群馬県渋川市郊外の住宅地。
その区域の粗大ごみ置き場に、古いコタツがひっそりと出されていた。本来なら、これからがコタツが活躍するシーズンのはずだが、使おうとして出してみたら作動しなかった、とかいうパターンだったのだろうか。
そして、そのコタツの中に、コギトエルゴスムに機械で出来た蜘蛛の足のようなものがついた小型ダモクレスが這い込んだことなど、まったく誰も気がつかなかった。
だが、その夜。
粗大ごみ置き場周辺の住民は、時ならぬ熱風を受けて叩き起こされることになった。いや、起きて逃げ出せた者は、まだしも幸い。置き場の近くで、コタツが変化した巨大ダモクレスが放つ熱線をまともに受けた家は、一瞬のうちに住民もろとも炎上する。
「パワァ……ヒート!」
宣言のような咆哮をあげ、巨大ダモクレスは向きを変えながら、凄まじいとしか言いようのない熱線を周囲の家へ無差別に浴びせる。やがて、周囲一帯が火の海になると、ダモクレスは新たに焼き尽くす獲物を求めて、のしのしと動き出した。
「冬場のコタツは有り難いけど……凶暴なダモクレスと化して周辺地域焼き尽くされちゃ、さすがに困るのよね~」
元ダモクレスのわたしが言うのもなんだけど、と、パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)がてへっ、と笑う。
それを横目で見ながら、ヘリオライダーの高御倉・康(たかみくら・こう)が緊迫した口調で告げる。
「群馬県渋川市で、廃棄された古いコタツが変化したダモクレスが出現し、熱線グラビティ攻撃で周囲の地域を焼き尽くすという予知が得られました。何で古コタツ一つにそこまでのパワーが出せるのかわかりませんが、ダモクレス側がよほど気合を入れて改造したのかもしれません。いずれにしても、既にダモクレス改造は始まっており止められませんが、発生場所と時間はわかっているので、地元警察に急報し、周辺住民の避難を始めてもらっています。皆さんが到着する少し前にダモクレスが起動すると思われますが、その時には周囲には誰もいないはずです」
そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。ダモクレスは、元は古コタツ一つのはずなんですが、えー、どこでどうやって資材を集めたのか知りませんが、コタツを頭部とした身長3メートル近い巨人の姿をしています。予知の中で使ったグラビティは、頭部のヒーターから発する強烈な熱線ですが、他にも攻撃手段はあると思います。歩行もできますし、殴ってくるかもしれません。ポジションは不明です」
そう言って、康は一同を見回す。
「何だか、冬場の暖房家電ダモクレスはもはや定番になってきたような気もしますが、市街地での大規模破壊や虐殺を許すことは、断じてできません。どうか、よろしく対処のほど、お願いします」
参加者 | |
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御門・美波(堕とし子・e34803) |
リーリス・アーキス(燦輝清艶・e36597) |
フィルメリア・ミストレス(夜の一族・e39789) |
獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163) |
パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619) |
ルイーゼ・アミテージ(硝煙漂うゴスロリドリルお嬢・e41626) |
箒星・ぬぬ子(レプリカントの鎧装騎兵・e41647) |
ヒメカ・ベイバロン(空虚な女・e42130) |
●参上! どてら戦隊バニーレンジャー!
「コタツに対抗するには、どてらだね。それしかない」
戦闘前の腹ごしらえとして、御門・美波(堕とし子・e34803)と二人で事前に作成したハンバーグ弁当を皆に配りながら、ヒメカ・ベイバロン(空虚な女・e42130)が断言する。
「そして、どてらを着るならどてらバニーだね。それしかない」
「とゆーわけで、どてらを用意してみました、はぁい!」
満面の笑みで、リーリス・アーキス(燦輝清艶・e36597)が告げる。
いったい、この企ては、いつどのあたりで成立したんだろうと思いつつも、参加メンバー内唯一の男性である獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)は、周りの雰囲気に軽く流され、どてらバニーに着替える。
すると、素早く着替え、かつハンバーグ弁当も完食したヒメカが。更なる提案を放つ。
「せっかく皆でどてらバニーで合わせるなら、戦隊やろう。それしかない」
「どてら戦隊バニーレンジャーですわね。よくってよ」
ルイーゼ・アミテージ(硝煙漂うゴスロリドリルお嬢・e41626)があっさり同意し、パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)がはいはいはーいと手をあげる。
「わたし知ってる! みんなで口上言って、ポーズとって、名乗りあげて、後ろでどかーんと爆発するの!」
「最後の爆発は任せて。後ろじゃなくて敵を爆破することになるけど」
ふふっ♪ と笑って、美波が爆破スイッチ『黒猫』を誇示する。
そしてフィルメリア・ミストレス(夜の一族・e39789)が、優雅な笑みを浮かべながら提案する。
「口上なら、ちょっと面白いものがありますわ。昔の、あまり知られていない少女戦隊ものですけれど……」
(「み、みなさん、ノリノリですね……」)
少々戸惑いながら、箒星・ぬぬ子(レプリカントの鎧装騎兵・e41647)が声には出さずに呟く。しかしもちろん(?)どてらバニーは既にしっかり着込んでいる。
間もなく、ヘリオンは現場の群馬県渋川市に到着しようとしていた。
「グ……オオオオオン……オオン」
廃棄された古コタツを頭部とした身長3メートル近いダモクレスの巨人が、粗大ごみ置き場からのっそりと立ち上がる。
するとそこへ、天空から颯爽と飛来する八人のどてらバニー!
ちなみに今回、参加サーヴァントは晴人が従えるビハインドの『夜明けの口笛吹き』一体のみだが、ビハインドの常で戦闘前には姿を消している。
……もしかすると、姿を現わしてどてらバニー集団と行動を共にするのを躊躇ったのかもしれない。
そして、着地と同時に美波が高らかに叫ぶ。
「天に輝く太陽よりも!」
「熱い心が正義に燃える!」
「悪を斃せよ、斃せよ悪を!」
「祈りに応えて、今、参上!」
「我ら!」
「どてら戦隊バニーレンジャー!」
「どてらバニールナティック!」
「ど、どてらバニーエレクトロン!」
「バニーマジカル、参上だよ!」
「どてらバニードリル!」
「バニードラゴン!」
「別枠、ごぼうシスターズ1号!」
「ごぼうシスターズ2号参上よぉ!」
「ふふっ♪ 定番爆発どっかーん!」
「グオオオオオオオオン!」
(※誰がどのセリフを言ったのかは、御想像にお任せします)
登場の口上名乗りポーズ決めの最後の爆発を、敵の頭部部位破壊狙いで行うという、掟破りもたいがいな美波の攻撃が見事に決まり、コタツ変化巨大ダモクレスは咆哮とともに大きく揺らぐ。
そして、揺らいだところへフィルメリアが、早々とオリジナルグラビティ『縛り付けるスティムルス(ウビ・エスト・モルス・スティムルス・トゥース)』を放つ。
「綺麗な薔薇には棘がありますのよ?」
嫣然と微笑して、フィルメリアは魔力の込められた薔薇の種子を指弾で飛ばす。薔薇はたちまちのうちに成長し、コタツ変化巨大ダモクレスに絡みつく。
鋭い棘の生えた薔薇の蔓に巻きつかれ身動きを封じられた敵を見やり、フィルメリアはパフェットに合図を送る。
「今ですわ!」
「え? もう?」
はやっ、とパフェットは目を丸くしたが、いつであろうと攻撃の好機を逃す手はない。
「おっけーメリアちゃん! パフェット・ドルチェ奥義! パフェット・アイスクリィバーッッ!!」
オリジナルグラビティの名を叫び、パフェットは肘先を氷結させクランチ入りアイスクリーム型の巨大な氷のドリルを作り、スパイラルアームの要領で敵を穿つ。
「魔法少女戦法その4! 先手必勝正面突破! 新奥義! パフェット・アイスクリィバー!」
「グアアアアアア!」
ががががががが、と凄まじい破砕音をあげ、パフェットはグラビティにより強化された冷凍ドリルでダモクレスの脚部を砕く。その硬度はサファイアをも凌ぎ、貫かれた脚部は不規則な凹凸によってずたずたにされる。いかにも戦闘魔法少女らしい無邪気な残忍さがにじみでている、脅威の技である。
そして、片脚を破砕されて傾くコタツ変化巨大ダモクレスに、晴人がチェーンソー剣『59-DC』を轟轟と唸らせながら襲い掛かる。
「さあ、来い! お前をバラバラに刻んでやる!」
「ギアアアアアアッ!」
咆哮とも悲鳴ともつかない声をあげるダモクレスの傷ついた方の脚を、晴人は大声で啖呵を切りつつ斬り刻む。
これぞ晴人のオリジナルグラビティ『吹けよ風、呼べよ嵐(ワン・オブ・ディーズ・デイズ)』。敵に痛みを与え、怒りを誘発する攻撃だが、なんせ今回はどてらバニー女装というふざけた姿なので、敵の怒りもひとしおであろう。
そして、ビハインド『夜明けの口笛吹き』が一瞬姿を現わし、手にした武器で晴人が攻撃している脚を反対側から一薙ぎして、姿を消す。
……あまり姿を見せないようにしているのは、やっぱりどてらバニーの一味だと思われたくないのかも。
そしてぬぬ子は、ヒールドローンを召喚して味方前衛の防御力をあげる。続くルイーゼは狙撃に最適なポジションに移動、脚をやられて低く下がってきた敵の頭部を狙う位置につく。
一方ヒメカは、敵の傷ついた方の脚を狙って竜爪撃を叩き込む。
そしてリーリスは攻性植物『ごぼう』を放って、コタツ変化巨大ダモクレスの頭部破壊を狙う。
「ごぼうの真の力を見せてあげるわぁ」
無数に枝分かれしたごぼうが、ダモクレスの頭部に襲い掛かる。だが、ダモクレスは頭を振って躱し、そのままコタツのヒーターから強力な熱線を撃ってくる。
「パワァ……ヒート!」
「うわっち!」
狙われたのは怒りを付与していた晴人だが、熱線は列攻撃なのでクラッシャ-のヒメカにも累が及ぶ。しかし、一瞬早く『夜明けの口笛吹き』が姿を現わして盾となり、ヒメカを熱線から庇う。
「よし、よくやった!」
サーヴァントを褒めた晴人に、義姉のフィルメリアが眉を寄せて告げる。
「何を言っているの、晴人。サーヴァントといえど女の子に盾役やらせて、恥ずかしくないの? 自力で庇ってよ、自力で」
「そ、そう言われましてもお義姉さま……」
ディフェンダーの庇いは自動発動なんですけど、どうしろと、と、晴人は弁解するが、もちろんフィルメリアは、そんなことは百も二百も承知で義弟を嬲っているのであった。
●無敵! バニーレンジャーの暴威!
「美波! ルイーゼ! 降魔真拳のフォーメーション、行くぞ!」
それしかない、と、ヒメカが提案し、提案された二人も即座にうなずく。
「ふふっ♪ 三人の同時攻撃ね……やりましょうか?」
「もちろん! よくってよ!」
そして三人は、三方からコタツ変化巨大ダモクレスに走り寄り、降魔真拳の構えから重力の渦を発生させる。
片脚をほぼ完全破壊されて安定を失っているダモクレスは、三人に組み付かれ、重力の渦で浮き上がり、そして空中で百八十度回転。頭部のコタツを下にして垂直落下する!
「「「降魔真拳・合体奥義 恐怖のトリプル重力落し!」」」
三人が一斉に叫び、ダモクレスの巨体はどーんという轟音とともに、頭のコタツから肩のあたりまで地面にめり込ませた形で粗大ごみ置き場に逆さまに固定される。
「これは……すけきよ?!」
晴人が思わず口走り、フィルメリアが怪訝そうに訊ねる。
「何それ?」
「いや、人体が湖とか地面とかに逆さにめりこんで、脚だけにゅっと出てるのをそう言うんだそうです」
もっとも、こいつは片脚壊れてますけど、と、晴人はよくわからない解説をする。
一方、合体攻撃に加わらなかった者たちは、逆落としスケキヨ状態(?)にされて攻撃防御不能どころか、逃げも躱しもできない哀れなダモクレスに、嬉々としてか大真面目にかは別として、とにかく容赦なく襲い掛かる。
「撃ちます! フォートレスキャノン!」
ここが攻め時、斃し時ですね、と、呟きながらぬぬ子が砲撃を撃ち込む。
パフェットは再度、凶悪オリジナルグラビティ『パフェット・アイスクリィバー』を、今度は逆さまになったダモクレスの胴中へ叩きつける。
続いてルイーゼが、至近距離から螺旋掌を打ち込む。ダモクレスは残った片脚をばたばたさせるが、何の抵抗にもならない。
「ふふっ♪ 躱せる……わけがないね」
逆落としの後、いったん飛びのいていた美波が戻り、オリジナルグラビティ『淫魔の体術(サキュバスアーツ)』を披露する。
本来、地獄化した右足やサキュバスの尻尾を使い、敵を翻弄しつつ急所を狙った素早い打撃を放つ絶技だが、相手が身動きもできないのでは、ただのサンドバック打撃にすぎない。
それでも決めるところはきっちり決め、美波はルイーゼに引き継ぐ。
「ふふっ♪ もう、やっちゃっていいよ」
「ええ、存分にやらせていただきますわ」
言い放ち、ルイーゼはオリジナルグラビティ『ホーミングレーザーバレット』を放つ。
「これは目標を貫くまで貴方を追いかけます……けど、動けない標的相手では、普通の射撃と変わらないのかしら?」
まあ、動けなくしたのは私たちですけど、と、瀟洒に軽く肩をすくめ、ルイーゼはパラソルからレーザーを撃ち出し、逆落としのダモクレスを蜂の巣にする。
そしてヒメカが、仁王立ちになって言い放つ。
「最後はこれで決める! それしかない!」
気合とともに、ヒメカはオリジナルグラビティ『晨覇降魔拳(シンハ コウマケン)』を放つ。
「降魔真拳・奥義、晨覇降魔拳」
紅に輝く龍のようなオーラを纏った拳の一撃が、ダモクレスの全身を崩す。ガラガラと崩れ落ちたそれは、もはやクズ鉄の山以外の何物でもなかった。
●戦い終わって
「よーし! お待ちかねの回収作業だー!」
パフェットが、ここからが本番とばかりにクズ鉄の山に突進する。
「コタツはどこかな? ……あ、いちばん底かぁ」
「……この、ダモクレスがめりこんだ大穴、ヒールしておいた方がいいでしょうか?」
肩でも腰でも現場で効いてくれる、老舗「高麗薬局」のありがたいお薬「万手輪」(ハーブ)を使いながら、ぬぬ子が訊ねる。
「そうですわね。放置もできませんけど、まずくず鉄どかしてからでないと、ヒールできませんわよね」
くず鉄ごとヒールして、万が一にもコタツダモクレスが復活してしまったらシャレになりませんし、と、フィルメリアが小さく吐息をつく。
一方、ヒメカは回収作業や現場のヒールを待たず、『芋煮会セット』と『大きな鍋』を取り出して芋煮を作り始めようとするが、それをフィルメリアが制止した。
「ここで宴会はやめましょう? 寒いわ」
本当は、寒い以外にも、汚いとかみっともないとかいろいろ理由はあるのだが、それはヒメカに通じないと、フィルメリアにはわかっている。
「えー?」
制止されたヒメカは口を尖らせるが、フィルメリアは重ねて制止する。
「ここは寒いわ。宴会は帰ってからやりましょう? お手製芋煮を披露しますから」
「ん、わかった」
フィルメリアのお手製芋煮と聞いて、ヒメカはうなずく。その傍らで、リーリスがほっと息をつく。
(「堀こたつのあるお店に寄って行こうかと思ったけれど、フィルメリアさんのお手製芋煮と聞いたら、やっぱりそっちよねぇ……あの格好の獅童君をお店まで引っ張っていけないのは残念だけど」)
声には出さずに呟いて、リーリスはBEKKAKU(ホットの缶コーヒー)を飲んであたたまっている晴人を見やった。もちろん彼の格好は、他の皆と同じどてらバニーである。
と、残骸の山をせっせと掘っていたパシェットが歓声をあげる。
「コタツみっけ! あ、ヒーターまだ作動しそう! これ、炎属性の武器作るのに使えるんじゃないかな!」
作者:秋津透 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 14
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