聖夜略奪~笑顔を取り戻す為に

作者:そらばる

●頑張る女子を襲う魔の手
「眉よし、睫毛よし、唇よし……うう、なんかこういうの慣れないぃぃ~……」
 鏡の中の自分自身とにらめっこしていた笑花は、湯気をたてんばかりに顔を真っ赤にして身悶えた。
「いきなり化粧とかお洒落なんかしてって引かれないかな……いっ、いやいやいや折角のクリスマスじゃん! 気合入れて何が悪い!? 初めての本格デートだからって何を怖気づいてるんだ私はッ!」
 笑花は勢いよく立ち上がり、勇気を持って姿見の前に立った。もこもこ生地の白ニットワンピで着飾った女子が、ちょっと恥ずかしそうに鏡の向こうに佇んでいる。
「……。先輩、喜んでくれるかな……」
 胸を満たす幸福と期待が、その口許を柔らかく綻ばせた――その時。
 鏡の中の笑花の背後の空間が、奇妙に歪んだ。
「え――」
 身をよじる暇もなく、笑花は何本もの機械の腕に体を掴まれ、背後へと一気に引きずり込まれてしまう。
 透明な卵型の腹部に笑花を閉じ込めて、煌びやかなダモクレスが不気味に微笑んだ。

●グラディウスを封印する卵
 昨年のクリスマスに襲来したゴッドサンタなるダモクレスは、ケルベロス達の事前の働きによって、ほとんど何もできないままに打ち倒され、結果、グラディウスという至宝をケルベロスにもたらした。
 このグラディウスの力を得て、ケルベロス達はミッション破壊作戦を決行し、これまでに幾多もの地域を解放する事が出来たのである。
「我々にとっては快調と言うべきこの情勢、しかしデウスエクスにとっては許しがたい事態のようでございます」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)はそう告げると、いよいよ今年のクリスマスにおける予知を語り始めた。
「地球に雌伏せしダモクレス、潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用し、我々の所有するグラディウスを封じようと作戦を仕掛けて参りました」
 ダモクレスは魔空回廊を通じて、『クリスマスデートを楽しみにする女性』の前に出現し、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』の中に女性を閉じ込め、グラディウスを封じ込める儀式を開始するのだ。
 『輝きの卵』自体は戦闘力を持たない為、3体のダモクレスが護衛につき、ケルベロスからの襲撃に備えているようだ。
「この3体さえ倒す事が叶いますれば、女性を救出し、『輝きの卵』を破壊する事が可能となります故、まずは護衛ダモクレスを撃破する事が急務となりましょう」

 被害者は坂上・笑花という大学生。一人暮らしをしている広めのワンルームで、デートに備えてお洒落に勤しんでいた所を襲われ、捕らえられてしまう。
「現れる護衛は『輝ける誓約』の3体。クラッシャーは『輝きの槍』、ディフェンダーは『輝きの城』、キャスターは『輝きの腕』となります」
 『輝きの槍』は大槍での攻撃、『輝きの腕』は巨大な拳での攻撃、『輝きの城』はヒールで陣営を固めつつコアブラスターを放ってくるようだ。
「儀式が終了すると、輝きの卵は自爆し、そのエネルギーの全てをグラディウスの封印に使用致します。その際、当然の事ながら、中に囚われている笑花さんは死亡してしまうでしょう」
 笑花が閉じ込められている状態で、ケルベロスの攻撃によって輝きの卵を撃破してしまった場合も同じく、笑花は死んでしまう。救出は護衛3体を確実に撃破した後となるだろう。
「無事救出できたとして、デート慣れしていない笑花さんの怖気の虫が、事件に巻き込まれた事によって再発してしまうやもしれませぬ。何か、背を押すような言葉をかけて差し上げれば、彼女の励みになりましょう」
 恋する乙女を幸せなクリスマスデートへと気持ちよく送り出してあげる為にも、ケルベロスはデウスエクスの野望を打ち砕かねばならないのだ。


参加者
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
天音・久詞郎(贖いの対価・e17001)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ

●たった一人を助ける為に
 ワンルームの片隅で眠る笑花を抱えて、輝きの卵は古拙の笑みを浮かべている。
 輝きの軍勢が見守る静寂を、騒々しい複数の足音がかき乱した。
「今日は皆が楽しむべき日だ。無粋な真似をするな」
 リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)は室内に乗り込むや前衛に陣取り、輝きの誓約に向け淡々と言い放った。
「頑張る女の子を、しかもクリスマスに狙うとか無粋すぎだよねー! そういう輩はさっさと成敗させていただこう」
 ニコニコとからかうような声を上げるゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)。
「楽しい時間を奪うダモクレス……絶対に許しません!」
 天音・久詞郎(贖いの対価・e17001)はダモクレスの所業にかなりのご立腹である。
「大切な人の為に。その尊い気持ちを下らぬ企みで踏みにじられるのは忍びない」
 浜本・英世(ドクター風・e34862)は妙にえらそうな仕草で、凶科学式の武具達を構える。
(「聖夜の力を利用してグラディウス封印とは、それだけの力が俺達の魂に秘められているということか」)
 樒・レン(夜鳴鶯・e05621)は敵を見据え、人の想いが紡ぐ力こそが、大いなる反撃の力であると改めて確信する。
「夜鳴鶯、只今推参――この忍務、必ず成し遂げよう」
 幸せなデートを夢見て心振るわせる少女は必ず助ける。輝きの卵に囚われた笑花を真っ直ぐに見つめながら、レンは静かな決意を己が胸に響かせた。
「儀式を達成させるわけにはいかないからな……手早く終わらせて貰うぞ」
 籠手に形代を大量に張りつけた右腕を、隙なく構えるアスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)。
「儀式かなんか知らねえが、こんなPartyはお呼びじゃねえ! とっとと仕舞いにするぜ!!」
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は勇ましく吼えた。
「待ってな嬢ちゃん! デートには間に合わせてやっからな!!」
 笑花は膝を抱えて眠ったまま、わずかに睫毛を震わせたように見えた。
 きっと周囲を知覚できてはいない。それでも何か、感じるものはあったのかもしれない。
 その姿を痛ましく見つめると、ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は肩に乗ったボクスドラゴンのクラーレと共に、ダモクレス達へと決然とした視線を返した。
「大切で楽しみな日。邪魔はさせない。
 ――返して、笑花さんを」
 戦意漲る八人の視線が、三体のダモクレスを射抜く。
『敵対勢力、確認。排除スル』
 ケルベロスの敵意を感知し、輝きの軍勢は微笑みを浮かべたまま、厳かに陣を敷いた。

●輝きの軍勢
 輝きの腕。それはあたかも光の羽を持つ銀鎧の女性天使。
 その容姿には不釣り合いな、武骨に鎧われた拳が、優美かつ無造作に振り払われた瞬間、重力震動波がワンルームを駆け抜けた。
「オッケー庇いは任せろ!」
 元気よく飛び出したゼロアリエが衝撃を受け止めると、同じく盾役を担うサーヴァント達を引き連れ、ブレイブマインで彩りながらニヤリと笑った。
「まずは俺たちとディフェンダー対決ね? ……リューズ、一応言うけど俺のコトも庇ってね」
 ふと自身のウイングキャットに呼びかけるも、ツンと顔を背けられ思いっきり凹むゼロアリエ。代わりに、クラーレが愛らしい花飾りを揺らしてその肩に留まり、甘えるように慰めてくれる。
 輝きの槍。それは輝きの腕に似て、よりまろいフォルムを描く白鎧の女性天使。
 その細腕が、優美に装飾された槍を巧みに操り、流麗なステップを踏んで回転斬撃を繰り出してくる。すかさず前に出て踏ん張るサーヴァント達。
「……感謝する」
 庇われたリューデは、主以外には常識的な態度のリューズに素直に礼を言うと、対デウスエクス用のウイルスカプセルを輝きの城へと投射した。
 輝きの城。それは硬質な銀色に全身を鎧われ顔も判然としない、金属の翼持つ要塞の如き天使。
 その盾の如き両腕で攻撃を防ぎながら、胸部の鎧を開口し、荘厳なる白光のレーザー砲を撃ち出してくる。
「――っ! 許さない……絶対に許しません!」
 狙われた久詞郎は体を捻り、衝撃を最小限に殺しながらも、収まらぬ怒りの眼差しで敵を射抜く。返す一手は凍気まとう達人の一撃。
 ケルベロス達の攻撃は一点に集中する。ランドルフのスターゲイザーが、英世のアイスエイジインパクトが、アスカロンの轟竜砲が、盾役を務める輝きの城へと次々叩き込まれていく。
 輝きの城はすぐに対応した。腕と槍がケルベロスを牽制している隙に、全身の鎧の隙間から銀色のドローンを放出し、蒼く透けるプレートを展開していく。
「盾だね。早めに叩かないと」
 敵の情勢に目を光らせていたティスキィは、戦場を舞い踊り花びらのオーラを降らせながら、仲間達に警告を飛ばした。
 応えて躍り出たのはアスカロン。
「――その護り、喰らわせて貰うぞ」
 夥しい形代に覆われた右手が、輝きの城を護る盾を超高速で貫き、ダモクレス本体にまで打ち下ろされる。
「『超鋼』にして『超攻』! この拳は笑顔のためにッ!」
 輝きの城の護りが消えるや、ランドルフはアスラメタル【シルヴァリオン】を鋼の鬼と化し、すかさず拳で正確無比に装甲を砕いていく。
「君には私から特別プレゼントだ。受け取ってくれたまえ?」
 英世はうっすらと笑みながら、輝きの城へと治癒を阻害するウイルスカプセルを打ち込んだ。
 腕と槍が猛然と反撃を繰り出すも、盾役の守護と隙のない治癒がそれをカバーする。ゼロアリエが青いインクで二匹のサーヴァントの絵を奔放に描いて浄化、レンは地面に描いた磨羯宮を光らせ怪魚跳ねる聖域となし守護、ティスキィは光輝くオウガ粒子を放出して超感覚を励起。陣営は着々と整えられていく。
 対し、輝きの城は防戦一方。周囲に蒼いホログラム画面を展開し、0と1のコードの羅列を読み込む事で己を浄化していくものの、付与された治癒阻害に回復を阻まれる。
「悪いが蹴る馬が居なくてな……番犬で我慢してくれ!」
 素早く走り込んだアスカロンは、前転を交えて強烈な踵落としを決め、星型のオーラで敵の装甲を消耗させた。
 不穏な音に鎧が軋む。行動阻害、弱体化、炎に氷に毒。堅牢な要塞天使の限界は、瞬く間に、あっけなくやってきた。
 憐れむように、嘲笑うように、英世は凶科学式破壊龍鎚を振り上げる。
「男の子への贈り物でも、こんなロボットはお呼びではないよ。まして年頃の女性になど無粋もいいところだ」
 叩き込まれた超重の一撃が、輝きの城の進化可能性ごと、その命を凍結させた。

●偽りの微笑みを砕いて
 0と1の数列になって解けて消えていく敵の姿に、ケルベロス達に喜色が走る。
「余所見をするな、来るぞ」
 リューデの冷静な一言が皆の意識を戦いに引き戻した。
 次の瞬間、宙に投擲された槍が無数に分裂し、戦場に降り注いだ。槍の白さに光が反射し、前衛に混乱が広がっていく。
 しかしレンによって付与されていた分身が身代わりとなり、リューデは一瞬にして混乱を振り払った。巧みに捌いて構えた如意棒が長々と伸び、宙に跳び上がっていた輝きの槍を一直線に突き落とす。
 そのリューデの懐に、軌跡も見せず知らぬ間に踏み込んでいる銀色の微笑み。輝きの腕の武骨な拳が、気脈を断ち切る一突きを繰り出す。
 その軌道に割り込む、小さな影。
「――クラーレ……!」
 打ちのめされた子竜の名を悲痛に呼び、ティスキィはたまらず駆け寄った。祝福の矢を撃ち込み胸元に抱き寄せると、クラーレは大事ない様子ですり寄ってきて、ティスキィはほっと胸を撫で下ろす。
「本当に度し難い、許されざる所業です……っ!」
 カッカと怒りを高めながらも、久詞郎は標的を間違える事なく、ドラゴンの幻影を解き放つ。
 次なる標的は輝きの槍。その火力は厄介だが、守護を司る城が失われた今、厳しい状況のさなかに陣営を整え切ったケルベロスが、押し切られる道理はない。
「オン・マリシエイ・ソワカ」
 口内で真言を唱えたレンの姿が、残像を残して消えたかに見えた――瞬間、死角から距離を詰めた刃が、輝きの槍の翼の付け根に急所を見出し斬り裂いた。
 のけ反る輝きの槍を、アスカロンの右掌が捉える。
「轟け、魂の慟哭よ!」
 花影。望まないまま死を迎えた霊達の無念が、黒き光の矢へと凝縮し放たれる。
 胸部を貫かれた輝きの槍は、カタカタと人形じみた動きで痙攣したのち、ピタリと機能を停止し、0と1の数列に解けて消滅していった。
 残るは一体。勢いづいたケルベロス達のグラビティが、輝きの腕へと殺到する。蹴撃、銃撃、打突、魔術……孤軍となった輝きの腕の生命は、瞬く間に削がれていく。
 怒涛の集中砲火に押し込まれつつも、輝きの腕は手招くように右手を差し出した。発生した磁力が久詞郎を引き寄せ、硬質化した左手が迎え撃つように手ひどく打ち据える。
 しかし久詞郎は構わずチャージを終え、殲滅の葬送曲を解き放つ。
「集え、明星。全てを焼き消す炎へと変われ―――轟熱滅砕!」
 炎を纏う収束砲撃が、照射の如く敵へと降り注いでいく。
「全ての機械化を企む輩よ。貴様らは決して俺達には勝てん。現に貴様らは、貴様らにはない人の心に宿る力を使おうとしているのだからな」
 レンの周囲を、クリスマスローズやポインセチアの葉と花弁が、はらはらと舞い始める。
「今涅槃へ送り届けてやる。覚悟!」
 木の葉螺旋の術。結印したその瞬間、螺旋の力が葉や花弁を竜巻と成して輝きの腕を襲った。
「恋路を邪魔する野暮クレスにゃ仕置が必要だなあ! 喰らって爆ぜろッ!」
 バレットエクスプロージョン。ランドルフが撃ち出した特殊弾は、魔法力による爆発で輝きの腕を強烈に打ち据えた。
「さて、ガラクタにでもなって貰おうかな」
 英世が取りいだしたるは無数の刃物。魔術操作によって襲い来る無慈悲なる殺神手術は、配線を断ち、関節を切り離し、玩具を分解するかの所業で輝きの腕の損傷を拡大させていく。
「特別な日、頑張ってオシャレして、好きな人が喜んでくれたら嬉しいなって気持ち、すごくわかるから」
 ティスキィは凛として差し出した掌から、緑の風を巻き起こす。清涼な風花の舞が、輝きの腕を吹き飛ばした。
 そんな婚約者の姿と、オシャレを頑張る笑花の姿を重ねながら、ゼロアリエはバスターライフルの銃口で敵を捉える。
「なんとしても、クリスマスデート、成功させてやらなきゃな!」
 まっすぐに突き刺さった凍結光線が、輝きの腕の熱を奪い去った。
 輝きの腕の挙動はぎこちない痙攣を帯びながら、しかし仮面めいたその顔には古拙の笑みが張り付いたまま。
「……お前たちには、人々が何故今日を待ち望むか永遠に理解出来ないのだろうな」
 小さく呟くリューデ。次の瞬間には極限の集中状態へと没入し、研ぎ澄まされた斬撃が一切の容赦なく繰り出される。
 寸分の狂いもない一撃が、鉄の微笑みを断ち割る。
 顔を砕く罅は全身へと広がり、輝きの腕もまた、0と1の数列へと還っていくのだった。

●聖夜を戦う女の子
 三体の撃破が完了した所で、輝きの卵は儀式の完遂を間近にしている様子だった。ケルベロス達は急ぎ笑花を卵から救出した。
「割れちまいな! ハンプティ・ダンプティ!」
 ランドルフが威勢良く特殊弾を叩き込むと、輝きの卵は一切の抵抗なく弾けて消えた。
 戦いが終わった途端、右腕を象っていた形代が一気に離散していくのに、アスカロンは眉を曇らせた。
「まだ少し安定しないか……もう少し俺自身の鍛錬も必要、か」
 ともあれ、成すべき任務は全て終了。
 救出された笑花は、すぐに目を覚まして状況を呑み込んだ。
「こんな日にデウスエクスに襲われるとか……慣れない事してんじゃねぇ! って天のお達しかなぁ……」
 ヒールに満たされるワンルームの中心で、座り込んだままどんよりとうなだれる笑花。
 その目の前に、リューデは魔法瓶で持参した温かいお茶を差し出してやる。
「楽しんで来るといい。誰かと出かける時は、同行する者が楽しみ笑ってくれることが一番嬉しいものだ」
「そう……かな」
 ありがたくお茶をすすりつつも、決心のつかない笑花に、ケルベロス達は力強く頷く。
 ティスキィは笑花を姿見の前に招き寄せ、髪型や服装を整えてやった。
「きっと頑張った姿に見惚れてくれます。笑顔で会いに行ってください。笑花さんとってもステキですよ」
「そ、そう?」
「ね、ゼロ。私がオシャレしてきたら喜んでくれる?」
 急に水を向けられたゼロアリエは、間髪入れず「もちろん!」と即答した。
「せっかくのクリスマス、カワイくしないと勿体無いよ。まだまだ大丈夫、今度こそ笑顔でクリスマスデートだ! 俺たちも応援してるよ」
 実は相手サンも緊張してんだろうな……なんて心の中で呟きつつ、朗らかに保証してみせるゼロアリエ。ティスキィは「ほら、ね」と笑花に微笑みかけてやる。
「せっかく気合入れたんじゃないか。だったらその気合い、最後まで貫いてみないか? 先輩とやらはあんたのその笑顔を心待ちにしているだろうさ」
 アスカロンも素朴な言葉で援護射撃。
「貴女とのデートは先輩とやらにとっても待ちわびたひと時の筈だ」
 レンも真摯に語り掛ける。
「貴女と共に過ごす聖夜を楽しみにしている先輩の元へ急ぐがいい。愛しき先輩の為に、な」
「多くの男性は、女性が自分だけに見せてくれる顔に心奪われるものだよ」
 皆の言葉に添えるように、英世も促してやる。
「君ならば大丈夫。名前の通り花のような笑顔を大切な人に見せてきたまえ」
「弱気よりも、自身の勇気に従って行動してください。ボクは恋も愛も、まだよく分かりませんが……それが幸せなものだと言うことは知っています」
 わからないなりに、言葉を尽くして笑花の怖気の虫を払おうと頑張る久詞郎。
「どうかあなたに、幸せが訪れるよう祈っています」
「俺たちゃ嬢ちゃんの笑顔を取り戻しに来たんだ。このまま引き下がられちゃ立つ瀬がねえだろ!」
 スマイルキーパーを自認するランドルフは、毛皮に覆われた胸を大きく逸らした。
「ありのまま、ありったけの笑顔、先輩とやらにぶつけてきやがれ!!」
 数多の言葉に発破をかけられた笑花は、大きく頷くと、気合いの入った前のめりで歩き出した。部屋を出た所で、見送るケルベロス達を振り返る。
「――行ってきますッ!!」
 一瞬だけ見せたその顔は、弾けるような満面の笑み。
「きっときっとステキな一日にしてね」「是非楽しい一日にしてね!」「よき聖夜を」ケルベロス達のエールがその背を送り出す。
「……今日は冷えるな」
 温かい炬燵に入って、猫と相棒と一緒に過ごそう。そんな風に思いめぐらすリューデの口許は、微かに笑みの形を描いていた。

 ――皆が大切な人と良い日を過ごせますように。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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