聖夜略奪~機構天使が奏でるは

作者:黒塚婁

●輝きの卵
 クローゼットから、何枚かの服を取り出し、ベッドの上に並べる。
 どれも彼女にとってお気に入りで、とっておきの服――眺めているだけで幸せになれるが、ぼんやりはしていられない。
 クリスマスのデートともなれば、一番素敵な服が着たい。だが、相手の好みもある。
 首を傾げ、ああでもないこうでもないと服の前を往復する。
 服に気を取られていたから、というわけではないだろうが――彼女は気付かなかった。
 突如、自室の中に空間の歪みが発生し、そこから天使の似姿をした機械兵たちが姿を現していた。
「えっ!?」
 両脇から腕と身体を拘束され、彼女は始めて驚きの声を放つ――しかし、そんな小さな悲鳴ごと、腹に卵をかかえたような一体が、彼女をその中へと閉じ込めてしまう。
 首尾は上々、それを確認した残る三体はそれぞれに顔を見合わせた。
「コノまま、クリスマスまで防衛せしめれバ――」
「然すればグラディウス封印はなされリ」
 確認するように言葉に乗せ、屈強な天使が二体、どんと卵の前に仁王立ちになる。
「然り。我ラ『輝ける誓約の軍勢』――クリスマスの力を持ッテ、絶望ヲ生まんや」
 最後の一体が祈るように手を組んで、防衛の陣を完成させるのだった。

●救助指令
 ゴッドサンタの事件は覚えているか、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロスたちに問いかけた。
 ケルベロスは昨年のクリスマスに発生したゴッドサンタ事件を解決し、グラディウスを得た。そしてそれによりミッション破壊作戦が決行可能となり、この一年で多くのミッション地域を開放してきた。
 だが、デウスエクスにとっては、度し難い状況であった。
「よって、状況を打開すべく……地球に潜伏していたダモクレスの潜伏略奪部隊――『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用してケルベロスが持つグラディウスを封じる作戦を仕掛けてきたようだ」
 目を細め、辰砂はそう告げる。
 奴らはクリスマスデートを楽しみにする女性の元へ魔空回廊を使って出現すると、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に閉じ込め、グラディウス封印の儀式を開始する。
 輝きの卵には戦闘力はないため、周囲には三体の護衛ダモクレスがついており、これを倒せば女性を救出し、卵の撃破が可能となるだろう。
 概要を語り終えると、辰砂は護衛ダモクレスについてだが、と切り出した。
 護衛についているのは輝きの盾が二体と、輝きの音が一体。
 防衛に特化した盾が二体、支援を得意とした一体という構成だ。
 一体の盾は兎に角守りを堅め、仲間を癒やす。もう一体の盾は比較的攻撃を行う。いずれにせよタフな相手となろう。
 戦場は女性の部屋――ワンルームマンションの一室のため、多少手狭ではあるが、戦闘において困ることはないだろう。
「儀式終了後にどうなるか、か。卵は自爆し、そのエネルギーの全てをグラディウスの封印に使うらしい。無論、女性は死亡する……それを見逃すことはできん」
 厳しい口調で告げると辰砂は説明を終えるのだった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)

■リプレイ

●戸惑いと決意
「私は人の幸せは妬むけど……踏みにじる奴は地獄にでも落ちとけはいいのよ!」
 実際これから落とすけど、と雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)は憤然とドアを睨む。
 何年もデウスエクスと戦っていれば、イベントが狙われるのも慣れたものだが、よもや会場ではなく個人を狙うとは。
「グラディウス封印は勿論避けねばならぬ事態……然しそれよりも、幸せな女性が犠牲になる等あってはなりません」
 早急に排除致しましょう、涼やかに言い放ち、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は眼鏡に手をかける。
 ええ、繰空・千歳(すずあめ・e00639)も強く同意した。
「一年に一度の、とびきり素敵な日なのよ。それを台無しにしようなんて輩、許せないわ」
 鈴も彼女と同じく頷いて、リン、と鈴が小さな音を立てた。
 それにしても――木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)がふと零す。
「輝ける誓約? なーんか聞き覚えがあると思ったら、前に倒した奴と同じ名前……部隊か?」
 彼もかつて、輝ける誓約と対峙したひとりであった。誰にでもなく問いかけるように零した一言を、マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が拾い、頷く。
「まさか輝ける誓約が個体名じゃなくて部隊名だったとはね」
 そんなはずはない、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は言いかけて、躊躇う。
 確かに、巡り逢ったデウスエクスが唯一の存在とは限らない。輝ける誓約が量産ダモクレスであった可能性もある。だが、そういった個体が部隊を率いる長として名前を聴くことがあるだろうか。
 ともすれば、討ち取ったはずの敵の名が――それも彼女にとって特別因縁深い相手であれば、戸惑うのも無理は無い。
「これも何の因果か偶然か。出来る事ならお会いしたくなかったね」
 やれやれと肩竦めるケイの言葉に、真理は無表情のまま何を思うか。
 彼女の細やかな心情はともかく、それが倒れたのを見たレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)にとっても、気がかりな事象であった――だが、今は。彼は思案するように組んでいた腕を解き、好戦的な笑みを浮かべる。
「何度でも存分に相手をしてやる……と言いたい所だが、今日は生憎俺様も予定がある。速攻で片付けさせて貰うぞ!」
「ああ――でハ、突入すル」
 機を計り、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)がその扉を開け放った。

●破壊を奏でる天使
 状況は情報通り、眼前に二体の屈強な輝きの盾、奥に輝きの音が輝きの卵に寄り添うように構えていた。
 卵に取り込まれた女性は透明な硝子の中で拘束されたまま意識を失っている――怪我はなさそうね、と千歳は小さく呟くと、ガトリングガンの左腕を正面に向けた姿勢で、駆けた。
「素敵なクリスマスを迎えるためにも、きっちり片づけてしまうわよ――甘い甘い世界へ連れていってあげましょう。」
 ガトリングガンの奏でる爆音に反して、放たれるのはカラフルな飴玉に似た弾丸。
 幻想的なそれを弾くのは、後方を守るように、羽を広げて前進する盾。
「我ガ身ある限り、射る能わズ」
 ともすれば彼女に覆い被さるように――室内においてはかなりの威圧感があった。
 鈴が生み出した金色の酒が盾達の前で広がり、それを目眩ましに彼女はひとたび間合いを取る。
「しっかりと守っていくわよ、鈴」
 声をかければ相棒は嬉しそうに鈴の音を鳴らした。
 敵の姿を、真理は赤い瞳でじっと見つめる。ダモクレス達の形は、仇に似た雰囲気を持つ――ただ、その躰は輝きの名に恥じぬ白金。
 赤金の記憶を呼び起こしかけ――振り払うように、ひとふさの赤毛を左右に揺らし、彼女はアームドフォートの主砲を解放する。
「訊きたいことは色々あるですが――まずは」
「いっけー!」
 真理はプライド・ワンの突撃に合わせ、砲撃する。同時に利香が黒色の魔力弾を放つ。
 プライド・ワンは盾達の足元で激しくスピンし、その動きを阻害する。真理の砲弾は身の丈ほどある盾の剣で叩ききられたが、後方を狙った魔力弾は輝きの音に届いた。
 だが、それは特別な防御の姿勢もなく受け入れたにも関わらず、余裕を滲ませた。音の構えるスピーカーのような装置から、それを打ち消すような音波が発生したようだ。
 なるほド、冷静な声音が後方より響く。
「貴様ノ大切なものヲ、奪っテやろう」
 眸の右目の前に仮想ウィンドウが展開する――無数の数式が流れ、敵の構成物質を分析する。
 計算完了と同時にウィンドウは消え、前へと構えた右手より放たれたエネルギーの弾丸が、装置を狙う。重ね、キリノが家具に念を籠め、畳みかける。
 それぞれの弾丸はひとつのスピーカーを穿ち、破壊する。すぐに直る疵であるが、それはそれで構わぬと、彼は冷静に次の攻撃へと移行する。
「ポヨンは攻撃に専念してくれ。指示も出してやるからさ」
 行くぞと一声、相棒に合図を出し、ケイが炎を巻き上げ一蹴する。追いかけるように水のブレスが続く。
 させヌ、盾が前に出る――炎と水を受け止めるそれの横を、朧げな紅の炎が揺れた。
「――失礼」
 音も無く抜き撃つ、加護を否定し、守りを貫く一刀。
 彼の狙いは奥に構える音であったが、すかさずもう一枚の盾が目の前に立ち塞がった――驚きも、厭いもない。ならば盾を斬れば良い。
 金属と刃がぶつかり、小さな火花を上げた。だが、相手の姿勢は変わらず、白と金で彩られた身体に疵は無い。
 彼の滑らかな刀捌きは一見緩やかだが、敵を一撃で粉砕することもある強烈な剣戟だ。
 ほう、小さな息を零し、彼は炎に灯された藤色の瞳を細め、これは骨が折れそうだと裡でひとりごつ。
 だがそんなことは承知の上――マルレーネがゾディアックソードで床に星座を刻む。
「せっかくのクリスマスに、とか女性の命を、とか言いたいことは多々あるけど……」
 仲間達へ守りの加護を広げつつ、彼女は高らかに宣言する。
「真理の心を悩ますお前たちはここで倒す!」
 その意気だ、地獄の炎を揺らめかせ笑い、レッドレークが胞子を放つ。
「根を張り、奪い、爆ぜろ!」
 それは音の躰に火の粉のように纏わり付いたかと思うと、真っ赤な地獄の炎を纏う花冠を為す――美しく爆ぜる火花。
 砕けかけた装置が更にひび割れるが、それを敢えて起動させながら、音は祈るように指を組む。
「我ラが使命……砕かせハせぬ」

●破滅を奏でる番犬
 盾が振るうは鉄塊のような無骨な剣だ。それが恐ろしい速度で叩きつけられる。火花が幾度か散る。
 千歳の左腕――ガトリングガンで受け、捌き続ける。
「こちらの守りを崩せるなんて思わないでちょうだいね?」
 ――そんな程度の攻撃じゃあ、痛くも痒くも無いわね。強がりでもなく、彼女は笑う。
 ケルベロス達は一気呵成に攻め込む。相手が防戦を優先するため、殆どが彼らの攻撃であった。
 盾もまた、悉く凌ぐ。一体が輝きを放って支え、一体が攻め込む。備える長大な剣を広げ、ケルベロス達を蹴散らすように振り回す。
 だが彼らにはマルレーネよりもたらされた強固な守りがある。
「大丈夫、回復は任せて」
 仲間に――真理に、彼女は後ろを任せろと告げ、直ぐに鎖で魔法陣を編む。
「さあて、いつまで守りの姿勢が貫けるかしら?」
 今度は右腕でドラニックハンマーを構え、千歳が試すように放った竜砲弾は、盾の腕が受け止める。すかさず、耳障りな音割れた賛美歌が盾の疵を修復する。
 狸々砲弾を高く宙に放り、利香も跳ぶ。
「地平線の果てまで吹っ飛べ―!」
 リア充爆発(物理)――などと脳裡の片隅に浮かべつつ、バレーのスパイクよろしく叩きつける。
 盾達の背後で着弾したそれは、魔力を帯びた鉄くずを四散させ、音の表面をひっかく。未だ浅いか、堪えた様子はない。
 二蹴りほど、景臣は床を蹴り、刀を振るう。盾を躱し、奥へと斬り込む――だが、身を返すのも難しそうなそれは家具を蹴散らしながら彼を横から体当たりし、その攻撃を阻む。
 衝撃に驚くも直ぐに後ろに退く。すれ違い様に斬りつけた彼の刃は、盾の守りを擦り抜け、核を汚染している。
 先行したプライド・ワンが盾止められ――相棒の影より真理が腕を突き出す。カモミールの花を咲かせた攻性植物が、獰猛に顎を開き、伸び上がる。それは音の腕に食らいつくか、というところでそれが放つ音に撃ち落とされる。
 隙間を縫うように、軽やかにガトリングガンを繰り、眸は撃つ。爆炎の弾幕は気付けば、盾に受け止められている。だが、その金属の躰を包む焔には意味がある。
 キリノの心霊現象にしても同じ事だ。
 だが、もどかしさはある。もう何分戦っているのだろうか。
(「そんな時こそ落ち着いて……られるか!」)
 主の指示に従い、重箱に戻ったポヨンが盾へと体当たりする。僅かに出来た後方への空間へ、ケイが刃を振り下ろそうとした時――喇叭が鳴り響く。
 身を縛る呪いを秘めた異音の衝撃は鈴が受け止めた。
「邪魔を……するんじゃねえええ!!」
 ケイは吼えた。
 黒髪を靡かせ、怒りを力に、二刀を振るう。
 ――届いた。音の両肩から斜めに深い疵が走った。そのまま、躰の中心まで線が伸びる。それが両腕で自身を抑え込んでも、ずれていく躰を止めることはできぬ。
「俺様が刈りとってやろう!」
 更にレッドレークが赤熊手を放った。大きく弧を描いたそれは唸るように風を斬り裂き――宣言通り、その首を刈り取った。

 それが落ちれば、後は容易い。
 演算を終えた眸の射撃、追って、利香が黒い刀を振るった。その身に刻みつけてきた呪いを深める斬撃。
 千歳に、マルレーネが御業の鎧を纏わせる。
「年に一度の大切なイベントの日。台無しにしようとしている罪は、なかなかに重いわよ」
 再び左腕から飴の弾丸で、最後に残っていた盾の守りごと剥ぎ取る。
 そこへ、炎を纏わせた赤熊手を両手で振り上げたレッドレークが飛び込む。
 ただただ強い一閃が、それの肘を斬り落とす。炎の揺らぎの向こう、二刀を構えた男がいる。
 舞藤を縦、此咲を横に――景臣は鮮やかに振るう。傍目には一動作で行われた強烈な二撃が、盾を十字に断った。
「祝福を与えぬ天使等、居ても意味がないでしょう?」
 あくまでも穏やかに彼は納刀した。
「残るは一体――」
 唸りを上げるチェーンソー剣を掲げ、真理が正面から挑んだ。
 返し振り下ろされる剣をぎりぎりで躱し、飛び込むように斬りつける。横から彼女を掴もうと伸びた手首を切り落とし、くるりと身体を返せば、柄を下げ、鯉口を切るケイが。
「念仏を唱えな。それとも、辞世の句でも詠んでみるかい?」
 室内に美しい桜吹雪が舞い踊る。鍔鳴りの音が響くと同時、桜は燃え上がり、盾は炎に包まれる。
 達人の一刀、剣閃は目にも見えず、結果、それは炎に冒されながらに片腕を切り落とされる。
 危機などとうに去った。もはや、死の運命は確定している。それでも――。
「させヌ――儀式ハ為ス!」
 盾が、哮る。疵から炎を吹き上た状態で、残った片腕を振り上げ、ケルベロスを蹴散らそうとし――止まった。見えぬ力で、キリノが縛り上げたのだ。
 ――ソレは為らなイ。
 碧焔を鮮やかに燃やし、巨大なガトリングガンを片手で振り上げ、眸は淡淡と告げる。
「ヒトを護ルことが、ワタシの使命だからダ」
 それの懐へ、金と碧が奔り、無造作に叩きつける。
 天使の頭部はぐしゃりと潰れ、雷電と炎を纏った残骸が遅れてがしゃりと崩れ落ちた。

●祝福の夜へ
 眸の手により卵の殻が破られ、女性を救出する――千歳が彼女を抱きかかえ、レッドレークがそんな二人を背に庇い、景臣が頷き合図を送る。真理も無言で応じて、ひたと輝きの卵を見据えた。
 残されたそれもまた無感情にケルベロスたちを見ていた。
「『輝ける誓約』は以前私達が倒したです。あの時の感触はまだ覚えてる……貴方達は、何なのですか? 『輝ける誓約』は、あいつはまだ生きてるのですか……?」
 意識せず、声が震えた。
 返事は無い――それが喋るのか否か、解らぬまま暫し待ったが――その薄い笑みを浮かべた顔は、微塵も動かぬ。
 だが、不意に。その眼差しの奥に、真理は何かを見た。
「……いるのですね。『強くなった』あいつが」
 断じる言葉と共に、砲撃が轟く。仲間達も続き、残された天使の像も砕け、きらきらと輝く破片が散らばった。

「あーホントかったい奴ら! しんどかったよ……狭いし」
 トントンと自らの肩を叩きながら、利香がおつかれーと仲間へ告げる。部屋の片付けもしないとね、と少々疲労を滲ませた彼女の言葉に、そうだなとケイは応じるやいなや、ポヨンへ部屋をヒールしてくれと頼む。
 そんなやりとりを傍目に、ばたばたと家主が駆けていく音が響く。
「よかった、間に合いそうね」
 千歳が安堵したように微笑み見送る。
 あれから部屋を片付けつつ、出掛けるための支度に関しては……いかんせん、景臣は戦力外だ。気遣うことしかできぬ。
 そこはそれ、女性陣が色々意見を告げ、何とか折り合いをつけて着替え出掛けていった家主の後ろ姿に、彼は安堵の溜息を吐く。
「ハロウィンの次はクリスマスの力って……人の祝い事が何かエネルギーを生むとかあるわけ?」
 利香の言葉に、さテ、眸は目を細める。
「それほど、ヒトには力があると言う事ダ。結果、こうして襲われ続けルだろうガ――」
 幾度でも護ル。
 その言葉を彼は音にせず唇に刻む。
 人類の魂がグラビティ・チェインを生もうがなかろうが、彼はヒトを慈しむ。

「しかしこれだけの軍勢が、一体何処に潜伏していたのか……しかも着実にケルベロスの手を奪おうとしてくるとは。今後も警戒が必要だな」
 元より敵より仕入れた技術ではあるが――手に入れた力が奪われる可能性もあるのかと、レッドレークが唸る。
 マルレーネは部屋の隅に立ち尽くす真理へとそっと近づいて、その手を取る。
 彼女は未だ鋭い光を讃えた瞳をあらぬ方へ向けていたが、マルレーネは構わず話しかける。
「敵がどれだけいようと最後までつき合うよ」
「……ありがとうですよ」
 ようやく彼女は力を抜いて、マルレーネを見た――いつ邂逅かなうか解らぬ敵より、大切なものがここにある。
 暫し、思考に落ちていたレッドレークは寄り添う二人を見、はたと気付いたように顔を上げる。
「……もうこんな時間か! 俺様も人を待たせているので撤収するぞ!」
 先程とは変わって語尾が弾んでいる。
 丁度終わったぜ、とケイが声をかける。気付けば部屋は幻想的に、しかし完璧に修復されていた。
「よく頑張ったご褒美にケーキとご馳走が待ってるぞ。プレゼントもだ!」
「あら、いいわね。帰ったら私達もご馳走とお酒、かしらね? 鈴」
 千歳は鈴に飴色の瞳で優しく微笑みかけた。

 既に出掛けた女性と、仲間に向け、景臣は穏やかに囁いた。
「――どうか好きひとときを」

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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