星降る夜に君と

作者:あき缶

●流星群
 星を見に行かぬか、と君達はヘリポートでユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)に誘われた。
「冬は星を見るには格好の季節だそうじゃな! 他の季節に比べて空気が澄んでいるとか。それに今は流星群の極大の時期だそうな!」
 格好のヒールの依頼がある、とユーデリケは言った。
 奈良県五條市大塔町には、星空鑑賞のためのロッジがあるのだが、デウスエクスの襲来などですっかり壊れてしまっているのだという。
「このロッジ、わしらのヒールで治せば一晩無償で貸し切りだそうじゃ」
 五條市は田舎なので街頭の明かりを気にせず星が望める。なお、この日は新月なので月の光も無く、純粋に星だけを見ることができるはずだ。
 寒空の下で毛布にくるまって見るのもいいが、暖炉のあるロッジで暖かく過ごすのも乙なものではないだろうか。
 ロッジは広いが、個室も在る。大事な人と満天の下で過ごす……ロマンチックな一夜になるだろう。
 ユーデリケが言うように、今はふたご座流星群の極大期である。じっと見上げていればきっと流れ星も見えるだろう。流れる星を探し、思いを託す――そんな夜にするのもいい。
「星の明かりというのはか細くて、街の灯にすぐにかき消されてしまうらしいな。人工の光がない場所の星空……楽しみじゃのう!」
 ユーデリケは屈託なく笑った。


■リプレイ

●ファンタジックスターリーナイト
 廃墟一歩手前だったロッジがヒールでファンタジックに修復されていく。
「よし。これでおしまいですの」
 レイ・ローレンスはロッジの屋根の上で、最後の破れを繕うと息を吐いた。
 今夜はきっと、このロッジの中でも外でも多くのカップルが愛を語らうことだろう。
「近寄りがたし……なのですの」
 苦笑すると、レイは屋根に座る。見上げれば満天の星。
 ロッジの玄関前で、エトヴァ・ヒンメルブラウエは目を瞠っていた。
「ア……」
 想像以上に多くの星が見えることに感嘆したのだ。
「おおー凄いのぅ!」
 いつのまにかエトヴァの隣に、ユーデリケ・ソニアが陣取っている。彼女の瞳は星に負けず劣らず煌めいていた。
 エトヴァとユーデリケは静かにじっと空を見つめる。願いが叶うという流星を待ちながら。
 さくさくと霜のおりた道をふたりで歩く。足元をランタンで照らしながら、ルビーク・アライブは愛娘を、寒くないかと気遣った。
 だがエヴァンジェリン・エトワールの足取りは寒さなど欠片も感じていないかのように軽やかだ。
 歩く二人の上も落ちてきそうなほどの素晴らしい星空だが、ルビークは星よりも、星を見て楽しげなエヴァンジェリンを見ることに忙しい。
 ちょうどいい場所を見つけたら、二人身を寄せ合ってブランケットに身を包み、暖かなココアと一緒に天の銀光を仰ごう。
「パパ、見て、星が降り注いでる……っ」
 白い息を吐きながら、声をはずませるエヴァンジェリンの笑顔を、ルビークは眩しく見つめた。
 キラッ。と一条流れた。
「……! 今のが、流れ星か!?」
 本当に一瞬なのだな、とレッドレーク・レッドレッドは感嘆しながらも、流れ星の美しさを讃えた。
「あ、また流れた!」
「ふふ、瞬きをしたりして、見逃さないように、ね」
 成人しているはずなのにまるであどけない子供のようなレッドレークを、クローネ・ラヴクラフトは微笑ましく見つめる。
「ぁ、今のは、さっきよりも明るかったね」
 とクローネが指差す先をレッドレークは追うのだがもう星は消えた後。
「何か『願い事』をしようと思っていたが、追いかけるので精一杯だな!」
 息を弾ませ、レッドレークはクローネに振り向く。
「願い事……ぼくも忘れてた。次までの宿題にしておこうか」
 その約束をクローネは星ではなく、目の前の彼に願う。
 無邪気な反応は、ロディ・マーシャルも同じだ。
「うっわ、すごいな! 空いっぱい星が広がってる!」
 そんなロディの反応を隣の神宮・翼はジトリと見つめる。
(「予想はしてたけどロマンスの欠片もないリアクションでした。はい」)
 ロディくんらしい、と納得はできるのだが、満足はできない翼。
(「何が不満ってわけじゃないんだけど……」)
「いや、わかってるけど。デートじゃないって事ぐらい……」
 ブツブツ言っている翼の横で、ロディは流星群に興奮している。
「お、一つ流れた! ほらあそこ! あそこにも光った! 見えたか、翼?」
(「ま、今は今はロディくんの傍で幼さを残した横顔を見ていたいかな」)

●大事な願い事と大事な人と
 カシュッ。小気味いい音を立てて、缶が開く。
 ヒール作業の労をねぎらい合い、二羽・葵と流星・清和はアルコール同士を軽くぶつける。
 一口飲んでから、清和は部屋の照明を落とした。しかし手元不如意も不安なので、淡い灯りを用意した。
 灯り――つまりキャンドルを葵は興味深そうに眺めている。
 揺らめく火を見つめる葵のかんばせが、オレンジに柔らかく照らされた。
(あかん、葵ちゃんの笑顔かわいい)
 清和の心の声はそのまま口をつく。
「えー? 何か言いました?」
 葵は酔った素振りでごまかすが、その頬の赤みは本当にキャンドルだけのせい?
 隣室では、パチパチと静かに薪を爆ぜさせながら暖炉が赤々と燃えている。
 福富・ユタカとレオン・ヴァーミリオンは一枚のひざ掛けを共有し、寄り添っている。
 キラッキラッと窓の外で星が流れていく。
「これだけ流れ星があるんだから、何かお願い事すればひとつくらいなら叶うんじゃない?」
 レオンが水を向けると、ユタカはしばらく思案の末、
「レオン殿さえ良ければ……いつか拙者と、世界を廻ってくれまするか? ……なんて、ね」
 という本音は笑いながら冗談として流す。
 レオンは可能な限りユタカの願いを叶えたいと思っていたから、きっとこの本音を真剣に告げても問題なかったのだろうけれど。
「今が幸せゆえ、これ以上の我儘はござりませぬ」
 そう、ユタカは過ぎた望みだと思ったから、ささやかな今の幸せを握りしめた。
「流れ星に願いって、稀にしか見えないからこそ意味があるんじゃないですか? 流星群って反則……」
 思った以上に頻繁に流れていく星々を見て、葛篭・咲は、ムードの欠片もないと文句を言った。
 お願いがあったらかけてみようよ……と誘いかけていた森光・緋織は頭を掻く。
「反則かなあ。……そりゃまあね、相手がオレじゃムードも何もないだろけどね」
 咲を恨みがましげに見上げ、緋織は言う。
「別に、他に一緒に来たかった人いたなら、断っても良かったんだよ」
「なんですか、急に」
「好きな人とか、ホントにいない?」
 腹を探るような緋織の視線に、咲は閉口しながらも宥めるように返事をした。
「残念ながら居ませんよ。俺は貴方と居るのが楽しいし落ち着くから来てるんです。言わせないでくださいよねー」
「まあ、オレと居て楽しいならいいんだけどさ」
 渋々とだが納得したらしい緋織は、咲に問う。『願い事はないのか』と。
 咲が今で十分だと返すと、緋織は欲がないと首を振った。
「オレはね……みんなの傍に居られるくらい、強くあれますようにって。星に頼るような願いじゃないかもしれないけど、ね」
 そうですか、と気のない返事をしながらも、咲は思う。緋織は強くなくとも傍に居て良いのだ、と。
 煙草に伸ばしかけた手を静かに、ウルトレス・クレイドルキーパーは引っ込めた。
 彼の隣に静かに座るのは、コマキ・シュヴァルツデーン。
 空を見上げるコマキの横顔を見つめ、ウルトレスは呟く。
「先日の戦争をコマキさんと共に戦って、少し生きることに希望が持てた気がします」
 ずっと生きる実感を持てなかったウルトレス。なぜ生きるのか、その答えも見当たらぬまま、淡々と孤独に戦って――いずれは戦火の中で燃え尽きるように死ねればいいとまで思っていた。
 そんな彼をコマキは知っているが故に、先程のウルトレスの呟きは嬉しかった。
「UCさんが生きることに希望が持てたなら、何よりだわ。独りで居なくなることほど、寂しいことはないから」
 静かにこちらも独り言めいた声音でコマキは応える。
 また静寂が二人をつつむ。
 しばらくして、コマキはポツリと言った。
「来年も、こうして静かに星を見られるといいわね。……二人とも無事で、いましょうね」
 無事でいたい、無事でよかった……ウルトレスが、そんな感情を実感として理解できるようになったのは、コマキのおかげだ。
 またコマキと一緒に星を眺めたい、ウルトレスは流れる星に願うのだった。

●この美しい夜によせて
 香久山・いかるは、隣でココアを啜るハチ・ファーヴニルに『一人で飲むよりも、二人の方が美味しっスから!』と誘われて、ロッジのベンチに隣りあっている。
「ふう、あったまるっスねぇ」
 とハチに微笑みかけられ、いかるは頷いた。
「そうやねぇ」
「そうだ、いかるは流れ星を見つけたら何を願うっスか? 自分は強くなりたいと願いに来たんス」
 ハチは殊の外真剣に言った。
 大切な人達に誇れるだけの強さが欲しい。どれだけ修行を重ねてもまだ足りない気がする。その想いは飢餓感に近いのだと。
「だから、神頼みならぬ流れ星頼み、なーんて!」
 ニカッと笑ってしめたハチに、いかるは頬を緩めた。
 コツコツと靴音が近寄ってきたのを聞く。もう聞き慣れた音だ、と窓辺に立っていたアーヴィン・シュナイドは振り向いた。
「やぁ、今夜も冷えるね。ホットビールを少し作り過ぎてしまったんだが、良かったら共に一杯如何だい?」
 とカップを軽く掲げてくれるスプーキー・ドリズルを、アーヴィンが断る理由なんて無い。
 凍てつく窓が曇りそうなくらい暖かなカップを手の中で転がしながら、スプーキーは星よりも遠くを見つめるような表情で呟く。
「懐かしいな……。丁度お前くらいの歳の頃に、船上で星の瞬きを数えて、退屈を凌いだっけ」
 アーヴィンは黙って彼の昔話に耳を傾ける。
「おっさんは、星に何か願うのか」
 静かに問われ、スプーキーは本心を秘めた苦笑を漏らす。
「そうだね……。いや、僕は自力成就が可能な事柄は祈願しない主義だ」
 暖炉は、外の刺すような極寒が嘘のように部屋を温めてくれる。
「暖かいとこから星が見られるっていいね」
 ゆらゆらと銀の尻尾をゆらし、ケーキと紅茶を前に深緋・ルティエは微笑んだ。
 用意周到なる準備を喜んでもらえた手応えに、クレーエ・スクラーヴェも勢いづく。
「なんでこんなに準備がいいかって思ったんでしょ」
 うん、と頷くルティエに、クレーエは笑顔を浮かべる。
「ほら俺、誕生日二十四日じゃん。でもってその日はもう一個記念日になるからさ」
「へ? もうひとつ?」
 意外な言葉に、ルティエは目を丸くして、クレーエの顔を見つめる。
「折角こんなにロマンチックな空間なんだから、『恋人』から『夫婦』になるお祝いしたいなぁって……ダメだったかな?」
 それはつまりはプロポーズ。
「あ……ぅ……ふう、ふ……」
 じんわりと意味がわかってきて、同時にルティエの顔もじんわり真っ赤になって湯気を出すが、それでもしっかり頷いた。

●霜天の下でも寒くはないでしょう
「えっ、一緒にくるまるのですか?」
 大きな毛布を広げたシル・ウィンディアに誘われて、幸・鳳琴は目を白黒する。
「少しでも温かいほうが良いと思ったんだけど……」
「いえ、は、はい……! 私も一緒でいいです……一緒がいいですっ!」
 鳳琴は慌てて毛布の中に飛び込んだ。ぎゅうぎゅうと二人は隙間なく毛布を巻きつけ、暖かな飲み物を手に流れる天を見上げる。
「ほら、琴ちゃん。いまひとつ流れたよ」
「ふわいっ!」
 急に耳元で囁かれ、鳳琴は素っ頓狂な声を上げる。
「うわぁ、ほんとにすごいなぁ」
 きらきらと流れていく星星に、シルは隣の鳳琴に聞こえぬよう願いを託した。
 寒い、と阿倍野・リンは奈良の冬をナメていたと後悔していた。いい加減な準備では、夜の冬空鑑賞は耐えきれそうにない。
「はい、リンさんどうぞ!」
 そう、隣の天城・ヤコが熱いココアを渡してくれなければ。
「あっ! 流れ星です! ほら、あっちにもです!」
 それにヤコの導きがなければ、リンは一つも流星を見れずに今夜が終わっていたに違いない。
「ヤコは凄いな……」
 と素直に感心するリンだが、ヤコはしょんぼりと呟く。
「流れてしまったお星さまは、それで消えてしまうと思うと、なんだか切ないです……」
 リンは瞑目すると、静かに告げた。
「お星さまは消えても切なくなんかない。お星さまはまた現れるし、ひとつの終わりはひとつの始まりだから」
「そう……そうなんですね!」
 ヤコは曇り顔を晴らし、笑顔を頼もしいリンに向けるのだった。
 ホットワインを握りしめ、蛇荷・カイリは隣の百鬼・澪に話しかけた。
「ねね、澪ちゃんは何かお星さまにお願いってした?」
「ええ、こんな機会、中々ありませんから。カイリさんは?」
 頷きながらも質問を返され、宝石を撒き散らしたかのような満天を見あげながら、カイリは答える。
「まだ私に出来ないことを出来るようになりたい。世界中を笑顔に出来る、そんな力が……欲しいかな」
 ケルベロスは万能ではなくて、取りこぼしてしまう命もある。だが、カイリはできるだけ救いたい。そんな強い意思を宿す彼女の瞳は、星に負けず輝いていた。
 だからこそ、憧れるのだ。と、澪は改めて思う。
「……私はね、カイリさん」
 答えてもらったのだから自分も答えるべきだ、澪は想いを口にした。
「私の手が届くところを失くすのが怖くて、それを守るのに精一杯でいつか貴女のように前を見て歩けたらと……そう思います」
 今はせめて、カイリのようにまっすぐに世界を見て前進する人の背を護れるように、もっと強くなりたい。
 決意を胸に、澪は天を振り仰いだ。
 南東の空に輝くは冬の大三角形。その少し上に双子座はある。
「あの双子座のカストルとポルックスはとても仲が良かったが、カストルは人間、ポルックスは神の子で不死だった」
 巽・清士朗がエルス・キャナリーに語って聞かせるのは、この星座にまつわる物語。
「そこでポルックスはカストルが死んだ時、父神に懇願して自身も死ねる体にして貰ったそうな」
 エルスは感心しながら、感想を口にする。
「こうして、空にまた会えて、もう離れなくなったよね?」
「例えばエルスは、大事な人が死んでしまったらどうする?」
 清士朗の問いに、エルスは青ざめた。思い出してしまった二年前――竜十字島で死んだ『彼』のこと。悪寒にぎゅうと毛布を握りしめ、無意識にエルスは温もりを求める。
「そうさせないわ……でももし……」
 震える声を絞り出そうとするエルスに、清士朗は囁く。
「大丈夫、俺は此処に居る」
 ――沢山の星が地上に落ちてきてるよ。
 楽しげにラウル・フェルディナンドが言うので、燈・シズネは彼の頬を手で包む。
「オレにとっちゃ、おめぇが落っこちてきた星みたいだ」
 隣の星の輝きは儚くて、消えてしまったらと思うと、思わず触ってしまった。夜風に吹かれたラウルの頬は、シズネの掌に氷のような冷たさを伝えてくる。
「……俺は缺けた歪な星だよ」
 それでもいいの、と静かに問う星に、シズネは毛布の下の彼の手を取り、ハッキリと言ってやる。
「缺けてるなら埋めてやる。砕けそうなら支えてやる。そんな星でもいいんだ、おめぇなら」
 しっかりと握られた手と同じくらい暖かな言葉に、ラウルは泣きそうになる。
 溢れそうなくらい幸せだ――。
「ヴァルカンさんは、何かお願い事しないの?」
 七星・さくらはヴァルカン・ソルに尋ねる。
 そうだな……と顎を撫でるも、ヴァルカンは首を振った。
「いや、俺の願いはもう叶っている」
「え?」
「さくら、君と心を通わせることができたからな」
「~~っ!」
 さくらの赤面がこれ以上無いほど赤を増した。
「君は?」
 質問を返され、さくらは答える。
「わたしは欲張りだから、願い事はたくさんあるけど……」
 ふふっと笑い、さくらはヴァルカンの耳元でたったひとつの願い事を囁く。
 確かに願い事を聞き、ヴァルカンは静かに笑みを深めた。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月23日
難度:易しい
参加:32人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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