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「うっ……あ、おお……」
目の前の破壊された機械に、男性は呻きばかりを漏らす。
発売から三十年以上が経過したレトロゲーム機……床に叩きつけられ、踏みつけられ、いまではただの瓦礫と化している。
「き、キミ、君達は……!」
男性は震える声で、二体のドリームイーターへと詰め寄る。
レトロゲーム機、古いおもちゃなどを自由に遊べるゲームカフェを営む男性からすれば、ゲーム機を壊されるのは仕事の妨害と同じ。
おまけに、そのゲーム機はよりにもよって彼の子供時代からの愛機なのだ。
「賠償、賠償だ……! い、慰謝料を!」
言い募る男性を前に、第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテは顔を見合わせる。
「私達のモザイクは晴れないねえ。でもあなたの悲しみと」
「怒り、イイモノだな!」
言葉と共に振り下ろされた鍵――男性の意識は、そこで途切れた。
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「レトロゲームが壊されたのね?」
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)の言葉に、ヘリオライダーの高田・冴はうなずく。
「レトロゲームや古いおもちゃで遊べるカフェの店主が狙われたようだ」
壊されたのはレトロなゲーム機一機だけだが、それも彼の大切なコレクションだった……他のものは一切壊されなかったことが不幸中の幸いと言えないこともないが。
「現れてしまったドリームイーターは二体。いずれも倒さなければ、昏倒している男性が目を覚ますことはないだろう」
ドット絵というのだろうか、少しゲームのイラスト風の男女の形を取るドリームイーターは、その感情以外のものを口に出すことは出来ない。
「場所としてはカフェに併設の駐車場となるから、周囲を気にする必要はそこまでないはずだ」
二体のドリームイーターを相手にするため、油断して掛かれば危険な目に遭う可能性はある。
「注意して、戦闘をして欲しい」
大切なものを壊される――その悲しみは許せないね、と冴は締めくくった。
参加者 | |
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デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355) |
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701) |
七種・徹也(玉鋼・e09487) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
ブラック・パール(豪腕一刀・e20680) |
据置・紺(じんせいははちビット・e32872) |
天喰・雨生(雨渡り・e36450) |
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180) |
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何の気なしに予想してみたら、まさか本当にいたなんて――レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)は、そんな感想を口にする。
「見つけてしまったのだから、一掃するしかないわね」
レイスの言葉に、コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)はうなずく。
「せめてこの二体は排除しましょう」
たくさんの思い出が詰まっていただろうゲーム機。
ドリームイーターに狙われるほどに大切にしていたものなのだから、壊されてしまったことは実に残念。ならばせめて、このドリームイーターを倒し、更なる被害を防ぐべきだろう。
大事なものがあるからこそ、ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)は今回の敵が許せない。
大事なものを壊されるのはいい気分ではない――それは、年代を問わない共通の気持ちのはず。
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は、レトロゲームへと思いを馳せる。
「レトロゲーム……昔のゲームというとプレ……え……もっと古いの……?」
現在十二歳、自分が生まれる前に発売されたゲーム機よりさらに前のゲーム機ということもあって、千里の顔にはわずかな困惑が見て取れた。
「自分の大切なもんを壊されるってェのは辛いよなァ……」
呟いた七種・徹也(玉鋼・e09487)は足を止め、前方へと厳しい視線を向ける。
視線の先には駐車場。そしてそこには――場違いなほどポップなドリームイーターの姿があった。
「ぼくたちの ような レトロな ゲームを……▼」
据置・紺(じんせいははちビット・e32872)は言って、改造スマートフォンをぎゅっと握りしめる。
「だいじに してくれる ひとを きずつける まねは ゆるしません ですよ!▼」
声に気付いてか、ドリームイーターの黒い目がこちらへと向けられる。
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)も得物を手にして。
「またこう、胸糞悪くなる事件ばっか起こしやがって」
ドリームイーターの起こす事件は人々を傷つけ、苦しめ、悲しめるばかり。
親玉を懲らしめてやりたい気持ちもデフェールの中にはあるが、それはまたの機会。
――今はまず、この二人をどうにかしなければいけない。
「見事にドット絵だな。ッたくヨォ」
精密でありながら色を絞ったドット絵は、嫌でも破壊されたというレトロゲーム機を想起させる。
天喰・雨生(雨渡り・e36450)は壊されたものを、壊されたことで生まれた怒りと悲しみを思う。
「壊されたものは戻らないけど、その怒りも悲しみも壊された人のものだよ」
ものを壊すことで怒りを悲しみを無理やり引き出す、そのやり方だって気に入らない。
「――返してもらおうか」
雨生の言葉と同時に、二体のドリームイーターは飛びかかった。
●
ライドキャリバー『たたら吹き』に騎乗して徹也はドリームイーターへ接近、至近まで迫るとたたら吹きから飛び降りてプロテクターを外す。
プロテクターを外した瞬間から地獄の炎は吹き荒れるが、怒りのドリームイーターはそんなことを気にする風もなく襲い掛かる。
力強く打ち据えられ、すぐさま自らへオーラの癒しを施す徹也。たたら吹きは炎を生んで怒りのドリームイーターを取り囲んだ。
「ほら、いーから掛かって来いよ!! ……女ぶち抜くんはちぃと抵抗があるが、遠慮はナシだ!!」
デフェールの挑発に乗って、悲しみのドリームイーターも動き出す。
狙い澄ました一撃は、確かにデフェールの心臓を狙ってはいた。
「させません」
だが、コスモスが間に割って入ったために狙った通りにはいかなかった。
ガリガリと対グラビティ炸裂装甲が削れて悲鳴を上げる。二人が睨み合う隙にデフェールは距離を取り、バスターライフルから長大なるビームを発射。
威迫的なビームに悲しみのドリームイーターは思わず身を竦ませ、雨生もビームを重ねることで牽制とする。
「余所見しないでよ、好きにはさせない」
左半身に赤黒い輝き。
照らされた雨生の左目は、真剣な色を湛えていた。
悲しみのドリームイーターへ宛てた攻撃は牽制。各個撃破で最初に狙うべき敵は、怒りのドリームイーターだ。
だからこそ千里は怒りのドリームイーターの元へと駆け、その指先で気脈を断ち切る。
断絶され、怒りのドリームイーターは身動きが取れない。石のように固まったドリームイーターを見つめ、ブラックが動き出す。
ブラックの日本刀『妖刀・白桜』はブラックの身の丈よりも長いが、ふらつくような動きは制御しきれていないからではない。
舞うような動きから一転、怒りのドリームイーターに振り下ろされた太刀筋には迷いがない。勢いよく叩きつけられた刃を避ける術はなく、ドリームイーターは倒れ伏す。
悲しみのドリームイーターが動きを鈍らせたためにコスモスは敵の前から身を翻し、艤装用特殊弾を仲間に向けて発射する。
「特殊弾頭装填。強化薬を散布します、意識が飛ばないよう注意してください」
炸裂すれば鎮痛効果は広がり、感覚を研ぎ澄ませる役割をも果たした。
鎮痛効果と共に広がったのは電子音。そのメロディは紺によるもので、どこか懐かしい音楽は見えない護りとして、仲間たちへの癒しを贈る。
「がんばって ください!▼」
紺の激励に、レイスは怒りのドリームイーターへと目を向ける。
鮮やかな色のドット絵の身体を動かし、怒りと悲しみの言葉をこぼすドリームイーター。
言葉は止まる様子がなく、せっかくの紺の音楽を楽しむ余裕もない。
「今回も例に漏れず、騒がしい奴らね」
呟くレイスの手元でドラゴニックハンマーが変形。レイスはそれを抱え持つと、
「さぁ、受け取りなさい!」
力強い砲撃が、怒りのドリームイーターの元へ降り注いだ。
●
二体のドリームイーターを相手取っての戦いであっても、ケルベロスが遅れを取ることはない。
悲しみのドリームイーターを抑え込む間に怒りのドリームイーターの体力は削れている。ブラックは力強く踏み込む。
「避けて御覧なさい?」
踏み込みの震動が収まるより早く、ブラックの手元で白の刃が閃く。
まさに剛断――大事なものを破壊したドリームイーターの罪は、その命で贖うほかない。
悲しみのドリームイーターは力を振るい、ケルベロスたちの精神から平静を奪う。
視界が揺らげば狙いも揺らぐ――だが、徹也は左手を地について。
「欲張りで良い。この左腕は誰かを守る為に―――ッ!!」
広がる炎が、熱が平静を取り戻させ、狙いが大きくぶれることはなかった。
たたら吹きはドット模様を轢き潰して走り、怒りのドリームイーターの動きを鈍らせる。
「もうすぐだ! やってくれ!」
叫ぶ徹也の額からは血が流れるが、徹也はそれを意に介さない。
ディフェンダーとして護りの力に秀でた徹也の体力にはまだ余裕がある。癒しに手数を割くより、怒りのドリームイーターを沈黙させる方が先だ……そう思っての叫び。
その想いを受け取って、雨生は。
「血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
肉薄し、掌底を叩きこむ。
――波動は内側へと。見た目に変化を示さないまま炙られるように干される怒りのドリームイーターへと、雨生は告げる。
「遊びはお仕舞い――さよならだ」
塵へと、還った。
「あと一体……やってやるわ!」
声を上げたレイスの惨殺ナイフ『ヴィブロブレード』に宿る光は鈍く。
「この漆黒の闇で塗り潰してあげるわ! 存分に弾け飛びなさい!」
揺らぐ刃が、悲しみのドリームイーターへと歪な傷痕を刻みつけた。
コスモスはパンドラ・ボックス【試作】を構え、撃ち込む。
苛烈なまでの砲音――直線的だからこそ途中で威力が削がれることもなく、苛烈なままにドリームイーターを抉り取る。
「弾け飛べ! 弾丸っ!」
デフェールの右目から炎が噴出、溢れ出るそれらは火の粉と共に、弾丸へと変わって悲しみのドリームイーターへと向かう。
「オラぁ! 砕け散りやがれっ!!」
ある弾丸はそのまま悲しみのドリームイーターの元へ、ある弾丸はドリームイーターの至近において破裂。
内側に秘めていた熱が溢れ出て悲しみのドリームイーターを苛む。身を焼かれて惑うドリームイーターの姿を見る限り、体力の刻限は近いだろう。
ケルベロス達だって、余裕と呼べるほどのものはない。これ以上戦いを続ける上であれば、ヒールは必須だった。
そんな仲間のために、ずっと紺は癒しを贈り続けてきた――でも。
「ぼく だって やれば できる と 見せて あげます!▼」
ここにきて初めて、紺は攻撃のためにその力を使う。
「これは せいれいより たまわりし まをくだく つるぎ。▼」
現れた剣はドット絵調――何らかのシンパシーを感じたのか、悲しみのドリームイーターもそれに手を伸ばす。
だが、届かない。
紺が手にした剣を掲げれば雷鳴が轟き、稲妻がドリームイーターを貫く。
「ボスキャラというには……あっけない幕切れだったね……」
千里は妖刀“千鬼”を手に、悲しみのドリームイーターの元へと。
「――それじゃ、さよなら……」
刃を引き。
「気づいたときにはもう遅い……さよなら」
勢いよく繰り出される刺突。
ドリームイーターへと注がれたのは重力エネルギー塊。膨大なエネルギーに耐えきれなかった身体が爆発するのも見ず、千里は刀を納めた。
一瞬の瞑目――開かれた時、瞳は茶色をしていた。
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戦いは終わり、ケルベロスたちは店主の状態の確認に向かう。
「怪我は……大丈夫そうだね」
男性が怪我を負っている様子はないと、ひとまず安堵する千里。
「ドリームイーターってぇのは性格ワリィんだな……災難だったな」
デフェールは言いつつ、床に落ちていた破片を拾い上げる。
無数の傷がつけられ、割れてしまっている……念のためにと、コスモスも状態を検分。
「ふむ……中身は修理可能だとは思いますが……」
問題となるのは、そのパーツがあるかどうかということ。
少なくとも、今この場には治すための道具などはない。メーカー等に問い合わせればあるいは、というところだ。
「他に壊されたモンはないか?」
徹也が問うが、壊されたのはこのゲーム機一つだけのよう。
辺りのものには一切手をつけていないのが、あのドリームイーターたちの嫌なところでもあった。
戦場のヒール以上に、ケルベロスたちに直せるものはない……そう察したブラックは、直せるところだけでも丁寧に、ヒールを施した。
「元には戻らなかったけど……」
雨生は破片となってしまったものを集めて、男性へと手渡す。
壊れてしまったものを見ると男性の表情は暗くなるが、でも、とレイスは言う。
「世界は広いのよ。新しい出会いがきっとどこかにあるわ」
そんな励ましの言葉を伝えてから、ケルベロスたちは現場を後にすることにした。
「よければ これからも ぼくたちのこと だいじにして ほしいのです。▼」
帰り際に紺が言えば、男性はもちろんと大きくうなずくのだった。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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