聖夜略奪~夢を引き裂く眩い輝き

作者:質種剰

●妨害される幸せ
 12月24日、日曜日。
 街中が華やかなクリスマスムードに彩られて浮かれる中、とあるマンションの一室にもクリスマスを心待ちにしていた女性がいた。
「……二十歳過ぎてリボンのついたバッグ……変かしら」
 大丈夫よね、派手じゃないしそんなに目立たないわよね。
 鏡の前で、何やらしきりに自分へ言い聞かせながらお洒落に勤しんでいるのだ。
 白いフェイクファーが暖かそうなロシア帽にプチマフラー、ピンクのコート。
 タータンチェックのスカートと黒いタイツが少々若作りだけれども、女性の童顔にはよく似合っている。
 女友達と遊びに行くのとは気合いの入り方が違う。一目で彼氏とのデートと判る出で立ちであった。
「よし、財布も携帯もポーチも持った……!」
 だが、逸る気持ちを抑えつつマンションの外へ出た女性に、思わぬ事態が待ち受けていた。
「きゃっ!?」
 突如、目の前で開いた魔空回廊から白銀の身体を持つダモクレス達が現れたのだ。
「た、たすけ……!」
 自分よりも大柄な体躯の軍勢に囲まれ、恐怖で声が出ない女性。
 彼女が『輝きの卵』に閉じ込められてしまうまで、時間はかからなかった。

●リア充を助けてケルベロス
「皆さん、昨年のゴッドサンタの事件はご記憶でありましょうか?」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が問いかける。
「クリスマスに発生したゴッドサンタ事件を解決なさった事で、皆さんはグラディウスを得てミッション破壊作戦が可能になりましたね。去年一年だけでも、ほんとに多くのミッション地域を開放する事が出来たでありますよ」
 この状況は我々にとっては非常に喜ばしい事だが、その分デウスエクスにとっては許しがたい物なのだろう。
「その為か、地球に潜伏していたダモクレスの潜伏略奪部隊『輝ける誓約』の軍勢が、クリスマスの力を利用して、ケルベロスたる皆さんが使えるグラディウスを封じようと作戦を仕掛けてきたのであります」
 ダモクレスは、クリスマスデートを楽しみにする女性の前へ魔空回廊を使って出現すると、儀式用の特別なダモクレス『輝きの卵』に女性を閉じ込めては、グラディウスを封じ込める儀式を始めるという。
「『輝きの卵』自体は戦闘力が無い為、周囲に3体の護衛ダモクレスが目を光らせて、ケルベロスからの襲撃へ備えているようであります」
 護衛ダモクレスさえ倒す事ができれば、女性を救出して『輝きの卵』を撃破可能となるので、まずは護衛を撃破すると良いだろう。
 但し、女性が捕らわれたままの状態で『輝きの卵』を倒してしまうと、中にいる女性も一緒に死んでしまうので要注意。
「輝ける誓約の護衛3体は、それぞれ決まったポジションについて、協力して戦闘を行うであります」
 輝ける城はディフェンダー、輝ける杖はスナイパー、輝ける斧はクラッシャーといった具合である。
「輝きの城は、その堅牢な装甲を用いた城塞突進を仕掛けてくるであります」
 城塞突進は射程自在な単体攻撃であり、その頑健に優れた破壊力は敵に言い知れぬ威圧感を与えるほどだと言う。
 また、大きく膨らんだ腕の重量や拳のスパイクを活かして、ズタズタラッシュや月光斬そっくりの剣技も放ってくる。
「輝きの杖は、手にした杖から水色の光球を放って攻撃してきます」
 光球は幾つにも分裂し、理力に満ちた魔法となって複数人をどこまでも追いかけてくる。しかも間違いなく追撃を喰らう為、総ダメージ量が馬鹿にならないのも気をつけたい。
 更に、グラビティシェイキングやロックオンレーザーのようなグラビティも使うのだとか。
「輝きの斧は、バチバチと放電している両刃を振るって、まさに一刀両断といった勢いのある攻撃をしてきます」
 一刀両断たる斬りつけは、近距離の敵1体へ敏捷性に長けた斬撃を見舞い、時には強い衝撃で以後の行動をしくじらせる事もあるそうな。
 他には、デストロイブレイドやスカルブレイカーに似た攻撃をしてくる。
 そう説明を締め括ろうとして、かけらは慌てて付け加える。
「儀式が終了すると輝きの卵は自爆して、そのエネルギーの全てをグラディウスの封印に使うようであります……勿論、爆破した場合、輝きの卵の中にいる被害者女性は死亡してしまいます」
 神妙な顔で補足を終えると、ようやく笑顔になって皆を激励した。
「無事に被害者を救出できましたなら、きっと彼氏さんとのデートの待ち合わせまで時間の余裕は無いでありましょうから、宜しければ彼女の身嗜みを整え直して差し上げるのも良いやもしれませんね♪」


参加者
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
逢魔・琢磨(みそじ・e03944)
シャーロット・ノーラン(スノーフレーク・e04982)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
尖・舞香(尖斗竜・e22446)

■リプレイ


 12月24日。
 ケルベロス達は閾下(いきか)絵留を救出すべく、彼女の住むマンションの前に急行した。
「はいはい、ケルベロスだぜーっ、お騒がせしてまーす。作戦中なので離れててねー」
 すぐにシャーロット・ノーラン(スノーフレーク・e04982)が、通行人やマンションから出てきた住民へ声をかけ、避難を促している。
 柔らかそうな白い髪と澄んだ青い瞳を持ち、髪の一部が地獄化したブレイズキャリバーの少女だ。
 平凡な片田舎の家庭に生まれるも、現在は親元を離れ、全寮制の私立学校に通っている。
「ははーん、今年もクリスマスを邪魔しに来たんだ? また、ぼくが阻止してあげるぜーっ!」
 いつでも自信満々なシャーロットは、己が全身を地獄の炎で覆い尽くして戦闘能力を増幅、マンション前に聳え立つ輝きの城へ向かって言い放った。
「……まずは、マンションや近所の人が、巻き込まれないように……」
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)も、マンションの正面玄関に着くなり、身体からぶわっと殺気を放つ。
 絹を縒ったような白い髪と金の瞳を持ち、儚い空気を纏うシャドウエルフの少女。
 愛らしい容姿に違わず精神面も実年齢より若干幼く、普段はぼ~っとしていて口数少ない。
「……ごめんね、皆……なるべく、早く済ませるから……」
 一般人が意識せずに近寄らなくなるよう、波の引くが如く遠退いていくよう、しっかと殺界を形成するリーナ。
 その側では、
「サンタさんからの贈り物を返せなんて、ひどいよね! しかもその為に幸せな人まで攫うなんて!」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が、前衛陣に紙兵を景気良くぶちまけながら、ぷんぷんすこすこ怒りまくっていた。
 黒くしなやかな髪と赤く大きな瞳が大層可愛らしい、ドワーフの成人男性だ。
 尚、若く見えるのがドワーフの常とはいえ、シルディは御年31歳、いつも笑顔で天真爛漫、何とも子どもっぽい三十路男だ。
「クリスマスの力……というのは、普通のグラビティとは違うのでしょうか?」
 水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)は、輝きの城の向こうで浮かんでいる輝きの卵を認め、首を傾げる。
「よく分からないですが……人間を道具と思っている相手は潰すだけです」
 小さなカフェ『カフェ「GoldLore」』の店員を務める青年。
「クリスティ流神拳術、参ります……!」
 卵の手前にいる輝きの城達を見やって、アンクが戦闘態勢に入る。
「壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
 右手袋と袖を燃やして解放した白い地獄を右の拳に纏わせ、輝きの城目掛けて叩きつけた。
 ちなみに、彼やリーナ、シルディは、ヘリオン内で小檻へ、救出後の絵留が待ち合わせ時間に間に合うよう護送を頼んでいた。
 しかし、着陸場所の限られるヘリでは、降りた地点から待ち合わせ場所へ向かうと二度手間で却って時間がかかると言われ、諦めざるを得なかった。
 一方。
「今回は女性が多いですね、男としてアンクさんシルディさんいっちょガンバりま」
 逢魔・琢磨(みそじ・e03944)は、前衛陣を小型治療無人機で警護する最中、仲間へ声をかけたかと思うと、
「ボクポニーテール! オンナノコダヨ! ヨロシクネ!」
 シルディの出で立ちを見るなり突然掌を返して、アンクを孤立させる外道行為に走った。
「めっちゃ片言!? 後ボクは男だからね!」
「……逢魔さんのシャープな顔立ちでそれは……無理ありませんか?」
 2人ともにツッコまれるのも当然である。
 ともあれ、こんな風にノリのいいアンちゃんな琢磨。
 子ども好きな為によく構ってあげようとするも、年齢のせいか傍目からは危険人物に見えてしまう事が悩みの種。
「俺から提案したんだ。しくじるつもりは無い……」
 エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)は、キッと鋭い視線で輝きの斧を見据える。
 長く伸びたハニーブロンドの髪と吊り目がちなサファイア・ブルーの瞳が眩しいオラトリオの女性。
 髪に咲く薔薇や背より生えた一対の翼は白く清らかで、彼女の気高い雰囲気に華を添えていた。
 加えて、銀を基調に深い青で装飾した鎧は、エヴァンジェリンの抜群なスタイルを損なう事なく、彼女の騎士道精神をもよく表している。
「さぁ、いこうか……」
 エヴァンジェリンは己を奮い立たせんと呟いてから、天高く跳躍。
 虹の軌跡が美しい急降下蹴りを輝きの斧の頭部へ浴びせ、言い知れぬ怒りを植えつけた。
 他方。
「師走で走り回るのは坊主だけではないのですよ、全く、色々と起こしてくれますねえ……あちらには年末年始てないのでしょうか?」
 ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)は、てきぱきと後衛陣の前へ雷の壁を構築しつつ、年末の忙しさに不満を洩らしていた。
 硝子のように光を通すツノと翼を有し、雨蛙を思わせる緑の髪が濡れ濡れと鮮やかなドラゴニアンの女性。
 いつも笑っている風な顔立ちから一見穏やかそうに見えるが、見た目に反してその内面はなかなかに辛辣である。
「まあ、このイベントには特に予定はないのですけれどね……クリスマス限定ケーキでも食べたいところです」
 神秘的な雰囲気を漂わせるラーナだが、すっかり日本に根づいたクリスマスのお祭り感覚へ迎合して、クリスマスケーキを楽しみにしている様は、妙に可愛らしく見えた。
「うむ……リア充エネルギー? 好奇心をツンツン刺激される……」
 尖・舞香(尖斗竜・e22446)は、通行人が皆視界に入らぬ程に遠ざかったのを見届けてから、まじまじと輝きの卵を見つめた。
 とても鋭利に尖った尾が特徴的な、ドラゴニアンの女性。
 スイーツ大好きかつ可愛い物に目が無い性格だが、本人曰くブシドーを重んじる性根で立派なサムライになるのが目標との事。
 だが、それらの知識は漫画やアニメから得た為にどこかしらおかしかったりするらしい。
「けれど人質なんて頂けないわ。早いとこはっ倒して、閣下……じゃなくて閾下さんを助けましょう!」
 舞香は思わず絵留の苗字を間違えそうになりながらも、妖星刀の柄へ手を掛ける。
 雷の霊力を帯びた刀身が神速で繰り出され、輝きの城の硬そうな胸部装甲をドスッと突き破った。


「ワレラのシメイは、クリスマスがオワルまで、このバを守護スル事ナリ」
 輝きの城は、ケルベロス達に気づくや抑揚の無い調子で言うと、城塞突進をかましてきた。
「理解し合えなくても、仲間はボクが守る!」
 すかさずシルディが前に出て、ラーナの代わりに重い一撃を喰らった。
「さすれば、ゴッドサンタのハイボクの証、ケルベロスのグラディウスを封印できるだろう」
 と、輝きの杖がセリフを引き取り、水色の光球を前衛陣全員へと撃ち出した。
「この女から、クリスマスの力を絞りダシ、絶望にカエルのだ」
 輝きの斧はそう宣言して、放電する両刃斧を力一杯振り下ろす。
「うぎゃ!」
 肩を深々と抉られたシャーロットが、痛そうな悲鳴をあげた。
「バラバラに解体してあげる……! 大切な日を邪魔する貴方達は……許さない……!」
 霊刀「鳴月」で視認困難な斬撃を密やかに仕掛けるのはリーナ。
 迷いのない太刀筋が輝きの城へ幾度も閃いて、確実に奴の急所を掻き切った。
「きっと絵留さんの幸せは守ってみせるからね!」
 シルディは構えた『まう』からドラゴニック・パワーを噴射。
 加速したハンマーの向かうままに、輝きの城の腕を叩き潰した。
「決めます……! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!!」
 蒼い冷気を纏った足刀を左上段へ突き出し、輝きの城を仰け反らせたのはアンク。
 更に白い炎で覆われた右拳を打ち下ろすように追撃して、地面へ叩きつけた。
「庇って下さって、ありがとうございますね」
 ラーナはルドラの子供達を振りかざして、雷光を幅広く照射。
 前衛陣の異常耐性を高めると共に、シルディやシャーロットを始めとする大怪我を治療した。
「我が魂を刃と為し、万物悉く薙ぎ払え!」
 集束と圧縮によって研ぎ澄まされた高密度の魔力を、極大の光刃となるまで編み上げたのはエヴァンジェリン。
 空間断裂をも引き起こす一閃が輝きの斧を襲い、溢れる星光の奔流で全身を包み焼き尽くした。
「ぼくだっ! お前たちをやっつけにきたぜっ!」
 シャーロットは元気に啖呵を切って、己が豊富なグラビティ・チェインを破壊力に変換。
「炎の一撃! くらえー!」
 九尾扇に乗せて輝きの城へ叩きつけた。
「ダモクレス許すまじ! 愚かな星と散れ!」
 と、裂帛の気合いを入れてルーンアックスを振りかぶるのは舞香。
 発動したルーンが呪力となって光り輝き、輝きの城の装甲を打ち砕いた。
「約束の時間なんて俺とあの人にはないが、この人達にはある! 必ず恋人の元に送り届ける!」
 琢磨は、別の戦場へ向かった恋人の事を思い浮かべてから、惨殺ナイフを抜き払う。
 達人の域に到った剣戟を披露する中で、余計な動きの一切を削ぎ落とした一太刀を輝きの城へ打ち込み、遂にトドメを刺した。
「ワレが……ハイ、ボク?」
 後ろへ倒れる輝きの城を見ても、いささかも動揺しない輝きの斧と輝きの杖が不気味である。


「このバの守護を続ケル」
 輝きの斧は、重そうな両刃斧を腕力だけで振り回し、単純かつ重厚無比な一撃を仕掛けてきた。
「させるか!」
 エヴァンジェリンが鎧が抉られる程の衝撃と激痛に、思わず眉を顰める。
「クリスマスの力を搾り取るマデが使命ナリ」
 輝きの杖も杖の先から重力震動波を放出、前衛陣へ炸裂させた。
 戦いは続いた。
 ディフェンダーが予定の3人より少ないという想定外の事態があり、クラッシャーのまま怒れる輝きの斧の攻撃に晒されたエヴァンジェリンが倒れそうになるも、ラーナとシルディ、舞香による回復態勢が整っていた為、何とか事なきを得た。
「粉々に吹き飛べ……黒滅の閃光……!!」
 自身の魔力と周囲より集束させたグラビティの全てを媒体たる魔宝刃ファフニールに籠めるのはリーナ。
 輝きの斧へ肉薄し、至近距離から一気に莫大な魔力砲撃を見舞って、その腹に大きな風穴を開けた。
「グラディウスは返せないけど、早すぎるイースターエッグのほうはお返しするよ!」
 シルディは、迦楼羅炎掌を顔の前に構えた態勢で勢いよく高速回転。
 そのまま輝きの斧へと突撃し、奴の体力をごっそり削ると共に、守りも崩した。
「幻火弾討(アルターブレイズ)!!」
 瞬時に高速演算を行い、輝きの斧の構造的弱点を見抜くのはアンク。
 左の掌底をドンと突き出し、奴の肩口を痛烈な破壊力でぶち抜いた。
「これで……、仕舞いだッ!」
 構えたマインドリングから『物質の時間を凍結する弾丸』を精製、狙いを定めるのはエヴァンジェリンだ。
 放たれた時空凍結弾は、吸い込まれるが如き正確な軌道で輝きの斧の顔面を貫き、宣言通りにその息の根を止めた。
「悪いモノは取り除きましょうか」
 ラーナは手の中に収めていた針をひょいひょいと投げつけ、上手くツボを刺激する事で輝きの杖へ激痛を与えた。
「銃弾よ、我が前の敵を破砕せよ! 鎧破鉄鋼弾!」
 破壊の祈りを込めた弾丸を射出するのは琢磨。
 目論見通りに輝きの杖の装甲を粉砕、多くのダメージを齎した。
「すべては大いなる破壊の為の前触れにすぎないと知れ……!」
 手で片目を隠してカッコイイポーズを取れるのも、敵の撃破が順調なお陰である。
「ぼくとしょーぶだっ!」
 と、景気良く対デウスエクス用のウイルスカプセルを投げつけるのはシャーロット。
「さー、これでへろへろになっちゃえー!」
 光のように真っ直ぐ投射された殺神カプセルは、輝きの杖の体内へ浸透、怪我の自然治癒力を著しく阻害した。
「貫く!」
 舞香は鋭い尻尾を地面に突き刺すや、輝きの杖の足元から先端を出現させ、グサリと背中を刺し貫く。
「……絶望を、得ねバ……」
 がしゃん、と輝きの杖は地面にぶっ倒れて、二度と動かなくなった。
 すぐにアンクが輝きの卵へブレイズクラッシュを命中させる。
 中にいた絵留をラーナやエヴァンジェリンが抱き下ろして、救出成功と相成った。
「ああ、ありがとうございます……今何時かしら」
 絵留は左手の腕時計を確かめて、心底安堵した。
「まだまだ大丈夫、良かった……」
 そんな彼女が怪我をしていない、ラーナが目視で確かめる一方。
「ちょち失礼……恋人さんを大事になっ!」
 そう言って肩を叩いた琢磨とリーナは、防具特徴のクリーニングを発動、絵留のヨレヨレになったスカートの皺を伸ばし、コートやマフラー、帽子の汚れを綺麗さっぱり落としてあげた。
「は、はいっ、ありがとうございます……!」
 恐縮して何度も頭を下げる絵留だが、その顔は嬉しそうだ。
「わあ~、このバックかわいいね! 特にこのリボンが良いよね!」
 早速シルディが絵留の持ち物を褒めて元気づける。
「ありがとうございます、可愛いのお好きですか?」
「大好きだよ!」
 何せ、ウサギの着ぐるみを着たシルディが言うのだから、絵留もお世辞抜きの賛辞と受け取って笑った。
「二十歳過ぎてリボンのついたバッグ……変じゃありませんよ! 変じゃない!」
「そう? ですよねっ、良かった〜!」
 舞香もぐっと拳を握り締めて力説、絵留を安心させる。
「オーク依頼用に持ってたこの魔香水とか……使ってみる……?」
 リーナは絵留のスカートの裾へ香水を一拭きしてあげた。
「これで完璧だぜー」
「わぁ、ほんとに何から何まですみません」
 シャーロットはバッグの汚れを丁寧に拭いて、絵留に渡してあげた。
「宜しければ待ち合わせ場所までお運びしましょうか? こう見えてそこそこ足は速い方ですよ?」
 そう控えめに提案するのはアンクだ。
「あ……じゃあ、ご迷惑かけついでに、ぜひ。何より遅れたくは無いですし」
「はい、お任せ下さい」
 そして。
「めりくりー! さっきのは忘れて、たのしんできてね!」
 手を振るシャーロットに見送られ、絵留を抱えたアンクが走る。よもやアスファルトが捲れるぐらい足に力を入れ、全力疾走した。
(「私に出来るのはトナカイ役まで。後は貴方のサンタさんと素敵なクリスマスを」)
 みるみるうちに遠ざかるアンクを眺めて、
「……良いな、デート……にいさんに、会いたいな……」
 リーナが羨ましそうに呟く。
「クリスマス、ぼくも楽しく過ごせたらいいなーって」
 シャーロットはうーんと伸びをしてから、皆へ笑いかけた。
「みんな、今日はお疲れ様ー。良いお年をー!」
 お疲れ様、と口々に返して互いを労う仲間達。
「さて、俺もクリスマスプレゼント買いに行きますか!」
 琢磨が恋人へのプレゼントを考える傍ら、
「……かけら、この後、一緒にご飯、食べに行かない……? 聖夜を一人は……寂しいよ……」
 上空の友人へ電話をかけるリーナだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。