「ふんふんふーんふんふんふーん。ふふふのふ~♪」
女が姿見に顔を映して化粧をしている。
鼻歌を唄いながら楽しそうにしているところを見ると、約束でもあったのだろう。
だが、悲しいことに幸せいっぱいなのはそこまでだった。
「え!? で、デウスエクス!?」
突如として部屋の空間が変転し、魔空回廊が開かれたかと思うと何者かが現れる。
『素材を確保』
「い、いやー! せっかく幸せをつかんだのに、こんな死に方はいやー!」
四体の機械天使とでもいうべき連中が現れ、その内の一体の中に女を掴んで放りこむ。
女は必死で逃れようとするが、脱出できるはずもない。
『ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ』
『さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるだろう』
『この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ』
残り三体の機械天使は、女が閉じ込められた個体の周りを囲むように取り巻いて行く。
逃げ出そうと暴れている女は、そのうちに諦めたのか力を抜かれ始めたのか、それっきり動か無くなった。
●
「昨年のゴッドサンタの事件は覚えているだろうか」
ザイフリート王子が周囲を見渡しながら説明を始めた。
クリスマスに発生したゴッドサンタ事件を解決した事で、我々はグラディウスを得て、ミッション破壊作戦を行う事ができ、去年一年だけでも多くのミッション地域を開放する事が出来た。そのキッカケとなった事件を口にして居るのだろう。
「この状況は、我々にとっては非常に良い事だが、当然ながらデウスエクスにとっては許しがたい物なのだろう。地球に潜伏していたダモクレス、潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用して、ケルベロスが持つグラディウスを封じようと作戦を仕掛けてきたのだ」
元デウスエクスであるザイフリート王子ならば想像するのも容易い様だ。
予知や集めた情報を元に予想を組み立て、敵の作戦を予想する。
「ダモクレスの連中は、クリスマスデートとかいうものを楽しみにする女性の前に魔空回廊を使って出現すると、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に、女性を閉じ込め、グラディウスを封じ込める儀式を開始するようだな」
その『輝きの卵』とやら自体には戦闘力が無い為、周囲には3体の護衛ダモクレスが護衛につき、ケルベロスからの襲撃に備えているらしい。
護衛ダモクレスさえ倒す事ができれば、女性を救出して『輝きの卵』を撃破する事が可能なので、まずは、護衛を撃破する事が重要になるだろう。
「3体の敵は壁役が2体、治療師役が1体。協力し合いながら戦闘する様だ。ヒールを使って互いにデータとエネルギーを交換しながら、間合いを測って攻撃して来る」
その強さは直接戦闘よりも、長期戦に向いた防衛型らしい。
なんとも護衛役に相応しい戦法と言えるだろう。
「攻撃手法は盾によるシールドバッシュとレーザー砲は共通。その命中力や威力を補ったり、パーツを融通し合うヒールが特徴的なようだな」
基本的に同じ個体の発展型らしく、用意して居るヒールの方法が若干違うとか。
「儀式が終了すると、輝きの卵は自爆して、そのエネルギーの全てをグラディウスの封印に使うようだ。当然ながら死んでしまうだろうな」
王子はそこまで言った後で、思い出しながら付け加える。
「無事に救出出来てもそのままだとデートとやらに遅れてしまうだろう。可能な者は自分が街に繰り出すついでに移動を手伝ってやるのも良いかもしれんな」
王子も随分と地球の文化に慣れたようでその後の女性の困惑を想像しながらフォローの手はずを伝えるのであった。
参加者 | |
---|---|
篁・悠(暁光の騎士・e00141) |
寺本・蓮(幻装士・e00154) |
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
月隠・三日月(紅染・e03347) |
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606) |
イ・ド(リヴォルター・e33381) |
時雨・バルバトス(居場所を求める戦鬼・e33394) |
●
「バイクまで持って来たのか?」
「ん。せっかくのデートに遅れちゃったら可哀想だもんね」
メガホンを構えた月隠・三日月(紅染・e03347)の言葉に、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)はバイクを駐車しながら笑顔で答えた。
その荷台から同じ様にメガホンを取り出しながら肩をすくめてみせる。
「どうせなら最後まで見届けたいしね。それに依頼に私物は持ち込めないけど、レンタルなら場所次第で大丈夫だし」
やるなら徹底的に?
アンノがそう答えると念の為に仲間達に確認を取る。
「一応は可能な範囲で大家へ外に出ないよう伝えてくれと頼んだ。……周知されてるといいがな」
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)達も配置に付き、拡声器を手に声を掛ける準備を始めた。
連絡や警告を攻撃グラビティで行っても通用する確率は、良くて半々と言ったところだ。
だがメガホンなどを使えばかなり可能性は上がるし、時間さえあれば連絡網も機能するだろう(不在者は仕方無いが)。
「あはっ、じゃあ始めるよ。ボクたちはケルベロスでーす! 危ないので戦いが終わるまで建物から出ないでくださーい!」
アンノは陽気な声で喋り始めた。
明快で簡潔、警告にしては明るすぎるがケルベロスが出陣する理由は一つしかない。
パニックを起こさない為に明るく伝えたのだという見方もできるだろう。
他のメンバーも同様に周囲へ声を掛けながら、マンションを囲む様に距離を詰め始めた。
タイミングを前後して部屋からダモクレスが出現し、こちらの接近を阻んだ。
「こちとら結婚記念日の家族団らんだってのに、厄介な事件起こしやがって」
声を荒げながら寺本・蓮(幻装士・e00154)は召喚を開始。
ゆらりと出現するドラゴン制御をした。
「しかも、これからデートに向かおうっていう女性を狙うとはいい度胸だ」
「折角のデートを台無しにされちゃ、たまったものじゃないよな。素敵なクリスマスを取り戻さなきゃいけないんだぜ!」
蓮の言葉に、デートを中断しかねない瀬戸際のハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)は警告の声もさることながら、それ以上の勢いで全力で同意した。
そして景気付けの祝砲がわりに、周囲を爆破して煙幕を形造る。
「俺もその人も、この後予定があるから速攻でカタをつける!」
蓮が召喚したドラゴンが煙幕を引き裂く様に火炎のブレスを放射。
周囲を焙るほどの熱波がダモクレスに押し寄せる!
入れ違いにレーザーが交差するのだが、蓮は慌てずにバックステップし、代わりに誰かが飛び込んで来た。
『ケルベロス反応を検知。破壊。破壊。破壊』
「おっとやらせるかっての! チビ助、行くぞ!」
ハインツは片手をあげてレーザーを防ぎつつ、オルトロスのチビ助を突撃させる。
合わせて他の仲間達も行動を開始し、戦いの火蓋は切って落とされた。
●
「よく言うでしょ? 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって。だから馬の代わりにボクたちがキミたちを蹴飛ばしにきたよ」
「リア充パワーとやらにそれほど力があるのかわからんが……見過ごすわけにはいかんな」
アンノは仲間達の治療を兼ねて鎖の結界で敵の攻撃を押し返しに掛り、晟は合わせて流体金属を散布。
「たく、グラディウスの弱体ねぇ。あれの機構とかさっぱり分からねぇが、困るのは確かだ」
「封じるために民間人を犠牲にしようとするとは、つくづく卑劣な連中だ」
時雨・バルバトス(居場所を求める戦鬼・e33394)の気だるげな声は、怒りと戦意に引っ張られて徐々にボルテージが高まっていく。
対して三日月は務めて平静に振る舞い、被害者を閉じ込めた奴を間合いを計りながら鉄槌を振るう。
激振が大地を走り、バルバドスはそれを露払いに飛び込んで行った。
「さっさとスクラップにするか。とっとと消えろ……俺は短気なんだよ!」
バルバトスは斧を振りかぶり体重を乗せて叩きつける。
それは踏み出した足でアスファルトが割れるほどであり、いかに猛烈であったかが窺えた。
「無粋な機械だな。叩いて砕かねばなるまい」
「聖夜の情緒など己も知らん」
デート前の篁・悠(暁光の騎士・e00141)は呆れた顔で、新調したコートを戦闘用にフルモデルチェンジした。
戦衣に身を包んで走りだす彼女に先駆けて、イ・ド(リヴォルター・e33381)は禍々しい鉄槌を構える。
「だがそこでデウスエクスが邪智を働かせている。救出、戦闘に赴く上で、合理的に過ぎる理由だ」
イ・ドが降り降ろす直前で、急激な加速を掛けてショートダッシュ!
強烈な一撃を放つと同時に牽制の役目も担う。
「愛を引き裂く機械の悪魔よ。その総ては無意味と知れ。道を失いし願いを、天は決して叶えはしない。……人それを『失道寡助』という!」
悠が剣を掲げて『穿て!』と命じると、閃光が刃より迸る。
更に『貫け!』と重ねて命じることで、大気が振動しヴウン! 雷光が周囲に拡がって行く。
「ピスケスよ輝け! そして凍てつく氷の棺となれ!」
光は空に魚座を描き、剣を振るうと光芒が戦場を染め上げたのである。
凍れる吐息が白く白く、地上に降りたオーロラと化す。
『オノレ! 反撃。反撃』
「そらっ、御代りだ!」
今度は晟が飛び出し、殴りつけて来る盾打撃を防ぎ止めた。
そしてお返しとばかりに至近距離から振動波を浴びせかける。
「……聖夜には贈り物が要るのだろう? キサマらにも、くれてやるとも」
イ・ドはバールを投げつけようとしたが、相手の動きを見て作戦を変更した。
『演算開始。演算開始』
「気が変わった。『終焉』をくれてやる」
バールを所持したまま空振りし、その反動で体を前に倒して一回転。
足を先頭のダモクレスに引っかけた後、足四の字で頭を固定しひたすら殴り続けた。
「行け!」
「「おおっ!」」
ハインツが再び煙幕で仲間の動きを隠し、そこを仲間達が駆け抜ける。
「挟み討ちだ!」
「了解だよ!」
バルバトスは人の身長ほどもありそうな斧を素早く振り抜く。
蓮は同時に反対側から小刻みに体を揺らして迫り、小さなナイフを腹に当てて一気に引き裂いて行った。
彼らは仲間が放った冷気を巻き込んで、旋風となって駆け抜けたのである。
●
「やはりダモクレスにはスピードか。右から行く」
「なら僕は左だね」
相手の動きを見て取った三日月は、悠に声を掛けてから突進。
僅かに遅れて悠も雷を纏って飛び出した。
互いにステップを掛けジグザグに入れ替わりながら、最後は大きく回り込んで左右を駆け抜け切り裂いて行く。
装甲が剥げかかった所で、再び敵のデータがリンクされた。
『現段階の情報を共有。戦力比を再計算』
「ここで仕切り直しはやだなー。でも回復を入れるってことは、手数が減るって事だもんね。まあいいか」
回復もさることながら、せっかく仕掛けた負荷の一部が解除されてしまった。
しかしアンノは焦ることなく、仲間を庇った回数もあり最も深い傷を負ったハインツを霧で優しく包んで癒す。
確かに仕切り直されたかに見えるが、傷も負荷も全て戻った訳でもなく、こちらはエンチャントで準備が整っていることには変わりないからである。
そして、彼の予測は間違っては居なかった。
数手の手番が廻り、同じだけの時間が立った後。一体目のダモクレスが崩れ落ちる。
『機能停止。きのう……ていし』
キューンと最後に音を立て、ダモクレスが動きを止める。
それに触発されたのか、チャンスと見たケルベロスは傷を押して立ち向かった。
「今が好機だ! 回復は任せる!」
仲間がカバーしてくれてはいたが、必ず成功する訳でもない。
攻撃を受けた攻撃役の内、蓮は真っ先に飛び出した。
傷など構っていられないとばかりに、再び竜炎を吹かせて焼き払う。
ただし、今度は敵後方だ。
「回復は私がやろう。援護兼ねてな」
「了解した。これでも喰らえ」
晟が流体金属を使って傷を塞ぐと同時に、ガイドを追加した。
その導きに従い、イ・ドは今度こそバールを投げつける。
ここ数回は相手の結界を割りに掛ることが多かったが、ここに来てようやく攻撃に専念できそうだ。
こうして勝利の天秤は徐々に、ケルベロスの側に傾いて行った。
●
「あはっ。そろそろ逃がさない……じゃなくて、自暴自棄になって自爆とかを考慮すべきかなー」
「二体目がもう直ぐだからな。……少しずつ近づいて行くか」
アンノが御業を変形させて三日月のブーツに宿らせると、まるで翼がはためく様な刃と化した。
自分には似合わないなと思いつつ、三日月は体を螺子って空中回し蹴りを放ち、風を練り上げて真空波を放った。
グラ付いた敵に対し、ケルベロスのカップルが襲い掛って行く。
「悠、チビ助。疾風怒涛の連続攻撃を掛けるぜ! な付けてシュツルムなんとか!」
「おっけー、ハインツさん! そしてジャスティーン、GO!!」
ハインツが使うのはいつもの煙幕だが、そこからの組み立てが変更されていた。
ボールを投げるかのように悠が毛玉を放り投げ、途中からきゅきゅーと突撃開始。
そしてオルトロスが炎を浴びせかけてダモクレスを燃やし始めた。
「トドメ、もらった!」
「任せた。そして、ここでオレも出るぞ!」
バルバトスが斧を振り降ろし、大地を割りながら衝撃波を放つ。
一条の亀裂が通りぬけた後、ダモクレスが沈黙。
ここからハインツは初めて走り出し、残った一体に回し蹴りを放った。
「ぬおおお! 私ごとやれ!」
「そうもいかんさ。遠慮はしないがね」
晟が稲妻の如き踏み込みで突進し、抱きつくようにタックル。
そこへイ・ドが押し寄せて、敵が晟を跳ねのけた所へハンマーを振り降ろした。
「鮮やかなままに朽ち果てよ! 絢爛たる繚乱の薔薇―――ッ!!!」
悠が深紅の薔薇を散らした。それはグラビティで造り出した幻であったのか、花吹雪と化して最後のダモクレスを襲う。
「予知じゃ自爆するって無かったよな?」
「大丈夫だとは思うけど、自爆する暇なんて与えないよ。いっけ!」
これまで前衛には延々と援護の術が掛っている。
バルバトスと蓮は高速を越えた神足で切り込み、今回の戦いでの記録速度を叩き出したのである。
「成敗!」
「勝利の余韻は後あと。ちゃっちゃと送り届けようかな」
悠が勝利宣言をすると、アンノは確認するよりも先に周囲のヒール。
此処からは時間の勝負だ。
何せ『危ないから部屋の中に』と留めておいた、周囲の人間が出て来てしまう。
そう、みんなで大声で戦いを告知して居たのは、道を開けておく意味もあったのだ。
「直線ではそこのバイクにトナカイは任せた。私……いや、わしはカーブを受け持とうかの」
「手分けするのだな? ならこちらは段差を受け持とう」
戦闘型ではないダモクレスを破壊した後、晟と三日月は先行し道を真っすぐ進めない場所での運搬を受け持つことにした。
「交通整理に行ってるね!」
「協力しよう。どうせなら後味が良い方が合理的だろう。任務完了……はその後だな」
悠とイ・ドはそれぞれの能力を活かし、通信や交通整理をして渋滞が起きない様に調整。
「さて、身支度はOK? ああ、仕上げだけなら問題無い。お兄さんの仲間が最速かつ、多分安全に送り届けてくれるから安心して? 携帯とかハンカチもあるね?」
「怖い思いをさせちまったな……目的地まで責任持って送り届けるからな!」
蓮とハインツが被害者の女性に駆け寄った。
そして混乱する被害者に状況を確認すると、早速レッツゴーである。
「……もう、問題ないのか。じゃあ俺はここまでで」
「だよねー!? それじゃあ、お兄さんはプレゼントの回収しつつ帰るからあとヨロシク!」
「お疲れ様。気をつけてねー」
すっかり元に戻ったバルバドスが気だるげに帰途につくと、蓮も大急ぎで家路についた。アンノは彼らを送りだし、念の為に周囲をもう一度確認。
「ここまでくれば、俺たちで十分だな。リレー形式でいくぞ」
「怖かったら言うと良い。二人掛りで支えるから」
「そういうこと。急ぎだから色々勘弁してね」
混乱が収まりかけている身としては、コクコクと頷くばかりだ。
イ・ドと三日月が段差を腕神輿で運び、あるいは空を飛べるハインツ達が翼を広げて輸送。超特急の速度で送り届け、なんとか現場近くまで送り届けるのであった。
「あ、あなたは?」
「メリー、クリスマス! シークレットサンタから、レディのお届けに窺ったぞい」
最後の仕上げの化粧が終わるまで、晟が応対して時間稼ぎ。
パパっと調整して出来た彼女は、去り際にこうつげた。
「ケルベロスのみなさん、ありがとうございます!」
「じゃあ、僕達も行こうか」
「オレたちのクリスマスはこれからだ! ってな!」
ようやく落ち付けたのか手を振りながら御礼を言う彼女に、悠とハインツは笑って手をつないで、家では無く街へと歩き出した。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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