サーシャの誕生日~マイ・デザート

作者:森高兼

 ふとカレンダーを見やったサーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)は、クリスマスが近いことに気づいた。当日は彼女の誕生日でもあるのはさておき、一粒のチョコを口に含んで考え込む。
(「クリスマスパーティのケーキはどうしようかしら」)
 口の中でゆっくり溶けていった程良く甘いチョコ。もう一粒いただこうかと小箱を見つめながら、ある事を思いついて笑みを浮かべる。
(「デザートは自分自身で用意してもらうのも面白そうだな」)
 それだと、本当に愉快なことになっちゃう可能性もありそうだけど。

 デザートを各自で用意するクリスマスパーティ開催にあたって、サーシャがやってきた参加者に説明を始めてくる。
「料理は、私と千影が準備する。作るデザートに合わせて持ち込みは歓迎だぞ。私が作るのはチョコレートケーキだ。千影は大福を作るつもりらしいな。君達も好きなデザートを作ってくれ」
 洋食と和食があれば、大体のデザートに合うはず。
「ちなみに」
 サーシャは徐に口角を上げてきた。
「自分以外に食べる者がいるのなら構わないが。作っておいて全部残すということは無しだからな」
 目が笑っていない!
 変わったモノを作る場合……それ相応の気持ちで挑まねばならないようだ。
「イタズラ心は程々が一番だろう」
 今度こそ、普通に微笑してくるサーシャなのだった。


■リプレイ

●甘い時間
 クリスマスパーティの参加者が全員揃うと、皆はまずご馳走の数々に舌鼓を打っていった。それから、各々のタイミングで隣室の調理場に赴いていく。
 『にゃんどころ』の4人が製作するのは、やっぱり王道のケーキだ。
 天崎・祇音が颯爽と割烹着を纏った。食材を扱う技量は高い上に、割烹着の着こなしによって頼もしさが溢れ出て止まない。
「……頑張るとしようかの」
「お留守番のメンバーのためにおいしいケーキ作ろうね」
 箱などが並んだテーブルを見やって、深緋・ルティエは主催者が土産のことは考えてくれていたことに安心した。サンタとトナカイがプリントされたクリスマスに相応しい包装紙もあるみたい。
 クレーエ・スクラーヴェがラッピング案を色々と想像しながら、意気軒高に材料を並べていく。
「みんなで楽しく、れっつ・くっきーんぐ♪」
(「皆と作れば大丈夫だよねっ」)
 そう見越している……肝心なスキルが壊滅的な月岡・ユア。何故、人は根拠の無い自信が湧いてくるのか。お約束で小麦粉の袋を力任せに開封して盛大にぶちまける。
 ユアの近くで準備しようとしていたため、祇音が大量の小麦を浴びちゃった。なんやかんやで他班には被害が無かったのは幸いだろう。
「想定内じゃの」
「……ごめんねっ」
 サーシャから迅速に掃除用具一式を受け取って、ユアを怒らずに笑顔のまま後片づけた。改めて、準備を始める。
 クレーエはのほほんと温かい眼差しで2人の様子を見守っていた。
「どじっこゆあさんと……おねーさん役しおんさんかなー? 仲良しだねー」
 自分については1年頑張ってきた料理の腕の見せどころだ。せっかくの機会だから、趣向を凝らしてみたいけど。
「どーやったら、にゃんこっぽくなるかなぁ」
 なおもハプニングは続きそうで、ルティエがクレーエの隣にてあわあわしながらも2人のやりとりに思わず息を呑む。
 ユアは武器を構えるように包丁を持った。まな板が幾つあっても足りなくなりそう……。
「いざっ」
「ユア殿にはメロンを切ってもらうかの」
 すかさず、まな板の上に硬いフルーツを出したのは祇音だった。とりあえず、余計な物まで真っ二つにされることはないはず?
 ルティエは微笑ましく感じてきた2人を見つめると、ふと笑みを零した。ほっとしたら喉が渇いてきてイチゴをつまみ食い。
「んふふ、おいし♪ あ……一緒に味見する?」
 あくまでつまみ食いとは言わなかったルティエの犯行を目撃して、クレーエが月緋宵白紫蝶ノ縁で結ばれている彼女の共犯者になった。
「へへー、美味しー♪」
 フルーツのサイズを均一にするよりも力加減に苦戦しているユアに、イチゴの『味見』によって潤った喉で声をかける。
「ゆあさんゆあさん、ちょっと暖かいものでも飲んで落ち着こ?」
「ははっ、うまくいかないや!」
 ユアは面白かったから愉快な気分になっていた。クレーエのアドバイス通りに一旦包丁を置くことにする。
 クレーエの余所見している間、祇音がこっそりと2つ目のケーキ作りに取りかかった。
 サーシャは順調にチョコレートケーキを作っていて、意外と小型かと思いきや2段重ね仕様らしい。もちだるまを完成させた千影に至っては……もちうさぎを黙々と量産している。
 みたらし団子に挑戦中のラズリー・スペキオサが、作業を進める皆に感心した。
「巧く作っているなぁ」
 団子を丸めて串に刺すだけなら、自分でもやれそうなはずだったけど。水の加減を間違えたせいで、べたべたの団子に四苦八苦している。
 レスター・ストレインはジンジャーブレッドクッキーの生地を薄く伸ばし終えた。欧米ではメジャーなクリスマスのお菓子だ。ラズリーに期待されているようで気合いを入れて型を抜いてみるものの、なかなか納得できる形にならない。
「ラズリーの調子はどうだい? キミはお菓子作りの経験あったのかな」
「不器用だから手作りは殆どしないんだ」
「俺もあんまり……」
「君もなのかぁ、仲間だね」
 慣れない作業に次の段階までかかりそうで、お互いに手は止めずに苦笑する。
「ただ食べる事は、楽しい事だよ。こうして一緒に何かを作り一緒に食べると、美味しさは魔法のように輝くんだ」
 気の合う友達と談話しながらの作業は心が弾んで、2人とも時間を忘れて作業していく。
 ラズリーは一足先に団子を完成させた。ちょっと甘くし過ぎたかもしれないタレもかけてレスターに尋ねてみる。
「日本の味だよ。食べてみる?」
「いただくよ」
 温めておいたオーブンに生地を入れてから、レスターが手作りのみたらし団子を頬張った。焼き加減を確かめていて、気が利いた感想の代わりにタレまで余さず堪能する。
 やがて無事に焼き上がったクッキーを試食すると頷いた。
「……うん、悪くない出来だ」
 若干焦げちゃった一部のクッキーだってご愛嬌。友人には一番良い出来栄えのものを厳選する。
「ラズリーもどうぞ召し上がれ」
「和洋の味を一度に楽しめるね」
 ラズリーは基本ぼんやりとしていて割と無口なタイプだ。先程までに沢山喋っていたこともあって、美味だと伝えるように手作りのクッキーをたいらげていく。
 静かに笑ったレスターが、焼き色の綺麗なクッキーを見繕った。適量のタレで甘さが丁度良さそうなみたらし団子を取り分けてくれたラズリーと、おかわりを仲良くお交換だ。
 自分と娘の他にも参加者がいて、半沢・寝猫は喜ばしく思っていた。
「にゃば、サーシャはんお誕生日おめでとうや。今後も宜しくな☆」
 プレゼントのシャム猫型ブローチをサーシャに差し出してみると、彼女のチョーカーからブローチが外された。その意図に気づいて……いつかのように付けてあげる。
 サーシャが相変わらずの凛々しさでチョコレートケーキを切り分けてきた。
「ありがとう。感謝の気持ちにケーキを振る舞わせてくれ」
「そ、その……大福もいかがでしょうか?」
 どういうわけかサーシャの背後にて、おずおずとしている千影。もちうさぎを夢中になって作り過ぎたようだ。
 イヴ・ハウゼンヌは母の挨拶が済んでから、両手で箱を持った相棒のサーヴァントと共にサーシャに歩み寄った。
「サーシャさん、お誕生日おめでとうだぞ。俺は、イヴだ。母ちゃんが何時もお世話になっているぜ。となりにいる青色のボクスドラゴンは『びぃくん』て言うんだ! 御姉さん、これから寒くなるからどうぞだぜ♪」
 屈んでくれたサーシャにプレゼントの箱を手渡して、びぃくんが愛らしい鳴き声を上げた。中身はマフラーと手袋だ。
「2人ともありがとう。よろしくな」
「母ちゃんの手編みだぞ」
 マロンケーキ製作が今からで、イヴはケーキと大福をいただく寝猫に呼びかけた。でも、彼女は動いてくれず。
 寝猫がイヴを一瞥してからサーシャに訴えかけてみる。
「イヴにケーキ作り教えろとせがまれて、昨日は徹夜しすぎてな。うちはケーキ作りする体力ないんや」
 言葉の意味を察してくれたらしく、サーシャは小悪魔になりきれない妖艶な笑みを浮かべてきた。
「今日は覚えた成果を発揮してもらえるわけか」
「…………」
 そんな風に言われたら、寝猫の力を借りるわけにはいかないじゃないか。
 イヴが陽気に踊り出していたびぃくんを連れて、一緒に頑張るために調理場に向かっていく。
 イヴの後ろ姿を眺めながら溜息をついた寝猫。
「普段はケーキ作りせんお転婆な子やけどな。サーシャはんの誕生日参加するならケーキ作りするて、頑と譲らんかったんや。頑固な所は誰に似たんやら」
 きっと一番身近な誰かさんなのかも。
 しばらくして、イヴは美味しそうなマロンケーキが乗った皿を運んできた。
「これが、俺のマロンケーキだぜ!」
 寝猫がマロンケーキを凝視するびぃくんを抱っこしてちょっとずつ食べさせる。サーシャにもマロンクリームがたっぷりの部分をあげた。
 全員満足気でケーキ作りはちゃんと上手くいったようだ。
 誕生日の者は、もう1人いた。
 3人でクレーエの気を引いて用意できたバースディケーキを、ルティエが土産のラッピング完了後にお披露目する。
「クレーエ……誕生日おめでとう! また一年いい年になりますように」
「クレーエ殿、誕生日おめでとうじゃなっ。これからいい一年になるとよいのぅ?」
「クレーエさん、お誕生日おめでと! 新しい1年、キミに幸せが沢山やってきますように♪」
 大切な者が代表者で、最高な味のケーキに、誕生日ソングも歌われた。これ以上に必要なものは無いだろう。
 クレーエは無邪気に感激した。
「皆でわいわい、楽しー♪ 来年もやろーね♪」
「これからも色々よろしくね」
 ルティエの柔和な微笑みに、満面の笑みで返すクレーエ。
 パーティ規模は大きいわけじゃないのだけど、濃厚な幸せは……どこまでも皆を優しく包み込んでいくのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月23日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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