方を歪めた植物に取り込ませるという『鬼薊の華さま』の思い上がりに憤っていた。
「自然に還る……ですか。攻性植物自体が不自然な存在と思うのは私だけでしょうか？」
　と、エレス・ビルゴドレアム（揺蕩う幻影・e36308）はこぼす。他者の手が加えられた時点でそれはもはや自然、天然とは呼べないのではないだろうか。
「人も自然の一部ってどこかの誰かが言ってた様な気がしたんだが、生きたまま植物に取り込む事自体は逆に不自然だと思えてくるのは俺だけだろうか……。ま、そんなことはどうでもいいや。とりあえず救出しないとな」
　その言葉に天谷・砂太郎（白き狂雷・e00661）は続けた。哲学的なことを考えるよりも、今は目の前の相手が先だ。
「絶対に被害者を助けて、こんな計画止めちゃおうねー」
　ルビー・グレイディ（曇り空・e27831）は言った。自分の目的達成のためだけに、人に攻性植物を寄生させる非道は断たなければならない。
「その人、返してもらう、よ」
　六・鹵（術者・e27523）は真冬であるにもかかわらず活発に動いている攻性植物に宣言した。人が土に還るのは天寿を全うしてからでいいと彼は考えていた。
「攻撃フェーズ移行、戦闘を開始する」
　マティアス・エルンスト（次世代非力かわいい第二代団長・e18301）は、平時の好奇心旺盛な青年から、無機質で冷静な戦闘機となる。攻性植物による地球侵略という凶行を阻止するために。

●Ashes to ashes
「さあ、こっちだよ。こっちー。そーれっ」
　ルビーは天空高く飛び上がって、攻性植物に美しい虹をまとう急降下蹴りを浴びせた。同時に、彼女のミミックであるダンボールちゃんは攻性植物に喰らいつく。
　砂太郎は掌に雷を集約させ、ライトニングボルトを放つ。ほとばしる雷撃は攻性植物を穿ち、草木の焼けるにおいが立ち込める。
「すぐお助けします！　今少しご辛抱を！」
　岳は雷の壁を構築し、仲間を守るライトニングウォールを発動した。
　攻性植物の頭頂部の花がにわかに光を集め、破壊光線を放つと、詩月がかばうように前に出て花から放たれた光を受ける。
「修復支援プログラム、構成……完了。支援領域、展開」
　マティアスは高速演算でその負傷状況を瞬時に分析し、最も効率良く修復を行うプログラムを構築する支援コマンドを起動し、詩月の傷を癒していく。
「みんな、頑張ろう、ね」
　鹵は足元に展開した魔方陣を蹴り上げるようにスターゲイザーを放つ。狙うのは、植物を支える足である根本。
　エレスが攻性植物の蔓触手を如意棒で捌きながら一撃を加えると、攻性植物の蔓触手が水気の多い音を立てながら引きちぎられていく。
「おいで……咲き乱れて」
　保は杖に巻き付いている杖を伸ばして広げ、そこから無数に花を咲かせる。雪の結晶のような、小さく白い花だ。その蔓は攻性植物と絡み合い、攻性植物と囚われている男性に安らぎを与え、損傷していた攻性植物の蔓が元通りになっていく。
　しかし、攻性植物、ひいては、囚われている男性の体を覆う葉の数は少なくなっていた。

●Earth to earth
「ま、微々たる支援だが何もないよりかはマシだろ」
　砂太郎は掌をかざし、癒雷の盾を張った。薄い電磁の壁を体に纏わせることで味方の防御力を向上させる。
「攻撃軌道……計算完了」
　マティアスは攻性植物にコアブラスターを放ち、その熱量で攻性植物の表面の葉を焼き払っていく。計算によって導き出された攻撃は捕えられている男性を必要以上に巻き込むことはない。
「寒風吹き荒ぶ山中、可憐な花を凛と咲かせていたその強さと美しさをどうか思い出して下さい」
　岳はウィッチオペレーションで攻性植物の焼け焦げた体を治していく。蔓や葉の形は元通りになったが、体表を覆う葉の数は減少している。
　口の中でぶつぶつと古代魔法を詠唱し、鹵は電光石火の蹴りで攻性植物の頭頂部にある花を貫いた。攻性植物の動きが鈍ってきている。
「ちょっとごめんねー。よいしょー」
　ルビーは男性ごと倒してしまわないように手加減して、攻性植物の蔓を切っていく。切れた蔓の隙間から男性の姿が垣間見える。
「ほな、次参りますえ」
　保がウィッチオペレーションを発動すると攻性植物の千切れた花や蔓は再生し、それと同時に捕らえられた男性の姿があらわになっていった。
「今なら救出できます！」
　攻性植物の様子を観察していたエレスは仲間に伝える。男性に複雑に絡みついていた攻性植物が、自己の修復のために男性の拘束を緩めている今が好機だと。
「月の元にて奏上す。我は鋼、祝いで詩を覚えし一塊なり。なれど我が心はさにあらず。許し給え。我が心のままに敵を打ち砕かんとする事を」
　詩月は弓の弦を鳴らしながら詩を奏じ、隙だらけの攻性植物めがけて不可視の矢を放つ。攻性植物の魂魄は射抜かれ、男性の体から引きはがされるように地に倒れた。

●To the ground
「よく耐えたな。突然のことで驚いたろうが、もう安心して良い」
　戦闘が終了し、普段通りの青年へ戻ったマティアスは救出した男性に声をかける。実は歳が近いので彼には親近感がわいていた。
「こんなことになって災難だったな」
　砂太郎は腰が抜けて立てなくなっている男性に声をかけ、肩を貸して麓へ歩き始める。鹵も彼らについていった。
　詩月は攻性植物の検分を行っていた。『鬼薊の華さま』が散布した謎の胞子について、どういった種類のものかなどを精査する必要がある。
　ルビーもまた、『鬼薊の華さま』に関する手掛かりが残されていないかの調査を行っていた。実際にこの場にいたのなら、どこかにその痕跡が残っているはずだ。
「倒すことでしかお救いできずごめんなさい……」
　岳は倒すこととなった攻性植物、ひいてはその元となった紫の花に祈りをささげていた。人に寄生し命を奪うことを強要された、今回の事件における犠牲者に向けて。
「綺麗やねぇ……。しっかり、咲いてください……な」
　周辺の修復を終えた保は同種の花を眺めていた。その小さな儚い命は、それでも冷たい大地に深く根付いている。
「この季節に咲く花は儚くも逞しくも感じます。この世界がどう見えるのか……。それは見る側の心次第なのかもしれませんね」
　とエレスは『鬼薊の華さま』の痕跡を探しながらつぶやいた。その視線の先には、紫の花が揺れている。
　土は土に、灰は灰に、塵は塵に還り、きっとまた来年もこの花は金華山に咲くだろう。
　命は巡り巡っていくものだから。

作者：天川葉月	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年12月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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