イルミネーション・ナイト

作者:天枷由良

●眩い光に誘われ
 クリスマスイルミネーションで飾られる繁華街。
 その路地裏から、大きな白銀の鎧が姿を現す。
 方々からの光に照らされたそれは美しくも見えたが。
 中に収まる男は、狂気の罪人。重罪のエインヘリアル。
「おお! 私めの剣に注ぐべき生贄がこんなにも……こんなにも!!」
 仰々しい口調で叫び、男は自身と同じくらい大きな両手剣で人々の首を刎ねだした。
 悲鳴と怒号が湧く。おびただしいほどの血が刃を、鎧を、そして街を汚していく。
 その中心にあって。
「なぜ逃げますか! 私めの剣が皆様を求めているというのに!!」
 エインヘリアルはひたすらに声を荒らげて、剣を振るい続けた。
 街が血と闇に沈むまで、それほど時間は掛からなかった。

●ヘリポートにて
「がうぅっ、わんわんおー!!」
 ガル・フェンリル(螺旋授かりし真紅の狼・e03157)が怒るように吠えていた。
「当然よね。また悪いエインヘリアルが事件を起こすんだもの」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は燃える様な赤毛の娘を見やってから、手帳に目を落として語りだす。
「今回現れるのは、アスガルドで凶悪犯罪者として扱われていたエインヘリアル。地球の人々を虐殺して恐怖と憎悪をもたらす為の捨て石じみた相手だけれど、だからこそ人々の生命を奪わせるわけにはいかないわよね。被害が生じないよう、早急に撃破してちょうだい」

 敵の出現は夜。現場はきらびやかなイルミネーションが展開された繁華街。
 行き交う人々は多いが、その避難誘導は警察などに対応してもらう手はずを整えてある。ケルベロスたちは到着後すぐに出現するエインヘリアルと、そのまま戦闘に入ればよい。
 そのエインヘリアルだが、白銀の全身鎧を着込んで身の丈ほどの大剣を携えている。
「まるで騎士のようだけれど、中身は同族からも爪弾きにされたような男だから、まともに取り合おうとせず叩きのめしてしまうのよ」
 気をつけるべきは、破壊力に富む大剣での攻撃。
 これは大きく分けて二種類。一つは斬るというより殴りつけるような破壊に特化したもの。そしてもう一つは、斬撃で血と生命を奪い取るもの。エインヘリアル自身の凶暴性も相まって、どちらも威力は申し分ない。十分に気をつけなければならないだろう。
 また、鎧には戦闘能力を向上させる術が施されているようだ。敵が鎧の力を発動させることがあれば、回復するだけでなく攻撃力も強化されてしまう。此方にも対抗策を用意しておきたいところだ。
「悪いやつが悪いことする前に、ぶっ飛ばしてやらないとね!」
 ガルが、今度は言葉で吼えた。
 その頼もしさに頷き、ミィルは説明を終えた。


参加者
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
ガル・フェンリル(螺旋授かりし真紅の狼・e03157)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)
桜庭・愛(天真爛漫美少女レスラー・e08275)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)
巽・清士朗(町長・e22683)

■リプレイ


 絢爛華麗なイルミネーションで彩られた街は、物々しい雰囲気に包まれていた。
 幾つかの通りが塞がれて、大勢の人々を警官が誘導している。
 その流れを遡ると街の一角に生じた空白地帯へと辿り着く。
 ひと気はないのに、方々で鳴るクリスマスソングは陽気さを失っていないのが虚しい。
 だから、というわけでもないが。無人の街角に踏み入った黒いスーツの男は、聞こえてくる歌を口ずさむ。大きなライフルを担ぐ腕とは反対の袖口から垂れた鎖が、一歩進むたび地面を擦って微かに音を立てていた。
「……冬の夜空には温かみのある光こそ似合うというもの」
 辺りを見回した男は独り言つ。
 佇まいに緊迫したものはなく、しかし眼差しは鋭く。視線は街を飾る煌めきを一通り攫った後、一本の路地に注がれる。
 その暗がりに僅かな白銀の輝きを認めた瞬間。巽・清士朗(町長・e22683)はライフルを構えて、また呟く。
「華美に過ぎる装飾にはお引き取り願おう」
 帰る先は、今しがた『あれ』が通ってきたばかりの闇よりも更に深い場所。其処に導くため、清士朗は銃口に宿った光の粒を弾と呼べる大きさまで膨らませてから解き放つ。
 撃ち出されたエネルギーは使命を果たすべく、路地に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「――ッ!!」
 暗闇で冷たい光が瞬き、唸り声が聞こえた。
 塊が二つに分かれて消える。そして現れた白銀の鎧は、身の丈ほどもある剣を胸の前に掲げながら天を仰ぐ。
 四方八方の電飾に照らされて立つ様は何処か神々しい。
「おお! 久方振りの生贄よ……!」
 感極まった声。それを悠然と聞き流す清士朗を見据えて、白銀鎧のエインヘリアルは大股で踏み出した。
 風貌こそ騎士と似ているが、その動きは獣じみている。
 獲物を前にして堪えきれなかった獣。だから両眼に映るのは黒いスーツばかりで、靡く赤毛など見えているはずもない。
「唸れ、ビーストアタック・ナックル!」
 左腕を赤狼のものに変えたガル・フェンリル(螺旋授かりし真紅の狼・e03157)が、勇ましく吼えて体側を打つ。衝撃が空気を震わせ、拳を叩きつけられた金属板の一部が耳障りな音を立てて拉げる。
 強烈な一撃に巨躯も蹌踉めいた。ガルから離れるようにふらふらと数歩流れて、踏みとどまるため大剣を地に突き立てる。
「わんわんおー!!」
「おお! 私めの剣に注ぐは狗の血でも良し!」
 威嚇の咆哮には芝居がかった台詞で肩透かし。
 剣が持ち上がり、開いた間合いが一跨ぎで縮まる。大上段に構えられた刃は赤毛の首を狙って、ごうっと風を起こしながら落ちてくる。
 技と呼ぶには粗すぎるが勢いは凄まじい。ガルが飛び退くよりも先に、凶悪な塊は彼女を飲み込もうと迫る――が。
「遠くから来たばっかりで申し訳ないんだけど」
 血は一滴も流れず。殴りつけるような一撃は竜の頭骨を象った篭手に受け止められて、その下から赤毛の少女と違う声が漏れ聞こえる。
 ゆっくりと横にずれた刃の影からは青い目が覗いた。そこに渦巻く凶暴性は巡り巡ってカッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)の口元を歪め、言葉に悍ましいものを滲ませる。
「ここにお前の生贄はいなくって。いるのは黒猫の生贄なんだよねぇ」
「おお、何処に!!」
 エインヘリアルはきょろきょろと辺りを見回した。
 あまりに滑稽で、カッツェの喉奥から笑いが溢れる。お前の生贄はいないと前置きしてやったのに、眼前の巨躯は都合のいいところしか聞こえていないらしい。
「目の前にいるだろ? カッツェの可愛い『黒猫』がさぁ!」
 大剣を押し返してから一閃。漆黒の大鎌が鎧を、そしてエインヘリアルの血肉と魂を喰い千切る。刃から柄、掌と伝ってくる感触はカッツェを昂ぶらせた。
 しかし惜しいのは。
「なんと! 生贄は貴女様でございましたか!」
 敵が頓珍漢な反応ばかり返してくること。泣くとか喚くとか恐れ慄くとか、そういう無様な姿が魂を美味しく味付けてくれるというのに。
「……いまいち面白くないなぁ!」
「そう言わず! 私めの剣に血を! 生贄を!」
「そんなに生贄が欲しければ、お前自身を供物としろ!」
 木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)が大太刀に手をかけて割り込む。
 エインヘリアルは闖入者に意識を向けるが一歩遅い。桜吹雪と共に居合い斬りを見舞って、あっという間に過ぎたケイは刀を収める。
 途端、巻き起こる風が桜の花を炎に変えた。
「ビューティフル! クリスマスツリーみたい!」
 燃え上がる巨漢にケイ自身が声を上げる。
 何処からともなく勝利を労う台詞が聞こえて、イェイイェイと――。
「勝ち誇るにはまだ早いよな、うん」
 何のことやらさっぱりの仲間を置き去りに、ケイは独り言を零して、さらに続ける。
「一つ言っておきたい! ……ナイトだからって夜に現れることナイト思う!」
 寒風が吹き付けた。
 戦場の視線が全て、戯言を放った細身の色男に集まる。そこに込められた諸々を代弁するかのように、ボクスドラゴンのポヨンが張り手をかます。
「いってぇ! おい、殴るならあっちを殴ってくれ! 今日は好きなだけやっていいから!」
 日頃は回復役へと回すことの多い相棒に、ケイは言い聞かせるが。
「めっきり寒くなってきたし、思う存分体を動かすといいぞ! 年末年始は太りやす――いってぇ!」
 どうにも口が滑って、災いばかりが降りかかる。
 それでもポヨンはサーヴァント。ぽよぽよの身体を揺らして、赤いスカートを翻して。猛進する途中で重箱風の封印箱に入り込むと、勢いよく体当たりをぶちかます。
 40cm角だと侮るなかれ。当たりどころが良ければ3mの敵にだって十分な脅威だ。
「花嵐、私達もいきますよ」
 サーヴァントの奮闘を見て、百鬼・澪(癒しの御手・e03871)がニーレンベルギア纏うボクスドラゴンに呼び掛けた。
 そのまま砲撃形態の巨大鎚を構えると、花嵐が四肢に力を込めてブレスを放射する。名を表したような花弁の旋風に呑み込まれたエインヘリアルは、直後に砲弾の直撃を喰らって派手にもんどり打った。
 すっかり傷まみれの白銀鎧が、頭から落ちてぐしゃりと騒々しい音を発する。
 鉄板のような剣も僅かに遅れて地面を叩く。それで目が醒めたか、似つかわしくない柔軟さで飛び起きた巨体が目にしたのは。
「騎士の面汚しめ、騎士道もわからぬ外道、此処から先は通行止めだ」
 冬空を物ともせず立つ蒼いハイレグ(鎧)。
 小さな身体からは烈火の如く怒りが湧き立ち、二振りの刀を携える姿は魔を滅ぼす不動明王を想起させる。
「三途の渡し賃、その豪勢な鎧と剣であがなってもらう」
 言うが早いか低く低く構え、桜庭・愛(天真爛漫美少女レスラー・e08275)は高速回転。巨体に真正面から向かって一気に突き抜けた。
 続けざま、九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)もすらりと鞘から抜いた刀を上段に構えて思い切りよく斬りつける。
 卓越した技量の一太刀は鎧を袈裟懸けに裂き、矢継ぎ早の攻撃で翻弄されるエインヘリアルから、とうとう悶え苦しむ声が漏れた。
 ……が、それも束の間。
 夜空に高く舞い上がり、七色の軌跡を残して落ちてきたエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)に蹴りつけられると、巨躯は雰囲気を急変させる。
「おお、おおお!!」
 声は感涙にむせぶようで少々気色悪い。おまけに息も荒い。どうやらエルスが履くブーツの魔力で、元より申し訳程度にしか存在しなかった理性が吹き飛んでしまったらしい。
「上手くいったようですね」
「ふむ、輪をかけて単調になったというわけだな」
 狙いを悟った清士朗が控えめに笑う。
 次々と現れる生贄候補に目移りしていたはずのエインヘリアルは、白椿咲くエルスの髪に視線を留めていた。全てとはいかなくとも、今後の攻撃は彼女に集中するだろう。
 しかし幾ら巨大な得物といえど無限に伸びるわけでなし。エルスが後衛として十分な間合いを取り続ける限り、その凶刃にかかる可能性は皆無に等しい。
 それでも無闇矢鱈に彼女を狙えば、大きな隙が生まれるだけだ。
「さて、役者も舞台も整った」
 垂らした鎖で魔法陣を描き、清士朗は不敵に言い放つ。
「一足早いパーティーを、始めようか」


「――おおおお!!」
 ずたぼろの鎧が子供のように両手を伸ばして走る。
 目指す先は当然の如く銀の髪。その直線的過ぎる動きを狙うのはあまりにも容易い。
 櫻子が胴を真一文字に斬り抜ける。刃に纏わせた空の霊力が流れ込んで、エインヘリアルの狂気を倍増させる。
 御しやすいといえば御しやすいのだが、好き放題に駆け回る巨体というのはそれだけで恐ろしい。
 しかしその前に平然と立ちはだかって、愛は両手の刀を振るう。斬撃は彼我の間合いごと斬り捨て、エインヘリアルに新たな傷を負わせた。
 それでも突進は止まらず、巨躯は愛の脇を過ぎていく。
「うぉっ!」
 進路上に立っていたケイが慌てて身を捩った。
「いっけにぇ! 危うく生贄にされるところだったぜ!」
 また寒風が吹き荒ぶ。だがエインヘリアルはひたすら爆進。
 見ているのもうんざりする。カッツェはふらりと正面に躍り出て、篭手に包まれる片腕を振り上げた。
 降魔の力が溢れて、竜そのもののような形を作る。
「……あんまり美味しくないと思うけど我慢して!」
 向かってくる敵の懐目掛けて腕を突き出す。拳が鎧を破り、指先が噛み付くようにエインヘリアルの腸を掴む。
「お、おおお!?」
 衝撃が頭を揺らしたか、騎士に僅かな知性が返った。
「生贄になるとはこういう!」
「案外悪くないでしょ」
「なるほど! しかし抉られるより抉るほうが好みでして!」
 鉄塊が宙を薙いだ。
 半身に構えたカッツェを刃が襲う。躱しきれず、冷ややかな感触に舐められた身体から血が溢れ出す。
「……やっと楽しくなってきた!」
 獲られた分は獲り返す。カッツェはニタリと笑って、腕にさらなる力を込めた。
 ほぼ二倍の体格差など何処に消えたか、二人は組み合って動かない。
 それをじっと見据えて。
「星朧、揺らぎてひとつ」
 澪が穏やかに紡ぐと、巨躯の近くに柔らかい花のような光が一つ湧いた。
「蛍火、閃きてふたつ。彼岸花、導きてみっつ」
 数えるたびに色の違う光が生まれて、エインヘリアルを囲む。
「風花、去り逝きてよっつ。轟轟と啼きて進めや進め」
 四つ揃ったそれは四季の花々を思わせるような姿で漂い、主命を待つ。
「――千紫万紅、神解け」
 瞬間、花弁は一条の雷となって巨躯を穿った。
「ガル様、とどめを!」
「お前の獲物だぞ? 存分に引き裂いておいで、我が牙」
 エルスが九尾の扇で破魔の力を授け、清士朗が攻めかかる時を示す。
 応じたガルは螺旋力をオウガメタルに注ぎ、自身と瓜二つの姿にして敵を挟み込む。
「悪いエインヘリアルは、思いっきりぶっ飛ばすよ!」
 気合十分。前後から掌底を叩きつければ、力を失った巨体が横に倒れていく。
 それは程なく溶けるように崩れて、後には白銀の鎧すら残らなかった。


 繁華街には平和な賑わいが戻っていた。
 幸い大きな被害もなく、戦いの跡もケルベロスに片付けられている。ヒールされたものは幻想的になるのが常だが、イルミネーションの中では最早区別もつかないくらいだ。
「わふっ、わふっ……!」
 赤毛の狼に変身したガルが、色とりどりの光を前にはしゃぎ回って吠えている。
 それを聞いて、ぼんやりと電飾を眺めていたカッツェは留守番させた番犬を思い起こす。……番犬といっても、その名は黒猫と同じ愛称。正体は蒼刃の大鎌なのだが。

 愛は被害にあった者がいないかと心配しきりで辺りを見回していた。
 それは杞憂で済み、胸を撫で下ろす。すると、不意に櫻子と視線が交わった。
 曇りを拭おうと眼鏡を外していた彼女の顔立ちは、少し幼いように感じられる。
「ヤダ、そんなに見ないでください。恥ずかしいですわ」
 ほんのり顔を赤らめて、櫻子は言った。

「ポヨンもキラキラ好きだろ」
 光の芸術を眺めながら、ケイは相棒に語りかける。
 思い返せば去年のクリスマス、ポヨンにはトナカイのコスプレなどさせたような。
「今年もクリスマスプレゼント、リクエストしてもいいぞ」
 豪勢なディナーは別にして……と、そんな主の言葉を待ちわびていたか、ぽよぽよボクスドラゴンは何かを取り出してくる。
「ん、これか……って、新しいハンドバッグぅ!?」
 何処から持ってきたのか。おまけに値札がつきっぱなしで――なるほど、うん。良いお値段だ。
「お前そんなの使わないでしょ! まったく……レディ扱いしろって素振り、最近増えてないか?」
 問いかけには、ぺちぺちと平手打ちが返ってきた。

 一方、花のボクスドラゴンも機嫌よく跳ね回っている。
 花嵐が光の中を潜っていく様はなかなか幻想的で、通り掛かる人々も少しばかり目を奪われていた。
「ふふ、あまり騒ぎすぎてはいけませんよ」
 窘めるように言いつつも、澪は楽しげな妹分を穏やかな微笑みで見守って、のんびりと追いかける。
 眩い装飾と軽やかな音楽に自然と心も弾んで――と、そこに加わる新たな刺激。
 鼻孔をくすぐったのは小さな店から漂う香りだ。視線を向ければ、白椿をつけた銀髪が何かを抱えて走りすぎていくのが見えた。

「ほくほくの鯛焼きですよ!」
 エルスが広げた包み紙から、湯気立ち上る和菓子が『頭』を覗かせる。
「わ……わんわんおー!!」
 赤狼が飛び跳ねた。それを抑えながら包みを受け取り、清士朗は屈み込む。
 エルスは二人を見やってから、ふーふーと鯛焼きを冷ましつつ街中に目を向けた。
 改めて見るとイルミネーションも結構気合が入っている。動物やら雪だるまやらを象ったものがそこら中にあるし、街路樹の枝の一本一本にまで小さな電飾が括り付けられて、ただの道を豪奢に飾っている。
「ちょっと寒いけど、すごく綺麗ですねー」
「わふわふ……!」
 両眼を輝かせていると、ここに暖かなもふもふがありますとばかりに、ガルが擦り寄ってきた。
「そういえばガルはクリスマスに、なにか欲しいものはないのか?」
 追随した清士朗が尋ねてみれば、甘味を堪能する赤狼は「わんわんおー!!」と元気よく吠える。
 なるほど。……なるほど?
 清士朗は一瞬ばかり、きょとんとして。それから微笑むと、赤毛を抱き寄せた。
「ではクリスマスにはちと早いが、三人で美味しいものでも食べながら帰ろうか」
「わふ!」
「清士朗様、奢ってくれるの?」
 電飾に負けないくらいきらきらとした瞳に、頷き返す清士朗。
 ならば今しがた胃に収めた菓子など序の口。
「ガル様、いきましょう!」
「わんわんおー!」
 女子二人は先陣切って、あのお店がこのお店がと品定めを始めた。
 その後ろ姿。右に左に忙しなく揺れる赤い尻尾を見つめて。
「有難う」
 清士朗は呟き、ゆっくり後を追っていった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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