●朱より赤く
時は火灯し頃。出格子の美しい茶屋様式の町家が並ぶ観光地は賑わっていた。
白い吐息に揺れる提灯。障子越しの淡い光とひらり降る雪が町の美しさを引き立てる。
手を繋ぎ楽し気に行き交う人々や商店の活気は、寒さを和らげるほど温かい。
『うるさいねぇ』
平和に賑わう町に、天上から冷たい声が降る。
中通り。その開けた中央に音も無く降り立ったのは、身の丈3メートルはあろう白いコートを纏った老婆。
『やっぱり小さい奴らなんざ口縫って掻っ捌けばいいってのに。何で駄目なんだい……』
全く若いモンは、と忌々しそうに独り言を呟く巨躯。その異常に気づいた一人が悲鳴を上げれば、恐怖が次々伝搬してゆく。
様々な言語の悲鳴と怒号が飛び交い、逃げ惑う乱れた足音が混乱に拍車を掛ける。
喧騒に耳を押さえ不快さを露わにした老婆が、苛立ち魚座の力が渦巻く刃を揮う。
『静かにおしよ!』
一息。
両断されこと切れた亡骸が、雪を染め家を染め甲冑を染める。
あまりの暴威に、僅かに生き残った人々は震えながら息をのんだ。
吹き上がる赤が続々白を穢してゆくほど、老婆の顔がにやけてゆく。
『あぁ。ハハ!そう、これさ!いいねぇいいねぇ、あたしゃ静けさも赤も好きなんだ!』
一人、老婆の足元で殺戮を免れた子供が、血肉の海から呆然と身を起こす。
「おかー、さ……おかーさん?あ、あ、あぁぁああああ!!!!!」
『おや。おやおや、坊やじゃないか!いいねぇ!ただ―……ちょいとばかしうるさいねぇ』
躊躇いなく肉を断つ音が一つ、響いた。
●
「泉宮さんの懸念されていた通り、エインヘリアルによる虐殺事件が予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まった面々に資料を配る。
調査に当たっていた泉宮・千里(孤月・e12987)は静かに煙管をふかし、続きを促した。
「今回予知されたエインヘリアルは、過去アスガルドで自身よりも小柄な者へ執着し殺害を繰り返していた、非常に凶悪犯罪者です」
放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
それでは資料をご覧ください、とセリカは手元の資料を捲る。
「エインヘリアルが出現するのは石川県の茶屋街です。数は一体のみで、名はナルシサス。素早い立ち回りを得意とし、魚座のゾディアックソードを扱います」
茶屋街に到着出来るタイミングはナルシサスが襲撃する直前。
急いでもそれが限界です、と資料を無意識に握り締めたセリカは気丈に説明を続ける。
「事前に人々を避難させることは不可能ですが、即攻撃を仕掛けるなどしてナルシサスの注意を惹き、周辺の避難活動をお願いします」
ナルシサスは使い捨ての駒として送り込まれ、どんな不利な状況でも逃げだす事はない。
だが腐ってもエインヘリアル。その手に掛れば一般人など紙同然に容易く殺されてしまうため、避難誘導の際には周りを巻き込まぬ立ち回りも必要だと付け足した。
「美しい街並みと人々を傷つけさせるわけにはいきません。必ず撃破をお願いします」
撃破が成功したら茶屋街を楽しむのも良いと思います、とセリカは微笑んだ。
そして一通りの説明を聞き終えた千里が、カツリと小さな音で火皿の灰を落とす。
「茶屋街に雪化粧。粋で良い場所だってのに、無作法で無粋な客にゃお帰り願わねぇとな」
さて行くかいと百花の羽織りを翻し、ヘリオンへ向かって歩き出した。
参加者 | |
---|---|
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
北郷・千鶴(刀花・e00564) |
天谷・砂太郎(白き狂雷・e00661) |
卯京・若雪(花雪・e01967) |
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433) |
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816) |
蓮水・志苑(六出花・e14436) |
小鞠・景(冱てる霄・e15332) |
●偽の白を倒せ
『静かにおしよ!』
水の気配と魚影を纏う剣が人々に触れる直前、真っ赤なペンギンが割って入る。
鋭い一撃を防いだのは、柱の如き竜槌―……を手に、全力で踏ん張る真っ赤なペンギン。
『……なんだい赤いの。あたしの邪魔をしようってのかい』
「ようこそ!真冬の寒気を吹き飛ばす、赤ペンさんのスペシャルステージへ!」
目を吊り上げて凄むナルシサスを無視し、重武装モードで派手なギラつく衣装に変身したヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)の右手が天を指す。
その動作にグラビティ・チェインが呼応し、編み上げたのは巨大なステージ。
眩いライトがヒナタと、彼によく似た小型のペンギンを照らすのに合わせ、茶屋街には不釣り合いのアップテンポな曲が流れた。
タイミングを合わせてステージを駆けた天谷・砂太郎(白き狂雷・e00661)は白のジャケットを翻し、構えたライトニングロッドから雷光を迸らせる。
「ようババァ。年末のくそ忙しい時によくも性懲りなくやってきたな!」
「さ~激しく盛大に盛り上がろうのオチね~~!!」
閃いた魚座の刃が素早く砂太郎の白雷を断ち切ったものの、音をは刃をすり抜ける。
派手な曲がナルシサスの鼓膜を越えて全身を打ち据えれば、ぐわんと視界が揺れた。
痛みに歯を食いしばった視界の端で、煽るように踊る子ペンギンがヒナタへの怒りを増幅させた。
『ちっ!随分と煩いじゃぁないのさ!あたしゃねぇ、うるさいのは大っ嫌いなんだよ!』
怒りのままに叫ぶナルサシスの視線がヒナタに釘付けになる裏で、立ちすくんだ人々への避難誘導が進んでゆく。
ナルシサスの恐怖に慄き怯えていた人々は、今やケルベロスの登場によって安堵を得ると共に、目の前で起こる刺激的な光景に興奮し騒めいていた。
その騒めきを制したのは、通る静かな声。割り込みヴォイスで避難を促した小鞠・景(冱てる霄・e15332)のもの。
「ここは危険です、誘導に従って避難をしてください」
「此の地も皆様も番犬が護ります。どうか落ち着いて行動を」
緑の黒髪を靡かせた北郷・千鶴(刀花・e00564)も、拡声器を片手に落ち着いた声で人々を誘導する。プリンセスモードによって纏った姫君の如き出で立ちは、足の鈍っていた人々を勇気付ける要因となっていた。
人々は景と千鶴の言葉にしっかり頷くと、徐々に戦場から離れて行く。
また、日本語の聞き取りに不慣れな旅行者らが右往左往としていれば、素早く駆け寄った蓮水・志苑(六出花・e14436)がハイパーリンガルを駆使し、それぞれの言葉で丁寧に避難方向へと誘導した。
「アリガト!」
「いいえ。さ、お気をつけて」
小さく志苑の袖を引き、たどたどしい日本語で礼を言ったブロンドの少女へ微笑みかけ、そっと背を送り出す。
こうして丁寧で迅速な避難誘導の役割は完遂された。
「小鞠さん、蓮水さん、急ぎましょう」
「ええ、そうですね」
千鶴の言葉に志苑が頷き、景も含めた三人はナルシサスの足止めを買って出た五人の無事を祈りつつ、駆け出した。
対するナルシサスの足止めは一進一退であった。
特に盾役の消耗はやや激しく、千鶴のウイングキャット 鈴と奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)を主軸に前線は支えられていた。
「支援は任せておけ」
苛烈な戦場を涼やかな目で見渡しながら、一十は余裕をもって微笑む。
三人分の穴は一人では埋めきれない。しかし、全員で挑めば話は別だ。
そして当たらぬというのならば、当たるようにしてしまえば良い。
冬の陽に煌めくオウガ粒子で前に立つ者達を照らし、超感覚を呼び覚まさせる。
「サキミ」
行けるか、とは問わない。呼ばれた名にツンとそっぽを向きながらも、ボクスドラゴンのサキミは盾役から順に自身の属性をインストールさせ異常への耐性を授ける。
勿論、主人の一十との打合せ通りナルシサスの気を引くジャンプも忘れてはいない。
『なんだい青チビ。あっち行きな!』
しかしエインヘリアルのお眼鏡には叶わず、ナルシサスはあからさまに追い払う仕草をする。その様子に不機嫌を隠さないサキミの眉間に、深い皺が刻まれた。
「そのような呼び方、失礼なのではないでしょうか」
春陽のような髪を寒風に揺らしながら小さく首を傾げた卯京・若雪(花雪・e01967)が、鯉口を切った刃に大地の力と御業を纏わせる。
「――どうか、加護を」
躊躇いなく抜き打たれた剣圧が苛立つナルシサスを寸分の狂い無く打ち据えると同時、加護を乞う若雪の言葉に応えた大地の霊力が花蔦を芽生えさせる。
圧倒的な速度で成長した花蔦が素早く白いコートに絡み咲き、老婆の足を縫い留めた。
『坊ちゃんアンタ余計なことを……!』
「あんなー、お土産は何がええと思うー?」
張りつめた空気を破るような間延びした声。
輝く粒子が自身を照らす中でも変わらず微笑む八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が、場違いなほど緩やかにナルシサスへ問う。
『はぁ?何言ってんだい子猫』
「あれもこれもええなぁ思ったら迷ってまうやん?」
緩やな言葉で畳み掛ける瀬理に、ナルシサスは思いきり舌打ちしする。
しかし、突如眼前に刃を突き付けられるような圧力にバッと正面を見た。
反射的に構えた魚座の刃や、冴えた太刀とぶつかり合い火花を散らす。
『随分とご挨拶じゃないか、お姫さん』
「……その構えでは、遅いですよ」
紫の瞳で鋭く巨躯を射抜きながらも、押し返される力に抗わず千鶴が距離を取ると同時、白コートに赤い花が咲く。
『な!?あぁ―……そうかい。いいねぇ!面白いじゃあないか!』
歯を剥き出して笑ったナルシサスが、狂喜を隠さずに刃を振り回す。
だが、その剣は流星の一蹴が弾き上げる。その妨害を無視して踏み出そうとした足は、志苑の一蹴が放った重力によって大地に縛り付けられた。
「この場に血など流させたくはありません。早々に、ご退場願います」
志苑の言葉をうるさいと跳ね退けたナルシサスの声は、竜槌の轟音が掻き消す。
「貴女の嗜好はどのようなものでも構いません」
『だったら邪魔すんじゃあないよ、小娘!』
「しかし。その趣味嗜好が人に害をもたらすなら―……放置はできません」
竜の咆哮に手隙だった腹を穿たれ、たたらを踏んだまま吼えるナルシサスを景は無感情な瞳で見つめたまま、きつく拳を握る。
感情的になってはならぬと、自分自身に言い聞かせながら。
●本当の赤
『あぁ本当に!ほんっとうにケルベロスってのはピーチクパーチクうるさいねぇ!』
ナルシサスは酷く苛ついたまま口内の血を吐き捨て、魚座の気配が濃厚な刃を担ぐ。
『全員今直ぐ――……死んどくれ!!!』
連綿の気合いと共に振り抜かれた刃が魚群を生み、前列を凪ぐ。
切り裂き吹き荒ぶ様はまるで嵐。攻撃役の砂太郎を守ろうと身を躍らせたサキミが激しく切り裂かれる。魚の嵐の過ぎ去った時、サキミは青い毛を真っ赤に染め石畳の上に伏した。
共に盾役のヒナタは赤い着ぐるみを尚赤く染めながら肩で息をし、切り裂かれた志苑も頬を伝う血を拭う。
ケルベロスとサーヴァントの血で以て、ナルシサスのコートが朱に彩られた。
『いいねぇ。こういうのさ……!これが良い!』
「サキっ……!いや。実に、実に酔狂な老婆であるな。君は」
中折れ帽を目深に被り直した一十が鍵の様な一刀 ヘルヴェテを構えると、最も疲労しているヒナタの傷を一息に突き刺す。
『なんだい?ハハ!仲間割れってかい!』
「抜かせ。 すまないヒナタくん、心配するな。大丈夫だ、治る!」
驚かせてしまったなと笑う顔は朗らかだが、まるでどこも見ていないような紫苑色の目は、冬の陽に妙に透き通っていた。ぐるぐる眼でひらりと手を振り返したヒナタが大きく息を吸う。
「イッツ、ショ~タ~~イム!!」
一十の創痍施錠と渾身のシャウトが半ば程まで傷を塞いだ。
叫ぶ勢いで石畳を蹴り上げた赤ペンギンが、飛ぶ。空を泳ぎながら虹を纏い、驚きの顔で見上げたナルシサスを強かに蹴り飛ばす。
『お前ら、あたしを騙したのかい?!』
「人聞きの悪いことを仰らないでください。僕達の目的はただ、一つ、貴女を倒しこの町を守ることです」
「そうですね。静めて差し上げましょう――御覚悟を」
若雪と千鶴は目配せのみで呼吸を揃える。ナルシサスの左右から閃いた鋼の輝きは白く、緩やかに描かれた弧は三日月と水の月を模す。若雪達の刃を往なそうとナルシサスが構えたゾディアックソードは逆に返すように流された。
『なんだい、坊ちゃんに姫さん、あんたら随分やるじゃあないかい……!』
二つの三日月が鋭い軌跡を以て胸元に刻まれる。止めどなく流れる血が白いコートを真紅に染め、ナルシサスの喉からひゅうっと空気が抜けた。
「アンタみたいなババァの出番なんて、ここにはないんだ」
若雪達と入れ替わるように、足をふらつかせたナルサシスとの距離を一足飛びで詰めながら、破壊しせし理性と感情の名を持つバトルオーラを立ち昇らせた砂太郎が不敵に笑う。
「さっさと死ぬかくたばれや」
踏み込んだ勢いを殺さぬまま、砂太郎の拳がナルシサスの腹を打つ。
『がっ……!!』
吹き飛ばされそうになった身を、石畳に刃を突き立て踏み止まる。喉を競り上がる血を吐き捨てた。
もう這う這うの体のナルシサスに訪れたのは、今まで感じたことの無い体の冷え。あまりの寒さに震え上がった。
熱の引いていくような感覚。まるで指先から麻痺するような、永久コギトエルゴスム化の刑罰を受けた時には知り得なかった、死の恐怖。
『くそう、ふざけてんじゃあないよ。犬如きが、あたしにっ……!』
歯を食いしばったナルシサスの前で、羽の如き薄羽織を纏った少女が刃を構えていた。
「この街には雪の白を。あなたには朱を与えます」
凛々しい志苑の声に石畳から無理矢理ゾディアックソードを引き抜き構えようとしたのも束の間、ひらりひらりと花が散る。
「我が刃にて、あなたの命を散らしましょう」
翻る雪和文様に漆黒の髪がさらりと波打ち、袖が舞う。振るわれた青白く冷えた刃が、真逆の紅色を散らした。
『ああもう!ちくしょう!触るんじゃあないよ!』
威嚇するような風体でがむしゃらにゾディアックソードを振り回すナルサシスに、軽やかな足取りで迫ったのは瀬理。
「まぁそうカリカリせんで。なぁ、今こない寒いやん?あんたやったら汁粉ときなこ餅どっちにする?」
『うるさいね!あたしゃそんなのどうでもいいんだよ!』
「うち的にはきんつば加えてもええかな思うんやけど、あんまし値段の張るもん買うても遠慮するやろ?やから―……」
先程から僅かに響くのは回転する車輪が石畳を削る音。煌めきの尾を引き、瀬理が宙を舞う。寒風に震えた耳に浮かぶの黒い紋様は白虎の証。老婆の頭上、瀬理がしなやかに片足が振り上げる。
「あんた倒して五平餅でも買うたろか、てな?」
赤染の身を、星が貫く。言葉とは裏腹な鋭い一蹴が見舞われ、ナルシサスは声にもならぬ激痛と過負荷に膝を折る。
ナルシサスがずっと感じていた寒気が増す。震える腕の感覚は、もう殆ど無い。既に動かぬ左腕は捨て、限界の力を振り絞って利き手のゾディアックソードを握り締める。
『ちくしょうちくしょう一人くらい、あぁ一人!!寄越せぇぇえ!!』
「Slan」
醜悪な老婆の耳を、静かな声が擽った。
急ぎ顔を上げ咄嗟に踏み出した時、がしゃんと氷を踏みしめるような音。
見下ろせば足元に霜柱が覗いている。厚い霜柱が出来る程、今は寒かったか?無意識に思案したところでハッとする。
何故、石畳の上に霜柱が立つ?
ナルシサスの視線が、真っ直ぐこちらを射抜く灰の瞳とぶつかる。
唇に人差し指を寄せた景が囁くのは、最果ての民が脈々語り継いだ戒めの結び。
白い息が冷えて重い。反対に足は酷く熱く脈打っている。
『小娘、あんた、あたしに一体、何したんだい』
常に強気であったナルシサスの、アスガルドの戦士だった者の声が明らかに震えた。
「今までの報いを、差し上げます」
『おい!ふざけるな!やめっ―……!!』
恐怖に引き攣る顔で伸ばされた手は決して景に届くことはなく、爪先から末まで全身隈なく氷棘の餌食となり、巨躯は露と散ってゆく。
●格子窓に六花舞う
ナルシサスか白い花弁と散った後、徐々に賑わいが戻ってくる。
ヒールによって町とサキミの傷がしっかり癒えれば、それぞれホッと息をついた。
「んー、結局ええ答えもらえんかったなぁ。さてどないしよ」
ぐっと体を伸ばしながら一息ついた瀬理がぽつり。
他の面々がぎょっとした顔で振り返れば、え?なんやの?と当の本人は首を傾げるばかり。突かれた砂太郎がメンバーを代表し、そっと尋ねた。
「瀬理、お前まさか、あん時のあれって……」
「うん?……あ。なぁ。あんたやったらどこにする?」
にっこり。瀬理が確り砂太郎の腕を掴み、いたずらっ子の様な笑みを浮かべて絡んでゆく。なぁなぁ一緒に店行こうな。な?と逃さんと言わんばかりの姿勢に砂太郎は迷わず逃げ出した。
その様子に笑みを零していた若雪と千鶴が毛繕いの終わった鈴と共に町へと歩み出す。
「千里君に良い報告が届けられそうで良かったです。ね、千鶴さん、鈴さん」
「ふふ。えぇ、良い情景が戻り何よりですね、若雪様」
「んにゃ!」
同じタイミングで歩き出した景の目に入ったのは小さな社。何となく気になりポケットに入っていた5円を賽銭箱へ。手を合わせて小さく願う。
(「来年も無事、平穏な景色が見られますように」)
逆にヒナタは修復の完了した広場にて、戻ってきた観光客からのアンコールに応える形で子ペンギンとシンクロしたキレッキレのダンスを披露した。
日は傾き、街のそこかしこに明かりが燈る。
「どこにしようか迷ってしまうな。のんびり出来る所はあるだろうか」
散策しながら呟いた独り言に返ってきたのは圧倒的なツン。だが、すんすん鼻を動かして袖を引き、甘いものを強請るサキミの姿勢にブレはない。
「大丈夫だ分かっているとも……と、ふむ。最初は―」
首を巡らせた一十の袖を強く引く。サキミが目を輝かせた先には、金箔ソフトと加賀棒茶、炬燵席有りの旗が躍る。
「いや今日はソフトクリームには少し寒いぞ」
ぎゅ。
「分かった。炬燵席だな?」
ぎゅ。
「……全部か?」
ぎゅう。一十の裾を掴む力が強い意志を示す。
いらっしゃいませ!と元気に迎えられたところで、席へ案内されようとしていた志苑と目が合った。
「まさか同じお店にいらっしゃるなんて驚きました」
「いや、散歩していたら中々決まらなくてだな……サキミが此処を見つけたんだ」
店を希望した張本竜は既に炬燵でとろけていた。
和やかな談笑が続き、取り戻した平穏の大切さを噛み締める。
まだまだ、賑やかな茶屋の夜は続く。
作者:皆川皐月 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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