聖夜略奪~打ち砕け、輝きの機械城

作者:青雨緑茶

「うーん……どれにしようかしら……」
 彼とのデートを控え、サヤは鏡の前であれこれ服やアクセサリーを合わせていた。
「いつもと違う、大人っぽい格好が見たいって言ってたけど。それなら、この赤いワンピース? それとも、黒の方が……?」
 こんな直前まで悩むなんて自分でも優柔不断だと呆れてしまうけれど、顔は自然と緩んでしまって、嬉しくて仕方ない。
 だがふと時計を見ると、もう悩んでいられる時間も僅か。サヤは目を丸くする、決めるものは服だけではないし、髪型だってメイクだって整えなくてはいけないのだから!
 ――そんなサヤの背後で、突如、魔空回廊が開く。
 4体の機械天使が出現し、そのうちの1体が、ガラスの卵のように透ける下腹部にサヤを引きずり込んでしまう。
 残る3体は、うち2体が堅牢な城のような全身甲冑姿、1体が光の鞭を手に携えた高慢そうな女性の姿。敵でさえなければ、荘厳な守護天使のようにも見えたかもしれない。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ」
「さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるだろう」
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのデス」
 機械天使達は口々に、歪な機械音声じみた声で発する。クリスマスの力を呪詛に変えるべく、襲撃してくるであろうケルベロス達を迎え討つべく。
 そして、『輝ける誓約』の軍勢に、燦然たる勝利を掴み取るべく。


「お集まりいただきありがとうございます。皆さん、昨年のゴッドサンタの事件は覚えておいででしょうか」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は手元の書類を纏め、集まったケルベロスに任務の概要を説明する。
 一年前、クリスマスに発生したゴッドサンタ事件を解決した事で、ケルベロスはグラディウスを得て、ミッション破壊作戦を行う事が叶い、この一年だけでも多くのミッション地域を開放する事が出来た。
「この状況は、私達にとっては非常に良い事です。ですが、デウスエクスにとっては許しがたい物である事は想像に難くはありません。
 地球に潜伏していたダモクレス、潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用して、ケルベロスが持つグラディウスを封じようと作戦を仕掛けてきました」
 ダモクレスは、クリスマスデートを楽しみにする女性の前に魔空回廊を使って出現する。
 そして儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に女性を閉じ込め、グラディウスを封じ込める儀式を開始するのだ。
 『輝きの卵』自体には戦闘力が無いため、周囲には3体のダモクレスが護衛につき、ケルベロスからの襲撃に備えているようだ。
「護衛ダモクレスさえ倒す事ができれば、その時点で女性を内部から救出して、『輝きの卵』を撃破する事が可能です。
 ですが『輝きの卵』に女性が捕らわれたまま、『輝きの卵』を倒してしまうと、中にいる女性も一緒に死んでしまいます。
 なので、まずは護衛を撃破する事が重要になるでしょう」

 続けて、セリカは資料を配る。
「戦闘で相手となる敵は護衛ダモクレス3体。
 うち2体は通称『輝きの城』、1体は通称『輝きの鞭』。
 『輝きの城』のポジションはディフェンダー。
 グラビティは、その頑健な巨体を生かした破壊的なショルダータックル、甲冑を変形展開しての投石タイプの列攻撃、翼を広げて近列に守護のベールを張り力を溜めるヒール。
 『輝きの鞭』のポジションはジャマー。
 グラビティは、治癒を阻害するナノマシンをばら撒く列魔法攻撃、凍結の力をもって鞭で斬り裂く列攻撃、翼を広げて仲間の単体に守護のベールを張り力を溜めさせるヒール。
 前衛2体がディフェンダーという防衛寄りの構成ですが、3体とも所持するヒールが火力上昇であり、手をこまねいていると大ダメージを与えられてしまう可能性があります。充分に警戒して下さい。
 出現場所は被害者女性・サヤさんの自宅マンション。
 ケルベロスの襲撃を待ち構え、察知しやすいように、屋上へと移動しています。
 時刻は朝9時頃。周辺には避難勧告済みで、現場には障害物もありませんので、皆さんは戦闘に集中する事が可能です」

 一通りの説明をして、セリカは深々とケルベロス達にお辞儀をする。
「儀式が終了すると、輝きの卵は自爆して、そのエネルギーの全てをグラディウスの封印に使うようです。勿論、爆破した場合輝きの卵の中にいる女性は死亡してしまいます。どうか皆さんの力で、サヤさんを無事に救出して下さい」


参加者
アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)
時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)
リュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)

■リプレイ


「聖人の生誕日……皆が祝福するその日に虐殺を行うなど……許されるものではありません」
 予知されたマンションへ向かうヘリオンの中。アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)は箱竜のシグフレドを隣に座らせ、淑やかに思いを口にする。
「まったくです。しかもクリスマスデートを楽しみにしている乙女の邪魔をするとは……許せません! 一刻も早く救出してあげましょう」
 アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)も翼猫のぽんずを膝に乗せて、現場への到着を今かと待つ。
「21歳女子大生って私とモロ被りじゃないか……サヤさんにはデート楽しむ権利、いや義務がある。邪魔するなんて野暮ってもんだよ」
 その隣では虎丸・勇(ノラビト・e09789)がライドキャリバーのエリィを足元に控えさせ、軽く溜息する。猫好きかつアイカとは仲の良い友達ゆえ、片手はぽんずを撫でていた。
 今回のメンバーは8名と5匹、実に頭数が多い。皆それぞれ、心通う相棒と共に作戦に臨む気合いは充分だった。
「はーぁー。やだねやだね。人の幸せ邪魔する奴最近多くってさ。そういうのは、前略地獄に落ちるわけで、ねー」
 リュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)は肩を竦める。平気そうに見えて、内心はかなりトサカにきていた。
 ほどなくヘリオンは現場上空に到着。一同は立ち上がり、敵が待ち構える屋上へと一斉に飛び降りた。


「アラワれたな、ケルベロス」
「この女は、渡さナイ」
 目の前に降下してきた番犬達に、身構える4体の機械天使。
「さぁてと。見ての通りの大所帯。戦いは数だよ?」
 にぃと強気に笑むリュイェン。こちらも陣形を展開しつつ、吹きっさらしの屋上で藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)は身を震わせた。
「とっとと敵を倒して、早いトコ被害者の彼女をデートに送り出そう。……ヤ、決して屋上が寒いからじゃないんだ」
 そうは言いつつも彼は真っ先にドラゴニックハンマーを構え、竜砲弾を撃ち出す。
 まず狙うは中衛、ジャマーである『輝きの鞭』。着弾の爆音が響いたのを皮切りに、躍りかかるケルベロス!
「グラディウスは、わたしたちの大切な武器です! 封印なんて、させるものですか! ――サイ、いくよ!」
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)はミミックのサイに声を掛け、鎧に変形させた御業を纏わせる。敵のエンチャントに備えて破剣の付与、上々だ。
「何とも無粋な連中です。さっさと退場して貰いましょう」
 篠村・鈴音(焔剣・e28705)は一気に駆けて肉迫し、『鞭』へ流星煌めく蹴りを叩き込む。近距離の射程で固めた攻撃、威力は申し分ない。
「ワレラ鉄壁、崩されはシナイ」
 盾役である『輝きの城』2体が機械の翼を広げ、自分達に守護のベールを張り力を溜める。『鞭』はその得物を振るい、凍結の力を持つ一撃で前衛を斬り裂く。
 こちらの陣形は前衛6、中衛1、後衛6。数の多い前衛後衛は、どちらに攻撃が来ても減衰を狙える。加えて前衛サーヴァントの3体は皆ディフェンダーともあって全体の被害は軽微、よく備えられた構成といえよう。
「いけませんねぇ……人の恋路を邪魔するなんて……」
 時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)は笑顔と怒りが入り混じったような顔で、印を結んで自らと同じ姿の無数の影分身を作り、一斉に連続攻撃。分身の何体かは『城』に庇われたが、本体の攻撃は『鞭』へ届いた。
 『卵』の透明な下腹部で眠るように目を閉じているサヤ。一刻も早く、彼女を救出しなくては。


 『城』の1体が甲冑を変形展開し、投石に似た重い打撃が前衛を襲う。もう1体はショルダータックルで突進し、狙われたアリシアをシグフレドが庇う。
 『鞭』は翼を広げ、『城』の1体に守護強化のベール。
「――『動かないで。』」
 アイカは古代語を詠唱し、火力が急上昇した方の『城』に雷を落として麻痺させる。仲間が『鞭』から撃破する作戦のための足止め役だ。ぽんずの方はその『鞭』へと、タヌキのような尻尾を振るって輪を飛ばす。
「戦い始めるようになって解ったよ。お前らは、色んなお題目は全部どうでもいい。ただただ、誰かの幸せを潰す奴らだってことがな」
 内心の思いをぶつけ、力に変えるリュイェン。百戦百識陣により、前衛の仲間達に破魔力を与える。
「なら、許せる道理なんて何処にもないね! お前らの欲しいクリスマスプレゼントは全部、目の前で取り上げだ」
「あなた方は今日、何も奪えない。今日はただ祝うべき日です。何一つ……そう、誰一人悪い夢に遭う人はいないのですから」
 アリシアも前衛の背後に爆発を発生させ、爆風によって士気を高める。シグフレドは回復中心で動き、まずは自身の手傷を属性インストールで癒す。
 鈴音は紅い刃の霊剣・緋焔に空の霊力を帯び、低い体勢からの斬り上げで絶空斬を繰り出し、『鞭』の傷を広げる。
「邪魔はサセン!」
 今度は『城』の2体ともが突進してきて、『鞭』は手をかざし、治癒を阻害するナノマシンを後衛目掛けてばら撒く。
「くっ、この程度……!」
 鈴音は『城』に大きく吹っ飛ばされたが、どうにか態勢を整えて着地する。上昇した火力は凄まじいものだったが、防具による軽減があったのがせめてもの幸いだ。
「シラヌイ! GO!」
 もう一方のタックルはリュイェンを狙ったが、乱舞がライドキャリバーに声を掛けて庇わせる。乱舞本人はその隙に、スパイラルアームで『鞭』を抉ろうとしたが――その攻撃は敵の『城』に庇われる。
「やっぱり厄介だね、その火力は。早々に破らないと」
 『城』が『鞭』を庇うのはさほど問題ではない、それだけ後の撃破が早くなるのだからそれよりも先に、『城』の強化を最小限に留めておく方が賢明と判断して、シェーラは自身に破壊のルーンを宿し、魔術加護を打ち破る力を得る。
「えらい人は言いました、戦いは数ですっ! 今すぐ、癒しますから!」
 スズナは気力のオーラを溜めて鈴音を大きく回復させつつ、サイが武装具現化で『城』の守護を打ち消しにかかる。
「流石に堅いけど、負けないよ!」
 勇は縦横無尽に戦場を駆ける俊敏さを活かし、『城』の鉄壁を掻い潜って『鞭』に炎纏う激しい蹴りを浴びせた。
「全砲門、テンカイする」
 2体の『城』はカタパルトの砲撃、『鞭』は再び凍結の鞭を繰り出して、猛攻が前衛を襲う。飛び交う攻撃の総量は甚大だが、アリシアが一部を庇い上手く軽減させる。
「ここさえ乗り切れば……!」
 影の如き斬撃で、アイカは『城』に付与した麻痺をひたすら増やす。戦闘に関してあまり自信はないが、自分に出来ることを精一杯頑張る目一杯の気持ちを乗せて。
 今は辛くとも、『鞭』狙いの仲間達の攻撃は徐々に敵を追い詰める。撃破はそう遠くないはず。
「我に付き従う影の騎士よ。その真価を以て勝利をもたらせ!」
 アリシアは光輝くオウガ粒子を放ち、仲間の負傷を癒すと同時に超感覚を覚醒させる。
「敵さんも、硬いですね……! きらめく星座よ、皆さんを守って!」
 スズナは地面に描いた守護星座を光らせ、BS耐性を付与しつつ纏めてキュアを狙う。使役補正に列減衰、決して好条件とはいえないが、複数の仲間が回復役を担う事でその穴を埋めていた。
「エリィ、行くよ。『――疾れ、刃よ。』」
 勇は相棒と息を合わせ、螺旋の力を風に変換し、創成した真空の刃で『鞭』を切り裂く。風刃(フウジン)、鋭く研ぎ澄まされた鎌風が敵をホーミングし、炎を纏ったエリィの突撃と挟み撃ちにする。
「オノレ、小賢しいイヌどもめ……!」
 妨害役の『鞭』を失い、『城』2体は忌々しそうに機械の翼を広げ、籠城の形態を取る。守護のベールが光り輝き、再び火力が上昇するが――『城』の片方は、再三に渡り重ねられた麻痺に抗えず、その行動は叶わなかった。
 列攻撃の使用を控えるエリィは必然的にこの攻撃のみを繰り返す事となり見切られがちではあったが、この一撃は上手く当たり、どうにか『鞭』の撃破に成功した。
 胎内にサヤを抱く『輝きの卵』は最後列に位置している。攻撃の意志がない限り誤って巻き込んでしまう心配はなさそうだが、それでも人道を重んじて万が一にも巻き込まない事を念頭に置いて作戦を立てたケルベロスの判断は決して間違った姿勢ではない。
 頭数の多さが入り乱れて読み取りにくい戦況ではあるが、威力の高い単体攻撃を駆使して各個撃破狙いという堅実な戦い方で一歩一歩、作戦の積み重ねが功を奏している事は目に見える。
「倒れないし、倒れさせない。目論見なんて全部ぶっつぶすためにね。――聖歌とはいかないけれど、なあに天使の歌だ。ご利益はあるとも」
 リュイェンの歌声が、響く。高らかに『ブラッドスター』を歌い上げて、仲間の状態異常を打ち消す。
「『さあ、我が幻影達よ…踊りなさい!!』」
 幻影乱舞(ゲンエイランブ)。乱舞の影分身の中からどれが本体かを見極めるのは困難を極め、敵は幻影に踊らされる。
 シェーラは竜語魔法を操り、掌からドラゴンの幻影を放つ。庇った回数が多く、先に倒せそうな方から狙って、焼き捨てる。
「『熱風の刃…疾れッ!』」
 鈴音は練り上げた霊力により剣身を瞬時に高熱化させ、繰り出すは神速の一撃。剣風と高熱で斬り裂かれた気流がうねりを生じ、無数の鋭い熱風となって襲い掛かり、消耗した方の『城』をその鉄壁ごと塵に変える。
 これで残るは、『城』1体。勝利は確実に、近づいている。


「我が刃を恐れるならば、この縛鎖越ゆること能わず……ここに創造するは『狼』!」
 扱う狼のルーンから力を授かり、アリシアは魔力で編んだ鎖を幾重にも生み出し放つ。何人たりともこの縛鎖、越すこと許さぬと、敵を縛る。
「『当ててみせますっ!』 ぜったいに、助け出しますから!」
 仲間の体力を一定以上にまで持ち直し、合間にスズナも護符を握り込んだ右手を振りかぶる。清浄の魔鉄杭(クリア・マジックパイルバンカー)、敵に向かって打ち込むと同時に、内部に衝撃波を叩き込む。
 鈴音は体内のグラビティチェインを破壊力に変え、剣の峰に乗せて殴打する。後がない敵の守護を徹底的に破る。
「アイカさん、そっちから頼んだよ」
「任せて下さい、勇さん!」
 目配せして頷き合い、二人が駆ける。二刀の惨殺ナイフを逆手に持ち、正確かつ舞うような動作で斬り裂く勇に合わせ、アイカが渾身の力で理力を籠めた星型のオーラを『城』に蹴り込む。
「ワレラの、シメイ……! 『輝ける誓約』に、エイコウを……!」
 既にあちこちヒビが入り、機械音声も割れた状態で、それでもショルダータックルの勢い失わず突進する『城』。
「ぐっ……! サヤさんの為にも、ここは死力を尽くします! 彼女が楽しく恋人とデートをする為にも!」
 乱舞は凄まじい衝撃に見舞われた。だが怯まず、肘から先を内蔵モーターでドリル回転させ、威力を増した一撃で一矢報いる。
「愛とか恋とか……しゃらくさいと思うのがデウスエクスなんだろうがな」
 装甲ドレスの燐光を散らしながら、くるりと浮遊するリュイェン。
「人間はそれで生きてんだ! 嘗めるなよ!」
 本当の言葉(ホントウノコトバ)、自身の心象をそのまま思い浮かぶ歌にして、強力に共鳴する治癒を放つ。
「これで、お終いだよ。『貴女の御前に傅く私が、偉大なる御身を讃えることをお許しください。貴女は例えば――……』」
 月は無慈悲な夜叉の女王(アイアンレディ)。シェーラの詠唱により降臨した夜叉の女王が、その魔眼で敵を射貫く。極寒の冬に一輪咲く、気高く麗しい白の花の如く――強力な一瞥が、堅牢なる『城』を撃ち抜いた。
 『城』はガラガラと音を立てて崩れ落ち、そのまま、他2体と同じように跡形もなく塵となる。
 3体の護衛をすべて倒し、無防備となった『卵』を撃破して囚われの被害者を救出。ケルベロス達は、彼女の無事を確認する。
「お、お怪我は……」
 女性にあまり免疫のない乱舞が、ぎこちなく声をかける。
 『卵』から解放されて意識を取り戻したサヤは傷一つなく、取り囲む救援に驚きながらも、平気だと首を振る。
「お怪我は無いですか?無事ですね? さあさあ、急いでお洒落をしなくては! 彼氏さんが待ってますよ」
 アイカがサヤの背を押し、一同は屋上を軽くヒールで修復してから階下へ。
 そう、ケルベロスの役目はまだ終わりではない、サヤの支度を手伝い、デートに向かわせるという使命がある!


 サヤの部屋にて、ケルベロス達はワイワイとお洒落を手伝う。といっても一人暮らしの部屋に大人数は入りきれず、半数ほどは廊下で待つ形となったが。
「お相手が社会人なら着てくるのはスーツだろうし、それなら色が被りそうな黒よりも、クリスマスらしい赤いのが良いんじゃないかなー。デート楽しんできてね!」
 シェーラはデートに着る服を迷うサヤに、赤い方をオススメする。
 見た目は可愛らしくとも少年である彼が後ろを向いている間に、鈴音が赤いワンピースの背中のファスナーを上げてあげる。
 人の髪をいじるのが大好きなアイカは、ヘアアレンジを手伝う。可愛い髪飾りをお裾分けして、華やかに纏められた髪にサヤも嬉しそうだ。
「はあい、ちょっとデート用アドバイスしちゃうぞー。リップはうるうるな感じで、軽くつや出しすると、おとなしそうな君にギャップの色気がいい感じだぞー」
 こう見えて年上のお姉さんであるリュイェンはメイクを手伝い、彼と彼女の希望である大人っぽい魅力を演出する。
 一通りの身嗜みを済ませ、どうだろうかと胸を高鳴らせて全身を見せるサヤに、アリシアが微笑んで太鼓判を押す。
「ええ、とても素敵です。貴女の思い人もきっと喜んでくださいましょうや」
 一同は部屋を出る。待っていた3名がドレスアップしたサヤを囲んで、それぞれに温かな声を掛ける。
「たのしい思い出いっぱいの、大切な1日になりますように!」
「私の分まで頑張れよ!」
「あ、あの…せ、精一杯楽しんでください!」
 スズナはファッションのトレンドにこそ疎いが全力の気持ちで応援して祈り、勇は同い年で女子大生という立場に親近感を抱いてよくわからない応援をして、乱舞はやはり緊張しているが、笑顔で見送る。
 感激を籠めて、何度もお辞儀をしてデートに向かうサヤ。彼女を無事に送り出し、一同もようやくホッと肩の力を緩める。
「さて戦友諸君。メリークリスマスっ」
 リュイェンの言葉から、皆して笑顔を綻ばせて、祝いと労いの言葉を交わす。
 ケルベロスの尽力によってダモクレス・『輝ける誓約』目論見は砕かれ、クリスマスの恋人達は守られた。メリークリスマス、幸せな一日を!

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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