あなたをしばきたい、それは女王の心の叫び

作者:ほむらもやし

●しばきたいです
 その女は、この日もタマネギ乾燥倉庫の中で、最強の女王様を目指して、修行に励んでいた。
「ちくしょうめ! あたしが一番上手にムチを使えるんだよ!」
 女の振るうムチは、まるで獲物を捕らえる蛇のようにトルソに巻き付き、軋む程に締め上げたと思えば、瞬く間に外されて、背中側を激しく打ち付ける。
 成人式を迎えた日に、好奇心から目にした、その手のコミックに魅了されてから、はや20年。
 彼女は創作の世界に描写されていたあれこれを独自に解析して、実際の技にまで昇華させていた。
「……ああ、ホンモノの男で、試したい」
 控えめな胸の下に腕を組んで呟く。そんなタイミングで異変が起こった。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「え、本当に!?」
 不意に青い髪の少年——のように見える少女、幻武極(げんぶきわめ)が現れて、女に笑いかける。
「海風に揺れる吊り橋は世界一ィ!! 大鳴門蛇鞭拳!!」
 いやっほう♪ 次の瞬間、女は、嬉々として、幻武極に攻撃を始めていた。
 果たして、幻武極は薄ら笑みを浮かべたまま、鞭で打たれ続けるが、ダメージを受けている様子は無い。
 そして攻撃が一巡したところで、持って来ていた鍵で女の胸を貫いた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 貫かれた胸には傷一つついていないが、女は意識を失って倒れ伏し、脇には黒い革の鎧を纏った金髪巨乳のドリームイーターが現れる。憐れにも倒れた女には見向きもせずに、ドリームイーターは大鳴門蛇鞭拳を繰り出してタマネギの入った金篭を破壊する。
「さあ、お前の武術を見せつけてきなよ」
 その様子に幻武極は満足げに頷き、指令を与えると、ドリームイーターは倉庫の扉を打ち破って外に飛び出して行くのであった。

●ヘリポートにて
「というわけで、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)さんが懸念していたように、ドリームイーターが近隣住民に襲いかかると分かった。急ぎ対応をお願いしたい」
 予知について語った、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、続けて事件の背景についての話を始める。
「今回の事件の黒幕は幻武極。今回の事件でも、彼女のモザイクは晴らされなかったようだ。その代わりなのか、武術家の夢を奪い取ったドリームイーターを暴れさせようと目論んでいる」
 ケンジは被害者の世間体に配慮して、武術家と呼称したようだ。が、ドリームイーターは被害者が夢見ていた、ナイスバディの女王様の見た目をしている。
「現場となるのは兵庫県の南あわじ市。幸いにも人口密度の低い農村地帯であり、ドリームイーターが人家に到着する前の迎撃可能だから、被害が出る前にうまいことやって下さい」
 うまくやって下さいと言うところに、力を込めたケンジは戦闘情報へと話を移す。
 敵はドリームイーターが一体で、配下など、支援戦力は無い。
 ドリームイーターは到着時点で、タマネギ倉庫から出て、農道に足を進めたぐらい。
 周囲は農地で、タマネギの苗の植え付けを終えたばかりの今は人通りも少なく、人払いの必要が無い。
「ドリームイーターの外見は黒い革の鎧を身につけた大柄な女性だから、その姿は遠目にもすぐ分かる。……どう考えても、見間違いは無いと思う」
 ドリームイーターの戦闘能力は、巧みな鞭使い、言葉責め、他、精神集中による回復。
 攻撃はとても重く、言葉責めには強力な催眠効果もある。
 いかがわしいコミックが元になっているとは言え、武術にまで昇華されたソレは、うら若き女子が捧げた20年に相応しいものとなっている、はず。
「細かいことは気にせずに正々堂々受け止めてあげても罰は当たらないよ。20年も掛けて編み出された鞭の技術なのだから、とても気持ちのいい戦いになるかも知れないね」
 人数差があるから、無慈悲な戦い方をすれば、一方的な展開になってしまうかも知れない。だけど、このドリームイーターだって、デウスエクス、あなた方に苦痛を与え、窮地に追い込んでくれるぐらいの戦闘力は、ちゃんと持っている。
「何と言いますか、行き遅れてしまった女子の悲哀を感じるドリームイーターですわね」
 先日も結婚式のご祝儀で散財した、ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)が肩を竦める。
 それを言うなよ。
 という表情でケンジは返しつつ、この戦いをどう解釈するかは、あなた方次第だと締めくくった。
 おそらくドリームイーターには恥や外聞を気にすると言うことも無い。
 ならば此方も正々堂々と受け止めるつもり挑めば、被害者の目覚めも多少は良くなるかも知れない。
 20年を掛けた、女子の夢を単なる悪夢と終わらせるかどうかは、あなた方の手に委ねられている。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
神寅・闇號虎(想いを刃に心は包み込み・e09010)
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)
阿東・絡奈(蜘蛛の眷属・e37712)

■リプレイ

●戦場はタマネギ畑
 悪いことも、デウスエクスの襲撃も突然やって来る。
 去年、この淡路島が植物迷宮に覆われた時も、そして今回もまた。
 平和な日常の中では、ネットやテレビが映せば、身近な事件であってもリアリティを失い、他人ごとのように感じてしまう。
 だけど不意に、自分の番が巡って来ることがある。
 その時になってはじめて、本当は自分が危機の中で生きていたことを知る。

 今回もドリームイーターが悪いコトをする前にやっつけるのだよ!!
「わぅ……女王様? 王冠も付けてないし……その格好だと寒そうな感じなのだよ? ね〜ね〜。なんで女王様なのだよ〜?」
「あたしが女王って言ったら、女王なんだよ。それがきまりなんだよ!」
 至極当然と思える疑問を口にした、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)に対して、女王のドリームイーターは大人げなく、鞭を叩き付けてきた。
 モザイクと一緒に土塊が飛び散って、土埃が風に流される。なお回答例の一つを挙げれば、服従的なパートナーに対して、支配的存在を象徴する意図で、女性の場合女王と称す慣例とされている。となる。
「これはほんの挨拶代わり」
 挨拶らしいので攻撃の意思はなかったようだ。ただし11歳の子ども相手にむきになるのはみっともない。
 年齢相応に蓮がシュンと泣きそうな顔、——のフリかもしれないが、をしたので、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は、自分の興味を優先するように、観察に徹する。
(「なかなか良い趣味をしているじゃないか。苛めたいと思ってるらしいけど、私はいじめてあげたいな」)
 彼女の年齢は15歳。いろいろやりたい気持ちをあるかも知れないが、踏みとどまってくれたほうが助かる。
 果たしてこれからどうなるのか、すぐに戦闘になりそうな気はしないけれど、金髪美女のドリームイーターとケルベロスたちの乱れっぷりを見てみようと、決め込んで、ぺろりと舌舐めずりをした。

 今、ドリームイーターはタマネギ倉庫を背にする形で、前方をケルベロスたちに阻まれている格好となっている。正直邪魔であったが、折角なのだから、ここで武術を見せつけてやろうなどと思い始めていた。
 そのニーズを読み切っていたかのように、分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)は前に出る。
「すばらしいテクニックだな!! 20年もかけた情熱か……よろしい、俺が全力で受け止めましょう!」
「え? 本当っ?!」
 直後、嬉々とした表情を見せるドリームイーターに、楽雲は万感を込めた微笑みで頷く。それは鞭撃も緊縛も言葉責めも、ありとあらゆる攻撃を、ディフェンダーとして引き受けようと覚悟した男の生き様だ。
 直後、覚悟に応じるのはあたりまえであるかの如くに、鞭撃が乱舞した。
 事情を知らない者が見れば、ただの暴力のようにも見えるが、これは愛の営みである。身動きひとつ許されない絶対的な支配の状況において、為されるがままの運命に甘んじることが出来るのは、相手への信頼あってのこと。必ず心の空白を満たしてくれると信じているから。
 そして、どんなに肉体が傷ついても、ダメージは入らず、死ぬことも無いことは、ドMにとっては、色々な意味で理想的な状況である。
 そんな様子を、西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)は、大きな胸の下で腕を組んで観賞していた。
「期待外れもいいとこね」
「なんだと?」
「わからないの? ……ただ責めれば良いってものじゃない」
 眼鏡をくいっとあげてから、玉緒は踵を踏み込むと、軽く跳んで前に出た。そして、どこか浮かない、物足りなさそうな表情をしている、楽雲に平手を振り下ろした。
 瞬間、掌で打ちつける甲高い音が響き渡り、楽雲の身体が地面を転がる。そして完璧な受け身から返してくる表情は、青空のように澄み渡っており、その視線は、一生ついて行きたいと、見惚れてしまったかのような、熱を帯びているようだった。
「奴隷のされたいことを察し、責めてあげる。それこそが、真のサドよ」
 そして、そうするのが当然のように反対側の頬を差し出してくる、楽雲にもう一撃。
 実は、楽雲は鞭などの道具を使ったプレイは、あまり好みではない。どちらかと言えば身体のふれ合いを求めているらしい。
「くっ。なんて嬉しそうな顔をするんだ。……この変態め! 我が鞭は不満だと申されるか?」
 ドSの心意気。確かにその通りだ。だが、言葉では納得しても、修行に青春を捧げた否定するわけには行かないのだろう。女王本人ではないドリームイーターが言うのも変な気がするが、——ともあれそんなことは気にしないことにして、ドリームイーターは言い放つと、剛柔硬軟を織り交ぜた艶やかな鞭の乱舞、長年の技術の結晶を惜しげも無く繰り出して、楽雲を厳しく同時に優しくしばきまくった。
「いいか、お前が上げて良いのは、悲鳴と嬌声だけだ! うぬぼれるな!!」
「ごくり。まさか本当に、こんな武術を究めようという方がいるとは……」
 このドリームイーターを退治に来たことを、忘れ果てたように、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)は真顔で観察を続けている。メモを取る手が震えて、身につけた拘束服の締め付けた部分が汗ばんだように熱を帯びてきて、真冬の風が吹いているのに、ほかほかと身体が熱くなってくる。
「ふふっ、鞭使いですか、私は縛ることなら得意ですの、貴女はとても縛り甲斐がありそうですわ」
「ええっ?! そんなことありません!」
 阿東・絡奈(蜘蛛の眷属・e37712)がドリームイーターに向けた言葉に、セデルは思わず反応しまう。
「あら、勘違いさせてしまって、ごめんあそばせ」
 しかし、勘違に潜むセデルの本性を、絡奈は見逃さない。が、同時に被害者を助けようとする強い意志も感じていた。ふうん。と、悩ましげに、息を吐き出しながら、獲物を見るような視線を向けた。
(「なんでしょう。この胸騒ぎは、後から事件にならなければ良いのですが……」)
 楽雲がしばかれ続ける様を見て、ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)は、11歳や15歳の子もいるのに大丈夫なのかと心配になって来る。
「うーん、流石だな。見た目はぼろぼろだが、全然堪えてないようだぜ。あの心意気はあっぱれだ」
 一方、神寅・闇號虎(想いを刃に心は包み込み・e09010)は、どこまでも冷静な様子。いい年をした大人たちがギリギリを狙ってしのぎを削り合っているのに対して、彼の目的はこのドリームイーターの撃破、それのみ。隙あらば獣撃拳でぶん殴ってやろうと思っている、その冷静さは、19歳の未成年とは思えないような末恐ろしさを感じさせる。
「ですが、これ以上の過激さは、発覚するといろいろ問題が——」
「ふふ、余計なこと黙っておくもの。何があったかなんて、胸のなかにしまっておけば分からないものよ」
「あ、そういえば、そうですわね」
 つまり『何も見てない』ことにすれば問題は起こらない。玉緒のスタイリッシュな助言にナオミは安堵の笑みを見せるが、悲しいけれど最年長なので、それくらいで勘弁して下さいと、目で訴える。
「……というわけで、ドリームイーターのあなた。そろそろ、される側のことを理解する時が来たと思うのよ」
「はぁ。どういう意味だ?」
「つまりね。わたしが教えて、あ・げ・る。逝くまで……ね」
「やれやれ、やっとだな」
 玉緒の艶やかな笑みを、戦いの合図と見た、差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)は、間髪を入れずにルナティックヒールを発動し、それと前後して、黄泉は宙高く跳び上がる。

●戦い
 昼間の明るさの中にあっても、満月のように認識できるエネルギー光球が、見た目がボロボロの楽雲ではなくて、クラッシャーである蓮の身体に吸い込まれて行く。
 黄泉の飛び蹴りに怯むドリームイーターを見据え、与えられた力に背中を押されるのを感じながら、蓮が繰り出すのは斬霊斬。それは目には見えない斬撃となって、霊体に汚染と破壊を刻みつけた。
「どうだい。大人の世界は分からないけれど、素早さでは負けないんだよ……ッ?!」
 にこりと笑って間合いを広げようとする蓮の耳元に、お待ちなさい。と、背筋が冷たくなるような声が響いてくる。
「おっと、口撃もオイラが引き受けるぜ。女王様の言葉責めなんざ、小学生には早すぎるぜ——」
 自身にも振りかかる言葉責めをまず堪能しながら、さらに蓮の分の言葉責めをも引き受けた楽雲の顔が、今度ばかりは苦痛に歪む。先ほどまでのプレイとはちがう、正真正銘の攻撃から来る命を削られるダメージの感覚に、頭の中が真っ白になりかける——だがこれもいい。このまま昇天してしまうのも本望かも知れない。
「いやいや催眠はゴメンだ。俺の真骨頂はドM。考えるよりも先に身体のふれ合いを……」
 暗示を振り払うようにして、蓮は叫びを上げて催眠の効果を吹き飛ばす。そして満身の力をこめて、ドリームイーターの胸へと両腕を伸ばす。
「こ、こんなことをしてただで済むと思うなよ」
 その意図を察したドリームイーターは軽々と回避するが、表情には戸惑いの色が浮かぶ。
(「……ふふ。 愉しんでるみたいね」)
 どこか楽しげな笑みを浮かべ、一歩下がったところから、放たれた、玉緒の女王様のムチ——ケルベロスチェインがドリームイーターのふくよかな身体を捕らえる。
「くっ、こんな辱めを受けるとは」
 気がつけば、サーヴァントを含めれば4人のディフェンダーに2人のクラッシャー、計6人の前衛に囲まれて、玉緒や絡奈を初めとした後衛、中衛からねちっこく責め立てられる、ドリームイーターとしては最悪な状況に陥っている。
「いろいろ思う所はありますが、秩序と規律の回復は私の使命です」
 べつに女王様にそんなことをされてみたかったり、実際にあったら良いなとか思った訳では無い。ただ、もしそのような者がいれば秩序を乱す大きな懸念になるに違いない。セデルはあくまでも、そう思って警戒していただけなのに。——なぜこんなことになった。催眠の効果から来る気の迷いか頭痛か、それらを振り払うように、秩序を取り戻す癒力を秘めた無人機を呼び出す。
「聖なる光よ、彼の苦しみを解き放ち給え!」
 次の瞬間、無人機から放射される効果が、自身と共に前衛にくすぶっていた怪しげな気配を霧散する。
 次いでセデルの後ろに浮かぶ半身のみの少女、イヤーサイレントの腕が宙を撫でると、石くれが、タマネギが、金篭が、その辺に転がっていたありとあらゆる物品が宙に浮かび上がり、つむじ風に舞う枯れ葉の如くにドリームイーターに襲いかかる。
「ぬるいな。武を語るなら、その程度では足りないぞ!」
 大鳴門蛇鞭拳。たいそうな名前を付けていたとしても、所詮は中二病のアラフォー女子が二次創作した怪しげな技に過ぎない。図星だとすれば、身も蓋もない解釈と共に繰り出された、闇號虎の重い一撃がドリームイーターの豊満な身体に吸い込まれるように命中する。
(「さて、催眠はもうご免ですわね」)
 ダメージはさほどでも無いが、恐らくはドリームイーターの攻撃の中核となる言葉責め、それを封じるべく絡奈の放った紙兵の群れが粉雪の如くに舞い始める。
「くっ、これであたしの技を封じたつもりか? ならばその身に刻むが良い。大鳴門蛇鞭拳!!」
 女王のドリームイーターは絡奈に狙いを定めると、ヤケクソにも見える勢いで突っ込んで来る。
 拙いですわ。何をやっているんですの、楽雲様。
 攻撃は全部引き受けてくれるはずじゃ……ありませんの?
 もはや避けきれないと、絡奈が衝撃に備えて蜘蛛の糸を展開する刹那に、覚悟を語った楽雲に突き刺すような視線を向ける。
「絡める技が得意なのはお互い様です、防ぎ方も知っておりますわよ」
 他人を信用しすぎるのは危険だし、してはいけない。19歳の少女が現実を直視した正にその時、死角から突っ込んで来た、セデルが鞭撃の乱舞の全てをその身に引き受けた。
「ディフェンダーはひとりじゃありませんから」
 隠れである以上、ドMの気質を表明するわけには行かない。けれども鞭に打たれた痕が熱い。休む間もなく重ねられる鞭撃の痛みと、傷痕の熱に冒された頭で正気を保とうとするも、良くない方向に意識が傾いて行く。
 でも、それがあなたの本性なら、良いんじゃ無い? そんな声が聞こえたような気がして、セデルが刹那の夢想から目醒めると、ビハインドが作り出したつむじ風がそこかしこにある物品を巻き込みながら、ドリームイーターに襲いかかるところだった。
「ほーら、痛くないぜ〜? 女王様。今どんな気持ち?」
「く、そ。万全の態勢であれば、こんな辱め……」
 間髪を入れずに密着した楽雲の吸手が、痛みや苦痛では無く、心地よい脱力感をもたらす。
「へへ、しかしすんごい恰好だね、ザ・煽情的って感じ?」
「本当は……寒い、わ」
「え?」
 急に反応が柔和になった気がして、楽雲は慌てて間合いを広げた。
 入れ替わるように、飛び込んで来るのは紫音。目尻に施された紅と靡く赤の袖が連なる様は追跡者の篝火のよう。
「おばさん、楽しい見物だったぜ。だが、俺は殺し殺されって殴り合いの方が好きだけどな」
 言い放って、紫音は抜き身の一閃を繰り出す。翻る赤が一条の筋を描いたかに見えたと同時、深々と斬り裂かれた、女王のドリームイーターの身体はモザイクを吹き上げながら消え始める。
「耐えきって頂戴。これぐらいで逝かれちゃあ、愉しめないし……ね?」
 終わりを予感した、玉緒は一挙に間合いを詰める。繰り出す銃底の殴打が崩れかけたドリームイーターを打ち据えて、モザイクを勢いよく散らせる。次の瞬間、蝶の如き七色の煌めきが展開する中、脳天に振り下ろされたヒールの一撃がモザイクの身体を完全に破壊した。それと機を合わせるようにして、絡奈はブラックスライムを膨張させる。
「素敵ですわ、その御姿、美しい蝶が必死に足掻く姿は食欲をそそりますの」
 そして、手向けるように、貴女の魂も素敵でしたわよ。と呟いた絡奈は、舞い降りたボクスドラゴンのアトラクスの方を見て目を細めた。
 かくして、大鳴門蛇鞭拳を盗み取った、ドリームイーターは完全に打ち砕かれて、そのあられもない姿でもたらされたであろう惨劇は未然に食い止められた。

●戦い終わって
「はわわ…タマネギいっぱいなのだ……」
 蓮が驚きの声を上げたのは、ポルターガイストの発動により、タマネギを入れた金篭が、一部、ぶちまけられていたため。が、目立つような被害は皆無であった。
「はい、これで終了」
 楽雲や玉緒や紫音が気を回してヒールを掛けてくれた為、この場所で事件が起こり、戦いがあったことは、全く分からない状態になっている。
 被害者に配慮するのであれば、何も見なかったことにして帰ってあげるのが、最善だったかもしれないが、蓮は容赦なく、被害者の人を助けるまでして、終わりなのだ!! と言って、起こしに向かった。
「おはようございますなのだ♪」
 果たして、目を醒ました被害者の気まずそうな表情は形容しがたいものだった。
(「暴露されてしまったようなものです……よね。残酷すぎます」)
 隠れドMを自称するセデルには、その気まずさが、痛いほど分かるような気がした。
「ま、技術として悪くねぇが、夢を見るのもいいが、現実も少しは、な?」
 やれる範囲でいいから、良い相手を見つけるんだなと、慰めの言葉を掛ける紫音だったが、それ以上フォローのしようが無かった。
「鞭の扱いが上手いなら、鞭で叩かれたい人が集まる場所を探したらどうだ? 俺は叩くなよ」
 ネットでは、そう言う性癖を披露して女王様を探している人もいるだろう。優しい気持ちからの闇號虎の言葉だったかも知れないが、誰でも良いと言うわけでは無いし、個人情報が拡散するリスクを考えればそのような所にノコノコと出て行けるはずも無い。
 ションボリした被害者の様子は暴れ回っていたドリームイーターとは比べものにならないほど弱々しい。
 あなたもなんとかしてよと。玉緒はナオミに無茶振りをするが、手の施しようが無いと言うのが正直なところ。
 そんなタイミングで、被害者の脇に跪いたのは楽雲であった。
「こんなことくらいで、諦めるな。あんなトルソより、もし、近接対応のための練習相手が必要なら……」
 やましさなんてない。衷心からの行動なのだろう。
 まずは連絡先の交換からとアプローチする姿に、誰もが目を細め、楽雲なら大丈夫、きっと上手くやってくれると、信じて、あとは全部まかせることにした。
 これにて一件落着。
 楽雲を残して、帰路につく一行の足取りは、軽やかで、仕事終えた充実感に満ちている。
 吹き寄せて来る風は冷たくて、冬を感じさせるけれど、陽射しは暖かく、頭上には何処までも澄んだ青空が広がっていた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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