ミッション破壊作戦~使徒の回廊

作者:天枷由良

●ヘリポートにて
「皆のおかげで、破壊できたミッションは既に四十を超えているわ。いつもお疲れ様」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)の台詞は、ミッション破壊作戦に尽力するケルベロスたちへの労いから始まった。
「……でも、デウスエクスの侵略拠点となっている地域はまだまだ数多くあるわ。その中でも特に多くのミッションを有しているビルシャナ勢力を、今作戦の標的とします」
 現在確認されている破壊対象は六つ。何処を攻撃目標とするかは、作戦に参加するケルベロスたちで決めるのが通例だ。
「グラディウスはいつものように八本しっかりと用意してあるわ。この70cmほどの小剣がなければ破壊作戦は行えないのだから、よほどの事態にならない限りは失くさず持ち帰るようにしてね。……それじゃあ、作戦の概要を改めて説明していくわよ」

●作戦概要
 強襲型魔空回廊は各ミッション地域の中枢に存在する。
 周囲には強力な護衛部隊がおり、正面切って攻めたのでは辿り着くのも難しいだろう。
「そこでミッション破壊作戦は『ヘリオンを利用した高空からの降下』という形を取っているわね。グラディウスでの攻撃は『強襲型魔空回廊の周囲を覆う半径30mほどのドーム型バリアに触れること』が条件だから、皆なら高空からでも十分に狙えるわ」
 そして、より強力な攻撃を行うためには各々が極限まで力を高める必要がある。
「いわゆる『魂の叫び』ね。皆が強い意思や願いなどを叫ぶことで、グラディウスは真価を発揮する。叫びの源はそれぞれだけど、大事なのはミッション地域を必ず取り返すという想いに繋げられたかどうか。皆が何のために其処へ向かったのかを、絶対忘れないようにね」
 叫びを託されたグラディウスは『所持者以外へ無差別に襲いかかる雷光と爆炎』を発生させる。これによって与えたダメージは、たとえ回廊が破壊できなくとも蓄積されていくため、最大でも十回程度の作戦を行えば確実な戦果を上げられるはずだ。

「さて、攻撃が終わったあとはもちろん撤退しなければならないわね」
 回廊を守る護衛部隊は、前述の雷光と爆炎による余波である程度無力化される。
 また副次的にスモークも発生するので、ケルベロスたちはこれを利用して退くのだが。
「さすがに完全な無力化は無理だから、皆は退路を塞ぐ強敵と必ず戦闘になるわ。これを素早く倒して、護衛部隊が態勢を整える前に脱出すること。万が一時間がかかりすぎた場合は……降伏か暴走といった手段しかとれなくなるでしょうからね」
 幸い、各ミッション地域で遭遇する可能性のある敵と、その使用グラビティについては資料として纏められている。それ以外に確実な情報はないが、敵の攻撃に合わせてグラビティや防具を選べるだけでも大きな優位性だろう。
「説明は以上よ。作戦の成功と無事の帰還を、祈っているわ」


参加者
リシア・アルトカーシャ(オラトリオのウィッチドクター・e00500)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)

■リプレイ

●空の上から
 ケルベロスたちがグラディウスを手に入れてから一年が経つ。
 両手できかないほどのミッション破壊作戦に携わってきた村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)のように、熱意あふれる者たちの活躍で多くのミッション地域が解放されてきた。しかしその一方で幾度の攻撃にも耐え、長きに渡って侵略の橋頭堡とされたままの場所もある。
 史蹟が多く残る町、島根県松江市は後者だ。この地にステージ15と分類されるミッションの一つが発生したのは今年三月のこと。以来三度の降下強襲作戦が決行されるも未だ魔空回廊の破壊には至らず、狂的な思想のもとに破壊虐殺を繰り広げようとするビルシャナ『壊塵明王』と、それを阻止せんとするケルベロスたちの間で激しい攻防が続いている。
「ここもきっちり破壊して、今年を締めくくるか」
「もちろんでござるよ」
 ヘリオンから眼下を眺めた柚月の呟きに、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)が頷く。
「松江といえば蜆。肝臓によいしじみ汁はこれからの忘年会シーズン、まさに必須の滋養というもの。さすれば、此度の一撃で奪還せぬと……蜆が間に合わぬでござるよ!」
 齢十五にしては渋いところに目をつけて、カテリーナは「一年間がんばったパパさん、ママさん、働くみなさんのために、ここを解放してクリスマスプレゼントにするでござる!!」と意気込む。
 それを聞きながら、薄桃色のボクスドラゴン・マシュを連れるスノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は小剣を握りしめた。
 二ヶ月前に行われた第二次作戦の参加者であるスノーエルにとって、今回は捲土重来を期する戦いでもある。
 見下ろす景色は、あの時から変わらない。ふわりと寒空に身を投げれば瓦礫の山がみるみるうちに迫った。
 それは結果。この地に争いを起こしたビルシャナが、己の教義である地球の破壊を追求した結果。だが彼らに言わせれば、グラビティ・チェインの源たる地球があるからこそ争いは生まれるのだという。
「……違う!」
 重力に引かれていく最中、ビルシャナの主張を斬り裂くように剣を振ってスノーエルは叫ぶ。
「グラビティ・チェインがあるから争いが生まれる? それは違う!」
「争いの原因はグラビティチェインがあることじゃなくて、貴方達デウスエクスが攻めてくるからじゃない! 無茶苦茶な思想で地球の破壊とか言語道断よ!」
「そうだ! 元を辿ればお前らの欲から始まったこと! 自分たちがやってきたことを棚に上げて人様の地を荒らすな!」
 夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)と蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)が言葉を重ねる。同時に三本の剣から雷と炎が噴き出して、強襲型魔空回廊を守るドーム状のバリアに牙を剥く。
 さらに乱れ撃つ光と熱は、回廊守護に当たるデウスエクスたちにも混乱を引き起こす。その機に乗じてケルベロスたちは次々と剣をバリアに突き立て、抱く想いを叫びとして刃へ注ぎ込んだ。
「この地は昔から大切にされてきた文化や土地が多く、人の営みが連綿と受け継がれてきたところでございます。活気に溢れ、ひとの思いが集結するこの地も重要な拠点のひとつ。デウスエクスなどには渡せますまい。さぁ、我らがこの地を守りましょう!」
「応とも! 水の恵み溢れる神話の地、水都松江を此度こそ取り戻す! 松江城をはじめとする歴史ある遺産も、宍道湖や中海の水の恵みも お主等にくれてやる義理はない! その顔もそろそろ見飽きた故……黄泉比良坂にお帰り願おうか!」
 鴻野・紗更(よもすがら・e28270)に続き、声を張ったカテリーナが「蜆と一緒に出汁を取ってやろうぞ!」と付け加える。
 力を放つ刃が増えた分だけ雷鳴は強く轟く。爆炎も膨らんでバリアを蝕み、猛撃の余波で生じた煙が崩れた街並みを一時覆い隠していく。
 しかし目に見えなくなっても、傷ついた大地はそこにある。それは傲慢な侵略者達の通る道を潰さぬ限り癒やされることはない。
 だからこそマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は刃を掲げ、一振りに賭ける。
「グラディウス、地球の守護を誓いし我が心、悲しみと怒りの猛りをケルベロスの牙と為して。此度の一撃で回廊を食い破るわ!」
 六つめの雷光と灼熱が湧き出でて障壁を打った。何かの軋む音が星の泣き声のように響き、ケルベロスたちの耳と身体と心を揺さぶる。
 それに負けじとグラディウスの柄をきつく握りしめて、柚月が叫ぶ。
「人の星で散々争い事を起こしておいて、挙句地球が原因だから滅ぼすだとか、ふざけるのもいい加減にしろ! そんなくだらない理由で地球を滅ぼされちゃ全世界が大迷惑だ!」
「地球の破壊こそ至高とかふざけるのもいい加減にしなさいです! 戦う事で傷付く人が増えるだけなのに、争う事自体無意味だと何故わからないのですか! 争わず、互いに手と手を取り合う道を、どうして目指さずに破壊するなんて悲しい事を言うのですか!」
 窘めるような物言いでリシア・アルトカーシャ(オラトリオのウィッチドクター・e00500)も加わり、白い四枚羽をはためかせて言葉を継いだ。
「みんなや世界を守る為にもここで魔空回廊を壊させていただきます!」
「お前の身勝手に付き合わされる前に、俺がこの魔空回廊を穿つ! この世界は絶対に終わらせない! 地球に住まう全てのもののために、未来を絶対に守ってみせる!」
 柚月も声を絞り出す。八本全てが障壁に突き刺さり、今一度激しい雷光と爆炎が湧き起こる。
「さぁ、今こそ我が封じられし力を解き放つわよ! 必殺! ファイナルハイパーギャラクシースパーク!」
「誰が好き好んで戦うものか、死を与えるものか! 略奪者が勝手な理由で自分を正当化しようとしないで! 不愉快なんだよ! 出て行って!!」
「いい加減――この街から引き揚げやがれ!」
 最後のひと押しと渾身の叫びを上げた天々奈に合わせ、スノーエルと真琴も力を振り絞った。

●煙の中で
 やがて全てを出し尽くしたケルベロスたちは瓦礫の合間に降り立つ。
 その表情は硬い。理由は言うまでもなく、彼らの視界にそびえ立っている。
「今回もお預けか……次、だな」
「っ、このアテナ様のファイナルハイパーギャラクシースパークでも、砕けなかったというの……!?」
 柚月が歯噛みして悔しがれば、ふらりとよろけて屈み込んだ天々奈は恨めしげに片腕を睨みつけた。
 グラディウスは八本とも力を発揮していたように思えたが、まだ一段か二段か引き出せるものがあったのか。それとも天が人でなく神の味方をしてしまったのだろうか。
(「……まぁ、どちらともということなのだろうな」)
 断じることはできないが、柚月はそう結論付ける。
 ともかく破壊はならなかったのだ。ならば一刻も早く、この地を離れなければならない。
「必要な方は、グラディウスを此方へ」
 紗更が1m四方のポケットを開いて、力を使い果たした小剣を収める。
 真琴とカテリーナはグラディウスを預けることに決め、それ以外の者は自身の責任として持ち続けることを選んだ。
 そして一行は回廊と障壁に背を向ける。立ち込める煙に紛れながら市外を目指して駆けていく。
 だが敵地の中枢に降りた以上、行く手を阻むものは必ず現れる。
 ケルベロスたちも十分に理解している現実が、まだ少し不明瞭な視界の先に影となって浮かんだ。
「おお、ケルベロス! 死をもたらす者よ!」
 仰々しく耳障りな声と共に姿を現す敵――ビルシャナ・壊塵明王。
「汝らが持つ力とはこの程度なのか! 汝らは既に数多の者たちへ死を与えてきたのではないのか! これでは私は止められぬ、地球の破壊は止められぬぞ!」
「お前の思想には付き合ってられねぇな!」
 狂信者をまともに相手取る必要も時間も無い。柚月はカードを一枚引き抜いて、その力を駆動する剣に込めた。
 刃が唸りを上げると共に雪の結晶を散らせる。
「はあっ!」
「なんのっ!」
 激しく斬りつけようとした柚月に、ビルシャナも真っ向から蹴りを打ち出した。
 強烈な攻撃が互いに炸裂する。そして一方の身体が吹き飛ばされて瓦礫の中に突っ込んでいく。
「おお! これこそ汝らが持つ死の力!」
 赤い羽を飛沫と共に撒きながら、壊塵明王は血走った目で柚月の埋もれる先を見て叫ぶ。
「この力を我らが回廊でなく世界に向けよ! そして遍く宇宙を包み込め! 全てに死を齎せ、壊し尽くせ!」
「私達ケルベロスが死の牙を打ち込めるのは理不尽に奪う者達を護るが為。ただ死を齎すが為ではないわ」
 心に渦巻く怒りと悲しみを言葉に変えて、マキナが対デウスエクス用のカプセルを投射した。
 それは鳥人間に打ち当たった瞬間、封じられていた殺神ウイルスを解き放つ。収まりかけていた飛沫が柚月の斬りつけた痕から再び噴き出し、壊塵明王の声がまた一際大きくなる。
 ウイルスに蝕まれたことで、直接的なダメージだけでなく治癒力も多少削がれたのだろう。
 これを好機と紗更、リシアが壊塵明王に向かっていく。
「さぁ、アテナ様の力を受け取りなさい!」
 後衛では天々奈が大地に星座の陣を描いて、その輝きで攻めかかる二人やマキナ、真琴にマシュといった前衛の者たちへ守護の力を授ける。
 スノーエルも、ぬいぐるみに内蔵した爆破スイッチを抱きしめて押すことで色鮮やかな爆煙を巻き起こし、最前の二人を勢いよく煽った。
 さらには真琴も、地面に這わせた星雲を思わせる紐で蟹座を形作って援護する。
 そして様々な援助を受けながら間合いを詰めていていた紗更は――まだ壊塵明王を武器の届かない範囲に置いて足を止めた。
「少し、痛いかもしれませんね」
 丁寧な口調で言って、集中。
 途端、壊塵明王の真下で大地を捲り上げるような爆発が起きる。爆風に弄ばれた鳥人間は一時宙を舞い、また大地へと返っていく。
 そこに今度は、羽ばたくリシアが真上から雷を叩き落とす。杖から迸る力を余すとこなく注がれて、叫びも途絶えたビルシャナはびくびくと震える。
「そのまま動くな、でござる」
 いつの間にやら詰め寄っていたカテリーナが何かを取り出して見せつけた。それが如何なるものであったかは一瞬ばかり流れてきた黒煙で覗くことができなかったが、狂った鳥人間は何やらダメージを受けたらしく足を止めたまま。
 動かないのか動けないのか、ともかく的にするなら今。ボクスドラゴン・マシュが綿のブレスを吐きつけると、天々奈のウイングキャット・聖天使猫姫も尻尾の光輪を飛ばして、壊塵明王の身体に新たな傷をつけた。

 それから数分が経ち、塵壊明王の勢いには随分と翳りが見えてくる。
「流石はケルベロス……またしても私を、我らを殺すのか」
 ならばそのまま、この星すら殺してしまえばよいものを! 残る力を振り絞って地を走る健脚が紗更を狙って宙を薙いだ。
 だがビルシャナ自身と同じように、ケルベロスもまた敵の目論見を阻む。
「……壊塵という名は伊達ではないという事かしら」
 二者の間に割り込み、攻撃を庇い受けたマキナが歯を食いしばって言う。
「それでも護り通すわ」
「護る! 殺すことこそ汝らの本分であろうに!」
「そんなことはありません! ボクは、ボクたちはみんなを守りたくて戦っているんです!」
 反論しつつ、リシアは煙の合間に差し込んだ僅かな光をかき集め、十字の剣にして撃ち出す。
 それはビルシャナの胸に刺さってなお止まらず、ついには突き抜けると大地に消えていく。強烈な一撃は壊塵明王が残していた力の殆どを奪い取り、狂った鳥人間はゆっくりと膝を折った。
 一方でマキナも、蹴りつけられた腕を押さえて息を荒げる。しかし此方には天々奈が濃縮した快楽エネルギーの霧を浴びせて――。
「痛いのは最初だけだから、ね!」
 そう言いながら魔術書を取り出したスノーエルが、それを『勢いよく叩きつける』ことで傷を癒やす。立ち直ったマキナはすぐさまバールを構えると、思い切りよくビルシャナに投げつけて反撃の一打とした。
「ここらで一発……ブッ飛ばす!」
 続けざま、柚月がバスターライフルのトリガーを引く。
 彼も初手に喰らった蹴りによる傷を幾らか残したままだったが、敵のようには屈せず戦場に立ち続けていた。
 対してビルシャナには、撃ち放たれた凍結光線を避けるだけの余力などない。
「どうぞ、おやすみなさいませ」
 凍った敵にもひたすら丁寧な物腰で語り、紗更が最後の一撃を見舞った。
 引導を渡したのは奇しくも、壊塵明王が争いの元と呼ぶグラビティ・チェインを存分に用いることで破壊力を上げた地球人特有の技、グラビティブレイクであった。

●町の外へ
 ケルベロスたちは再び松江市の外を目指す。
 壊塵明王との戦いはそれほど苦しいものでもなかったが、余裕を持てるほどに楽でもなかった。
 既に態勢を立て直した敵の回廊護衛部隊――つまるところ新たな壊塵明王が迫っている気配がある。何かを探すような余裕は欠片もない。
「……うぅむ、これではサンタさんが拙者の頑張りを労ってくれるか、微妙なところでござるな」
 カテリーナがボヤくのも束の間。ミッション中のケルベロスたちとも合流を果たした八人は脱出に全力を傾け、ひとまず五体満足のまま、八本の剣と共に敵地を抜け出したのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。