その男は我が物顔で和太鼓を響かせて

作者:なちゅい

●勝手極まる和太鼓演奏者
 愛知県東海市。
 とある住宅地の公民館では、和太鼓の会のメンバー達が練習に励んでいた。
 この近辺に住む人々が有志でイベントなどを回って、会のメンバー全員で和太鼓の演奏を披露するという集まりなのだが……、メンバー達のテンションは上がらない。
 それもそのはず、1人の男が自分の好き勝手に演奏を行っていたからだ。
 会社員、東海林・慶太は美形であり、どこに行っても人気がある。その上で太鼓の演奏は指導者も舌を巻くレベル。それだけに、かなり調子に乗った東海林は自分が目立つように演奏のパートまで勝手に変更してしまう始末。
 練習でも散々好き勝手に太鼓を叩き、メンバーと演奏をあわせる素振りすら見せない。
「けっ、俺に練習なんていらないだろう。お前らは俺を引き立てる為にしっかり励めよ」
 挙句、飽きたらそう告げ、東海林はこの場を一足早く去ってしまう。
 会員達が辟易としている視線を背に受けながらも、彼は何食わぬ顔で公民館を去っていく。
 そのまま帰路に着いた彼が人気の少ない路地に入ったところで、いつの間にかタールの翼を生やした踊り子のような姿をした女性がついてきていて。
「その太鼓の演奏……。あなたには才能がある。人間にしておくのは勿体ない程の……」
「なっ、う、うわあああああああっ!!」
 暗い瞳で女性は東海林を見つめ、腕を突き出す。そこから紫色の炎が噴出し、彼の体を包み込んだ。
「だから、これからは、エインヘリアルとして……私達の為に尽くしなさい」
 燃え上がる炎は東海林の体を作り変え、身長が3mになるほど膨れ上がらせてしまう。
 同時に彼はデウスエクスと成り果て、グラビティ・チェインの枯渇を覚えて。
「なんだこれは……、すげー、乾く……」
「人間を襲ってグラビティ・チェインを奪いなさい。後で迎えに来るから」
 シャイターンの女性は新たなエインヘリアルの誕生を見届けた後、その場から姿を消したのだった。

 活発的に動くシャイターン「炎彩使い」の暗躍が続く。
 今回の依頼のその1件とあり、駆けつけたケルベロス達。その中にいた夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)がこんな話を持ちかける。
「紫のカリムが和太鼓の達人をエインヘリアルに変える……と思ったのだけれど」
 それを受け、ヘリオンで予知を行っていたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がケルベロスの前に姿を現して。
「うん、間違いないようだね」
 彼女はそのまま、説明を始める。
 炎彩使い達は死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をその場でエインヘリアルにすることができるようだ。
 出現したエインヘリアルはグラビティ・チェインが枯渇した状態のようで、人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうと暴れ出すらしい。
「これから現場に向かいたいのだけれど、問題ないかな」
 現場到着時にはすでにエインヘリアルとなった男性が暴れているはずなので、被害が拡大する前に討伐して欲しい。
 エインヘリアルが現れるのは、愛知県東海市の住宅地だ。
 休日の昼間、近隣住民で構成される和太鼓の会の練習が公民館で行われているが、そのタイミングで住宅地にてエインヘリアルが出現し、和太鼓を使った演奏によって人々からグラビティ・チェインを奪おうとするようだ。
「休日ということで自宅で過ごす人も多いはずだから、避難に関してはしっかり頼むよ」
 警察が駆けつけるまではある程度、エインヘリアルを抑える必要があるだろう。
 現れるエインヘリアルは1体のみ。身長は3mほどある青年で、普段着の上から法被を纏っている。
「狙撃手として立ち回る敵は手にする木のバチで殴りかかってきたり、和太鼓を鳴らして大音量で皆の攻撃の手を止めたりしてくるよ。あと、雷雲を呼び出して雷を叩き落とすこともあるようだね」
 なお、シャイターンが選定するとあって、美形ではあれどかなり性格が悪い男らしい。
 予知によると、自身の太鼓の腕に自意識過剰となった彼は他の会員を見下し、他人のソロパートすらも強引にもぎとって自分の思い通りに和太鼓を叩いていたようだ。
「『自身は優れていて、他人は自分の和太鼓の音に魅了されて糧となるのは当然』なんて考えを持っている相手だよ」
 エインヘリアルとなり、殺人すらも厭わぬ彼をそのままにしておくわけにはいかない。
 また、倒した後はヒール作業を行いたい。歌声や演奏などで癒すことができれば、現地の人々を安心させることもできるだろう。
 一通り状況説明を終えたリーゼリットは、依頼に臨むケルベロス達の表情を1人ずつ見つめて。
「ケルベロスの力はエインヘリアルに負けないものだと、証明して見せて欲しい」
 ――それによって、現地の人々もまた元気づけられるはずだから。
 彼女は最後にそうして、依頼に向かうケルベロス達を激励するのだった。


参加者
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
エンジュ・グリオイース(醒天を駆けし刃翼・e21923)
アーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)

■リプレイ

●選定された和太鼓演奏者
 昼間、愛知県東海市に降り立ったケルベロス一行。
 メンバー達は状況を確認しつつ、現場へと急ぐ。
「またエインヘリアル化か……」
 普段は温和な氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)だが、今回の予知の状況を聞いた彼は思うことがあったようで、苦虫を噛み砕いたような顔をしている。
「幾ら才は有れど傲慢故の、と言ったところでしょうか」
 ヴィクトリアンメイド服を着たエンジュ・グリオイース(醒天を駆けし刃翼・e21923)は端的に相手の状況を分析すると、騎士然としたカルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)も口を開く。
「どれだけ上手くても、1人じゃ先は見えません。他の人と合わせられるから、個人の技量も上がっていくってものなんですよ」
 私達も仲間と共に戦うからこそ、技を磨いていける。カルディアはそう主観を語った。
「被害者は所謂嫌な奴みたいだが、……だからといって、死んでいい奴なんていない。どうにか命を奪わずに済ませられればいいんだが……」
 緋桜はその方法を模索しようとするが、メンバーは誰一人その方法を知らない。
「どんなに醜悪な性格だったとしても、『被害に遭って当然』などということはない」
 村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)が呟くように告げる。
「俺らが関わるのは、エインヘリアルを倒すところまで。……和太鼓の会の面々はこの事件、どう思うんだろうな」
 柚月が言っているのは、今回エインヘリアルとなった男の所属していた会のことだ。
 自分達が討伐したことで喜ぶべきかそれとも悲しむべきか、会員達は複雑な想いを抱くことになるだろう。
「敵となった事に貴方の罪は無く、責を問うべき輩の姿も既に無し」
 そこで、神職系巫術士の綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)が言葉を紡ぐ。
「さりながらその技で罪を重ねるのならば、名に鼓を冠す者として推参致しましょう」
「後に控える祭の為にも、手は抜けませんね」
 エンジュもまた情報を思い返し、改めて事態の収拾に意気込みを見せるのである。

 街中には、和太鼓を共に長身のエインヘリアルが姿を現している。
 デウスエクスの出現に、人々はなんとかこの場から逃げようとするのだが……。
「俺の糧になっちまいな!」
 エインヘリアルと成り果てた東海林・慶太は握りしめたバチで和太鼓を叩き、周囲の人々の体力を削り取ろうとする。
 だが、そこに駆けつけたケルベロス達が介入していく。
「フッ、貴方が現れることは、このアテナ様の魔眼によって全て見えていたわ!」
 ドヤ顔で敵に向けて言い放つ、夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)。なお、女神の転生体を主張する彼女は、その魔眼を含めて自称で、妄想によるものである。
 同じく、天使の羽の様な白銀の光翼を持つアーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)もこの場で敵の足止めをはかり、身構えて守りに徹する様子だ。
「ケルベロスよ。早く、ここから離れて!」
「我々はケルベロスです! デウスエクスが出現しました、至急避難して下さい!」
 天々奈の声に応じ、鼓太郎も周囲へと呼びかける。割り込みヴォイスの使用も考えた彼だが、どうやら装備を忘れてしまっていたらしい。
「付近にエインヘリアルが現れました、戦闘音を聴かず速やかに避難をお願い致します!」
 ただ、エンジュが通る声で呼びかけていたこともあり、人々はケルベロスに気づき、この場から離れるように逃げてくれていたようだ。
 突発的なエインヘリアルの出現で逃げ遅れたご老人を、オラトリオのカルディアは手助けし、翼を羽ばたかせて運んでいく。
 逃げ行く人々に注意を向けようとした東海林だったが、その前に柚月が立ち塞がる。
「お前の相手はそっちじゃないぜ」
「……邪魔だ」
 東海林はまるで悪びれた様子を見せず、むしろ望むところとバチを構えた。
 メンバー達もエインヘリアルに対し、戦闘態勢をとっていく。
 顔半分を大きな目の描かれた布で覆う葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)もキヒヒと口端を歪めつつ、避難誘導する3人と連携をとる。
 それによって、現状はこの場から相手を動かさぬことに専念すべきと咲耶は判断していたようだ。
 もう戦いは避けられないと皆感じているが、緋桜は最後まで諦めず、相手に警告を行う。
「馬鹿な事は止めて投降しろ。でなければ俺たちは、あんたを殺してでも止めなくちゃならない」
「俺の太鼓で、貴様らも昇天させてやんよ」
「……傍若無人に振る舞い続け、エインヘリアルに堕ちた哀れな人生」
 柚月は仲間と共に倒すべき敵を見据えて。
「せめて、これ以上罪を重ねることなくその幕を下ろさせることを、彼への弔いとしようか」
 仲間達が飛び込むのに合わせ、柚月もまた日本刀を抜いて駆け出すのだった。

●荒ぶる太鼓の音にも負けず
 迅速な避難誘導を行う3人。カルディアが人の輸送を請け負うそばで、鼓太郎が人々に避難を呼びかける。
 すでに戦いが始まるとあって、同じく声を上げるエンジュは相手のグラビティにも注意を払っていたようだ。
 さて、戦いだが、ケルベロス達が抑えと攻撃を開始する中、エインヘリアルとなった東海林はすぐさまバチで激しいビートを響かせる。
 震える空気はメンバー達の攻撃の手を、僅かに鈍らせてしまう。
 身を張るアーニャはウイングキャットのティナに対抗策として翼を羽ばたかせ、自らはカラフルな爆発を巻き起こして自身と仲間に敵を殲滅する為の力を与えていく。
「サポートするねぇ」
 その攻撃の威力が十分に発揮される為に、咲耶は敵の行動阻害へと動くのだが、生憎と戦いはまだ不慣れな様子。
 キヒヒと笑い声を上げながらも咲耶はやや身体を硬直させ、ライトニングロッドを握って迸る雷を撃ち出していた。
 さらに、柚月が正面から襲い掛かる。
 エインヘリアルの動きを見据えた彼は弧を描く斬撃を放つ。それは敵の足を狙うように斬り付け、赤いものを迸らせた。
 敵の気を引くには十分な一撃。今は避難する人々からエインヘリアルの気を逸らねばならない。
「なるほどぉ、確かに演奏技術は上手いみたいだな」
 仲間達がグラビティを発する間、敵の太鼓の乱打を見た緋桜。彼は相手の演奏に一定の評価を示す。
 しかし、髪を手でかき上げた緋桜は声を荒げて。
「でもなぁ……耳障りなんだよ、あんたの音。心の……魂のこもってない音じゃ、誰の心も動かせないぜ!」
 相手を挑発するように言い放った緋桜は猛然とダッシュし、敵の懐に潜り込む。
 首里手(スイディー)、截拳道(ジークンドー)を織り交ぜた我流の喧嘩スタイルで戦う彼は、自慢の拳で殴りかかっていった。
 グラビティの込められたその一撃は、敵の腹に薄く氷を張る。
「さあ、行くがいい我が眷属よ!」
 天々奈が大きく腕を振り上げると、ウイングキャットの聖天使猫姫が翼を羽ばたかせてメンバーを支援する。
 まだ仲間の傷は浅いと判断した天々奈は攻撃に乗り出し、前方に腕を突き出してファミリアを飛ばす。
 こちらもまた、天々奈の眷属の一員なのだろう。ファミリアはエインヘリアルの腹へと飛び掛り、薄氷を砕きながら仲間の傷を切り広げていく。
「大人しくしてな!」
 それに抗うエインヘリアル。荒ぶるリズムで太鼓を連打したそいつが呼び出したのは、黒い雷雲だ。
 落ちてくる稲光。そこに、ビハインドのビャクヤが飛び込み、仲間達の盾となる。避難に当たっていたメンバーが戦線に加わったのだ。
「皆様に心配されない内に、手早く倒さなければ」
「うるせえええええええ!!!!」
 エンジュがドラゴニックハンマーを砲撃形態とする横から、カルディアが叫びつつ飛び出した。気を昂ぶらせた彼女の態度は、戦闘前の清廉さが嘘のようだ。
「他人に理解されない音なんざな、ただの騒音なんだよ!」
 左右の手に持つ蠍座の力を宿す双剣「クルシファイ・レサト」の刃を、カルディアは敵に向かって振り下ろす。
 その一撃によって服を破られ、エインヘリアルはやや体勢を崩した。
「貴方念願のソロデビュー、と言うところでしょうか。しかし、聞くに耐えませんね!」
 風で礼服をなびかせる鼓太郎も太鼓の音にやや顔をしかめつつ、御業を呼び出す。現れた御業は敵の体を鷲掴みにし、きつくその身を縛りつける。
 ビャクヤがさらに周囲に散らばる瓦礫を飛ばすことでエインヘリアルの足を止めると、攻撃準備を整えたエンジュが号砲を撃ち出す。
「ぐ……」
 続けざまに攻撃を浴びたエインヘリアル、東海林は上体を揺らがせた。
 思った以上の強さを発揮してくるケルベロスに対し、歯噛みしながらもなお太鼓の音を周囲に響かせるのである。

 エインヘリアルが打ち鳴らす太鼓の音が街中に響く。
 普通のイベントでも、太鼓の音は身体を振るわせるほどの振動を起こすが、グラビティが込められたその一打には、一般人の体力を大きく消耗させる威力がある。
 翼猫のティナと共に、それに耐えるアーニャ。
 月、星といった印象を抱かせるアーニャはその中で、敵が落とす雷にかなりの対抗心を抱く。
「雷でしたら、負けません!」
 愛用のライトニングロッド「Claire」を操り、アーニャは雷を撃ち出して反撃する。
 巻き起こす雷で勝てぬと判断したエインヘリアルは、今度は直接バチを使って殴りかかってくる。
 今度は、それをエンジュがしっかりと受け止めていた。
 彼女は太鼓の音に耐える仲間達の状況を見て、光の盾を展開させる。これで少しは音が引き起こす影響を軽減できるはず。
「女神の転生体たるアテナ様の愛の篭ったありがたいミストよ。受け取りなさい」
 さらに、天々奈が壁となる仲間1人1人を癒しの霧で包み込む。
 ただのサキュバスミストではあるのだが、もっともらしく自身の妄想を語りながら、彼女は仲間を癒していたようだ。
 敵の矢面に晒されるメンバー達の背後から、仲間が傷つけられているのを見た鼓太郎はエインヘリアルに対する怒りを募らせる。
「汝を裁くは吾なるぞ、生らぬ為らぬと泣き喚け、涙成るまで打ち鳴らさん!」
 鼓太郎もまた、グラビティとして太鼓を打ち鳴らす。バチとして使うのは、恨み辛みを織り上げたもの。太鼓となるのは、エインヘリアルの体だ。
「これは役目を奪われた奏者の分! これは恥ずべき行いの道具にされた太鼓の分!」
 直接、敵の体を殴打する彼は日頃のフラストレーションを発散させつつ、一打の威力を強めているのだ。
「そして、これは貴方にうっかりイラッと来てしまった未熟者の俺の分です!」
 最後に、日本刀「銅貉」を抜き、鼓太郎は敵の体を切り払う。
「ぐう、倒れるものか……!」
 だが、エインヘリアルは強く地面を蹴り付け、踏みとどまってみせた。
 そいつはすぐにドンドンと太鼓を鳴らし、またも雷雲が巻き起こる。
 飛び出すビャクヤが雷に焼かれた直後に金縛りで敵の体を拘束していく。エンジュはビャクヤを含めた自分達前衛陣に、オウガ粒子を振り撒いていた。
 そのすぐ後ろから、咲耶が御札に封じられた呪を解き放つ。
「これは唯一人を照らし、焼き尽くす、無明の光!」
「ぐ、ぐああああああっ!!」
 放たれる強烈な光。だが、それを感じるのは、咲耶による呪の対象となったエインヘリアルただ1人。その光に目を焼かれた敵は苦しみ悶えて地面を転がり始めた。
 その様子をニヤニヤと口元を吊り上げ、咲耶は見下ろす。
「揺蕩う記憶の深淵を映せ! 顕現せよ! フラッシュメモリー!」
 対して、柚月はやるせないと首を横に振り、大いなる記憶の力を秘めたカードを発動して金色の装甲を右手に纏う。
「できれば、こうなる前にぶん殴ってやりたかったよ」
 力の限り、彼はエインヘリアルを殴りつける。その際、握るバチに亀裂が走っていたようだ。
「くそ、俺には……、愚民を制する才能があんだよ!」
 その叫びに、緋桜は怒りを覚えて叫びかける。
「音楽が好きだから……太鼓が好きだからやってたんじゃないのかよ!? その太鼓で人を殺すな!」
 相手の太鼓の音色によって受けたダメージなど気にも留めず、彼は敵の顔面を殴りつけ、地面に沈めていく。
 頬を凍らせるエインヘリアルだが、それでも立ち上がって太鼓を叩こうとする。
「腹下してるようなバイクのエンジン音も電車の中での通話も、全部こっちにゃ理解できねぇからウルセェんだ!」
 振動する空気を伝って響く音に、表情を歪めたカルディアが胸部の地獄と両手の双剣を共鳴させて。
「テメェの駄楽器なんざその程度なんだよ、死ね!」
 2つの刃による連撃を絶え間なく浴びせ続け、彼女はエインヘリアルの体を切り裂く。
「ぐ、あぁぁ……」
 そのまま事切れるエインヘリアル、東海林。歩み寄る緋桜は一度黙祷を捧げる。
 その間に消え去ってしまった東海林に対し、彼は追悼の意味を込めて三味線で一曲音色を響かせ始めたのだった。

●弾き語りライブで修復作業を
 戦いが終われば、街の修復作業だ。
「なんだかんだギター使えるわけだし、住民のために一肌脱ぐか」
 柚月がギターによる演奏を始めた。弾く曲は「ブラッドスター」。その演奏は聞く者を奮い立たせるだけでなく、破壊された街並みにも力を与える。
「せっかくだし、一緒にどうだ?」
「……そうだな」
 すると、三味線を弾いていた緋桜が応じ、2人はセッションを始める。それに合わせ、鼓太郎も持参の太鼓を打ち鳴らしてリズムを刻む。
「ガラクタの海にある十字架は 罪を持たず消えた命らしい」
 天々奈がそれに合わせて歌い始める。作曲の才能が絶望的な彼女は、流石に今回は自作曲の披露を自重していたようだ。
「血を象っていく設計図 羽も無い飛行場の彗星 大空を泳いだ……」
 アーニャもClaireをかざしながら、歌声を響かせていた。
 輝く月の光は、破壊された道路を幻想交じりに塞いで行く。
「残念ながら、歌や楽器は持ち合わせが無くて、あはは……」
 カルディアはその代わりとして翼を広げてオーロラを発し、仲間達の演奏ステージを盛り上げる。
 オウガ粒子を飛ばすエンジュはそれを静かに聴きながら、人々の手当てと修復に動く。咲耶もそのサポートに回っていたようだ。
「「「もし願うのなら 願うのなら 引き金を引いてみせてよ……」」」
 皆で楽しく演奏し、アーニャは賑やかなライブに笑顔を見せる。
「音楽とは斯く在るべきなのです」
 強引に自分だけで演奏するくらいならば、こうして皆で楽しくやるべきだと、鼓太郎は改めて実感するのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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