●クリスマス、俺と過ごそう?
「もしもしミキちゃん。クリスマスイヴのデートだけど、ランチが美味しいレストランがあってさ、そこ行こうよ。
え、ディナーが良い? ごめん、用事があって……違うよ、別の子とデートなんてしないよ! じゃあね、愛してる」
男はスケジュール帳に予定を書き込み、別の女性に電話を掛け始めた。無論、クリスメスデートを取り付けるためである。
二股どころではない。イヴもクリスマス当日も、複数の女性とのデートを詰め込むつもりでいる。
「クリスマスに彼女を取っ替え引っ替え出来るなんて、さっすがイケメン♪」
突如現れたシャイターンの手により、抵抗する間もなく男は青い炎に燃やし尽くされた。
「なかなか、良い見た目のエインヘリアルにできたわね。やっぱり、エインヘリアルなら外見にこだわらないとよね」
3m程のエインヘリアルへと生まれ変わった男。しかし持ち前の甘いマスクに、ハイセンスな服でも易々と着こなしそうな細身の体型は健在だ。
「でも、見掛け倒しはダメだから、とっととグラビティ・チェインを奪ってきてね。そしたら、迎えに来てあげる」
男はうやうやしく炎彩使いに頭をさげ、夜のアウトレットモールへ繰り出した。
●ヘリオンにて
「街中クリスマスの装飾で溢れて、なんだかワクワクしますね。特に夜はクリスマスツリーのイルミネーションがとても綺麗です。 ……ですが、そんな素敵なアウトレットモールにエインヘリアルが向かっているようです」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は少し悲し気な表情で、現場の状況について話し始めた。
「死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルにする力を持ったシャイターンの手によって、この男性はエインヘリアルに変化してしまいました」
5人組シャイターンの炎彩使いのひとり、青のホスティンに目を付けられてしまったのが運のつきと言うべきか。当の本人は、自分が優れているから導かれた勇者になったのだ! と、意気揚々のようである。
「エインヘリアルは、グラビティ・チェインが枯渇した状態のようで、人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうと暴れだすようです。どうか皆さん急いで現場に向かい、暴れるエインヘリアルの撃破をお願いします」
エインヘリアルはルーンアックスによる攻撃を仕掛けて来るようだ。
スタイルの良さを生かした細身の青い鎧に身を包み、ルーンアックスもビジュアルを重視した流線的なデザインをしているが、エインヘリアルとしての能力は十分で、攻撃力の高い一撃を繰り出してくるので注意してほしい。
場所は屋外型のアウトレットモールで、夜の時間帯とはいえ買い物客で賑わっている。
「エインヘリアルが出現し、暴れ始める場所はモール内の右奥にある広場です。クリスマスツリーが飾られていて普段は憩いの場ですが、戦闘に十分な広さがあるので敵を広場に留めつつ戦うのが良いと思います」
セリカはモール内の案内図を広げて、そう提案した。
「生前は、自分の美貌を鼻にかけて、好き放題に女性を選び飽きては捨てるという事を繰り返して来た女の敵のような人でした。
自分が優れた人間だという事を疑いもせず、エインヘリアルとなった今は『選ばれし勇者である自分の為に人間が糧になるのは名誉な事だ!』 と、殺人を犯す事に何の抵抗も無くなっているのです」
残念ながらエインヘリアルになってしまったこの男性を救う事は出来ないが。
「放っておけば多くの買い物客の方達が危険にさらされてしまいます。どうか皆さんの手で守ってほしいのです」
そう言ってセリカは皆を送り出すのであった。
参加者 | |
---|---|
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552) |
上月・紫緒(シングマイラブ・e01167) |
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958) |
ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730) |
リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486) |
天原・俊輝(偽りの銀・e28879) |
真田・結城(穀潰し・e36342) |
●パニックアウトレットモール
長く冷え込む冬夜の下でも、クリスマスの装飾が施された夜のアウトレットモールは、買物客で賑わう暖かなムードに包まれていた。
現場へ向かうヘリオンの中、
(「誰かに恋をする、誰かを愛する。そのような尊い想いを捨てるひどい人のなれの果て……。許せないです」)
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)の耳元には、小さなシルクハットの耳飾り『Top Hat』。如意棒でもあるそれを手で弄びつつ、贈り主の大切な女性に想いを馳せる。
現場にケルベロス達が降り立つと、クリスマスツリーの飾られた広場にエインヘリアルの姿があった。
「ふっ……素晴らしいイルミネーション。俺の登場を彩るに相応しいな」
などと自分の美貌を鼻にかけた態度は人間の頃のまま健在だ。鎧に施されたシルバーの装飾に、カラフルなイルミネーションの光が映り込みご満悦の様子。
3mもの巨躯をもつエインヘリアルが現れたとあって、途端にパニックになった客達が逃げ惑う。
「落ち着いて、こちらに進んでくれ」
割り込みヴォイスを使ったギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)の声が届き、広場の外へ向かう人々の列がスムーズに動き始めた。警備員も手伝って避難が進む中、リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)は逃げ遅れの無いよう、声を掛けて回る。
「とにかくここから離れなさい」
(「今日は預かってる家出娘も、旅団の泉くんたちもいるし、普段以上にしっかりやらないとね」)
普段はやる気ない彼女だが、いつになく凛々しい。
「立ち上がれますか? ゆっくり、落ち着いて」
一方の真田・結城(穀潰し・e36342)。パニックで涙目の少女を助け起こし、避難列へ合流させてあげる。
「おやおや、皆帰ってしまうのかい? これからひと暴れしようって時に」
エインヘリアルが煌びやかなルーンアックスを構える先には、逃げ遅れた女性の姿があった。顔面蒼白で立ち尽くす彼女の前に、
「させません!」
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)が立ちはだかる。
「私達ケルベロスがお相手しますよ」
「さぁ、こちらです!」
名乗りをあげる倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)の声に反応して、幾多の女性に向けて来たキメ顔で振り向くエインヘリアル。
柚子がオウガメタルを纏った拳で殴り掛かると同時に、上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)も黒い翼で飾った大鎌を振るい、肩口を激しく斬りつける。
「容赦ないねぇ。ま、凛々しい女性達も素敵さ!」
「今日の相手が綺麗な女性ではなくケルベロスなのは不運だろうが、ここで止めさせて貰う。
せめて安らかにいけるよう、努めよう」
リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)も敵の正面を固め、仲間達に注意が向いている内に、俊輝は女性を広場の外へ連れてゆく。
「ここまで来れば安全です。戻って来てはいけませんよ」
「あ、ありがとうございました……」
踵を返して広場へ戻る俊輝、そして客達が残っていない事を確認したリナリアは、殺界形成を発動させた。
●広場は戦場に
「椅子!」
爆破スイッチ片手に仲間の元に駆けつけると、前もって戦場に置いたミミックの『椅子』が普段通りまったりしているのが目に入り、
「ほら、いつも一緒に戦ってる皆がいるでしょ?
気合入れて壁になりなさい! 椅子ならできるから! ファイト!」
叱咤激励しつつぽちっとスイッチを押すリナリア。カラフルな爆風を背に、カッとやる気を見せた椅子が鎖状のエクトプラズムで縦横無尽に動き出す!
対してエインヘリアルは2本のルーンアックスを掲げ、
「記念すべき一撃目は貴方にっ!」
と、狙うは紫緒。だが、飛び込んできた椅子が代わりにクロスに斬りつけられ、ショッピングウィンドウに豪快に叩きつけられた。
「邪魔が入ったか……」
「わっ、ありがとうございます」
「やれば出来る子!」
生前の姿を反映して細身であるものの、エインヘリアル故の巨躯から繰り出される一撃の破壊力は大きい。
傷ついた椅子の元に、ウイングキャットのカイロがふわりと翼を広げて舞い降り、傷を癒した。
「……力を」
そっと呟き、意識を集中させるリノンに宿る呪いの力……バシリス・アーディン・アイオーニオン・カタラ。後列の者達に力を与え、追随して俊輝も小型ドローンの群れを呼び寄せ、前衛陣の警護を強化する。
(「何か、マメな男だったみたいですね……。モテるのが誇らしいのは同じ男として分からないでも無いですが。
もう少しそのマメさを何かに活かせなかったものか。……まあ、今はもう遅いですが」)
クリスマスの度に多くの女性を泣かせてきた男も今やエインヘリアルになり果てた。
「相手の小皺を見つけても愛しくなるほど、一人の女性と長く付き合うのも悪くないものですよ」
それは生前の彼が想像もしなかった、幸せの形なのだろう。
強力な敵の一撃に備え、ギルフォードは全身に纏ったオウガメタルの装甲からオウガ粒子を放出し、前衛メンバーの超感覚を研ぎ澄ませる。
(「彼の事も、できるなら助けたのですが」)
元は人間だったとはいえデウスエクスになり果てた今、してやれる事は全力で戦う事だった。結城は無銘・陰を鞘から抜き、緩やかな弧を描く斬撃で腱を的確に斬り裂いた。
「ぐっ……」
斬られた所を庇うように屈んだエインヘリアルに手加減攻撃を加えながら、
「選ばれたようですが、何で選ばれたのか。そして、何故その選びによって人を弑する権利を得られたと思います?」
泉は疑問を投げかける。
「青のホスフィン様が認めたこの美貌さ!
ま、選ばれたのは当然の事だけれど。俺の為に糧になる人間達はさぞかし名誉に思うだろうね!」
炎彩使いに選ばれた事に自尊心をくすぐられたのだろう、人を殺める事さえ特別に許された権利であると言わんばかりだ。
「君も光栄に思うがいい!」
ルーンを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろすが、泉に躱された刃先は空しく地面にめり込んだ。
その機を逃さず、柚子が爆破スイッチを押し、カラフルな爆発を背に踏み込む紫緒。
ーー以前愛と憎しみで狂っていた紫緒を救ってくれた恋人を思い出す。その過去があるからこそ、しっかりと前を前を向いて戦える。
(「あなたのような恋を弄ぶ人は許せない」)
納刀状態の恋獄ノ大太刀を一瞬にして抜刀。無駄のない動きで敵の肩口をたちどころに斬り捨てる。
ずううん、と派手に音を立ててエインヘリアルがよろけ、路面店の看板が派手にひしゃげた。体勢を立て直す間を与えず、
「ほら、こっちだ!」
空の霊力を帯びた白刃不動を構えたギルフォードが飛びかかる。
「ぐっ……」
その刃先は傷口を正確に斬り広げ、エインヘリアルはその容姿淡麗な顔を歪ませるのだった。
絶え間なく攻撃を紡ぐ仲間の援護にあたるリノン。半透明の「御業」を鎧に変形させて結城に纏わせる。
それを受けて、神速の突きを繰り出す結城。剣先は雷の霊力を帯びて、咄嗟に受け止めたエインヘリアルの腕に迸った。
「あーあ、鎧をこんなに傷だらけにしてくれちゃって。気に入ってたんだけど」
この期に及んで気にするのは自身の見た目の事ばかり。
「ここで油売ってる訳にいかないんだよね。ほら、人間達のグラビティ・チェイン沢山集めないといけないからさ」
早く決着をつけたがるそぶりをみせるーー体力が削られ内心焦っているのだろう。再びルーンアックスを構え、高々と跳躍。
その巨体から繰り出される一撃は凄まじく、狙いを定めるは正面に立つギルフォード。
「させませんよ!」
ずいっと庇いに入った俊輝の頭上に振り下ろされる斧。その刹那、ボタボタと鮮血が溢れだしてくる。
すぐに駆け寄る柚子に、カイロも羽ばたいて着いてきた。
「これが私の万能薬です」
サキュバスミストを濃縮した桃色の液体が俊輝に降り注ぎ、カイロの清浄の翼も手伝ってじわりと傷が癒えてゆく。
礼を述べて立ち上がる俊輝の傍らにはビハインドの美雨。
美雨の念で路面店の棚のクリスマスギフトが浮き上がり、エインヘリアル目がけて次々に飛んでゆく。
「痛て、痛たた!」
そう気をとられている内に、俊輝のアームドフォートの主砲がロックオン。一斉発射された砲撃が次々に着弾した。
煙幕が燻る中、立ち上がるエインヘリアルは幾多の傷を負いながらも余裕の笑みを湛える。
そして攻防は巡りーー、傷ついた仲間達をメディック陣がサポート。
「……負傷者が多い。分担頼めるか?」
「まかせて! 進め、この風と共に!」
リノンのメタリックバーストが発動し光輝くオウガ粒子が放出されると共に、リナリアの『勝利を運ぶ追い風』が吹き荒ぶ。
追い風を受けて、
「これが、本気の力です。……行きます。……狼牙斬・爪牙!」
霊力を込めた刀に手を掛け、結城は敵前へ進み出た。刀を振り下ろせば、追随するように狼の形の霊力が襲い掛かり、
「ぐぁあああ!」
避ける事も出来ず、切り抜かれたエインヘリアルは悲鳴を上げた。
「産まれて間もないのに悪いな? そんな不幸なおたくに一足早いプレゼントだぁ、【死】って言うんだが受け取ってくんな!」
間髪入れずギルフォードの声が轟く。指先に生み出された糸に電気が迸り、
「穿つ……打ち抜けっ!」
爪を立て引掻けば、電気を帯びた糸がエインヘリアルの胸をいとも簡単に貫いた。
「まだだ……選ばれし勇者である俺が、こんなところで死ぬなんてダセーだろ」
持ち前の頑強さで再び立ち上がるも、戦闘開始時の余裕は無くなっているようだった。
自身にブレイクルーンを掛けて傷口を繕うが、蓄積されたダメージは誤魔化し様もなく。
「これ以上不幸を増やさないためにも、ここで倒れてください」
今日の紫緒は周囲を不幸にする『敵』に対する刃。一対の黒翼に魔力を込めて重力の鎖とし、
「女神が微笑む夜の舞、お付き合いくださいな♪」
右足を軸に翼を振りく夜の舞踊。避けようもない強大な黒の奔流がエインヘリアルに襲い掛かると同時に、
「制御できる自信はありませんが、ヒトツメ、行きますよ?」
一切の無駄のない動きで心臓を貫く、泉の一撃。
黒い奔流から解放された彼に、余力は残っていなかった。
「彼女が、選ばれし者である俺を迎えにくると言っていた……」
最期の時でさえ、脳裏に浮かぶのは女性の事。勝手に最新の彼女認定していた青のホスフィンの顔が浮かんで……。
●ドリーミー・ナイト
エインヘリアルの消え失せた跡を見つめて。
「恋心を弄ぶ人は紫緒の敵ですけど。それでも、なんていうか、なんていうか!
うん、アナタを倒して誰かの恋が終わってしまうのは、とてもさみしいです」
救えたら、説教のひとつでもしてやりたい相手だったのだ。
「手痛い罰だったな。生まれ変わったら今度はひとりを愛し抜くといい」
ぽつり呟くリノンの背後で、ブルースハープの音色が聞こえてくる。それは泉なりの鎮魂歌だった。
このような形とはいえ、彼もまた被害者といえる。
「派手に暴れてくれましたね」
結城が周囲を見渡すと、割れたショッピングウィンドウ、今にも落下しそうな店看板、物が置けないくらいにひしゃげた商品棚……エインヘリアルの暴れまわった跡がまざまざと残されていた。
「これは直し甲斐がありますね」
俊輝に続いて、数人がかりで建物にヒールを掛けてゆく。直った個所に幻想が混ざり、思いがけずクリスマスムードを引き立てるようだった。
「クリスマスだけに限れば広場も多少幻想的な方がいいのかもしれませんね」
柚子の言うように、アウトレットモールに戻って来た客達は少し雰囲気の変わった建物群や広場の様子に喜んでいる様だ。
ケルベロス達の活躍で、こうして今年のクリスマスも平和に迎える事が出来たのだった。
作者:koguma |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2017年12月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|