聖夜略奪~リア充爆破を阻止せよ!

作者:久澄零太

 彼女は焦っていた。けれど喜んでもいた。今日は大切な人との外出の約束があるからだ。一旦風呂に入って体を洗い、下着も服も、お気に入りの物を選んで着替えた。だというのに……。
「どうしよう……私、お化粧ヘタなんだった……!」
 実は今日が初めてのデート。いつもは仕事ばかりで、出勤する時は最低限のメイクしかしない。そんな可愛げのない自分でも、彼は選んでくれたのだ。だから今夜だけは可愛く着飾ろうと、服も店で見つけたお気に入りを用意したというのに、最後の最後で詰めが甘かったことに絶望したその時、ドレッサーに何かが映る。
「え……」
 機械の異形を見た途端、振り返ろうとするより速く、その体を飲み込まれてしまった。魔空回廊から現れた四体の機械は顔を突き合わせて、無機質な音声をあげる。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ」
「さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるだろう」
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ」
 水槽のような機体に飲み込まれ、眠りに落ちたように動かない女性の頬に、一筋の雫が伝っていく……。

「去年のゴッドサンタの事件は覚えてる?」
 まずは確認をとる大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)。今年も何かが起こる事を察する番犬は少なくない。
「あの事件で皆はグラディウスを手に入れて、ミッション破壊作戦が始まったよね。去年だけでも、いっぱいミッション地域を解放できたの。でもそれって、デウスエクスにとってはほっとけないことなんだよね」
 至極当然なことだが、向こうにしてみれば、支配した地域を取り返されているのだ。黙って見ているわけがない。
「それで、地球に隠れてたダモクレスの、『輝ける誓約』の軍勢がクリスマスを利用してグラディウスを封じようとするの。その内容が、クリスマスデートを楽しみにする女の人を儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に閉じ込めて、グラディウスを封じ込める儀式をするみたい」
 ユキ曰く、敵は魔空回廊を使い女性の前に現れるらしく、囚われる前に救助することは難しいようだ。
「『輝きの卵』自体は戦えないみたいで、三体のダモクレスが一緒にいるよ。こっちの三体さえやっつけちゃえば女の人を助けられるの!」
 ただし、先に輝きの卵を狙い破壊しようとすれば、中の女性も巻き添えになるらしい。先に護衛を撃破して、檻を解体する必要がありそうだ。
「敵は三体の……あ、戦える敵ね? そのうち二体は斧を持ってて、残り一体は杖を持ってるの。全員凄い攻撃力を持ってるから気を付けて……そ、それと」
 チラと、四夜・凶(生きてる暖房器具・en0169)に目をやれば、静かに怒り狂っているのだろう。腕組みして壁に背を預けたまま、時折こぼすため息に蒼炎の地獄が混ざる。
「一応、フォローに凶もついてくから……」
 若干震え声のユキだが、目も潤み始めている。
「デート前の女性を襲うとは、なんたる非道……」
 凶が口を開いた瞬間、ユキが番犬達の陰に隠れた。
「一体残らず、スクラップにしてくれましょう……」
 そう語る彼の目は、殺意に燃えていたらしい。


参加者
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
シェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
古峨・小鉄(とらとらことら・e03695)
端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)
ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
比良坂・陸也(化け狸・e28489)

■リプレイ


 聖夜の黄昏、日が沈みゆく団地に人の姿はない。切り取られたかのような空間に、無数の札が連なったしめ縄が張り巡らされ、エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)は比良坂・陸也(化け狸・e28489)を見る。
「もう人はいなさそうだけど……そっちは?」
「こっちも準備は終わったぜ。後は突っ込むだけだが……心は熱く、頭はクールに、だぜ?」
 陸也は吐息に地獄が混ざり、蒼炎を散らす凶と、無数の浮遊機が連結した医療護衛機、Argoに搭乗するシェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)にため息をこぼした。
「今日は、いつもより、凶お兄さんが、怒ってるから、心配……頑張ら、ないと……」
 もはや暴走かなって雰囲気の凶に対し、シェスティンは頷きを返すくらいには余裕がある。
 敵は被害者女性の自宅内に現れ、そこで儀式を進めている。Argoの運用に当たって、まずは外に出す事が先決だ。
「ところで凶は何で今回怒っとるん?過去一番怒り増し増しじゃ。な?パティ」
「えー、小鉄そんな事も分からないのだ?それは……」
 首を傾げる古峨・小鉄(とらとらことら・e03695)に、パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)が説明しようとした時、その続きを遮るように轟音が響く。二人がぎこちなく振り返ると、凶が地獄で家の外壁を溶かし、呆気にとられたダモクレス三機をArgoのワイヤーが捕え、引きずり出していて。
「どうにも危なっかしいのぅ……娘さんも凶も……しっかり守らねば。頑張るのじゃ」
 端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)はチラと陸也を見やってふんす、気合を入れ直す。
「これなら確かに卵は気にせず戦えるっすけど……」
 室内で奇襲をしかけて敵を外に弾きだす事もできたが、Argoという大型機体運用に当たりその可能性は消えた。
 ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)は頬を張り、ニカッと歯を見せて笑う。
「気持ちのわからない連中には怒った姿より、痛い目の方が効くっすよ!さ、助けに行きましょうか!」
 足を踏み込めば、心拍が上がり血流が加速する。ダモクレスはワイヤーをすぐさま振り払うが、斧持ちの一体がもたつき、そちらに狙いを定め自身の胸を叩き更に脈拍を加速する。
「巡れめぐれ血よめぐれ、めぐって終わりを沁み入れよ!」
 心臓の鼓動は生物の生涯の速度に比例すると言われている。それを加速させるとどうなるか?
「チィ、目障りナ……」
 苛立たし気に、ダモクレスがノイアールの方を向いた時、彼女の時間だけ速く進んでいたかのように、既に拳が目の前にあった。
「ギ!?」
 薄い笑みを浮かべた仮面のような顔に、亀裂を走らせながら吹き飛んでいく白い機体にエリシエルが追随。
「『人の恋路を邪魔する奴は』ってのはよく言われる話だけど……まさか、馬に蹴られる程度で済むなんて温いこと考えちゃいないだろうね?」
 抜刀と同時に柄で顔面の傷を打ち、顎を起こして撫でるように首を斬りつけながら側面に添えて、離れていく慣性を利用して自らは動かず首に斬痕を刻む。
「速攻でジャンクパーツにしてやるよ」
 塀に叩き付けられた機体に刃を突き立て、その柄を蹴り上げて弾くようにして傷を抉りながら上段で得物を回収、袈裟切りしてすぐさま離脱。
「小鉄!」
「わかっとるん!」
 パティに呼ばれるまでもなく、小鉄が機関砲の砲身を回転させる。
「そこの頭に血ぃ昇っとる人、視野広げるんじゃで。俺、射線に突っ込まれても誤射せん自信はないん!」
「わぁってるよ……」
 弾丸の雨が機体を撃ち、装甲に食い込んだ弾は込められた魔力により発火、その全身を炎で包み込むが凶が掴み上げて、地獄で炎上。蒼い火柱に飲まれてからブン投げる。
「何をしてイル?」
「煩い、ユダンしただけだ」
 ゆらり、機体が立ち上がり、番犬達と睨み合った。


「手前ぇらよう、聖夜のデートに頑張る奴の邪魔すんじゃねーよ。むかつくなー」
 陸也が符を翳せば、日が沈み薄暗くなった空に青い光が差す。時計の針を進めるように駆け足で天頂に向かう月が戦場を照らし、機巧騎士が低空を滑る。
「Argo、一撃目から、全力で……今回は、速攻戦、です……!」
『OK、フルスロットル……!』
 幼い医師から重力鎖を食らい、機巧騎士の装甲にハニカム構造の赤い光が走り、急加速。斧を携えた同一個体殴りかかり、掴み上げて腕部に内蔵されたショートパイルが射出されるが、甲高い音と共に火花を散らし、装甲の貫通には至らない。
「武装は、攻撃特化なのに……」
『純粋に装甲が硬い……!』
「好き勝手、やってクレタナ?」
 掴み上げられたまま、ダモクレスはArgoの腕を掴み返し、無理やり引き剥がした。
「まずは貴様カラダ」
 振り上げられた斧がギラリ、刃で月光を返した時、月から戦乙女が舞い降りる。
「派手に、いっけーッ!!」
 陸也の作る紛い物の月を背に、シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)が急降下。槍を叩き付け、Argoを手放し後退した機体へ、空ぶった槍を軸に回転。回し蹴りで吹き飛ばしてもう一体の斧持ちにぶつけた。
「えぇい、ジャマだ!」
 仲間を押し退けて、斧持ちが機巧騎士を破壊せんと得物を振るうが、その前に括が飛び込んで、身代わりになり鮮血を散らす。
「がはっ!?」
「ミミ蔵!」
 一撃で膝を着いた括にトドメを刺さんと、もう一体の斧持ちが括に迫りノイアールの声に偽箱が飛び込むが、無残にも破砕。
「ただでは終わらんぞ……!」
 ミミ蔵が重力鎖に還る淡い輝きを残す刹那、括は早撃ちで消えゆく偽箱の陰から斧持ちの肩に弾丸を撃ち込み、吐血。動けない彼女を、杖持ちが狙っていて。
「括さん!?くっ、させねぇっす!!」
 彼女の前にノイアールが立ちふさがり、熱線の直撃を食らい白煙を上げると、ゆっくりと崩れ落ちていく……。
「一撃の威力がおかしすぎなのだー!?ジャックはノイアールのカバー!お花ちゃんはジャックを援護して!」
 パティはノイアールを眷属に守らせて自身は括に向けて重力鎖を放つ。熊の巫女へ届いた光は南瓜に姿を変えて、ポン、と弾けて彼女の傷口を塞ぎ、破砕された筋肉繊維を繋ぎ直し、肉体の強度を復旧。
「さて、と。一気に潰さないとジリ貧どころか一発で瓦解しかねないな、これは」
 エリシエルは困ったように頭に手を当て、ため息をついていた……。


「こりゃ、俺が攻めてる余裕はねぇな……!」
 陸也はノイアールへ札を二枚投げる。一枚目で止血し、二枚目で引き裂かれた細胞結合を繋ぎ直して肉体の補強。それでも治療しきれない様子を眺めて、騎士の中のシェスティンは首を振る。
『マスター、大丈夫か?』
「……大丈夫、私は、自分で壊の型を、選んできたから……」
 自分が治せないのなら、味方を傷つけさせなければいい。
「いくよ、Argo……!」
『了解した。戦闘を続行する!』
 後ろは振り返らない。誰かが倒れる前に、終わらせるために。
「ゴスペル・ドッグファイトを、発令。まずは一体、倒します!」
『至令を受諾。目標を撃破する!!』
 損傷している個体にワイヤーを飛ばし、絡めとって空高く投擲。追従して拳を振りかざした時だった。斧持ちは機械の翼を広げて滑空、機巧騎士へ得物を振りかざす。
「そう、来ること、くらい……」
『分かっていたとも!!』
 ガードに回した片腕を破砕され、ショートした肩口の回路から稲光をこぼしつつ、Argoは蹴り飛ばして更に上空へ。
 体勢を整える前に追い縋り、残った腕のショートパイルを押し当てた。
「オノレ……貴様は道連れだ……!」
『同じ失敗は繰り返さない』
「え……?」
 気づいた時にはハッチが開き、シェスティンは夜空に投げ出される。
「そんな、Argo……!」
 離れていく相棒はダモクレスに杭を撃ち込み破壊しながら、自身もまた斧の一撃の前に粉砕されて消えていく……。
「オロカナ。空中ではただの的だろうに」
 落下するシェスティンへ杖持ちが狙いを定めた瞬間、その腕に砲弾が撃ち込まれて跳ね上がり、あらぬ方向へ熱線が駆け抜けて、夜空にかかる雲を蹴散らした。
「……着弾確認。攻撃の阻害に成功しました」
 遥か遠方。砲塔から硝煙を上げる真理。超距離砲撃用に換装して人の身で支えるには長すぎる砲塔をバイポットで支えた故に、動けなくなった彼女は他の支援部隊へと通信を飛ばす。一方、前線では……。
「シェスティンが落ちてきたのだー!? ちょ、小鉄、カバー! カバー!!」
「何言うとるんじゃ! このままだとパティの上に落ち……あっ」
「みぎゃっ!?」
 落下するシェスティンにパティが潰され……もとい、クッションになりつつ、道路に顔を打ちつけた痛みにフルフルしながらArgoを失い、重力鎖を大きく欠いてしまった彼女にヒールを施していた。
「やられたか。マァイイ、こいつらを潰して鼠を叩く!」
 杖持ちが光を放ち、ヒールに当たるパティを焼き払おうとするがその前にジャックが飛び込む。
「ジャック!?」
 パティの目の前で、焼き殺された箱竜は小さく鳴き、彼女の重力鎖へ還っていく。しかし感傷に浸る暇はない、シェスティンを仕留めようと、斧持ちが刃を振り上げているのだから。
「こんの……やらせてたまるかっすー!!」
 自らも傷が深いというのに、ノイアールは塞いだばかりの傷口から血を滲ませてシェスティンの前に立ちはだかるのだった。


 断頭台の如く、刃は落ちる、肌を切り、肉を裂き、骨を砕くほどの一撃に血潮は夜空を赤く染めて、『彼女』は崩れ落ちた。
「結以さん!?」
 庇われたノイアールが倒れた結衣を抱き起せば、少女は不器用に微笑んで。
「ゆいだって……皆を……守りたかった……の……」
「……まあまあ、ちょっと落ち着いて下さい」
 到着した支援部隊、和奏は蒼炎纏う凶の肩をポムるが、彼女の武装もまた炎を纏っており、感情が溢れていることが見て取れた。
「うちも手伝いに来たよ……」
 藍励はルーンが刻まれた大剣を構え、地面を蹴る。得物に振り回されるかのような、大振りの袈裟、薙ぎ、斬り上げ。横にスライドすれば和奏が突っ込んで杭撃機を叩き付け、炎と共に砲弾染みた杭を射出。装甲を穿つ事こそなかったが、後退させて、追撃する藍励が刃を振るい、納刀するように残身。大剣の軌跡が黒い光を放ち、機体を中心に三角錐を描く。
「時解、弐之型『三攻』――トライアングル・ストライク」
 頂点から光が収束し、内部で爆発を起こした。爆風に打ち上げられた機体目がけて計都が騎乗機を装甲として纏い、跳ぶ。
「お前たちには分かるまい! 人が人を想う心の強さってものを!」
 踵落としで地面に叩き付け、炎の翼を広げる。本来は飛ぶためのそれを、降下する推進力に変えて。
「愛を知らない機械風情が、でしゃばるんじゃない!!」
 突き刺さるような蹴りが、装甲に亀裂を入れて地面ごと穿つ。くぼんだ道路の中から、計都が離脱し、跳び出したダモクレスは細い目のようなスリットから、眼光のように赤い光をこぼす。
「貴様ラは一体……!?」
 斧から光を放ち、周囲を薙ぐ斧持ちだが、その輝きの前に佐久弥と達也が割り込み、皮膚がただれて身動きが取れなくなりながらも彼らの表情は曇らない。
「ただの支援部隊っすよ」
 得物を杖の代わりに、体を支えて佐久弥は続ける。
「例えこの身が血と泥に塗れても、仲間が倒れないならそれは盾の誉れっす」
「あんたが倒れたら皆が悲しむぜ? さ、速攻重視なら、少しでも火力出せるヤツに頑張ってもらおうじゃないか」
 小さく微笑む達也と佐久弥の背から、凶と括が飛び出した。
「凶、分かっておるの?」
「おう」
 二挺拳銃を構える括と、地獄を纏わせて刀に変えた避雷針を構える凶が左右から斧持ちに迫る。
「眉間をズドンする時のコツは!」
「得物を振るえば必ずブレがある!」
 両手の拳銃を重ねるように狙いを定め、片手で構えた刃の峰に手を添える。
「そのブレを最小に抑えながら!」
「狙うべき一点に!」
 放たれた二発の弾丸が重なり、冷気を纏って一振りの槍に姿を変えた。それに追随するように、地獄の刃が引き絞られる。
「「一瞬にして二度叩きこむ!!」」
 機体の眉間に氷槍が突き刺さり、その穂先を貫通させるように地獄が追撃。白氷と蒼炎が混じり合い、ダモクレスの頭蓋に風穴を開けた。
「チィ……」
 杖持ちは武器を翳し、焦燥を露わにする。
「覚悟は、よろしいですね?」
 エリシエルがダラリ、両手を下げてふらふらり。
「未だ完成とは言えぬこの一撃。けれどあなたには、十分でしょう」
 刀の柄に手を乗せて、ゆっくりと息を吸う。
「山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり。万理断ち切れ――」
 ふわり、夜風が機体の頬を撫ぜる。エリシエルは既にダモクレスの背後にあり、ゆっくりと『振った』後の大業物を鞘に戻していて。
「御霊布津主」
 鍔が鞘を叩く、鈴のような音が響く。同時にダモクレスの胸部に縦一閃の斬痕が刻み込まれた。
「ナッ……!?」
 知らぬ間に斬られた事に混乱する機体目がけてパティは大鎌を構える。
「もう回復の必要はないのだ! 今までやられた分、お返ししてやるのだ……小鉄! 一緒に行くのだ!!」
「パティ! 確認とる前に突っ込むのはやめて欲しいん!!」
 彼女に振り回されるように、小鉄が慌てて照準を合わせた。
「お菓子をくれぬなら……ううん、くれたとしても、人の恋路を邪魔するお主の魂、悪戯するのだ!」
 いくつも重ねてきた癒しの力が、空間を飲み込んで夕暮れに染まる中世の町へと変えてしまう。描き換えたそれはハロウィンの世界、パティが最大の力を振るう、固有の領域。
 鎌を振りかぶれば彼女の背後に巨大なジャックオランタンが具現、そちらも巨大な鎌を振りかざして。
「覚悟なのだー!!」
 左右から鎌に挟まれ、刃二つと火花を散らす機体に向けて、小鉄の機関砲が回転を始める。
「お花ちゃん!」
 小鉄に呼ばれ、パティのフォローについていた箱竜が小鉄の肩に乗り、ぷくぅと頬を膨らませて息を溜める。
「せーの、でいくんじゃ!!」
 呼吸を合わせ、ばら撒かれる弾丸にお花ちゃんの吐息が重なり、花の香りを放つ炎の弾幕が機体を撃ち、火柱を上げて夜空に花を咲かせた。
 ハロウィン世界が戻れば、ダモクレスは印を結んで詠唱している陸也を見て。
「邪魔はサセヌ……!」
「それはこっちの台詞だよ!!」
 迫る光の塊を鉄鍋で受け止めたのはわかな。
「今日のは中華鍋なんだから……!」
 炒飯でも煽るように、わかなはそのまま熱を空へと逃がし、その場にへたり込んだ。
「陸也くん、大丈夫?」
「あぁ、助かった……おかげで、準備が整ったぜ」
 戦闘区域を囲うしめ縄に吊るされた札が光を放ち、天を突く。光の柱の中心、戦場の上空には天と番犬達の頭上、二つの蒼月が煌めいて。
「青いお月様がスポットライトっていうのも、悪くないね」
 シルヴィアは武器を突き立てて、ウィンクを一つ。
「さぁ、聖なる夜のステージ……貴方に聴かせてあげるよ。私の歌を聴けーっ! ってね♪」
 大きく息を吸って、紡ぎ出す歌声が夜の町に響く。それはただの音楽ではなく、一つの聖歌。
「永い永い時の果て 世界に届け 私達の想い」
「青白き月煌、遷ろう月」
 シルヴィアの歌と陸也の詩が重なって、月光から五振りの剣が生成されて乙女の前面にて柄を重ねるように星を描く。
「魂よ響け この世界中に 私達が願うのは星の未来」
「惑いの導きに、絶対なる零へと至れ……」
 月光がダモクレスを照らし、五つの刃は切先を機体へ向けた。
「さぁ、闇を祓おう……♪」
「月煌絶零――俗に言う、儀式魔法ってやつだ……!」
 月に照らされた機体は時間を凍らされたように動きを止めて、五剣の放つ魔力砲撃が光の彼方に消し飛ばす……。

「古人に曰く、『器量は当座の花』……貴女の大事な人は、貴女の外見ではなく、貴女自身を選んでくれたのでしょう?もっと自信を持っていいと思いますよ」
「お化粧は最低限でも、十分魅力的なのだぞ!それに、服の組み合わせは完璧なのだ! きっと上手くいくのだ♪」
「自分の為に着飾ってくれた、女性がいたら、男性にとって、その人は間違いなく、可愛いのだし、美しいのだそうです」
 救出後、シルヴィアの手によりナチュラルメイクを終えた女性はエリシエル、パティ、シェスティンに励まされてなお、表情が暗いままだった。
「今から向かっても……」
 約束の時間を過ぎ、震える彼女の肩を括……もとい、熊っぽいサンタがポム。
「ぐっどらっく、じゃ」
 サムズアップに首を捻る彼女の前に、タクシーが留まった。
「え!?」
「メリークリスマス、行っておやりなさい。車ならそう時間はかからぬじゃろう」
「それと、これも」
 ノイアールはKCを女性に握らせて、ニカッと笑う。
「ヒールで直しておくっすけど、家具の買い替えとか必要になった時は使ってくださいっす」
 女性陣が恋する乙女を送り出している頃、小鉄は尻尾を揺らしながら壊れた家屋にヒールを当てていた。
「ふーぎょふぎょふぎょくりすますー……ん?」
 ひょこり、物陰を見ると、陸也が険しい顔をしていて。
「俺らがグラディウスの機能を詳しく知るのに役立つかもしれねぇな」
 彼の前には、輝きの卵の残骸があった……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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