聖夜に愛の力で勝利など不要!

作者:青雨緑茶

「諸君! 愛など無力なのである!」
 とある廃寺。冬毛わっさわっさの異形の鳥が、信者達を前にして声高に説く。
「街にはびこるリア充どもめ、クリスマスデートなどクソくらえだ! クリスマスソングも広告も、右を見ても左を見ても、やれ恋人達の日だの、恋だの愛だのと甘ったるく喧伝しおってからに!
 そもそもこの現代、恋愛感情などを至上と称賛し過ぎなのである! 映画も、小説も、ドラマも、漫画も、ゲームも! 恋してれば誰しも幸せで、愛があればどんな苦境も乗り越えられて、愛は無敵などと陳腐な展開がいかに蔓延していることか! ああ嘆かわしい、愛の力で勝利だなどと――所詮、綺麗事のおためごかしである! まやかしである!」
 嘴の口角に泡を飛ばして主張する鳥。まるで親の仇かというほどの糾弾っぷり。
 ああ、たまによくいる、リア充に嫉妬して粉砕せんとするビルシャナと、それに共感するお一人様な信者達……かと思われたが、その説法を聞く信者達はそれとは違った。
『そうだそうだー!』
『カップルの誰もがクリスマスにデート出来ると思うなよー!』
『24日は空けといてくれるって言ってたのにー!』
『ほんとサイテー! もう信じられない!』
 憤懣やるかたなく声を上げる彼らは全員、カップルの片割れである。揃いも揃って彼氏彼女持ちの男女、本来ならばリア充側の人間である。
 そんなリア充サイドに属する者どもが自分の主張に賛同する光景に、鳥はいたく満足げだ。多分こいつだけはいつも通りお一人様をこじらせた鳥だ。
「それでよろしい! 聖夜にデートもしてくれない恋人など、何の価値があろうか! やはり、間違いなく、愛など無価値で無力、不要なものなのだ!」
 血気盛んに翼を広げるビルシャナ。よかろう、そんなに妬ましいなら目にもの見せてくれよう。集まれケルベロス!


「なんかビルシャナと信者さん達との間で、主張の根元が微妙に食い違ってるような気もするんですけど……でも、逆にそれが狙い目なのかもしれません!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、集まったケルベロスに事件の概要を説明する。
「みんな聞いての通り、また変な悟りを開いてビルシャナ化した人間が現れたんです!
 いつもみたいに何とか解決して欲しいんですけど、やっぱりいつもみたいに、主張に賛同してる一般人を信者として連れてます!」
 続けて、ねむは資料を配る。
「ビルシャナは割れたハートの炎を放ったり、ビルシャナ以外には理解不能な経文を唱えて心を乱したりしてきます。愛を否定する破壊の光を放つ事もあるみたいですね。
 信者は10名。10代~30代の男女で、全員、カップルの片割れさんです。
 本当は聖夜に恋人とデートする予定だったんですけど、急用とか仕事や付き合いが入ったとかってデートをキャンセルされてしまって、傷心でいたところ……このビルシャナに出会って、やけっぱちで影響を受けてしまったみたいなんです」
 普段は恋人とラブラブのリア充であっても、タイミング次第では心にそんな隙が生まれる事もある。そこに付け込まれたという話だ。
「それで今回の説得方法なんですけど……『愛の力で勝利する』、これです!
 このビルシャナは『愛など無力!』という主張が強いあまり、私達が愛の力を見せつけてやる! といった感じで戦いを挑めば、信者達を下がらせて自分一人の力でケルベロスを叩きのめして、逆に愛の無力さを信者達に見せつけようとするんです!
 なのでそれを利用し、説得手段としての戦闘を行って、その主張を真っ向から粉砕してあげればいいと思います!」
 問答無用のインパクトには実演が一番。信者達も本来は恋人を愛する者、愛の力を前面に押し出した演技や演出をふんだんに織り込んで戦って教祖を叩きのめせば、きっと通じるものがあるに違いない。
 注意としては、ただビルシャナに勝利するだけでは駄目だという点。例えば恋人を思う気持ちを力に変えてとか、恋人からの贈り物が奇跡を起こしたとか、そんな感じであくまでも『愛の力で』というのが重要となる。何なら同行する仲間とその場限りの恋仲を演じて共闘などしてみたり、そういう仲の相手が同行しているなら戦いながらいちゃつく姿を見せつけるのも大いに有効。
 その上で、デートをキャンセルした恋人を許せない彼らに、何か声をかけてやるものいいだろう。
「説得が不十分だと信者さん達がディフェンダーとしてサーヴァント化されちゃいますが、みんなが愛の力をたっぷり示して戦う限りは、戦闘に巻き込んじゃう心配はいりません! そのためにも、素敵な演出の戦いぶりで最高のインパクトを与えるといいです!」
 一通りの説明をして、ねむはケルベロスに元気良くエールを送る。
「そんなこんなで、愛の力は無力なんかじゃない! って感じで見事に勝利する事が出来れば、間違いなく影響力は解けるはずです! みんなの愛の力で、信者さん達に恋人を想う気持ちを取り戻させてあげて下さいね!」


参加者
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560)
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)
リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)

■リプレイ


「愛に力がないのなら、私みたいな種族はとっくに死に絶えているわね」
 サキュバスのリリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)が口にすると、フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)が相槌を打つ。
「愛、愛かぁ…難しいけどそれがとても幸せな事だという事は知っているわ」
 廃寺前。恋や愛に対する立場は様々だが、皆一様に愛の力を信じていた。
 霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)は、右耳に収まる金色の十字架のピアスに触れる。幾つも大事に身に着ける恋人からの贈り物の中でも、彼女とお揃いで着けている片割れのそれを優しく撫でる。
「真奈美と一緒の依頼は、恋する電流マシンのダモクレス以来だっけな」
 少し頬を赤くして照れる星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)に、杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560)が隣で柔和に頷く。カップルの幸せを脅かすビルシャナは退場してもらわないとな、と優輝は彼女と見つめ合う。
「私たち夫婦の絆と愛の力で、信者化した皆さんを救いましょう。ね、ルーディ?」
 チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)も長身の彼を見上げる。いとこ同士で、子供の頃からの初恋の人で、去年のクリスマスに結婚した愛しい伴侶。
「ああ、いくぞ、チェレスタ。俺たち夫婦の愛の力、見せてやろう」
 そのリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)も、真面目で堅苦しい風格の中にも、彼女への溢れる愛を隠せない。
 マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)は、お揃いのイヤリングをしたビハインドの真夜と微笑み合う。寄り添う姿は、とても幸せそうだ。
 今回の説得は愛の力を示す戦い。負ける気など一切なく、一同、廃寺に突入した。


「愛の力を見せつけるだと!? 下らん、そのような世迷い事、我一人で返り討ちにしてくれるわ!」
 鳥教祖は挑発に乗り、信者達を下がらせ単身で立ちはだかる。さあ行けケルベロス!
「クリスマスは特別な日だけど、お互いの都合を合わせるのって大変だ。真奈美とは同じ職場で働いていても、すれ違う事はある」
 旧日本海軍の白い軍服も凛々しく、戦闘開始と同時に眼鏡を掛けた優輝が、雷の霊力を帯びた神速の攻撃を繰り出す。同じ職場とは彼がマスターを務める喫茶店旅団の事。
「最近は私も恋人の優輝とは依頼や職場で一緒にならないけど、会えた時に何しようかとか、どうしようか考えるの。で、考えた妄想を実現させられた時にもっと絆は深まり、もっとお互いを好きになると思うわ?」
 真奈美は無銘の刀を構え、密やかに敵の急所を掻き斬る。
 目と目が合えば、何をするのか分かる優輝と真奈美。背中を預けて突進したりかわしたり、その姿はまるで2人で踊っているかのよう。
「すれ違ったまま気持ちが離れるのもよくある話! 愛に力などあるものか!」
「あなたの愛に力がないだけで、他の人の愛には力はあると思うわよ」
 反論する鳥に、返すはリリス。
 愛に力がなければ快楽エネルギーなんて有り得ない、種族柄の見地から告げつつ、翼猫に盾役を任せ、流星煌めく蹴りを炸裂させる。
 信者達は愛に力がないと思っているわけではなく、ただ単に寂しいだけ。そう考えて、気持ちの通じ合えた初心を思い出して貰えればと、彼らの方を見て更に続ける。
「大体、想い合えてる相手がいるだけで幸せだってこと、あなたたちならわかっているんじゃない?」
 信者がざわめく。すれ違った末のこの状況でも、恋人を想う気持ちはあるようだ。
「俺はケルベロスとして、危険な任務に赴くことも多い。こいつは……そんな俺の身を案じて、妻のチェレスタが作ってくれたものだ」
 リューディガーは左腕に装備する『玻璃の護り』、水晶で作られたブレスレットを見せる。去年のバレンタイン時、当時は婚約者だった彼女が贈ってくれた物だ。
「どんな強敵を相手にしても、彼女の込めた想いが、俺を奮い立たせてくれる」
 激しい戦いの折には、このお守りを目に留めた事で凌駕した事もあった。確かな説得力が窺える。
「愛してるのに会えないのって、寂しいですよね……私もその気持ち、分かります。私の場合、先にケルベロスに覚醒して、最初はたった一人で来日したから、故郷のドイツにいた彼とは距離が離れちゃって……」
 チェレスタは共感を寄せて信者に説き、地面に守護星座を描く。ルナティックヒールの光球で自身の攻撃力を上昇させるリューディガーを始めとして、前衛を守護の光で包む。
「でも今は、こうして二人で一緒にいられます」
「たとえ離れていても、俺たちの心はいつも共にある」
 離れていても繋がる想い。それが支えとなる事を伝える。
「無事に帰れるよーに、て。祈りも有るモンで、其れが支えとなって、立って居られンのも。事実」
 相棒たる箱竜のノアールには仲間の回復を頼み、悠も、間延びした特徴的な口調で訥々と口にする。
「想いが籠もろうが籠もるまいが、物は物! そんなもので強くなるなどまやかしだ!」
 鳥は吼え、割れたハート形の炎を放つ。
 悠はその攻撃を最小限の動きでかわし、手首に煌めく腕輪を掲げる。
「俺は強いよ、?……なんつて、」
 蒼の硝子玉が連なる中に、一粒水晶が混じる腕輪。願の数だけ祈る為、心の在処を忘れぬ様。恋人から贈られた『† 祈葉 †』にキスしてみせて、精神を極限まで集中し、敵を爆破して返す。
 それが彼の戦う力となっている事は、傍目からも明らかだった。
「あたしは多くの勇者……戦士と共に戦場を掛けた。時に送るしかできなかった時もある」
 フレックは光の翼を展開させ、光の軌跡を描きながら剣舞を舞う。
「ならば! 我が歌! 我が舞にて捧げよう! 愛すべき彼らの生還を! 生きて戻り喝采を取り戻さんが為に!」
 恋情だけが愛の力ではない。戦乙女が勇者を鼓舞する為の歌と舞、勇者達に戦う力を湧き上がらせる、力ある言葉と光。前衛支援のみならず信者の胸にも響かせんと、愛をテーマとした歌を捧げ、その姿はまさに光り輝く剣姫。
「クリスマスを一緒に過ごせないから愛がない? そんなことないことはわかっているんじゃないですか?」
 愛に力がないなんて事はないと、マナはきっぱり断言する。自分の中にある愛を揺るぎなく信じているが為だ。
 どうしてももう一度会いたい、触れたいという一心で、亡くした元恋人の真夜をビハインドとしたマナ。
 生者ならざる身となってなお、マナに対する独占欲を見せて寸間も離れずガードする真夜。
 マナはそんな彼に気恥ずかしそうに微笑んで、オーロラ光で仲間達を包んで癒す。
「好きという気持ちで想い合える相手がいることの幸せを忘れないでください」
 死が二人を分かつとも、潰えぬ想いで結ばれた二人。今も昔も、心は彼だけに染められていた。
「おのれリア充ども! 絶対に生きては帰さんぞぉぉ!」
 ケルベロス達の幸せオーラに鳥はギリギリと悔しそうに歯噛みし、愛を否定する破壊の光を放つ。お一人様こじらせた鳥には何ともはや、酷な光景であった。
 優輝は攻撃の射線上に晒された真奈美へ誰よりも速く動き、彼女を強く抱きしめるようにして庇う。
「俺の真奈美に指一本触れさせはしない」
「優輝……」
 ビルシャナを軍神の如く睨む優輝。真奈美は至近に触れて感じる彼の――いつか結ばれたいと願う人の想いに、匂いに、胸が熱く高鳴る。
 目配せどころか雰囲気だけで、見なくても、言葉に出さなくても、呼吸は自然と合う。
 優輝が右手を前に伸ばし、掌をかざして、星と羅針盤の魔方陣を展開する。先導と流星の門(エターナル・ゲート)、掌サイズの艦載機の幻影を複数召喚。
「行くわよ! 全機突撃!」
「艦攻隊と艦爆隊、全機突撃!」
 真奈美が叫んで駆け、優輝の掛け声が重なる。刀を左手に持ち、敵を見据えて捉えた切先によって繰り出す彼女の左片手平突き(ヒダリカタテヒラヅキ)と、艦載機の突撃が同時に襲いかかって容赦なく炸裂する。
 お互いの事を理解して信頼してるからこそ、出来る事だった。
「――『にゃあ、お。』」
 ちりん、と鈴が鳴く。どこからともなく出でる影が徐々に数多の黒猫の形を成し、鳥の足元に絡み憑く。影猫の調べ(カゲノシラベ)で足止めをして、悠は願いを縫い揃えたリボンを揺らし、語る。
「まァ。特別な日は、大事なヒトと過ごしたい。てのは、在るよなァ。でも、屹度。そーいうヒトと過ごす時間は、何も無い日も。其れだけで。大事で、好いモンなんだろうとも」
 愛し合う二人にとっては、クリスマスだけが特別なわけではないのだ。
「ならばせめて聖夜にはいちゃつくな! 見せつけられる独り身の気持ちも考えろ!」
 鳥はますます逆上し、無茶苦茶な暴論の経文を放つ。狙われたのは、マナ。
 けれど真夜が、寸での所でマナを抱き寄せて回避させた。
「真夜……!」
 彼は人前でも躊躇がない様子で、そのままマナの頬を撫でて、親密に、優しく労わる。
「だめ、恥ずかしい……後で、ね?」
 マナは嬉しくも真っ赤になり、照れ隠しのように弓を構え、狙いを定めて鳥を射る。
「愛に力はありますよ、絶対に」
 揺るぎない一撃が、鳥の身にも心にも突き刺さる。
「『Bloom Shi rose. Espoir sentiments, a la hauteur de cette danse』」
 幻想の蔓薔薇(イミテーションヴァンローズ)。リリスは飛ぶように軽やかに、戯れるように優美に舞い、蔓薔薇の幻影を咲き乱れさせて鳥を捕縛する。
 リリスは恋をまだ知らない。どこか幻のような、触れるのが怖いような――けれど心の奥底では何よりも欲し、また信じたいと思い、憧れている。空に焦がれるのと同じくらいに。
 想い合って戦う仲間を間近に、その憧れはより増す。可憐な蕾が花開く薔薇は幻でも、いつか自身も甘美に咲きたいと。
「貴方達は知っている筈、愛や想い……見えなくてもそれが力足り得る事を。あなた方の伴侶はきっとこんな皆がプレイベートに動く時でも頑張る。きっとそれは貴方達の生活を今を未来を護る為に」
 誰かのために頑張る事がどれだけ素敵で尊いか、フレックは光の翼と剣舞を続けて歌う。光の翼も羽が刃から更に剣に変化させ、それらを巧みに打ち鳴らして一つのBGMと為す。
 時にしっとりと、時に軽快に。自身も楽しんで、今まで聞いて心に残った愛の歌を奏で、炎弾を放つ。
 信者の眼差しはいつしか、すっかりケルベロスへの応援に変わっていた。想いを力に変えて戦う彼らの姿に、自分達の恋人を思い浮かべずにはいられなかったのだ。
「愛なんてまやかしの力に、我が負けるはずが……!」
 鳥は孤立無援となってなお頑迷に、張り裂けるハートの炎を放つ。
 リューディガーは味方への攻撃を積極的に庇ってきたが、チェレスタへのそれは絶対に見逃さなかった。全力で庇い、その背に代わりに炎を受ける。
「俺の妻に傷ひとつでもつけたら許さん、絶対許さん」
「ああ、ルーディ……!」
 チェレスタはメルヒェンリートを歌い上げる。美しくも幻想的な曲、愛する彼の傷を癒す。
「かつては警察官として、今はケルベロスとして、人々を守るために時に危険な任務に赴く彼を案じこそすれ、決して恨むことなどありません。無事を祈り、傷を癒し、彼の戻る家を守る……これも妻の役目です」
 妻の澄み渡る歌声で痛みが癒え、リューディガーは敵を見据え直す。
「もしお互いの心に『真の愛』があるなら、多少の距離はものともしないのではないのか? 否、離れているからこそ、遠くで頑張る相手の無事を祈るものではないのか?」
「ルーディ、私は信じています。あなたは何者をも恐れない、強い人だと……!」
 彼女の声援を受け、装備する全ての射撃武器を構える。
「『全砲門、一斉掃射。目標を殲滅する!』」
 一斉攻撃。Flamme des Fegefeuers(フランメデスフェーゲフォイアー)、その名の通り『煉獄の炎』を思わせる強烈な火力で敵を焼き尽くし――ケルベロス全員の愛の力の前に、哀れな鳥は塵へと還った。


『ありがとうございます。皆さんのおかげで、大切な気持ちを思い出せました』
 元信者達はすっかり洗脳が解かれ、一同を讃えてお礼を言う。
 マナは仲間達と共に現場の破損をヒールしてからは、後はずっと真夜と仲睦まじく寄り添っていた。いちゃいちゃするのに忙しく二人の世界に浸っていたが、お礼の言葉には微笑みを返す。
「私にも愛の力を教えてくれるような相手が現れたりしないかしらね」
 リリスは少しだけ自嘲気味な笑みを零す。だが彼女の声もまた、彼らの愛を救ったのだ。
「クリスマスでも働かなければいけない人はいる。だって……輝かしいクリスマスを皆が迎える為にこそ、その日を戦わなければいけないのだから。でも……埋め合わせはおねだりするのもありかもね?」
 フレックは優しく語りかける。難しく、けれどとても幸せな愛の気持ちを取り戻した男女へと。
「今回は残念だったケド。さ、知らん誰かの、じゃなく。互いの誕生日を共に祝う、てのは。『二人だけの』特別な日。其の日だけは空けて欲しい、と。我儘言うのも、アリかな。とは、思う。物分かり好いのも、寂しーし」
 ノアールの顎を撫でて労いながら、悠が続ける。其れは其れ、として。クリスマスも一緒に居たい、てのも。よく、解るケド。とフォローの言葉を添えて。
「俺達も都合がすれ違う事もあるけど、予定さえ合えば一緒に遊びにいったり、今みたいにケルベロスとして依頼を一緒にこなすことだってする。特別な日に会う事も大事だけど、どんな日でも傍に寄り添って過ごすって事に意味があるんだと思う」
 何も特別な事をしなくたって、真奈美がいるって事に意味があるのだから。優輝は彼女の肩を抱く。
「あなたの愛する特別な存在の人もそうじゃないかな?」
 問われて彼らは頷く。それぞれの想い人を胸に描いて。
「今回はみんな諸事情でダメだったかもしれないけど、お正月やバレンタインはすぐそこよ? 普段のお休みの日でもいいでしょうし……その時までに会えたら何をするか、今から考えましょうよ♪」
 真奈美の前向きな提案に、彼らの心も軽くなる。
「お仕事でクリスマスのデートが流れちゃっても、きっと大丈夫ですよ。頑張って稼いだお金で、素敵なプレゼントを……あるいはその先の素敵な思い出をきっと用意してくれます。だって、あなた達の愛は、これからも続いてゆくんですもの!」
 チェレスタの励ます言葉に、隣に添うリューディガーも深く頷いていた。
 ビルシャナの声に耳を傾けてしまった、ほんの少しの心の隙間。彼らのその気持ちはケルベロス達の素晴らしき愛の力によって見事に塞がれ、より深い愛情を覚えさせた。もう二度と、惑わされる事はないだろう。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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