決戦赤のリチウ~マイハート・ビロングス・トゥナイト

作者:秋月きり

 これは、ある男の話だ。

 男はとても優秀な人間だった。品行方正。成績優秀。自尊心が高く、他者を見下し勝ちな性格に多少の難があったものの、それでも、世間一般から見れば『大した奴』だった。
 そして男の送った人生は判り易いものだった。大学を首席で卒業。大手企業に入社。そして、出世。同期の中で頭角を現すのは早く、そして、会社は彼に大きな評価を与えていた。いわゆるエリート社員。それが彼の順風満帆な人生を表す言葉である。
 これは、そんな男の話だった。

 目にしたのは赤い炎だった。それが自身の身体を包み、侵食していく。熱い。痛い。どうしてこんなことに。様々な思考が駆け巡り、だが、慌てて叩いても、それが消える様子は無かった。
 男に火をつけたのは突如現れた女――最低限の局所を隠すアラビア風の衣装を申し訳程度に纏った踊子風の女だった。名を、赤のリチウと言った。
 男の悲鳴と共に炎は巨大な円柱へと化していく。炎が消えた後、そこに現れたのは3mを超える偉丈夫だった。
 死者の泉の力による新たなエインヘリアルの誕生を見届けたリチウは満足げに頷く。そして、騎士剣を抱く彼に命を下した。
「ん、やっぱり、エインヘリアルは騎士が似合うの。さぁ、選ばれた騎士として、その力を示すんだよ」

 有力なシャイターン、赤のリチウが出現する。
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の告げた言葉に、ヘリポート内に緊張が走った。
「セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)の調査が実を結んだわ。それによって、赤のリチウを発見する予知に至ったの」
 いつもであれば、彼女がエインヘリアルを生み出し、姿を消した直後の遭遇となるが、今回は違うと言う。
 エインヘリアルを生み出そうとするその瞬間に介入が出来るのだ。
「ここで赤のリチウを倒す事が出来れば、炎彩使いの一人を討ち取る事が出来る。これは、シャイターンの選定による犠牲者を減らす事に繋がるわ」
 炎彩使い5人の内の1人、赤のリチウ。彼女を倒す事が出来れば、確かに被害者は減るだろう。
 それは紛れもない事実なのだ。
「繰り返しになるけど、まず、みんなはリチウがエインヘリアルを生み出そうとしている場面に介入する事が出来るわ」
 ここを阻害する事が出来れば、エインヘリアルを生むことなく、被害者を救出する事が出来る。そして、その方法は。
「問答無用で殴――コホン、戦闘に持ち込むべきね」
 デウスエクスと地球人の価値観の相違を考えれば、話が通じる相手ではない。もしも説得が通じて投降するならエインヘリアルを生み出す事は無いだろうが、その可能性は万に一つもないとリーシャは断言する。
「ここで時間を取ってしまうとリチウはエインヘリアルを生み出し逃亡、或いはエインヘリアルとリチウの2体を相手する事になりかねないから、速攻で片をつけてね」
 幸い、エインヘリアルを生み出す場所は繁華街の裏路地。周囲に人気は無い為、他の一般人の避難に戦力を割く必要もない。選定された被害者も、救出さえすれば勝手に逃げ出すだろう。
「リチウはシャイターンの炎と惨殺ナイフの能力、それといわゆる邪眼の能力を使用するわ」
 動きも素早く、撃破の為にはその対策も必要となるだろう。
「今まで数多のデウスエクスを生み出してきたシャイターンの選定。リチウの撃破でそれを止めて欲しい」
 皆ならそれが出来ると信じ、リーシャはケルベロス達を送り出す。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)

■リプレイ

●或る男の物語
 これはある男の話だ。

 順風満帆なエリート。そんな人生を謳歌した男の元に現れた最期は、異国風の女の形をしていた。
「ん。喜んでいいよ。貴方を騎士に――エインヘリアルにしてあげるの。それはとてもとても、誇らしくて凄い事なの」
 女は笑う。蠱惑的に。貴方のこれからをもっと素敵なものにしよう。その力を自分は持っている、と。
 男は怯え、震える。そんな未来は望んでいない。自分は今の人生に満足している、と。
 だが、男の嘆願は女に届く事はなかった。女が指をぱちりと鳴らすと、男の身体の至る所から、赤色の炎が噴き出す。それは次第に勢いを増し、男の身体を覆い尽くしていった。
「さぁ。新たな騎士の誕生だよ」
 その瞬間が自身の悦楽と言わんばかりの嬌声を女が上げる。異変が起きたのはそれと同時だった。
「これも、それも、あれも、どれも、みんな投げるのじゃ。って、これはあたしの午後のお弁当なのじゃ!」
 詠唱と共に身体に叩き付けられたのは無数の瓦礫群。目を見張る女の前で、無数の光が弾け、沸き立った。
「ここは私達が食い止めます。貴方は早く避難を!」
 女の意識が炎から別のものに移った為か。男を包んでいた炎は消失していた。目まぐるしい場面展開に、茫然としかけた男に向けられた言葉は、女でも、先程の詠唱の声でもなく、別の少女のものであった。
 死者の泉の力によって死を迎える筈だった男の身柄は、こうして突如現れた第三者達によって舞台裏に押しやられていく。

 これは、ある男の物語だったものだ。
 だが、この瞬間、運命は番犬達により書き換えられ、邪霊と番犬の戦いへと変貌していく。
 番犬の名前は地獄の番犬、ケルベロス。
 不死者を殺す牙を有する定命。地球最後の守護者の名前だった。

●私の心は騎士のもの
「ケルベロス参上なの!」
 這う這うの体で去っていく男を尻目に、大弓・言葉(花冠に棘・e00431)が鬨の声を上げる。共に立つボクスドラゴンのぶーちゃんもまた、ぐるると唸り声をあげ、シャイターン――赤のリチウを牽制した。
「地獄の番犬、ケルベロス!」
 声はむしろ、唾棄に近かった。幾多の同胞を食い殺した地獄の番犬が遂に自身の元に現れた。その事実に表情を歪める。
「私の邪魔をするな、なの!」
 だが、その出現がどうだと言うのだ。エインヘリアルを生み出し続ける事が、炎彩使い達に課せられた使命。ならば、目の前の邪魔者を排除し、再び仕事に戻るだけだ。多少予定が変わったが、やる事そのものが変わった訳ではなかった。
 煉獄の炎を生み出し、ケルベロスの一体に投げ付ける。だが、灼熱を孕む一撃は、横合いから飛び出した少女によって遮られる結果となった。少女の腕から伸びた黒い茨が挑発するようにうねうねと動いている。
「正面からじゃ私達に敵わないからって随分と小狡い事をしてくれるじゃない」
 少女――イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)の声は不快感露わに紡がれた。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴女を倒します!」
 セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が宣言と共に、乙女座の星辰煌く力を仲間達に付与する。
 その間、彼女の淡青の瞳は射抜かんばかりにリチウに向けられていた。
(「ようやく追い詰めた。ようやく機会を得た」)
 リチウとの対峙は、彼女の執念の賜物だった。これまで犠牲になった人々の無念を晴らす為、この場所で彼のシャイターンを討つ。それが彼女の決意だった。
「さぁて、男を惑わす魔性の退治と行こうじゃないか。――纏え護りの雨」
 煙草を吐き捨てた塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は霧雨を喚ぶと、守護の力を仲間達に付与していく。飄々とした声もまた、リチウを逃さないとの誓いの元、紡がれていた。
 そしてサーヴァントであるシロはくるりと宙を舞うと、己の属性をイリスに付与する。短い礼に対して鳴き声で応える様は、何処か誇らしげだった。
「ここが年貢の納め時なの! 逃がさないんだから!」
 言葉の声は竜砲弾と共に。ぶーちゃんのタックルも重なり、リチウの小柄な体を吹き飛ばす。
「危ないの」
 空中で態勢を整えるリチウの表情は不満げだった。だが、ケルベロス達に彼女の抗議を聞くつもりはない。その連携が途切れる気配はなかった。
「危ない事をしておったのは、リチウおねえじゃよ」
 ふぉっふぉっふぉっと笑うウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)の飛び蹴りは、炎を纏いリチウを強襲する。自身の肌に火傷を残す蹴打に、リチウはぎりっと歯噛みした。
「私を、炎で焼こうとするなんて!」
「ならば影はどう? おいで――」
 黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)の生み出した黒猫の幻影はリチウの影に飛び込み、彼女の影を地面に縫い止める。魔力で編まれた束縛はぎちぎちとリチウの身体を締めあげていた。
「くっ」
 自身へ食い込む束縛の解除に要する時間は刹那。だが、その刹那は永劫の如く、リチウに刻まれる。
「光以て、現れよ」
 その暇に紡がれる四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)の光の施術は、仲間達の知覚を強化し。
「貴女の勝手な都合で、一体どれ程の命が失われたと思っているのですか!」
 怒りと共に放出されるフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)のオウガ粒子もまた、仲間達の知覚を強化していく。
「言っておくけど私の薔薇を簡単に燃やせると思わない事ね。貴女の赤を私の黒で塗り潰してあげるわ」
 黒茨による抱擁をリチウに叩き付けながら、イリスは高飛車な笑みを浮かべる。
 この場で赤のリチウと決着をつける。その決意はセレナや翔子、そしてイリスだけではない。ここに集う皆が同じ気持ちを共有していた。故に最善を尽くす為、自身らの強化に手を割いている。
「――ケルベロス!」
 その意図をリチウが汲んだのか、否か。憤怒とも憎悪ともつかない叫びが、夜闇の中、木霊した。

●私の心は夜のもの
 惨殺ナイフの煌きは、ケルベロスの命を刈るべく、縦横無尽に駆け巡る。だが、その煌きは我が身を盾へと身を投げ出したボクスドラゴンによって受け止められていた。
「ぶーちゃん!」
 言葉の悲鳴とも激励ともつかぬ呼び声に、サーヴァントもまた、短い鳴き声で応じる。
「まだまだやれるだろう?」
 リチウの与えた傷は翔子の緊急手術、そして彼女のサーヴァントのアシストによって塞がれていく。
 その刹那、白銀の煌きがリチウを襲った。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 鋭さは剣の如く。速さは閃光の如く。セレナの繰り出す斬撃を惨殺ナイフで受け止めるも、重なる刃と刃はぎちぎちと音を立て、拮抗状態を生み出してしまう。
「リチウ殿。貴女は今までエインヘリアルにした人々の名を、姿を、たった一人でも、憶えていますか?」
 長剣をナイフで押し返すデウスエクスの膂力を前にセレナは問う。だが。
「へぇ」
 リチウの返答は笑みだった。嘲笑でも哄笑でもなく、その笑みは、むしろ、微笑の様に思えた。
「貴方は今まで自分が交わった男を覚えているの? それとも……経験が、数えられるくらいしかない、なのかな?」
 毒婦の笑みに、セレナの頬が朱に染まる。羞恥、憤慨。その色を纏っても、リチウの笑いは耳について離れなかった。
「やれやれ、とんだあばずれね」
 二者の拮抗状態を氷纏う一撃で粉砕しながら、イリスが肩を竦める。
「流石デウスエクス。見た目通りの年齢ではない、と言う事ですか」
 雷撃を放つ玲斗は淡々とその事実を紡いでいた。いくら妙齢の女性の姿をしていても、相手は不死の侵略者、デウスエクス。見た目通りの年齢とは限らない。
「だとしても、今までの彼女の罪を肯定する理由になりません。彼女が起こした悲劇を、人の在り様を歪める真似は許し難い」
 人とデウスエクス。相容れない存在であるが、犯した罪が変わると言うつもりはない。
 ルーンアックスを振り下ろすカルナの言葉に、リチウは笑う。
「ただの人間をエインヘリアルに導いた。その事を喜ばれても、否定される謂れはないの」
「価値観の相違です! 貴方達の理屈が無辜の人を死に追いやった。その事実を許す事は出来ません!」
 冷凍光線をリチウに放ちながら、フィルトリアは咆哮する。
「騎士に生まれ変わらせた、と言っているの!」
 対するリチウの言葉は煉獄の炎と化して冷凍光線と衝突した。発生した水蒸気が局地的な爆発を発生させる。
「リチウおねえ……」
 地裂の一撃を繰るウィゼが抱く感情は、むしろ憐憫だった。デウスエクスと人間が相容れない存在だとは理解していた。獲物と狩猟者。それだけの関係だと公言するデウスエクスがいる事も事実だ。だからこそ憐れんでしまう。
(「人を、地球人を、その程度にしか見られんのじゃな……」)
 単純な個体の優劣ならば、不死者たるデウスエクスは、多くの人間より優れた存在だろう。だが、それが必ずしも正しいとは言えない。
 それをリチウは知らない。否、知ろうともしない。何故ならば、彼女もまた、デウスエクスだからだ。その理解は不要と、端から決めつけている。
「リチウおねえ。貴女を倒し、他の炎彩使いも打ち砕く。そして地球の皆を守る。それがあたしの誓い、ケルベロス達の思いじゃ!」
 裂帛の気合と共に繰り出す攻撃はリチウの肌を切り裂き、血の飛沫を壁に残す。

 血の跡が壁に、道路に刻まれる。それは激戦の証しだった。
 リチウの攻撃はケルベロス達に血の跡を残し、ケルベロス達の牙もまた、リチウの肌に傷を刻んでいく。それは何処か輪舞曲に似ていた。
 激しく移り変わる攻防はしかし、いずれ、終わりの時を迎える。
 最後に立つのはケルベロス達かリチウか。決着の時はすぐ傍に迫っていた。

 零れた息は荒く、自身に積み重なった疲労を感じる。
「何なの。何なのよ。貴方達」
 超常存在であるデウスエクスであれ、絶対の存在ではありえない。戦闘の継続は、ダメージや疲労の蓄積へと繋がっていく。
「何なの?!」
 タールの翼で飛ぶも、それ以上の飛行は許されなかった。ケルベロス達はリチウを取り囲むように戦陣を組み、少しでもそのそぶりを見せれば、攻撃を集中、彼女の逃亡を阻止しようとする。
「何なの?! 貴方達!!」
 まるでリチウの行動を見透かしているような動きに強い不快感を覚えていた。
(「こいつらは、なんで――!!」)
 だが、答えはない。律儀に返事をする理由がケルベロス達にある筈もなく、更に苛立ちが募る。
「終わりです。赤のリチウ!」
 レプリカント――カルナの斧はルーンの輝きを纏い、リチウの身体を、そして身を包む薄手の装束を切り裂いた。申し訳程度の薄布が切り裂かれ、褐色の肌が露わになる。
「終わらないの!」
 零れ出た膨らみもそのままに、リチウは己の両眼に力を込めた。視線が狙うはケルベロス達の要、傷の回復を担う地球人のウィッチドクター。それを突き崩せばまだこいつらを制する事が出来る。その確信はあった。
 その判断は誤っていなかった。ケルベロス達の中、メディックの加護を纏うのは今、邪眼の対象となった翔子、そして、彼女のサーヴァント、シロだけだった。そして、リチウの邪眼は翔子の意識を奪うだけの力を有していた。植え付ける偽りの情は、思慕と保護欲。それは形勢逆転への布石となる。
 ――その筈だった。
「甘んじて見過ごすつもりはありません」
 玲斗の降らす薬液の雨は、邪眼が食い荒らした精神を癒やしていく。翔子の瞳に光が戻る様を見送るリチウは、愕然とした表情を浮かべていた。
「本当に――」
 何故だと叫びたかった。偽りの情を植え付ける邪視は奥の手で、仲間と言えどそれを知る者は数少ない筈だ。それなのに、こいつらは何故、それを知っていたかのように振舞えるのだろうか。
 そこではたと気付く。その事を可能にする存在が、ケルベロス達に寝返っていた事に。
「まさか!」
「さて、どうだろう?」
 正解を告げる必要はないと言葉が凍結弾を放つ。それが皮切りとなった。
「騎士の誇りを汚した者を、今此処で断罪します」
 処断の言葉は白銀の輝きを以て。セレナの切っ先は深々とリチウの身体を貫き、零れた大量の血が彼女の銀髪を赤々と濡らしていた。
「私は貴女を許しません!」
 フィルトリアの拳は浄化の炎を宿し、リチウの身体に叩き付けられる。腹部を襲う衝撃にかはりと吐息が零れた。
「私がこんな場所で、終わるなんて……」
「リチウおねえ、それが貴方の運命じゃよ」
 襲い来る無数の飛来物は、ウィゼの投げつけた様々な投擲だった。
 無数の殴打を受けたリチウは彼女の言葉通り、自身の終局を悟る。
(「――認めないの!」)
 終わりは誰にでも訪れる。不死者であろうとその定めから逃れる事は出来ない。頭ではその事を知りながらも、肯定する事は出来なかった。
 故に煉獄の炎を撒き散らす。乱雑に放たれた火球は真紅の花を咲かせ、ありとあらゆる被造物を溶かしていった。
「シャイターンが、デウスエクスが、炎彩使いが、人間に屈するなんて、認めないの!」
 リチウの叫びは、何処か悲鳴に似ていた。

●夜に消える赤
 白銀の煌きは、惨殺ナイフの軌跡だった。
 幾多の軌跡は疾風の如く、ケルベロス達を切り裂く。ついぞ、その犠牲になったのは言葉のサーヴァント、ぶーちゃんだった。
「――くっ!」
 返す刀が狙った先が狙った先はその主である言葉。悪夢の鏡像に苛まれる筈の彼女はしかし、それを庇ったイリスが膝をつく結果に終わる。
「大丈夫。ここで終わらせるものか」
 翔子の闘気とシロの属性付与が彼女の傷を癒やしていく。幾多の攻撃は治癒不可能ダメージの蓄積ともなっていたが、今はこれで充分だった。
「リチウ殿、覚悟!」
 そして、セレナの宣言が止めとなった。
 白銀の切っ先が、時空凍結の弾丸が、ルーン刻む斧の一撃が、浄化の炎が、黒き茨の抱擁が、そして螺旋纏う掌底が次々とリチウに突き刺さる。
 ケルベロス達の猛攻を己の身体で受け止めたリチウの口から零れたのは、大量の血塊――終局の証しだった。
「カリム、ホスフィン、ナトリ、カッパー……」
「いずれ、皆もおねえの元に向かうのじゃ。だから安心して……眠るといいのじゃ」
 死後の世界をウィゼは知らない。死神ならぬ身にそれが判る筈もない。だが、彼女達の終局は約束するとの言葉に、リチウは微笑を浮かべる。
「そんなこと、認めない、の」
 それが、末期の言葉となった。無数のグラビティに貫かれたリチウの身体はやがて、崩壊に至っていく。
 きらきらと輝く光の粒子が彼女から零れ、そして夜の闇に消えていった。
「リチウおねえ」
 ウィゼの抱く感情は最後まで憐憫だった。彼女の前で、真紅の炎がゆるりと消えていく。それを見送る姿は宿敵の最後を脳裏に刻むようにも、葬送のようにも映るのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月27日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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