聖夜略奪~ネットをこえた初デート

作者:ハッピーエンド

「やっと……、やっと会えるんだ♪」
 暖かな部屋に響く、可愛らしい声。
 嬉々として鼻歌を奏でる、目をキラキラと輝かせた女子。
 彼女はブサイクな猫の人形をムギュッと胸に抱き、早口に言葉を紡ぐ。
「あぁ……! 初デート! オシャレしないと! でも、どうしよう? どの服を着ていけば喜んでくれるかな?」
 頬は薄赤く染まり、口からは白い吐息が漏れている。
 彼との付き合いはかれこれ3年。しかし、現実で会うのは初めてであった。
 トゥンク! 彼女は胸をトキメカセ、身支度を開始した。
「楽しみだなぁ♪」
 ――彼とどこに行こう。何をして楽しもう。そして、私の気持ちをどうやって伝えよう。
 たくさんの洋服を胸に抱き、彼女は幸せそうに目をつむる。
 しかし、幸せな時間は不意に終わりをむかえた。
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ」
 突如魔空回廊が開き、輝く卵が3本の槍を持ったダモクレスをともない姿を現した。そして、彼女が悲鳴をあげる間もなく、その体を卵形のダモクレスに投げ込んでしまったのだった。

●敵は3本槍にあり
 アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は、集まったケルベロス達に力強い瞳で語り始めた。
「クリスマスデートを楽しみにしている女性が、グラディウス封印儀式の生贄としてダモクレスに拘束される事件がおこりました。このまま儀式を行われてしまうと女性の命は失われグラディウスも封じられてしまいます。そうなる前に被害者の女性を救い出し、グラディウスの封印を防いでいただきたいのです」
 アモーレは心配そうにお茶をいれるハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)に優しく頷き話を続ける。
「今回の事件は、昨年のゴッドサンタ事件で我々がグラディウスを得た事に端を発しています。ケルベロスの皆様が数多くのミッション地域を開放したことにダモクレスは焦り、潜伏略奪部隊『輝ける誓約』なる特別なダモクレス『輝きの卵』に女性を閉じこめ、グラディウスを封じる儀式をしようとしたのです。解決方法はダモクレスたちの撃破。『輝きの卵』には戦闘力がないため3体の槍型ダモクレスが護衛についています。この護衛たちを倒せばとらわれた女性を救出することが可能になるでしょう。ただし、『輝きの卵』に女性が捕らわれているうちに倒してしまいますと、中にいる女性も死んでしまいますので、その点はご注意ください」
 ざわめくケルベロスたちに、アモーレは力強く頷くと敵についての説明を開始する。
「敵は槍を持ったダモクレスが3体。女性をとらえた卵形のダモクレスを護衛しています。それぞれ手にする槍の色が違い、緑色がトン、黄色がテン、赤色がカンと申します」
 すべてクラッシャー、危険な相手ですとアモーレは首をふる。
「彼らは連携を得意としています。3本の槍が嵐のように攻めてくる連続攻撃には肝を冷やすかもしれません。ですが、この敵たちは一本槍な性格。攻撃しか知らないダモクレスたちです。油断さえしなければ問題ないでしょう」
 アモーレは力強く宣言すると、温かくケルベロスたちへと微笑んだ。
「ちなみに、無事救出をしても彼女がデートの準備をする余裕は無くなっていることでしょう。せっかく助け出してもデートが失敗してしまっては物足りません。彼女が悩んでいる服装をズバッと解決し、デートも成功へと導いていただけたら幸いです」
 アモーレはペコリとお辞儀をしたのだった。


参加者
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)

■リプレイ


 殺気が満ちていた。
 敵のものではない。
 人払いのためにハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)が放ったもの。でもない。
 殺気の主はソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)。頬をプックゥゥと膨らませている。
「拝啓、サンタクロース様。聖夜は今年も私にはやって来ないようです。こんな、こんなことが有って良いはずがない。この超エリートレプリカントであるソロ様が……何かの間違いでは???」
 長い青色の髪を振り乱し、シンシンと雪が零れる空を見上げた。というより睨みつけた。ソロ様はsoloだったのだ。
 お隣。こちらも拗ねたような態度で、カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)が黒髪をしなだらせ、愛用の大鎌をギラつかせていた。
「クリスマスってリア充が多くてお仕事お休みしたいんだけど……」
 唇を尖らせている。そんなカッツェに、兄貴分の峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が、あまり愚痴りなさんなと、カラッとした笑顔で肩をすくめて見せた。
「俺だってデート行きたい……。けど人命とグラディウスは大事だ! さっさと倒して心置きなくクリスマスを過ごそうぜ!」
 その声には、周りを元気にさせるようなポジティブさがあった。カッツェはまだ口を尖らせていたが、その表情が少し緩んだ。雅也はニコッと笑うと、腰に付けた袋から、あま~いショコラボンボンを一つ取り出し、口へとバクり。その顔が目いっぱい幸せそうに歪んでいく。カッツェの表情も歪んでいく。彼女からのプレゼントですねそれは。お巡りさん、リア充はこっちです。
 不穏な空気を察し、後ろから長身で色黒な男が、雅也の肩にガッシリ腕を回した。雅也の親友、月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)だ。
「クリスマスの力か。ハロウィンでも似た様な事が有ったがイベント毎に湧くのは厄介だな」
 話の矛先を敵に向け、大人らしい雰囲気でニヤリと笑う。その後ろでは、純白のナノナノ『白いの』が、ワチャワチャと嬉しそうに雪と戯れていた。え、天使。
 宝の話に続き、藍染めのリボンで黒髪を結わいたお姉さん、五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)が白い息を零した。
「デート前の女性を襲うなんて無粋も良い所だわ。去年といい一昨年といい、ダモクレスも懲りないわね……」
 よし。もうリア充の話からは完全に話を逸らせたぞ。肩の上では、琥珀色の瞳をした黒猫『バロン』が、白髭に付いた雪を、コシコシと拭っていた。え、天使。
 雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)は隙のない黒い瞳で『輝きの卵』を見つめていた。
「全く。この年末、しかも大戦に合わせるような時期に来るとはな。狙ってやってるとしたらなかなかの策士だが……ただの偶然か、あるいはゴッドサンタの意趣返しかね?」
 うっすら不敵に笑みを零す。なんにせよ、必ず救ってみせるさ。少し待っていてくれ。達也の地獄化された右腕の周囲で、雪が音もなく蒸発した。
 柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)も、攫われた女性を青の瞳に映しながら頷いた。
「ネットはあまり知らないのですが、初めて会うとなるとドキドキすると同時に嬉しいでしょうね。それを邪魔するものはさっさと退治しちゃいましょうか」
 優し気な表情を引き締め、ライトニングロッドをギュッと握りしめる。透明感のあるエメラルドグリーンの三つ編みが揺れた。
 真面目な空気に切り替わったところで、金髪の少年貴族、アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)も澄ました顔で呟いた。
「今回の事件はまるでドリームイーターのような手口だな。しかし、無粋である点ではどちらも同じか……。野暮な無粋者には早々にご退場願おう」
 ビハインドの『執事』を脇に侍らせ、優雅に気品を漂わせている。
「皆! 重傷者を出さないよう、気合入れて行きましょう!」
 奈津美がMD陣に声をかけると、バロンがその肩から勇ましく飛び立ち、ハニーが、
「おー! 怪我なくお姉さんを助け出して、良いホワイトクリスマスにしようね!」
 ドヤ顔で爆破スイッチを構え、チョコが尻尾の炎をブォンと昂らせた。
 後方では宝が自身のナノナノを呼び寄せ、
「頼んだぞ」
 大きな手でその頭をクシャッとひと撫でする。
 日本家屋の庭では、緑色の槍を持ったトン・黄色の槍を持ったテン・赤色の槍を持ったカン。心を持たない3体のダモクレスが、油断なく卵型のダモクレスを囲みながら護衛している。
 番犬たちは、それぞれの想いを胸に、敵へと踊りかかった。


 夕暮れ時の広大な庭で戦火が上がった。最初の撃破対象はカンだ。
 3体の動きを目で追いながら、番犬は卵に視線を走らせる。あの中には無垢な女性が捕らわれている。戦いの余波が及ばないように、注意を払わねばならない。或いは視線を交換し、或いは口頭で確認し、或いは自身の執事の胸を叩く。

「まずは万全の状態にしないとですね」
 結衣は補助に徹していた。手にしたライトンングロッドをクルクルと回し雷の壁を構築し、敵の行動を疎外すべく縛霊手から稲妻を纏った巨大光弾を発射させていく。味方を高め、敵を阻害し、その目に敵の情報を逃すまいと、一挙手一投足に注意を払い、彼女は戦場に暗躍した。
 ソロは縦横無尽に、伸びやかに、しなやかに、力を発散させていた。力の限り気弾を飛ばし、しかし卵に被害が及ばないように気を付け、庭の壁を蹴りつけ跳躍し、一撃を入れれば俊敏に間合いを開け、一時として同じ場所には留まらない。そして、必ずその横には誰かディフェンダーがいた。だってか弱い乙女なんだから、護ってもらいたいのは当たり前でしょ?
 アルシェールは涼やかに爆破スイッチから爆風を巻き上げ味方を鼓舞し、傷ついた味方から指先をつむつむさせて傷を引っぺがしていく。敵の攻撃に割り込む時も、優雅に、気高く、高貴に受ける。なぜなら彼は貴族だから。貴族というものは、余裕に満ちたものなのだ。
 雅也は火力を乗せた鋭い斬撃でカンを抉りつつも、目端では卵を捉えていた。そして軽口を叩くことも忘れない。今は妹分のカッツェとクリスマスについての口論を繰り広げているところだ。若干会話がかみ合ってない気もするが、大して気にもしない。今重要なのは会話の内容ではない。誰とどんな空気感で話しているのか。それこそが重要なのだから。
 カッツェはふて腐れた風情で暴れていた。漆黒の大鎌をぶん投げ、
「お前らのせいでわざわざリア充見ないといけなくなっただろーが!」
 憂さを晴らすように竜頭篭手から薙ぎ払うように巨大な閃光を爆散させていく。まさに戦場の死神である。死神は、兄貴分の雅也と他愛ない口論を繰り広げ、ぶーぶー文句を言いながら、雅也への攻撃を庇って受けた。
 奈津美はチームの庇護者。メディック達の指揮を取り、温かな光を走らせた。盤上の体力を管理しつつ、調整しながら強化も重ねていく。バロン、ハニー、チョコと流れるような連携を取り、余すことなく仲間の体力をコントロールしていく。
「もう! 2人とも戦闘に集中!」
 その目端は、雅也とカッツェの口論も見逃さない。愛情ある注意に、雅也は素直に謝った。
 宝は豪放に戦場へ轟音を響かせていた。白いのと共に敵の機動を削いでいく。派手なエフェクトに、大振りな動き。しかし、敵の動きを怜悧に見つめ、火力の切り替えには余念がなく、卵の位置にも繊細に気を払っている。雅也とカッツェの言い争いにも、呆れた感じで軽口を叩いていたが、みごとに奈津美と共に仲裁してみせた。そして彼は、卵の中の女性の状態を見つめると、時間を掛け過ぎない様にそれとなく仲間に提言した。大雑把に見せて細やかな配慮のできる男である。白いのが彼を慕うのはその本質を見抜いてのことだろう。
 達也はチームの盾。敵の機動を砕き、武器を爆破し、常に味方の位置と敵の動きに注意を払い、騎士のようにその身を盾とした。卵に注意を払い、爆心地から遠ざけるべく、敵を誘導する。そして気がついた。3体の動きに。今までの挙動と違った三位一体の動きに。来る―――。
 同時に、狙われたソロも敵の動きを気取った。あぁ、ヤバい。これ私が狙いだわ。やっぱり美女を優先的に狙ってくるよね。考えてみれば当たり前。じゃあ美女を護るのは? ナイトの役目だよね。当たり前。
 ソロは自身の軌道を俊敏に切り替えると、漆黒の男の盾に隠れるように身を引いた。あぁ、分かっている。すれ違いざま視線が絡み合った。同時にその男、達也は割り込むようにしてその身を堅くした。
 3体のダモクレスは槍を竜巻のように回転させると、吹き荒ぶように突進した。緑の槍が達也の脚を無残に引き裂き、続けて黄色の槍が達也のケルベロスコートをズタボロに引き裂いた。崩れ落ちる達也。最後に血のような真紅の槍が、上空から加速度を付けて、その鋭い切っ先を向けた。
 穿ち貫かれ、その身体を宙に放たれたのは小柄な少年だった。かなりの大ダメージを受けたその金髪の少年は、しかし優雅に金髪をたなびかせ、グリーンの瞳で敵を嗤ってみせた。だって、それが貴族だから。
 急ぎ、奈津美が、ハニーが、バロンが、チョコが、2人の回復に光を走らせる。
 達也は蛍火に照らされながら、顔を持ち上げると、敵を嗤った。
「まるでジェット何とかストリームアタックだな。さあ受けきったぞ。お前らの切り札はこれで終わりか? なら俺達の勝ちは決まったな」
 たじろぐダモクレスを見つめながら、達也とアルシェールは、起こした身体で軽く拳を合わせた。
「そもそも、3本の槍ってなんなの? 毛利元就の3本の矢のパクリなの?」
 カッツェが敵の気を引くように、2人の前に立ちはだかる。
「槍だから、賤ヶ岳の七本槍とかかもな。4体は既に仲間たちが倒したのかも知れないぞ」
 雅也も不敵に笑い、2人を隠すように立つ。
「それなら残りの3本も綺麗に折った方がいいわね」
 奈津美が達也の治療を終え、勇敢に笑った。その横ではバロンが、なにかを折るジェスチャーをしている。
 それを見て、宝がニヒルに笑いだす。
「矢だか槍だか知らねぇけどよ、俺たちは何本だよ? さぁ。さっさとレディーを助けちまおうぜ!」
 仲間たちは互いを見渡すと、力強く笑みを浮かべた。
「1本!」
 カッツェの漆黒の大鎌が宙を舞い、
「じゃあ、2本!」
 天高く飛び上がった雅也が、妖刀を振り下ろす。
「そぅら、3本、4本だ」
 宝が勢いをつけてドラゴニックハンマーを振り下ろし、白いのがハート光線で敵をめろめろにする。
「5本、6本」
 奈津美の召び出した光の盾が仲間を護り、バロンが髭を撫でながら羽ばたきで仲間を癒す。
「7本、8本」
 優雅に立ち上がったアルシェールが景気よく爆破スイッチを轟かせ、執事が悠然と敵を金縛りにした。
「9本」
 跳ね起きた達也が、赤き眼の龍鎚を唸らせて、敵を呑み込んでいく。
「10本、11本」
 ハニーが大地に守護の魔方陣を光らせ、チョコが仲間に炎の力を宿らせていく。
「12本、13本かね」
 援軍に駆け付けていた玉榮・陣内が扇を振るって3体を凍り付かせ、ウイングキャットの『猫』が尻尾の輪で敵の武器を砕いた。実は彼は、先ほどからトンやテンに炎やら氷やらを付けてゴリゴリ体力を削っている。
「14本」
 援軍に駆け付けていた比嘉・アガサも如意棒で敵の武器を穿つ。こちらも先ほどから陣内と一緒に、炎やら氷やらをゴリゴリ付けつつ、武器を砕いて回っている。
「15、16本です」
 援軍に以下同文の機理原・真理がチェーンソー剣を構え、ライドキャリバー『プライド・ワン』にまたがり、突っ込んでいった。こちらもここまで前衛でゴリゴリ敵の体力を削っていた。
「17本! うらぁ―! メガトンソロちゃん落とし!」
 高下駄をカランカランと鳴らし、ソロは星屑のようなリボンを揺らしながら華麗に飛び上がった。しかし頂点でハッとなにかに気づくと、そのまま着地。敵を自身の全武装を以てズタズタにし始めた。
「敵は死ぬ!」
 ビシィッと決めポーズ。
 だが残念。ギリギリだけれど、どっこい死んではいなかった。
「18本、鋭い棘にご注意ですよ?」
 あと一押しでカンが沈むと見た結衣は、地面から鞭のようにしなる茨を生やして、カンの身体を絡め取った。見た目以上に鋭い棘がその身に喰いこみ――、
 総勢18本の矢によって、哀れ真紅の槍は大地に還った。
 勝敗は決した。後は哀れな落ち武者狩り。テンとトンも順次撃破され、戦いは幕を閉じた。卵に傷もついてない。
 番犬達は拳を重ね合うと、互いを称え合うように笑うのだった。


(「ふんっ、何がネト充だ。爆発しろぉ! 涙」)
「災難だったな」
 本音と建て前をきっちり使い分ける大人の女性ソロは、凛とした声で良子にねぎらいの言葉をかけていた。
 戦いは終わり、今はヒールによって目を覚ました良子の服を、みんなで選んでいるところだ。
「ファッションには疎くてな……。臙脂色のダッフルコートとかクリスマスっぽくて良くないかな?」
 達也の提案に、興味を引かれる良子。早速ハンガーからダッフルコートを当ててみる。
「清楚な感じとかはどうでしょうか。それと小物にも気を遣わないとダメですよ?」
 結衣の手には手袋とマフラーが握られていた。良子の顔が明るくなる。
 ソロも満面の笑みを浮かべ、清楚さと雪を思わせる白のコーデをオススメした。楽しそうにとっかえひっかえ服を合わせている良子。
「普通だと面白くないしこれがいいよ! 何なら弓矢とか拾ってこようか?」
 カッツェはエルフが着るような服を良子に当てた。こんな服も用意されていたのか!
「いやいや。流石に初めからこれは冒険すぎだろ!」
「いくらゲーマー同士でも、初デートにコスプレは……」
 雅也と奈津美が、ニシシと笑うカッツェを窘める。
「ちぇっ、可愛いのに」
 頬をふくらませるカッツェ。雅也は気を取りなおし露出が極力無い服を良子に差しだした。
「彼氏が可愛いもの好きならふわっとしたスカートが良いんじゃね? 宝はどんなのが好きよ?」
 ついでに宝の趣味も聞いてしまえと雅也が笑った。その額を、宝は軽くデコピン。
 イタタとおどけて額をおさえる雅也。そんな様子を見ながら微笑んでいた奈津美が、あっ、と何かを見つけたように衣装を手に取った。
「デートならやっぱりスカートよね。このフレアスカートはどう?」
「耐性装備ですか?」
 おしゃれの知識が無いゲーマーは凄絶な勘違いをした。奈津美はチガウチガウと微笑み、丁寧に説明していく。ふむふむと頷く良子に、奈津美の肩から飛びたったバロンが、得意げな表情でポンポン付きニット帽をかぶせた。
「冬のデートなら寒さ対策も大切よ」
 戻って来たバロンを肩に乗せ、奈津美はウィンクをしてみせる。
「流石、奈津美」
 額から手を離した雅也がコクコクと頷き、良子も尊敬のまなざしを浮かべる。
「服装もだが、装飾品も有る方が良いな」
 宝は首をかしげる良子の手にイヤリングを握らせ、ニヤリと笑った。真剣な顔でイヤリングを眺める良子。
 そんな良子に、椅子の上で足を組むアルシェールが、不敵な笑みを浮かべながら声をかけた。
「しかし、なんというか……キミは、少々エキセントリックな女性のようだね。ただまあ、気持ちは判るよ。僕も形から入るタイプではあるし、何より服にはお金をかけているからね! よし、皆まで言うな! 僕がとても貴族的な素敵服を選んであげよう! これで彼氏のハートもばっちりゲットさ!」
 貴族風の服装は、良子のセンスにマッチしたようで、増えた選択肢に彼女は嬉しい悲鳴を上げていた。
「恋する女の子は何を着ても可愛いと思う」
 悩む良子にアガサは心が軽くなる一言を贈った。隣の陣内にも、何か気の利いたこと言うように突っつく。
「『恋する女の子』、ねえ……、お前の口からそんな言葉が出てくるとはな。彼が好きだと言っていた色やモチーフはどうかな。向こうがそれに目を留めてくれたら、『好きだって言っていたから、選んでみた』とでも言えば、その場で抱きしめたくなること請け合いだ」
 その時を想像したのか、顔をふにゃあっと緩める良子。一通り意見を聞き終えた彼女は、部屋へ戻るとゴソゴソと準備を始めた。

 ――そして数分後。完璧な衣装に身を包んだ良子が出てきた。その手には大きな髪袋が握られている。
「良子さん。それは?」
 真理が訪ねると、良子は少しテレながらも、中には着替えが入れてあると白状した。エルフ服まで入っている。
「皆さん、本当にありがとうございました♪ 良子、いきま~す!」
 勢いよく跳び出す良子。外は薄闇に包まれていた。その足元を、LEDライトの光が照らす。
「本当は戦闘に使うかと思って持ってきたんだがな」
 達也が灯すそれは、足元だけでなく、純白の雪を美しく輝かせていた。同じようにライトを持ってきていた結衣と奈津美が空を照らす。
 キラキラと瞬く雪に送られ、良子はその姿を夜の街へと溶かしていった。
「ただいちばんの幸いに至るために。だね」
 アルシェールの満ち足りた言葉が、シンシンとふる雪の中、星空へと昇っていった。

「さて、俺たちも行くか?」
 番犬たちは、楽しそうに街へと歩き出す。皆で送り出した、良子の幸せを信じて――。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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