ミッション破壊作戦~楔を穿つ

作者:八幡

●楔を穿つ
「あのね、グラディウスが再使用できるようになったんだよ!」
 ケルベロスたちの前に立った、小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)が話を始める。
 『グラディウス』とは、長さ70cmほどの『光る小剣型の兵器』だ。
 通常の武器としては使用できないが、『強襲型魔空回廊』を破壊することが可能な特殊な武器となる……強襲型魔空回廊を破壊することはすなわちデウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込むことになるだろう。
 ただ、グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再使用できるようになるまで、かなりの時間を要するようだ。
 それ故に、破壊する強襲型魔空回廊の選定はこれまでの状況などを踏まえて決める必要がある。

 グラディウスと強襲型魔空回廊について思い起こしているケルベロスに透子はこくこくと頷き、
「強襲型魔空回廊があるのは、ミッション地域の中枢だから、普通の方法だとなかなか行けないんだよ。それに万が一にもグラディウスを奪われると大変だから、今回はヘリオンを使って空からの降下作戦になるんだよ!」
 強襲型魔空回廊まではヘリオンで送り届ける旨を説明する。
 高空から強襲型魔空回廊へ攻撃を仕掛けることにより、行きがけに敵との接触を避けることが可能だし、敵との接触が少なければケルベロスたちの危険も緩和されるし、グラディウスを奪われるような危険性も下がるだろう。
「強襲型魔空回廊はドームみたいなバリアで囲まれていて、このバリアに八人のケルベロスがグラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを接触させればダメージを与えられるんだよ」
 透子はさらに強襲型魔空回廊への攻撃方法について説明をする……場合によっては一回で破壊できることもあるようだが、それが出来ないまでも最大で十回も降下作戦を行えば確実に破壊できるだろう。
 とはいえ、敵陣のど真ん中に飛び降りることに変わりはない、迎撃される恐れなどは無いのかとケルベロスたちが透子を見やれば、
「強襲型魔空回廊の周りには、強い護衛が居るんだけど、グラディウスとバリアが接触したときに雷光と爆発が起こってグラディウスを持っている人以外に襲い掛かるからヘリオンからの降下を防ぐことは出来ないんだよ」
 透子はそこらへんは大丈夫だよと頷いた。
「あと、グラディウスでバリアを攻撃したあとは、雷光と爆炎で発生するスモークを利用して、すぐに撤退してね……あ、あとグラディウスを持って帰ってくるのも大切だから、絶対忘れないでね!」
 そして更に、敵陣ど真ん中からの逃げ方を伝えるが……少し考えるように透子は目を伏せる。
「でもね撤退すると言っても……魔空回廊を守っている敵はグラディウスの攻撃の余波である程度は無効化できるんだけど、完全に無効化できるわけじゃないんだよ。だから、強い敵との戦いは避けられないんだ。グラディウスの攻撃の余波で敵が混乱するから、すぐに連携をとってくることは無いんだけど……」
 どれだけ上手くやっても強敵との接触は免れない。
 そして強敵であれば簡単に撤退も許してはくれない。つまりは早急に倒し、敵の援軍が来る前に撤退することが必要だ。
「もし、敵に囲まれるようなことになれば、降伏するか暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれないんだよ」
 降伏か暴走……いずれも最終手段だろう。それでも選択しなければいけないときは選択するしかないのだが、それよりは強襲型魔空回廊が存在する地域の敵の特色を鑑みるのが建設的か。
 一通りの説明を終えた透子は再びケルベロスたちを真っ直ぐに見つめ、
「デウスエクスの前線基地となっている強襲型魔空回廊を壊すのはとっても重要なんだよ! 大変な作戦だと思うけど……それでもみんならできるって思うんだ!」
 後のことをケルベロスたちに託した。


参加者
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)

■リプレイ

 眼下に広がる焼津の町……その中にぽっかりと空いた暗闇。
 高高度を飛行するヘリオンから、その暗闇目掛けて夜の空に身を躍らせば、冷たい空気が体を包み込むようにまとわりついてくる。
 まとわりつく冷たい空気が肌を突き刺し、その冷たさに針の筵にされるような錯覚すら覚える……が、それは些細な事だ。真っ直ぐに地の暗闇を見つめ、落ちるに身を任せて空気を置き去りにすると、それらは風となってびゅうびゅうと抗議の声を上げる。
 風達の抗議の声を聞きながら、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)は光る小剣を両手で握り締め――、
「我ら竜を薙ぎ払う剣と為らん!」
 暗闇……すなわち魔空回廊を前に真の障壁となるバリアに向かってグラディウスを突き立てながら叫ぶ。落下時に上空から見た焼津の町を思い返す……一人の英雄が宝剣にて草を薙ぎ払い、賊が放った火を向かい火によって退けた伝承の地。今の状況になぞらえるなら、賊とは正に竜の事であり、英雄とは自分達の事だ。ならばこの地を揺るがし、人々の暮らしと命を脅かす竜共を葦のように薙ぎ払う剣、或いは人々の心に希望の篝火を灯す炎。それが英雄たる菫達の役割に違いないのだ。
「確実に潰す。もう犠牲は出させねえ!」
 菫がバリアに突き立てたグラディウスから雷光が迸り闇夜を鮮烈な白に染めて行く中、岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)が続く。神社仏閣も好きで色々まわっている真幸からすれば、神話に所縁のあるこの地を竜達が蹂躙する事など許せないのだろう。特に真幸が忌み嫌う触手を有するこの地の竜が相手ならば尚更だ。それに触手の有無に関わらず竜の姿は二度と見たくない。二度と見たくはないが故に、殲滅する。何より、かつての戦いで目の前で傷ついた仲間達の姿を思い出せば、そうしなければ気が収まらないのだ。
「消え去れ!」
 真幸の想いに応じてグラディウスが光を放ち、ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)が呼応するようにもう一本のグラディウスを突き立てれば、雷光は激しさを増して周囲に爆発を撒き散らす。真幸だけではなく、ティもまた幾多の戦いの中で竜によって傷つけられた仲間の姿を見ているのだ。だから絶対今回の攻撃で魔空回廊を破壊して見せるとグラディウスを持つ手に力を篭める。そして異形の姿でこそこそ地下空洞に潜むような輩……強大で圧倒的な力の象徴である竜を名乗るに値しない者達を倒すのだと、想いを乗せる。
「わざわざ地中にまで潜れるように身体を改造するくらいなら、心を変える勇気を持ちな! その気になれるように、あんた達の企み、ここで全部ぶっ潰してやる!」
 歪な進化を遂げた竜に不快感を持つのはティだけではない、風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)もまたこの地に現れる竜の歪みに対して憤りをぶつける。地球の重力に捕らわれるも、ただ死を待つのではなく命を長らえるために増悪と恐怖、拒絶を振りまく事を選択する……その必死さは飢餓に追い詰められていた頃のローカスト達を思い起こさせて、彼らの結末を受け入れるしかなかった過去を思い出させる。だからこそ、尚更に、竜が同じ道を歩もうとしている事を和奈は許せないのだろう。
「恐怖にも憎悪にも負けはしない。文字通り打ち勝ってくれる……!」
 ティと和奈に続いて、ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)がグラディウスを両手に持って突き立てれば、いよいよ雷光と爆発は激しさを増す。ティや真幸、そしてダリルがこの地に来るのは初めてではない。そしてそれは、この場所がそれだけ長く脅威にさらされ続けている事の証明でもある。驚異の根源である竜達に、死の恐怖を他者へと押し付けんとする傲慢さに、今度こそ引導を渡してくれるとダリルは想いを篭める。そして同時に考える。異形に進化してまでも永らえたい、その生への執着は痛いほどに伝わってくる……だが、竜達の生き様は地球に住むものを贄にするものだ。だからこそ共存は出来ない。そして共存が出来ないのであれば、お互いに否定し合う事しか出来ない。ならばせめて全力で、何が何でも打ち勝つと言う気概を見せて相手を屠ろう。
「あなた方が考えるほど容易く、人々は心を腐らせたりしない……さあ、返して頂きます。この豊かな港町の安寧を」
 差し迫う死に立ち向かう竜に抱く想いは嫌悪、憤慨、敬意、とそれぞれだが、いずれにしても、葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)が主張するように、この焼津を取り戻すために、人々のために戦うと言う事実は揺るがない。そもそも恐怖と憎悪で束の間の命を得ようなどと言う考えが間違っているのだと、この地球に住まう一般人を見て来たオルンは思う。彼らがその程度の事で折れたりはしないのだから。
「態々薄暗い穴蔵でご苦労様! 無駄な努力を労って、私が終わりにしてあげる! ムカつく事を私に思い出させた事を後悔しなよ!」
 オルンと同じく住民達を想うのは、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)だ。突然町が襲われる……普通に過ごしていた日常を奪われる。当たり前だったものが当たり前でなくなる瞬間、自分の根が何処に張られていたのかを人は自覚し、失ったものの大きさを知るのだ。あまりにも大きな喪失と怒り、それを思い出させる事をしている竜に対してロベリアは不敵に笑う。実際に住民に頼まれた訳じゃないから、昔の私がやられた分をお前達で晴らさしてもおうと、笑って見せた。オルンとロベリアのグラディウスが加わり激しく発光と爆発を繰り返すバリアとの境界面に最後に到達した、九十九折・かだん(自然律・e18614)はグラディウスを強く握りしめる。自分達が生きるために、弱者を脅かす。それは自然な事だ。意識するしないに関わらず、誰だってやっている。
 だが、脅かされた民は、只脅えるだけではない。ロベリアが経験したように、オルンが見て来たように、ダリルが願うように、人々は簡単に折れはしない。かつて仲間達と共に戦い抜き、竜達が撒き散らす恐怖も、増悪も、全て食い止めた和奈やティ、真幸のようなケルベロスが居る限り、人々の心には希望があり続ける。希望の光たるケルベロス達は菫のように、己を剣として敵を屠るだろう。
 そして何より希望を信じてくれる人々のために、かだんはあらゆる脅威を受け止めて、増悪を捻り潰して、恐怖を捩じ伏せるだろう。
「――退け」
 かだんは想いの全てを腹の底から溢れる言葉に乗せて……グラディウスを振り下ろした。

 かだんのグラディウスがバリアに接触した瞬間、爆発と雷光が暴れまわり同時に発生した煙が周囲を埋め尽くす。
 凄まじい爆発だが……これほどの爆発でも、想いを乗せた八振りのグラディウスをもってしても魔空回廊を破壊する事は出来なかった。
 吹き荒ぶ爆風によって空中に投げ出されたオルンが器用に一回転して地面へ降りると、仲間達も、その周りに着地してくる。
 仲間達の顔を見ながらオルンは及びませんでしたねと小さく頭を振り、オルンの様子にダリルは小さく頷く。頷いた後にダリルはすぐに回りの状況を確認する……周囲は爆発によって起こされた煙によって視界が悪い……が、すぐに敵が襲ってくるだろう。あれだけの光と爆発が起きたのだ、それを見逃す竜では無い。各人それぞれに手にしていたグラディウスをしまいながら煙の中へと視線を巡らせ、
「みんな、グラディウスは――」
 念のためにと和奈が仲間達へ呼びかけようとした瞬間、顔の横で空気が動き――揺らいだ空気に違和感を覚えた和奈が、そちらを振り向くよりも早くに無数の牙を持った巨大な口が煙を纏って現れる。
 和奈は咄嗟に身を引くも巨大な口が閉じる方が早い。直観的に状況を理解したオルンは和奈に向けて回復の準備を始めよとするが……視界に別の人物の姿を捉えると目標をそちらに変える。
 オルンが捉えた人物、かだんは和奈が身を引いた刹那、和奈へと左手を伸ばし……その手が和奈の胸元を軽く押した。
 それは僅かな差、だがそれで充分。和奈の眼前を歪な牙が通り過ぎ、代わりにそこに在ったかだんの腕に食いついた。
 氷を砕くような音と共に飛び散った飛沫がかだんと和奈の顔を染め、赤く染まる彼女達の顔を見ながらダリルが行動を起こす。
 何が起こったのかは明白だ。想定されていた敵、地底潜航竜が姿を現した、それだけの事。そして事態が想定を超えていないのであれば、予め決めていた手順に沿って動くのみだ。
 ダリルは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、かだんの傷を僅かに癒しながら前衛の超感覚を覚醒させる。
 光輝く粒子を浴びるかだん達の真横、竜の正面から真幸が走り込み、和奈の後ろを抜けたティが竜の横腹に肉薄して……その鼻っ面と横腹に流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させる。
 炸裂させた蹴りの勢いのままに竜の顔を踏み台に真幸が空中に跳び、次の瞬間、真幸とティのボクス竜であるチビとプリンケプスがブレスを放射する。
 吹き荒ぶ二つのブレスに併せてロベリアがローラーダッシュの摩擦を利用して、炎を纏った激しい蹴りを放てば炎はブレスと混じり合って竜の顔を焼き、一歩身を引いていた和奈が引いた足に力を篭めると全身を覆うオウガメタルのクウを光の粒子を纏う鋼の鬼と化し、眼前に在った竜の横顔に向けて、鋼の鬼の拳を叩きつけた。
 ロベリアと和奈の一撃に竜の体が僅かに揺らぎ、その真後ろにロベリアのビハインドであるイリスが出現と同時に攻撃を加え、
「さあ、お掃除の時間です! 雑巾拭きたて足元注意ですよ!」
 どこからともなく濡れ雑巾を取りだした菫がそれを竜が居る地面へ投げると螺旋の力によって地面が鏡面のように変化する。僅かな揺らぎに加え菫によって作られた鏡面に足を取られた竜は体勢を崩す。
 体勢を崩した拍子にかだんの腕を離した竜を確認しつつオルンはかだんに向けて生命を賦活する電気ショックを飛ばし、歪に曲がっていた腕を機能する程度には修復する。
 歪んだ進化を遂げたとはいえ竜に変わりはない、その一撃は常に高い対価を求めてくる……だが当のかだんは腕の状態など気にした様子も無く体勢を崩した竜を冷たく見下ろし、
「死にたくは、ないか」
 腹の底から響くような言葉を投げる。そこに含まれるものは飢餓の厳冬の恐怖だ。静寂に萌ゆる森の常闇だ。死を与え、命を巡らす王の影だ。言ってしまえば唯の威圧……しかし竜であっても死を恐れるのだ。
 唯の威圧。だがその後ろに揺らめく歪な影が空恐ろしい死の影に見えて……竜が死の影を纏うこの者を斃さなければならないと、その心に刻ませるに十分だった。

『グロロォオオォ!』
 怒り狂ったように竜が吠えると、その触手が溶解液を撒き散らしながら振るわれる……鞭のようにしなる触手は触れるものを切り裂き、切り裂いたうえで溶解液で傷口を溶かしてくる。避け切れない無数の触手によってかだんは肩口を、ロベリアは太ももを、和奈は脇腹を深く抉られ地面に赤い雫と鉄の匂いを撒いていくが、
「っ! 痛く……ないよ!」
 ダリルが地面に描いた守護星座が光り、その加護を受けたロベリアは痛みを何するものぞと笑みを作ると、ドラゴニックハンマーを持つ手に力を篭める。そしてドラゴニック・パワーを噴射しつつ数多の触手を一息に掻い潜り竜の眼前に至ると、加速したハンマーをその頭に振り下ろした。
「滅びろ」
 ロベリアの一撃で止まった触手に眉を寄せながらも真幸はバスターライフルを構え、敵の熱を奪う凍結光線を発射する。発射された凍結光線はロベリアの横を抜けて竜に命中し、その表皮に氷の膜を作る。
「そんな姿にまでなって!」
 氷に覆われた皮膚を踏みつけながらティが竜の体を登り、頭の上で宙がえりをするように飛び上がる。そして眼下に見えた竜の首筋を緩やかな弧を描く斬撃で斬り裂いて、
「プリンケプス!」
 続けざまにプリンケプスに封印箱ごと体当たりをさせる。
「喰らいなっ!」
 くるり宙を舞ったティが地面に手を突きながら竜の姿を見据えれば、竜の目の前でオウガメタルのクウ君を左手に纏わせ、まるで竜の爪のように変形させた和奈が、その爪を真横になぎ払う姿が見えた。払われた竜の爪は竜の横顔を捉えて抉り取り、抉り取られた部分を狙うように菫が理力を籠めた星型のオーラを蹴り込んだ。抉られた部分から凍結し、さらに星型のオーラを打ち込まれた竜は悶絶するように体を打ち付けて地面を揺らし、その竜を前にかだんは喰らった魂を己に憑依させ、全身に禍々しい呪紋の浮かぶ魔人へと変貌する。
「やれやれ、あなたはずるい人だ」
 そんなかだんを見つめてオルンは首を振る。それから、薬液の雨を降らせてティ達の傷を癒す。かだんの傷は深すぎる……次の一撃を耐える事は出来ないだろう。だが、前線に立ち続けると願う者の手を誰が引く事が出来ようか。それしか出来ないと己を戒めるものに誰が口を出せようか。ましてやそれが、無謀や自惚れではなく、最善手の一つだとすれば尚更だ。だからオルンはかだんを止めない。後の事は任せてくださいと、分かり難く伝えるだけだ。

 オルンの意図を組んだのか、小さく頷いたように見えたかだんの真正面から大口を開いた竜が迫る……かだんはそれを受け止め、その下顎を踏みつけ、上顎を両手で支えるが……外側の牙がかだんの首筋に深く突き刺さる。
「押し切りますよ」
 多量の鮮血が地を赤く染め、かだんの体が揺らぐ。揺らいだかだんの真上をダリルが光の翼を暴走させて全身を光の粒子に変えて突撃して竜の上顎を跳ね上げ、
「バン!」
 ダリルの光の粒子に紛れるように近づいたティが竜の鼻っ面に手を触れると、グラビティコアを埋め込む。埋め込まれたコアは即座に重力崩壊を起こし、竜の上顎を粉砕して――顔の半分以上を失った地底潜航竜は、地響きを立てながらその場に倒れた。
 竜が倒れると同時に、膝を折りそうになったかだんの体をロベリアと菫が支える……その傷は深く、暫くはまともに動けそうにないが、命に別状は無さそうだ。菫は小さく息を吐いてから、かだんをオルンに任せて周囲を見回すと、徐々に薄くなる煙の向こうに蠢く影を見つけ、
「増援が来る前に、さっさと引き上げるよ!」
 同じくその影に気付いた和奈が先陣を切って駆け出し、その後を追ってかだんを抱えたオルンが続く。オルンの背中を見つめてからティは目を伏せる……もうこんな誰かが犠牲になるような事は終わりにしたいと考えていたのだが、その思いは叶えられなかった。それはきっと真幸も同じ思いだろう。
 だが、負けはしなかった。だから、次があるはずだ。否、必ず次に繋がなければならない……ならば、今は只、帰還する事に集中しなければならない。
 ティは大きく息を吸い込んで、真っ直ぐに前を見据えた。

作者:八幡 重傷:九十九折・かだん(食べていきたい・e18614) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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