●聖なる夜に願いを託し
彼女は鏡の前で軽くポーズを決めた。
「お洋服ばっちり、……お化粧オッケー、髪型良しっ」
大きな独り言と共に指差し確認。
くるりと振り返った目線の先には、ハンドバッグと紙袋。
「カバン完璧、プレゼントもじゅんびかんりょーうっ!」
どこか照れ隠しの様に言い終えると、彼女ははにかんで笑う。
なんたって、今日は、きっと、いいえ、今日こそ告白しちゃうのだから!
出会いは一昨年の4月。
大学の入学式から少しずつ近づいた距離。
皆で沢山遊んで、沢山話して。
勉強を一緒にする様になってからは、何故か目が彼を追ってしまって。
それから、2人きりでも出かける様になった。
映画も、雑貨も、海も、お買い物も、お食事も。
そして今日、クリスマス・イブ。
2人で遊ぶ約束をしている。
もう、これは。
「デート、……よね」
先程とは打って変わって、少しだけ自信を失ったように呟く言葉。
沢山2人で遊びはした。
でも、これが私だけの勘違いだったら。
仲の良い友達としか思われていなければ、と思うと胸がきゅっと締め付けられる。
細く息を吐いて顔を上げた彼女は、瞳を見開いた。
鏡に何か変な物が映った気がして、振り向く。
「……え?」
振り向いた彼女の前に居たのは、機械の天使と巨大な卵。
「女、絶望セヨ。クリスマスのチカラを、全て吐き出すノダ」
輝きの誓約の軍勢は、鈍く喉を震わせて言葉を漏らした。
●祈り星は守られる
「はい、メリークリスマース」
サンタ帽子を被ったレプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は事務的にクラッカーを鳴らして片目を瞑り、掌の上に資料を展開する。
「去年はゴッドサンタの事件を解決してもらったよなぁ」
あの事件をきっかけに、ケルベロスは560本の光る小剣『グラディウス』を得る事ができた。
――グラディウスには『強襲型魔空回廊』を破壊する事のできる力が秘められている。
この一年を振り返るだけでもケルベロスたちは、そのグラディウスを使用して多くの固定型の魔空回廊――『ミッション』の拠点の破壊に成功してきた。
「その状況はデウスエクス達にとって、勿論不利な事でな。俺たちの持つグラディウスを封じようと――地球に潜伏していたダモクレス、潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が動き出したようなんだ」
クリスマスの力は大きなものだ。
ダモクレス達はその大きな力……、クリスマスの力を呪詛に変えてグラディウスを封じ込める儀式を行おうとしているのだ。
「お前達に担当して貰う敵サン共は、クリスマスデートの準備をしていたJDの前に魔空回廊で突然現れ、儀式用の特別なダモクレスに閉じ込めてしまっているぞ」
JD……女子大学生を飲み込んだ儀式用ダモクレスの『輝きの卵』には戦闘能力は無い。
その為、周囲には3対のダモクレスが護衛についているのだが……。
「JDが囚われたまま『輝きの卵』を撃破してしまうとJDは死んじまう。……状況が許す限り、護衛から先にぶっ倒してくれよなぁ」
レプスはケルベロス達を見渡し、どこか祈るように言葉を紡ぎ、資料を切り替える。
次に映し出されたのは、マンションの間取りだ。
「戦闘場所は見てもらっている通り、囚われた彼女が一人で暮らしているマンション自室だ」
広くは無いが、ケルベロス達であれば戦闘に困る事は無いだろう。
「部屋は少々壊れてしまうかもしれないけどな、……そこは命には変えられないだろ?」
輝ける誓約の3体の護衛は、機械で模った女性の天使のような姿をしたダモクレス達だ。
輝きの腕と呼ばれるキャスター。輝きの城と呼ばれるディフェンダー。そして、輝きの音と呼ばれているメディックがこちらの護衛を担当しているようだ。
彼女たちの目的は一つ。
クリスマスが終えるまで女子大学生を『輝きの卵』の中に囚え続け、儀式を成功させる事だけ。
その為、自ら達を癒やし護る戦い方を選択するようだ。
儀式を終えれば輝きの卵は自爆して、そのエネルギーの全てをグラディウスの封印に使う。
……その場合も囚われた女子大学生の命は無いだろう。
「ま、お前達になら任せて大丈夫だろ? ……宜しく頼んだぜ、ケルベロスクン達」
クリスマス。
街の皆が浮かれ、喜び、楽しみ合う特別な日。
囚われた彼女にとっても、特別な日。
「あ、彼女の待ち合わせ時間を過ぎちまった場合も、フォローしてやってくれよな」
ケルベロスたちならば、彼女の気持ちの整理も、事件の解決も。
きっと上手くやってくれるだろうとレプスは笑った。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(後ろ手に花・e00040) |
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608) |
ジエロ・アクアリオ(星導・e03190) |
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674) |
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301) |
鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420) |
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602) |
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083) |
●護るべき卵
チャイムも鳴らされずに開いた玄関に、真っ先に反応をしたのは輝きの腕だ。
どこか軽い音を立てて、訪問者に向かって問答無用の散弾が吐き出される。
「えい」
間髪いれずに、投擲されたボクスドラゴンのイドが弾をその身で受け。
勢いはそのまま、壁に頭をぶつけてずるずると滑り落ちて落ちて行った。
「随分と丁寧な御挨拶ね」
イドの身体では庇いきれなかった弾を、大鎌を回し受けたリィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)は落ち着き払った様子で呟き、真っ直ぐに敵を見据えた。
「ケルベロスどもカ! ――邪魔はさせナイ!」
敵も襲来を予測はしていたのだろう。機械の天使達は、『輝きの卵』を守る形で隊形を組む。
そこへ、ふさふさでしなやかな黒い尾を揺らしながら爪を剥き出し。ぽかちゃん先生は空を駆けるように飛び込んで行く。
巨大な剣を振るい。
その爪を捌いた輝きの城は、ケルベロス達を蹴散らすようにそのまま剣を横に薙いだ。
「去年も襲ってきたのに懲りない機械達だね。クリスマスに相当ご執心みたいだ」
斬撃を避けて壁を蹴り飛んだ、アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)が部屋の奥へと転がりこみ。
古錆びた銀のリボルバーを構える彼女の肩上で、黒翼猫のキヌサヤが翼を撓らせれば室内に風が吹き抜けた。
「全く、イベントごとの度に忙しいコト。たまにゃ平穏に過ごしたいんだがなァ」
玄関で、うんざりとした様子で肩を竦めるローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)。
「本当だよ! 楽しそうなクリスマスにこんな事をするなんて駄目だよー!」
アトリとは反対に床スレスレまで身を低くして滑り込んだ鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420)は、にぱっと笑った。
「ほらほら、わたしの目を見て♪ これでもう釘づけ♪」
ポーズを決めて、コスチュームをチェンジ。
重ねた視線は紅色の瞳から外す事が、もうできないだろう。
だってこれは、魅了の力を宿した魔眼なのだから。
「素敵な聖なる夜を邪魔してるんじゃないわよっ!」
間髪入れず跳躍した蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)の木刀が、その場に静止した敵の脳天に向かって風を切り。
黒き弾丸を吐き出した。
「さっさとあんたらを倒して、その子を帰して貰うのだから!」
「そうそう、デートに間に合うように速攻でねー」
カイリの言葉に赤ずきんを揺らして二度頷いたフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)がにんまりと微笑みステップ、ステップ。
輝きの城をギリギリまで引きつけて、城の後ろを狙ってウィルスカプセルを投射する。
彼女たちの狙いは、全て癒やしの要。
輝きの音だ。
狙いに気づいた輝きの城が庇おうとバックステップを踏むが、遅い。
構えた剣で全ては庇い切る事が出来ず。
輝きの音は衝撃に跳ね跳びながらも、受け身を取る。
壁に叩きつけられた輝きの音がスピーカーから漏らす、高音の耳障りな癒やしの歌。
「全く。努力する人を踏みにじるような真似はしないで貰いたいね」
「日常を守るも猟犬仕事の内か。たまにはらしい仕事もこなしましょうか、ってなァ――鼻っ柱ごと圧し折ろうぜ、好きに獲らせるのも癪だ」
廊下をすり抜けジエロ・アクアリオ(星導・e03190)とローデッドは左右に散開して同時に飛び込む。
クリスマスはめでたき日であるべきである。
そう、今日は悲劇にあまりに不釣り合いな日だ。
「その思惑、阻止させてもらうよ」
ジエロの呟きと共に零れた息はふいごの如く、炎が敵を舐め。
蒼色の地獄の炎が左目を染め。重ねられたローデッドのエクスカリバールが疾る、吼る。
輝きの音に近づくケルベロス達を引き剥がさんと、輝きの腕が小さなドローンを飛ばした事を見逃してはやらない。
白い身体をくねらせてボクスドラゴンのクリュスタルスが駆け。
勢いそのまま空中で卵型のドローンを抱きしめて、暴れるドローンと共にそのまま床を転がって行った。
シャーマンズカードを一枚引き。花唇に添えたティアン・バ(後ろ手に花・e00040)は、灰色の瞳と髪を揺らしてまっすぐに前を見据えた。
恋はしあわせなものだ。
その証拠に、ティアンはしあわせだった。
とても、とても。
だから、だから。
それを。
「遮ることは、させない」
ティアンの背後に氷の騎兵のエネルギーが膨れ上がる。
「いっておいで」
「そういう訳よ」
リィが囁く。
サソリの鋏を模した惨殺ナイフの二枚並んだ刃がしゃきん、と音を立てる。
照り返す刀身に映り込むのは、輝きの音の姿。
「さっさと片付けましょ」
敵の姿が鋏刃の中でゆうらりと蠢き、揺れた。
●壊すべき卵
ぽかちゃん先生とキヌサヤが同時に翼をはためかせ。
柔らかい癒やしの風が部屋を満たす。
叩く、撃つ、斬る、燃やす。癒やす、庇う、癒やす、癒やす。
一直線にカイリへと駆け、襲い掛かる輝きの音。
「もうっ、そろそろ倒れてくれないかしらっ?」
跳ねる。
一瞬の内に輝きの音の頭を太腿で挟み込むと、そのまま体重を後ろに掛けて反転。
輝きの音を引き倒しながら壁を蹴って、更に飛び。
床に片手を付いてカイリは廊下側へと駆け抜け避ける。
彼女の言う通り、ダモクレス達は粘っていた。
しかし戦い続ける以上、疲労の蓄積は免れないものだ。
それは庇う側も、癒やす側も同じ事だ。
「ロー」
「あァ」
頷くローデッド。
名を呼ばれるだけでも、相手の思いが解る一言もある。
左右に別れるように飛んだ2人は、目線でタイミングを交わす。
「……はは」
どこか乾いた笑いがティアンから漏れた。
燃える、燃える。
胸元から溢れ溢れる地獄の炎は、赤橙には似つかぬ色。
卵を傷つけぬように。
まだまだ不慣れであった地獄の炎ではあるが、丁寧に敵の足元を埋めるように。
横飛びをして、床に踏み込んだローデッドが螺旋の力を足先に籠めて。
その場で宙を裂くように、空を蹴る。
「……グ、ゥッ!」
ティアンの炎は足を絡め取り。逃げ場を失った輝きの音へ、氷結を纏った螺旋が叩き込まれた。
強かに壁に叩きつけられる輝きの音。
びくんと大きく跳ねたかと思うと凍りついた内部から罅音を立ててぱかんと二つに割れ。そしてそのまま動かなくなった。
「やった! これでメディックが居なくなってやりやすくなったねぇ」
「そうだね~!」
フィーが喜びの声と共に重ねる回復に蓮華がうんうんと頷き。自らを覆うオウガメタルが蠢き出す。
「あとは、二体ッ!」
蓮華が踏み込んだ。
オーバースロー気味に振り抜いて、輝きの城へと叩きつける拳は鋼の如く。
よろめいた輝きの城を覆い、覆い隠すように輝きの腕がドローンを放った。
「邪魔だよ。唸れ、――氷鱗纏う気高き龍の魂」
アトリの首飾りに流れ込む力。
振り上げた足を紫黒色のオーラが纏う。
「冥き刃に載せて命脈の刻を絶つ!」
冥府の如く、ひやりとした鋭い蹴りが影刃と化し。ドローンごと輝きの城を裂き蹴りあげた。
「我が身模するは神の雷ッ!」
更に弾き飛ばされた先に構えていたのは、バッターボックスに入ったバッターの如く。木刀を持ったカイリだ。
「クソ、……ケルベロスドモ!」
最後の力を振り絞るかのように、輝きの城は巨大な剣をケルベロス達へと思い切り投げつける。
「――白光にッ、飲み込まれろぉッ!」
白。
一瞬室内が雷光たる白に飲み込まれ、その光が木刀にすべて収束される。
輝きの城を一刀両断する、それは創生の雷。
同時にイドとがクリュスタルスが跳ねた。
ケルベロス達へと向かって投げつけられた巨大な剣の軌道を体当たりで反らすと、あえなく剣は壁へと突き刺さる。
「エライわ、クリュ。……後はやっつけちゃうわ」
リィのイドをスルーしたお褒めの言葉。
「轟け水龍」
重ねられるのはジエロの囁く声音。
自らのものではない記憶を保持する魔術回路が起動し、生まれる水泡。
水流は水龍へと。
荒れ狂う龍が纏う氷の礫。
蠢きがリィから零れ落ちた。
彼女は、彼女を喰らいつくさんと蠢くタールの如く粘ついた幾千幾万の魂どもを、すべて捻じ伏せて従える。
「もうお腹も空いたし、チキンが食べたいわ」
「――Tornado」
水龍と黒蛆が輝きの腕へと殺到した。
荒れ狂う水龍と、黒蛆は全てを喰らい尽くす。蓄積した疲労は輝きの腕の装甲を脆くする。
「……!」
そして、言葉も無く、床へと落ち伏せる輝きの腕。
何かが弾ける音がして、彼女もまたそのまま煙を吐いて、動かなくなった。
「ふー……、さてと、っと」
細い溜息。
榛の枝の杖の先で機械の天使達が動かなくなった事を確認したフィーは、そのまま杖を振りかぶり――。
「これで、おしまい!」
がしゃんと音を立てて、『輝きの卵』の腹を叩き割った。
●ハロー、お姫様
「や、お目覚めかな」
目覚めた彼女の瞳に、一番に飛び込んできたのはジエロの顔だ。
知らない男性の姿に、目を見開いてわたわたする女子大生。
「君を狙ったデウスエクスの襲撃があってね、具合の良くないところはないかい?」
「えっ、……あっ?」
「はーい、落ち着いて、深呼吸深呼吸ー」
フィーが重ねる癒やしの力。
あたたかな日差しを思わせる黄金の光を宿した薬に、彼女はほうと息を吐いて深呼吸。
だんだん状況が理解できてきたのか、女子大生はぐるりと回りを見渡した。
「ありがとう……、ございます。ああ……」
女子大生は部屋の惨状と卵の中に満たされていた液体に濡れてしまった服を交互に見ると、力なく言葉を紡いだ。
びたびたの、べとべとの、どろどろ。
「でも、こんなになっちゃったら……、もう今日は出かける所じゃない、……ですね」
今日は、大切な日であった。
でも、……命が助かっただけでも十分なのだろう。
女子大生は下唇を噛み締め――。
「随分と諦めが良いのね。今日という日は、あなたにとって特別な日ではなかったの? ……待ち合わせに遅れそうだからってなんだって言うの?」
不思議そうにリィは首を傾いだ。
「世界が滅ぶ訳でもないしょう?」
たしかに、その通りではあるけれど。
目を丸くした女子大生の両頬を、カイリはむにっと指先で持ち上げた。
「まだ絶望するにゃあ早いのよ! ちょっと遅刻したからって何よ! さ、ちゃあんと笑って!」
彼女の服を撫でてクリーニングを施しながら、蓮華は安心してね、と笑う。
「メイクもあの卵の中で落とされちゃって、ヘアセットもちょっとしっとりしちゃったけれど……大丈夫、蓮華もメイクアップ手伝っちゃうよ!」
「それにその洋服、とても可愛くて似合っていると思うよ」
アトリは自らがお洒落には疎いと思っている。化粧だって手伝う事もできない。
だからこそ、彼女の服装を見て本当に頑張っているのだろうと素直に関心できるのだ。
彼女の今日に懸ける気持ちを素直に感じられるのだ。
「壊れた部屋の修理と、掃除ならやっておこう」
ジエロとローデッドがヒールと片付けを始める横で、女性陣も大忙しだ。
髪を巻き直すカイリ、手慣れた動きで下地からチークまで仕上げる蓮華。
「大丈夫、バッチリ決まってるわ」
リィの言葉に女子大生は思わずへにゃっと笑う。
「……えへへ、そうかな?」
「大丈夫。すきってこと、つたえておいで」
勇気づけるように、女子大生の頬を撫でたティアン。
ついでにグロスのはみ出た部分も拭ってやる。
「それで。そう。今日という日が、よき一日になりますように」
そしてティアンは口元を緩めて笑ってみせた。
さあ、急いでお姫様。
●パーティ! パーティ!
遠目とは言えケルベロスコートを纏ったジエロ達に送られて来た待ち合わせ相手を見て、彼は目を丸くしたようであった。
それは彼女が何か事件に巻き込まれていたという、証拠のようなものなのだから。
「さあさあ、急いで! シンデレラの魔法と違って消えはしないけど、それでも僕らが助けられるのはここまでだよ」
フィーが叱咤激励するように言う。
「ありがとう、ケルベロスさんたち!」
ケルベロス達にもう一度頭を下げてから彼へと駆けて行く背を眺めながら、ローデッドは掌をゆるく振った。
「全く、聖夜にデートたァ甘酸っぱいことだな。……ま、これ以上邪魔する奴さんは野暮ってモンよなァ」
後は、彼女と彼の物語だ。
恋物語はいつの時代だって愛されるもの。
これから届けるのは、彼女自身の大切な想い。
それは、自分自身で届ける事しかできないものだ。
「でもさ、恋物語はめでたしめでたしで終わって欲しいよねぇ」
「恋する女の子は無敵だもの、きっとめでたしめでたしになるわよ」
肩を竦めて笑うフィーに、大きく頷いてカイリは微笑む。
「そう言えば、レプスはシャンパンを冷やしておいてくれたかしら? パーティには必要よね」
「未成年だろうが7年は早い、とは言われていたね」
「大人ってそういう時はすぐに子供扱いするわ」
「子供扱い……、そうだね」
イドを頭に乗せたリィが言い、ツッコむべきか否かと神妙な顔をするアトリの肩にキヌサヤが降り立つ。
「パーティー。するの? たのしそうだな」
「いいねいいね! 僕もケーキ! ケーキ食べたい!」
ティアンも興味を持った様子で、フィーも同意を示してぴょんと跳ねる。
「ふっふっふ、蓮華は美味しいチキンを用意しておいたよー!」
わぁーっとぽかちゃん先生を持ち上げて蓮華は満点のぴかぴか笑顔。
「おや、ではご相伴に与ろうかな。今日ぐらい浮かれても罰は当たらないだろう」
「ま、本当。楽しそうね」
クリュスタルスを肩に抱いたジエロも頷き、クリュスタルスも楽しげな雰囲気にごきげんだ。
そしてこのキリリっとしたカイリの姐さん面は、数十分後にはお酒に溶かされてうにゃははは、やはー! めれたい日らし、一杯飲んじゃうんらから~って感じになるのは今は誰も知らない事である。
「パーティとは随分景気の良い。一仕事終えた褒美だな」
ポケットに手をつっこんだローデッドはふ、と気がついた様にティアンへと包みを投げ渡した。
半ば反射的に受け取ったティアンの掌の中には、クッキーの包みが一つ。
「年下にプレゼント、ってのはお決まりだろ? ――メリークリスマス」
「ああ。――メリークリスマス。ロー」
ティアンは笑ってみせる。
ひゅうるり、冷たい風がコートをあおった。
しかし、イルミネーションに彩られた街はきっと暖かくて幸せな物語でいっぱいなのだろう。
今日はクリスマスイブ。
皆にとって素敵な素敵な夜になるはずの日でなのである。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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