力に賭ける命依り

作者:幾夜緋琉

●力に賭ける命依り
 鬱蒼と生い茂る木々が頭上を覆い隠す森林。
 山梨県の富士河口湖町と鳴沢村の間に跨がり広がる、青木ヶ原樹海。
 広がる遊歩道からそんなに離れていなくとも、すぐに平衡感覚を失う様な空間が広がるここは……人気を避けるには、もってこいの場所とも言えるだろう。
 ……そして、そんな森の中、静けさの中に一人座る男……その腕や足には引き締まった筋肉。
 恐らく……彼は空手家であろう、と想像出来る。
 彼にとってここは、他の人に邪魔されずに、鍛錬の出来る場所でもあるのだろう。
 しかし……そんな彼の元に、筋肉とは真逆の可憐な者が現れる。
 そして精神統一してる彼が、その気配に気づき目を開けると、くすっと笑い。
「あんた、強いんだろう? お前の、最高の『武術』を見せてみな?」
 と言う。
 彼は、無視しようと……出来ない。
 不思議な力で、まるで操り人形の如く立ち上がり、構える。
 そして構えし彼は、攻撃。
 間違い無く、一撃、一撃、確実に当たるのだが……涼しい顔は変わらない。
 そして、暫し攻撃を受けた後。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術、それはそれで素晴らしかったよ」
 と言うと、その手に持った鍵で一突き。
 すると……彼は糸が切れたかのように、其の場に崩れ墜ちる。
 ……そしてその横には、彼と同じ風体をしたドリームイーターが現れる。
 そしてそのドリームイーターは、自分の力を確かめるが如く、蹴、殴を振りかざす。
 ……数分、自分の力を確認したかと思うと、そのドリームイーターへ。
「さあ、お前の武術を見せつけてきなよ」
 と指示を与え、ドリームイーターはそのまま、樹海を後にするのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! んじゃ、説明させて貰うッス!!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスらに何時も通り元気よく挨拶すると、早速。
「どうも、武術を極めようとして修行を行っている武術家が襲われる事件が多発している様なんッスね。で、この武術家を襲うのがどうもドリームイーターの様なんッス」
「このドリームイーターの名前は、幻武極。自分に欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らそうとしている様なんッスよ」
「今回襲撃された武術家の武術では、モザイクは晴れない様なんッスけど、代わりに、武術家のドリームイーターを産み出し、暴れさせようとする様なんッス」
「出現するドリームイーターは、この襲われた武術家の目指す究極の武術家の様な技を使いこなしてくるみたいなんッスね。中々の強敵になるのは間違い無いッス」
「でも、今回はドリームイーターが人里に到着する前に迎撃する事が可能ッス。つまり、周囲の被害は気にせず戦えるッスから、思いっきり戦ってきて欲しいッスよ!」
 更にダンテは、このドリームイーターの詳しい情報の説明を続ける。
「このドリームイーターッスけど、数は作り出されたドリームイーターただ一体のみの様で、他に配下のような者もいないッス」
「しかしながら、先ほども言った通りに、被害男性の極めようとしている武術……どうも空手の様なんッスけど、空手道を活かした攻撃を積極的に仕掛けてくる様ッス」
「攻撃自体は、手数は少ないながらも、狙い澄ました一撃一撃を繰り出してくる様ッス。命中率が高く、攻撃力が高い一撃を繰り返してくるッスから、特にディフェンダーの方は注意して欲しいッスよ!」
「又、ドリームイーターの居場所は青木ヶ原樹海の深夜ッス。人払いを軽くしておけば、通りがかる人も居ないッスから、その辺りは安心して欲しいッス」
 そして、最後にダンテは。
「このドリームイーター。自らの武道の真髄を究め、見せつけたい、と言う考えを持って居る様ッス。彼に戦いの場を用意すれば、向こうから戦いを挑んでくると思うッスから、みんなはしっかりと相手に相対して欲しいッス。宜しく頼むッスよ!!」
 と、力強く拳を振り上げるのであった。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
英桃・亮(竜却・e26826)
安海・藤子(道化と嗤う・e36211)
フェリシア・アケノ(憑かせ屋・e42288)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)

■リプレイ

●駆けた力に
 山梨県は青木ヶ原の樹海。
 そこで一人、真剣に訓練している空手家の元に突如現れてしまったのは……ドリームイーターの『幻武極』。
 それによって作られたドリームイーターは、強力な空手の実力と共に……周りの罪もない一般人の殺戮を企てようとしている……という。
「ーム。これは所謂ところの道場破り……というところなのか……」
 こめかみを叩きながら、バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)が思慮。
 でも、そんなバーヴェンに対し安海・藤子(道化と嗤う・e36211)が。
「修行って言っても、富士の樹海で修行って……正気じゃないわよねぇ。ま、そういうのがやりたいって人は多いけど、死んじゃったら意味無いじゃん」
 と言うと、フェリシア・アケノ(憑かせ屋・e42288)と月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が。
「そうだね。樹海かぁ……噂だと、世捨て人なんかが住んでるって話しもあるよね?」
「そうだな。でも富士の樹海って……精神的には、奥祖谷モノレールの方が色んな意味で強くなれそうな気がする……」
 と、そんな二人の言葉に東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が。
「んー……ああ、それって70分ずっと山の中を廻る観光用のモノレールだったっけ? トイレにも行けないみたいだもんねっ」
「そうそう……って、苺知ってたんだ」
「まぁ、色々見たり聞いたりしてるしねっ。それにしても樹海かー、なかなか来ない場所だから楽しみだったんだよねっ。まぁわたしがあまり外に行かないのもあるけどっ、でも修行っていったらやっぱりこういう場所が人気なのかな? 漫画とかそういう感じにっ」
 と、その言葉に英桃・亮(竜却・e26826)が。
「そうだな……まぁ、確かに人気が無くて、助けも呼べないからこそ、そういった場所は修行に相応しい……と言えるかもしれないな」
「そうなんだねっ。武術家さんかー、今回もドリームイーターがこの人の技より凄い技にして使ってくるみたいだねっ。でも、その技はしっかり受けきってみせるよー! 取ってきた技なんかじゃ、いくら合っても勝てないって教えてあげるよっ!」
 拳を振り上げて元気良く苺が言うと、いつも調子良さそうな中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)も。
「そうっすね。厄介な相手っすねえ。明らかに強そうで、俺一人ではどうにもならないけど、仲間と一緒ならきっと何とかなるっす! だから犠牲者を出さない様に倒して、眠りに付いてる武闘家を救出するっすよ!!」
 合せて拳を振り上げる。
 そんな仲間達の言葉にルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)もフフッ、と不敵な笑みを浮かべながら。
「奪われた武技の技、か……強さは本物だろうし、決して油断は出来ないけどね、でも負ける訳には行かない。必ずやドリームイーターを倒し、夢を奪われた空手家も確実に救わないとね」
 その宣言に、バーヴェン、フェリシア、藤子も。
「ーム。真摯に取り組んでいる武人の武道を穢すとは……二重の意味で許されざる敵の様……いつかその報いを受けさせてやりたい所だな」
「そうね。私達が負けたら彼も戻ってこない。さくっとしっかり終わらせないとね」
「ええ。なんであれ、これもお仕事はお仕事。しっかりこなしましょ?」
 そして苺が。
「よーっし。それじゃー頑張るよっ! あんまり樹海来た事がないから、迷子にならないようにするよー!」
 と気合いをこめながら、早々に樹海の中へと進んで行くのであった。

●唸る拳に
 そして、ドリームイーター探しに青木ヶ原の樹海を捜索するケルベロス達。
 昼間というのに、かなり薄暗い雰囲気……勿論、空からの陽射しはあるものの、多くの木々に遮られ、微かな木漏れ日程度しか、その場には届かない。
 ……ただ、以外というか、何というか……遊歩道の辺りは殆どゴミも落ちておらず、しっかりと管理されている。
「うーん……何だか、不気味で怖い所って聞いてたけど、そんなに怖く無いねっ」
 と苺の言葉に朔耶が。
「そうだね。怖いイメージが大きいけど、ここ、青木ヶ原樹海そのものは定期的に清掃活動もされているから、割と綺麗なんだよね」
「ーム……その様だな。遊歩道を歩く人の買うは、以外と多い様だしな」
「そうっすねぇ……でも、それは逆に、遊歩道までドリームイーターが出て来たら直ぐに被害に遭って仕舞うって事ッスよね。それは避けなければならないっすよ!」
 ぐぐっ、と拳を握りしめる憐。
「そうだな……朔耶、一応頼む」
「了解」
 バーヴェンに頷き、殺界形成を展開する朔耶。
 周囲に張り詰める殺気……流石に、その殺気に一般人達は畏れ、其の場から自然と足は離れる。
「これで、良し……さぁ、戦いの場は整ったぞ」
 と亮がすっと日本刀『逆焔』を抜いて構える……そして、周囲を見渡し、威嚇。
 その殺意に誘き出される……ドリームイーター。
『ククク……!』
 ほんの僅か、響くくぐもった笑い声。
 その声の元へと更に駆け行くと……遊歩道から外れ、樹海の中へと分け入る。
 ……そして、その樹海の先に居る、武道家の白衣が黒い身を覆い尽くした、ドリームイーター。
 武器はないが、その拳を正面に構え……明らかな敵意を示す彼。
 そんな彼を目の当たりにして、苺は。
「強くて怪我人も出さずに勝てるように、護りにも戦い方があるって教えてあげちゃおう!」
 元気良い苺の言葉に対し、ドリームイーターは……不敵にククク、と笑うのみ。
 更にフェリシアと亮、そして藤子も。
「勝てないかもしれない戦い、ってのはあんまり経験無くてね。これはこれでスリリングではあんのかなー?」
「そうね……さて、と……このまま放置してはおけない。ここで仕留める」
「……最高の武術を騙るだけあって、隙が無いな……だが、こっちも鍛錬は日常だ。互いに日々の成果を出そうじゃないか」
 そんなケルベロス達の言葉が終わるやいなや、ドリームイーターは素早く間合いを詰める。
 懐に入り込もうとするドリームイーター……だが、咄嗟にその前に立ちふさがるのは、朔耶のオルトロス、リキ。
『……っ!』
 怒りが伴う感情を吐き捨てながら、ドリームイーターはリキに手刀の一撃。
 たったの一撃……ではあるが、攻撃力の高い一閃が、リキの体力を大きく削る。
「とと、大丈夫?」
 すぐさまフェリシアが、マインドシールドを放ち、盾アップと共に回復を施す。
 そして、続く亮、憐の二人。
「さぁ……私の攻撃を、避けられるか?」
 敢えて挑発気味の言葉を呟きつつ、静かに銀刃を下げて、流れる様に円を描き、その刃を振り薙ぐ月光斬の一撃。
 そして憐も、スターゲイザーを空から降り注がせ、彼への足止め効果を付与する。
 スナイパーの効果もあり、素早いドリームイーターにその二撃が確実に決まり、バッドステータスが積み重なる。
 そして、更にジャマーに立つ朔耶と藤子。
「ほら、皆頑張れ!」
「素早いからって、当たらないなんて事は無いぞ」
 と朔耶が黄金の果実でBS耐性を付与し、藤子はブレイブマインの壊アップ。
 ……流石に素早いドリームイーター、直撃には至らない。
 続けてクラッシャーのバーヴェンが。
「貴様の武運の真髄……見せて貰おうかッ!!」
 と、強い口調でバーヴェンが言い放ちながら、己に炎を纏いインフェルノファクター。
 そして、ルージュが月光斬を一閃。
 懐に潜り込んでの一撃、それは躱すのは難しいだろう。
『グゥ……っ!!』
 と唇を噛みしめ、一歩二歩、後方へとステップバックし間合いを取る。
 しかし、連携して苺とマカロンが。
「さぁ、いくよっ! マカロンもねっ!」
 苺に頷くマカロン、そしてスピニングドワーフと、ボクスブレスの連続攻撃。
 攻撃を受けた後の、僅かな隙を突いて攻撃する事で、確実に狙い澄ました一撃を放つ。
 そして、次の刻。
 亮は今度はスターゲイザーで攻撃し、足止め効果を付与すると、憐もバリケードクラッシュによる服破りの一撃。
 対し、ドリームイーターは、その攻撃を自分の身で受け止めながらも、その流れを活かしての反撃、身体の正中を狙った一撃を叩き込む。
 流石に、攻撃をした亮は交わせないが……こちらも、身を半分翻すことで、ダメージを軽減。
「フェリシア、大丈夫だ」
 と短く言うと、フェリシアは頷き。
「集え、狙え」
 と一言紡ぐと共に『閃光』。
 放たれた光の糸が、ドリームイーターを貫くと、更に連続して藤子がブレイズクラッシュ、朔耶も。
「解放……ポテさん、お願いしますっ!」
 と、ファミリアロッドを解放し、梟を産みだし、次々と突撃。
 その一撃に、その身体に痺れを生み、動きを鈍らせると……その隙にバーヴェンのブレイズクラッシュ、ルージュの月光斬が続く。
 そして、苺のグラインドファイアに、マカロンのボクスタックル。
 リキもそのサイドからのソードスラッシュで一閃を喰らわせていく。
 ……その後も、ケルベロス達の幾重もの攻撃が怒濤の如く襲い……空手の力を活かした反撃をも、中々致命傷を与えられない。
 そして……数分後の、フェリシアの時空凍結弾が決まった、その瞬間。
『ッア!!』
 今迄とは違う、苦しみの声。
 そしてその黒い身体が、形を維持するのが難しいのか……揺れている。
「そろそろの様だな」
 と藤子の言葉、それに朔耶が。
「そうだね。こんな動きしか出来ないなんて、武道家としてはまだまだだね♪」
 その挑発に、睨むしか出来ないドリームイーター。
 そして……。
「垣間見るは朽ちた未来。ならば、僕はそれに紅引き否定しよう。この手が誰もが望む未来に届くまで!」
 と『朽紅の叛逆』の一閃をルージュが放ち、ドリームイーターの身体を一刀両断。
 そして、バーヴェンが。
「せめて祈ろう。汝の魂に……救いアレ!!」
 と、『水龍天翔斬』を横凪に放つと……ドリームイーターは、その場に崩れ墜ちていった。

●その力の矛先
 そして……無事に武闘家ドリームイーターを倒し、その影は消え失せる。
「……せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」
 と、消えたドリームイーターに向けて、弔いの祈りをささげるバーヴェン。
 そして、その後ろでフェリシアが肩を竦めながら。
「まぁ……血からをつけたからそれを披露したい、ってのはまぁ、至極全うだわね。こういうしちめんどくさい方向に拗くれなきゃ、だけど」
 と言うと、憐が。
「まぁ、そうっすねぇ……純粋に力を得ようという気持ちは解るっす。けど、力を追い求める限り、終わりはないからって安易に手を出してしまったらダメっす!」
 ぐっと拳を握りしめる憐……そしてふぅぅ、と息を吐きながらフェリシアが。
「ま、これで少しは平和になったのかね?」
 と周りを見渡す……と、仲間一人の姿がない。
「……ん……あれ、朔耶さんは?」
 と言うと、ルージュが。
「ああ、朔耶なら、あっちだよ」
 と指を指す……その方向では、木々に手を当てながら。
「うわー、これ凄い! 予想した通り、この辺りって草木染めの材料が一杯ある!!」
 テンションが上がりまくっている朔耶……まぁ、確かにこの青木ヶ原樹海を舞台にしたエコツアーとかでは、草木染めの体験会とかをやっている訳で。
「まぁ、それじゃ朔耶は草木染めに専念するといいよ。僕達は、武闘家さんを探して、救出しないとね」
 と言うルージュに亮も。
「そうだな……この森の中の何処かに居るだろう。余り遅くなると、俺達が遭難しかねないし……ある程度陽のある内に探したい所だな」
「そうね……という訳で、朔耶も余り遅くなるまで、夢中になって探しちゃダメよ?」
 藤子の言葉居うんっ、と頷く朔耶……そして、残る仲間達は、青木ヶ原の樹海の中の捜索を開始。
 ……木々を乗り越えたりしながら進んで行くと……樹の間に横たわっている、空手着姿の男。
「ああ、居た居た……それじゃ、サッサと介抱してあげないとね」
 と藤子は言いつつ、彼を抱き上げ、回復。
 ……そして傷の跡に包帯を巻いて、応急手当。
 程なくすると、彼は……目を覚ます。
「あ、起きたみたいだね、大丈夫っ?」
 と苺がニコッ、と笑い掛けると、彼はぼんやりと頷く。
 そしてそんな彼の手当をしつつ、藤子が。
「それにしても力を追い求めるのはいいけど、踏み外しちゃダメよ? まだ、人でありたいでしょ?」
 修行に来た彼の心を刺激する一言……そして苺も。
「そうだねっ。もし強くなりたかったら、教えてあげてもいいよー」
 腕を組んで、自信満々の言葉を紡ぐ苺。
 ……外見からは、強さは想像出来ないのだが……武闘家故に、感じ取れる気配、というのもあるのだろう。
 とは言え、倒れたばかりの状態では、すぐに立ち上がることも出来ない訳で。
「まぁ、今日は大人しく帰りなさい。ほら、樹海の外までなら連れてってあげる」
「ーム……肩を貸そう」
 藤子にバーヴェンが進言し、そして背中に背負い……彼と共に、樹海を後にするケルベロス達なのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。