聖夜略奪~銀に輝く絆を守れ

作者:青葉桂都

●一人ファッションショー、開催中?
 クリスマスイブの日、彼女の部屋はずいぶんと散らかっていた。
「うーん、どれがいいかなあ」
 まだ若いが、学生ではないだろう。ここ数年で社会人なったくらいの年齢か。
 下着姿の女性は、とっかえひっかえ服をつかむと鏡の前で自分の体に合わせる。
「先輩と付き合ってから始めてのクリスマスなんだから、絶対一番綺麗な服にしなきゃ。……あ、また先輩って言っちゃった」
 どうやら彼女はデートに着ていく服を選んでいるようだ。ただ、まだ恋人になってからそれほど時間がたっていないらしい。
「私のほうも、『千鳥さん』じゃなくて『奈々子ちゃん』って呼んでもらうようにしたんだから、私もちゃんと名前で呼ばないと……でも、照れるなあ」
 服を選ぶのを忘れて、彼女はしばし恋人の顔を思い出しているようだ。
 彼女の両親も今日はデートなので、遅くなっても大丈夫らしい。色々な妄想が彼女の口からこぼれでる。
「……あ、もうこんな時間。急がなきゃ!」
 我に返った彼女が改めて服を手にしようとしたとき――事件が起こった。
 彼女の背後で魔空回廊が開く。
 現れたのは銀に輝くボディを持つ4体のダモクレスだった。
 腰から下が卵のように広がっている1体が、悲鳴を上げる間もなく彼女をその体内に取り込んでいた。
 残る3体は奈々子を取り込んだダモクレスを守るように展開する。
 スピーカーらしきものを広げた1体が卵のそばに控え、斧を持った1体が部屋の入り口付近に近づく。妙に巨大な腕を持つ最後の1体はその中間で構えを取った。
「ヤクメはワカッテいるな? ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印するタメにココを死守する」
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ!」
 ダモクレスたちは油断なく敵――現れるであろうケルベロスを待ち構えた。

●幸せなクリスマスを取り戻せ
 クリスマスの時期を狙ってダモクレスが事件を起こすと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は説明した。
「昨年ゴッドサンタが現れた事件について覚えてらっしゃる方もいるでしょう。クリスマスのこの事件を解決したおかげで、我々はグラディウスを獲得できました」
 魔空回廊を破壊できるこの武器のおかげで、この一年の間に多くのミッション地域が解放することができている。
「我々にとっては好都合な状況ですが、デウスエクス側もこの状況を見過ごしていいとは考えていなかったようです」
 動き出す敵は潜伏略奪部隊『輝ける誓約』だ。ダモクレスの軍勢はクリスマスの力を利用して、グラディウスを封じようと作戦をしかけてくるのだ。
「ダモクレスはクリスマスのデートを楽しみにしている女性の前に現れます。そして、儀式用に作られた『輝きの卵』に女性を閉じ込めてしまいます」
 そのまま卵はグラディウスを封じる儀式を始める。
 卵自体には戦闘能力がないため、周囲には3体のダモクレスが護衛につくようだ。
 護衛の攻撃を受けながら女性を助け出すのは非常に難しい。だが、3体を倒すことさえできれば、彼女を救出して『卵』を破壊することができる。
 それから、芹架は自分が予知した事件について説明を始めた。
 ダモクレスに襲われるのは、千鳥奈々子という20代前半の女性。職場の先輩でもある恋人とデートの予定らしい。
 現場は住宅地にある一戸建ての家。出かけるために身支度していたところを狙われている。
 実家暮らしのようだが、両親も出かけていて、事件発生時には彼女しか家にはいない。
 建物はヒールで直せるので、周囲のことは気にせずに戦えるだろう。
「敵は4体ですが、うち1体は戦闘能力がありません」
 輝きの卵というその1体はクリスマスの力を利用する儀式を行っている。クリスマスが終わった後、中にいる女性もろともに自爆することでグラディウスを封印する効果を得るらしい。
「被害者を救出せずに卵を撃破すると、一緒に死亡するので注意したほうがいいでしょう」
 護衛さえいなければ救出は容易だが、けして広くない屋内であることなどから、護衛を排除するまでは近づくこともままならないと考えていい。
「護衛は3体いて、それぞれ別の武器を装備しています。また、『輝ける誓約』はタイプごとに戦闘時の役割が決まっているようです」
 共通しているのは、多くのダモクレスと同様、レプリカントが使えるのと同等のグラビティを使用できることだ。
 前衛の『輝きの斧』はクラッシャーで、ルーンアックスと同等の技を使用する。
 腕が縛霊手と同じような武器となっている『輝きの腕』は中衛のキャスターだ。
 そして、後衛である『輝きの音』はメディックで、スピーカーから放つ音波でバイオレンスギターと同じような技を使用する。また、音の壁を作り出し、対象の防御力を高めつつ回復することができる。
 芹架は説明を終えた。
「グラディウスを危険視する敵の行動は、ミッションの破壊が有効であることを示しています。ここで、止められるわけにはいかないでしょう」
 それ以上に、愛する人との時間を楽しみにする女性を、見捨てるわけにはいかない。待っている相手のためにも。
 なお、事件に巻き込まれたことで、デートの準備が間に合わなくなるかもしれない。余裕があれば、手伝ってあげるのもいいだろう。


参加者
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
狗上・士浪(天狼・e01564)
タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ

●駆けつけた救いの手
 事件現場にケルベロスたちは急いでいた。
「そういや、ネットスラングであったっけ。リア充爆発しろ、っつーのが。……実践させちゃ洒落になんねーよなぁ」
 銀狼のウェアライダー、狗上・士浪(天狼・e01564)は口元をゆがめて笑った。
「クリスマスイブの大事な時に、何とも困ったダモクレスどもだ。キチンと退治して、彼女がしっかりとデートに行けるように助け出さねばな!」
 力強い表情でリーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)は言った。
 言った後、彼女は肩を落とす。
「しかし……デートする相手がいるのは良いなぁ」
 婚活ケルベロスの哀しい後ろ姿を見せた後、拳を握って気合を入れ直し、角を曲がる。
 何の変哲もない、どこにでもあるような一戸建ての家が見えた。
「狙いはグラディウス、か。これだけ各地で派手にやっていれば向こうも対策を打ち出して来るのは道理よね」
 両手で剣を抜き、ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)が息を吐く。
「グラディウスを封印されては困りますね」
 淡々と言ったのは、同じく二刀を構えた青年だ。
「私としては戦場を得られるのは悪い事ではありませんが、解放に力を注ぐ者がいるなら、協力する程度の分別はあります。私は戦闘狂と言う訳でもありませんから」
 西院・織櫻(櫻鬼・e18663)は淡々とした声で告げる。
「なんにしても、クリスマスを楽しみにしてる人を犠牲にさせるわけにはいかないのだぜ。確実にそのたくらみは潰さしてもらうのだぜ……!」
 緑色の髪をしたドラゴニアンの青年が敵のいる家をにらみつける。
「……いやけどクリスマスの力ってのは本当になんなんだ」
 やる気を見せつつも、疑問を捨てきれないタクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)だったが、残念ながら答えを持つ者は誰もいなかった。
「クリスマスの力……色々気になる所だけど今は目の前に集中しなければね」
 白い髪を短く切りそろえた小柄なエルフ……ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)の言葉に頷いて、ケルベロスたちは家に入る。
「そういえばゴッドサンタとやらは血のクリスマス事件の任務から帰ってきた時にはもう倒れていたのですがね、強かったんですか?」
 移動しながらどこかに連絡していたジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が仲間たちに問いかけた。
 ゴッドサンタ打倒までは、2時間かからなかった記録に残っている。
 印象の話をするならば、強敵だったと感じている者は少ないかもしれない。
 いや、1体で2時間もったのならかなり強かったはずなのだが。
 犠牲者の部屋に飛び込んだケルベロスたちは、卵状の胴体を持つダモクレスを3体のダモクレスが守っていることを確認した。
「クリスマスになると必ず出て来るんだな、お前ら。クリスマス……ダモクレス……なるほど、似てなくもない」
 冷静な声で告げたウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)へと、思わず数人の仲間が視線を向けた。
「いや、似てないか」
 仲間たちの視線に気づいた様子もなく、彼は愛用のバッケンリッカー社製エレキベースをかき鳴らした。
「クリスマスはイースターではないんですがね!! 4ヶ月早いですよ!」
 輝きの卵へ向かってジュリアスが避難の叫びを放つと、その声に応じるかのようにダモクレスたちが攻撃をしかけてきた。

●輝きの猛攻
 輝きの音が、そのスピーカーから耳障りな音を響かせた。
 もっとも、その音は攻撃のためのものではなく、ダモクレスたちにとっては性能をアップさせる効果を得られるものらしい。
 支援を得て、残り2体が攻撃をしかけてきた。輝きの斧が胸部から光線を放ち、輝きの腕から飛び出したポッドからミサイルがケルベロスたちに降り注ぐ。
 不用意に近づいてこず遠距離攻撃をしかけてきたのは、卵の周囲から離れないためか。敵を引き離したいと考えていた者もいたがそれは難しそうだ。
 光線で狙われたのはジュリアスだったが、ウルトレスが音もなくかばう。
「助かります、クレイドルキーパーさん」
「お気になさらず。……UCで構いませんよ」
 ジュリアスは彼に頷くと、掌を敵に向けた。
 まず狙うべき相手は後方にいる輝きの音。
「クリスマスもグラディウスも、アンタ達には渡さない。アタシが渡すのは引導よ」
 己が心を刃と一体化させたローザマリアの宣言が聞こえた。
 視界にドローンが入る。ウルトレスがグラビティで生み出したものだ。ジュリアスを含めた前衛を守ってくれているようだ。
 毛に覆われた掌に、ジュリアスは魔弾を生み出した。
「照準固定……発射!」
 一直線に飛んだそれは輝きの音へと命中する。
 生み出す魔弾には悪霊が籠っていた。悪霊は弾を介して敵へと取り付いて、回復を阻害する効果がある。
「ほいほい回復されても困るのでね」
 得手となる能力を削られた敵へ、他の仲間たちも攻撃を加えていった。
「回復は任せていい?」
「ああ! 後方支援、回復まっかせろー!」
 ヒメとリーファリナが言葉を交わした。その次の瞬間、ヒメは音もなく両手の斬霊刀を振り下ろしていた。衝撃波が輝きの音を切り裂く。
 リーファリナのほうは攻性植物に黄金の果実を宿させて仲間を守っている。
 無言のまま振るった織櫻の刀も同じく衝撃で敵を切り裂いたかと思うと、士浪のハンマーが砲撃形態に変化して竜砲弾で敵を打つ。
 タクティは他の仲間とは別の敵を狙っていた。
「さてミミック、互いに頑張って行きましょうか……!」
 サーヴァントであるミミックに声をかけてから、白銀のブーツにグラビティを込めた。雪のように輝く結晶がその表面に舞う。
 そのまま彼は室内で跳躍し、天井近くで長身を回転させた。
 結晶の輝きが、降下する軌跡を虹の美しさで彩る。
 輝きの斧を蹴り飛ばして注意を引きつけると、ミミックが偽物の財宝をばらまいてさらに惑わせていた。
 斧を振り上げて跳躍した敵が、タクティの頭部を狙って機械の刃を叩きつけてくる。
 光り輝く斧をハンマーガントレットで受け止めようとしたが、ダモクレスの刃はそれを避けて肩口に食い込む。
 血を流しながらも、タクティは笑って見せた。
「痛いんだぜ。だから……その斧、叩き割らせてもらうんだぜ!」
 機械の斧にオーラを注いで結晶化させる。痛みをこらえて、拳を握った。
 思い切り殴りつけると、斧にいくらかのひびが入った。
 浅くない傷をつけられても、タクティは勝利を疑ってはいない。
 強力な攻撃をしのぎ、さらに武器を破損させている間に、他のケルベロスたちは輝きの音への攻撃を集中している。
「サイレンナイッ フィーバァァァァッ――!!!」
 ウルトレスの支援も受けて、皆の攻撃はダモクレスを削り取っていく。
 それでも、いかにタクティが守りを固めていたとしても、輝きの斧の攻撃を耐えきるのは難しかっただろう。
 リーファリナは普段のアクロバティックな戦い方を封印し、回復に集中していた。
 輝きの音は自身の回復に注力し、攻撃してくるのは斧と腕の2体。それでも彼女が攻撃に回る余裕などない。
 しかし、リーファリナはくじけない。
 卵の中にいる女性をデートに行かせるために、諦めるわけにはいかない。それに……。
「後方支援だってこなしてみせる。つまりはなかなかに細やかなレディ、ということだとは思わないか?」
「そうだな。助かってるんだぜ」
 ドヤ顔を見せた彼女に、タクティがまた光線をくらいながら言う。
 虹色の蹴りで挑発するタクティに、斧だけでなく腕も攻撃を集中し始めていた。ウルトレスやミミックは彼をかばっていたが、すべてかばえるわけではない。
 急加速した輝きの腕が、ウルトレスのカバーも間に合わずに彼の体を打つ。
「ヒメ、悪いけど回復を手伝ってくれ。私だけでは回復しきれない!」
「わかったわ。任せておいて」
 魔法の木の葉がタクティを取り巻いた。
 その中へ桃色の霧が染み込むように注がれていく。
 戦線を維持しつつ、ケルベロスたちはダモクレスたちを削っていった。

●輝きを打ち消せ
 タクティも危険な状態に陥っていたが、輝きの音はそれ以上に破損していた。
「なかなか倒れないな。だが、だからこそ刃を磨けるというものだ」
 織櫻の放つ影の弾丸が敵を敵を侵食する。
 それでも、音の防壁で守りを固めて攻撃をしのいで、時間を稼ごうとしている。
 士浪は利き足に氣を収束し、脚を振り上げる。
「させねぇよ。……奔れっ!!」
 ローザマリアが刃から時空を凍結する弾丸を放ったのに合わせて、彼は思い切り踵を床へと叩きつけ、踏み抜く。
 凍り付いた敵へと衝撃が襲いかかり、防壁が砕け散る。
「守りは大事だけどな、守ってるだけじゃいずれ破られるんだぜ」
 赤い瞳の鋭い眼光を敵に向ける。
 タッピングに合わせて放つウルトレスの光線と、ジュリアスのアームドフォートが吐き出した砲撃が相次いで着弾し、防壁に続いて輝きの音自身が砕けていた。
「1体目! ここから崩していきますよ!」
 ジュリアスが叫んだ。
 仲間が倒れても、心を持たないダモクレスたちは動揺を見せない。
 輝きの斧が、高々と跳躍した。
 ウルトレスはギターを爪弾きながら、狙われたタクティの前に飛び出す。
「悪いな。今日はみんなに助けられてばかりなんだぜ」
「ハーロットさんが攻撃を引き受けてくれて、自分たちも助かっていますよ」
 表情は変わらなかったが、感謝の気持ちは伝わったようだった。
 リーファリナが彼を回復している間に、愛用のギターを叫ばせてウルトレスは自分自身を鼓舞した。
 音の次にケルベロスたちが狙ったのは輝きの斧。敵もケルベロスたちの数を減らそうと攻撃してくるが、タクティやウルトレスがそれを許さない。
「クリスマスにデートとは羨ましいな。そんな幸せな女性を、邪魔させはしないぞ」
 リーファリナも気合を入れて回復を続けている。
 ローザマリアは、見る間にボロボロになった斧へと一気に接近した。
 FragarachとAnswererの、2本を振るう腕が加速する。
 重力の鎖から解き放たれた速度で繰り出す不可視の超高速斬撃は、劔そのもので敵を切り裂き、さらに真空波で切り刻む。
「Do widzenia――聖夜にデウスエクスの存在は、あまりに無粋というもの。無辜の者達の細やかな幸せを、壊させはしないわ」
 ポーランド語で『さよなら』を意味する言葉と共に、斧が無数の残骸に変わった。
「2体目! 後はただの時間稼ぎ要員ですね!」
 格上の敵が回避を重視して動けば、攻撃が確実に当たるとは言い難い。しかし、ジュリアスの言葉通り、時間稼ぎ以上のものにはならなかった。
 輝きの腕が重力衝撃波を生み出して、前衛のケルベロスたちに炸裂させる。
 ケルベロスたちの攻撃を鈍らせようとしているのだ。
 ヒメはすぐさま、普段は深く抑えている魔力を少しだけ漏れさせた。
「大丈夫よ、その痛みは繕える――」
 中衛にいるヒメは、グラビティを効果的に使いやすい位置にいる。敵の効果を打ち消すだけなら、回復役以上にもなりえるのだ。
「申し訳ないけれど、ボクたちは時間を稼がせるつもりもないの」
 輝く翠風となって届いた魔力は、前衛の仲間たちを重圧から解放する。
 攻撃をいくらかかわされようとも、全てではない以上確実に敵は弱っていく。
 多少時間はかかりはしたものの、回復役のリーファリナさえ攻撃に参加できるほど余裕ができていた。
 ウルトレスのガトリングが銃声を響かせる中、ジュリアスやヒメ、ローザマリアの斬撃や、士浪の起こす炎、タクティの爪に続いてリーファリナが異界魔法を詠唱する。
「全てを打ち砕く界の怒りよ。力の猛り、轟きをもって我が敵を討ち滅ぼさん」
 魔術円から飛び出した砲門より異界の炎が敵を焼く。
 織櫻は瑠璃丸と櫻鬼、二刀の斬霊刀に螺旋の力を乗せた。
「我が刃の前に如何なる守りも無意味と知れ」
 敵は早い。確実に当てられるとは言い難いが……ならばこそ、彼の刃の糧となる。
 飛びのいて回避しようとする敵の足を踏みつけて、強烈な斬撃が輝くの腕を切り裂く。
 裂けた装甲から部品を飛び散らせながら、ダモクレスは倒れていた。

●楽しいデートに
 千鳥奈々子という名の女性を助けて、輝きの卵を破壊するのは聞いていた通り難しいことではなかった。
「さて、無事に片付い……」
 タクティが発しようとした言葉は、女性が視界に入ったところで止まった。
「す、すまないんだぜ」
 彼女が下着姿であることに気づいたのだ。
 ローザマリアが素早くブランケットを彼女にかぶせた。
「野郎共はここまで。彼女を最高の美人に仕上げて下さい」
 ウルトレスが仲間たちに告げる。
「ああ。建物のヒールは、出かけた後でもできるからな」
「お手伝いできず申し訳ありません」
「嫁入り前の女性の部屋に長々と居るわけにもいきませんね。後のことは任せましたよ」
 士浪や織櫻、ジュリアスが言い、男性陣はそのまま出ていく。
「呼んでおいたタクシーがしばらくしたら来ますから、よければ使ってください」
 扉の外からジュリアスが声をかけた。
 部屋の中には4人の女性が残っていた。
 ローザマリアが、とりあえず手近にあった服を着せている。
「服を選んでたのよね? 時間がないから……よかったらボクも手伝うよ」
「ああ。私も、服の見立てぐらいならできるさ。……たぶん」
 少し遠慮がちにヒメやリーファリナが申し出ると、奈々子は表情を明るくした。
「すみません……でも、ケルベロスの皆さんに手伝ってもらえるなら光栄です」
 頭を下げる彼女に、散らばっている服を合わせていく。
「相手の好みを考えるのも大事だと思うけど、どうしても相手のすべては判らないし。一番見て貰いたい自分、と言うのを考えるのも良いかもしれないわね」
 押しつけがましくならないように気を付けながらも、ヒメが言う。
 時間は決して十分ではない。タクシーの時間も迫っている。
 それでも、限られた時間の中で、一番聖夜にふさわしいと思われる服装を、4人の女性は選び出していた。
「さぁ、デートを楽しんでくるといい。きっとこの後は素敵な一日だ」
 リーファリナが彼女の背中を押す。
「はい、ありがとうございます!」
 部屋から出ていく彼女を、男性陣が注目する。
 視線の中、奈々子は自信をもって駆けて行った。
「片づけが終わったら適当にケーキでも食って帰りましょう。待ってる方がいるのならお誘いしませんが」
「私は遠慮しましょう。相方に肉とケーキを買って帰るつもりですので」
 ジュリアスの提案に織櫻が答える。
 その間に、到着したタクシーに奈々子は乗り込んでいった。
「善き聖夜を」
 声をかけたローザマリアに、彼女は頭を深く下げる。
 彼女にも自分たちにも、良い聖夜が訪れることを、皆は願った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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