愛する我が子へのXmasプレゼント

作者:そらばる

●引き裂かれたプレゼント
 仕事帰りと思しき女性は、閉店間際に飛び込んだおもちゃ屋からしばらく経って出て来ると、充実の溜息を零した。
「はーっ……良かったぁ。限定生産ぬいぐるみ、最後の一個!」
 その腕に抱えているのは、クリスマスカラーで梱包された縦長のプレゼントボックスだ。
「まりあ、喜ぶだろうなあ。あとはクリスマスまでどこに隠しておくかよね……ちょっと早まったかな? でも、買い物できる時間なんて、なかなかとれるもんじゃないしね」
 弾んだ声で呟きながら女性が角を曲がった瞬間、手の中のプレゼントが一瞬で弾けた。引き裂かれた梱包の中から飛び出したのは、大きなクリスマスブーツからひょっこりと顔を出している格好の、真っ白なウサギのぬいぐるみ。
 それを掴み取った女の手が、無情にもブーツとウサギを握りつぶした。
「ああッ、まりあへのプレゼントが……!! アンタたちなんてこと――ッ」
 女性は悲痛な声を上げると、怒りに燃える瞳で眼前に居並ぶ二人の女性を睨み据え――しかし、それ以上の言葉を紡ぐことは叶わなかった。
 二人の魔女が差し出す二本の鍵が、女性の心臓を貫いていた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 不敵に笑みながら、鍵を引き抜く魔女たち。
 女性の体が壁にもたれてくたりと倒れる。その傍らに不意に現れたモザイクが、急速に真っ白なウサギと真っ赤なブーツの姿を象った。
「ま、まりあちゃんへのプレゼントを壊すなんてぇ……」
「許しません! ぜぇったいに、許さない……!」
 ブーツの後ろにこわごわ身を隠すウサギのぬいぐるみと、息巻き地面を踏みしめ仁王立ちするクリスマスブーツが、夜の街を徘徊し始めるのだった。

●贈ることができなかった怒りと悲しみ
 パッチワーク第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテ。
 二体は共に行動し、今また新たな事件を起こそうとしている。
「今度はクリスマスプレゼントを狙うなんて……本当に酷い魔女ね!」
 歌枕・めろ(夢みる羊飼い・e28166)はすっかりご立腹の様子。戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)も深く頷き同意する。
「襲われるのは壮年の女性、渡会・みさえさん。娘のまりあちゃんの為に購入したばかりの大切なプレゼントを、魔女達に破壊され、その際生じた『悲しみ』と『怒り』の心を奪われてしまいます」
 奪われた心からは、プレゼントの中身を模した『真っ白なウサギのぬいぐるみ』と『真っ赤なクリスマスブーツ』の、2体のドリームイーターが生み出されてしまう。
 2体は連携して周囲の人間を襲い、グラビティ・チェインを奪おうとしてくる。
 悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、相手がその悲しみを理解できなければ『怒り』でもって殺害する、という手法。ただし、どのように答えても難癖つけて襲ってくるらしく、狙われた一般人が助かる事はないようだ。
「悲しみの『ウサギ』と怒りの『ブーツ』。被害を出す前に、これらのドリームイーターの撃破をお願い致します」

 敵は『ウサギ』と『ブーツ』の2体。双方とも小学生低学年ぐらいの身の丈で、戦闘においては後衛と前衛に別れて連携して戦うようだ。
 悲しみの『ウサギ』はメディック。『ブーツ』の背後に隠れて回復、『ブーツ』の中に隠れて回復、手をがむしゃらに振り回してぽかぽか殴る、といったグラビティを使用。
 怒りの『ブーツ』はディフェンダー。『ウサギ』を守りつつ、激しく地面を踏み鳴らしその衝撃で攻撃、列を薙ぎ払う回し蹴り、巨大化して直接踏みつけ攻撃、といったグラビティで攻撃してくる。
「2体が出現するのは、人通りのない裏通り。人間の姿を求めて一目散に間近の噴水広場へとやって参りますので、そちらで交戦する運びになるかと存じます」
 深夜に差し掛かった時間帯なので、噴水広場にも人はさほど多くない。駆けつけてからの時間にもあまり余裕はない為、人払いは簡単かつ簡潔に済ませ、戦いに集中すべきだろう。
 襲撃されたみさえだが、命に別状はなく、裏通りで壁にもたれて昏倒している。事前の保護をしている時間はないので、接触するのであれば戦闘後になるだろう。
「女手一つの母子暮らし、少ない時間を捻出して、唯一生き甲斐である娘さんの為に手に入れた、もう二度と手に入る事は叶わぬであろうプレゼント……怒りと悲しみに心を支配されたとて、誰が責められましょう」
 子を愛する母の心を利用し生み出された存在を、決して許してはならない。確実な撃破をお願いします、と鬼灯は深々と頭を下げた。


参加者
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)
市松・重臣(爺児・e03058)
火岬・律(幽蝶・e05593)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
歌枕・めろ(夢みる羊飼い・e28166)
伊園・聡一朗(アタラクシア・e38054)

■リプレイ

●悲しみのウサギと怒りのブーツ
 クリスマスを前にして、イルミネーションで明るく飾り付けられた噴水広場。
 夜も深まり、行き交う人々もまばらになり始めた頃、複数の足音が慌ただしく広場に滑り込んだ。
「我らは番犬! すまぬが暫しこの場を預けて頂きたい!」
 噴水の水音を押しのけて真っ先に声を張り上げたのは、市松・重臣(爺児・e03058)。それを皮切りに、ケルベロス達の簡潔な呼びかけが次々に投げかけられていく。
「噴水広場は戦場になります、避難をお願いします」
「デウスエクスが来るよ。ここは離れて、しばらくは近づかないで」
 ラブフェロモンや割り込みヴォイスを駆使した声掛けに、色めき立つ人々。
「おれたちにまかせて」
 仲間達の視線に頼もしく頷き返すと、近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)達はまごついている人々に丁寧に声を掛けながら殺界を広げていく。噴水広場からは次第に人の姿が消えていった。
 問題の裏通り方面を警戒する配置にケルベロス達が陣取った時にはもう、人ならざる二つの影が噴水広場に向かってくるのが目視できた。
 朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は隙なく待ち構えながら、懐かしそうに目を細めた。
「私の両親も共働きでなかなか接する時間が少なかったけれど、こういうイベント事では頑張って時間作ってくれてましたねー……」
「いい家族だね」
 伊園・聡一朗(アタラクシア・e38054)は人々の避難が順調な事を横目で確かめながら、穏やかに微笑んだ。
「ですね。今思えば、すっごい大変だったんだろうなー。働く大人を応援するためにも、このドリームイーターはきっちり倒しちゃいましょう!」
 環が明るく頷き、気炎を上げると同時、白色と赤色の二体がいよいよ姿を露わにした。
「プ、プレゼント壊さないでぇ……壊さないでよぉ……っ」
「貴方たち、壊すつもりですか!? 壊すつもりなんですね!?」
 怯えきってブーツの影で身を縮める白ウサギと、地団太踏んで怒りを発散する真っ赤なクリスマスブーツ。子供ほどの大きさのドリームイーター達だ。
「怒りや悲しみなんて語られるまでもあるまいよ。他人事すら苦しいものだ……だからこそ、いま此処で止める」
 魔術師然とした声音で、聡一朗は静かに断じた。

●強化と破壊の戦い
 敵が動くより早く、火岬・律(幽蝶・e05593)は九曜の調を唱え始めた。
「――土、水、木、火、金、月、日、計、羅」
 狂乱制御。古の呪が、後衛の視覚を制御し、精度を高めていく。
「Con onor muore chi non puo serbar vita con onore」
 続けて、歌枕・めろ(夢みる羊飼い・e28166)がL'ultima ariaを歌い、前衛の力を高めていく。祈りのように呪いのように。戦え、戦え、散りゆく瞬間こそ華は最も輝くのだから。
「ルーチェ、行きましょう」
 強化を得たレティシア・アークライト(月燈・e22396)は、小気味よい音を立ててピンヒールで石畳を踏みつけ、アームドフォートの主砲をウサギに向けて解き放った。ウイングキャットのルーチェはつかず離れず、「やれやれ手伝ってやるか」とでも言わんばかりの鷹揚さでリングを投擲した。
「またも家族の想いを踏みにじるか。実に度し難い連中じゃ。せめてこれ以上の悲劇となる前に、止めて見せよう!」
 憤然と言い放ちつつ、カラフルな爆発で後衛を彩る重臣。聡一朗はスターサンクチュアリを輝かせて敵の攻撃に備える。
「親の気持ちも愛される子の気持ちもわからないけど、人の想いを邪魔するドリームイーターが赦されるべきではないことは、……僕にもわかるよ」
 淡々と呟きながら、イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)が飛ばしたオーラがブーツに喰らいつく。
 続けざま、精度と威力を上げた環のスターゲイザーに後方へ押し込まれたブーツが、怒り心頭とばかりにバタバタと地面を蹴った。
「やっぱり! やっぱり! 壊すんですね! ――許しませんッ!」
 何度も激しく踏み鳴らされた地面が振動し、衝撃が前衛の足をすくう。
「ふえぇぇぇん……怖いよぅ……悲しいよぅ……」
 暴れるブーツの背後にこそこそ隠れたウサギが、治癒のグラビティを輝かせてブーツに耐性を付与する。
「やはり戦いは似合いませんね……ぬいぐるみ愛好家としては、愛らしい兎さんは可愛らしい少女の腕の中へ収まって欲しいものです」
 いじらしくさえ見える白ウサギの姿に、春日・いぶき(遊具箱・e00678)は複雑そうにぼやきつつも、盲目思想によってウサギの動きを牽制する。
 ケルベロス達は陣形に気を配りながらドリームイーター達と相対し、適宜ウサギを牽制しつつ、ブーツに攻撃を集中させた。幸いにして誘導は順調らしく、人々の気配は周囲にほとんど感じない。誘導担当の面々も、彼我の攻撃が一巡した辺りで早くも戦場へと滑り込んでくる。
「誘導完了ですか。これで思う存分戦えそうですね」
 いぶきは広くなったように感じる噴水広場に胸を撫で下ろしつつ、ideaの名を持つ惨殺ナイフを閃かせる。
「次はあなたです」
 レティシアは標的をブーツに変更し、美しく流れるような所作で魔力弾を撃ち出した。
「ブーツって唇どこだろ? ここでいい?」
 イブは深々とブーツの至近距離へと踏み込み、足の甲の辺りにばらの騎士の口づけを落とした。
「壊すな! 壊すなッ!」
 集中砲火を浴びたブーツがいきり立って、回し蹴りの如く前衛を薙ぎ払った。お返しとばかりに、前衛に行き渡っていた強化のいくつかが衝撃と共に砕かれる。
「やだよぅ。やだよぅ」
 絶え間なく嘆くウサギは、攻撃を終えて戻ってきたブーツの中に必死に身を隠し、小さく体を丸めてブーツの守りを高めていく。
 厄介な強化に対抗すべく陣形に破魔力を付与し終えた律は、ヒダリギに視線をやった。
「近衛木、敵の強化を砕けるか」
「やってみる」
 破魔力の助けを得て、レガリアスサイクロンで踏み込むヒダリギ。軽い衝撃と、守護を砕いた確かな手応え。
「消されても、めろがもっとたくさん強化してしまえばいいのよね」
 めろはにっこり微笑みながら、絶やす事なく治癒の光を陣営に満たし続けた。

●崩れる盾
 ドリームイーター達は連携して、守備を固める事に重きを置いた戦術でケルベロスに対抗し、彼我の睨み合いは長期戦の様相を呈し始めていた。
 ウサギは回復に忙しく、ケルベロスを攻撃するのはブーツのみだったが、シンプルな攻撃は精度が高く、前衛をジリジリと削り取っていく。
 幾度目かの振動攻撃に足が鈍るのを感じたイブは、早めの救援を要請する。
「いぶきくん、回復お願い」
「お任せください! メリークリスマス。幸せな夜に魔法の言葉を唱えるために努めましょう。全力で」
 待ってましたとばかりに即座に応え、薬液の雨で弱化効果を洗い流すいぶき。旅団仲間同士、息ぴったりだ。
 聡一朗を主軸に、ケルベロス達も回復に怠りない。手数の多さは圧倒的。強化で、弱体化で、破剣で、徐々に徐々にブーツを追い詰めていく。
「うぐぐぐ! 許せない! 許せないーッ!!」
 攻めあぐね、癇癪を起したようにジタバタ暴れ始めたブーツは、瞬く間に倍以上の大きさへと巨大化し、高々と跳び上がった。降ってくる靴裏にイブが踏みつけられる寸前、横合いからレティシアが押し出す形でイブと入れ替わり、強烈な一撃を受け止める。
「く……っ、霧よ、恭しく応えよ。暁を纏いて、彼の者に生命の祝福を」
 空の弓は、祈りの声に呼び起こされる。薔薇の香り漂う真白の霧で己の細胞を活性化させ、事なきを得るレティシア。
「そろそろ大詰めじゃな。八雲、頼むぞ!」
 敵の状態を見極め、重臣はウサギを洗脳電波で牽制しつつ、愛犬にブーツへの攻撃を託す。主に応え、柴犬に似たオルトロスが神器の剣でブーツを鋭く攻撃した。
 切り裂かれた守りの隙を、環が畳みかける。
「八雲くんナイス! まずは――1匹ッ!」
 懐へ飛び込み、勢いよく突きつけた一本の指が、ブーツの気脈を断ち切る。
 ビシリ、と固まるように動きを止めたブーツは、石化した場所からポロポロと崩れ落ち、やがて劣化した発泡スチロールの如く全身が崩壊していった。
「うわああああ! 壊れちゃったぁ……もうやだぁぁぁ――!!」
 盾を失ったウサギはぎゃあぎゃあ喚き散らしながら、やけっぱちになって突っ込んでくる。がむしゃらに腕をぶん回すばかりの攻撃を、しかしイブはあっさりと躱してみせた。
 その瞬間を逃さず、毒の雨を降らせてウサギの動きをさらに鈍らせるいぶき。
「どうぞ、心ゆくまで溺れてください。――今です、イブさん!」
「ありがと。……怒りも、悲しみも、僕の毒で溶かしてあげる」
 イブの口づけが含ませるのは、生来抱える病の毒。凄まじい威力でウサギを打ちのめし、その身に毒素を浸透させていく。
「続くのよ、パンドラ!」
 めろの凍結光線がウサギの熱を奪い去り、ボクスドラゴンのタックルと併せて、しつこく残っていたあらゆる強化を打ち砕いた。
「お疲れ様でございました」
 ピンヒールを駆使して流麗な動きで肉薄したレティシアは、受付嬢らしいにこやかな笑顔を浮かべながら、構造的弱点を痛烈な一撃で容赦なく破壊する。
「イベントの時の家族団欒は、たとえ短い時間であっても、心の中に残り続ける大切な時間なんだ……それを台無しにするのは、絶対に許さない!」
 環の全身全霊を集約させた不屈の拳が、想いを乗せて理論度外視の威力を叩き出す。
「儂の本気を見せてしんぜよう」
 重臣は一直線にウサギへと突撃すると、どこからともなく取り出したサンタ袋をぶん回して、痺れるような衝撃でウサギを激しく打ち据える。
「怒りも悲しみも、大事なものだと思うよ。だからこそ嬉しい日、楽しい時間が、大切な思い出なんだ」
 ロッドの先から雷をほとばしらせながら、聡一朗は明朗な声音で穏やかに言葉を紡ぐ。
「もう寝る時間だよ。ゆっくりおやすみ」
 放出された雷が、ウサギを激しく打ち据えた。
 律は打刀の刃に空の霊力を纏わせ、動けずにいるウサギの懐に深々と踏み込んだ。
「子を思う親の気持ちを踏みにじった落とし前を、つけてもらおう」
 全身を斬り裂かれたウサギは、物悲しい悲鳴を上げながら、弾けて綿をまき散らしながら絶命した。

●今年限りの特別なプレゼント
 ドリームイーターが退けられた噴水広場は平和を取り戻し、そこには戦闘の痕跡だけが残された。
「ここはきっと沢山の人の思い出と約束が詰まった大事な場所だ、傷を残したくないからね」
 聡一朗は空中に霊札を列べ、水球へと変じさせて呪いを流し、石畳の傷を、壊れたイルミネーションを、街路樹の傷みを、念入りに消し去っていく。慈しみと祝福をこめて。
 一方、他の面々は、裏通りで昏倒しているみさえの元へと駆け付けた。
「ああそっか、壊されちゃったんだった……プレゼントどうしよう……」
 無事意識を取り戻したみさえは、頭を抱えて青息吐息。
「よかったら、めろたちに任せてもらえない? 完全に元通りにはならないかもだけど、ヒールとお裁縫、みんなで頑張るから!」
 めろの提案に、みさえは目を見張ってケルベロス達を見回すと、ほんのわずかな逡巡ののち、腹を決めたように頷いた。
「どうせもう取り返しはつかないんだもの。皆さんの好きなように、リメイクしてあげちゃってください!」
 肝っ玉の据わったゴーサインを得て、ケルベロス達は手分けしてぬいぐるみの修復に取り掛かった。裁縫道具を持ち寄った面々がばらばらになった布地のパーツを各々縫い合わせ、ぬいぐるみの目や装飾などの替えの効かない細かい部品は、ヒールで修復していく。
「まりあちゃんが寂しくなった時でも、ちゃんと大切にしてもらってたんだって、そう思ってもらえるような仕上がりにしたいですよねー」
 裁縫を苦手とする環も、皆を手伝い、一針一針ゆっくり丁寧に縫い合わせていく。
(「どうか、愛する気持ちが伝わりますように」)
 祈りを込めて、真っ二つに砕けてしまったウサギの目のパーツにヒールをかけるイブ。装飾部品の数々が、宝石のような透明な輝きを帯びながら復活していく。
 後悔と期待をないまぜに、みさえはやきもきしながら作業を見守っている。
「……私には子供はおりませんので、渡会さんのお気持ちを真に知ることは出来ないと思います」
 万全の準備で持参した裁縫道具を適宜仲間達に提供しながら、律はぽつぽつとみさえに語りかけた。
「ですが、渡会さんが娘のまりあさんの為に尽くされていることは、此処にいる者と、誰よりまりあさんがご存知でしょう。御自身を責められないでください」
「そう……そうかな……まりあ、許してくれるかな……」
「気持ちも物も、起ったことを無かったとは出来ませんが、渡会さんがまりあさんを想うお気持ちさえ代わりなければ、乗り越えることは可能ですよ」
 そう結ぶと同時に、仲間達から「できた!」と歓声が上がった。律はリメイクを終えたぬいぐるみを受け取り、埃や汚れをハンカチで綺麗に拭って優しく形を整えると、みさえにそっと差し出して見せた。
 クリスマスブーツからひょっこり顔を出した白ウサギ。ウサギの本体は所々縫い目が歪な部分もあるけれど、往時の愛らしさはそのまま。つぶらな両眼やブーツの各部装飾は、透明な宝石のように煌めいて、あちらこちらに繊細なレースのような透かし模様が浮かんでいる。
 既製品そのままではない、けれど、ひょっとしたらそれ以上の……。
「お母さんの気持ちがこもった、世界で1つのプレゼントですね」
 携帯用のソーイングセットを片付けながら、レティシアがにこやかに微笑んだ。
「本当に……素敵……」
 みさえはようやく口許を緩め、感極まったように溜息を零した。
 めろはさらに、いぶきの店で買った大きなぬいぐるみを持ち寄って、完成したぬいぐるみを抱っこさせた。
「大きいうさぎはお母さんうさぎね」
 どうか二人のクリスマスが楽しい一時になりますようにと願いを込めて、親子ウサギの首にお揃いのリボンが結ばれていく。
「まりあちゃんは喜んでくれるさ。なんたって大好きなお母さんからの贈り物だもんな」
 ヒールを終えて皆に合流した聡一朗が、プレゼント用の袋に二体のウサギを納めて、ラッピングを施していく。
「お忙しい毎日とは思いますが、娘さんの笑顔を、諦めないで頂きたいです」
 ラッピングの仕上げを確かめ、完成品をみさえに差し出すいぶき。
 そこに、爺サンタと柴カイからも気持ちばかりじゃが、と重臣が金平糖の小包を添える。
「完全に元には戻せずとも、母の想いや手が加わった品ならば、それこそ世界に唯一つの貴重な品となる筈じゃよ。どうか幸いな日々を!」
 予定よりも大きな、ずっと素敵なクリスマスプレゼントを受け取って、みさえはようやく、抜けるような笑みを浮かべた。
「……お世話になりました。きっとまりあも喜ぶし、いつもよりも素敵なクリスマスになるわ。みなさん、本当にありがとう! 私も頑張る!!」
 気風の良い笑顔を残して威風堂々と立ち去る一児の母の背中を、ケルベロス達は微笑ましく見送るのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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