聖夜略奪~リア充サクリファイス作戦

作者:雷紋寺音弥

●標的はリア充ガール!
 クリスマスイブ。
 その日、守谷・美樹(もりや・みき)は今日の予定を考えながら、朝から湯船の中で色々と想いを馳せていた。
 仕事で忙しかった日々も終わり、今日は久しぶりに恋人とデートが楽しめる。昼食を楽しんだ後は映画を見て、ディナーを堪能し、イルミネーションを眺めながら公園を散歩する。その後のことを考えると……やはり、今の内に身体の隅々まで磨いておかなければ。
「身体とか髪の毛が臭かったら、それだけで幻滅されちゃうからね。それに、無駄毛の処理もしておかないと、いざという時……」
 そこまで言って、彼女が湯船から出ようとした瞬間、突如として浴室内の空間が歪み、その奥から4体の機械天使が出現した。
「……っ! きゃぁぁぁっ! 変態ぃぃぃっ!!」
 両手で胸を隠し叫ぶ美樹。まあ、いきなり入浴中に来訪者が現れれば、その反応は自然だが、しかし相手は普通の人間ではなかった。
「誰だか知らないけど、さっさと出て行って……って、えぇっ!?」
 熱湯シャワーをぶっかけるよりも早く、機械天使の内の1体が美樹のことを捕らえて飲み込んだ。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ」
「さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるだろう」
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ」
 完全に取り込まれた美樹の姿を見て、残る機械天使達が抑揚のない声で告げる。ダモクレス達の潜伏略奪部隊による、希望を絶望に変える儀式が開始された瞬間だった。

●クリスマス爆破作戦!?
「招集に応じてくれ、感謝する。お前達は、昨年のクリスマスに起きたゴッドサンタの事件を覚えているか?」
 この事件を解決したことで、ケルベロス達はグラディウスを手に入れ、ミッション地域の破壊作戦を行えるようになった。それにより、昨年から今年にかけての1年だけでも、多くのミッション地域を開放できたと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。
「この状況は、俺達にとっても望ましいことだが……デウスエクスの連中にとっては、当然のことながら見過ごせない事態ということなんだろう。度重なるミッション地域の開放に危機感を覚えたダモクレスの潜伏略奪部隊……『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用して、お前達が持つグラディウスを封じようと作戦を仕掛けてきた」
 このダモクレス達は、クリスマスデートを楽しみにする女性の前に魔空回廊を使って出現すると、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に、女性を閉じ込める。そして、その女性の命と引き換えに、グラディウスを封じ込める儀式を開始する。
「『輝きの卵』自体には戦闘力が無いため、周囲には3体のダモクレスが護衛について、襲撃に備えているようだな。護衛についているのは、『輝きの城』、『輝きの爪』、『輝きの音』の3体だ。それぞれ、ディフェンダー、ジャマー、そしてメディックのポジションに着いている。瞬間火力こそ高くはないが、多彩な搦め手と持久力の高さには、くれぐれも注意を払うようにしてくれ」
 クロートの話では、『輝きの城』は砲塔や剛腕、『輝きの爪』は相手をズタズタに引き裂く鋭い爪、『輝きの音』はその名の通り様々な音を武器に用いるらしい。それぞれ、アームドフォートやバトルガントレット、チェーンソー剣、そしてバイオレンスギターに相当するグラビティを使用して来る。
「女性が捕らわれた状態で『輝きの卵』を倒してしまえば、中にいる女性も死んでしまう。だが、儀式が終了すれば『輝きの卵』は自爆して、そのエネルギーの全てを使ってグラディウスを封印しようとするぜ」
 勿論、その場合も捕らわれた女性は死んでしまう。彼女を救いだすためには、儀式を成功させられる前に、護衛の3体を撃破するしか方法はない。
「無事に救出できたところで、被害者の受けた精神的ダメージは相当のものだ。できることなら、お前達には紳士的な対応をお願いしたいところだな」
 恋人達のクリスマスに、無粋な涙は必要ない。人々の幸せを破壊する機械の天使達に、地獄の番犬による制裁を。
 そう結んで、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
白波瀬・雅(サンライザー・e02440)
桂木・京(ダモクレスハンター・e03102)
古海・公子(化学の高校教師・e03253)
鷹谷・徹彰(鬼哭・e07870)
土岐・緋雨(地球人のウィッチドクター・e20419)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
ヴィンセント・アーチボルト(ウルトラビートダウン・e38384)

■リプレイ

●希望の欠片
 聖夜を目前にしたダモクレスの襲撃。無粋な機械天使達の企みを打ち砕くべく、ケルベロス達は狙われた女性、守谷・美樹の家へと急行した。
「人質取って人を襲う、ですって? 学年末で忙しいところにもって……もう!」
 最近、生徒達から冷やかされた言葉を思い出し、古海・公子(化学の高校教師・e03253)は文字通り全力で走っていた。
 師走は先生が走る季節。だが、それでも学校の仕事以外で、ここまで急がされることになろうとは。
「急ごうか、奴らの儀式とやらが終わる前に」
 公子の気持ちを汲んだのか、鷹谷・徹彰(鬼哭・e07870)もまた歩を進める速度を増した。
「こんな時期までわざわざ攻めてこなくても……。ともかく、さっさと片付けて帰るよ」
 美樹の家に到着するなり、躊躇いもなく中へと踏み込むアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)。果たして、そこに待っていたのは、巨大な卵のような物体を守る3体の機械天使達だった。
「機械天使の軍勢……この何処かに奴もいるのか」
 自分の腕と、そして姉をも奪ったダモクレスのことを思い出し、桂木・京(ダモクレスハンター・e03102)は疼く右腕を抑え込んだ。
 あれは自分の姉を奪った相手ではない。そう、頭では解ってはいるが、右腕を形作る地獄に刻まれた記憶が、耐え難い破壊の衝動と化して襲ってくる。
「よう、天使様にしちゃあ、随分無粋な真似するじゃネェか……え?」
 ヴィンセント・アーチボルト(ウルトラビートダウン・e38384)が機械天使達に問うが、彼らは答えを返さない。代わりに返ってきたのは片言の機械音声による、こちらへの敵意を現す言葉のみ。
「侵入者、確認……。ケルベロスと判定」
「ワレラのシメイを邪魔するモノは、全て排除スル」
 それだけ言って、こちらへ攻撃を仕掛けてくる機械天使達。問答無用というやつだ。元より、話す舌など持たない相手と解っていたが、こうも意思疎通ができないというのは、底知れぬ空恐ろしさをも感じさせる。
「目標捕捉……全砲門、斉射!」
 輝きの城が両肩の砲塔から無数のレーザーを放ち、それに合わせて輝きの爪が飛び込んでくる。だが、続けて繰り出された鋭い爪の一撃は、土岐・緋雨(地球人のウィッチドクター・e20419)シャーマンズゴーストであるアトラによって止められた。
「上出来です、アトラ。後はこちらに任せていただきましょう。壱符……乾坤如雨露」
 反撃で繰り出されたアトラの爪がお返しとばかりに機械天使の身体へ食い込んだところへ、緋雨が壱符を上空に投げ上げた。
 刹那、降り注ぐは銀色に輝くグラビティ・チェインの驟雨。それは味方の傷を癒す滴となって、砲撃により傷ついた者達の身体へと、奪われた力を取り戻させる。
「行くぜ、ラジュの旦那。遅れんなよ」
「無論だ! 直接こちらに向かわずに、無力な民間人を狙うとは断じて捨て置けん! クリスマスの想い出を、悲しい物になどさせはしないぞ!」
 ヴィンセントの砲撃に合わせ、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)が拳を掌に打ち付け叫んだ。砲撃に怯んだ後方の機械天使目掛け、追い撃ちとばかりに叩き込まれる炎弾。それは城や爪の横を掠め、最奥に立つ輝きの音へと炸裂した……かに思われた。
「見たか! これがヴィンラジュアタックだ! ……なんてな」
「いや……気を抜くのは、まだ早そうだぜ」
 ドヤ顔で決めるラジュラムを、ヴィンセントが後ろから制した。なるほど、見れば咄嗟に動いた輝きの城が、輝きの音を守るべく、その身を壁にして炎の弾を受け止めていた。
「対象の戦闘レベルを確認……反撃、開始……」
 後方から放たれる、凄まじい音量の毒音波。思わず両手で耳を塞ぎたくなる程の怪音だが、果たして耳栓程度で効果があるのかどうか。
「あの音は、こっちで対処するわ。他の人達は、少しでも多く攻撃を!」
「忝い! ならば、後ろは任せたぞ!」
 雷の障壁を張って音を和らげんとする公子に徹彰が頷き、輝きの音目掛けて氷結の螺旋を発射する。敵の護りは確かに堅いが、それならば、守りを砕くのにも適した技を使えばよい。
「正直、射撃はあまり好きじゃないんだけど……」
 狙い澄ませない分は、手数で押す。ふと、ガトリングガンを連射する白波瀬・雅(サンライザー・e02440)が横を向けば、そこにはライフルを構えたまま固まった京の姿が。
「落ち着け……あれは……姉さんじゃないんだ」
 忘れたくても忘れられない記憶。それが彼女の判断を鈍らせ、余計な焦りを生んで行く。できることなら、直ぐにでもあの卵を破壊して、中に捕らわれた者を救い出したい。だが、それをやってしまったが最後、舞ってるのは最悪の結末。
「迷ってる暇はないよ。まずは、取り巻きを倒すことが先決だよね?」
 ボクスドラゴンのコキュートスが吐き出すブレスに合わせ、アビスが追尾する矢を射りながら京へと問い掛ける。その言葉に、いよいよ彼女も覚悟を決めた。
「倒すべきは、周囲の3体。……覚悟しろ、機械天使共!」
 逸る気持ちを強引に抑え込み、京はライフルから極太の冷凍光線を発射する。放たれた冷気の奔流は家屋の壁さえも凍結させ、機械の天使を絶対零度の世界へと叩き込んだ。

●絶望を守護する者
 クリスマスを楽しみにする人々を捕らえ、その希望を絶望へ変えんとする機械天使達。その中核である輝きの卵を守るだけあってか、彼らのフォーメーションは守りに重点を置いた厄介なもの。
「まったくもう! 倒す順番を間違えると、自爆、ですって!? 意地の悪いこと、この上ないですね」
 悪態を吐きながらも、公子は仲間達へと回復のための電撃を飛ばす。正直、敵の攻撃はそこまで苛烈なわけではないのだが、問題なのは毒や炎といった様々な効果だ。
「ヴォォォォ……」
 輝きの城が唸りを上げながら砲弾を発射し、辺りが一瞬にして炎に包まれた。放っておけば、今に全身を蝕まれ、その勢いに押されて体力を奪われてしまうことだろう。
「不足はこちらで補います。臆さずに攻めましょう」
 溜めていた気を仲間達へ分け与え、緋雨が後ろから仲間達を鼓舞する。攻撃はアトラに任せ、少しでも味方の戦列を維持できるようにと。
「貴様らの下らん遊戯に他者を巻き込むな、鉄屑にしてやるから其処になおれ」
 徹彰が輝きの城に斬り掛かる中、京は執拗に輝きの音へと銃弾を叩き込む。同じく、アビスもまた爆破スイッチに指を掛け、コキュートスのブレスに合わせて躊躇うことなくそれを押した。
「狭い室内だ、この銃弾の雨は躱せまい」
「お前たちの思い通りにはさせないよ。ここで全員消えてもらうから。……覚悟しなよ」
 凄まじい早撃ちから繰り出される銃弾の雨に続き、氷のブレスと巨大な爆発が輝きの音へと襲い掛かった。それでも、強引に輝きの城が庇いに来たことで事なきを得たようだが……ケルベロス達の本命は、まだ繰り出されてもいなかった。
「今度こそ決めるぜ、ラジュの旦那。心の底から、痺れさせてやるぜっ!」
「無論だ! 派手にいくぞ!」
 激しくギターを掻き鳴らすヴィンセントに続き、ラジュラムもまた鞘の中に圧縮した地獄の炎を抜刀の要領で解き放つ。熱狂の渦の中、敵を包む薄紅色の旋風。それはさながら、堕ちたる天使達を奈落へと誘う道標か。
「残念だったな。アンタの音じゃ、俺の心は揺らぎもしなかったぜ」
「ふっ……閻魔様によろしくな」
 灼熱の炎を受けて溶けるように倒れて行く輝きの音へ、ヴィンセントとラジュラムは続け様に告げた。その隙を狙って輝きの爪が仕掛けようとするが、そこへ飛び出して来たのは雅だった。
「甘いね! 私の本領は、ここからだよ!」
 敵の繰り出す爪の一撃に対し、地獄の業火を纏ったブーツで蹴りを繰り出し拮抗する。ブレイズキャリバーの力を以てすれば、あらゆる武器に炎を纏わせて用いることも容易だ。
 敵の癒し手は倒れ、残すは城と爪の2体のみ。戦いは、これから先が本番だ。気合を入れ直しつつも、ケルベロス達は残る2体の撃破に向けて、全力で攻撃を叩き込んで行った。

●ネバー・ギブアップ!
 回復を担う輝きの音が倒れてしまうと、そこから先は早かった。
「いい加減に、そこを退いてもらおうか!」
「無骨な城が、耳障りな音立ててんじゃねぇよ……スクラップにしてやるぜ!」
 研ぎ澄まされたラジュラムの一撃と、流星の如きヴィンセントの蹴りを受け、輝きの城が大きく後退した。それでも倒されずに踏み止まり、強引に腕を振り上げると、剛腕の一撃による振動波を繰り出して来るが。
「……っ! まだだ! この程度……」
 衝撃を真っ向から受け止め、雅は長剣を掲げて飛び出した。直撃を食らった余波で狙いを定めることさえ難しかったが、それでも何故か負ける気はしなかった。
「人間は、何度負けても諦めず立ち上がって、ようやく希望を掴んだんだ! だから……」
 長きに渡る、デウスエクス達による略奪と搾取の歴史。明日の希望さえ見えなかった暗黒の時代を乗り越えて、人々は異形の者達に抗う術を得た。
「だから……敗北を認めずに誤魔化そうとしている奴らに、絶対に負けてたまるかぁぁぁ!!」
 ゴッドサンタが倒されてから1年。その結果を認めず、あまつさえグラディウスの力を封じようと影で立ち回る者達に、真っ向勝負で負けるつもりなどない。
「この剣撃で積尸気へ旅立て! アルタルフ・アクベンス!」
 蟹座を形作る星々を繋ぐような軌跡を描き、斜めに斬り下ろされる凄まじい斬撃。その一撃は魂すら霧散させ、黄泉平坂へと導くが如く。
「損傷……拡大……。任務続行……不可……能……」
 両断された身体が斜めにずれて落ちると同時に、木っ端微塵に吹っ飛ぶ輝きの城。これで残すは、輝きの爪だけだ。撹乱戦法が得意な相手ではあるが、しかし癒し手も盾も失った今、目の前の相手は丸裸同然。
「カァァァァッ!!」
 奇声を発し襲い掛かる輝きの爪だったが、その両爪から繰り出される炎の斬撃を、アビスは正面から受け止めた。
「……無駄だよ」
 幾重にも重ねた氷の盾。それを宙に展開し、自らの身体を守りながら回復させる。あらゆる物体を両断する炎の爪でさえも、その障壁の前には力を削がれ。
「今が好機です。……攻めましょう」
 足りない部分をフォローしつつ、緋雨が告げる。その言葉に、サーヴァント達が一斉に攻撃を仕掛けたのが終焉の序曲。
「この一太刀、貴様は凌ぐ事が出来るか?」
 擦れ違い様に、徹彰が敵の腕を肩から容赦なく斬り落とす。そちらが万物を穿つ爪なら、こちらは全てを断ち切る刃だ。必殺の一撃に、派手さは無用。永き鍛錬の果てに研ぎ澄まされた太刀筋に、断てぬ物など存在せず。
「狭い室内だ、この銃弾の雨は躱せまい」
「それなら、これもオマケで持って行くといいわ」
 止めとばかりにリボルバー銃を構えた京に、公子が活力の電撃を飛ばす。迸る雷光は敵を穿つ力となって京の腕から銃身へ伝わり、銃口が青白く輝いた。
「堕ちろ! 貴様らには地獄がお似合いだ!」
 瞬間、放たれるのは縦横無尽に跳ね回る弾丸の檻。前後左右、あらゆる角度からの全方位射撃。跳弾を巧みに利用した波状攻撃の前には、撹乱以外に何の力も持たない輝きの爪など無力だった。
「……任務……失敗……」
 胸元を貫かれたところで、膝を折って倒れる輝きの爪。クリスマスを楽しむ人々の希望を絶望に変えるというダモクレスの作戦は、これにて一先ずの終焉を見た。

●楽しき聖夜を
 戦いの終わった美樹の家。戦闘により大破した彼女の家をヒールしたところで、ケルベロス達は改めて、輝きの卵より救出された美樹に手を差し伸べた。
「大変な目に遭いましたね。でも、もう大丈夫ですよ」
 美樹の身体を毛布で覆って言葉を掛ける緋雨だったが、対する美樹は、未だショックから立ち直れないのだろうか。
「うぅ……も、もうおしまいよぉ……。こんな恰好で捕まったなんて知られたら、もうお嫁に行けないじゃない……」
 どうやら、本人は身体を穢されたと思っているらしく、なんとも自暴自棄な考えに陥っていた。
「とりあえず、タオルと着替えは持ってきたけど……」
 無事だった部屋から代えの衣服を運んで来た雅だったが、それでも美樹は未だ半泣きのまま動かない。仕方なく、男性陣に一時撤退してもらったところで、改めて彼女を立たせてアビスと京が告げた。
「……今ならまだ間に合うよ、恋人とのデート」
「直前でのトラブルだったが、折角のクリスマスデートだ。怖い目にもあったろうが、その分、彼氏に甘えてくるといい」
 待ち合わせの時間までには、まだ少しだけ余裕があるはず。それでも踏ん切りがつかないなら、後押しもしてやるとヴィンセントはギターの弦に指を掛け。
「これからデートなんだろ? 俯いてちゃイルミネーションも、彼氏さんの顔も拝めネェぜ?」
 景気付けが必要なら、派手な曲で背中を押してやる。その上で、もっと演出が欲しければ、今夜は彼氏と一緒に雰囲気の良いレストランで食事でもしたらどうかとラジュラムが告げ。
「なぁに、ここに来る前に、ちょっといい展望レストランの予約を確保しておいたのだ。嫌でなければ、彼氏と満喫してきて貰いたいものだが……どうかな?」
 無論、御代は全てこちらで持つので、好きなだけ贅沢をしてくれて構わない。そこまで言われたところで、ようやく美樹も少しは気を取り直したのだろうか。
「あ、ありがとうございます! そうですよね……折角の、クリスマスだもの。酷い目に遭った分、ちゃんと彼氏に上書きしてもらうことにします♪」
 どうやら、前向きに立ち直ってくれたようで、なによりである。
「大事無く敵を倒したのであればそれで充分……。年寄りは去るのみ」
 他の面々が美樹を見送る中、それだけ言って、徹彰は一足先に現場を後にする。公子も公子で、美樹の姿が見えなくなるや否や、溜まってしまった自分の仕事について思い出していた。
「これ終わったら、通信簿を作らなくちゃ……」
 クリスマスシーズンに、生徒達にとっては貰っても嬉しくないかもしれないプレゼントを作るとは皮肉なものだ。そんなことを考えつつ、公子は苦笑して空を仰いだ。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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