神脚飛翔

作者:天木一

 冷たい水飛沫の上がる滝の下、寒気を切り裂くような女性の裂帛が放たれる。
「ヤァ!」
 地味な練習用チャイナ服からしなやかな筋肉の付いた脚が跳ね上がり、回し蹴りが水を切り裂いた。
「ハッ!」
 続いてその脚が横蹴りを連続で放ち、空を穿つように高々と蹴り上げられた。
「今日はこんなものかしら」
 女性はゆっくりと足を下し調息すると構えを解いた。
「かなり我流になっちゃったけど、だいぶクンフーは積めてるわね」
 自らの技のキレを確認した女性は、思い通りに動けたと満足そうに笑みを零す。そこへ幻武極が降り立った。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「ヤアァーーー!」
 その一言に女性の闘志が燃え上がり、鋭い飛び蹴りから入り、ロー、ミドル、ハイと回し蹴りが綺麗に入る。そして横蹴りの連打で全身を蹴りつける。やがて息が上がり飛び退くと、無傷の幻武極が微動だにせず立っていた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 幻武極はするりと間合を詰めて手にした鍵を胸に突き刺した。引き抜いても女性の胸に傷は残っていないが意識を失い崩れ落ちる。だがその隣に突如として同じ顔の女性が現れた。違うのは艶やかな青いチャイナドレスを着ているところ。深いスリットから無駄な肉のないタイツに覆われた美しい脚が覗く。
「ハァアアアアアッ」
 気合を入れるとその身からオーラが噴き出し、放たれる蹴りは木を薙ぎ倒し、目に捉えられぬ程の無数の蹴りの連打は滝を流れる水を上へと吹き飛ばした。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極の言葉に女性は頷き、木々の間を飛ぶように空を駆け出した。
「私のクンフー見せてあげるわ」

「また新しいドリームイーターの武術家が現れるみたいね」
 獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)がまたドリームイーターが出現するとケルベロス達に説明する。
「幻武極というドリームイーターがカンフーの練習をする女性を襲い、自分に欠損している『武術』を奪いモザイクを晴らそうとしたようです」
 詳しい事件の情報をセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が提示していく。
「モザイクは晴れないようですが、武術家ドリームイーターを生み出して、近くの町で暴れさせようとしています」
 普通の武術家ではない、ドリームイーターの力でもって暴れ回り被害は甚大なものとなる。
「今から向かえば町に到着する前に迎撃する事ができます。被害が出ぬようそこで敵を撃破してください」
 町の近くを流れる小川に沿って下って来る。川の近くで待っていれば敵の方からやって来るだろう。
「ドリームイーターは女性の姿をしていて、スレンダーで筋肉質な鍛えられた体をしています。青いチャイナ服を着ているので一目で分かるでしょう。カンフーのような武術を使い、蹴り技主体の攻撃をしてくるようです」
 スピードタイプで動き回り手数の多い攻撃をしてくるようだ。
「敵が現れるのは兵庫県にある山間の小川です。周辺は近くの道路も通行止めされて一般人が迷い込む事はないでしょう」
 人を巻き込む心配はないので、最初から全力で戦う事ができる。
「武術家となっているからか、戦いを挑めば嬉々として応じてきます。逃げる心配もないので存分に戦えるでしょう。このドリームイーターを楽して女性を助けてあげてください」
 セリカはすぐに出発の為にヘリオンの準備に向かう。
「女性の武術家との戦いなんて楽しみね。どんな技を使うのか興味あるわ。武術家で正面から当たるというのなら礼を持って臨みましょう」
 同じ女性として負けてはいられないと銀子はいつもより気合をいれ準備に取り掛かる。その気迫が伝わったように仲間達もまた気を入れ直して動き出した。


参加者
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)

■リプレイ

●女武術家
 山から続く小川が流れる場所にケルベロス達が集まっていた。木々の隙間を抜けて木枯らしが吹く。
「冷えるな、防寒対策をしてきてよかったよ」
 白い息を吐いて舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)は、登山に使われる動きやすい防寒着を見下ろす。
「今回は美脚のチャイナさんが相手ね。これは負けられないわ」
 プロレスで鍛えた技も自慢の脚でも負けられないと、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は気を引き締める。
「華麗に舞うような『魅せられる』ファイトスタイルはプロレスにも通じるところがあるね」
 草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)はプロレスで戦った事のあるルチャ系のレスラーを思い浮かべる。
「美人さんが相手なら、手合わせじゃなくてお茶でも一緒にしたいところだね。まぁ相手が人間ならだけどさ」
 どれだけ美人であっても人を真似ただけのドリームイーターでは誘い甲斐がないと、シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)は肩を竦める。
「人気はないみたいだけれど……念には念を入れておくわ」
 日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)はその身から殺気を周囲に放ち、一般人が近づけないようにした。
「体が固くならないように、ちょっと準備運動に組手でもしておくかな」
「それなら、わたしがお付き合いしますね」
 軽く体を動かし始めた暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)に、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が構えて向き合い、身体を暖めるように2人は組手を始めた。
「体を動かしたくなる気持ちも分かるな」
 寒さを紛らわせようと煙草に手を伸ばしたハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は、水の跳ねる音にその手を止めた。小川の上流へと視線を向けると、そこには青いチャイナドレスからタイツに包まれた美しい脚を、惜しげもなく伸ばした女武術家が姿を現した。

●美脚蹴
 駆けるチャイナ服の行く手を塞ぐようにケルベロス達が正面に出る。
「どちらの脚が素晴らしいか、勝負しましょう」
 セクシーな忍び装束に身を包んだ銀子は、その美しい脚線美を見せつける。
「まぁそんなわけで、これからお茶でもって雰囲気でも無いし……代わりと言っては何だけど一手どうだい?」
 飄々とした態度でシェイは敵に挑戦を申し込み、見せつけるように飛び蹴りを放った。
 女武術家の脚が跳ね上がり足と足がクロスする。両者が衝撃に弾かれ後ろに下がって身構える。
「いいわ、私のクンフー見せてあげる!」
 快諾した女武術家は鋭い横蹴りを連続で放ち、まるで足が何本もあるように見える。
「蹴りに自信アリ、ね。それじゃ、あたしも蹴りで対抗しようか」
 ハンナは火花を散らしながら砂利の上を駆けると、敵に合わせて回し蹴りを放った。互いの蹴りがぶつかり合い衝撃波が土煙を起こす。勢いを乗せたハンナが押し勝ち敵を仰け反らせる。
「ハィッ!」
 だが敵はそのまま逆立ちになると足を広げて回転させ、ハンナの体を蹴り飛ばした。
「給金目当てで引き受けたが、私は殴り合いとか蹴り合いは性に合わないのだ。まあ、こうゆうのは他の奴に任せておこう」
 一歩下がって戦闘を俯瞰した瑠奈は雷の壁を作り出し、仲間を癒し耐性を高める。
「綺麗な脚、私によく見せて。貴女の大切なものを私に頂戴?」
 じゃらりと音をさせながら、狂気の暗い光を目に宿した遥彼は鎖を猟犬のように操り足に絡みつかせた。
「しなやかで、よい技をお持ちのようですね。わたしも、見習いたいところです」
 まずはその根源である足を潰そうと、瑛華がリボルバー銃を構えて引き金を引く。明らかに拳銃の有効範囲の外。だがその銃弾は狙い違わず敵の太腿を貫いた。
「さてと、俺の経験値UPの為に、君の武術盗ませて貰うよ!」
 守人は殺気を飛ばして威圧し、まるで冷たい刃物を突き付けられたように背筋を凍らせ敵の脚が止まった。
「さぁ、私の足技魅せてあげる」
 その隙に銀子が地を蹴りドロップキックを叩き込む。だが敵は腕でガードして耐えた。
「今はパワーファイト主体の私だけど、少しは昔取った杵柄を魅せちゃおうかな。プロレスラーも華麗さでは負けないよ!」
 それに続いてゼブラ模様のリングコスチュームのひかりもドロップキックで突っ込むと、耐えきれずに敵の体が薙ぎ倒された。
「ヤアァーーー!」
 女武術家は逆立ちになって蹴りを放ちひかりを蹴り飛ばし、さらに回転蹴りを放ちながら近くのケルベロスにも近づいてくる。
「いい脚しているね、眼福眼福」
 屈んで躱しながらシェイは足を眺め、龍の牙のような棘が無数に生えた狼牙棒を低く振り回して手を払った。女武術家は受け身を取って転がると勢いで起き上がって構える。
「みんなが存分に戦えるよう舞台を整備するのが私の仕事だな」
 瑠奈は地面に鎖を展開し魔法陣を作って仲間達を守る結界を生み出す。
「確かに自信を持ってるだけはある……だけど蹴りにはこういう使い方もあるんだぜ」
 蹴り負けたハンナは跳ね起き足元にある石を蹴る。すると弾丸のように飛んだ石が顔目掛けて飛ぶ。敵はそれを仰け反って躱すが頬を掠め血を流した。
「つれないなぁー……8人も居るから仕方ないけどさ、余所見はダメだよ?」
 注意が逸れたところに突っ込んだ守人は迎撃の蹴りを手甲で受け流し、懐に入り込むとゼロ距離から掌打をぶちかまして吹き飛ばした。空中でくるりと回転して足から女武術家は着地する。
「素早くても、これは避けようがありません」
 瑛華は着地地点に銃口を向け発砲する。足が地面についたと同時に着弾しふくらはぎが赤く染まる。
「その自慢の蹴りで、プロレスラーの攻撃を止められるものなら止めてみなよ!」
「ヤアァッ!」
 駆け出したひかりは突き出される蹴りを物ともせずに、突っ切ってラリアットを叩き込んだ。足が浮き女武術家が背中から地面に倒れる。
「蹴り以外にもプロレスの技を見せてあげるわ!」
 そこへハンマーのロケット噴射を使って加速した銀子は、勢いよく敵の頭上を取ってそのまま体ごと落下してボディプレスを浴びせた。
「ハァ!」
 女武術家は倒れた姿勢から銀子を蹴り上げ起き上がろうとする。
「武の道を歩む方にとって、十全に動かない己が身ほど耐えられないものはないわよね……?」
 遥彼は魔法光線を照射し、敵の脚を照らして石へと変えていく。
「くっ脚が!?」
「ふふ、大丈夫よ。そんな自身に絶望する貴女を、私が愛してあげる」
 ヤンデレと化した遥彼の狂おしい愛が敵の精神を侵食していく。
「こっちも蹴りで対抗してみようかな、美しさでは負けるけど、勝負なら自信があるよ」
 シェイが足払いをすると敵は跳んで躱す。そこへ回転して上段回し蹴りを打ち込んだ。
「わたしも、意外と得意なんですよ」
 死角から接近した瑛華は同じように上段回し蹴りで側頭部を打ち抜いた。
「相変わらず綺麗な蹴りだな」
 負けてはいられないと、ハンナは腹を蹴り上げ敵の体を浮かした。口から血を吐きながらも女武術家は前回転して踵をハンナの肩に打ち下した。
「何か見たことある気が……うーん……コレってどう考えてもイメージ格ゲーのスト……いや、すいません何でもないです」
「ハァア!」
 既視感がある敵の姿に思わずツッコもうとした守人に、女武術家は激しく横蹴りを放ってくる。それに合わせて鋭く踏み込んだ守人は、腕に雷を纏わせ拳を打ち込み蹴りを止めた。
「器用なものだな、だが人数が多い分手数はこちらが上だ」
 瑠奈は電撃を飛ばしてハンナに当て、身体を活性化させて身体能力を高め傷を癒す。
「蹴りでも負けないわよ!」
 銀子は冷気を脚に集め、高く上げハイキックを打ち込む。だが同時に敵は軸足を蹴り払い、バランスを崩した銀子が仰向けに倒れる。
「きゃあっ!」
 冷たい川に突っ込んだ銀子は思わず悲鳴を上げた。
「プロレスにだって色々な蹴り技があるんだよ!」
 跳んだひかりは後頭部に向けて延髄斬りを叩き込み敵をよろめかせた。

●飛翔脚
「ヤアァーーーー!」
 闘志を燃え上がらせた女武術家は、真っ直ぐ飛翔する竜の如く飛び蹴りを放った。
「いい蹴りだね。……でもキミじゃあ、功夫がちょっと足りないかな?」
 前に出たシェイは狼牙棒で攻撃を受け止め、受け流して吹き飛ばされそうな衝撃を逸らした。着地した女武術家は反転してまたシェイに向けて連続蹴りを放つ。
「つぅ、なかなかやるっ、でも私も負けないっ」
 ずぶ濡れで起き上がり水を蹴り上げながら跳躍した銀子は、ドロップキックで横から蹴り飛ばした。
「貴女を愛しているわ。だから、ほら。私だけを見て」
 赤い靴で軽やかにステップを踏んだ遥彼は、傷きよろめく敵の脚を強く蹴りつけ、傷口を抉るように踏みにじる。そしてしっとりと愉悦の表情を浮かべた。
「ぐぅっヤアアアッ!」
 痛みに耐えた女武術家は蹴りを放ち、それは連打となって襲い掛かる。
「手数重視なら守りを固めれば致命傷にはならないだろう」
 瑠奈は鎖を編んで壁にして邪魔をし威力を減衰させた。
「どうした? それが限界ならこのまま蹴り勝ってやるぜ」
 挑発しながら飛び込んだハンナは炎が渦巻くような回し蹴りを叩き込む。蹴り同士がぶつかり合い一瞬の膠着を生む。
「ハンナが気を引いている内に……」
 そこへ瑛華はオーラの塊を放ち、弧を描いて死角から背中を撃った。その痛みに力が緩んだところへハンナは押し切り敵を薙ぎ倒した。
「最後までガチンコで勝負してあげるよ!」
 守人は気の塊を撃ち出し、それを追うように駆けて接近する。敵が気弾を蹴りで弾いたところに飛び込み掌打を叩き込んだ。勢いが乗せられ敵の体が地面を転がり川に落ちる。
「今はちょい太っちゃったけど……昔は細身のハイフライヤーで売ってたんだよ!」
 それを追い突っ込んだひかりはそのままショルダータックルでぶち当たり、重量差を活かして敵を吹っ飛ばした。
「さて、手も空いたし攻撃に参加しておくかな」
 グラビティで透明な硝子状のメスを手にした瑠奈は、不可視の斬撃で相手の胸を斬り裂くとメスは役目を終えたように砕け散る。
「くうっ!? 武器か?」
 見えぬ攻撃を警戒したように敵が飛び退く。
「十分美しい脚を楽しませてもらったし、そろそろ終わりにしようか」
 好機とシェイは左右の手に双剣を持ち連撃を浴びせる。その刃の舞の中にグラビティで作った無色の刃を忍ばせ、不意を突いて胸に突き立てた。
「ハアアアアア!」
 力を振り絞るようにオーラを強く放った女武術家はシェイを蹴り飛ばし、さらの追い撃ちに飛竜の如きオーラを纏って飛び蹴りを放つ。
「今日一番の力を感じるよ、ならそれを超えてみせる!」
 それに対して守人も緑色のオーラを猛々しく発して拳を放った。ぶつかり合う衝撃に拳が砕け血が飛ぶ。だがそれでも足を踏み込み押し切って敵の体を吹き飛ばした。
「もっとその瞳を私に見せて? 絶望して、怒って、怯えて。震わせて、潤ませて、その瞼を閉じるまで――私を見つめ続けて?」
「寄るな! 消えろ!」
 敵を鎖で締め付けた遥彼が耳元で愛を囁き。敵の心を惑わし、怯えるように見えぬ幻を攻撃させた。
「あんた、なかなか良い腕……いや、脚だったぜ」
 高く跳躍したハンナは蹴り倒し、頭を踏みつけるように蹴って地面に叩きつけた。
「がっ……ヤァッ!!」
 頭が割れて大量の血を流しながら女武術家はハンナを蹴って退かす。そして意識朦朧となりながら気力だけで立ち上がりかけたところへ、背後からひかりががっちりと腕を回した。だが持ち上げようとしても腰を落として敵は耐える。
「敵じゃなければもっと学べたのに、残念です」
 瑛華はそれをフォローするように狙撃して敵の膝を撃ち砕いた。
「こうやって投げられた事はないよね? 蹴りの次はタフさを確かめてあげるよ!」
 背後から大木を引っこ抜くように力を入れたひかりは敵を持ち上げてジャーマンスープレックスを決める。そして次々と違うスープレックスを極めていく。
「ぐっ、がっ、は、離せ!」
 だが女武術家は傍の木を思い切り蹴って反動で飛び出すように手のロックを外す。
「私の全力以上の力、たっぷり味わってよ」
 ここが勝負所だと着地した敵の正面に立ち全身に紋を刻んだ銀子は、抉るようなミドルキックからロー、ハイとキックの連打を休む間もなく次々叩き込み、最後にローリングソバットを側頭部に決めた。
「まだ、まだ功夫が……」
 自慢の脚が立っているだけで震える女武術家。満身創痍でいつ倒れてもおかしくない、それでも倒れようとはせずに気力だけで構えた。
「銀子さんいくわよ!」
「ええ、フィニッシュホールドを決めてあげるわ!」
 ひかりと銀子は敵の両脇を固め、その体を高く持ち上げて後ろに落下させ、ツープラトンバックドロップを決めた。
「が、ぐほっ……」
 3カウントの後、ピクリとも動かなくなった女武術家の姿は霧散し消え去った。

●武道を進む同胞
「目が覚めた? もう大丈夫よ」
 穏やかな顔に戻った遥彼は、優しく微笑んで安心させた。
「あの? ここは……」
 介抱され目覚めた女性は周囲を見渡しケルベロス達を見やる。そして冷たい風に体を震わせた。
「風邪をひくといけないからな」
 瑠奈が女性の体にコートをかけてやる。そして起きた事件について説明をしてあげた。
「そんな……まだまだ功夫が足りてない証拠ね」
 申し訳なさと悔しそうな感情が混じった表情で女性が申し訳ないと頭を下げた。
「やっぱり参考にしたのって格ゲーの……あ、いや、何でもないです。すごく強かったですよ! まるでゲームのキャラみたいに!」
 ツッコみたかったが色々問題がありそうなのでやめておこうと、守人は笑顔で誤魔化した。
「戦ったのはキミのそっくりさんだったけど、いい蹴りだったよ。組手の相手が必要なら何時でも言ってね。受けて立つよ」
 優しく微笑んだシェイが、もちろん手合わせの他にお茶もご一緒するよと茶化して和ませる。
「そうね、いい勝負だったわよ。プロレス技と張り合えるくらいにね」
「プロレスの技にも蹴りは豊富にあるのね……」
 親近感を覚えた銀子も足技の話で仲良く語り合う。
「それにまだまだ強くなれるね、もしよかったらプロレスやってみない?」
「プロレス……考えておきます」
 ひかりが勧誘を行うと、女性は異種格闘の技術に興味を示した。
「あの女、強くなりそうだ」
 その様子を眺めながら煙草を取り出したハンナが口に銜えて相棒に視線を向ける。
「そうだね。次は、負けるんじゃない?」
 微笑んだ瑛華はライターを取り出して火を点けてやる。その言葉に煙を吐きながらハンナは不敵な笑みを浮かべた。
 ケルベロスは女性を町へと送りながら、楽しそうに格闘談義に花を咲かせた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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