聖夜略奪~君が為のキャロル

作者:小鳥遊彩羽

 12月24日――クリスマスイブ、当日。
 ドレッサーの椅子に座り、鏡の中の自分とにらめっこしている一人の女性がいた。
 アイラインを引く手つきはまだ慣れないけれど、それでも何とか最低限、はみ出さない程度には引けた。アイシャドウもちょっと大人らしい色合いを。ぱちっと目を瞬かせれば、鏡の向こうではいつもと違う自分がはにかんでいて。
 ヘアアイロンでゆるくふわっとさせた髪も相俟って、何だか別人のようにも見えた。
「びっくりしちゃうかなあ、舜くん。……可愛いって、言ってくれるかなあ……」
 女性の名は、森園・茉莉(もりぞの・まつり)。そう、これから恋人とデートなのだ。
 そうして、あとは着替えるだけと立ち上がった所で、その『異変』は生じた。
「えっ、何……!? っきゃあああっ!!」
 何の前触れもなく開いた魔空回廊から天使のような姿のダモクレスが四体現れたかと思うと、その中の一体が茉莉を捕らえ、内包する卵の中に閉じ込めてしまったのである――。

●君が為のキャロル
「というわけで、今年もダモクレスによるクリスマスの事件が起きようとしているんだ」
 トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう切り出して、その場に集ったケルベロス達に説明を始める。
 昨年のクリスマスに起きた、ゴッドサンタ事件――これを解決したことで得たグラディウスを用いてのミッション破壊作戦において、ケルベロス達はこれまでに多くのミッション地域を開放するに至った。この状況はこちら側にとっては非常に喜ばしいことではあるが、逆にデウスエクスにとってはそうではないというのは、考えるまでもないだろう。
「そこで、地球に潜伏していたダモクレス――潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用してグラディウスを封じようと作戦を仕掛けてきたんだ」
 魔空回廊を用い、クリスマスのデートを楽しみにしていた女性の前に出現したダモクレスは、女性を『輝きの卵』という儀式用の特別なダモクレスに閉じ込め、グラディウス封印のための儀式を開始するのだという。『輝きの卵』自体は戦闘力を持たないが、代わりに三体の護衛ダモクレスがケルベロスからの襲撃に備えているとのことだ。
「この三体の護衛ダモクレスを倒しさえすれば、女性を救出して『輝きの卵』を倒すことも可能になる。だから、まずは護衛を倒していくことが重要になる」
 この際、女性が囚われたままの状態で『輝きの卵』を倒してしまうと女性の命も失われてしまうため、注意して欲しいとトキサは添えた。
 また、ケルベロス達が敗北、あるいは戦闘が長引くなどして儀式が完了してしまった場合、輝きの卵は自爆し、エネルギーの全てをグラディウス封印のために使うとのことだ。勿論この場合にも女性の命が失われることに変わりはないので、可能な限り迅速に護衛を倒し女性を救出することが求められるだろう。
 輝ける誓約の三体の護衛は、槍を持つ者がクラッシャー、盾を持つ者がディフェンダー、そして爪を持つ者がジャマーとしてケルベロス達に襲い掛かってくる。連携して攻撃してくるが、ケルベロス達が力を合わせれば決して倒せない相手ではないとトキサは言い、少し考えるような間を挟んでから続けた。
「無事に女性を救出できても、彼氏さんとの約束の時間まで余裕がないと思うんだ。だから、もし可能なら。デートに行くためのお洒落とか、色々と手伝ってあげるのも悪くないかもしれないね」
 何と言っても、ケルベロスは恋人達の味方だから――そう言ったトキサの瞳は、気恥ずかしさから若干ぎこちなく逸れてしまったりもしたけれど。
 ともあれ、年に一度の大切な日を、デウスエクスに台無しにされるわけにはいかない。囚われた女性を平和な日常の世界に無事に送り出すためにも頑張って欲しいと締め括り、トキサはケルベロス達に後を託した。


参加者
イェロ・カナン(赫・e00116)
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
ラズリア・クレイン(天穹のミュルグレス・e19050)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ

 現場へ足を踏み入れたケルベロス達を待ち受けていたのは、明らかに場違いな機械の天使。
 爪、槍、そして盾を携えた三体の兵士と、兵士たちに護られるように部屋の奥に鎮座する卵。そこに囚われているのはこの部屋の住人である女性――森園・茉莉(もりぞの・まつり)だ。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スルコトナリ」
 ケルベロス達の来訪に、機兵達はそれぞれの得物を構える。
「逢瀬を邪魔するとは無粋も甚だしいね」
 藍染・夜(蒼風聲・e20064)が紡ぐのは冴えた声色。
 クリスマスの力を用い、グラディウスを封じるというこのダモクレス達の目論見を打破し、素晴らしき聖夜を若き恋人達へ贈るために。
「聖歌の代わりに風切る鳥聲を奏じよう。――冥黒裂閃、天滑べ地駆け喰らい尽くせ」
 其は終焉への序曲。颯の鳥は獲物を逃がしはしない。
 盾兵へ刻まれた天駆ける速翼の鳥が喰らいつくが如き一閃を契機として、ケルベロス達は己が手を繋いでゆく。
「女性のデート、それもクリスマスを邪魔するなんて……許せません。ぶっ飛ばしますので覚悟してくださいな?」
 静かな怒りを声に秘め、レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)は青睡蓮の意匠が施された金色の杖を振るい、守りの雷壁を組み上げた。
「聖夜にこのような事件を起こすなどと……ダモクレスの思い通りには、絶対にさせません」
 ラズリア・クレイン(天穹のミュルグレス・e19050)は稲妻の力と想いを乗せた星槍で盾兵を貫く。
 直後、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が音もなく盾兵へと迫った。
「天使を模って悪事を働く……別段信仰に篤くはありませんが、これはいけませんねーぇ」
 薄く笑みを浮かべツグミは素早く跳び上がると、流星の煌めきと重力を重ねた蹴りの一撃を刻む。
「恋人のために頑張る女の子って可愛いよなぁ」
 イェロ・カナン(赫・e00116)は何気なく零し、卵に囚われた茉莉をちらりと見やる。
 室内へ視線を巡らせれば、ハンガーに掛けられた様々な服もドレッサーに置かれた化粧品の数々も、頑張って準備をしていたのだろうことは――男の自分でも容易に想像が出来た。
 だからこそ、彼女の大切な時間を奪わせる訳にはいかない。
「……さて、それを邪魔する無粋な子らは早いトコご退場願おうか」
 熟れきった果実色の瞳に敵の姿を確りと映し、イェロは爪兵目掛けて黒鎖を伸ばす。だが狙い通りには行かず、鎖が締め上げたのは爪ではなく守りを担う盾兵だった。
 けれどこれも想定の内と黒鎖を手繰る手に力を込めた直後、箱竜の白縹が透明に煌めくブレスを盾へ吹き付け、姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)が槍兵に狙いを定めて引き金を引いた。
「この、誘拐犯ー!」
 目にも留まらぬ速さで撃ち出された弾丸が槍兵を貫く。
「天使みたいで、オラトリオ的にも嫌な感じー!」
 ロビネッタの目にはこの誘拐犯のグループ、もとい『輝ける誓約の軍勢』は、仮面をしている者もあっていかにも犯罪者らしく映っていた。
「っ、来ます、気をつけて下さい……!」
 咄嗟にレイラが声を上げた次の瞬間、機兵達が動いた。盾は自らに守りを施し、槍と爪がケルベロス達へ迫る。爪兵は得物を振るう代わりにミサイルポッドを展開させた。
 前衛陣へ降り注ぐミサイルの雨の幾つかを月織・宿利(ツクヨミ・e01366)とオルトロスの成親が受け止める。
「少しだけ、耐えて下さい。すぐに癒します……」
 すぐにリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)がオラトリオヴェールを発動させ、極光めいた光を重ねて盾兵から受けた痛みと痺れを消し去った。
 リコリスへ礼を告げ、宿利は使い慣れた刀を振るい達人の一撃を放つ。
「私達、急いでいるの。だから、ここは通してもらうね」
 そんな宿利の確かな想いごと刻むように、成親が神器の瞳で盾兵を睨みつけた。

 イェロとロビネッタで爪と槍兵を牽制しつつ、まずは盾兵へと狙いを定めたケルベロス達は、序盤に守りや耐性を高めたことで安定した状況に持ち込むことが出来ていた。
 盾兵が自らに施した守りは夜のグラビティ・チェインを絡めた刀で早々に斬り捨てられ、
「私たちの力、見せて差し上げましょう」
 更にラズリアが全身に纏った相棒たるオウガメタル・アイギスの鋼の拳が装甲を砕けば、堅牢な盾の守りも崩される。
 その間にもイェロは槍兵に地獄の炎と氷の結晶を絡めた剣を、爪兵には黒鎖の戒めを向け、ロビネッタは巧みな銃さばきで槍兵の攻撃力を削ぎつつ、爪兵の動きを封じていた。
 無論、盾兵が割って入る機会も少なくはなかったが、それは自らの命を縮めるだけであったと、盾兵はついに気づかぬままだっただろう。
(「……私達が必ず、お助けします。ですから、今暫くのご辛抱を」)
 そう胸中で紡ぎ、リコリスは悲哀を込めた瞳で卵に閉じ込められた茉莉を見つめた。けれどすぐに目の前の敵群へ視線を戻し、盾兵へ氷結の騎士を差し向ける。
 凍てついた騎士達の攻撃が乱れ咲く中、バスターライフルを向けたツグミがにっこりと笑みを深めて引き金を引いた。
「もっともーっと、冷やして差し上げますよーぅ」
 巨大な銃口から放たれた凍結光線に熱を奪われながらも盾兵は怯むことなく巨大な盾を掲げ、ロビネッタへと突進。避けられず直撃を受けたロビネッタの小さな身体が、盾と壁との間に挟まれる。
「むぎゅ、……いったーい!」
 思わず声を上げるロビネッタの元へ、すかさずレイラが駆け寄った。
「すぐに治療しますから、少しだけ我慢してくださいね」
 魔術切開による緊急手術。レイラの的確な処置が功を奏し、ロビネッタはすぐに力を取り戻して立ち上がる。
「オノレ、クリスマスの力は奪わせぬッ!」
「クリスマスの力とやらは、元よりデウスエクスのものではありません」
 ケルベロス達の猛攻を受け満身創痍の盾兵を、古代語の詠唱と共にラズリアが放った光線が石化の呪力で蝕んでいく。
 だが、抵抗を続けようとする盾兵の背後から現れたのは爪兵。繰り出さた鋭い爪の一撃に身構えた夜の前に、小さな白い影が躍り出る。
「成親っ!」
 抉る爪の一撃の前に身を挺した成親を宿利が呼ぶ。成親は大丈夫だというように鳴いて応え、口に咥えた神器の剣で盾兵に果敢に斬りかかった。
 その姿を見た宿利は静かに頷き、白雪の如き一振りの刀を構えた。
「華よ、散るらん――」
 刹那の一瞬。それは万物に存在する死の形――所謂急所を、高速かつ的確に斬り捨てる必殺の剣撃。
 花のように可憐に一瞬に、命を砕かれた盾兵が硝子の砕けるような音と共に霧散する。
「――手を貸して、」
 白縹が自らの箱ごと飛び込んでいくのを目で追い、イェロは爪兵へ星剣の切っ先を向け、呼び掛けた。愛おしむような声音に寄り添う白く繊細な指先がそっと刃を撫でると、凍えるほどに冷たくも甘い吐息が星煌めく刃に加護を咲かせる。
 一閃。凍れる結晶の柱に囚われた爪兵へ、ロビネッタが銃口を突きつけた。
「よーし、ここにサインを印そう!」
 改造されたリボルバー銃から撃ち出された無数の弾丸が壁へ突き刺さる。弾痕で描こうとしたイニシャルの代わりに舞うのはサインが記された一枚のカード。全身に穴を開けられた爪兵へ、ツグミが静かに手を伸ばした。
「あなたの全て。余さず残さず有効利用してあげますよーぅ♪」
 金属の体を抉るように右手を突き立て、ツグミは笑う。知識も技も、魂すらも砕いて潰して――全てを喰らい尽くすその力の前に、爪兵は最早為す術もなく砕け散った。
 最後に残された槍兵も、牽制によって積み上げられた炎と氷により力が弱まっていた。
 静かに踏み込んだ夜は舞うように刀を振るって。
「さぁ、思惑は無に帰した。咲く六花も見えぬ昏き黄泉路へ堕ちて逝け」
 速翼の鳥が天を駆る。
 宵闇を裂き、黄泉路を拓きて、冥府へ葬る――それは、終焉の軌跡を描く一閃。
 刻みつけられた一撃に膝をついた槍兵へ、ラズリアは凛と声を紡ぎ上げる。
「始原の楽園より生まれし剣たちよ。我が求めるは力なり。蒼き輝きを放つ星となりて敵を討て!」
 周囲に展開した魔法陣から生み出された無数の蒼剣の輝きが、一斉に機兵を刺し貫いた。
 無数の蒼い軌跡はまるで流星群の如き輝きを放ち、ダモクレスの命ごと抱いてどこかへ消えていく。
 だが、戦いはこれで終わりではなく。
 守護者達を失った輝きの卵を、ケルベロス達は油断なく取り囲み、その『卵』の中から囚われた茉莉を救い出す。
 そして、戦う力も抗う力も持たぬ輝きの卵もまた、ケルベロス達の手により在るべき場所へと還されたのだった。

 救出した茉莉に外傷はなく、ヒールを施せば程なくその目が開く。
「……あ、あれっ……?」
 目を覚ませば見知らぬ者達が周りにいて、加えて室内が荒れ放題ともなれば、これは現実かと頬を摘んだりもしていたけれど。自分達がケルベロスであることを告げ大まかに事情を説明すると、茉莉は感謝と共に頭を下げ、それからはっとしたように顔を上げた。
「あのっ、今、何時です、か……?」
 ――そう、今日はクリスマスイブ。茉莉にとっては、大事な恋人とのデートの日。
「と、いうわけで、時間ないのでお洒落を続行しましょーぅ!」
 そう言うとツグミは茉莉の手を引き、ドレッサーの前へと促す。
「大好きな人、待っているのでしょう? 私たちにまかせてくださいな?」
 微笑みかけるレイラに、宿利も張り切った様子で続いた。
「さ、急いで準備しましょう! 素敵なデートの為にお手伝いするよ」
「着替え、手伝う? ……なんてね、冗談」
 宿利の眉が釣り上がるより先に夜は肩を竦め、傍らのイェロに話を振った。
「さあイェロ、俺達は肉体労働に勤しもう」
 一連の流れに、イェロは目を瞬かせつつもやんわりと笑って。
「流石に女の子の服の着替えを手伝うわけには行かないからなー。茉莉ちゃん、良ければ後で髪の手入れでもさせてもらえるかね?」
「あたしも手伝うー! お部屋は綺麗にしておいてあげるから、あたし達のことは気にしないで!」
 デートの時は、彼氏のことだけ考えてね――そう言って、ロビネッタはにっこりと笑ってみせた。

 突入時に止むを得ず破壊したことでだいぶ風通しが良くなっていた玄関と、戦いで荒れた室内とがファンタジックに修復されてゆく中、慌ただしくも和やかな空気の元で準備が進められていた。
 リコリスの勧めで、遅れるかもしれないことは連絡済み。ケルベロスさん達が助けてくれたの、と少々興奮気味に告げる茉莉に、電話口の向こうからも驚きと興奮の声が上がっていたのは、また別の話だ。
「お洒落も大事ですが、手袋やマフラーでの防寒も大事ですよ。折角のデートに、凍えていては台無しですから」
 やはりどうしても気が急いてしまっている茉莉の代わりに、リコリスは細やかな所に気を配る。
 大切なプレゼントを忘れたりしていないかと告げれば、案の定茉莉は忘れていたよう。
 着替えを終えた所で、宿利は似合いそうなネックレスを探して茉莉に着ける。
「……どうかしら?」
 揺れるのは、幸福を願う小さなクローバー。笑みを深める茉莉に、宿利も微笑んで。
「私もね、お洒落はお勉強中なの。まだ、恋は解らないけれど……」
 ――けれど、大好きな人を吃驚させて喜んで貰いたくて、今日を楽しみにしていたその気持ちは解るから。
 だから助けることが出来て本当に良かったとそっと告げれば、茉莉はほんの少しだけ瞳を潤ませ、ケルベロスさん達のおかげですと頷いた。
 着替えを済ませた茉莉に、続いてラズリアとツグミがメイクを施す。
 使えるものは何でも使うことを行動方針とするツグミにとってはメイクも言わば女の武器の一つで、その手腕は遺憾なく発揮されていた。年齢が近いこともあって、ラズリアは茉莉に親近感を覚えながら、こっそり持ってきた自前の化粧品も使い、張り切った様子で。
 派手目なメイクよりはナチュラルメイクの方が似合いそうだというラズリアの見立てに間違いはなく、
「とっても可愛くなりましたよ」
 ぱちりと目を瞬かせた茉莉の表情が途端に綻ぶのを見てラズリアは満足げに頷き、ツグミもにっこりと笑みを深めた。
 メイクが終われば、いよいよ髪のセットだ。
 同時に、ヒールを終えた夜が茉莉の爪にマニキュアを塗っていく。
 女性に塗る機会が多いため、扱い慣れているのは素知らぬ風で。速乾性のコートで仕上げると、俺からの贈り物と微笑んだ。
「わぁ、爪もとても可愛くなったね、流石夜くん!」
 可愛らしく彩られた爪に瞳を輝かせる宿利の側で、茉莉もきらきらと瞳を輝かせていた。
「ふわふわの髪の毛……可愛いんですから、ちゃんとセットしてあげませんと」
 そのふわふわの髪はレイラとイェロの手で綺麗に整えられ、洋服に合わせてアレンジされていく。
「……ところで、恋人さんのどんなところが好きなんです?」
 さりげなく尋ねるレイラに、茉莉は途端に顔を赤くして。
「お、……おひさまみたいに明るくて優しい、笑顔が、好き……です」
 最後は消え入りそうな声になりながらも答えた茉莉に、レイラは笑みを綻ばせた。
「では、最後の仕上げと行きますよーぅ♪」
 そして、最後にツグミがぽんぽんと茉莉の身体を軽く叩けば、クリーニングの効果により、服も身体も綺麗になった。

 マンションの入口には、準備の間にリコリスが呼んでいたタクシーが待っていた。
「……あのっ、ケルベロスさん、本当に、ありがとうございましたっ」
「綺麗だよ。彼氏殿の元へ行かせるのが惜しいくらい。――幸せな宵を」
 改めてぺこりと頭を下げた茉莉を笑みと共に褒める夜の声音は、冗談とも本気ともつかぬもの。
「デート、良い思い出になるといいのですけど」
 ほんの少しばかり案じるようにレイラは呟くが、きっと杞憂に終わるだろうこともわかっていた。
「彼氏さんからしてみれば、どんなきみでも好きに変わりないだろうけど。今日の茉莉ちゃんはその中でも、とびきり魅力的だと思うぜー」
 だから自信を持っていいとイェロも穏やかに笑って。
「どうか、幸福な時間を過ごせますように」
「いってらっしゃい、幸せな夜を過ごしてね」
 願うように紡ぎ微笑むリコリスに、宿利も満面の笑顔で――そして、メリークリスマスとお決まりの言葉と共に、ケルベロス達は茉莉を送り出す。

 ――その、帰り道。
「君にも魔法を施そうか」
 そう告げると宿利へ手を差し出した夜は、差し伸べられた手を取り小さな爪にそっと唇を寄せた。
「ふふ、嬉しいなぁ……」
 それは、先日の約束の続き。指先に触れた柔らかな暖かさに、宿利は目を細めて。
 見上げれば、空に舞う白の欠片。天の御遣いの羽のようなそれに、夜はただ願う。
 世界が祝福に包まれる今日の日だけは、誰の元にも幸福が訪れますようにと――。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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