聖夜略奪~グラディウス封印作戦を阻止せよ

作者:砂浦俊一


「まだ早いかな。うーん……待ち合わせに遅れるよりは良いかな!」
 腕時計で時刻を確認していた女性は、玄関でブーツを履いてしまう。
 今日はクリスマス、遠距離恋愛中の彼氏とデートの予定を入れている。
 離れている間はメールや電話、SNSでやりとりをしているが、やはり恋人とはじかに会いたい。洋画ファンの彼と一緒に映画を観て、その後は――と彼女はこの日が来るのをずっと楽しみにしていた。
 だが彼女がマンションの1階フロアの自動ドアを出た瞬間、突如として魔空回廊が開き、機械型天使の姿をした4体のダモクレスが出現する。
「メリークリスマス!」
 そのうちの1体が声を発した直後、女性はその内部へと捕らわれてしまう。
「捕獲成功。我ラの使命は、クリスマス終了マデ、コノ場を守護スル事ナリ」
「さすればゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスの封印も可能」
「コノ女から聖夜ノ力を絞り取り、絶望へと変換スルのだ」
 残る3体の眼が妖しく輝く。
 ここに、聖夜を血で染めるダモクレスたちの新たな作戦が開始された。


「皆さん、昨年のゴッドサンタの事件を覚えていますか?」
 シャドウエルフのヘリオライダー、セリカ・リュミエールが話を切り出した。
「ゴッドサンタ事件を解決した事で、私たちはグラディウスを得て、ミッション破壊作戦により去年だけでも多くのミッション地域を解放しました。これに対抗するため、ダモクレスの潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、グラディウスを封じる作戦を仕掛けてきたのです」
 セリカの話では、敵はクリスマスデートを楽しみにする女性を儀式用の特殊なダモクレス『輝きの卵』に閉じ込め、グラディウスのチャージ機能を誘爆させる儀式を行うという。
『輝きの卵』は戦闘力を持たないが、周囲に3体のダモクレスが護衛につき、ケルベロスの襲撃に備えている。女性が捕らわれたまま『輝きの卵』を倒せば、中の女性も一緒に死んでしまう。しかし3体の護衛さえ倒せば、女性の救出も『輝きの卵』の撃破も可能になる。まず狙うは護衛の撃破だ。
「敵はワンルームマンションの正面に陣取っています。マンションの正面は駐車場ですので戦闘には充分な広さがあります。敵はクリスマスが終わるまでその場から動きませんが、マンションの住人が戦闘に巻きこまれぬよう裏口から退避させる必要はあると思います。護衛のダモクレスですが、スパイラルアームに似た技を使う『輝きの城』と、チェーンソー剣を持つ『輝きの盾』が前衛のディフェンダーです。『輝きの杖』が後衛、こちらはスナイパーでバスターライフルが武器です」
 前衛がガードを固め、後衛が遠距離攻撃で狙い撃つ。それが敵の戦法だろう。
 敵の防御態勢をどう破るか、ケルベロスたちは思案する。
「儀式が終了すると『輝きの卵』は自爆、そのエネルギーの全てをグラディウスのチャージ機能の誘爆に用います。もちろん捕らわれた女性も死んでしまいます。ダモクレスたちの作戦を打破し、恋人たちのデートのためにも、皆さんどうかよろしくお願いします」
 恋人たちの邪魔をする野暮なダモクレスは、速やかにご退場いただこう。その決意を胸に、ケルベロスたちは出発する。


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
カロリナ・スター(テイクオーバー・e16815)
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)

■リプレイ


「んー、注連縄みたいなものですよね。違います?」
 現場周辺にキープアウトテープを張り巡らす鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)は、小首を傾げた。
 敵は駐車場に陣取ったまま動かないが、周囲に睨みを効かせている。ケルベロスたちも物陰からこれを確認していた。『輝きの卵』に近づく者がいない限り、敵も周囲を警戒するのみか。しかしマンションの住人がいつ外出するかも知れず、囚われた女性のデートの時間もある。時間の余裕はない。
 仲間から借りた拡声器を手に、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)がまず動いた。
「さて、人の恋路を邪魔する無粋な輩はケルベロスが蹴散らしてくれよう」
 駐車場に現れた恭平の姿に、ダモクレスたちの視線が集中した。彼は拡声器のスイッチを入れ、マンションへと警告を発する。
「マンションにお住まいの皆さんお騒がします、ケルベロスです。現在、駐車場に複数のダモクレスが出現中です。我々ケルベロスの指示に従い、即刻マンション裏口より避難してください。繰り返します。現在、駐車場に複数のダモクレスが――」
 拡声器からの声に、マンションの住人たちは蜂の巣を突いたような騒ぎで裏口に殺到した。
「皆さん慌てないで! 正面入り口には近づかず、こちらから避難をお願いします!」
「君たち、手伝ってくれないか。この先の公園が避難先だ、住人の誘導を頼みたい……そうか。協力、感謝する。ダモクレスはこちらで必ず片づけよう」
 裏口で待機していた霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)は凛とした風を用い、宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)はアルティメットモードを用いて体格の良い男性たちに誘導を依頼する。
 解放された裏口から、着の身着のままで住人たちが封鎖の外へ逃げていく。それと入れ違いに、バスターライフルを担いだ橘花が階段を駆け上がっていった。
 マンション上層部は翼飛行のできる椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)が担当する。
「ケルベロスでござんし。この階の住人に避難を呼びかけてほしいでありんす。病人やケガ人は私が運ぶので、いたら教えてくりゃしゃんせ」
 そしてまたひとつ上の階へと彼は舞い上がる。
 マンション住人の避難は着々と進んでいくが、敵はそちらには興味を示さない。機械仕掛けの目に映るのは、武器を構えて、じりじりと距離を詰める敵警戒班のケルベロスたちのみ。やはり卵の護衛こそ最優先か。
「やっつけられる覚悟は出来てるかな? みんなのクリスマス、サナたちが守るんだから!」
「攻撃してこないなら、こっちからやっちゃうよ?」
 盾役を務める卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)とカロリナ・スター(テイクオーバー・e16815)は敵を挑発しつつ、さらに一歩、距離を詰める。
 攻撃は避難誘導班の合流を待つか、それとも威嚇狙いで仕掛けるか――その判断に迷った直後、ダモクレスたちの目が真っ赤に輝いた。
「我ガ名ハ『輝きの城』! 何人も卵ニハ近づけヌ!」
 腕部装甲がスライドし、ナックルのように両手を覆う。まるで巨大な削岩機だ。
「我コソ『輝きの盾』! コマンダー・レジーナの忠実ナル配下!」
 武器であるチェーンソー剣は幅広、長大、肉厚。構えれば盾のように体の大半を覆い隠す。
「私ハ『輝きの杖』。クリスマスを破壊スル絶望の天使!」
 手にした杖が腕部に接続される。背中からの動力パイプも繋がり、エネルギーがチャージされていく。
「名乗りも堂々としたものですね。いいでしょう。この戦線……支えてみせますよっ」
 前衛へと鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)がエレキブーストをかけ――戦いの幕が上がる。


「頭の上がお留守ざんしね」
 避難誘導を終えて翼飛行でマンションを飛び越えた笙月が、上空から『輝きの盾』に仕掛けた。
「上か!」
 振られたチェーンソー剣と螺旋掌がぶつかり合い、そのまま彼は前衛に加わる。
「人質を取るなんて卑怯な事して……怒ってるんだからね!」
 狙うは各個撃破。『輝きの盾』へとサナはファナティックレインボウを放ち、怒りの付与を狙う。ユーリと双牙もマンションの表口から駆け出してきた。これで敵を挟撃できる。
「野生パワー全開! わに! わに!」
 ユーリが両手をワニの口のようにパクパクさせる。具現化された巨大ワニから味方へと野生パワーが注入、肉体の耐性が強化される。
「……己が身以外を頼みにするのは趣味ではないが。巻きで行かせて貰う」
 卵に攻撃の余波がいかぬよう注意しつつ、双牙がドラゴニックハンマーで『輝きの盾』を背後から強襲。しかし『輝きの城』がガードに入り、分厚い装甲でハンマーを受け止めた。硬い金属音が響き渡る。
「盾、城、前衛を務メヨ! 私が援護スル!」
 敵の中では『輝きの杖』は格上か。下された指示の通り陣形が組まれ、『輝きの盾』が持つチェーンソー剣の刃が始動する。
「細切れダ!」
 迫るチェーンソー剣を後方宙返りで避けたカロリナは、着地と同時に敵の脚部を狙って時空凍結弾を撃つ。
「今だよ、撃って!」
 彼女の合図にスナイパー役が動いた。
「砕けろ」
「準備万端ですよー」
 恭平のサイコフォース、次いでマンション上層階へ潜む橘花のバスターライフルによる狙撃。
 立て続けの被弾に『輝きの盾』が地面に片膝をついた。一気に撃破したいが、敵はなおもチェーンソー剣を叩きつけてくる。さらに『輝きの城』が立ちはだかる。両の拳を振り回してケルベロスたちを押し返す。
「コソコソ隠れたドブネズミめ!」
 狙撃地点へと『輝きの杖』が砲撃を開始した。バスタービームがマンションに巨大な風穴を開けるが、橘花は既に別のポイントへ移動している。
 しかし敵の砲撃は脅威だ。直撃は避けたい。


『輝きの盾』と『輝きの城』は互いの死角を庇うように動く。両者の攻撃を回避しても、チェーンソ―剣の獰猛な刃が駐車場の車両を寸断し、巨大な削岩機のような拳が地面に巨大な穴を穿つ。
「邪魔しないでよっ」
『輝きの盾』を庇う『輝きの城』めがけ、カロリナのドラゴニックミラージュ。『輝きの城』は腕を振って炎を消そうとする。この炎に紛れ、笙月が一気に敵の懐へ飛び込む。
「昏く螺威来万象なる聖櫃に封じられし汝が力我が姿よ、その片鱗の欠片を我が手に示せ」
 龍檄双鎌。龍を模した胴に、大鎌と檄の刃がついたそれが『輝きの盾』の胴に突き立った。動力炉を貫かれた『輝きの盾』は目を明滅させた後、沈黙。
「まずは1体、続いて必殺! 鬼天竺鼠キック! でいやー!」
「お姉さん、ケルベロスが助けに来たよ! すぐに出してあげるから、お化粧直しながら待っててね?」
 跳躍したユーリが『輝きの城』めがけ飛び蹴り、サナは卵の中の女性に声をかけつつ城へと斬りかかる。
「潰レロ!」
 ダメージにも怯まず『輝きの城』が攻勢に出る。巨大な拳の一撃は重く痛烈、掠めただけでも全身に痺れる衝撃が走る。
「傷は洗い流してしまいましょう」
 仲間の負傷は奏過が即座にメディカルレインで癒やす。その眼鏡の向こうの瞳が卵に囚われた女性に向けられる。半透明の卵の殻の向こうで、瞳を閉じている彼女の顔は苦しげに歪んでいる。まるで悪夢を見ているかのように。
「はーい、そっちへ行ってはダメですよー」
 次なる狙撃ポイントからスコープ越しに敵へと呟き、橘花がトリガーを引く。彼女の精確な狙撃に、『輝きの城』の頭部が激しく揺れた。
「クッ……杖ヨ、何をしてイル!」
「こちらもヤッテイル!」
『輝きの杖』が狙撃地点へと砲撃を繰り返し、その度に建物に風穴が開いた。落下してくる瓦礫が『輝きの卵』へ落ちてこないか、ケルベロスたちは気が気でない。
「削岩機には削岩機だ。旋風の如く疾く鋭く、重ねる刃、巨岩を削り、穿ち貫く――」
「力比べか。面白イッ」
「スクリュー・パルバライザー……!」
 両手を地獄化、さらに全身を回転させて突撃した双牙と、『輝きの城』の左腕の拳が激突する。押し切ったのは双牙の手刀。『輝きの城』の左腕から肩までが破壊され、内部構造が無数の火花を散らす。それを奏過の眼は見逃さない。
「新城さん、あそこですっ」
「任せろっ。撃ち貫くは黒曜の連針!」
 電撃とともに一点集中で投射される無数の黒曜石の針。それは火花を散らす箇所に突き刺さり爆発、さらに内部で誘爆を引き起こす。『輝きの城』の装甲が内側から泡のように膨れ上がっていき、ついには爆発四散した。
「盾だけでナク城までモ!」
 怒れる『輝きの杖』が、駐車場内へとバスターライフルを掃射する。


 横薙ぎのバスターエネルギーの光条がケルベロスたちに襲いかかる。
「たいした威力ですね。一気に回復させますっ」
 グラビティが奏過の手に赤光のメスを顕現させる。傷つける行為を癒やす行為へと反転させるそれが味方を回復させていく。
 もはや敵戦力は1体、これを排除すれば女性を救出できる――ケルベロスたちは最後の猛攻を仕掛ける。
「もう瓦礫は落とされたくないですね。卵に当たったらヤバイです。飛べ、鴉たち」
 ここまで砲撃は避けていたが、全身が粉塵まみれの橘花は仲間の支援に回る。
 生成された鴉の模倣体たちが一斉に敵へまとわりつき、嘴や脚で襲いかかった。
「ドコから湧いて出タ!」
 鴉を追い払いながらも『輝きの杖』はバスターライフルに次弾をチャージ、砲撃態勢を取ろうとする。
「徹底的に動きを止めます! でも卵は狙わない、当たらないように……っと」
 ユーリのアームドフォートからの弾幕に援護され、笙月と双牙が突撃する。
「懐に入れば」
「此方のもの、ざんし」
 両者に至近距離からドラゴニックハンマーをぶつけられ、衝撃に『輝きの杖』は数歩後退する。全身の損傷は大きく、バスターライフルの砲身と動力パイプも損壊、もはや再チャージも不能だ。
「撃ててアト一発……? ナラバこれで斃スッ」
 砲身を融解させながらも砲口から光条が放たれた。
「障りを退ける壁となれ」
 しかし、それは恭平のライトニングウォールによって阻まれる。
 そしてサナの愛刀が『輝きの杖』の胸部を斬り払った。敵から力を奪う朔月の太刀、『輝きの杖』の全機能が停止する。
「今だよ、お姉さんを!」
 護衛は全て排除した、後は女性を救出するのみ。サナの脇をカロリナが駆け抜ける。
「主よ、ボクらの罪をお許しください。ボクらも彼らを許します。ボクらを誘惑に陥らせず悪からお救い下さい。アーメン」
 十字を切った後、彼女が具現化させた剣は半透明の卵の殻を裂いた。
『輝きの卵』は絶叫を上げ――割れた卵の中から女性が滑り落ちてくる。

「……う、うう」
 救助された女性が目を覚ます。その顔を、ユーリが覗き込んだ。
「お怪我はありませんか? 巻き込まないように気をつけましたけど」
「え、あ、あの私……おかしなロボットに襲われたような……あれは夢?」
 周囲を見回す彼女は、ボロボロになったマンションや駐車場に唖然としてしまう。
「そう、夢です。悪い夢。でも悪夢はもう終わりました」
 微笑む奏過はそう言い、懐から取り出したスキットルの蓋を開ける。乱れた彼女の身だしなみも、目覚める前に女性陣によって直されている。メイクもばっちりだ。
「とんだ災難だったな。もう大丈夫だ。ここのことは任せて、安心して出かけるといい」
「それじゃあ恋人さんと良い夜を、ね! メリークリスマス♪」
 恭平とサナに言われ、彼女は腕時計で時間を確認する。
「そうだ待ち合わせの時間……ええっ、もうこんな時間なのっ」
「ささっと行きなんし。あんたのいいひとの所へ……多少待たせた所で問題ない」
「すみません、あ、あのっ、本当にありがとうございましたっ」
 笙月から促された女性は礼を述べると、急いで恋人との待ち合わせ場所へと向かう。そんな彼女を双牙が敬礼にて見送る。
「……健闘を祈る」
 彼の背後ではヒールによるマンションや駐車場の修復が始まっていた。特に穴だらけにされたマンションの被害は著しい。
「派手に壊されたなー。ヒールが終わんないとボクたちのクリスマスも来ないかあ」
「クリスマスと言えば。何故か家にこんなものがあったので、持ってきてたんですよね」
 ぼやくカロリナへと、橘花がホールケーキの予約伝票を見せた。
「皆さんでご一緒にどうです?」
 彼女の言葉にカロリナの顔もぱっと明るくなる。
 メリークリスマス。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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