聖夜略奪~セイントナイト・ストラグル

作者:鹿崎シーカー

 シャワールームに鼻歌と、雨の日めいた水音が響く。念入りに髪をとかして洗い、シャワーを止めて洗面台へ。体を拭いて髪を乾かし終えた女性は適当な寝間着に着替えて別室のクローゼットまで向かい、両開きの扉を開けた。数着取り出した服を代わる代わるあてがってみる。クローゼットの対面、縦長の姿見に映る自分の顔が嬉しそうに緩む。
「んー……どれがいっかなぁー……」
 小声でつぶやく女の視線が姿見の脇、十二月のカレンダーに向けられた。二十四日・日曜日の枠にハートマークと『デート』『18:00』のメモ。胸の奥からこみ上げる熱いものにますます笑顔が深まるのを感じつつ、女性がクローゼットをのぞき込んだ直後、機械めいた女声が彼女の鼓膜を震わせた。
「目標を発見しました。捕獲します」
「え……」
 見返った女性に金属触手が絡みつき、ぐいと引っ張る。目を白黒させる女性の周囲に上がるガラスのシャッター。さらに触手に拘束された彼女の頭にヘッドギアが覆い被さった。ガラス製カプセル上部、カマキリめいたマニュピレータを持つ天使像の目が点滅。
「目標、捕獲完了」
 告げるカプセル天使像背後の床にワープホールじみた穴が三つ出現。そこから上昇したのは大剣を持つ大柄な機械天使二体とスピーカーを装備した女性型天使。カプセル下部についた六本の節足を動かして振り返った拘束機械天使は眼球部分を発光させる。
「これより略奪シークエンスを開始します。シークエンス終了まで、私を護衛してください」
『了解。これより防衛を開始・外敵の迎撃態勢に入る』
 三体は同時に返答し、全身を光らせた。


「……クリスマスまで色々あって大変だよね。僕らもね、そろそろゆっくりしたいです」
「仕事して」
 ミッシェル・シュバルツにバッサリ言われ、跳鹿・穫は肩を落とした。
 昨年のクリスマス。ゴッドサンタを倒したことで、ケルベロスはミッション破壊作戦の要であるグラディウスを大量入手。その後から今日まで実に多くのミッション地域を破壊してきた。そしてついに、この状況を打開すべくダモクレスが動きだしたのだ。
 事件を引き起こすのは機械天使型のダモクレスの軍団で、『怒涛のダモクレス軍団事件』において幹部機の一人である『コマンダー・レジーナ』の元配下。『潜伏略奪部隊』として地球に潜伏していた者達であり、同事件で撃破された『輝ける誓約』の完成体『輝ける誓約の果て』によって強化されてきた軍勢だ。
 彼らに曰く、今回の事件はクリスマスデートに出かけようとする女性を『輝きの卵』なるダモクレスに捕らえて力を略奪。その力を呪詛に変えて、ケルベロス側にあるグラディウスのチャージを阻害しようとしているらしい。
 この目論見が成功しても、グラディウスが破壊されない。だが、チャージタイムの長期化はミッション破壊作戦の停滞を呼び込んでしまう。ミッション地域には複数回破壊作戦を実行しなければ破壊できない場所もある上、今後も地域が増加するだろう。そうなった時、破壊作戦の停滞は後々になって深刻な事態を招く恐れがある。
 皆には輝ける卵の破壊と捕獲された女性の救出を以って、この企みを阻止してほしいのだ。
 現在輝きの卵は、捕獲された女性の住居であるマンション最上階の寝室に鎮座し、儀式の準備を行っている。部屋には輝きの卵の他に『輝きの盾』二体と『輝きの音』一体が護衛についており、ケルベロスからの襲撃に備えているようだ。
 輝きの卵を守る二種のうち、輝きの盾は大剣を手にした大柄な騎士の姿を取っており、強固なバリアを張る能力を持つ。輝きの音は華奢な女性型で、装備したスピーカーから放つ音波を利用して攻撃・治療を行うことができる。
 これら三体の護衛さえ倒せれば、戦闘能力皆無の輝きの卵から女性を救出するのは容易。なのでまずは護衛戦力の撃破が重要になる……のだが、寝室は戦場とするには手狭で、四方の壁と天井には輝きの盾の能力で結界が張られてしまっている。
 二体がかりで作られた結界は生半可な攻撃では突破できない上に、このままでは女性を輝きの卵ごと戦闘の巻き添えにする可能性がある。輝きの卵は無力で、予期せぬ流れ弾が当たれば女性ごとの大破は必至。
 場所と結界の対処法。これらを踏まえて戦闘に臨んでほしい。
「と、向こうは何が何でも作戦を成功させる腹積もりのようだけど……デウスエクスでも完全じゃない! どこかに必ず穴があるはず!」
「ケルベロス襲撃前提の布陣に人質…………どうしたらいいかな」


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
スヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
佐久田・煉三(直情径行・e26915)

■リプレイ

 ふと輝きの音が横を見る。光の結界越しに見える、レースのかかった窓の外。カメラアイに一瞬、白銀の鎧を着た人影が映り込む。三十秒前には緑のラインが入った球体、一分前には真紅のトンボ。音は目前で並ぶ輝きの盾に目をやった。
「音より盾へ。異変を検知。精確な探査のため十秒の結界解除を進言」
 微動だにせぬまま左側の盾が返答。
「盾Lより音へ。否決。一秒以上の結界解除は儀式失敗の確率を上昇させる。結界維持が妥当と判断」
「盾Rは結界維持の案を支持」
「卵より総員。結界を維持せよ」
 輝きの卵を最後に会話が止まる。寝室の扉に耳を当てたコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)はリン・グレーム(銃鬼・e09131)にサムズアップ、彼は無言で片目を閉じる。通信確立。
『突入班、準備OKっす!』
「ん、了解した」
 階下、通信を受けた佐久田・煉三(直情径行・e26915)は寝室に立つ仲間達を複眼ゴーグル越しに見やった。
「始めていいらしい」
「お、いよいよ出番か。腕が鳴るねぇ」
 ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)が軽くうそぶき、彼の隣でスヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)が体を伸ばす。床に屈んだディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)は二人に少し下がるように促すと、血で描いた魔法陣に手をかざす。
「……現世へ至れ、赤の邪竜。紅蓮の大火に吠えるが良い」
 手の平の紋様が輝き、直後魔法陣が爆発した。噴き出した炎は竜の頭部をかたどり咆哮、爆炎を天井に吐き出した! 炎は天井を穿って輝きの盾Rを跳ね上げた。蹴り開けられる寝室のドア。結界の解けた室内にコンスタンツァとリンの発砲音が響き渡る! 連射される銃弾と凍結光線を盾Lは大剣で撃ち落とした。
「盾Lより盾Rへ。状況を報告せよ」
「盾Rより盾Lへ。階下に落下したのち会敵。迎撃へ移る」
 報告を飛ばした盾Rは大剣を横に構えスヴァルトのダッシュパンチをガード。銀のホタル八匹と桃色の胡蝶が飛び交う室内、舞踏めいた近接格闘を繰り出すスヴァルトを大剣の腹でいなす盾Rの右膝にファルケの銃撃が命中。銀ボタルの光粒子がサーチライトじみて駆け巡る中、盾Rは大剣振り抜きスヴァルトを打ち払った。追撃を仕掛ける盾Rの行く手を爆発が遮り機械仕掛けの蛾が数匹飛び出す。鋭く光る煉三の目!
「飛べ」
 盾Rに集る蛾が光の波紋を放出! 硬直する背中にかざされたディディエの手の平、宙魔術紋章が真紅に光る!
「……現し世へと至れ、妖精王よ。汝の軌跡を、今此処へ」
 手の平から弾丸めいた速度で緋色の文字が放たれた。マシンガンめいた魔術の連射を受けた盾Rは飛ぶ蛾の一匹を握り潰して他を裏拳で振り払う。新たな緋文字を作るディディエに振り向き文字をバリアで防御する。射撃を防ぎきった光の壁が高速で押し出されディディエに追突、吹き飛ばす!
「盾Rから音へ。修復要請」
 その時、天井から神々しいメロディ流れ出し、ファルケがそちらに狙いを移す。降りてきた音を銃撃!
「いらっしゃいませ! 弾丸をどうぞ!」
 環状刃と化した銃弾が音をかすめ傷つける。メロディを止め上昇する音。スヴァルトが二つ折りにした札をくわえて息を吹く。札から噴出した緑の霧が音を包むと共に、盾Rのタックルがスヴァルトをはねる! 途切れた霧を脱し上階に戻った音へ叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)が燃える刀を引き絞る!
「篁流剣術……『月光通し』!」
 炎の刺突が音の脇腹を貫通、同時に宗嗣の顔面に金色の攻撃音波が着弾! 彼は鳩尾に前蹴りを食らって吹き飛び、砕けた寝室壁の残骸を超えてリビングに着地する。そこへ、盾Lは大剣を彼の側頭部めがけて振り回した!
「アミクス!」
 宗嗣を突き飛ばしヴァルキュリアめいたビハインドが大剣を受ける。横壁に打ちつけられるアミクスを余所にリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)は頭上で槍を回して蒼光の竜巻を解放! それを追い風にしたリンが盾Lの背中を駆け上がって跳躍し、天井を蹴って音に急降下パンチを繰り出す。音は眼前で交叉させた両腕を腰まで引き絞る!
「音響輝砲、最大解放」
「おおおおおおおッ!」
 スピーカーが黄金の破壊音波を放ちリンの拳を真正面から弾くと同時、音の各所に鉛弾が命中。一瞬ふらついた音は二丁リボルバーを排莢するコンスタンツァに音波を連射。床を撃ち抜く破壊音波をバク転で回避しながらスタンはリロード!
「当たらねっすよーッ! もういっぺん食らえっす!」
 勝ち誇り銃を構えたスタンの脇腹に盾Lの横蹴りが炸裂し、彼女を真横に吹き飛ばした。窓ガラスを突き破るスタンに、槍を捨て弓を取ったリューインが蒼い光矢を外に射る。直後、彼女の顔面に盾Lのエルボーが直撃しリューインの後頭部が背後の壁にぶつかり陥没させた。
「ふぐっ……!」
 壁からはがれ千鳥足になったリューインの脳天に盾Lは大剣を振り下ろし床を破って突き落とす。一方で宗嗣は音に向かって再度疾走!
「篁流剣術……」
 軽い跳躍と同時に宗嗣が三人に分身! 音の爆音波を浴びて消えた分身の下、低姿勢で踏み込んだ宗嗣は斜め上に刀を振るう。
「『幻月』!」
 逆袈裟に裂かれる鉄の胴。目を光らせた音のソニックブームに撃ち抜かれるも、宗嗣は炎のトンボ羽を広げ制動をかける!
「くっ……」
「叢雲さん! 後ろぉッ!」
 リンの声に振り返った宗嗣の至近距離、盾Lが大剣を振り下ろす! 床二枚を突き抜けた宗嗣を横目で見、そちらに一匹ホタルを飛ばした煉三の傍。軽いステップで後退してきたファルケが銃に弾をこめ直す。
「なんかあった?」
「ん、また一人落ちた」
「へえ……上の方、結構ヤバいのかな」
 別の銀ホタルの光を浴びながら、ファルケは汗を腕でぬぐう。部屋は寝室のみならず1LDKまるごと全壊し黒く焼け焦げ、冷たい風が吹き抜ける。部屋の中央には、全身に修復痕を浮かべた盾Rとそれを挟んで立つスヴァルトとディディエ。膠着状態!
「早いところ終わらせたいね……!」
 盾Rが動いた瞬間、ディディエ足元で赤黒のオーラが破裂! 射出されたオーラ弾を大剣で薙いだ盾Rの脇腹に、潜り込んだスヴァルトの掌底! すぐさま跳び下がる彼女へ飛び出した盾Rは、ファルケの銃撃を不規則軌道のダッシュですり抜け彼女の背後にバリアを展開。行き止まった彼女の腹に大剣の刺突がえぐり込む!
「ごふっ……!」
 スヴァルトの口から血があふれ、切っ先がさらに深く埋まった。大剣を押し込む盾の後ろを取った煉三は骸骨めいた杖を突き出す。開いた肋骨部分から放たれる大量の弾丸! 盾Rは振り向きざまに大剣を掲げ防御姿勢を取るものの、弾丸は刀身を避けて蜂に変形、機械天使に素早く集り修復痕に針を刺す! 盾Rは即座にバリアを張って追撃を防ぎ大剣を振り回してドローン蜂を片っ端から破壊していく。煉三は表情を変えないままに手を挙げた。
「ん、対応が遅かったな。……やれ」
 指が鳴らされ、蜂に混じった機械の蛾が波紋を放つ。直後、機械天使の挙動が壊れた人形めいてぎこちなくなりバリアが消滅! 床についたディディエの手から赤黒のオーラが渦を巻き、床全体を覆い隠した。オーラの中で紋章が光る!
「……現し世へ至れ、悪食の海魔。オケアノスは今此処に」
 盾Rの足元から巨大なオーラの触手が噴き出し、固まる鉄の体を螺旋状に締め上げた。集る蜂ごと握り潰さんとする触手の隙間、はみ出た大剣を持つ手が歪み、おかしな方に折れ曲がる。盾Rの目が激しく明滅し、バグった電子音声を絞り出した。
「タ、R……へ、修復要せせせせせせせせせせ」
「おおっと!」
 ファルケの鋭い跳び膝蹴りが盾Rの頬を打つ。そのまま天使の肩を足場に垂直跳躍、真下にある眉間を狙う。
「回復アイテムは品切れだ。またのお越しを、お客様!」
 銃口がビームを発し銀色の頭部を貫く。盾Rが握り潰されると同時に天井が派手に崩落! 雨の如く降り注ぐ破壊音波。落ちてきたリンとコンスタンツァが赤黒いオーラの海に叩きつけられ、盾Lがファルケの背中を縦に斬る。
「……ほう」
 片眉を動かし、ディディエが床につけた手に力を入れた。波打つ赤黒いオーラが極太の触手を数本生み出し伸長、破壊音波を打ち払う! その下でリンは素早く復帰し盾Lに凍結光線を連射。バリアで光線を防いだ盾Lをスヴァルトはかかと落としで打ち倒す!
「大丈夫ですか」
「すいません! 床抜けたっす!」
「ん、問題ない」
 答え、煉三が床をノックする。刹那、焼け焦げた床板が爆ぜ炎の矢が飛び出した。業火をまとった宗嗣は浮遊する輝きの音めがけて一直線に飛翔!
「その魂、貰い受ける……!」
 炎を収束した刀身が音の腹を貫いた。そのまま天井をぶち抜き群青色に染まりつつある空まで抜ける。刀を握ったまま宗嗣は空中で後転、音にかかと落としを見舞う!
「『垂雪』!」
 蹴り落とされた音が速度で墜落! 屋上を砕いて落ちてくる音に走るスヴァルトの目前に光の壁が開かれ、強制的に引き戻す。スヴァルトを引き寄せて振るわれた盾Lの大剣をアミクスが大鎌で防御。さらに広げた光の翼を光鎖に変えて盾Rを締め上げた。アミクスを飛び越えたスヴァルトは盾Lの顔に飛び蹴りを打って反動で飛び退く。わずかに縮んだバリアを超えて身をひねり、符をくわえて音に毒霧を噴霧!
「……貪れ、カリュブディス」
 赤黒い触手が霧を裂き、霧中の輝きの音を弾き飛ばし先端で穿つ。各部のパーツをこぼしながらも音は空中で体勢復帰、身構える。
「音響輝砲、再起動」
 ディディエは無表情でリンにアイコンタクト。スピーカーに光を溜める輝きの音をしかと見据えたリンはうなずき銃をホルスターに差し込んだ。一気に鈍化する時間の中、ゆっくりと膨張するスピーカーの光をにらみ……高速で手を閃かす! 音の頭部が爆発し遅れて銃声が空気を震わす。一拍の間隙を開け、光輝く破壊音波が暴発。部屋全体を押しつぶさんとする金色の爆音の前に立ちはだかったリューインが二本の槍を回転させる。蒼色の粒子をまとう槍を手に、サファイアめいた瞳を燃やす。
「これ以上、壊させは……しませんッ! せあああああああああッ!」
 回転の勢いをつけ、蒼光に包まれた二槍を投げた。青い円陣と化した二本の槍は暴走音波と真っ向から激突し、花火の如き閃光を爆発させる。金と青の粒子が雪のように散る中、頭部を失った音はくるくると回りながら床にぶつかってバウンド。アミクスを振り払い、鎖を千切った盾Lはこめかみに指を押し当てた。
「盾Lより卵へ。盾R・音の両名破砕。即時撤退を……」
 点滅する右のマシンアイを弾丸が割る。ガンスピンを決めたファルケは不敵に笑う。
「もう帰るのかい? 折角のパーティなんだ、最後まで楽しもうよ!」
 火を噴くヴィンテージリボルバーの弾丸、波じみて襲い掛かる赤黒いオーラ触手の軍勢が出現した光の一枚壁と正面衝突! バリアを張った通信に戻った盾Lの聴覚機能に砂嵐に似たノイズが走る。窓や床の穴からバリア内部に侵入した蛾が波紋を重ねてノイズを増やす。触手に雪崩れ込まれ、しなるバリアの奥からキツツキめいた連打音!
「篁流剣術……『月光散らし』!」
 宗嗣の炎刀がバリアを破り、オーラの触手が風穴をつかんで無理矢理広げる。開けられた穴から崩壊していくバリアを乗り越えたリンはバグった挙動の機械天使にダッシュブロウ! 鉄の腹に打ち込んだ拳を全力で身をひるがえして思い切り踏み込む!
「ぐっ、うおおおおおおおあッ!」
 力任せにぶん投げられ機械天使が宙を舞う! スヴァルトが狙い済ませた回転蹴りを叩き込み、盾Lを宙にぬい止めた。
「ここでどうです?」
「バッチリっすよッ!」
 直下に潜り込んだスタンは二丁拳銃をスピン。二つそろえて盾Lに照準を合わせた。
「乙女の恋路は邪魔させねえっす! 聖夜の一射を食らえっす……GO to HEAVENッ!」
 トリガが引かれ銃口から竜巻が放たれた。真っ直ぐ空へ伸びる二本の嵐の境界線、飲み込まれた機械天使の体が渦巻く突風に千切られ、端から粉砕されていく。四肢と頭を削り取られた機械の体は風の中で塵と化し、夜空に銀粉と散った。


「はぁー……終わった」
 数分後。ヒールを終えたリューインはぐっと背中を伸ばした。床から天井まで薄青に染まった住居。その寝室前で壁に背を預けていたディディエが、煙管に刻み煙草を流し込んで火を点けた。
「……終わったか」
「はい、なんとか。……住民、避難させといて正解でしたね。あとは、ここと下の住民にどう説明するかですけど」
 虚空に吹きかけられる紫煙の匂いを嗅ぎつつ、ファルケはハットを目深に下ろす。
「全部アレのせいってことで。……ダメ、かな……」
「多分……ダメっすね。住居ぶっ壊したことは間違いないっすし」
「まぁ、閉所であれだけ暴れたからなぁ……仕方ないと言えばそうなのだけどね」
 遠い目をしてつぶやくリンと宗嗣の真横で寝室の扉が開かれる。八匹のホタルを連れて出てきた煉三をファルケが見上げる。
「あ、終わった?」
「ん、いや。まだ卵の頭を解体しただけだ。それより、ダモクレスの残骸は」
 煉三に水を向けられ、きょとんとまばたきをするリューイン。
「残骸? あれなら下に置きっぱなしですけど……」
「ん、そうか。……来い。餌の続きだ」
 淡々と告げ、煉三はホタルを連れて歩き去る。彼の背中見えなくなってから、宗嗣はぽつりと言葉をこぼす。
「……エサ?」
 寝室前が気まずく沈黙。一方で寝室の内部。紙袋を抱えたコンスタンツァは輝きの卵を見上げ、頬を引きつらせていた。
「煉三。危険物の解体は非常にありがたいっす。ありがたいんすけど……ビジュアル、どうにかなんないんすかね……?」
 視線の先、輝きの卵は頭部をほぼむさぼられ、わずかに配線やが残されるのみ。サイレンを発する卵がホタル達に食われるシーンを思い出すスタンに、スヴァルトは軽く息を吸って声をかけた。
「そろそろ救出に移りましょう」
「そ、そうっすね! ついでにコーデもしないと……えーっと」
 回想を脳裏に追いやりコンスタンツァは紙袋を漁る。中に収められた新品の衣服類をひとつずつ確認。
「白セーターよし、茶色のマフラーよし、キャスケットよし……準備ばっちりっす! これなら彼氏をどーんと押し倒しても恥ずかしくないはずっすよ!」
 紙袋を抱いて下がるスタンの傍ら、スヴァルトは片足を引き、手刀を水平に構える。カプセル内部の配線を目で追い、深呼吸を繰り返す。手刀の位置を微調整した後、彼女は薄く微笑んだ。
「……もう大丈夫。貴方はきっと、貴方の幸せな時間を過ごせますよ」
 一歩踏み込み横薙ぎのチョップを振るう。鋭い手刀はカプセルと中の女性を縛る配線を綺麗に斬り裂き、真っ二つに両断してのけた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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