聖夜略奪~輝動聖夜の大逆襲

作者:のずみりん

 今年もやってくる。クリスマスイヴがやってくる。それは恋人たちにとって特別な日。そして奴らにとっても……。
「んー、こんな感じでいいのかな……噂の天才美少女アスリート美玲さんをこうも手こずらせるとは、んっふふっ、幸せなヤツめ」
 ノロケというか、自信過剰というか。夜のデートに間に合うか心配になる化粧の様子は、初々しい女子高生らしく、いじましい。
『我ら、輝ける誓約!』
 そんな微笑ましい光景をぶち壊し、魔空回廊は開いた。
「我は、輝きの盾ッ」
「同ジク、鞭」
「同ジク、音」
 騒々しい駆動音を立てて部屋に降り立つ機械天使。家族が異変に駆け付ける間もなく、白銀のダモクレスたちが少女を抑えこむ。
「我らの使命は一つ! 輝きの卵!」
「えっ、いやなにタマゴって、ボクはいそが――」
 文句を無視し、機械的な手際よさで少女の身体がほおられた。蜘蛛とカプセル、人を歪に混ぜたような四体目のダモクレスが受け取り、手際よくそれを収納していく。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護するコト」
 流暢な『盾』の声に、ややぎこちなく『鞭』が報告。頷き、『音』が唱和する。
「さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスは封印される」
「メリー・クリスマス……」
「メリー・クリスマス」
『メリー・クリスマス!』
 はた迷惑な賛美が住宅地に響き渡った。

 今年も懲りずに奴らがやってきた。
 頭を抱えたリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は、集まったケルベロスたちに事のあらましをそう説明した。
「一年前、侵略型超巨大ダモクレス『ゴッドサンタ』の軍勢がクリスマスを襲ってきた……いわゆるゴッドサンタ事件だ。我々はこれを返り討ちにし、対魔空回廊用の戦略兵器『グラディウス』というプレゼントをいただいた」
 リリエの調子は少々物騒だが、無理もない。
 この一年、長きにわたり防戦一方だったケルベロスたちはグラディウスという反撃手段を得るや、一年で四十を超えるミッション地域を粉砕してきた。
「これは伝説の一年になるだろう……が! やらかしたダモクレス達にとって面白い話では当然なかっただろう。奴らは一年越しで逆襲を仕掛けてきた」
 今度はダモクレス側がグラディウスを狙う番である。敵は潜伏略奪部隊『輝ける誓約』……かつてコマンダー・レジーナ配下で暴虐を働いた潜伏略奪部隊の後継機だ。
「予知によると、軍勢は特にリ、リア充? コホン、クリスマスデートを楽しみにする女性を生贄に儀式を行おうとしている」
 儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』と、戦闘力のないそれを守る護衛が三体。儀式の完成と共に輝きの卵は自爆、高められたエネルギーを使ってグラディウスを封印する……という作戦らしい。
「儀式が成功した場合、グラディウスは勿論、閉じ込められた女性も死亡する……最悪の事態だ」
 防ぐためには儀式の完成前に護衛を倒し、『輝きの卵』から女性を救出するしかない。

「皆に頼みたいのはここ……東京都郊外の宅地に住む美玲という女子高生のところだ。護衛の軍勢は前衛の『盾』、中衛の『鞭』、後衛の『音』の三種が各一体、連携して迎撃してくる」
 ディフェンダーとして鉄塊剣を自在に操る『盾』
 ライトニングロッドのような電撃鞭で妨害し、ヒールグラビティもこなすジャマー『鞭』
 バイオレンスギターのような楽曲でメディックを務める『音』
 ケルベロスたちがそうであるように、各ポジションに連携されれば厄介極まりない事となる。
「儀式を行っている『輝きの卵』は戦闘力こそないが、無理に破壊しようとすれば閉じ込められた女子高生……美玲を巻き添えにしようとする。どうせ無力な相手だ、護衛を撃破してからじっくり解体してやればいい」
 古人に曰く『急がば回れ』だ、とリリエは重ねていう。あまり時間はかけられないが、死に物狂いで妨害してくる護衛ダモクレスを放置しての人命救助は得策ではないだろう。

 それと、とリリエは話を区切った後に控えめに付け足す。
「あー……そうだな。恋路に口出しするはなんとやらだが、もし救出後に余裕があったら、美玲を手助けしてやってくれないか? あの様子だと、たぶん酷い結果になる」
 経験者は語る、というヤツなのだろうか。遠い目をするリリエ。
「デウスエクスに襲われて、デートも遅れて、しかも失敗しました……なんて、相当に拗れそうだからな」
 頼む、ケルベロス。リリエの口癖はいつも以上に重かった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)

■リプレイ

●逆襲のダモクレス
「メリー・クリスマ……」
 突然の斬撃。はた迷惑な賛歌を無名の残霊刀が切り裂いた。
「全く、ダモクレスにはクリスマスには暴れるってタイマー機能でも付いてるのか?」
 被害者の一室に飛び込み、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は光景にぼやく。
「それはこちらの台詞、ケルベロス」
「オノレ、ケルベロス」
 少女の部屋の中央に、被害者……美玲を閉じ込めた『輝きの卵』、その周囲に護衛が三体、それに対峙するケルベロスという布陣。
 天使型ダモクレス『輝ける誓約』たちの声が、超至近距離で響く戦場は正直、狭い。
「SYSTEM COMBAT MODE,TACTICAL ANALYSE……」
 起動したマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の戦術分析システムが低く唸る。
 人質を、儀式を守るため。『卵』を破壊したくないのはお互いである。狭所での激突は危険……双方の結論は一致した。
『表に出ろ』
 望むところである。

「今こそ逆襲! カチドキアゲるトキ!」
「ふふん、こういうのは馬に蹴られてなんとやらって言うんデスよ!」
 女性型『輝きの音』の背負ったサラウンドスピーカーが咆哮し、負けじと叫ぶシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)のまとうオウガメタルが輝きを放つ。
 白金のダモクレスと竜騎、衝突する激奏にガラスが割れ、輝きを降らせる。卵以外の被害を気にしないでいい分、戦いはダモクレス有利。
 広がろうとする戦場を押しとどめるべく、ボクスドラゴン『クゥ』を抱いたリュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)は転がり出ながら『boite a malices』のボタンを押し込む。
「……クゥ、がんばろうね……美玲さんと、家族の方……後悔も、困らせもしないように」
 破壊のルーンが刻まれたびっくり箱が起動するのは指向性散弾型の『囮の弾丸』。誓約のダモクレスたちの周囲を無数の礫が、散開しかけたダモクレスをまとめて叩く。
「ぬぅ! 物騒なクラッカー! 鞭よ!」
「ショウチ!」
 だが足を止められつつも、リーダー格『輝ける盾』はひるまない。幅広の鉄塊剣を盾とし、鞭にと辺りを薙ぎ払わせる。再び受けに回るケルベロスたちから切り返したのは灰色の疾風。
「まったく……始めるのがちょいと早いじゃねーか」
 夢をうちこむ『閃光の銀』が、飛込ざまに放たれる。流れるような飛翔蹴り、踏みつけ、回し打ち。シュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)の猛攻が、流れを再び切り裂いた。
「そうかからなかったね、クリスマスのおかげかな。こっちはこれからさ」
 ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)はシュリアに言うと、ミミック『アドウィクス』へと掌を伸ばす。武具を任せる相棒へ、多くの言葉は必要ない。
「僕の宝じゃあないが、グラディウス封印はいただけんな。あれでも流れる血も涙も減らしているのだ」
「ソレこそ我らが汚点ナリ!」
 アドウィクスの具現化した武器と誓約の鞭が交錯する。エクトプラズムの弾ける光のなか、ガロンドは黄金色の宝剣を手に取った。
「君たちお思惑など知ったことか……よし、これで決まりだ」
 うねる刀身がダモクレス鞭を裂き、火花を散らす。身体ごと回転させての追撃に、直撃はさせんと割り込む『盾』だが、ケルベロスたちは見逃さない。
「止まってなんかいられない! あの子を助けて、デートを成功に導くまでがミッション!」
 同胞のオウガメタル『ルーチェ』の輝きに照らされ、ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)の『Crimson Rose』が茨蔦を突き出す。
 絡みとられたダモクレスに構えられるのは、アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)の火砲のオーケストラ!
「各火器オール、スタンバイ!」
 自身の声をもかき消す猛砲撃。爆撃が庭一画もろともダモクレス達をめくりあげた。

●聖夜破壊指令
「TARGET SURVIVED,CGW ACTIVE」
 爆風のなか、マークの『Counter Gravity Wave』が駆動、特殊波動によるダメージコントロールを開始する。
 美玲の救出まで油断はできない。『輝きの卵』と人質を背に、鬼人は煙を払う敵影へ気を引き締め直す。
「なるほど、よくできた盾だ」
「ディザスター・キングのあの堅固な盾を思い出しますね……」
 ガロンドの感心するような声、アーニャはかつて苦渋を舐めさせられた指揮官型をその姿に連想する。
『輝きの盾』の剣の蹂躙形態は巨大な盾だった。鋭い刃を縁に生やした巨大な剣盾、それに背中の鋼鉄翼を重ね、『盾』は広域へ巨大な壁と化した。
「サンタとは違ウのです!」
「いやそりゃ見ればわかるけど、よっ」
 誇らしげな盾に突っ込む鬼人だが、踏み込みは伸びた電撃に阻まれた。弧を描かんとした『越後守国儔』が弾かれ、走る痺れが業物の鋭さを鈍らせてくる。
「盾は二重、三重と構えるモノよ……ソシテ!」
「させないっ!」
 弾かれた腕に止めを刺さんとする鞭、突き刺さる瞬間にボクスドラゴン『アネリー』が食らいついた。美しい青白の長毛をスパーク、逆立てながらも身をひねる。小さな膂力が電撃鞭の結界を破る。
「小癪ナ!」
「あたしだって楽しみなんだから……クリスマス……!」
 負けられない想いは自分自身の中にもある。クリスマスの全てを催眠しようとする『輝きの音』のダモクレス賛歌へ、ヴィヴィアンの『銀の聖夜の祝歌』は穏やかにも熱く抗った。
「聖なる夜、あたたかい夜 舞い降る小さな祝福が あなたとの幸せを彩るの♪」
「ボクも燃えてきたデース! 今日ここからはボクたちのロックなステージデスヨー!」
 燃え上がる粉雪の舞う幻影へ、シィカが奏でる『竜姫謳う生命讃美』のギターが合流。即興のセッションは、大音響をも押し返す炎となった。
「滾らせてくれんじゃねぇか、なぁ?」
「あぁ、負けちゃられねぇな」
 シュリアに頷き、鬼人は気合を込めて立ち上がる。守りたい心の片割れの奮戦に、黙って倒れてなどいられるものか。
 鉄塊の盾剣が逆立てる怒りを両の刀で受け流しつつ、鬼人は『溜め』へと姿勢を写す。
「先触れは引き受けます……盾を!」
 そして最高潮のバックミュージックにリュートニアが仕掛けた。
「貴様、結界ヲ!?」
 燻った白の翼が寒空を滑走、破壊のルーンを描いたオーラの拳が電撃鞭を掴み、超音速で引き裂いていく。
 そして十字に開いた防御の中心を破る必殺の重ね突き。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ!」

●戦慄のケルベロス
 閉じようとする両翼と剣の盾。無名と業物、二刀の刃はその隙間を縫った。
「ば、バカなっ、一撃だ、ト……!」
「タ、盾ェッ!?」
 断末魔も許さぬ勢いで吹っ飛ぶ鉄塊、地を跳ね飛んで二度、塀をぶち抜き爆発。
「一撃じゃあねぇよ。恋人達のクリスマスを汚す奴は、地獄の犬に噛まれて死んじまうぜ?」
 驚愕を見せるダモクレスに、鬼人はやんわりと訂正する。
 左からの切り上げ、右薙ぎ、袈裟切り。それらが重なる中心点への刺突。あらゆる装甲を貫く高速の死連撃は強固な『盾』にすら、凌駕する隙を与えない。
「その頑強さは想定内です。今度は撃ち破ってみせます……あの盾であっても」
「ここで退くようなタマじゃねーだろ? 骨の髄まで楽しませろよ!」
 火力集中を構えるアーニャの背を蹴り、鉄火と紫煙のオーラをたなびかせてシュリアが駆ける。上空正面からの一撃に走る鞭。絡みつく。
「痺れる刺激だ、溜まらねぇなぁ!」
「バーサーカー……!」
 驚くことに止まらない。戦場へ滾る心と、狂戦士呼ばわりへの腹立ちを少し混ぜて、力の限り引き千切る。
「狂っちゃねぇ、楽しいんだよ!」
「こだわるねぇ」
 足を封じる月光斬。アーニャの猛砲撃の中を演武する少女へ、ガロンドはしみじみとポツリ。戦いへの生き甲斐は彼の範疇外だが、拘る気持ちというのは通じるものだ。
「さ、こちらも手早く片そうか。突破陣だ」
「ROGER」
 崩れた『百戦百識陣』を立て直し、マークと二人が『音』を挟む。動ける敵は二体、最重要たる『卵』からの切り離し、決着をつけるには十分。
「PG-8000 GRINDE」
「雑音トハ、無粋!」
 大音響をも揺るがす低周波を響かせ、『PG-8000』プラズマグラインダーが『輝きの音』の装甲を削る。
 自らをたたえる『輝きの音』の讃美歌が手元をガロンドへ、あるいはダメージコントロールをダモクレスへと都度曲げかけるが、癒しの力はケルベロスが上だ。
「その音は催眠効果があるようです、気を付けてください」
「人の気持ちを横取りなんて、させないんだから」
 リュートニアのオラトリオヴェールが、ヴィヴィアンのサキュバスミストを輝かせる。レプリカントたちののセンサーから歪みが消えた。
「ありがとうございます!これで決めましょう、各火器オールスタンバイ!」
 攻性植物に絡めとられた『輝きの鞭』へ砲門を集中。一斉砲撃と同時に叫び、アーニャは時空間干渉を開始する。
「命中に難がありますが……今回は問題ありません……!私の切り札……受けてみなさい……!」
 一斉砲撃から、時間操作を駆使したノータイムの追撃。凄まじい火力と引き換えに、命中へ時間停止を使えない『テロス・クロノス・デュアルバースト』だが仲間たちが抑えている今なら関係はない。
 爆発、そして爆発。更に誘爆。
「ダメージ、甚大……ダメージコントロール、異常……!」
「これが『破滅の足音(エンシェント・グラッジ)』、気づいた時にはもう遅い」
「傷口に殺神ウイルスも塗り付けておきマース!」
 アドウィクスの力で具現化されたルーン文字の刻まれたガロンドの黄金爪が怪しく輝く。黄金牙の逆手から数度。盾代わりに使われつつ、突き立てられたそれの毒は既にダモクレス達を蝕んでいる。
 ダメ押しとばらまかれたのはシィカの殺神ウイルスだ。催眠の歌術はクゥがインストールした風と星に減じられ、ダモクレスたちへの癒しは完全に封じられていた。
「ENEMY DESTROY」
 抉り込まれたプラズマグラインダーをそのままに、マークは『XMAF-17A/9』アームドフォートを正面に向ける。ダモクレス達に表情を作る機能があれば、『輝きの音』に浮かんでいた顔は恐怖だっただろう。
 接射の爆発と同時、『輝きの鞭』もまたシュリアの竜爪に貫かれていた。
「メ、メリー……」
「ちょいとみじけぇがなかなかに刺激的な体験だったぜ……あばよ」
 別れの挨拶と共に、爪を伸ばす両腕が左右に開く。包装の銀紙のようにダモクレスの銀色は引き裂かれ、内包物がまき散らされた。
「GOOD KILL……これが他人のデートを妨害する者の末路か……」
 戦闘システムを終了し、マークの声が感情の色を帯びる……何割かは自分の仕業ではあるが、愛を遮る行為の恐ろしさはメモリーへ深く刻み込まれた。

●聖夜、再び
 暗闇を抜けると、美玲は裸だった……正確には優しくまかれたバスタオルのなかではあるが、目を覚ますや飛び起きた体育系少女に追随できるわけもなく。
「ん、あれ? ボク……ちょっ、まっ、ナニコレ!?」
「あ、あわわっ、い、今説明しますので、はぃっ」
 リュートニアの手元からタオルと一緒にクゥが飛ぶ。周囲をヒールして戻った一種の事故だが、『彼』と認識する余裕もなかったのは幸いか?
 クゥをぬいぐるみのように抱きかかえ、混乱も収まってきたようだし。
「えーとつまり、あの銀色は白昼夢とか妄想の類じゃなくて……」
「はい……身体の方は異常ありませんか?」
 アーニャの持参したココアを口に含みながら、美玲は神妙そうに頷き。心を落ち着け……。
「ありがとう、ございま……あ!? じ……ぶふっ!?」
 即座に少女へ最重要事項を思い出し、むせた。
「時間まで、十五分ない……服……アクセ……あ、ぁ……!」
「落ち着け。『まだ十分はある』……そう考えろ」
 パニックに陥りかけた少女の口元を拭い、シュリアは指で押さえた。こういう時は問答無用だ。
「恋路に口出しっつーのは性に合わないけども、せっかくの聖夜だ……一肌脱ぎますか」

 そこからは時間との戦いだ。
「えぇーっ! 着陸できないぃぃーっ!?」
 焦り気味な上空からの通話にヴィヴィアンが悲鳴を上げる。
「あー、そうだよなぁ。普通は着陸しないといけねーもんなぁ……」
 言われてみればと頷く鬼塚。そうだった、不死身のケルベロスではない美玲、天才アスリート少女(自称)といえど、乗り降りは多くはない着陸スペースがある……だが、ならばプランBだ。
「リュートニア、そっちはどうだ?」
「タクシー、確保できました!」
「アイズフォン、データリンク。ナビ、お願いします!」
 着々と『足』が確保される一方、屋内でも急ピッチで準備が進む。
「こ、こんなので大丈夫?」
「うん。十分綺麗だよ……これはおまじないね。塗り香水、プレゼントね」
 不安になる心をヴィヴィアンの、歌手と恋を両立する先輩の心意気が励ましてくれる。
 整えられたショートボブを『クリーニング』し、薄くささやかな化粧、最後にほのかに甘いベリーの香りを手首に一塗り。
「大事なのはロックデス! どんなことがあってもくじけないロックなソウルを持つことが成功の秘訣デス!」
 シィカの情熱的なギターに励まされ。
「いやま、そりゃそうだけど『相手の努力も少しだけ認めてやる』んだぞ。そうすればじきにそいつも天才に追いつくさ」
 どんな相手か知らんしデートなんぞ僕には何も分からんが、と言いながらのガロンドのアドバイスに神妙そうに頷き。
「うん……負けない。恋にも、自分にも」

『俺たちはバックアップに回る。GOOD LUCK』
「ありがとう、マークさんも、えと……メリークリスマス」
 不器用なお礼にマークもメリークリスマス、と返答してアイズフォンを切る。
 残り時間は五分を切ったが、美玲の手には鬼人のケルベロスカード、上空からの熱いナビゲートもある。彼女の望むところまで、タクシーは時間通り連れて行ってくれるはずだ。
「リリエさん過去になにがあったんだろ」
「まぁ、察してやろうや……」
 そういえば、というガロンドに、シュリアは煙草をふっと一吐き。相思相愛なら、相手のためと伝わればとシュリアは美玲に行ったが、初々しいカップル同士ではそうもいかない事もあるのだろう。
 リリエがそうだったとか、美玲の彼氏もそうかとか、それはもう想像の範疇ではあるけれど。
「さて、ただ帰っても何もない。面白そうな飲み屋でも探すかな……皆は?」
「そうだな。依頼をこなして聖夜が終わりってのはなんだか、哀しい物が有るような……なぁ、ヴィヴィアン?」
「うんっ、あたしたちもクリスマス、楽しもうね♪」
 まずは作戦完了。だが恋人たちの、家族の、クリスマスは始まったばかりだ。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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