灰緑の輝星

作者:犬塚ひなこ

●耀く炎
 目の前で燃えあがる緑の焔。
 それは――今まで見たどんな宝石よりも美しい煌めきを宿している。
 炎が己の身を焼き尽くしてゆく中、男はそんなことを考えていた。痛みと熱さが彼の命を奪い去った後、炎彩使いの緑のカッパーは薄く笑んだ。
 男は完全に死を迎え、代わりに炎の中からエインヘリアルが現れる。
 デウスエクスとして生まれ変わった男は宝飾が鏤められた鎧を纏っており、きらきらと輝いていた。携えた剣にまで宝玉が埋まっているらしく、カッパーは満足気にエインヘリアルの姿を見つめる。
「やっぱり豪華な武具が一番よね」
 ちいさく呟いた緑の炎彩使いは自分に傅く巨躯の男に命を下した。この屋敷から出てまずは人間を襲うこと。そして、グラビティ・チェインを奪って力を得ること。
「私が迎えに来るまでに、その武具を使いこなせるようにしておきなさいよね」
 そう告げたカッパーは踵を返してその場から去っていく。
 彼女に忠誠を誓ったエインヘリアルは恭しく首を垂れ、必ずや、と答えた。

●輝星の光
 そして、屋敷から飛び出したエインヘリアルは虐殺の限りを尽くす。
 そのような未来が視えたと語り、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は事件の解決を願った。
 事を起こしたのは近頃巷を騒がせている炎彩使いのひとり、緑のカッパー。
 彼女は宝石収集を趣味とする富豪の男の前に現れ、彼を殺すことでエインヘリアルとして生まれ変わらせてしまった。カッパーは既に現場の屋敷から姿を消しているが、新たな敵は未だ其処に居る。
「今から向かえば、敵が屋敷の敷地から出る前に遭遇できますです。エインヘリアルになった人はもう救えませんが……皆さま、この先に起こる虐殺をとめてください!」
 被害は出てしまったが、これ以上の死を増やすわけにはいかない。
 真剣な眼差しを向けた少女はケルベロス達に強く願った。そしてリルリカは敵の詳しい情報について語ってゆく。
 エインヘリアルは一体。
 彼は武器として宝飾が煌びやかなゾディアックソードを携えているようだ。
 相手は此方がケルベロス達だと分かるとグラビティ・チェインを奪う為に襲い掛かってくる。敵はかなり力が強いが全員で協力すれば勝てない相手ではない。だが、甘く見ると返り討ちに遭うので油断は厳禁。
「エインヘリアルは生前の記憶も持っているようでございます。……でもでも自分が選ばれた人間だと思っているらしくて、殺人に積極的なのです」
 富を持つ特別な人間だったからこそシャイターンに導かれて勇者になったと思い込んでおり、彼はかなり高慢な態度を取ると予想される。戦い辛い相手かもしれないが、標的を止めなければ街で虐殺が開始されてしまう。
「それでは皆さま、ヘリオンを発進させますです。どうかご武運を!」
 仲間達に声をかけたリルリカはぎゅっと掌を握り締める。
 状況は予断を許さないが番犬達ならば事件を解決してくれるはず。信じていますから、と口にした少女の瞳には揺らがぬ信頼が映っていた。


参加者
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
ナルナレア・リオリオ(チャント・e19991)
月・いろこ(ジグ・e39729)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)

■リプレイ

●虚飾
 夜の暗闇の中で宝飾が目映く煌めく。
 屋敷の門の前にて、鎧を身に纏った巨躯の男は街へと歩き出そうとしている。エインヘリアルと化した彼は向かう先で殺戮をはじめようとしていた。
 だが、未来を識る者達がそうはさせない。
「うわあ、ギラギラ……」
 開口一番、標的の前に立った翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)は素直な感想を零す。
 それと同時にケルベロス達が其々に門と屋敷側に布陣してエインヘリアルを囲み込んだ。咄嗟のことに対応できなかった敵は驚き、後手に回ってしまう。
「お前達、何者だ!」
「聞かなくてもお分かりになりませんか~。見ての通り、ケルベロスですよー?」
 鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)は男を見上げながら身構えた。確りと退路を塞いだ紗羅沙達の真剣な眼差しを受け、敵は舌打ちをする。
 彼は一度、彩炎使いに殺されている身。
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は緩く首を振り、自分の中の思いを言葉にした。
「ある種の被害者ではあるけど……倒させてもらう」
「ふん、邪魔をするなら容赦はしない。私は勇者として選ばれたのだからな!」
 対するエインヘリアルは誇りを示しながら剣を構える。されどパトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)にとって、そんなものは誇りに値しなかった。
「選ばれた人間、ねぇ?」
 訝しげに片目を瞑って疑問を零すパトリシア。その隣にはライドキャリバーが駆動音を響かせながら控えている。
 ナルナレア・リオリオ(チャント・e19991)は敵を逃がさぬよう敢えて引き付けようと決め、自分を勇者だと名乗る男を見据えた。
「私程度を壁と道を変えて、勇者をどうして勇者を名乗れましょう」
「どれだけ見た目を着飾っても、実力が伴ってないならただのハリボテだぜ」
 月・いろこ(ジグ・e39729)もナルナレアに続いて挑発を紡ぐ。羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)も自分に注意を向けさせるべく、凛と言い放った。
「殺人に積極的な者が、勇者を騙るものではありません」
「何だと!?」
 ナルナレアやいろこ達の言葉によって敵は怒りを見せている。すぐに逃走することはないだろうと判断したヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)は憐れみの目を向けながら首を傾げた。
「選ばれた? そういうの死神に魅入られたって言うんですよ。なんて哀れな人……」
 刹那、ヒスイが放った殺神の力が敵を穿つ。
 更にはロビンが魔鎖の陣を広げ、紗羅沙が幻楼燈火で仲間の援護に入った。されど敵も反撃に移ろうとしてくるだろう。沙雪は標的の姿を見据え、真っ直ぐに告げる。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 名乗りと共に沙雪は刀印を結んだ指で天の刀身をなぞった。
 そして――真夜中の戦いは巡りゆく。

●宝石の光
 破術の呪詛が迸る最中、エインヘリアルは剣を掲げた。
 ナルナレアはボクスドラゴンのレイラニに注意するよう呼びかけ、強く身構える。
「思い通りにはさせません」
 次の瞬間、星の力が宿った一閃が後衛に向けて放たれた。ナルナレアは即座にいろこを庇い、レイラニは紺を守る。紅いライドキャリバーは主であるパトリシアへの攻撃を肩代わりし、ロビンも紗羅沙の前に立ち塞がった。
 そして、ナルナレアは反撃として禁縛の呪を紡ぎ返した。パトリシアも其処に続き、黒色の魔力弾を撃ち放つ。
「とっとと倒してしまいましょ」
「そうですね~。それにしても、今回はお金があるから選ばれたという方ですか~」
 紗羅沙はパトリシアの声に頷き、改めて敵を見遣った。蓄財は悪いことではない。だが、物事を大切にする順序を誤ったのだろう。そして、紗羅沙は生きる事の罪を肯定する曲を奏でた仲間の援護を担ってゆく。
「こちらからも参ります」
「合わせて行きましょう」
 其処へヒスイと紺が同時に駆けて左右から敵を挟撃する。ヒスイが切り放つ血の斬撃と紺による稲妻めいた突きが交差するように炸裂してエインヘリアルを穿つ。
 一瞬だけ視線を交わした二人はちいさく頷きあい、次の一手に向けて身を翻した。
「ええい、小癪な奴らだ!」
 対する敵は煌めく鎧を見せつけるようにして構えを取る。
 ロビンは見るからに高慢さを宿す相手を見遣り、わざと溜息を吐いた。
「そういうの、虚栄心のかたまりっていうのね、きっと。ねえ、」
 その剣はお飾りかしら、と挑発めいた言葉を投げかけたロビンは影の一閃を解き放つ。闇夜に紛れるような鋭い一撃は輝く鎧に傷をつけた。
 更に地を蹴ったいろこが天高く跳躍する。
「富があるから特別だ、なんて。どうしてそういう思考になるのかね」
 其処からいろこは美しい虹を纏う蹴りを見舞った。仮に本当に特別だったとしても、だから何やっても良いなんてことにはならないはずだ。
 男も被害者ではあるがシャイターンに選ばれる者には理由がある。遣る瀬のない思いは胸中に押し込め、いろこは敵の様子を窺った。
 その間にレイラニが竜の吐息を浴びせかけ、唸りをあげたライドキャリバーが敵に突撃していく。
 沙雪も練り上げた重力鎖を解き放ちながらエインヘリアルの気を引き続ける。
「なんだ。勇者とは名ばかりの腰抜けなのか」
「黙れ、私は勇者なんだ!」
 激昂する敵は剣を力任せに振り回してケルベロスを倒そうと狙った。それによって沙雪に与えられた痛みは鋭かったが、すぐに紗羅沙が光の盾を具現化させることで癒しと守りを施す。
 紗羅沙に信頼を抱き、紺は螺旋の杭打機を大きく掲げた。
「鏡をよくご覧なさい、あなたのような勇者がいますか。宝石の見すぎで目が曇っているようですね」
 それは敵を逃がさぬように放つ煽りでもあったが紺の言葉は的確だ。
 ナルナレアは静かに頷きながらエインヘリアルに注視する。自分の役目は守りに集中して、皆が思い切り戦えるようにすること。
「……何だか、悲しい姿ですね」
 不意にナルナレアの唇から零れ落ちたのは憐れみの言葉。相手は選民思想に囚われ虐殺を良しとする者。紫色の眸に標的を映し、極光の力を解放したナルナレアは緩く首を振った。
「煌びやかな宝石は確かに美しいわ。でも、取り込まれちゃお終いよね」
 パトリシアはライドキャリバーに仲間を守り続けるよう願い、自らも焔の魔力を込めた弾丸を発射する。銃から放たれた紅蓮の焔が敵を焼き尽さんとして激しく迸る最中、パトリシアは双眸を鋭く細めた。
 ケルベロスの猛攻は烈しく、徐々に敵の力が削られていく。
「余所見なんてさみしいわ。わたしと遊んでちょうだい」
「お相手なら幾らでもしますから」
 ロビンは攻撃の手を止めず、ナルナレアも己が出来ることに注力し続ける。
 特にヒスイが向ける眼差しは強く、超鋼の拳はエインヘリアルに大打撃を与えていった。普段から柔和で物腰穏やかな彼だが、宝石を纏う敵とあらば話は別。
「そのアクアマリンが可哀想です」
 剣の宝飾のひとつに気付いたヒスイは明らかに不機嫌そうに舌打ちをする。
「ふん、私の物をどうしようが勝手だろうが」
 対する男は高慢な態度を崩さぬまま戦い続けた。かなりの体力を削られているが、敵は守護星座の力で己を癒す。
 しかし、ケルベロス達もそれをよしとはしない。
 間髪入れずに紺が鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムで敵を貫き、傷口から敵を汚染する。その機に合わせて動いた沙雪は敵が動揺していることを悟った。
 其処から繋がるのは逃走の可能性。
「選ばれた存在と自負するのに負けそうだとなると逃げ腰になるのか」
「なっ……断じてそんなことはない!」
 先手を打って挑発を投げた沙雪に対し、エインヘリアルは怒りを強めた。それでいい、と胸中で呟いた沙雪は再び避魔秘咒法を放つ。
 いろこも畳みかけていくべき時だと感じ取り、氷の騎士を召喚していく。
「綺麗な宝石に惹かれる気持ちは分からなくもないけど、そんなに派手すぎるのは私の好みじゃねぇな」
 つまりは趣味が悪いと輝く宝飾鎧を示したいろこは騎士を突撃させた。槍騎兵は鋭い切っ先を差し向け、容赦なく標的を貫く。
 レイラニを伴ったナルナレアも音速の拳で敵を穿ち、ヒスイとパトリシアも更なる一手を撃ち込んだ。
 仲間達が激しい攻勢に移っていく中、紗羅沙は援護と癒しを重ねていく。
「最後まで、皆さんを支えてみせますね~」
 だから力を尽くしてください、と願った紗羅沙は皆を導く銀狐巫女の力を解放した。見えざる導火が戦場に広がっていき、加護が巡る。
 敵は逃げることも反撃に出ることも出来ぬまま荒い息を吐いていた。
「おのれケルベロスめ……私の輝かしい未来を奪おうするとは……!」
「まあね、それがおしごとだもの」
 別になにを言われようと自分のすることは変わらない。そう告げるように静かな眼差しを向けたロビンは其処に好機を見出し、腕先に魔力を紡いだ。
 その瞬間、狙い定められた一閃がエインヘリアルを貫く。
 それは宛ら死を招く乙女のくちづけのように甘く、戦いの終幕を下ろしてゆくかのように戦場を彩った。

●終焉の夜
 最早エインヘリアルは死から逃れられない。
 それでも膝をつくのはプライドが許さないのか、男は憎々しげにケルベロス達を睨み付けた。次の瞬間、渾身の力込めた星の剣閃が振りあげられる。
 ナルナレアは逸早くその動きに気付いたが、僅かに敵の方が速かった。レイラニも庇いに向かおうとしたが間に合わないだろう。
 だが、狙われた沙雪は冷静に敵の動きを判断していた。
「専心して見極めればこれくらい……」
 沙雪はその一閃を構えた神霊剣・天で以て防御する。受け流された力の行き所に迷うエインヘリアルは隙だらけだ。
 其処へパトリシアが黒弾を放ち、ライドキャリバーが轟音を響かせながら突っ込んでゆく。紺といろこも頷きを交わし、紗羅沙の援護の元に攻撃を続けた。
 ヒスイは刻々と近付く終わりに向け、男に語り掛ける。
「貴方の大好きな宝石に傷つけられるのならば本望でしょう? 宝石は、人殺しの道具を彩るためのものじゃない」
 冷たい言葉が紡がれた刹那、ヒスイの足元に幾重もの花が咲く。
 アクアマリンめいた蒼を宿す月下美人の形をしたそれは底知れぬ冷気を宿しながら花弁を散らす。触れれば溶けて消える刹那の花は瞬時に弾け、凍てついた衝撃を標的に与えた。
 されど敵は未だ反撃の機会を窺っている。
 ロビンは相手の動きを感じ取りながら鉄茨に魔力を込める。そして、敵を打ち貫こうと狙ったロビンは指先を差し向けた。
「もともとひとであることも、知ってるけど、関係ないわ」
 デウスエクスは、殺すだけ。
 苛立ちは表情に出さぬままロビンは力を振るう。影の如き一閃が男を苦しめる中、紺は螺旋力を込めた突撃で以て敵の前に躍り出る。
「ぐ、う……!」
「そこまで立ち続ける姿は立派です。それでも……」
 呻く敵に対して紺は首を振った。倒すことしか出来ぬ現状からは目を逸らすことはできない。すると敵は目の前の紺に向けて刃を向けた。
 だが、すかさずナルナレアが庇いに入る。真っ直ぐに向けた眼差しには芯の強さが感じ取れる。
「無駄です。殺戮しか生まないあなたは、もう――」
 怖れず躊躇いなく一撃を受け止めた彼女は終わりを宣言した。
 紗羅沙はナルナレアの痛みを癒すべく気力を込める。その際に敵から感じたのは傲慢さの中に見えた生前の面影。
「エインヘリアルになったから、そうなったのでしょうか? お金は大事です、しかし、お金が一番大事なものになった時、人は往々にして過ちを犯すものです」
 察したように口にした紗羅沙は瞳を伏せた。
 ヒスイと沙雪も死に向かう男を思い、視線を逸らさぬことで屠る意思を示す。霞の構えを取った沙雪に合わせ、ヒスイは惨劇の鏡像を映した。
 パトリシアも銃を構え、今一度弾丸を叩き込む。
「――燃え上がれ、悲しみを焼き尽くせ」
「その苦しみ、存分に喰らい尽くしてやるぜ」
 焔の弾丸が放たれると同時にいろこが腕を宙に掲げる。まるで踊るような華麗な動きの元、食への執着を具現化させた白骨魚が浮かびあがった。
 貪欲な屍魚たちは敵に群がり、その身を貪り尽くすように襲い掛かる。
「何故だ、勇者であるこの私が……!!」
「……やっぱり、あなた、むかつくんだけど」
 尚も悪態を吐くエインヘリアルに対してロビンは冷たく言い放った。もうおわり、と告げるように再び放たれた毒は深く敵を貫く。
 そして、紺は其処に最期を見出した。男に二度目の死を与える為に紺が紡いでゆくのは葬送の神話。
「消え去りなさい、あなたの世界は終わりです」
 静かな言の葉が落とされ、夜色の影が戦場を包み込む。そして――無数の弾丸となった闇は煌びやかな装飾ごと彼を深く穿った。

●夜闇
 鎧が砕け散り、宝石が飾られた剣が真っ二つに折れる。
 膝をついたエインヘリアルは驚愕の表情を見せた後、何も言葉を紡がぬまま消失していく。おそらくは自分が負けたことが信じられぬまま逝ったのだろう。
 呆気なくも相応しい最期を迎えた男を見送り、パトリシアは肩を落とす。口元は煙草をくわえ、愛用のジッポで火をつけながら彼女は呟いた。
「はーぁ、出来れば救いたかったなぁ」
 不意に零れたその言葉は仲間達の思いを代弁している。
 本当に悪いのは彼をエインヘリアルに変えたシャイターンだ。レイラニを抱きあげたナルナレアはそっと冥福を祈り、諸悪の根源を思う。
 紺はせめてお屋敷だけでもと思い、破損した門にヒールをかけていった。
 ヒスイもそれを手伝い、沙雪は不浄払いの意味を込めて弾指を行う。その間に紗羅沙とロビンは仲間の傷の具合をみていく。誰にも大きな怪我がないと確認したいろこは、改めて戦いの終わりを実感した。
 だが、心に残ったのは言い表せぬ思い。
 確かに事件を解決することが出来たが、訪れた結末もまた悲しいものだ。主のいなくなった屋敷を振り仰ぎ、いろこは肩を落とす。
「どうにも釈然としねぇ」
「利用できるものは利用する、それがあの人達の考え方なのでしょうね」
 紗羅沙も彩炎使いを思って小さく呟いた。人の死をただの糧としてしか見られぬ輩とは相容れられぬのだろう。
 けれど、だからこそ悲しみの連鎖は止めてみせる。
 確かな決意を胸に番犬達は空を見上げた。其処に宿る闇は深いが、きっと黎明の光は巡り来ると信じたい。
 そうして、静寂が満ちる闇の狭間に冷たい夜風が吹き抜けた。
 いつかは昏い夜に光が射す時が来るのだろう。
 それでも未だ、夜明けは遠い。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。