プラチナム・スター

作者:東間

●オンリー・スター
「サンタクロース、トナカイ、お手伝い小人でしょ……あとあと……」
 リビングに置かれた立派なクリスマスツリー。その根元でこれかな、あれかな、と思案する少女は、周囲を沢山のクリスマスオーナメントで埋め尽くしながら、楽しそうに奮闘している。
「ベルはリボンの付いたシルバーで。ストリングライトは……うん、今年は雪の結晶! 色は……去年ブルー使ったし、ゴールド?」
 次に少女が向き合ったのは、ストリングライト以上のカラーバリエーションを見せるボール達。それらをじいっと見つめて、見つめて――はあ、とうっとり溜息。
「全部飾りたい……けど我慢我慢。ツリーの飾り付け担当として、お祖父ちゃんのお星様の為、厳選しなくっちゃ!」
 テーブルに1つだけ置いていた箱に手を伸ばし、丁寧に取り出したのは宝石のようにカットが施された硝子の星。見事なカットとリビングの照明によって、透明度の高いライトブルーはその色と輝きを幾重にも変えて見せる。
 表面に纏っている白銀色の模様も一緒になって煌めく度、少女は心身共に釘付けになっていた。
「海外旅行中に見つけたって言ってたけど、お祖父ちゃん、どこの何てお店か全然覚えてないんだもん。私もいつかそこに行きたいのに、わからないんじゃ行けないよね」
 思い出に浸っていた時、星がひょいっと取り上げられた。
 星が落ちる。
 赤い鍵が突き立てられ、真っ二つ。割れた星を、骨の鍵が更に砕く。
 破片となった星が散り、煌めいていた少女の目は見る間に潤んでいった。
「――……返してッ! 返してよ!!」
 あれは死んだお祖父ちゃんのお星様で、家族のお星様で。私の大事な。
 小さな体いっぱいに怒りを抱いた叫び声。『魔女』達は向かってきた少女を難なく躱し、2人同時に『鍵』で少女の胸を貫いた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」

●プラチナム・スター
 目の前で大切な物を破壊される。
 それが何であれ、そのような行為は誰にとっても耐えられるものではないだろう。
「壊されたのは青い硝子で出来たベツレヘムの星。クリスマスツリーの天辺を飾る星で、被害者の祖父が遺した品物でもある」
「故人が残した光を奪うだなんて、ひどい事をするものね」
 気遣う視線を向けるラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)へ、砂川・純香(砂龍憑き・e01948)は溜息混じりに呟いた後、続けて、と微笑んだ。
 第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテ。2人の魔手は山河・薫という少女の宝物を粉砕し、その瞬間に薫が抱いた『怒り』と『悲しみ』を奪い、2体のドリームイーターを生み出している。
 悲しみのドリームイーターは『物品を壊された悲しみ』を語り、それを理解出来なければ、怒りのドリームイーターで殺害しようとするが、悲しみに理解を示しても無意味なのだと男は言った。
「『お前に何が解る』って逆上して殺しに来るからね。その2体はどちらも被害者と似た容姿の少女型だけど、区別はつく」
 前衛に立つ『怒り』は赤い鍵を所持し、『触らないで』と繰り返すその頭上には煌めくモザイクの星。後衛の『悲しみ』は緑の鍵を所持し、『返して』を繰り返しながらモザイクの涙を流し続けている。
 使う攻撃グラビティはどちらも同じで、更に連携もしてくる為、どのように挑むかしっかり作戦を練っていくべきだろう。
「君達が現場に着く頃、2体は庭にいる。最近開発が進んでいる住宅街なのもあってか、被害者宅は広い道路に面しているから、そこでの迎撃がベストかな」
「あとは……被害者の女の子、かしら」
「ああ」
 2体を撃破すれば薫は意識を取り戻す。
 壊された星の欠片に、ヒールグラビティをかける事も出来る――が、物品にヒールグラビティをかけた場合、どうしても幻想が生じてしまう。
 クリスマスツリーの天辺を飾る筈だった星は、彼女の祖父が見つけた時のような、白銀の煌めきを浮かべた青い星には、二度と戻らない。
 純香はどこかを見つめていたが、真っ白な肌を伝う相棒達に気付くと、仄かに笑んだ。
「まずは、出来る事をしましょうか」
 万能なひとはいない。
 しかしケルベロスならば――ケルベロスだからこそ、出来る事がある。


参加者
藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)
砂川・純香(砂龍憑き・e01948)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
サイファ・クロード(零・e06460)
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)
御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)
幸・公明(廃鐵・e20260)
エトヴィン・コール(徒波・e23900)

■リプレイ

●牙と少女達と
 予め藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)が広げていた殺気により、控えめだった人気は完全に失せていた。そんな、静かだが緊迫感漂う道路に木霊すのは2つの声。
『触らないで』
『返、して』
 煌めく星や流れる涙はモザイク。
 それぞれの手に赤と緑の鍵を持つ、怒りと悲しみの夢喰い達。
 山河・薫が大事にしていた『唯一』を故意に奪うという、理解し難い行為の『結果』を前に、御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)は紙兵の群れを解き放ち、駆けたオルトロス・空木の神剣が『星』の鍵と火花を散らす。全てを取り戻す事は出来ずとも――。
「少女の命は返してもらう」
 星は、もう無い。
 だが、少女の鼓動はまだ脈打っている。
(「彼女まで奪わせないことは、私達にも」)
 砂川・純香(砂龍憑き・e01948)は子守歌を紡ぎ、空気を揺らし、重ね、さざめかす。影の檻に囚われた少女達の頭上に、隠・キカ(輝る翳・e03014)が飛んだ。
「わかるの、薫の気持ち」
 自分はいつか壊れる。それを理解しているキカは、いつか自分に訪れるその時よりも、両親がくれた『キキ』が壊されたらという可能性の方が――ああ、ずっとずっと、怖い。
「ふたつの気持ちは、きっと薫だけのものだから。なおしてあげられなくて、ごめんね」
 煌めく鋼が流れ、剛鬼の拳と化す。
「あなた達は、きぃ達がこわすよ」
 キカが瞳逸らさぬまま叩き込んだ一撃は、『星』を道路にめり込ませ轟音を響かせる。
 嫌、と声を上げた『星』が頭上のモザイクを庇うような仕草をしたのを見て、エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)は耳や尻尾の先まで魔女達への怒りを漲らせた。
(「なんで大切なものを壊しちゃうの? そういうのが欲しいの? ワタシ、怒っちゃうのよ!」)
 大切なものを取られたり、壊されたり、だなんて『すごく嫌』だ。その思いが敵の思う壺かもしれないと一瞬過ぎるが、今は薫の為、2体の夢喰いを倒す為――自分が専念する事はひとつ。
 黄金果実の光が前衛を照らした直後、2体がざりっとアスファルトを踏み締め――。
『触らないでよ!』
『返して、返してぇ……!』
 怒り、啜り泣きながらの一足飛び。振り抜かれた鍵の斬撃が空木とエトヴィン・コール(徒波・e23900)を裂く。
 烈しさを眼前に、エトヴィンは『ああ、』と笑みを零すと、細い体躯からは想像もつかない程の咆哮で『涙』に牙を立てた。
「喪失ってのはいつでも理不尽なもんだけど、さ。踏み躙るなんてのは論外だよね」
 薫の宝物。薫の感情。どちらも、決して――。
「ええ、本当に。論外以外の何ものでもありませんわね」
 地を蹴り戦闘態勢を整えた千鶴夜の髪が揺れた刹那、シャーマンズゴースト・ポラリスの『炎』が2体をのみ込んだ。悲鳴を上げる2体が薫と似た姿でも、サイファ・クロード(零・e06460)の心に同情は浮かばない。
「誰かから何かを奪おうとしても、自分のものにはならないんだよ。アンタらのしてることは――無駄だ。ってゆーか寧ろマイナス?」
 敵の全てを否定して、薄く笑いながら『涙』にしか聞こえない声を落とす。
 その脇をミミック・ハコが素早く駈け抜けた。『星』目掛け嵐のように振るわれる武器の勢いに、幸・公明(廃鐵・e20260)は密かにヒュッとなりつつ、空木に光の盾を寄り添わす。
(「戻らなくとも、終りではありませんから」)
 星の煌めき、その続きが紡がれるように――戦いは続いていく。

●激烈の星
 銃声が響き『星』の足に風穴が空く。鮮やかな銃捌きを見せた千鶴夜は、一層怒りを露わにする敵を見ても眉一つ動かさない。
 ポラリスが星灯り片手にエトヴィンを癒せば、今度は後衛を支えようとエルピスが黄金果実の光を放った。
「ああ、とても有り難いです」
 表情を緩めた同じ癒し手である公明に、少女は『ふふふのふー』と誇らしげな声。
「目指せ全員に付与、なのよ」
「じゃあ俺は、」
 己の役割と現状を顧みて。
「ハコさん一緒に攻撃――あっ、早い」
 即ばら撒かれる財宝達と、その後を追う魔法光線。惑わしと圧の二重奏に夢喰い達が触らないで、返してと声を上げる。
「――、」
 純香はほんの僅かに唇を開き、閉じた。牙へと至った路、そこから今湧き上がったものを胸の其処に仕舞い、止まない声に耳を澄まして――2体を見据える。
「魔女達はよくもこれを悪くないなど言えたわね。……業腹だわ」
「欠損感情を補う為感情を引き出し奪う――目的であってもしてもいい理由にはならん」
 薫の怒りと悲しみ、それが分からないのは自分達ではなく、少女から奪ったもので出来た夢喰い達の方だと蓮は呟いた。故に。
「身を以て償え。……そんな感情すらお前達にはないのだろうな」
 しなるように駈け抜けた純香の緑が『星』を締め上げ、星の圧と輝きに満ちた蹴りがめり込む。みしり、と聞こえた音を覆うように空木の起こした瘴気が2体を包み、エトヴィンが一気に迫った。
「すーちゃんや蓮くんの言う通りなんだよね。ダメだよ、そんな事しちゃあ」
 普段通りの物腰。されど容赦のない蹴りが『星』を貫いて。
『いやぁ! 触らないでッ!』
『返してぇ!』
 変わらない言葉が、また響いた。
 怒声と嘆き、それらと共に作られた小さなモザイクは一瞬で膨れ、星と天使になって後衛目掛け飛翔する。だが、敵意に満ちた煌めきは間に割り込んだ蓮と空木が防ぎ、不可視の爆弾が生じた隙を突けば『涙』の体が大きく飛んだ。
『うぅ、痛い、いや、返して』
「だったらさ、オレを痛めつけて、『悲しみ』を引き出してみなよ」
 ほら、とサイファが己を示せば、モザイクの雫を溢す瞳がぴたりとサイファを捉え――傷付いた少女さながらに両手で目を覆いながら立ち上がる。
『返してよ!? 返して! 返して!! 返してッ!!』
『そうよ、触らないで、触っちゃいや、触るなんてダメ触らないで触らないで!!』
 祖父の遺した青い星を返して。
 祖父の、家族の、私の宝物に触らないで。
 繰り返される少女の声に、うん、とキカは頷き返した。
「大事なものをこわされたら、だれでも泣きたいね」
 放った幻影竜の炎がモザイクの星をのみ、ごうごうと吹き荒れながら少女を覆い尽くす。淡い白金に映っていた赤が薄れるのと同時、夢喰いの頭上で煌めいていた星から輝きが失せ――割れた。

●深悲の涙
『いやああァーーッ!!』
 悲鳴が響く。大粒の雫がモザイクとなってばたばた落ちる。だが、それを受け入れられはしない。
「怒りも悲しみも、それは薫さんが感じるべき感情。紛い物が語るべき物ではありません。……返してもらいますわよ」
 千鶴夜の声は静かに流れ、『Altair』の銃口が火を噴き空気を震わせた。
 敵の足が確実に潰されれば、夢喰いには隙が、ケルベロス達には流れが生まれる。ポラリスの祈りを受けた蓮は携えた古書をひと撫で。そこに宿るものを己へと降ろせば――ああ。
「今日の影鬼は手加減出来なさそうだ」
 例えるならば雷鳴轟く暴風域。赤黒い影鬼の豪腕が夢喰いの細い体を切り裂いて、空木の赤眼が凛と輝いて加わったそこへ、サイファの放ったもの――小動物の魔弾が激突する。
 怒りと悲しみを欲した魔女達は、それを手に入れたらメデタシメデタシとも捉えられる物言いをしていた。それを思い出して、サイファは顔を歪ませる。
(「……バカじゃねぇの。アンタら色々足りなさ過ぎだろ」)
 だから否定する。遠い、誰かの姿が浮かんだとしても。
『どうして、どうして返してくれないの? 返して、返して……返してッ!!』
 伸ばされた手からモザイクが溢れ、朧気な『ベツレヘムの星』になろうとして――ぼろりと崩れて消えた。
 呪を重ね続けられたのは、先に撃破した『星』だけでなく『涙』も同じ。標的を屠る技しか持たなかった『涙』には、抗う術がない。
『どう、して? 返して?』
 返される事を望むのは薫だけだろうか。星の方も、こんな形で彼女と引き裂かれ無念だろうに――そう思えて、公明はそっと笑みを浮かべながらエルピスと視線を交わした。
「ヒールは任せてください」
「うん、任せるのよ。ぐるる……!」
 尾をふぁさりと揺らして、脚には流星を纏って。エルピスの蹴撃が真っ直ぐ降り、公明の癒しは蓮の傷を塞ぎ、同時にかけられた呪を祓っていく。ハコが迷わずガブガブ食らい付いたばかりの所を、エトヴィンの刃がさくりと入り込み、一気に押し広げた。
 『涙』がいやいやと首を振り、どうして何で、返してと繰り返す。その嘆きに、純香は応えた。
「ええ。……慮ることはできても全く同じ、にはわからないわ」
 だから、教えて頂戴。
 静かな静かな微笑みに、モザイクの涙零れる瞳が向く。ぽろ、ぽろりと零れて落ちて――ぐしゃりと歪んだ。
『――返して』
「……そうね」
 返して頂戴。
 広げた掌から幻影竜が現れ出でる。迸った炎は周囲を赤々と照らしながら、『涙』の全てを灼き尽くした。

●星のゆくえ
 周囲をヒールし、薫の家へ向かったケルベロス達がまず聞いたのは泣き声だった。
 突然現れた集団に薫は一瞬目を丸くするが、宝物をなくした痛みを止めれられないのだろう。荒波のような泣き声を再び響かせ、座り込んだまま動く様子がない。その周りには、煌びやかなオーナメントと――大小様々な、青い欠片達。
「ごめんなさい。お星様の欠片、触るわね」
「あ、すーちゃん。俺も手伝う」
「ありがとう、えっちゃん」
 制御出来ない感情でいっぱいの薫は、しゃくり上げながら大粒の涙を零し続け、欠片が拾われていくのをただ見ている。その傍らにキカは寄り添った。
「だいすきな人からもらったのに、大事にしてたもの、こわされてつらいね。すごくかなしいよね。きぃもキキがこわれたら、泣くもん」
 頷きながら泣く薫の目から、また大粒の涙が零れ落ちる。きつく握られた拳に、でも、と小さな手が重なった。
「思い出はなくならないよ。そのお星様は、薫の中にずっとあるから」
「……じゃ、あ、じゃあっ……ここから、魔法っ、みた、いに、出せたら、いいのに……」
 粉々にされる前の、あの姿を取り戻せたら。しゃくり上げながらそう願った所で、また大泣きし始めた少女に、元通りには出来ないけれど自分達に手伝わせて、と言えば、熱い涙に濡れた目がケルベロス達を見る。
 薫の様子は痛々しいが外傷は無く、それを確認した純香は状況を説明しながら、袋に集めた欠片を薫の手に持たせた。
「あなたの大事なお星さま。繋ぐことも出来るけれど、同じ形には、戻らないの」
「……ごめん。直すことは、できない」
 サイファも頭を下げれば、ひっく、と大きな音がして、涙が一粒零れ落ちた。
 それでも何とか堪え、次の言葉を待ってくれている少女へ純香が『其れでも良ければ、ヒールを』と言えば、ぱたぱたと涙を流しながら欠片を見つめ始めた。
(「うーん……手がかり程度でもあればと思ったんですけど、難しいですね」)
 こっそりアイズフォンを使った公明は、それを解除する。必死に感情を堰き止め、考えている少女に、この結果は告げたくはない。静かに見守る男の横で蓮が口を開いた。
「形ある物はいつかは壊れる。故意に壊されたのは残念だが――思い出までが消えるわけではない。気休めかもしれんがな」
 無表情で素っ気ない言葉だが、彼もまた真摯に考えてくれているのだと伝わったようだ。蓮を見上げる瞳が少し落ち着いたのを見て、サイファは頷いた。
「形も、手触りも、思い出も。全部全部忘れなければ、これからもずっと色あせることないから」
 そーだ! と響いたエトヴィンの声に薫の肩が跳ねる。あのさ、と人懐こい笑みを向けられ、少女の目がぱちぱちと瞬いた。
「金継ぎって手もあるよ! あ、あとガラスだからペンダントトップとか、リサイクルはできると思う……!」
 無い頭を捻っての提案もまた届いたようだった。まだ潤んではいるが、ケルベロス達を見る目の震えは幾分か落ち着いている。
「形が変わっても直すか、それとも……どうするかはあんたの気持ち次第だ」
 暫く静寂が流れた後、あの、とか細い声が届いた。
「……皆さんの、連絡先、教えていただいてもいいです、か?」
 ケルベロス達が自分や祖父、星の事を想い、示してくれた『星のこれから』をすぐには決められず、何より、両親にも相談したい。そう言ってから、彼らの気遣いにすぐ答えられなかった事が申し訳ないと薫が呟くから、エルピスはぷるぷると首を振った。
「いいのよ。大切なものは大切にしたいもん」
 ほ、と安堵したように表情が和らいだ薫や、少女の両親。皆を照らす星無き聖夜は祖父も望まぬ筈――と、公明は『いいお店知ってるんです』とやんわり提案した後、頭を掻いた。
「……なんて、実は職場に飾る用のを探しに行くとこでして」
 素敵な飾りに詳しい、飾り付け上手さんが一緒だと心強い。良かったら如何でしょう。差し出したアンティーク系のパンフレットが、いつか少女だけの星と再び出逢う、その日までの繋がりになれば。
 すると、薫は男が示した店にも可能性を見出したらしい。
「海外で買い付けをしてるお店だったら、お祖父ちゃんのお星様の事、何かわかるかなぁ」
 その声はまだ少し震えていて、目は潤んだまま。だが、ほのかに前向きになり始めた言葉に千鶴夜は微笑んだ。
「……宜しければ、飾付けの手伝いをさせて頂けませんか?」
 薫が思う最高のツリーは作れないかも知れない。けれど、せめて素敵なツリーを完成させたい。ツリーの天辺で煌めく星は、今は欠片となって袋の中だけれど、薫達を見守っていてくれる筈――そう、きっと。
 サイファを始めに、他のケルベロス達も手伝いを立候補すれば、薫は小さく頷いてから、ほろりと笑った。
「よろしくお願いします。ケルベロスさんと一緒に飾り付けなんて、お祖父ちゃんも喜ぶと思います」
 ベルの付いた銀のリボン。金色の雪結晶連なるストリングライト。彩り豊かなボール達。どのオーナメントも立派なツリーに負けない煌めきで、ここにあの星があったらと、エトヴィンは欠片を見る。
 元気出して、なんてとても云えない。けど。
「……負けないで、ね」
 綺麗な青に詰まっている祖父との温かな思い出まで、悲しい色に塗り替えないで欲しい。その願いは、一瞬呆けた少女が見せた、花のような笑みで安心に変わる。
 くすりと笑みを零した純香は、ソリ引くサンタクロースを片手に問い掛けた。
「ねえ。どんなお星さまだったか、教えて下さらない?」
 形を失おうとも、忘れない事は出来る。
 語り継ぎ、胸に輝かせる事も。
 優しく自分を見る金眼に、一際明るい笑顔が綻んだ。
「宝石みたいに、魔法みたいに綺麗なんです。空や海、夜空の色を全部使ったような青色で!」
 貰ったものは、受け継いだものは、形だけでは無かった。
 だからきっとまた、唯一の星は輝ける。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。