聖夜略奪~狙われた入浴美女

作者:秋津透

「うふふふふ~ん、るんるんるるる~ん♪」
 神奈川県横浜市、ベイサイドエリアにある高層高級マンションの一室。
 二十代半ばくらいのスタイルのよい女性が、心底楽しそうに鼻歌を口ずさみながらお風呂に浸かっている。
「明日はデート、クリマスデート♪ 仕事は、全部かたづけた~♪ 邪魔するものは、何もない~♪」
 ほーんと、ここまでよく頑張ったアタシ、今夜から明日はご褒美報酬を味わう時。絶対、誰にも邪魔はさせないんだから、と彼女は呟く。
 しかし、彼女の幸せな時間を邪魔する者は、まったく予想外のところから現れた。
 いきなり浴室の壁が、みにょ~んという奇怪な音とともに歪み、そこから翼のある人間……たぶん天使を模したと思われるロボットというか機械人形が四体、次々と彼女の目の前に出てきたのである。
「……な、なんなの? これ、何かの冗談?」
 あまりにも非常識な事態に、女性は何の反応もすることができず、お風呂に浸かったまま呆然として呟く。すると、最後に出てきた機械人形……それは、人間の顔を模した頭部こそついているが、手足や胴体は昆虫じみた形で、特に腹部は卵を孕んだかのように大きく膨れていた……が、浴槽に近寄り、ぱくんと腹部を開く。その中からは機械の触手というか蔓というか、太いコードのようなものが無数に伸び、彼女の手足に絡みつく。
「ひっ! い、いやっ! 何するの、やめてっ!」
 我に返って叫んだものの、もはやどうすることもできず、彼女はそのまま機械人形の腹部へと取り込まれてしまう。そして、先に出てきた三体の機械人形が、その周囲に集まり、軋んだような声をあげる。
「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ」
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ」
「さすレバ、ソノ絶望のカにより、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるデアロウ」
 そして機械人形……否、ダモクレスの潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の機械天使たちは、それぞれの武器を構え、油断なく身構える。
 襲撃してくるであろうケルベロスを迎え撃つために。

「昨年のクリスマスに出現した巨大ダモクレス、ゴッドサンタのこと、覚えてらっしゃると思います」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、少し遠くを見るような表情で告げる。
「強大で恐ろしい敵でしたが、結果的には我々ケルベロスにグラディウスをもたらしてくれて、そのおかげで多くのミッション地域がデウスエクスから解放されました。こちらにとっては嬉しいクリスマスプレゼントだったわけですが……ダモクレスにとっては、こんなみっともない話はない、他のデウスエクスに顔向けもできないということらしくて。何とかしてケルベロスの手に渡ったグラディウスを封じようと、潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用した作戦を仕掛けてきたようです」
 そう言うと、康は表情を引き締めて言葉を続ける。
「『輝ける誓約』の軍勢は、クリスマスデートを楽しみにしている女性の前に魔空回廊を使って出現し、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に女性を閉じ込めてしまいます。そして、女性を絶望させ、その力を使ってグラディウスを封じ込める儀式を開始するようです」
 どうしてクリスマスデートを楽しみにしている女性が絶望するとグラディウスが封じられるのか、まったくさっぱりわかりませんが、ダモクレスたちは大真面目に作戦を進めているようです、と、康は告げる。
「『輝きの卵』自体には戦闘力はありませんが、周囲に三体の護衛がついているようです。護衛のダモクレスをすべて倒せば『輝きの卵』から女性を救出することができますが、先に『輝きの卵』を攻撃、撃破してしまうと、閉じ込められている女性も絶望したまま死んでしまいます。そうなると、ダモクレスの儀式は不完全ながら成功したことになり、グラディウスの使用に悪影響が出る可能性があります」
 ちなみにクリスマスが終わるまでに女性を救出できないと、儀式を完了させた『輝きの卵』は女性もろとも自爆してしまいます、と、康は厳しい表情で告げ、プロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここ、横浜市のベイサイドエリアにある高層マンションの一室です。被害者の女性は入浴中に襲われ、ダモクレスたちは浴室にいます。これが『輝きの卵』で、護衛の三体が、これとこれとこれ。装備している武器によって『輝きの槍』『輝きの盾』『輝きの杖』と呼ばれています。ポジションは『輝きの槍』がクラッシャー、『輝きの盾』がディフェンダー、『輝きの杖』がスナイパーです。『輝きの槍』はゲシュタルトグレイブに似たグラビティを使い、『輝きの盾』はゾディアックソードに似たグラビティ、『輝きの杖』はライトニングロッドに似たグラビティを使うようです。非常に隙のない連携を行うようなので、用心してください」
 ですが、槍と杖はそのまんまですけど、どうも、『輝きの盾』は剣装備みたいですね、と、康は首を傾げる。
「ダモクレスが利用しようとしているクリスマスの力……実態はよくわかりませんが、クリスマスを楽しみにしている人が絶望や落胆をすると、悪影響があるようです。何とか女性を助けた上で、彼女が落胆する状況にならないよう、フォローしてあげられれば良いと思います」
 間違っても、クリスマスデートに浮かれるリア充爆発しろ、とか、たとえ思ってたとしても実行しちゃダメですからね、と、康は真顔で釘を刺した。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
伊上・流(虚構・e03819)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
神原・燐(冥天・e18393)
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)

■リプレイ

●な、なんか大事になってる?
「デウスエクスが? このマンションに?」
 神奈川県横浜市、ベイサイドエリアにある高層高級マンションの管理事務所。
 管理主任のプレートをつけた女性にエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が用件を告げると、女性は緊張した表情になって訊ねる。
「お伺いします。もし、最悪の事態になった場合、この建物は倒壊するでしょうか?」
「最悪の事態になれば、ありえないとは言えません」
 冷静な口調で、エニーケは告げる。
「そうですか。そうでしょうね……では、現在建物内にいる人を全員避難させるまで、突入を待っていただくことは可能ですか?」
「必要時間にもよりますが、可能です」
 管理主任の質問に、これは大事になってきたわねと内心唸りながら、エニーケはあくまで冷静に応じる。
 すると管理主任は、緊張した口調で訊ねる。
「では……全館に避難勧告放送を流すことは、可能ですか?」
「構いません、どうぞ」
 エニーケが即答すると、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が少し慌てた口調で割り込む。
「え? でも、騒ぎになったら警戒されない?」
「騒ぎにならなくても、相手はダモクレス、常時警戒されているわ」
 ヘリオライダーの予知でも、相手は油断なく身構えてるって言ってたし、と、エニーケは言葉に出さずに続ける。
 そして管理主任は、周囲のスタッフに向かって告げる。
「第一種災害警報発令。建物内に、デウスエクスの侵入が確認されました。すみやかに、全館に避難勧告放送を流してください」
「わ、わかりました!」
 蒼ざめた顔で、スタッフたちがうなずき、作業を開始する。たちまちマンション全館に、緊張した声の放送が流れる。
「居住者の皆様、来訪者の皆様に申し上げます。ただいま、本館内にデウスエクスの侵入が確認されました。デウスエクスの侵入が確認されました。すみやかに、建物から避難してください」
 そしてほとんどのスタッフたちは、管理事務所から足早に出ていく。残っているのは、管理主任と数人のオペレーターだけだ。
「地上階まで降りてきた方を、隣のビルにある地下シェルターへ誘導します。戦術核の直撃でも耐えられる造りですが、デウスエクスには……」
 不安げに呟く管理主任に、リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)が胸元の赤水晶のペンダントに触れながら、きっぱりした口調で告げる。
「心配は要らない。奴らに、避難所を襲わせるようなことはさせない。絶対に」
「……建物内の各部屋が、モニターできるのか?」
 表示パネルを見て、今回のメンバー内唯一の男性、伊上・流(虚構・e03819)が落ち着いた口調で訊ねる。
「はい。通常は異常数値を感知した部屋だけですけど、今は緊急事態ですから……」
「17階の17055室、ちょっと見てもらえるか?」
 流の指示に、オペレーターは表示を変える。
「ロックかかっています、在室……浴室に熱表示……え? 何これ?」
「それが、デウスエクスが侵入路を開けたために出ている表示だ。記録しておいてくれ。事が済んだら、専門家がデータ回収する」
 告げると、流は少し間を置いて付け加えた。
「そこで、何か変化が起きたら要注意だ。すぐに言ってくれ。動かないようなら、このまま避難を続けていいだろう」
「……はい」
 言われたオペレーターがうなずき、別のオペレーターが報告する。
「三十五階、避難完了。無人です」
「了解、閉鎖して」
 管理主任が指示し、オペレーターが操作する。
(「時間はかかりますし大仰ですが……確実に避難してもらえますし、後から何か入ってくることもありませんね。システムって偉大ですね」)
 声は出さずに、しかし感心した表情で、イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)が呟く。
 その間に、また一フロア、無人になった上層階が閉鎖される。

●さあて、成敗と参りましょうか!
「ここか」
 エレベーターで十七階に到着、ドアが開いて一同が降りると、ドアが閉まって階表示のランプが消える。
 管理事務所でエレベーターの電源を切り、十七階を閉鎖して、それから管理主任とオペレーターたちが避難する。
 ケルベロスたちは照明の消えた廊下を進み、現場……17055室へ向かう。
「ここだね」
 管理事務所で渡されたマスターキーで、ドアを開ける。この状況で誰か来るとも思えないが、念のためリィンがドアの外側にキープアウトテープを貼った上で閉める。
「……さて」
 室内に入り、慎重に歩を進める。浴室は、あの向こう……。
 と、その瞬間、室内を仕切る壁を障子か何かのように易々と破り、四体のダモクレスの一つ、『輝きの槍』が飛び出してきた。
「死ネェ! ケルベロォス!」
 甲高い咆哮とともに、輝く槍が前衛に向かって振るわれる。クラッシャーのイビナをディフェンダーの詩月が庇い、リィンを流が庇う。
 詩月と流は二撃分のダメージを受けるが、ディフェンダーでダメージ半減なので、クラッシャーで攻撃を受けてしまったイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)と、痛手の度合いは変わらない。
「おのれ!」
 イリスは柳眉を逆立てるが、剣の柄に手をかけて一瞬攻撃を待つ。すると、『輝きの槍』が破った壁を更に崩して、大きな剣を持ったダモクレス『輝きの盾』が進み出てくる。
「待っテイタぞ、ケルベロス! 今夜コソガ貴様らノ……」
「ふっ、待っていたのは、こっちの方ですっ! 銀天剣イリス・フルーリア、参ります!」
 何やら言いかかる『輝きの盾』に皆まで言わせず、イリスは満を持して、いきなりオリジナルグラビティ『銀天剣・零の斬(プラタシェロ・ハウラ)』を放つ。
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
「グオァッ!」
 眩い光が強烈に放たれ、一瞬、視界が光で満ちる。そのため、何が起きているのか認識し難いが、イリスは相手が放つ光を刀と翼に集め、煌々と輝く刀で相手を一閃したようだ。そして、オラトリオが使う「物質の時間を停止させる」力を帯びた光を浴びせ、そこに翼から溢れた光を数十本の刀の分身と化し、超高速の連撃を叩き込んだらしい。
「ギィイ……ナ、何ノ、コレしキ……ディフェンダーたル我ハ……」
「知ってますわよ。ダメージ半減なんでしょう?」
 言い放って、エニーケが咆哮を放つ。
「ならば、二倍叩き込むだけのこと! くらえ、ハウリング!」
「グアッ!」
「ギャアッ!」
『輝きの盾』は『輝きの槍』を庇わず、両者に攻撃が当たる。そこへ、壁の破砕口をすり抜け、護衛の三体目『輝きの杖』が姿を見せる。
「パッポンプッポンパラララッパポン♪」
 奇怪なメロディを発しながら、『輝きの杖』は『輝きの盾』と『輝きの槍』へ治癒と異常耐性強化のグラビティを送る。
「小癪な真似を……」
 呟いて『輝きの杖』を睨み据えながらも、キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)は『輝きの盾』へと炎弾を放つ。
「グッ……オノレ……」
 呻いた『輝きの盾』は全身を光らせて、自分と『輝きの槍』を治癒、防御力を高める。
(「守り気味で来てるのでしょうか? ならば、暈にかかって畳みかけますよ!」)
 今日ばかりは手加減できません、戦場で手加減なんてしたことありませんけど、と、声には出さず呟き、イピナもオリジナルグラビティ『春夏秋冬・夕立(ユウダチ)』を放つ。
「穿つ落涙、止まぬ切っ先……突!」
「ガアッ!」
 それは、水の精霊の力を纏う型。降り注ぐ雨の如く、途切れない刺突が『輝きの盾』に襲い掛かる。
(「ディフェンダーなら、いちいち騒がず、黙って耐えなさい、軟弱者」)
 冷ややかな眼差しで『輝きの盾』を見据え、イピナは声に出さず言い放つ。
 そして詩月が『輝きの盾』に血襖斬りを放ち、自分が受けたダメージを癒す。
(「レプリカントの僕が、ダモクレスを斬って、血襖斬りでドレインかぁ……お互い、本当の意味じゃ血なんか流れてないんだけど」)
 続いて流が三角飛びの要領で天井を蹴り、『輝きの盾』の頭部へ重力蹴りを叩き込む。
「利用出来るモノは全て利用して武器に変える。それが俺流のやり方でね」
「ぐムぅ……」
 どこか変調したのか、『輝きの盾』は鈍く軋んだような声を発する。そこへリィンが、日本刀で鋭く斬りつける。
「くらえ!」
「ごァ……」
 胸元を大きく裂かれ、そこに氷を付着させられた『輝きの盾』が、鈍い声を発する。
 そして神原・燐(冥天・e18393)が、流に祝福の矢を射込む。
「流さん、治癒します! 受け取ってください!」
「ああ、助かる」
 頬を紅潮させて叫ぶ燐に、流は無雑作に応じる。そして、燐のサーヴァント、ナノナノの『惨禍』が、イリスにナノナノばりあを使う。
「ありがとう」
 治癒してくれるのはありがたいけれど、あなたはどうして、そんな怖い名前なの? と、イリスはナノナノを見やる。
 しかしもちろん、『惨禍』という名のナノナノは答えず、つぶらな瞳で見返すだけであった。

●ダモクレス聖夜に死すべし
「雪の翼を纏いて、胡蝶は羽ばたきを続ける……。耐えられますか? 身も凍る胡蝶の舞に」
 静かに、しかし冷ややかに問いかけながら、キアラは『輝きの盾』に向けオリジナルグラビティ『雪月胡蝶(バタフライ・スノウ)』を放つ。
「グ……ガアッ!」
 既に満身創痍の『輝きの盾』を縛り封じるような感じで、お札から召喚された極低温の光の胡蝶がひらひらと舞う。一種の金属疲労だろうか、ダモクレスのボディにびしびしと亀裂が入り、そしていきなり砕け散った。
「……耐えきれなかったようですね」
 呟いて、キアラは小さく息をつく。その背には、光の胡蝶によく似た文様を持つ光の羽が、ゆっくりと動いている。
「よし! 盾は砕きました! 次はお前です!」
 イリスが叫び、『輝きの槍』に気咬弾を撃ち込む。華奢なボディにぴしぴしと亀裂が走り、ダモクレスは全身から強烈な光輝を放つ。
「くっ……目が……」
 これでは狙いがつけられず、誤射の危険性が高すぎる。目くらましというのも催眠の一種ね、と唸りながらも、エニーケは用意のシャウトを行う。
「ふう、すっきりしましたわ」
「……あの敵、中衛のエニーケさん一人を狙って、列攻撃の催眠光をかけたのですか? いったい、何を考えてるの?」
 イピナが少々呆れた声を出したが、エニーケは、それだけ私が手強く見えたのでしょうね、と、ちょっとドヤ顔。
「さあ、イピナさん、キアラさん、姫たる騎士の力を見せてさしあげなさい!」
「ご、ごめんなさい、私、今、手番が終わったばっかりで……」
 エニーケの檄に、キアラが済まなさそうに謝る。しかしイピナは、にっこり笑ってうなずく。
「ええ、もちろんですわ!」
 わざわざ言われなくたって、と、言葉にはせずに続け、イピナは『輝きの槍』に向け斬霊斬を叩き込む。
「ギ……キイッ!」
(「お前も煩いですわね。生物ならば痛ければ叫ぶのも、生理ですから仕方ないですが、機械の分際でいちいち騒がないでくださいな。見苦しい」)
 なんて、きついこと言ってるのを聞かれたら、アイドル失格してしまいますね、と、イピナは複雑な表情で呟いた。
 そして詩月が、ドラゴニックハンマーを振り回して叩きつける。
「華奢な奴には力技が効く! ……ような気がする」
 武骨なハンマーが『輝きの槍』を直撃。外殻が割れ、部品が飛び散り、潤滑油か冷却水か、血のようにも見える液が飛び散る。
「一気に、いけるか?」
 杖に回復されると徒に長引く、と呟いて、流はオリジナルグラビティ『吸血魔剣【血の嘆き】(チノナゲキ)』を発動させる。
「日常に害為す異端なる存在は狩り屠る。貴様の概念情報……全て貰うぞ」
 闇よりも深い冥き輝きを放つ漆黒の刀身と鮮血を思わせる紅きオーラ纏い、幾何学紋様と虹色の宝石が幾重にも刻み、埋め込まれた歪な形状の刀に近い形状を持つ魔剣(自作品です。本当にありがとうございました)を振るい、流は『輝きの槍』に刃を突き立てる。
「ヒイイイイッ……イイイッ!」
 悲鳴のような声とともに『輝きの槍』の金属外殻が砕け、剥がれ、ぼろぼろと崩れ落ちる。まるで何千年、何万年もの間、苛烈な環境に晒されていたかのように、ダモクレスの機械構造が崩れ、砂状になってさらさらと流れ落ちる。
「ピィ……パァピィ!」
 仲間を倒され、戦闘能力のない『輝きの卵』(そういえば、まだ浴室から出てきていない)を除けば単体になってしまった『輝きの杖』が、怯えたような声を出したが。
「最愛の人と幸せを分かち合う今宵この時、無様な形で引き裂こうとする貴様らの所業、常に冷静であれと心掛けても今日はそうもいかん。高くつくぞ、恋人達の幸せを汚した代償は!」
 リィンが一気に言い放ち、オリジナルグラビティ『神威焔舞(カムイホムラマイ)』を発動させる。
「この剣舞は炎の舞、貴様を地獄へと誘う死出の舞! 塵も遺さず消え失せろ!」
「ピーッ!」
 燃えたぎる炎を乗せた連撃から、最後に高く飛び上がって頭上高くからの袈裟斬りを放つ。『輝きの杖』は肩口から胸にかけて深々と割られたが、さすがに無傷の状態から一撃では倒しきれず、よろめきつつも、まだ立っている。
「ギ……ギ……」
「往生際が悪いですね」
 そう言うと、燐が瀕死のダモクレスの前に立つ。
「絶対的な常闇の冥き皇の星が恩寵を彼の者に与え賜え」
 平板な口調で言い放つと、燐はオリジナルグラビティ『冥き天の闇(ヴォイド・ダークネス)』を放つ。
 それは、自身の持つ魔力を触媒にして一時的に空を『冥き天』へと塗り替える心象侵蝕魔法。だが、室内で使うとどうなるのか。天井が『冥き天』へと塗り替えられるのか。
 いずれにしても、瀕死の『輝きの杖』にとっては、魔力を触媒にした空間変換だけで、充分に全機能を喪失するに至る衝撃となった。

●解決策を呈示します
「怖い……怖いよ……ごめんなさい、助けてもらったってわかってるのに……まだ怖くて、震えが止まらない……」
『輝きの卵』から助け出された女性は、バスタオルと毛布でくるまれて寝台に横たわっていたが、絶望の末に殺されそうになったショックが激しく、なかなか立ち直れそうにない。
 その様子を見ていたエニーケが、うむ、とうなずく。
「わかったわ。可哀想にね。あなたから恐怖を祓って、安眠させてあげられる人は、どうやら一人しかいないみたい」
 そして彼女は、厳粛な口調で宣告する。
「彼氏を呼びなさい。明日のデートのことは置いておいて、今夜一晩、思いっきり彼氏に甘えなさい。気持ちを安らかにするには、それしかないわ」
「……はい」
 意外に素直に女性は携帯を取り、彼氏とおぼしき男性に連絡を取った。
「すぐ、行くって……」
「良かったわね」
 穏やかに応じ、エニーケは女性とおでこをくっつけ、接触テレパスで告げる。
「では、良い聖夜を」

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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