極めし薙刀の技とは

■リプレイ

●薙刀を操る武人
　兵庫県の山奥。
　そこに、山を駆け上がるケルベロス達の姿があった。
「起こした事件は何度も何度も止められているのに……。幻武極も懲りませんね」
　今回の依頼を持ちかけた着物姿の雅楽方・しずく（夢見のウンディーネ・e37840）がやや呆れをみせるが、メンバー達は思いの他前向きに捉えていた様で。
「武術の達人と戦うことができる機会が得られたのは、嬉しいですね」
　兎のウェアライダー、カロン・レインズ（悪戯と嘘・e37629）はまだ見ぬ相手に心を躍らせる。
　もっとも、相手が殺戮を良しとするドリームイーターである点に関しては残念がっていたようだ。
「薙刀かぁ、真っ先に思い浮かぶのは弁慶だけど……。彼女もそのくらい強かったから狙われたのかな」
　ぼんやりとした様子の円谷・円（デッドリバイバル・e07301）は被害者女性に関して興味を抱いていたようで、そんな推測を行う。
「何かをしてたら、極めたいって思うのは自然な事だよね。努力は素敵なことだもの」
　オーロラピンクの髪にモデル体型なシャドウエルフ、那磁霧・摩琴（シャドウエルフのガンスリンガー・e42383）。
　そこに付け入る幻武極に彼女は怒りを見せながらも、理想を目指すだけではたどり着けないと自身の考えを語る。
「私は鍛冶も武術も、まだまだこれからだけど……」
　控えめに仲間達へと告げる、中野・美貴（刀槍鍛冶師・e16295）。しかし、祖の目に宿る決意は静かに自身の考えを主張している。
「参加するみんなで、ドリームイーターの『究極の武術』はまだ究極じゃ無いというのを思い知らせるわ」
　メンバー達は美貴の言葉に頷き、武術家ドリームイーターの発見を急ぐのである。

　程なく、一行は山から下りてくる人影を発見する。
　長い黒髪、長身の女性。薙刀を手にした武術家ドリームイーターだ。
　それまで穏やかな雰囲気だったラグナシセロ・リズ（レストインピース・e28503）は、敵の前に毅然と立ちはだかった。
「本来なら、こんな形で闘いたくはなかった……」
　いくら武術の高みにいる人であっても、デウスエクスの前では無力。その事実に、シャルロット・フレミス（蒼眼の竜姫・e05104）は少し残念がる。
『薙刀と言うと、日本古来のポールアームね』
　自称「魔女」のヨル・ヴァルプルギス（グノシエンヌ・e30468）が……いや、彼女の持つ人形が喋っているようにも見える。
『見ての通り、この魔女は専ら後衛を得手としているの。近接戦闘の武を試すには相手不足かと思うけれど』
　腹話術で語るヨルは瞳を閉じたまま、表情すら変えない。
「様々な相手と戦ってこそ、磨かれる技も御座いましょう。……一戦、手合わせ御願い致します」
　そこで、人形を下げたヨルは自身の言葉に切り替え、戦闘態勢を取った。
「女の人で薙刀を操るなんて、すごくかっこいいなぁ」
「試し斬りの相手なら、ボク達が引き受けるよ？」
　円、摩琴もまた、身構えながら敵へと呼びかける。
　そんな友人達の姿に、しずくは頼もしさを覚えて。
「では、後ろは任せました」
　そして、彼女もまた、目の前の相手に対する。
「結愛の努力を、人を傷つけるための力になんて変えさせません。いざ尋常に勝負勝負、です！」
　いつもは魔法や歌を使って戦うしずくだが、今回は如意棒を片手で握って構えをとり、武闘派スタイルで闘いに臨む。
「…………」
　すらりと、薙刀を両手に突きつけてくる武術家ドリームイーター。極めた自身の技を見せ付ける気だ。
「しっかり、堪能させて頂きます」
　薙刀使いと戦うのは始めてだと言う美貴。
　彼女は自前で先日打ち上げた新作武器「フランベルジュ」の試しを兼ね、この闘いを楽しむ考えのようだ。
「僕に出来るのは、此処でこの敵を止めて、修行の末に結愛様の想いが叶う事を祈る事だけです」
　幸いにも、この場に被害者を気にかける必要もない。
　ラグナシセロは目の前のドリームイーターを倒すべく、先んじて飛び込んでいったのだった。

●理想の薙刀術
　凜とした態度の女性武術家ドリームイーター。
　そいつが薙刀を操る前に、ラグナシセロがバスターライフルから凍結光線を発射する。
　輝く一射を受け、僅かに腕を凍りつかせた夢喰い。続いて円が弓「イーバウ」を引き、心を貫くエネルギーの矢を放つ。
　若干迷いを覚えたドリームイーターだったが、そいつは素早くケルベロスへと飛びかかってきた。
　振るわれる腕から切っ先は、モザイクに包まれる。
　それもあって、見づらさを覚える技だ。ウイングキャットの蓬莱がリングを飛ばして牽制するが、そのまま敵は蓬莱に斬撃を浴びせかけていく。
（「遠距離攻撃は苦手な方だけど、そうも言ってられない」）
　相手の的確な攻撃を目にし、シャルロットは動きを止めようと呼び出した御業によって敵を鷲掴みにしてしまう。
「…………！」
　縛りつけられ、刹那動きを止めた夢喰い。
「積極的に皆さんを庇ってください！」
　カロンも友達であるミミックのフォーマルハウトに食らいつかせて相手を押さえつけ、その間に跳躍したカロンが流星の蹴りを喰らわせる。
「まずは、ご挨拶代わり」
　しずくは自分の後ろにいるメンバー達の援護の為にと、カラフルな爆発を巻き起こす。そして、本格的に彼女は着物を舞わせて敵へと躍りかかる。その姿は大和撫子を思わせた。
　そのしずくに力を貰い、ヨルは動き出す。
　澄ました態度で、ウイングキャットのケリドウェンが仲間達へと梟の翼を羽ばたかせるのを見て、ヨル自身は腕を突き出して竜の幻影を放つ。
　発せられた燃え上がる炎は、ドリームイーターの体を焦がす。
　自身のウイングキャットが翼を羽ばたかせる後ろで、瞳を閉じたヨルは敵の居場所を感じ取り、次なる攻撃の為に一度身を引く。
　避けようと身を逸らすドリームイーター。だが、全身をオーラで包む摩琴が瞬時に弾丸を発し、牽制を行う。
「…………！」
　体勢を崩しかけた敵目掛け、美貴が展開したアームドフォートから主砲を発射していく。
　その弾丸を浴びた敵は痺れを覚えて身体を硬直させ、シャーマンズゴーストのジークが非物質化した爪でドリームイーターの霊魂を直接薙ぎ払う。
　それらの攻撃を、喰らったかのように見えたドリームイーター。
　しかし、どうやら敵はモザイクを舞わせつつ、ケルベロス達の攻撃に対して致命傷を避けていた。
「薙刀の流れる様な美しい動作、絶妙な間合いを見極め振るわれる刃は圧巻ですね」
　これが、被害者女性の理想の姿。ラグナシセロはそう感じて絶賛するが、これは長き月日の苦しい修行を経たものではない。
「魂のこもっていない力に負けるわけには、いきません！」
　ラグナシセロも負けずに、鮮烈なる一蹴を繰り出す。
　攻撃の瞬間、煌きすら思わせる蹴りを受けたドリームイーター。しかし、そいつは地面を踏みしめ、真横に薙刀を一閃させた。
　ディフェンダーとなるサーヴァント達のカバーが間に合わず、後衛メンバーがそれに切り裂かれてしまう。
「私がいる限り、傷つけさせないんだよ」
　そこは、円がしっかりと仲間の回復に回る。
「月よ、皆に破壊の力を！」
　円が頭上に呼び出したのは月だ。
　例え昼間だろうと関係はなく、月は包み込んだ仲間達に祝福を与えて傷を塞ぎ、敵を叩く力を与えていく。
　なおも、鋭い視線でこちらを狙う武術家ドリームイーター。
「さすがですね……」
　熟達した動き、薙刀捌きに舌を巻くカロンは狙い済まし、凍結光線でそいつを射抜いてしまう。
「…………」
　凍りつく傷口から零れるモザイク。ドリームイーターは歯噛みし、前方に跳躍してモザイクを伴った突きを繰り出してきたのだった。

　淀みなく繰り出される、武術家ドリームイーターの薙刀。
　モザイクに包まれたそれにケルベロス達は切りつけられ、血飛沫を飛ばしてしまう。
「今日のわたしは、一味違うんですよ！」
　斬りつけられてもしずくは「てやー」と叫び、ヌンチャク型の如意棒で殴りかかった。
　敵は薙刀でそれを防いでいたようだったが、その攻撃は確実に薙刀を痛めつける。ボロボロになっていけば、少しずつ薙刀を操る手が鈍り出すはずだ。
　とにかく、攻撃を外さないように。オウガメタルを纏ったヨルはドリームイーターを殴りつけていく。
（「なるべく、ダメージを重ねて参りましょう」）
　まぶたを瞑ったまま、ヨルは相手を捉えて殴りつける。彼女の翼猫もまた、鼻を鳴らして引っかいていた。
　さらに、美貴が波状の切刃を持つフランベルジュで斬りかかっていく。自身で鍛え上げたその剣の威力は申し分ない。
　美貴のシャーマンズゴーストのジークはポジションで少し戸惑っていたようだったが、主と同じく阻害役として原始の炎を発していたようだ。
　切られ、焼かれても、夢喰いは怯まない。連続して薙刀を切り払い、メンバー達を切りつける。
　カロンのミミック、翼猫の蓬莱が耐えてくれているが、さすがに厳しそうだ。
　そこで、円が再び月の光で前衛のサーヴァントたちを照らし出し、活力を与える。
「その程度の傷なら治してみせるよ」
　さらに、円と連携をとり、摩琴が特殊な弾丸を発射する。重力を絶妙に加減したことで、彼女は素早く仲間に弾丸を撃ち出して傷を癒す。
「ボクには技は見えなくても、あなたの症状は診えるんだ」
　弾丸を撃ちこまれて体力を回復したシャルロットは、仲間の動きを見て先に攻撃を仕掛ける。
「猛る雷雲、戦場の硝煙、駆ける煌き……出でよ竜の雷！」
　愛刀「蒼眼竜霊刀・咢」に落雷を受け止めた彼女は、光の一閃を放つ。
　その時、カロンも動き出していた。
「眠りなさい。暗黒と混沌が支配する未来からは逃れられない！」
　詠唱を行うカロンは刹那、目を瞬かせて見開く。
　視線を目にした夢喰いは、何かを思い出して身悶える。徐々にそいつの体にモザイクがかかり始めていた。
「鳥でも飛行機でもありません、鮫くんですよー♪」
　如意棒を振るっていたしずくが突如として巨大な鮫を呼び出し、夢喰いの体を噛み付き、ズタズタに引き裂いていく。
「せめて、刹那に終焉を」
　祈りを込めたラグナシセロは、モザイクがかった夢喰いの体をバスターライフルの一撃で撃ち貫く。
「…………！」
　キラキラと尾を引く流れ星のような一撃。それに、ドリームイーターはついに存在を維持できなくなり、全身をモザイクと化して消えていったのだった。

●また、刃を交える日まで
　ドリームイーターを倒したメンバー達は、急いで被害者が倒れる廃屋へと向かう。
　縁側が開けっ放しとなっていたことで、倒れていた女性武術家、和島・結愛の体調を気遣うメンバー達。
　別所に運ぶ必要はないと判断したシャルロットは部屋の戸を閉め、所持したマントを被せていた。
　その上から、しずくが持参したふかふかのブランケットをかける。羊のような手触りの白いもこもこ素材。それは実に温かい。
「この季節だし、風邪を引いたら可愛そうですからね」
　カロンもまた用意した上着を被せ、彼女の体を温めていたようだ。
「目を覚ましてほしいの」
　月の加護によって、円は結愛の身体を光に包む。
　彼女の介抱を行うメンバーが多いこともあり、ラグナシセロは廃屋の壁にヒールを施し、できる限り穴を塞いで行く。風が吹きぬけて寒いといけないからという彼の配慮だ。
　摩琴が衛生兵としての経験を活かしつつ気力を撃ち出していると、結愛が目を開いて。
「大丈夫？　ボク達はケルベロス、もう心配ないからね」
　目覚めた結愛へ、摩琴が体調に問題ないかと診察を行う。女性メンバーに手当てを任せていたカロンも微笑みを見せていたようだ。
「寒い中でのトレーニング、お疲れ様でした」
　しずくが彼女へとこれまでの経緯を説明する。ヒールドローンを飛ばして手当てをしていた美貴がその間に、ホットココアを手渡していた。
「あなたの努力、わたし達が倒したドリームイーターから伝わってきましたよ」
　戦ったしずくの言葉に、結愛は戸惑いを見せる。
　その結愛に、摩琴も思ったことがあって。
　ひたすら上を目指す結愛の姿は素敵に見えて、それでいて危うくすらも感じていた。だからこそ、彼女は問わずにはいられない。
「ねぇ、極めるってどこにゴールがあるのかな？　何の為に極めるのかな？」
　すると、結愛はメンバー達の目をしっかりと見て告げる。
「強く……なりたいんです。皆を守れるほど強く」
　その手段が彼女にとって、薙刀だったのだろう。
「僕はあまり詳しく無いのですが……」
　そこで、部屋に空いた穴をあらかた塞いだラグナシセロが声をかける。
　修行とは、己が身体、技術だけでなく心も鍛えるものなのだと。
「結愛様の想いが結実しますことを、心より応援しております」
　ヨルもまた、自身が武の道に門外漢と話した上で、呼びかける。
「貴女は夢喰いに目を付けられる程に才有る方なれば、どうぞ此に懲りず、己が技を磨いていかれる事を願っております」
　摩琴もまた、理想を求める彼女を応援する。
「いつか、その技をボク達の隣で振るってくれると嬉しいね」
「あなたが求める理想の武術、自分でできるようにこれからも鍛えていきましょう。そして……」
　美貴もまた肉じゃがを差し入れつつ、一振りの薙刀をジークから手渡す。
「それは私が打った薙刀です。銘は入ってませんが、いい出来なのでお渡しします」
　よければ、使って欲しい。そんな願いもあり、結愛はその薙刀を受け取る。
「ありがとうございます」
「そしていつか、その薙刀で『あなたと』仕合ってみたいです」
「私も一つ手合わせ願いたいわね」
　シャルロットもまた、そんな願望を口に出す。
「それなら、今からでも。……負けませんよ」
　ならばと、結愛は体を温めたら一戦交えたいと希望する。先程貰った薙刀を構え、彼女は身体を温める為に準備運動を始めた。

　程なくして、シャルロットが結愛と剣を交えていた。
　結愛は素早く動くシャルロットへ、一太刀でも浴びせようと薙刀を振るっていく。
「……戦う大和撫子さん、やっぱりかっこいい。憧れちゃいます」
　その戦いぶりに、しずくは見とれてしまう。
　また、強くなった結愛と会える日を思い浮かべ、彼女は目を細めるのである。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年12月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 6
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。