ミッション破壊作戦~希望の鐘を打ち鳴らせ

作者:秋月きり

「今朝方、グラディウスが力を取り戻したわ」
 12月某日。ヘリポートにて、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)はケルベロス達にそう告げる。
 すぅっと大きく息を吸った彼女はゆるりと文言を口にした。それは、何処か、宣誓にも似ていた。
「故に、ここにミッション破壊作戦の開始を宣言します」
 8本のグラディウスを用いた強襲型魔空回廊の破壊作戦。それを告げる言葉は、厳かな空気の下、静かに響いた。
「さて。繰り返しになるかもだけど、知らない人の為に改めて説明するわね」
 コホンと空咳をしたリーシャは、自身の前に並べた光剣を指さす。
「みんなの前にあるの兵器の名はグラディウス。デウスエクス達が地上侵攻に用いている『強襲型魔空回廊』の破壊を可能とする力を持っているわ」
 グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再使用が可能になるまで、かなりの時間を要する。力を取り戻したと言う事は、その充電期間の終わりを意味していた。
「さて、今回、みんなにはドラゴンの侵略地域を担当して貰うわ」
 それ以上はケルベロス達が立案する作戦に任せる為、現在の状況などを踏まえ、皆で話し合って欲しいと告げる。
「作戦の概要は今までと同じ。『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』よ」
 強襲型魔空回廊へ通常の手段で辿り着く事は困難。合わせて、グラディウスを強奪される危険性が無い訳でも無い。その為、攻撃する手段は限られていた。
「強襲型魔空回廊は半径30m程度のドーム型バリアで覆われていて、それにグラディウスが触れさえすれば魔空回廊への攻撃は可能なの」
 やり口は大雑把だが、結果については今までの結果によるお墨付き、と言う訳だ。
「さて、このグラディウスの使用方法だけど、知っている人は知っているわね。そう、みんなの力――それも、強い想いの力が必要なの」
 8人のケルベロス達がグラビティを極限まで高め、グラディウスを使用する事で、この兵器は最大限の力を発揮する。各々の強い想いが積み重ったグラディウスの攻撃を集中すれば、強襲型魔空回廊を一度で破壊する事も不可能ではないとの事だった。
 また、一度のミッション破壊作戦で破壊に至らずとも、ダメージは蓄積する為、数度、少なくとも十回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊の破壊は可能と推測されている。現に、ミッション作戦を繰り返す事で、破壊に至った魔空回廊もあるのだ。
「だから、みんなには自身の熱い想いをグラディウスに込めて、魔空回廊にぶつけて欲しいの」
 想いは様々な物があるだろう。守りたい想い。取り戻したい想い。倒したい想い。そして、願い。様々な強き想いは必ず、ケルベロス達の力になる。それを叫んで叩き付けて欲しい、との事だった。
「それと、叫びも大事だけど、護衛部隊には気を付けてね」
 ミッション地域の中枢である魔空回廊の護衛の能力は、精鋭とまで呼べる程強力だ。故に、魔空回廊攻撃の後は速やかな撤退が必須である。
 幸い、グラディウスを用いた攻撃によって生じた雷光と爆炎がケルベロス達を覆い隠してくれる。一度の戦闘は避けられないが、速やかな撃破を行えば、それに紛れて逃亡する事が可能だ。
「逆を言うと、雷光と爆炎、そしてそれが発生させる煙等が晴れるまでが制限時間となるわ。ミッション地域が敵地である事は忘れず、短期決戦で突破して欲しい」
 強襲に混乱した敵が連携する事はまず無いが、混乱から立ち直ってしまえば話は別だ。時間との戦いになる事も忘れないで欲しいと告げる。
「ともあれ、選択するミッション地域ごとに出現する敵の特色があるわ。攻撃する場所を選ぶ参考にしてね」
 また、先の説明通り、グラディウスは充電期間が完了すれば再使用が可能。その為、持って帰る事も任務の内なのだ。命の危機はその限りではないが、次に繋げる為にはその事を忘れないで欲しい、との事だった。
「デウスエクスによる侵攻は今も続いているわ。でも、ミッション破壊作戦はその侵攻を止める手立てとなる。その為、みんなの熱い想い――言ってみれば、みんなの『魂の咆哮』を叩き付けて欲しいの」
 そして、続く言葉はむしろ、祈りだった。
「降下攻撃後は、無事に撤退するのが重要よ。敵は混乱状態だけど、強敵ほど混乱状態から抜け出すのは早いわ。それは忘れないで欲しい」
 そこまでを告げた彼女はやがていつものようにケルベロス達を送り出す。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
ノル・キサラギ(銀架・e01639)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
一之瀬・白(八極龍拳・e31651)

■リプレイ

●希望の鐘を打ち鳴らせ
 びゅうびゅうと。びゅうびゅうと。
 豊後水道遥か上空の風は冷たく、暴力的な迄の強風が頬を撫でつける。
 海底を覗かせる海を降下ハッチから見下ろしながら、ほぅっと感慨深げに溜め息を吐くのは、旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)だった。
 今から二か月前。神無月の頃。自身はここでミッション破壊作戦に携わり、そして暴走を選択した。あれから経過した月日でデウスエクスは勢力を拡大し、そしてケルベロス達もまた、力をつけていった。
 今度こそは、と言う思いがある。あの時の二の舞は御免だ、と言う思いもある。
「そろそろ時間だ」
 時を告げるレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)の声も同じく苦々しく聞こえるのは、自身と同じ気持ちだからなのだろうか。
 二か月前の戦いで共に戦い、再度ここに集った。その事に不思議な縁故すら感じてしまう。
 もう一人、二か月前に共に戦った卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)はコイントスを行い、未来を占っていた。その表情が渋面なのは、結果が思わしく無かったように感じられた。
「行こう!」
 暗く沈んでいきそうな空気を、フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)の明るい声が吹き飛ばす。彼女に従うサーヴァント、ミミックのスームカは言葉を発さず、しかし、気持ちは主と同じだと言いたいのか、身じろぎして自己の存在を主張していた。
 斯くして、8人と3つの影がヘリオンから飛び降りる。
 彼らが手に抱くのは光剣グラディウス。強襲型魔空回廊の破壊を可能とする、対侵略者用の拠点攻略兵器だった。

「暴食、大いに結構じゃが、そろそろ代金を支払って貰わねばのう!」
 眼下に広がる地獄にドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)がざらりとした笑みを浮かべる。
 暴食餓竜が飢えを満たす為に暴食を繰り広げるのならば、自身は戦場への飢えを満たす為、戦い続ける。どちらの飢餓の方が上か、白黒つけてやると吠えた。
「今回こそ壊させて貰う。大地の嘆きを知るが良い」
 レーグルの叫びは静かに紡がれた。前回における自身らの作戦を含め、この地にて決行されたミッション破壊作戦は2度。そして3度目の刃が今、突き立てられようとしている。込められた思いを知れと、ドラゴンに叫ぶ。
「第二ラウンドの始まりだ。海峡奪還、オレらの命とてめーらの命、海峡を賭けて切った張ったの再開だ! やってやるさ、存分に!」
 泰孝もまた、2度目となった戦いについての想いを紡ぐ。前回、一人の暴走者を出しての撤退に至った。今回はそれを許すつもりは無いとの叫びは、彼の魂から発せられる。
(「私の唯一倒すべきドラゴンは、街一つを焼き尽くした。そして、お前たちは……」)
 食い荒らされた海に対して、フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)がぶつけるのは悲哀だった。干上がった海。食い荒らされた魚を始めとした海洋生物たち。そして、岩々が並ぶ海底の大地すらも食い荒らされている。話には聞いていたが、それを目の当たりにすれば、沸き上がって来るのは言いようの無い怒りだ。
「これ以上の暴挙は許さん! お前達の貪欲にまみれたその牙を今ここで砕いてやる! 覚悟せよ!!」
 人間の大地、そして海を取り戻す為に自分達は来た。ならば、その意志を押し通すのみ。
「行こう、絶対に勝つのじゃ!」
 被害の甚大さに嘆くのは一之瀬・白(八極龍拳・e31651)も同じだった。此処に集う暴食餓竜の群れは強大で凶悪。だが、それでもと、白は信じる。
 ここに集った皆の力を合わせれば、必ず美しい海を取り戻す事が出来る、と。
(「そう、余は信じている」)
 ならば、それを成すだけだ。
「守りたいものが、この一年、沢山、沢山出来た」
 ノル・キサラギ(銀架・e01639)の抱く想いはとても温かい気持ちだった。兵器として生を受けた我が身。だが、今の自身は兵器ではなく、人だと断ずる事が出来る。
 全て、それを気付かせてくれた人々のお陰だ。
「仲間も、友達も、戦う力を持たない人も。だから俺は、この命と魂に誓う。――この世界全部、俺が守り抜くと!」
 純粋な、それでいて傲慢な彼の願いは、過去に彼が取り零した嘆きから発せられた。もう二度と取り零さない。この手はその為にあると強く誓う。
「戦いによる快楽こそ私の求めるモノ。幾度でもこの炎の華、咲かせてみせます……!」
 1度が駄目なら2度。2度が駄目なら幾度でも。戦いを快楽と位置付ける竜華は自身の決意をグラディウスに込める。魔空回廊を穿ち、魔空回廊を破壊する。一度は失敗した。だが、それが諦観の理由にならないと叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
「強さは己の為のみならず、弱き人々を守る為なの! 貴方の様な独り善がりの暴力は強さと言わない! 私たちの強さで、貴方達を完膚なきまでに打ち倒すの!!」
 それが祖父の教えだと、フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)は叫ぶ。侵略者の強さはただの暴力だ。強さじゃない。誰かを守る強さこそが本当の強さだと、絶叫する。
 輝く光は8つ。8人が携えた光剣は眩いばかりに輝き、破邪の光と化す。
「行けえぇぇっ!」
 誰かの叫び、或いは皆の叫びか。8条の光は叫びに導かれる様に矢と化し、魔空回廊を貫く。轟音と爆炎を纏った破壊の力が強襲し、破壊の嵐を魔空回廊に振り撒く。
 轟く劫炎は反撃の狼煙だった。炎と雷の蹂躙を以って魔空回廊の破壊に至る。

 だが。
「魔空回廊、健在、か」
 大地と化した海底に降り立ったフィストは口惜し気に呟く。
 黒煙の間に見えた魔空回廊は未だ健在。8人の魂からの叫びはしかし、魔空回廊の破壊にまで至らなかったようだ。
「さて。奴さんも来たぞ」
 ドルフィンの声は喜色を伴って発せられた。戦闘への飢えは彼の個体を以って満たせるか。それは彼にしか判らない。
 爆音に負けじと暴食餓竜の咆哮が響く。怒りと憎悪に染まった瞳がギラギラと輝き、ケルベロス達を見下ろしていた。

●暴食餓竜、猛る
 がちりと牙が閉じられる。無数の刃の如き一撃を光の盾で受け止めたレーグルはむぅと唸る。
 重く鋭い。矮小な人の身に余る膂力は、対峙する暴食餓竜がまさしく、破壊に特化した恩恵を受けている事を意味していた。
「クラッシャーか!」
「攻撃特化――ならば、押し切れる! ――コードXF-10、魔術拡張。転換完了、ターゲットロック」
 詠唱と共にノルの銀色、そして赤色のナイフが煌く。宿る電光は神を貫く神槍と化しノルの両手でバチバチと音を立て、爆ぜて行った。
「天雷を纏え! 雷弾結界!」
 その脳裏に浮かぶのは、今まで交わって来た人々の表情だった。救えたもの、救えなかったもの、救ってくれたもの。数多の絆を宿し、ガラドボルグと名付けた雷槍をドラゴンに叩き付けた。
「カッカッカッ! これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 ノルが切り裂いた脚を狙い、ドルフィンが暴食餓竜に組み付く。ドラゴンオーラと称した闘気を傷口に注ぎ込み、砕かんばかりに関節を極めていた。暴食餓竜の上げた悲鳴に、ドルフィンの表情に笑みが宿る。
「さぁ、死合おうぞ!」
 自身に光の盾を宿しながら、レーグルが吠えた。如何に暴食餓竜が強力であろうと、気迫では負けないとの宣言に、しかし、彼の竜は何を思うのか。ぐるると言う唸り声のみが、響いては消えていく。
「いくよ! スームカ!!」
 フィアールカの宣言と共に、戦場を色彩豊かな爆風が覆った。同時にスムーカが主の声に応え、エクトプラズム製の武器をドラゴンに投擲する。
「余の仲間達に指一本触れさせん」
 光の盾を纏う白はディフェンダーの矜持を以って宣言する。年若きドラゴニアンの、しかし、老成された言葉は戦場に頼もしく響いた。
「行くぞ、百火!」
 主の命に従い、ビハインドの百火は転がる岩を念力によってドラゴンへ叩き付ける。一見地味と見える、しかし、それが織りなす痛打に、ドラゴンの咆哮が響き渡った。
 続く影は、美しき少女の形をしていた。無数の鎖を携えた竜華は、身に纏ったオウガメタルより、オウガ粒子を放出する。
「あの子には負けられませんからね……」
 彼女の脳裏に過るのは、好敵手と認める少女の姿だった。過去、彼女はこの地で破壊作戦に従事し、無事に戻って来た。ならば此度こそ、無事に帰還する事を誓う。
「この地を取り戻す事は叶わなかった。――そう、今は」
 流星を纏う飛び蹴りを敢行したフィストは口惜し気にその事を口にした。グラディウスによる魔空回廊の破壊は成されなかった。それは事実だ。だが、言ってしまえばそれだけの話だ。
 次にまた、誰かが自分達に続くだろう。自分達が誰かに続いたように。それが積み重なれば、いずれ、この海を取り返す事が出来る。
 ドラゴンの鱗をひっかくテラの勇姿を見守りながら、フィストはその事に思いを馳せた。
「私たちは敗北せぬ! いずれ、この地を取り戻してやるぞ!」
 それは願望ではない。確固たる意志の下、紡がれる予言だ。
 声に呼応するよう、暴食餓竜の無数の口が、けたたましい叫びを放出する。それは、何処か、笑いの様にも思えた。

 無数の牙による咬撃は破壊者の恩恵を以って振るわれる。
「スームカ?!」
 怒涛の如く繰り出される攻防の果てに、最初に生まれた犠牲者はフィアールカのサーヴァントだった。仲間を庇う事数度。その傷は泰孝の治癒を以ってしても回復を追い付かせることは出来ず、ついぞ、消滅に至ってしまう。
「――くっ」
 彼から零れた無念の声は、生んでしまった犠牲者に対する悔悟か。それとも別の思考か。だが、その全てを飲み込み、泰孝は光の盾を編み上げていく。自身の役割はそうと決めていた。ならば、今はそれをまっとうするのみ。
「このままでは――」
 オウガメタルによる殴打で鱗を切り裂く竜華は焦燥の声を上げる。
 それは何時かの光景に似ていた。如何に敵の防御を切り裂き、癒えぬ炎を叩き付ける。仲間には付与魔術が行き渡った今、戦闘態勢は盤石。後は目の前のドラゴンを打ち砕くのみ。
(「でも、それでは」)
 スナイパーの恩恵を受ける仲間達は着実なダメージを与え、ドラゴンに傷と疲労を蓄積させて行く。スームカが倒れたとは言え、残るディフェンダーは3名。ドラゴンの膂力を以っても、その攻略が容易な筈はない。
(「――勝てぬ」)
 牙を拳で止めたレーグルから零れたのは、嘆息混じりの唸り声だった。
 今、彼らを守っているのはこの地域一帯に広がる雷光と爆炎による目隠しだ。自身らを覆う加護があるが故、この地に集う無数のデウスエクスに襲われる事無く、ただの一体との対峙が叶っている。故にヘリオライダーは言う。『それらが晴れるまでが制限時間だ』と。
 必要なのは速やかな撃破だった。今は着実な、そして、堅実な攻撃が求められる局面ではなかったのだ。
 まして、攻撃そのものが治癒手段でもある暴食餓竜を相手取っているのだ。彼の竜を撃破する為に必要なのはむしろ、多少のリスクを背負ってでも、大火力での攻撃を敢行する事だったのではなかったか?
「諦めるでない!」
 諦観に染まりかけた思考は、白の一喝によって払拭されていく。
「皆ならここを攻略出来る。そう信じてここに来た筈じゃ! そうであろう?!」
 嘆くように、訴える様に。白の叫びに応じたのは、哄笑だった。
「ああ。そうじゃ。儂らは敗北しに来たのではない! 死闘を超え、勝利しに来たのじゃ!」
「俺達は――諦めない」
 ドルフィンの掌底はドラゴンの身体を貫き、ノルの双刃は仲間の与えた傷を更に押し広げる。ドラゴンが零す悲鳴は、彼らが紡いだ攻撃が反映されている証拠でもあった。
「そうだ。敢えて言おう。二か月前と違う、と」
 弱体化光線を放つフィストは三者に向かって微笑する。彼らがミッション破壊作戦に従じた頃合いより二か月が経過している。逆を言えば、二か月の期間があった。その間、ケルベロス達が何もしていない訳ではない。その間に為した研鑚が無意味だったと言わせるつもりは無い。
「そうだよ! 私も頑張るから!」
 何処か場違いに笑顔を向けるフィアールカはすぅっと息を吸うと、フェアリーブーツが覆う己が脚に力を込めた。
「これなるは女神の舞。流れし脚はヴォルガの激流!」
 流れるように紡がれる華麗な蹴撃は、舞踊を司る女神にも、戦を司る女神の様にも見えた。
「――サラスヴァティー・サーンクツィイ!!」
 女神の名を冠した足技はドラゴンの顎を跳ね除ける。暴食の限りを尽くした侵略者に女神の制裁が為されたのだ。
「あの頃とは違う、か」
 皮肉気な笑みを零した泰孝は、棒手裏剣の如く麻雀の百点棒を投擲。生み出される毒が暴食餓竜の身体を灼く様を見送る。
 景気づけに行ったコイントスの結果は散々だった。だが、占いはあくまで占いだ。未来視では無い事も重々承知しているつもりだ。
「チップは既に山積みだ。派手に暴れようぜ」
 賭場を荒らしてやる、と不敵に笑う。

●希望は潰えず
 吹き荒れる暴力はケルベロス達を蹂躙し、不死者への牙はドラゴンの喉元に突き立てられる。
 ドラゴンと番犬との戦いは壮絶な物であった。
「やはりドラゴンは強い、な」
 フィストが零したのは率直な感想だった。いくら魔空回廊を守る精鋭とは言え、一兵卒に過ぎないドラゴンがこれだけの力を有しているのならば、己が追い求める竜はどのくらいの能力を持っているのか。考えるだけで嫌気が差してくる。
 ケルベロス達の被害は甚大だった。既に盾役を担ったレーグル、フィア―ルカ、そして白の三者は倒れている。
 だが、ドラゴンの被害もまた、同じであった。
「押し切るぞ!」
 疲労困憊とばかりに喘ぐドラゴンに向かい、ドルフィンが宣言する。響く雷鳴は既に心許ない音へと転じていた。時間が無い事は既に皆が認識している。頷く一同は最後の賭けとばかりに己が信ずるグラビティをドラゴンに叩き付ける。
 拳が、雷撃が、銃弾と戦輪が、斬撃と霊体の刃が駆け抜け、暴食餓竜の身体を梳り。
「炎の華に呑まれ、舞い散りなさい……!」
 竜華の縛鎖と斬撃に切り裂かれた暴食餓竜から零れる悲鳴は、断末魔の叫びだった。
「逃げるぞ」
 消滅していくドラゴンの身体を見送る暇はないと、レーグルの身体を担いだ泰孝が叫ぶ。断末魔の叫びを聞き取ったドラゴン達がこの場所に殺到するのは時間の問題だった。それまでに逃亡を完了させねばならない。
「――悔しい、ね」
 ノルの視線の先には強襲型魔空回廊が聳え立っている。攻撃は為した。だが、破壊まで至らず。その事実が悔しくないと言えばやはり嘘になってしまう。
「次がありますわ」
 そうして、自分は再びこの場所に来たのだからと、竜華は独白する。
 何処か寂しげな声はやがて、様々な喧騒の中に消えていくのだった。

作者:秋月きり 重傷:レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079) フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338) 一之瀬・白(龍醒掌・e31651) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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