聖夜略奪~裸の心で

作者:黄秦


 雪菜は迷っていた。
 今日はクリスマスイブで、しかもなんと人生初のデートである。
 奇跡のような幸せが待っているのに……なのに、この期に及んで、着ていく服がまだ決まらないのだった。
 この日のためにたくさん頑張って準備をしてきた。あとは2着まで絞った服のどちらか選んで着るだけなのだが。
(「こっちの服じゃ地味かな、でもこっちも子供っぽいと思われそうだし……昨日の夜、どっちにするか決めたはずのに! あーん、どうしよう……!」)
 ぐるぐる悩む雪菜の背後、大きな音を立ててベランダの窓が破られた。ガラスが散乱し、冷たい風がどっと吹き込む。
 窓を破って現れたのは、三体の輝くダモクレスと大きな透明の卵を抱えたダモクレスだ。
「きゃっ!?」
 悲鳴を上げて立ちすくむ彼女を三体が取り囲み、卵のダモクレスから機械の脚が伸びて、その中に雪菜を閉じ込めてしまった。
 そのまま、ダモクレス達はマンションの屋上まで飛び上がると、一角に陣取った。
 卵型のダモクレスは動かず。三体のダモクレスは、それを守るように、戦闘態勢を取るのだった。


 亜月・更紗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0214)が、金魚柄の傘をふりふり現れて、唐突に話始める。
「去年起きた、ゴッドサンタの事件、覚えてる?」
 クリスマスに突如現れたゴッドなサンタを撃破した事件だ。
「ゴッドサンタをやっつけて、グラディウスを手に入れて、ミッション破壊作戦ができるようになったのね。
 それで、去年一年だけでも、いっぱいいっぱい、ミッション地域をかいほーして、みんなとっても喜んだの。でもやっぱり、この事、デウスエクスはすっごく怒ってるみたいなの」
 更紗は、予知を書き留めたメモ帳を取り出す。
「それで、せんぷくりゃくだつたい、『かがやけるせいやく』が、作戦を仕掛けて来た、みたいなの」
 潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢は、クリスマスの力を利用して、ケルベロスが持つグラディウスを封じようとしていると言う。
 ダモクレスは、魔空回廊を使ってクリスマスデートを楽しみにする女性の前に出現し、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に、女性を閉じ込めると、グラディウスを封じ込める儀式を開始する。
 『輝きの卵』自体には戦闘力が無い為、周囲には3体の護衛ダモクレスが護衛につき、ケルベロスからの襲撃に備えているのだ。

「護衛ダモクレスさえ倒せば、女の人を助け出して『輝きの卵』を壊して助けられるようになるの。だから、まずは、護衛をやっつける事が重要なの」
 そう、更紗は読み上げた。


「捕まってるのは『雪菜』って言う、大学生のお姉さんなの。
 今年、生まれて初めてカレシが出来て、しかも初デートがクリスマスイブ! とってもステキなの! ちょっとゆーじゅーふだんな性格で、ギリギリになっても着ていく服が決まらなくて、下着姿で悩んでるところを攫われちゃったの」
 なん……だと……? 色んな意味で騒然となるケルベロスたち。
「雪菜ちゃんの住んでる、マンションの屋上に魔空回廊が開いてて、そこで戦うことになると思うの。護衛は、槍を持ったダモクレス、大きな鎧のダモクレス、スピーカーをくっつけたダモクレスの三体。鎧のダモクレスが守備、槍が攻撃、スピーカーが回復の役目をしてるの」
 先に『輝きの卵』を倒して助けることはできないだろうか? と問われると、更紗はぶんぶんと首を振った。
「ダメなの。雪菜ちゃんが捕まってるときに、うっかり『輝きの卵』を倒しちゃうと、雪菜ちゃんも死んじゃうの! 大変だと思うけど、絶対に、先に三体の護衛を倒してから助け出してほしいの」
 もう一つ重要なことがあると更紗は言う。
 もし儀式が終了してしまうと、『輝きの卵』は自爆する。その時発生するエネルギーの全てをグラディウスの封印に使うのだ。
 当然、その場合も雪菜は死亡してしまうだろう。
「そんなことにならないように、きっと助けてあげてなの!」


「雪菜ちゃんは気を失ってて、卵の中にいる間の事は覚えてないと思うの。
 でも助け出した後は気を付けてあげてなの。特に、男の人は『忖度』して欲しいの」
 覚えた言葉を使いたいお年頃である。
「それに、このままだと雪菜ちゃんはお洋服が選べなくて、デートに間に合わなくなっちゃうの。だからもしよければ、ちょっとだけ、皆でお支度を手伝ってあげて欲しいの。
 ステキなクリスマスイブのために、よろしくお願いします、なの」
 そう言い終えて、更紗はペコリとお辞儀するのだった。


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
ルベウス・アルマンド(紅卿・e27820)
ミカエル・ヘルパー(白き翼のヘルパー・e40402)

■リプレイ

 今日はクリスマス・イブ。
 喜び祝うべき聖なる夜を、4体のダモクレス達が邪悪なものに変えようとしていた。
 マンションの屋上の一角に陣取り、クリスマスの力を奪い、呪詛に変える儀式を行う『輝きの卵』。
 その透明な胎に、クリスマスデートに着ていく服を選びかねていた雪菜が下着姿で捕らえられていた。
 幸いと言うべきか、輝きの卵たちが行う儀式で発する光のせいで、胎の中の雪菜はほぼシルエットしか見えない。
 そして、3体のダモクレス、『輝きの槍』、『輝きの城』、『輝きの音』が、儀式を行う卵の前に陣取り、守護している。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ」
「さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるだろう」
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ」
 じきにケルベロスがこの人間を救うためにやって来るだろうと、ダモクレス達は予測し、返り討ちにせんと武器を構えて戦闘態勢で待ち構えるのだった。


 だからと言って諦めるケルベロスではない。一斉に屋上まで駆け上がり、一番乗りを果たしたのは……。
「ハァ~イ! 楽しいクリスマス送ってる? そんな無機質な顔で天使を真似たつもり? ふふふ、努力だけは褒めてあげてよくってよ!」
 ばいんぼいんなボディを強調する露出度の高いサンタコスのミカエル・ヘルパー(白き翼のヘルパー・e40402)だった。
「来たカ、ケルベロス! キサマラをここで返リ討チにしてくれる!!」
 瞬時にダモクレス達は闘気を漲らせ、武器を構えた。ばいんぼいんボディには無反応だ。
「寒くねえのか」
 代わりにジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)がそうコメントする。多分、優しさで。
「人の青春に水を差すものではないわ。無粋ながらくたは、一つ残らず廃棄処分してあげるわ……」
 ルベウス・アルマンド(紅卿・e27820)が断じれば、ダモクレス達の体内から、軋むような音がする。それは、彼らの嘲笑なのか。
「フん! そのガラクタによっテ、貴様ラは絶望を味ワウのだ! 行くゾ!!」

 『輝きの音』のスピーカーが超音波を発する。それは、槍と城の回路に作用し、攻撃の精度を上げた。
「よし、ヤルぞ!」
「オウっ!」
 輝きの城が巨大な槌を振り回し、生み出した衝撃と電磁波でシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)を捕縛した。
 動けないでいるシルへ、輝きの槍は、手に持つ槍で一撃を与える。
「させないよっ!」
 シルを庇って燈家・陽葉(光響射て・e02459)が槍を受け止める。高電圧が穂先から流れ、陽葉を襲った。
「あああっ!」
 激痛と共に筋肉が弛緩する。
「回復は任せなさ~い♪」
 ミカエルは、ウィッチオペレーションで陽葉に癒しを与える。ついでに色気を振りまいておいた。

 陽葉を傷つけられて、シルは怒っている。
「あいさつ代わりに、きついの一発行きまーすっ!」
 軽やかな跳躍で宙を舞い、スピードの乗った蹴りに重力を乗せて輝きの槍を全力で蹴り飛ばす。
 槍で受け止めるも能わず、重みに耐えかねた輝きの槍の身体が沈む。
「どう? 人の恋路を邪魔するダモクレスは、ケルベロスに蹴られるんだよっ!!」
 シルの着地と同時に地を蹴り、ジョーイが間合いに踏み込んだ。
 クッソ面倒くせェ……などと口ではぼやきながらも、その斬撃は正確に輝きの槍の急所を狙う。
「させヌ!」
 咄嗟に輝きの城が割り込み、斬撃を自ら受け止める。だがそれも織り込み済みだ。
 切り口こそ浅いが、卓越した技量で放たれる一撃は、熱を奪い、回路を凍てつかせる。
 幾つも流れる星のようにまた一つ輝線が疾り、陽葉の重力纏う蹴りが炸裂する。
「大事な人と過ごそうとしてるクリスマスイブに、酷い事をするものだね」
「いや、ぶっちゃけ、クリスマスはわりとどうでもいい!」
「え?」
 陽葉が振り返れば、熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)の心の声がダダ漏れているのだった。
「正確には、それに付随する色恋沙汰とか商戦とかが!」
「ああ……」
 まりるが戦うのは、怠惰かつ平穏な時間を護るためだ。雪菜を助け、平和で楽しいクリスマスを過ごさせたいのも本心だ。
「『累次せよ 再来せよ 偶然という名の希望よ』」
 希望を必中と言う形で具現化し、鋭い一撃が輝きの槍を破壊する。
「分からなくもないけれど。私は家族と過ごす派だし」
 セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)『ヘカーテ・アラベクス』で感覚を増幅する弾を自らに撃ち込む。
「……でも、楽しみにしている人がいるのに、それを奪うのはナンセンスよ」
「そうですとも! 女性にとって大切な、初のデートを邪魔しようなどと言う輩は、成敗致さねばですわ……!」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)はフォートレスキャノンの主砲で一斉掃射を行う。
 無数の弾は、槍を庇った城へと降り注ぎ、麻痺させる。
「グ……ケルベロスどもめ、強い……っ」
「しっかりしロ、オマエたち!」
 輝きの音は、大型スピーカーをフルに稼働させて、2体を修復し、更に装甲を厚くする。
「それなら……」
 ルベウスは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、最前線の者たちの超感覚を覚醒させた。

 『輝きの音』のスピーカーから出る音が変わった。けたたましい音と勇ましい曲調で、槍と城を鼓舞する。
 城の破戒槌が唸り超重の一撃はガードごと圧壊した。防御の薄くなったところに、容赦のなく槍の穂先が連打される。
「やったなっ!」
 痺れを振り払ってシルは輝きの槍へと攻撃を仕掛ける。出し惜しみなし、六芒精霊収束砲を撃つ。増幅魔法での威力を増しての強烈な砲撃には城の守護も間に合わず、槍を直撃する。背中に1対の青白い魔力の翼が展開して反動を抑えた。
「一発デケェの行くからしっかり受け止めろよ?」
 ジョーイの鬼神の一太刀が唸りを上げる。鬼神が如きオーラを身に纏い浴びせる斬撃は、ダモクレスですら怯ませる威力だった。
 陽葉は星座の重力を剣に宿し、あらゆる守護を無効化する重い斬撃を放つ。そして、まりる大器晩成撃は輝く槍を凍り付かせた。
 魔術の師として、セレスティンもシルに負けていられない。
「よく聞きなさい、これが私の唄よ」
 奏でるのは、『死の調べ』。ライフルを手に素早く間合いに飛び込むと、内にある闇の力を収縮させ弾丸に替え一気に放す。
 ほぼ零距離の至近からの爆音は、輝きの音の大音声にも打ち勝ち、更なるダメージを与えた。

 槍を集中攻撃すれば、城が庇いに来る。ケルベロスたちの作戦は図に当たっていた。
 輝きの音は必死にスピーカーから回復の音を流し続けている。
 輝きの槍が天に槍を掲げると、無数の流星が生じ、ルベウス、セレスティン、ミカエルに降り注いだ。チカチカと明滅しては、目を眩ませ惑乱する。
「そうはさせないっ!」
 陽葉は、セレスティンの盾となる。そしてすかさず裂帛の叫びによって惑乱を打ち消した。
「同士討ち狙い、ついでに自分を回復させようという事ですかしら。姑息ですわね!」
 ミルフィはすかさずサキュバスミストで包み込む。
 危ういところで正気に戻ったミカエルは、自らもメディカルレインを降らせ、癒す。
「遠間から撃つばかりが魔術師ではなくってよ」
 ルベウスは、オウガメタルを『鋼の鬼』と成し、鋼化した拳を輝きの槍に叩きつけた。
「ヌがぁあっ!」
 城の防御は間に合わない。拳が輝きの槍の胸部を貫けば、ビシリと大きな音を立てて、胴体の装甲が割れて剥げ落ちた。
「硬い……やっぱり殴りつけるなんて野蛮だわ」
 顔をしかめるルベウスである。
「そこまでやってて……いいけれど」
 セレスティンは、ルベウスの攻撃で剥き出しになった胴体へと、ケイオスランサーを放った。貫いた傷口から、じわり、汚染する。

 音のスピーカーは重低音を鳴らす。
 厚い装甲を得て輝きの槍は得物をぐるりと振って流星を呼んだ。
 その攻撃は、まりるが体を張って受け止める。
 息切らしても、シルは攻撃の手を休めない。もっと強く、前のめりに。六芒精霊収束砲で前のめりに輝きの槍を攻撃する。
 一歩引いたところへ、ジョーイの冥刀が弧を描いた。
 続いて陽葉は踏み込む。
「『陽の光を以て、断ち斬れ!』」
 気迫を込めた一閃、陽光の霊力を込めた刃は厚い筈の装甲を切り裂きいた。
「ヌ、ガ……オノれッ!」
 手にした得物を高く振り上げて、陽葉に反撃しようとする輝きの槍は、斬撃の軌跡が、未だ消えていないことに気付かない。
 そこに残った霊力の残滓が爆ぜ、輝きの槍を直撃した。
「グァ……城ヨ、音ヨ……儀式を………ッ」
 それを最後に、輝きの槍は爆裂四散した。


「貴様ラっ!!!」
 憤る輝きの城が槌を振り被るその足元から、まりるはニートヴォルケイノを噴き上がらせた。
「ウガァ……なんだこれハ!」
 緑色の粘菌が、輝きの城の装甲を侵食していく。セレスティンの招来したそれは、不可視の攻撃を与え続けた。
「イケないお注射、しますわよ☆――ナイチンゲール・ランチャー!!」
 ミルフィは『アームドクロックワークス』のキャノンを巨大な注射器型に変形させて、ウィルスを発射する。
 太い針ぶっ刺さり、ウィルスが注入されると、治癒能力が阻害されて、輝く音の回復がおぼつかなくなった。
「オノレ貴様ラ! 儀式は、儀式は邪魔サセぬぞっ!!」
 輝きの城も、最早風前の灯火だった。
 ルベウスの胸の宝石が仄かに光を帯びる。
「『昼でなく、夜でなく……生であり、死であり……石膏のように、雨露のように……気丈に羽ばたき、無邪気に爪を剥く……』」
 静かな、静かな詠唱。ルベウスの宝石を触媒に、猛禽類に似た姿をした何かが現れ、エメラルド色の翼を広げた。
 ルベウスが輝きの城を指し示すと。『それ』は一直線に襲い掛かり、引き裂いた。
「ク……ガガッ……音ヨ……卵を護ルのだ……っ」
 そう言い残し、輝きの城は崩れ落ちたのだった。

 槍と城を失えば、輝きの音は抗う術を持たない。
「オノレ……させヌ、さセぬッ!!」
 それでも輝きの卵の前に立ちはだかり護ろうとする輝きの音。
「おう、根性あるじゃねえか」
 敵ながら天晴といっそ感心するジョーイだが、許すわけにはいかない。むしろ、全力を持って倒す事こそが礼儀だろう。
 故に。ケルベロスたちは、それぞれの最大火力を持って輝きの音を破壊する。
「さよなら、なの」
 機能停止直前の輝きの音の頭上に、ミカエルは花を咲かせた。
 その馥郁たる香りはボディの隅々まで滲みこみ、全ての執着を、永久に忘れさせたのだった。


 3体の守護者は破壊され、残されたのは無防備なまま儀式を続ける輝きの卵だけだ。
 雪菜を助け出し、輝きの卵を破壊する事は、あっけないほど簡単に終わった。
 まりるとミルフィが用意しておいた毛布に雪菜を包む。まだ、意識がはっきりしていないが、けがもなく無事だ。
「メリークリスマ~ス! お姉さんが癒して あ・げ」
「よし、忖度」
「え? ちょ、離してぇ~~~っ!」
 ジョーイの忖度により隅っこに引きずって行かれるミカエル。その間に残りの皆で雪菜を部屋へ連れて戻るのだった。

「そうだったんですね、ありがとうございました! なんてお礼を言ったらいいか……」
 ほどなく意識の戻った雪菜は、状況を理解し、何度も皆に礼を言う。
「いいのよ。それより、出かける予定があるのではなくて?」
 セレスティンはちらりと時間を見る。
「えっ? ……あっ! もうこんな時間! どうしよう、服が、服が!」
 慌てふためく雪菜を落ち着かせ、ケルベロスたちはそれぞれに思う事をアドバイスする。
 大人を演出するドレスか可愛い系の服か。それぞれの理由でどちらも推されたが、それよりも皆が同じように思うことがあった。
「大切なのは、その方を想う心ですわ……わたくしにも、愛する方がおられますもの……解りますわ」
 最初にそれを口にしたのはミルフィだ。
「ええ。どちらを選ぶにせよ、肯定し、応援するわ」
 微笑むセレスティンの心の裡を知っているから、シルは、ただ頷いて。
(「たとえ離れていても、思いは繋がるもの」)
 そっと左手に触れて、大切な人との絆を確かめる。
「己が楽しんでいる様を言動に表せば、相手も其れを楽しんでくれると思いますよー」
 雪菜に楽しいクリスマスを過ごしてほしいと思っているからこその、まりるの言葉。
(「まあ、人生経験的に、人生初デートなるものに進言出来る身ではありませんが……」)
 そんな心の声は漏らさないように。
「どんな服装でも、きっと恋人はきっと喜んでくれるだろうから、結局は、君の心次第かな」
 陽葉がそう言うと、雪菜ははっとした顔になる。
「あたし次第……そうですよね」
 ルベウスは宝石で出来た小さな四つ葉のブローチを差し出した。
「このブローチは、不安を食べてくれるわ。きっと大丈夫……」
 エメラルド色に輝く幸運の象徴を見つめ、暫く雪菜は考えていたが、やがて顔を上げた。
「ええ、決めました。こっちの服にします」
 彼女はシックなドレスを選ぶ。
「皆さんに勧められたのも正直ありますけど……きっと、今自分に必要なのは、こっちだと思うんです。
 ……それに、このブローチの色は、こっちの方が合うと思うから」
 そう言って、雪菜は、幸せそうな微笑みを浮かべる。
(「そっちかあ。童貞殺す系も着こなして欲しかったけど、仕方ないね」)
 残念に思うまりるを他所に、雪菜は続けた。
「もう一方の服は、次のデートに着ようと思います。ふ、振られなければですけど……」
「いやいや、あるある! 次絶対あるから! 詫びさびだよ!」
 また心の声がダダ漏れたのかと、ちょっと焦ったまりるだった。

「決まったね。じゃあ急いで支度しよ」
 なんだか、自分も嬉しくて、シルは満面の笑顔だ。
 大騒ぎの大急ぎで支度を整えて部屋を出ると、ミカエルがいた。
「雪菜ちゃん! さあ、私の翼であなたを彼の元へ連れて行ってあげる! 1年間いい子にしていた男に、貴女というプレゼントを届けなきゃね。安心なさいな……貴女には、白き翼の加護g」
「あ、大丈夫です。電車で間に合いますから」
「え」
「皆さん、本当にありがとうございました……行ってきます」
 皆にむかって深々とお辞儀をすると、雪菜は、急ぎ駅へと向かった。

「あ、そう言えばジョーイさんは?」
 きょろきょろと探すシル。
「忖度して帰ったわよ~」
 しょんぼり答えるミカエルであった。
「ご挨拶くらいはしたかったですわ。今度会ったら……多分、来年ですわね」
「だね」
 ミルフィに答えて、陽葉は、自分の吐く息の白さに初めて気付いた。

 今宵は、クリスマス・イブ。
 誰もが、穏やかで楽しい時を過ごせますように。

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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