きみの笑顔が見たかった

作者:青雨緑茶

「ああ、そんな……!」
 腰の高さにも満たないクリスマスツリーを破壊されて、男性はその場にくずおれた。
 彼は妻を亡くして以来、男手一つで娘を育ててきた。暮らし向きは決して裕福ではなく、親子二人で食べていくのがやっと。今までろくにプレゼントもしてやれず、娘もまだ8歳だというのに、遠慮してか父に何かをねだるような事もなかった。
 そんな娘に、今年こそは何か喜ぶ事をしてやりたかった。
 何か欲しい物はないのかと尋ねたら、散々何もいらないと押し問答した末に『じゃあ、クリスマスツリーが欲しいな』と言った。それで少ない稼ぎをどうにかやりくりして、ようやく用意する事が出来たのがこのツリーだった。
「ただ、娘の笑顔が見たかっただけなのに……なんでこんな仕打ちをするんだ!」
 新しいものを買い直せるほどの余裕はない。咄嗟の悲しみが怒りに変わり、彼はそれを仕出かした2人の魔女を睨み上げる。
 その心臓を、魔女達は手に持つ鍵で同時に一突き。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテがそう嘲笑うと、意識を失って倒れた彼の傍らに、ずるり、と2体のドリームイーターが現れる。
 1体は、破壊されたものより大きな、立派な枝振りに綺麗なオーナメントが充実したクリスマスツリー。二足歩行する足が生えている。
 そしてもう1体は、ツリーの飾りになっていたジンジャーマンクッキー。
「アノ子のタメ、アノ子のタメ、ダッタノニ」
「割れて、砕けて、粉々になっちゃえ!」
 2体のドリームイーターが道へ飛び出していくのを見送り、2人の魔女は、満足そうに姿を消した。


「娘さんのために一生懸命働いて、やっと用意できたプレゼント。それを壊すなんて、相変わらず酷い魔女達っす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は顔をしかめて、更に詳しい説明をする。
 怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテ。パッチワークの魔女である彼女達は、とても大切な物を持つ一般人を襲い、その大切な物を破壊し、それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪って、ドリームイーターを生み出すようだ。
 生み出されたドリームイーターは、2体連携して行動し、周囲の人間を襲ってグラビティ・チェインを得ようとする。
「悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、その悲しみを理解できなければ、『怒り』でもって殺害するってやり方らしいっす。
 ただし喋るっていっても壊れたスピーカーみたいに悲しみや怒りを語るだけなんで、会話は成立しないっす。あくまでもそういう鳴き声と捉えていいと思うっす。
 2体のドリームイーターが周囲の人間を襲って被害を出す前に撃破して欲しいっす、こいつらを倒す事ができれば、被害者男性も目を覚ますはずっすよ!」
 続けて、ダンテは資料を配る。
「敵のドリームイーターは通称『怒りのジンジャーマンクッキー』と『悲しみのクリスマスツリー』。2体のみで、配下などは存在しないっす。
 事件が起こる時刻は夜。2体は住宅街を徘徊して獲物を探してるっす、発見は難しくないはずなんで、速やかに討伐開始して下さいっす。避難勧告はしっかり出してありますし、ケルベロスの皆さんが接敵すれば敵はそこから逃亡もしないんで、安心して戦闘に専念して欲しいっす」
 で、攻撃方法は。と資料を捲るダンテ。
「えーと、まず『怒りのジンジャーマンクッキー』はディフェンダー。
 手に持ってるキャンディのステッキを近接武器として扱う単体技、生姜の香りの砂糖を撒いてジャミングしてくる列魔法。
 次に『悲しみのクリスマスツリー』はスナイパー。
 ツリーの一番上の星を手裏剣みたいに飛ばしてくる単体技、氷点下を操って範囲内の敵を凍らせてくる列魔法。
 それから2体とも共通で、粉雪を舞わせて妨害能力を上げるヒールも使えるみたいっす。
 聞いての通り『怒りのジンジャーマンクッキー』が前衛、『悲しみのクリスマスツリー』が後衛で、連携して戦うんで、注意が必要っす」
 一通りの説明をして、ダンテは拳を握ってケルベロスを激励する。
「贈り物は籠められた気持ちが一番大事なんす。大切な物を壊された怒りと悲しみから生み出されたドリームイーター、なんとか皆さんの手で討伐して欲しいっす!」


参加者
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
似鳥・朗(連ならぬ枝・e33417)
御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)
レムル・ドルクルス(ドワーフの鎧装騎兵・e37058)
マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)

■リプレイ


「……悪趣味で許し難いな」
 似鳥・朗(連ならぬ枝・e33417)は、被害者男性に強く共感を寄せていた。家族の喜ぶ顔が見たい、そんなささやかな願いくらい叶ってもいいだろうと、踏みにじられた絶望を痛いほどに感じていた。
「彼と彼女にとってはきっと大切な、折角のクリスマスなのに」
 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)も、徘徊中の敵を捜索する瞳には真摯さが籠もる。たった一人の笑顔のために尽くす人を傷つけていい道理なんてない。
 マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)も、ええ本当に、と頷く。
「馬鹿な男だ。さっさと逃げ出していればいい物を」
 コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)は不機嫌そうに、冷徹な言葉を吐く。だが声音にはどこかしら、口には出さない裏腹な情が滲んでいるようであった。
(「そんな事も忘れるほど、怒りを覚えたのだろうがな」)
 家族、大切な者を失い、ケルベロスとなった者も少なくはない。娘を思う父親気持ちを踏みつけて生み出された今回のドリームイーターには、皆、多かれ少なかれ憤りを覚えていた。
「アノ子のタメ、ダッタノニ」
 静かな夜の住宅街に悲しげな声が響く。
 現れた2体の夢喰いの片方、『悲しみのクリスマスツリー』が語りかける。
 聞き入れず迅速に陣形を展開する番犬達に、『怒りのジンジャーマンクッキー』が手にするキャンディケインを構えて襲いかかる。
「粉々になっちゃえ!」
 特別な夜を彩るはずのツリーとお菓子。だが見た目は可愛らしくとも魔女達の悪意の象徴である2体を相手に、戦いは始まった。


「大切な物を壊した罪は、器物損壊なんかじゃ済まないよ! いこう、犯人退治だっ!」
 姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)は開幕、バレットタイムで己の感覚を増幅する。敵が面倒なエンチャントを得ても、即座に確実に砕くべく。
「こういうの、地味にえげつない一撃だよな」
 アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)は夢喰いの所業に呟き、手元で魔導書を開く。
「『その剣は敵を絶つに敵わず、その鎧は守護には適わず。されど決して守るべきものを背にして屈することは無い。故に我等は――紅札騎士団(アカキオウケン)』」
 書から呼び出された幻想のトランプが前衛の周囲を舞い、状態異常から守る盾となる。
「ヤット、ヤット、買エタノニ」
「お砂糖みたいに砕けちゃえ!」
 ツリーは粉雪を舞わせ、ジンジャーマンの妨害能力を上げる。そのジンジャーマンは生姜の香りの砂糖を撒き散らし、前衛の動きを鈍らせようとする。予知で聞いていた通り、厄介な連携攻撃だ。
「きっと娘のために自分の時間を惜しんで働いて、やっと買った物だろうに。それをぶち壊すなんて……」
 酷い。御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)は敵へ眉を顰め、前衛に雷の壁を構築し、異常耐性を高める。
「怒って、も、悲しくて、も……。……ほんとうは、やさしい心……」
 レムル・ドルクルス(ドワーフの鎧装騎兵・e37058)は、2体の夢喰いを生み出された父親の気持ちを思う。ジンジャーマンにブーストナックルを喰らわせ、妨害アップのエンチャントを打ち消す。
 ジンジャーマンの撒いた生姜砂糖のパラライズも、アギトとねむるの初手の防護が効いた。状態異常を最小限に留め、番犬達は初手を首尾よく制した。


「行くぞ」
 コクヨウはオルトロスのゴーストと息を合わせ、無駄のない身のこなしでガトリングガンを連射する。ゴーストがすかさず回り込み、口に咥えた神器の剣で敵を斬り裂く。
「クリスマス大好き! プレゼントにご馳走も!」
 だからこそ許せないと、ロビネッタは目にも止まらぬ速さで弾丸を放ち、後衛のツリーを撃ち抜いて攻撃の邪魔をする。
「こいつはあたしが牽制するから! 硬そうなクッキーの方はみんな、お願いねっ」
「おう、了解だ」
 ディフェンダーのアギトはメディックによる回復の補助を念頭に立ち回りながらも、攻撃に回れる際は作戦に従いジンジャーマンに一撃を与える。
(「ああ、嫌だ。こんな風に感情を弄ぶ存在が」)
 ノチユは漆黒の髪を星屑の様に揺らめかせ、内心で唾棄して、ジンジャーマンに流星煌めく蹴りをお見舞いする。念のため退路を塞ぐ形で布陣していたが、敵の意識は元よりこちらに釘付けで、杞憂となったのが幸いだ。
「割っちゃえ、砕いちゃえ!」
「アノ子の笑顔、見タカッタ、見タカッタ」
 今度はジンジャーマンが粉雪を舞わせて、雪のおしろいが散ったツリーがてっぺんの星のオーナメントを飛ばす。
 星の手裏剣がコクヨウを斬り裂く。だが彼の気迫は、少しも翳らない。
「『……行って スティンガー……』」
 レムル小型のレーザー砲を装備したドローンで敵を取り囲み、攻撃を仕掛ける。スティンガー・ドローン、個々の威力は低いが、一斉に追い込んで与える圧力は至極重い。
「あなたの怒りも悲しみも、分かるような気がする。だって、大切な人のために大事にしてきたものを壊されたら、誰だって怒り悲しむでしょう」
 ねむるはオーロラのような光で包んで味方の手傷を癒しながら、夢喰い達の繰り返す言葉にも少し耳を傾ける。
「けれど、それを道具として更に利用するなんて……わたしはそれが許せない」
 語られる言葉は、ただ、父親の無念からトレースされたに過ぎない言葉。だからこそ、彼女は重たい瞼で敵を見据えた。
 マナは戦場にばら撒いたエスケープマインを起爆させ、敵を足止めする。ビハインドの真夜は金縛りをかけて阻害する。
「お前達の思い通りには、させない」
 朗はグラビティブレイクの破壊力をもって、ツリーのエンチャントを破る。
 脳裏に過ぎるのは、かつて亡くした妹の姿。娘の喜ぶ顔が見たいという父親への強い共感はそこからくるもので、容赦なく叩き込む拳に籠もる怒りは並々ならなかった。
「粉々になっちゃえ! 粉々になっちゃえ!」
「悲シイ、悲シイ悲シイ……アノ子の、タメ」
 ジンジャーマンは硬いキャンディケインで前衛の一人を強かに殴打する。ツリーは氷点下を操って、凍えるような冷たい風を吹き荒ばせる。
「本当に大きなツリー……元のよりも大きいだなんて、嫌がらせみたい。人の心を抉ることにかけては何よりも優れているね」
 仲間が受けた大きなダメージをウィッチオペレーションでケアして、ねむるは、魔女がわざわざ生み出した立派なツリーの意味を察して眉を顰める。
「子供は風の子! 寒くなんてないからねっ――名探偵ロビィ、参上!」
 ロビネッタは射撃の反動を攻撃に利用して、ツリーにサインを刻もうとする弾丸を連射する。画数の多い『R.H.』のサインは成功しなかったようだが、連射の威力はしっかりと敵の動きを阻害する。
 ノチユはかつて自身が父に厳しく躾けられた事を思い出す。愛される少女に少し羨まくなり、同時に、その父を含め家族を亡くした寂しさも浮かび上がる。
「噺してやるよ。お前達の末路をさ」
 死角から回り込み、絡みつかせる御伽噺(ユーカラ)の囁き。その一撃でヒビが入り、次の瞬間、怒りのジンジャーマンクッキーは粉々に砕け散った。
 残るはツリーのみ。アギトは癒しの花びらのオーラを散らして味方の状態を盤石としながら、この敵を倒した後の事をふと考える。
(「親父さんに罪はないし、それで子供が泣くのは後味悪いしな」)
 破壊されたツリーは、ヒールで修復する事が可能だろうか。それは、仲間の多くの者が意を同じくして慮る事柄だった。
「ヤット、ヤット、アノ子のタメ」
 壊れたレコードのように繰り返して、ツリーは再び斬り裂く星を飛ばす。だがその行動は痺れたようにちぐはぐな動きとなり、飛ばされた星はケルベロス達から大きく逸れた。
「……」
 マナがブレイブマインの爆風で味方の士気を高める中、レムルは考えていた。
「おとう、さん……どんな感じなの、かな……」
 考えながら、重戦車の如く一撃一撃が重い攻撃を、大地をも断ち割るような強烈な一撃として叩き込む。
(「当たり前の幸せを理不尽に奪われる事に対しての怒りと悲しみか。……よく知ってるよ」)
 白鼠のベルを杖の形状から戻し、敵目掛けてシュートして、コクヨウは地獄化した右目を眇める。自身も家族を理不尽に奪われた悲しみと怒りに狂う身、その心情は決して軽くはない。
「お前達に解るのか、彼の嘆きが。それを生み出したモノが一丁前に悲しみを説くだと?……ふざけるな」
 怒りを露わにして朗は、極限まで集中した精神力でツリーを爆破する。悲しみや怒りを説くデウスエクスはその感情を抱くに至った人間の苦痛、悲痛などなにも分かっていないだろうと。
 それぞれが胸に抱く思いの深さとも相まって、ケルベロス達は持てる力の最大限を発揮して、確実に敵を追い詰める。戦況はすっかり、こちらの手にある。


 ロビネッタは思う。父親である彼に、自分なら新しいツリーでも何でも買ってあげられる。だが、それでは意味がないのは分かっている。
(「……でも、あたしと違って裕福じゃなくても、お父さんが一緒なのが羨ましい」)
 亡くした両親に心を寄せ、凍結の弾丸を射撃してツリーを凍りつかせた。
「お前達はあの人の想いを真似ただけだ。そんないびつなモノを、そのままにできるか」
 指天殺で敵の気脈を断ち、ノチユは確実な火力で削る。口調こそぞんざいでも、踏みにじられた父親を助けたい気持ちは非常に強かった。
「『刻め、跡形もない程に』」
 遁走ノ檻(トンソウノオリ)。朗はグラビティにより黒い槍を無数に生み出し、歪に乱れたツリーの周囲を檻の如く囲い込む。降り注ぐ槍がツリーを縫い留め、串刺しにする。
「アノ子のタメ、悲シイ、タメ、ダッタノニ」
 ツリーはふらついて壊れた繰り言を繰り返し、また氷点下を操る。だがアギトが仲間を庇って一身にそれを受け、足元が凍り付きながらも踏みとどまる。
「『おやすみなさい。良い夢を』」
 敵にもう後はない。ねむるは、茨よ、百の眠りを鎖せ(スリーピング・ビューティ)を紡いで、言葉と共に茨を絡みつかせてツリーを縛る。やがては永い眠りへと誘うべく。
「その形、で……その声、で……」
 レムルはバスターライフルを構え、眼鏡越しにツリーを真っ直ぐ見据える。
「……やさしい人、を、ばかに、しない、で……」
 凍結光線を発射して、重撃が敵に突き刺さる氷となって覆う。
「――地獄に落ちるがいい」
 悲しみのクリスマスツリーはコクヨウの銃弾の雨で蜂の巣となる。砕け散り、オーナメントの欠片がキラキラ舞い落ちて――2体の夢喰いは、番犬達の手によって撃破された。


 戦闘を終えて一同が向かうと、父親はちょうど目を覚ましたところだった。
 ケルベロス達は呆然としている彼に事情を説明し、壊されたツリーを、幻想が混じってもよければヒールで修復する旨を伝える。
「きっと、ちょっと変わった形になってしまうだろうけれど……でも、娘さんはあなたが帰ってくることを何よりも楽しみに待ってるはず、だよ」
 持ってきた飾りつけ用のオーナメントを差し出すねむるの気遣いに、彼は頷いた。
「やさしい、おとうさん、の子、なら……、……きっと、わかってくれる、よね……」
 彼の意を受けてツリーをヒールする間、レムルは幻想化するであろうプレゼントに呟く。もしヒール不能であれば形だけでも修繕しようと思い用意してきた工作用具を、ポケットに隠し。
「……きっと、娘さんは貴方の想いをわかってる」
 ノチユは彼の言葉に耳を傾け、励ます。
 代わりの物を買うのは難しいだろうし、仮に自分達が代金を肩代わりしても、なんとなく彼は嫌がる気がする――そう考えていた事柄は概ねその通りだったようだ。
 ただ、元通りの形でなくとも、待っている娘に何も渡してやれないよりはずっといいと、父親はそう零す。
「本当に大切な物は、壊れたら二度と戻りはしない」
 少し不思議な見た目に修復されたツリーを傍らに、コクヨウは諭す。
 娘の笑顔を大切にしたいのなら、自分を大切にする事だ。子供が本当に欲しい物は、いつだって当たり前のように寄り添っていてくれる親なのだからと、そう述べて伝える。
 夢喰いの魔女達に遭遇しながら、からくも命拾いした彼は、鍵を刺された心臓の上に手を置いて見下ろす。一歩間違えば、あの時死んでいてもおかしくなかったのだ。
 朗は、もし迷惑でなければだが、と言い添えて、ジンジャーマンクッキーやキャンディケインなど、クリスマスらしい菓子を手渡す。
「世の中は嫌な事や面倒な事に満ちている。それでも……奇跡を願う心くらいは、許されてもいいだろう」
 聖夜の奇跡を楽しみにしていたのだろうからと、娘のために差し出されるそれを受け取って、彼は自宅の扉を開けて娘の名を呼ぶ。
「パパ! おかえりなさい」
 出てきた少女に、幻想化したツリーを見せる彼。市販のツリーには見慣れないその形状に少女は目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。
 こんなクリスマスツリー、見た事ない。そう無邪気に喜ぶ姿を見て、彼は膝をついて娘を抱きしめる。
「ありがとうございます、ケルベロスの皆さん。私は、この子の、この笑顔が見たかった」
 感極まり泣いているのだろう。心情を吐露する声は、切に震えていた。
「ほら、泣くなよ。晴れの日位笑って過ごす、それが人間のルール、みたいなもんだろ?」
 アギトの優しい言葉に、そうですね、と彼は目元を拭って少女の傍に立ち上がる。
 改めて頭を下げて何度も礼を言う父親と、嬉しそうに寄り添う少女。
 壊された物が元のそのままの形には戻らない特質を持つヒールだが、今回は物が物であるだけに、それが決して妨げにはならなかったようだ。
「これからも親子で元気に暮らしてね。クリスマスには笑顔が似合うよ!」
 ロビネッタが元気に告げて、親子はより一層の喜色を零す。
 きっと幸せなクリスマスを過ごせる事だろう。夢喰い達を倒し、守る事が出来た善良な親子の笑顔に、ケルベロス一同は心から安堵した。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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