夢喰農業的格闘術

作者:飛翔優

●畑仕事と武道を組み合わせた全く新しい格闘術
 鍬で地面を耕すように、縦に構えた手刀を振り下ろす。
 雑草を引き抜くような動作を真似、全身を使って対象物を引き抜き投げ捨てる。
 時には稲を刈る鎌のような軌道を描き、相手の体を引き倒そう。
「はっ、はっ、せいやっ!」
 寒さ厳しい山の中、木々の開けた場所にある畑と山小屋の前。1人の男が大樹に吊り下げたサンドバッグ相手に修業を行っていた。
 その技は全てオリジナル。自らの学んできた全ての武道に畑仕事を織り込んだものだ。
「……ふぅ……中々うまくいかないな……っと」
 深呼吸と共に動きを止めたその男は、視線に気づき振り向いた。
 住居にしている山小屋の前に、1人の少女が立っている。
 小首をかしげ見つめる中、少女は静かに手招きした。
「お前の、最高の武術を見せてみな!」
「……」
 言葉に惹かれたか、それとも何らかの空気を感じ取ったか。
 男は誘われるまま身構える。
 1歩、2歩とすり足で距離を詰め、手刀を縦に構え……。
「せいやっ!」
 振り下ろし、少女の右肩を強打する。
 続いて稲を狩る鎌のように横に払い、雑草を引き抜くように……。
 ……数多の技を受けても少女が揺らぐ様子はない。
 ただ、小さな息を吐きだし……。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 鍵で、男の胸を貫いた。
「え……」
 戸惑いの声を最後に、男は地面に倒れ伏す。
 入れ替わるように、鉢巻をつけ武道着を着込み肩にタオルを乗せている男……肘がモザイクに覆われているドリームイーターが出現した。
 ドリームイーターが虚空を相手に男よりも遥かに精度の高い技を放ち始める中、少女は麓の方角へ視線を向ける。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 頷き、ドリームイーターは下山を開始する。
 全ては、己の技を試すために……!

●ドリームイーター討伐作戦
 足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)。
 メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「武術を極めようと修業を行っている武術家が襲われる事件が起きるんです!」
 武術家を襲うのはドリームイーターで、名は幻武極。自分に欠損している武術を奪い、モザイクを晴らそうとしているようだ。
「でも、今回襲撃されちゃう人の武術では、モザイクは晴れないみたいです。ただ、代わりに武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするみたいで……」
 出現するドリームイーターは襲われた武術家が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、強敵となる。
 しかし、幸いなことにこのドリームイーターが人里に到達する前に迎撃する事が可能となっている。そのため、人払いなどは最小限に抑え、戦いに集中することができるだろう。
「それじゃあ、襲われちゃう人やドリームイーターの性質について説明しますね!」
 襲われる男が磨いていたのは、武道と畑仕事を組み合わせたオリジナル格闘技。山小屋に住み、畑を作るなど自給自足の生活をしながら修業を行っていたようだ。
 それを元にしたドリームイーターの姿は、鉢巻をつけ武道着を着込み肩にタオルを乗せている男。肘がモザイクとなっている。
 戦いにおいては、武術の性質なのか相手の弱体をした上で仕留めやすくする……と言った方針で動く様子。
 技は3種。妨害の力を高めながら放たれる手刀、鍬撃。次々と相手を放り投げ足に多大なダメージを与える、雑草抜投。横に弧を描くかのような手刀で幾度も斬撃を繰り出し複数人を防具ごと斬り裂く、鎌斬。
「最後に、戦場候補ですが……」
 ねむは地図を広げ、人里に近い山の一角を指し示した。
「ドリームイーターは山小屋のある場所から、この場所を通って街へと向かうみたいです。ですので、この場所で待ち構えていれば迎えうてると思います!」
 後は撃破すればよいという流れになる。
 そうすれば、武術を奪われた男も目覚めてくれることだろう。
 以上で説明は終了と、ねむは資料をまとめていく。
「きっと、戦うって申し出れば興味を持って相手をしてくれると思います。ですから、全力で戦ってくださいね!」


参加者
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
アルーシャ・ファリクルス(ドワーフの鎧装騎兵・e32409)
長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)
シーラ・クロウリー(忘失の印術師・e40574)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
雨野・狭霧(黒霧・e42380)

■リプレイ

●畑仕事と武術と山と
 戦いの舞台は山の中。
 人里に近い場所にある、紅葉散りゆく木々に囲まれた場所。
 取り巻く冷気に負けぬよう準備運動を続けながら、雨野・狭霧(黒霧・e42380)はひとりごちていく。
「最近はこの手の事件が多いですね。真剣に武術の鍛錬に勤しむ人は嫌いじゃないですし、今回もしっかりお仕事しないとです」
「それにしても、農作業の動きをした拳法って、象形拳みたいなやつなのだろうかなぁ……」
 一方、アルーシャ・ファリクルス(ドワーフの鎧装騎兵・e32409)もせわしなく体を温めながら小首をかしげていく。
 数秒の間を起き、シーラ・クロウリー(忘失の印術師・e40574)が小さく頷いた。
「私も気になります。畑仕事と武道を組み合わせた格闘術がどのようなものなのか」
「そうなのう。鎌のような動きとやらは螳螂拳に似ているのだとは思うが……」
 言葉半ばに、ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)は口を閉ざす。
 山頂から何かが降りてくる気配を感じたから。
 ケルベロスたちが動きを止めて音の方角を注視すれば、木々の間には頭に鉢巻をつけている道着姿の男。
 肘がモザイクになっているドリームイーターが近づいてくる様が見えた。
 ドリームイーターもケルベロスたちを視認したのか速度を早めて歩み寄ってくるさまを見て、ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)が地獄化した腕を突き出していく。
「変身……! これ以上進むな」
 戦うための姿へと変身し、ライドキャリバーのクラヴィクにまたがりながら銃口をドリームイーターに突きつけていく。
 一拍遅れてドリームイーターは立ち止まった。
 拳を握り、半身を引き……戦いに備えるかのような構えを取ってきた。
 ケルベロスたちはドリームイーターとにらみ合いながら、じりじりと距離を詰めていく。
 人々の平和を守るため、ある男が目指していた武術を取り戻すため……さあ、新たな頂きとの戦いを始めよう!

●耕すことこそ我が武術
「さあ、まずは1発、耐えてみよ!」
 ソルヴィンが若返る。
 天を貫かんばかりの気の本流を放出する、その一瞬だけ。
 気圧されたかのようにドリームイーターが動きを止めていく隙を見逃さず、アルーシャが輝く剣片手に距離を詰めた。
「ここからは通行止め、通りたかったら……ね?」
 告げると共に突き出した剣は稲穂のようにしなやかな上体の動きに惑わされ、虚空のみを貫き通す。
 代わりに、炎の弾がドリームイーターの体を包み込んだ。
 担い手たる狭霧は笑みを浮かべ、ゆっくりとドリームイーターを手招きしていく。
「さあ、貴方の腕、見せてもらいますよ」
 頷く代わりにドリームイーターが踏み込んできた。
 すかさずアンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)がビハインドの名もなき面影と共に進路を塞いでいく。
 ドリームイーターは右腕を振り上げた。
 まるで鍬を振り下ろすかのように鋭く、力強く振り下ろされた右腕を、クロスさせた両腕で受け止めていく。
「っ!」
 鎖骨の辺りに痛みを感じた。
 クロスする両腕の間を抜けて来た指先に触れられてしまったから。
「……」
 声を上げる事なく体全体に力を込めはねのける。
「治療は妾に任せるのじゃ!」
 すかさず、彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)が穏やかな音色を紡ぎ始めた。
 一方、アルーシャはドリームイーターの懐へと飛び込んだ。
「行きます!」
 着地と共に輝く剣を横に薙ぐ。
 上体を逸し避けていくさまを横目に捉えながら、左手に持つレーザーライフルを突きつけた。
「まだまだ!」
 1発、2発と打ち込みながら……そのほとんどが道着を焦がすのみに留まっていくさまを横目に捉えつつ、再び一歩前へと踏み込んでいく。
 互いの吐息が聞こえるほどに身を寄せ――。
「そこ!」
 ――膝に、ゼロ距離からの蹴りを叩き込んだ。
 反動を活かし離脱していくアルーシャとは対象的に、バランスを崩したのかよろめいていくドリームイーター。
 即座にソルヴィンが手のひらを広げた右腕を突き出した。
「しかし、あの技はまさか……」
「知ってますの? ソルヴィンさん」
「いや、分からん! ふはは!」
 シーラの質問に対して豪快に笑い返すと共に、ドラゴンのオーラを解き放つ。
 一方、シーラはきょとんと小首をかしげつつ、得物を固く握りしめた。
「大気に潜む無尽の水よ、静寂を齎せ……イーサ!」
 冬よりも冷たい風が戦場を駆ける。
 シーラのルーンに導かれ、ドリームイーターの体を抱いていく。
 ドラゴンの齎す炎もルーンの巻き起こした冷気も嫌ったかのように、ドリームイーターは高く、高く跳躍した。
 長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)は落下点に足を踏み入れる。
 炎を、氷を振り切れぬまま着地するドリームイーターの動きを観察し……。
「おっと」
 あえて一歩踏み込み、ドリームイーターの右手に空を掴ませた。
 流れるままに膝蹴りを放ちドリームイーターの体を退かせる中、小首をかしげ尋ねていく。
「ところでお前の技は完成しているという認識で良いのか?」
 返答の代わりに、姿勢を正したドリームイーターが再び距離を詰めてくる。
 かと思えば横を抜け、前衛を務める仲間たちへと向かっていった。
 次々と雑草を引き抜くかのような勢いで振るわれる両手に、腰の入った動きに投げられていく仲間たち。
 空中で姿勢を正し着地していくさまを横目に捉えながら、狭霧は御業を展開。
 技を終えたのかドリームイーターが動きを止めた瞬間に炎の弾を撃ち出した。
 視認はできれど反応はしきれなかったか、ドリームイーターは振り向くと共に両腕を立て炎の玉を受け止めていく。
 さらなる炎が揺らめいていくさまを、狭霧は細めた瞳で見つめていく。
 振り払えぬと悟ったか、炎も氷も無視するかのように構えなおしていくドリームイーター。
 ケルベロスたちを見つめる瞳に迷いはなく、打撃をさばいていく動きにも乱れはない。
「さすがと言ったところでしょうか。しかし……」
 攻撃を重ねていけばいずれ動きを大きく崩す事ができるだろうと、狭霧は古びた刀を構えていく。
 刃に雷を宿しながら、再び狙いを定め――。

 アンナが鍬のように振り下ろされた手刀を受け止める。
「へぇ……案外、色物じゃねえな。……面白ぇ」
 蹴り1つで上体を押しのけ、自身もまた反発する力に乗り最前線から離脱した。
 入れ替わるように、名もなき影がアンナとドリームイーターの間に割り込んでくる。
 その背を見つめ、アンナは痛みの残る腕を中心に自らの治療を始めていく。
「――♪」
 戀が音色を重ねていく。
 誰かが倒れてしまうことのないように。
 勝利を掴み取るために、ライゼルは銃口を突きつけた。
「……」
 前衛の反撃に備え身構えるドリームイーターの中心に狙いを定め、トリガーを引く。
 一筋の光条は誤ることなく脇腹を捉えた。
 道着の焦げる臭いを漂わせながらも、ドリームイーターは揺るがない。
 ただ、光の出処を探るかのようにライゼルに視線を向け……半ばに前方を塞いだクラヴィクへと体を向けてくる。
 両者がにらみ合いを始める中、死角に踏み込む形で前衛陣が攻撃を仕掛けていく。
 治療を終えたアンナも最前線に戻り、反撃に備え身構えた。
「さて、次は……!」
 見つめる先、ドリームイーターが深く腰を落としていく。
 すかさず距離を詰められる。
 稲穂を刈り取る鎌のような軌道を描く横薙ぎの手刀を放ってきた。
 一撃目を腕で受け止めた瞬間、ドリームイーターは再び鎌を描いた。
 二撃、三撃と重なる内、風刃を伴うようにもなっていった。
 斬撃により傷ついていく仲間たちを見守りながら、戀は奏で続けていく。
 高らかなる音色にて仲間たちを支えるため。
 時に治療しきれず、技の影響を残してしまうこともあるけれど……。
「……大丈夫、問題ない。治療は間に合う」
 アンナを中心にさらなる治療が行われ、万全の状態が保たれていく。
 表面に傷は残れど動きは万全なクラヴィクがガトリングを乱射する中、ライゼルはゆっくりを狙いを定め続けていく。
「……」
 トリガーを引き、凍てつく光を浴びせていく。
 さらなる氷に覆われていくドリームイーターの皮膚を中心に、ケルベロスたちは攻撃を重ねていく。
 氷の砕ける澄んだ音色が聞こえてきた。
 戀の瞳には、ドリームイーターの手が一部欠落している様が見える。
「……この調子じゃ。この調子で、最後まで頑張るのじゃ!」
 油断はしない、けれど臆さない。
 勝利をつかむため、言葉でも仲間たちを労い続けていく……!

●収穫の時はまだ遠く
 左腕で、ゴロベエは振り下ろされた手刀を受け止める。
「こんな感じ、だったか」
 直後、左腕で弧を描くかのような手刀を放ちドリームイーターを押しのけ――。
「っ!」
 ――押しのけられたドリームイーターがよろめく様子を見せたから、すかさず距離を詰め上段回し蹴り!
 側頭部を捉え振り抜けば、ドリームイーターは前に傾く形でよろめいた。
 慌てて上体を起こそうとしていくさまを横目にシーラが背後へと回り込み、勝利のルーンを宿したナイフを振り上げていく。
「これで……!」
 ドリームイーターの背中にジグザグな傷跡を刻み込んだ。
 炎が盛り氷が広がる。
 与えてきた呪縛が増幅し、ドリームイーターの体をがんじがらめに縛り上げた。
「今です!」
「おう!」
 シーラの音頭に促されたソルヴィンが若き頃のオーラを放出し、ドリームイーターをふっとばす。
 狭霧が後を追い、古びた日本刀を振り上げた。
「甘く見ましたね」
 勢いのまま振り下ろし、ドリームイーターを地面に叩き落とす。
 背中を強かに打ち据えながらも手を伸ばす様子を見せたドリームイーターの瞳に1発の弾丸が写り込んだ。
「接近戦だけじゃー、ないんだよっと」
 アルーシャが告げた瞬間、弾丸はドリームイーターの額に突き刺さる。
 唇以外から悲鳴を上げながらエビ反りになっていくさまを捉えつつ、ゴロベエが緋色のオーラをたぎらせながら踏み込んだ。
「自宅警備闘気全力全開! 行くぞッ! スカーレットメテオライト!」
 鉄拳を顔面へと叩きつけ、ドリームイーターの頭を地面に埋もれさせていく。
 それでもなお起き上がらんとばかりに全身を震わせているドリームイーターの腕を、足を、冷たき氷が地面に縫い止めた。
「……さあ、終わらせて上げて下さい」
「ああ」
 冷気の担い手たるシーラに促され、ライゼルが拳を固く握りしめる。
 横をクラヴィクが追い抜き、ドリームイーターを掘り起こすかのように上空へと突き上げた。
「……」
 落下してくるドリームイーターに狙いを定め、ただまっすぐにライダーパンチ。
 ドリームイーターは木々の狭間へと殴り飛ばされ、受け身も取れず地面に埋もれる。
 ケルベロスが見つめる中、炎を消し、姿を薄れさせ……光の粒子と化して虚空に溶けた。
 静寂が訪れる。
 冷たい風が吹き、ケルベロスたちが勝利を知るその時まで……。

 戦いで火照った身体であっても冷たい風。
 体を軽く抱きながら、戀は仲間たちへと視線を送る。
「皆の者、お疲れ様じゃの。怪我しとるものはおらぬか? 妾が一曲奏でてやろう」
 労うため、新たな音色を紡いでいく。
 心も体も癒やされながら、ケルベロスたちは事後処理へと移行した。
 曲と共に穏やかな雰囲気に抱かれながら、滞りなく事後処理は完了する。
 後は確かめるだけ。
 武術を奪われてしまった男性が、しっかり目覚めているかどうか。
 山小屋へ向け登山を始める中、ゴロベエはひとりごちていく。
「もしも怪我とかないのなら、武術の完成度も見てみたいな」
 人知れずアンナは頷き、静かな思いを巡らせた。
 ――最初は何の与太話かと思ったが……お前の武術、悪かなかったぜ。その内、拳法として名を残せるといいな。
 出会ったらそんな言葉を投げかけて、その努力をねぎらって。
 いつの日か彼の育てきた武術が、実を結ぶ日が来る事を願って……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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