幻想トンファー流、無双乱舞の巻

作者:坂本ピエロギ


「食らえ! トンファー流奥義『無双乱舞』!」
 両手に構えた黒光りするトンファーが、朝の冷えた空気を切り裂く。
 動きも技も、全くの我流だった。
「行くぞ、『トンファー超連撃』! トドメは『トンファー大旋風』だ!」
 学校の裏山、山頂付近の展望台で人しれず稽古に励むのは、小柄な男子中学生。
 彼はひと月前にネットの動画で偶然目にした、トンファー使いの演武――その美しさに魂を揺さぶられてから、毎日この場所で稽古を続けているのだ。
 と、その時。
「ふうん。面白い武術じゃないか」
 いつからそこにいたのだろう。少年の目の前に、青髪の少女が立っていた。
「だ、誰だお前!」
「誰でもいいさ。お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 聞きなれぬ声に操られるように、少年は得物のトンファーを少女めがけて叩き込んだ。
 だが、攻撃は全く通じない。なぜなら少女――幻武・極はデウスエクスなのだから。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 少年の勇ましい攻撃をひとしきり受けると、幻武は握り締めた鍵で少年の胸を貫いた。
 倒れた少年の背から、黒い霧のようなものが吹き上がる。
 それはやがて人の形をとり、少年と瓜二つの姿へと変わった。
「さあ、お前の武術、存分に見せ付けてきなよ」
 幻武の言葉に応えるように、ドリームイーターはトンファーを手にした自らの体を独楽のように回転させながら、木々をなぎ倒して麓の街へと向かうのだった。


「トンファー使い、それは浪漫――ぜひとも一手交えたい相手でござる!」
「というわけで、ドリームイーター幻武・極の活動が観測されました」
 目を輝かせる忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)の話を、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が継いだ。
「幻武は『武術』のモザイクを晴らすべく暗躍しているドリームイーターです。今回の事件では目的を遂げられず、トンファー使いのドリームイーターを生み出してしまうようです」
 被害者は地元の中学校に通うタケオという少年だ。彼はネット動画で見た演武に一目ぼれして以来『幻のトンファー流を極めし者』を名乗っており、学校の裏山で修行中のところを幻武に襲撃されたのだという。
「この作戦では、敵が下山する前に迎撃が可能です。山中は無人で、周囲の被害を気にする必要はありません。麓の学校や街に被害が出る前に、何としても撃破して下さい」
 排除目標であるドリームイーターは、タケオ少年が目指し憧れた理想の姿だ。両手に装備したトンファーは、どんなものでもたやすく粉砕するだろう。
 使用する技は、全部で三つ。
 特定の標的に接近して乱打を浴びせる『トンファー超連撃』。
 トンファーの遠心力を利用した回転による竜巻で敵を吹き飛ばす『トンファー大旋風』。
 離れた敵の懐に飛び込み大暴れする『トンファー無双乱舞』。
 いずれも危険な威力を持っており、ケルベロスでも油断はできない。幸い、敵はこの1体だけなので、チームワークを駆使した連携で封殺するのが良いだろう。
「ドリームイーターは自分の武術をぶつける相手を求めています。戦いの舞台を用意すれば容易に誘い出せるでしょう」
 セリカは説明を終えると、ヘリポートのケルベロスたちを見回して言った。
「少年の命と、街の平和。それらを守れるのは皆さんだけです。よろしくお願いします」


参加者
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
ギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
半沢・寝猫(天声・e06672)
忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)

■リプレイ


 なだらかな山の稜線が、朝日で白く光る。
 葉の落ちた木々は鳥や虫の鳴き声が絶え、時間が止まったように静まり返っていた。
「ふっ……此度の敵はトンファーなるものを誤解している様子でござるな……」
 山道の落ち葉を蹴るように進みながら、忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)は不敵な笑みを浮かべた。真のトンファー流の使い手を自称する彼女にとって、この戦いは避けて通れない。
「本物の強さ、鈴女がたっぷり見せてやるでござる!」
「トンファー使いのドリームイーター、か。ぜひ一戦交えてみたいね」
 いたく好奇心を刺激された面持ちで、ミカ・ミソギ(未祓・e24420)が言った。
「トンファーは別名トイファー、旋棍とも呼称される打撃武器だそうだけど……」
 得物の特性やリーチ、果ては警察組織の採用実績に至るまで、調べ上げた知識を口の中で反芻するミカ。その隣を歩く樒・レン(夜鳴鶯・e05621)は先程から無言だ。
(「この忍務、必ず成し遂げる」)
 レンは決意を秘めた目で、行く手の闇を見据えていた。彼の胸中に去来するのは、被害者のタケオ少年の存在である。
(「冬の早朝に連日朝稽古とは、よほど旋棍に心を揺さぶられたに違いない」)
 年頃の少年らしい真摯さを、レンは好ましく思った。同時に、そんな少年の想いを利用した幻武に対し、強い憤りを覚える。ふたつの強い感情が、彼を無口にさせているのだ。
「クク……アタシのレプリポン刀が、血に飢えて哭きおるわ……!」
 物騒な笑顔で笑う女性は、三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)である。
 千尋はエアシューズで道を踏みしめながら、二本差しの日本刀に指を這わせて妖しく笑った。姉御肌でノリと勢いの良さが身上の千尋である。きっと全力で相手をする気なのだろう――いろいろな意味で。
「キュッキュリーン♪ 敵がトンファーなら、レピちゃんはコレ! ヴァルキュリの技、お見せしましょう♪」
 レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)が陽気な笑顔で振り回すのは、なんと『傘』。ジャージと傘を愛するレピーダお気に入りの一品で、いざという時は簒奪者の鎌としても利用できる優れ物だった。
「傘はすごいですよ。 剣にもなるし、杖にもトンファーにも何にでもなります!」
「色々な流派があるのですね……わたしも『オラトリ流』をお見せしましょう、です!」
 アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)も、トンファーそっくりの木の棒をくるくる回していた。あいにく本物は手元にないが、サイズ的にはこちらが丁度よい。
「最近のドリームイーターの行動は目に余る。その目論見、必ず潰してみせる!」
 いっぽう、ギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)は、いつになく真剣な表情だ。ギメリアの武装は、エアシューズにパイルバンカー。いずれも彼のトンファー流に用いるものらしかった。
 敵がトンファー使いならば、ドラゴニアンの力と自宅警備員の技、猫への愛を組み合わせた全く新しいトンファー流を使わざるを得ない――そうギメリアが考えていると、
「皆、展望台が見えてきたで!」
 ライドキャリバー『竜王丸』に跨る半沢・寝猫(天声・e06672)が前方を指さした。斜面も悪路も何のその、豊満な肢体を惜しげなく揺らして道をゆく歴戦の主婦である。
(「卵の劇安セールに行こう思うたら……何時のまにやらヘリオライダーにのっとった! セール始まる前に解決せんと!」)
 こうして薄暗い山道を早足で駆け上がること数分、一行は山道の終点に着いた。
 間を置かず、展望台入口の門を潜るように小さな人影が現れる。
 黒光りするトンファー。身に纏う人ならざる闘気。ドリームイーターに間違いない。
「そこの敵さん♪ トンファー達の夢の競演に参加してみませんか、です♪」
 木の棒をくるくる回して挑発に加わるアンジェラ。
 はたして敵は立ち止まり、トンファーを構えた。ケルベロス達を敵と認めたようだ。
「イヨオオオォォォッ!!」
 ドリームイーターの咆哮に怯えるように、山の木々がビリビリと震える。
 枝に残る枯れ葉が舞い落ちる中、レンが静かに螺旋手裏剣を構えた。
「では尋常に勝負だ。いざ!」
 死闘の幕開けである。


「イヨオオォォッ!!」
 ドリームイーターは、小柄な中学生の姿からは想像も出来ない速さでレピーダの懐に飛び込むと、トンファーの乱打を嵐のように浴びせてきた。
「だいごろー!」
 すかさず鈴女のサーヴァントが間に割り込み、肉球で攻撃をガードする。
 トンファーの猛打を、いなし、受け止め、必死にダメージを殺すだいごろー。
 攻撃を終え、距離を取ろうとするドリームイーターにミカが接近し、仕掛けた。
「行くぞ、銃弾拳法亜流・光式(バレットアーツルミナス)!」
 光粒子を帯びたエアシューズの蹴りが、白い尾をひいて敵を襲う。相手の体力を着実に削り取る、ジャブのような攻撃だ。
「光の羽根よ、守っていてください、です! 『球体天使』!」
 上空のアンジェラが動いた。翼から舞い散る白羽でだいごろーを包み、守りを固めていく。敵の状態異常付与は厄介だ。最初のうちに守りを固めておきたかった。
「レピちゃん流、アンブレラ武闘術!」
 レピーダはミカと息を合わせるように愛用の鎌、もとい傘を武器に戦っていた。
 追尾機能のついたミサイルのように、レピーダの傘がドリームイーターを攻め立てる。
 対するドリームイーターも、負けじとトンファーで攻撃の応酬を繰り返していた。
「回復は俺が引き受けた」
 負傷した前列の味方を、レンは分身の術で癒していった。
 ドリームイーターは範囲攻撃を持たず、それだけ回復対象も絞り込める。攻撃の機が生まれるまで、今はフォローに徹する時だ。
「トンファーを振り回すお遊戯など笑止! 真のトンファー流、お見せするでござる!」
 朝の寒さをかき消すような、熱い声の鈴女が仕掛けた。
「俺のトンファーフォルダが火を噴くぜ!」
 息を合わせ、ネットスラング交じりの口調でギメリアも跳ぶ。
「ここはひとつ、コンビネーションといこうではござらぬか!」
「おkwww把握www」
 トンファーのグリップを握り、鈴女とギメリアは天高く跳躍。爪先をドリームイーターの体に定め、鋭い蹴りを放つ!
「これがトンファー流奥義――」
「トンファーキックでござる!!」
 流星のごとき軌跡が交差して、ドリームイーターの体を貫いた。
「イヨオオオオォォォォォォ!!」
 ドリームイーターは炎に包まれ悶絶するも、すぐさま体勢を立て直し、トンファーを十字にかざして防御に入った。体力が回復するまで、時間を稼ぐ作戦のようだ。
「む、あれはトンファー流四百九十二手の奥義……! これはアタシも負けられないね、『レプリポン刀小旋風』!」
 水平に構えた千尋の刀が、スパイラルアームで回転し始めた。舞い上がる木の葉を刀身に纏いながら、千尋は螺旋の力を込めた鋭い突きを放つ。
 ガードを破られ、服の破片と共に宙を舞い、地面に叩きつけられるドリームイーター。着地の衝撃から一呼吸で飛び起きたところへ、寝猫が狙いを定めた。
「主婦の力をなめたらあかんで!」
 そう言って寝猫が取り出したのは、何の変哲もない植木鉢である。
「あら不思議? 主婦戦闘術をつこうたら、近くで殴ったら鈍器!」
 市販の植木鉢が寝猫の物理的破壊+勘により強化され、レールガンめいて射出された。
 辛うじて回避したドリームイーターの後方で、展望台の門扉が派手に吹き飛ぶ。返す刃で攻撃に移ろうとしたところへ、竜王丸がすかさずキャリバースピンを叩き込んだ。
 傷を負い、追い詰められてゆくドリームイーター。だが、自身の劣勢を楽しむように、その瞳はギラギラと輝きを増していく。


(「冷静に考えて男子中学生のお財布に対し本格的なトンファーはかなりお高い買い物だ。故にこそわかってしまうこの本気度……!」)
 スピンを加えたドリームイーターの体当たりを、ミカは真正面から受けてたった。
 少年が心をそそいで編み出したであろう技を、己のグラビティで相殺するミカ。
 遠慮はいらない。武を鍛し錬す一人の人間として、己のそれをただぶつけるのみだ。
 いっぽうギメリアは、即興の技を次々と繰り出した。当たろうが外れようがお構いなしに、勇猛果敢に攻めるギメリアの両脇から、ヒメにゃんとだいごろーが続く。
「トンファーパイル! トンファースルー! トンファー何もしない! あと猫可愛い、ウイングキャットマジ天使!」
「おお、どれも一切の流派に見た事も聞いた事もない奇怪な構えの数々! ならアタシも、この三本目の刃で!」
 ギメリアの戦いに合いの手を入れながら、千尋は『光剣抜刀電鋼雪花』を発動した。
 地面に突き刺した状態から放たれる千尋の光刃がドリームイーターの体に接触。薄闇の残る山道にストロボのような光が明滅し、敵の胴を縦一文字に切り裂いた。
「うーん、やっぱりいきなりコレを使うのは無理がありました、です……」
 アンジェラは『トンファー』を放り投げ、攻性植物を呼び出して攻撃体勢を取った。
「ここからはいつも通り、です!! 降魔真拳キーック!!」
 体重を乗せた蹴りを流れるような動きで見舞いながら、ふとアンジェラは思う。
 トンファーに攻性植物。
 キックならどの道同じなのでは……? と。
「こ、こまかいことは気にしません、です!」
 アンジェラの蹴りを受け吹き飛んだドリームイーターが大樹に激突した。音を立てて倒れる大樹を背に立ち上がるドリームイーターの頭上から、レピーダが一撃を振り下ろす。
「妖精八種族が光のヴァルキュリア……その輝きの真髄を、今!」
 閃光にして刃たる者(カサドボルグ)。
 極大の光刃が一閃し、ドリームイーターの体を袈裟に斬った。
「ククク……イヨォ……」
 深手を負ったにも関わらず、ドリームイーターの顔は歓喜に輝いていた。強い相手と戦うのが心底嬉しいといった顔だった。そんなレンは敵に言葉を投げる。
「楽しいか。もっと強くなりたいか。だが貴様は真の旋棍使いにはなれん。貴様自身の夢ではないからだ」
 レンは立ち回りを攻撃へと切り替えた。シャドウリッパーで傷口をえぐり、一気に勝負を決めるつもりのようだ。
「その夢はタケオが目指すべきものだ。その偽りの現身を撃破させてもらう」
 冷徹な決意を秘めた口調で螺旋手裏剣を構え、レンは膝をついたドリームイーターを容赦なく切り裂いていく。
 敵はすでに満身創痍。じきに戦いは決着するだろう。前方でグラビティの発動準備にかかる鈴女に、今しばらく時間を稼いでやらねば。
「竜王丸! ドリームイーターにオシオキや!」
 主人の声に応えるように、竜王丸はマフラーを震わせドリームイーター目がけて突撃。寝猫はドン・植木鉢で達人の一撃を叩きつけ、発動の準備を終えた鈴女を振り返った。
「もうあかん、スーパーのセール間に合わん! そこのアンタ、トドメ任せるで!」
「承知でござる。今こそ奥義、『思い出のトンファー』を披露する時……!」
 鈴女と敵の視線が交錯する。張りつめた空気の中、微かな風が山道に吹いた。
「真のトンファー流とは、相手がトンファーを使うという思い込みを利用し、フェイントにして戦うもの。そしてこれはその極みでござる……!」
 鈴女の送る攻撃モーション――リアルシャドーに踊らされるように、ドリームイーターは突然トンファーを振り回し始めた。
「お主の目に映る相手は、誰でござろうな……?」
 敵の目に映る相手を、他者が知る術はない。だがケルベロスたちは確信していた。
 それはきっと、彼の生みの主。我武者羅にトンファーを振るうタケオ少年だと――。
「イ……イヨオオオオォォォォッ!!」
 幻影の一閃。
 断末魔の叫びをあげ、ドリームイーターは霞と消えた。


 展望台に駆け付けると、タケオはすぐに発見された。
「大丈夫かい?」
「う……ん?」
 ミカが軽く肩を揺さぶると、タケオはすぐに目を覚ました。
「災難だったな。まずはこれでも飲んで、落ち着くといい」
 ギメリアの出した温かいお茶で体を温めると、気を失う前の事を思い出したのか、タケオは不安の残る顔で愛用のトンファーを握り締めた。
「これからも精進することだ。想いがあれば、想いを貫けば、お前は必ず強くなれる」
 レンはそっとタケオの肩を叩くと、自身の姿が描かれたケルベロスカードを手渡した。
「何かしらの支援が必要であれば遠慮なく、な」
「そうですよ少年。訓練を積めば、もっと強くなれます。ヴァルキュリ流とカサドボルグが組み合わされば無敵です♪」
 言葉を継いだレピーダは、木の上から天狗よろしく言葉を告げて飛び去った。
「ビームを出せるその日まで、さらばです少年!」
 いっぽうアンジェラも白い翼を広げながら、
「結局『オラトリ流』って何だった、です……? よく分かりませんでした、です♪」
 誤魔化すように明後日の方向を向き、建物を修復しに飛んでいった。
 タケオは半ば茫然としたままふたりの背中を見ていたが、目を落としたレンのカードで一同の身分を察したのだろう。ふいに我に返って、ケルベロスたちに頭を下げた。
「あ……ありがとうございます!」
「うむ、ひとまず重畳にござる。しかし少年!」
 鈴女はトンファーを構え、キリッと真剣な表情でタケオに語りかけた。
「お主トンファーは攻撃だけと勘違いしてないでござるか? 一流のトンファー使いになるには型を覚えてからでござる! まずは毎日、素振りと型を百回! それから……」
 鈴女は稽古の内容をひとしきり実践すると、憧れの目で見つめるタケオの頭をぽふぽふと撫でてやった。
「中坊の割に頑張ったでござるなあ」
「ほんまに、わかいこのは活力があっていいな♪」
 元気を取り戻したタケオの姿に、寝猫はうんうんと頷いた。タケオの不思議そうな視線にうふふと笑うと、
「あー気にせんといて。ウチは半沢寝猫、ただの通りすがりの主婦や」
 寝猫はそう言ってふんわりとした笑顔をタケオに送った後、さーてウチは卵買わんと、と竜王丸の軽快なクラクションと共に走り去った。
 静寂の訪れた山に、ゆっくりと朝日が差し込んでゆく。出立の時が来たようだ。
 レンは最後にドリームイーターの倒れた場所に立ち寄ると、しばし瞑目した。
「他者の夢の模倣として生み出された哀れなる者よ。魂の安らぎと重力の祝福を願う」
 称える言葉をはなむけに残し、レンはトンファーに見立てた棒を道端に立ててやった。
 討ち果たした敵に対する、せめてもの墓標である。
「よき戦いぶりだった。安らかに」


 こうしてトンファーのために闘った者達の物語は幕を下ろした。
 タケオ少年とドリームイーター、そして8人のケルベロスたち。
 彼らの魂に、いつまでもトンファーの加護あらんことを。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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