聖夜略奪~大好きなのは、あなただけなの

作者:遠藤にんし


 慎重に、真友子は今日の持ち物を確認する。
 ハンカチ、財布、スマートフォン、メイク直し用のポーチ。そしてプレゼントのネックレスと、メッセージカード。
 日曜日だというのにレストランの予約は取れている。喜んでくれるといいけど……そう思うと、鼻歌と共に笑顔がこぼれた。
「プレゼント、いつ渡そっかなぁ……」
 そんな独り言を漏らす彼女の背後――何の前触れもなく、魔空回廊が開く。
 現れたのは四体、うち一体『輝きの卵』は、女性を捕らえて己の内部へと封じ込める。
「このモノのクリスマスの力、絶望にカエるのだ」
 呟く三体のダモクレスは、油断なくケルベロスの襲撃に備えるのだった――。


「集まってくれてありがとう」
 礼を述べる高田・冴がまず口にしたのは、去年のゴッドサンタの事件だ。
「クリスマスに発生したあの事件を解決したことによって、私たちはグラディウスを手に入れた」
 その結果としてミッション破壊作戦を行い、一年の間に多くのミッション地域を解放することが出来た。
 素晴らしい結果だった――同時に、デウスエクスにとっては度し難いことだったのだろう、と冴。
「地球に潜伏していた潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、グラディウスを封じようとしている」
 ダモクレスが狙ったのは、クリスマスのデートを楽しみにする女性。
 彼女を儀式用ダモクレス『輝きの卵』に閉じ込め、グラディウスを封じる儀式を開始しようとしているようだ。
『輝きの卵』そのものには戦闘能力がないから、護衛のダモクレスが三体ついている。
「ケルベロスを警戒しているようだね」
 この三体さえ倒してしまえば、女性を救い出し、『輝きの卵』も撃破出来るだろう。
『輝ける誓約』の三体は、クラッシャーが一体とスナイパーが二体という構成だ。
「この全てを倒すことが必要になる」
 先方の戦い方に応じて、こちらも作戦を練った方が良いだろう。
「『輝きの卵』は戦闘能力を持たないから、三体さえ倒してしまえば女性の救出と『輝きの卵』の撃破は確定すると見ていい」
 逆に、護衛を残した状態で、『輝きの卵』には関わらない方が良いだろう。
「楽しいデートの邪魔をさせてはいけないね。急いで倒してしまおう」


参加者
生明・穣(月草之青・e00256)
望月・巌(昼之月・e00281)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
リヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
草間・影士(焔拳・e05971)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)

■リプレイ


「穣、陽治、さっさと終わらせてあげようぜ」
 煌めく肉体を持つ『輝ける誓約』の軍勢へと目を向けつつ、望月・巌(昼之月・e00281)は呟く。
 うなずく生明・穣(月草之青・e00256)が思うのは、クリスマスイブに起こったこれらの事件がすべて、女性を狙ったものであるということ。
「女性のどきどきは狙っても男性のどきどきは狙われないんだねぇ……」
 そこに納得いかないものはあるのだが、恋心を餌程度にしか考えていないドリームイーターの行為は下衆そのもの。
 しっかり潰して差し上げましょう――口の中で呟けば、穣の黒藍霊手からは紙兵がこぼれ出る。
 ウイングキャット・藍華は翼をくねらせて風を作る。
 生み出された力はいずれも、仲間へと宛てたもの。それでも『輝ける誓約』の軍勢は敏感にケルベロスたちの存在を察知し、それぞれの得物を手にケルベロスたちへと向かう。
 ――唯一、『輝きの卵』だけは微動だにしない。
 そちらにちらとだけ目を向けてから、嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は丸薬を手に。
「おっと悪ぃ、手が滑っちまった」
 白々しい言葉と共に、スナイパーの一体へと投擲した。
 炸裂する丸薬が漂わせるのは激烈な臭気。ある程度距離のある陽治ですら顔をしかめるほどの臭気、至近で浴びてしまえばひとたまりもないだろう。
 その証拠に、炸裂を間近で受けたダモクレスは迷うことなく陽治の元へと駆け付け、凍てつくレーザーを放射する。
 もう一体のダモクレスも陽治へと力を振るい、その隙にと巌は改造スマートフォンをタップ。
「好感度を売りにしてるからって、そこまで叩くこたぁねぇと思うが……世論が叩き易い方が良く燃えるってね。精々踊ってくれや」
 さっさと済ませてあげれば、『輝きの卵』の中の真友子もクリスマスデートに間に合うはず。
 大急ぎで色々なものを投稿すると、なんやかんやで生まれたビームがダモクレスを貫いた。
 クラッシャーのダモクレスはリヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)へと迫るが、その一撃は藍華によって阻まれる。
 間近にまで迫った、無機質なダモクレスの顔貌。
 それを見つめるリヴカーは、妖精弓"Pas un n’est brise"の弦に指をかけ。
「……さて、私の目の前で女性に不躾な真似をしてくれたこと、聖なる夜を冒涜したこと……当然覚悟はできているのだろうな」
 冷然と問いかけて、爪弾く。
「静かに。……そう、この音に心を委ねるのだ……」
 豊かに重なる音の層。
 広がる音そのものが一体の獣かのようにスナイパーのダモクレスへと襲い掛かれば、敵はあまりの衝撃に全身を強張らせた。
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が狙うのはクラッシャー。
 蹴りから溢れ出たのは流星。広がる黄金はクリスマスにふさわしい彩りで、輝ける暴力となってダモクレスに襲い掛かった。
 動きが鈍った瞬間を狙って、草間・影士(焔拳・e05971)はクラッシャーへと迫る。
「お前らが聖夜を絶望に染めるなら、俺はその絶望を砕く拳になろう」
 言葉と同時に跳躍、頭上からの強襲をお見舞いする影士。
 立て続けの攻撃を受けるクラッシャーを見て、クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)は一人思う。
(「別にリアじゅーがどーなってもいいけ……げふんげふん」)
 リア充デートにはそこまで興味がないクリームヒルデだが、経済の活性化という意味でこれが大切なイベントだとは承知の上。
 何であれ、これが仕事ならばきちんとこなさなければいけない――思って、クリームヒルデは口を開く。
「祈りましょう、明日のために。願いましょう、人の子等の安寧を。唱いましょう、天上に響く高らかな凱歌を」
 響きわたる調べは、癒しの力の増幅のため。
 増した力をより引き出すために、音無・凪(片端のキツツキ・e16182)もまた、癒しを広げる。
「ちょいと邪魔させてもらうぜ?」
 言葉と共に放たれたのは地獄の炎。
 途端に周囲に熱が満ち、大気が揺らぎ始める。
「さぁて、このクッソ忙しい時期だ、あたしに仕事させる罪は重いぜ?」
 黒の炎の中、凪は言って笑みを見せるのだった。


 各個撃破を狙い、ケルベロスたちはクラッシャーを優先して攻撃を重ねていく。
 幾度もの癒しの中で空気は十分に集まり、あるいは熱気に熱いほど。その熱から、影士は炎を作り出す。
「覚悟は出来てるのか?」
 生まれた炎は、影士の手へと集い。
「まだなら、……目を閉じる暇くらいならあるかもな」
 剣へと変わった炎と共に、影士はクラッシャーのダモクレスへと迫る。
「お前のその鋼の体ごと焼き砕く」
 拳にも炎は宿されている。殴り飛ばしたクラッシャーを影士はひと息に追い詰め、上からの斬撃を浴びせかけた。
 火達磨になり、焼き尽くされたクラッシャーのダモクレス。
「一体は済んだか……さて」
 呟いて、リヴカーは素早く戦場に目を走らせる。
 残るはスナイパーのダモクレスが二体と、戦闘には参加しない『輝きの卵』――『輝きの卵』は戦力としては数える必要がないから、あと二体と考えて問題はない。
 牽制にとスナイパーの身体には負荷が積み重なっている。リヴカーは服の中からブラックスライム『遊狩揚羽』を滑り出させると、スナイパーへと向かわせた。
 季節外れの黒揚羽はダモクレスの胸元に留まり、蜜を吸うように体力を奪い取る。
「ゆっくりしてたらかたゆでたまごになりそうですね」
『輝ける卵』に意識を向けるのはクリームヒルデも同じ。
 時間をかけすぎるのは良くないが、急ぐあまり悪手となることも避けたい……気を引き締めて、クリームヒルデはオウガメタル『アダマス』の力を引き出す。
 粒子となったオウガメタルによる癒しで、陽治の受けたダメージを癒した。
 怒りを与えることで攻撃を引き受けた陽治の身体から痛みが引く。感謝を示すように片手を挙げてから、陽治はルーンアックスを振りかぶる。
「きっついプレゼントだ」
 言葉通り苛烈な一撃――凪も斬霊刀『天華』による一撃で後に続いた。
 斬撃によって生まれた風が、凪の白交じる黒髪を揺らす。色の無い焔も小さな火の粉をこぼし、攻撃の鋭さを示すようだった。
 繰り返される攻防。やり取りのたびに鋭さと素早さを増していく中であっても、藍華は優しい風を絶やすことはない。
 穣は風に背中を押されるように飛び出し、斬撃を放つ。
 斬りそのものは回避された――だが本命は、それに伴う風。
「そのかそけき光り身を蝕む死の色に染む」
 ダモクレスが風に触れた瞬間、青白い光が、神経毒が生まれる。
 徐々に強くなっていく輝き。神経毒は、硬質なダモクレスの肉体にすら染み入って。
「そのかそけき光り身を蝕む死の色に染む」
 言葉と共に、ダモクレスの身体が崩れ落ちた。
「地獄からの番犬サンタさんからプレゼントだぜ!」
 残り一体――気合を入れ直し、巌は爆破スイッチを手に。
「オタクらは知らねぇだろうが、地球にはこんな言葉があるんだぞ――『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ』ってな」
 直後、爆音が轟く。
 馬に蹴られるよりも強く投げ出され、叩きつけられたダモクレス。
 それでも立ち上がってビームを発射するが、影士はそれを阻む。
「もうすぐだ、行ってくれ!」
「任せて」
 答えた和は、惨殺ナイフを手に肉薄し。
「今日のボクはちょっと優しくないよ……!」
 言葉と共に和が刃を振るえば、ダモクレスの生命は断ち切られた。


「聞こえるかい?」
 残された『輝きの卵』の表面に触れながら、凪は問いかける。
 言葉を替えて、何度か呼びかけてみたが、これといって反応は見られない……どうやら、コミュニケーションを取ることは出来ないようだ。
「残念だね」
 スマートフォンで表面の画像をいくつか撮れば、それ以上やることはない。
『輝きの卵』を破壊すれば、中からは閉じ込められていた女性が姿を見せる。
 部屋をヒールで直し、女性自身にもクリーニング。更にリヴカーは彼女の髪を整えると、その顔を覗き込んで。
「うむ、これでまた、魅力的な姿に戻った」
 微笑みかけると、傍らに落ちていたハンドバッグを拾い上げて。
「……さあ、早く行くといい。待っている人がいるのだろう?」
「気分ももう大丈夫だろう?」
 穣はあえて何が起こったかは言わず、そんな風に訊く。
 これからクリスマスのデートだというのに、変な気苦労を背負わせないためだ。
「どうかクリスマスをめいいっぱい楽しんでくれ。そうしてくれると、おいちゃん達も身体張った甲斐があるってモンだ」
 陽治も言うと、和もにっこり笑顔を見せる。
「これから、素敵なクリスマスになると良いね」
 影士はうなずいて。
「俺達の戦いは終わったが、そっちはこれからが本番だろう。幸運を」
 ケルベロスたちに見送られて、真友子はデートへと急ぐ。
「終わったら俺らもディナーに行こうぜ」
 見送った巌は言いつつポケットをまさぐり、そこに財布がないのを確認するとおどけた調子で陽治へ。
「陽治ぃ、奢って?」
「奢るのは構わないがラーメンな?」
「ひゃっほう、ラーメン! 俺、チャーシュー煮卵麺増しな?」
「って遠慮がないなおい!?」
 そんなやり取りをする二人に、穣は笑みを浮かべる。
(「僕に言えば良いのに」)
 ただ、ラーメンに行きたいってことだろう……思いながら、三名はラーメン屋への道を辿る。
「……うん、クリスマスのデート楽しみだもんね」
 楽しそうだった表情を思い浮かべて、和は呟く。
 クリスマスに恋人同士で親密な時間を過ごせる、ということが、なんだかとても羨ましい。
「はぁ……ボクも、らぶらぶなクリスマス、迎えたいなぁ……」
 クリームヒルデは恋人同士での……というものはあまり興味がないが、何となく悔しいので布を買って行こうかと考え中。
 自分で着て動画をアップすれば、ディスプレイの中のサンタになれる。どんな衣装にしようかと、クリームヒルデはスマートフォンを手にするのだった。
 ――リヴカーが想うのは、母と過ごしてきたクリスマスのこと。
 今日はとても大切な日。そんな日にあんな記憶が残らなくて良かったと思いつつ、リヴカーが空を仰ぐ。
「……来年は、帰れるだろうか」
 呟きは、賑やかな空へと消えていく。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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