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西洋風の装飾に満ちた一室――そこに浮かび上がる炎の中には、一人の男性。
「お兄ちゃん、どうかな?」
その炎を爛々とした瞳で見つめるのは、黄のナトリ。
「ナトリ、西洋の剣術がすごかったお兄ちゃんのこと応援してるからね! 頑張ってね!」
黄のナトリが言うそばから炎は晴れ、エインヘリアルへと変わった者が姿を見せる。
「……気品なきモノめ……全員、殺して、やる……」
「ふーん、そっか! じゃ、またねー!」
明るく黄のナトリが手を振れば、エインヘリアルは恭しく頭を垂れる。
その瞳には、もはや正気と呼べるものは失われていた。
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「西洋剣術家が狙われると思ったが……やはり、か」
呟く 螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)へと、高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)はうなずく。
「元から周囲を品が無い、と貶す傾向にある男性だったようだが、エインヘリアル化したことでその性格に拍車がかかったようだね……」
残念ながら、エインヘリアルを人間に戻すことは出来ない。
「私たちに出来るのは、彼を倒し、これ以上の被害を防ぐことだけだ」
西洋剣術家という職業柄、エインヘリアルの得物はゾディアックソード一本。
「グラビティ・チェインを集めるために街中へ向かおうとするようだね」
今から向かえば、人のあまりいない住宅地でエインヘリアルと遭遇できるだろう。
周囲に人はいないが、不安であれば少しばかり人払いをしておけば十分なはずだ。
「黄のナトリは既にどこかに消えてしまった後だ。今回は、エインヘリアル一体だけが相手と考えて問題ないだろう」
周囲の人間は品がない、と信じ込んでいるエインヘリアルの攻撃は、苛烈なものだろう。
「それでも、倒せない敵ではない。……どうか、気を付けて行ってきて欲しい」
参加者 | |
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萃・楼芳(枯れ井戸・e01298) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000) |
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殺気の満ちる戦場に降り立ち、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)はエインヘリアルへと告げる。
「そこまでじゃ、堕落せしものよ! 正義の告死天使たるお主にわらわがブシドー? い、いや、キシドーというものを教えてやるから覚悟するがよい!」
「品のない言葉遣いだ……キサマこそ死ねッ!」
吼えるエインヘリアルへと突き刺さるのは螺旋手裏剣『辻風』。
手裏剣を放った葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)の青の双眸は静かにエインヘリアルを見据え、その動作に警戒を怠らない。
アデレードは吸魂の大鎌に炎を宿し、エインヘリアルへと叩きつける。
軌跡を描いた蒼い炎――焼かれたエインヘリアルは呻きを漏らし、ゾディアックソードを振るう。
――重い一撃を受け止めたのは萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)。自らの鉄塊剣と拮抗するゾディアックソードを弾くと、楼芳は重厚なる一撃を叩きこむ。
「西洋剣術の使い手と聞いていたので期待していたのだが、巨大な体格任せに剣を振るうだけの品の無い動きでがっかりだな」
「ッ……!」
顔色を変え、更に楼芳を追おうとするエインヘリアル。
その動きを阻んだのは、螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)による刺突だ。
「騎士とは誇り高いもの……。他者を貶し、己のまま他者を殺戮する貴様に騎士を称する資格はない……」
翼を打つセイヤの手には、降魔刀「叢雲」。
ボクスドラゴン『ウル』もブレスを吐いて、攻撃に加わった。
殺界形成を展開したヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)は己の感覚を増幅させ、リボルバー銃を両手に戦場を駆ける。
ウイングキャット・ビタの風に黒髪をなびかせつつ、伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)はドローンを展開。
風に乗って浮き上がるドローンの癒しを受け取って、伏見・万(万獣の檻・e02075)は駆けだす。
「生きてッ方が勝ちだろーが」
そこに品性など必要ない――その思い通り、万のドラゴニックハンマーの砲撃は激しく、エインヘリアルの巨体であっても吹き飛ばすほど。
敵の方を見たままスキットルから酒を煽ると、攻撃を警戒して後退。
代わりに迫るデレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)も、気に喰わない、と舌打ちを一つ。
「こちとら気品なんざで生き残れるような生温い世界で生きちゃいねえんだよ」
鉄塊剣が大気を裂く。
「お高く止まってやがるその鼻っ面、粉々にへし折ってやらあ!」
力強い斬撃が、エインヘリアルの全身に襲い掛かった。
●
エインヘリアルの猛攻は、その巨体から想像がつく通りに苛烈なものだった。
矛先は怒りを与えた楼芳へ。ウルはすかさず癒しを与え、属性を得た楼芳はチェーンソー剣の刃を作動。
「来い!」
――刃の激突する耳障りな音。
星座の煌めき取り巻く刃が削れて火花が散る――取り巻く星座ごと楼芳は両断、よろけた足元を狙って万はケルベロスチェインを巻きつける。
急激に締め上げられて鬱血したのか、足首から下がどんどん青褪めていく。色を、温度を失うだけでも充分なほどのダメージと思えるが、万はその程度では満足しない。
「おらァ!」
ぐいと鎖を引けば巨体が浮き、地面へと叩きつけられる。
激突の衝撃でケルベロスチェインがほどけた瞬間、エインヘリアルは立ち上がってケルベロスたちへ突撃を仕掛ける。
「かわすなッ、食い止めろォ!」
かわせば戦闘領域が広がり過ぎてしまう、と叫ぶ万。
デレクはエインヘリアルの真正面へ位置取ると、全身のバネを利用してエインヘリアルと急接近。
「刈り取ってやらぁ、その魂をよォ!!」
真正面からの激突――かと思いきや軌道は僅かにずれ、すれ違いざまに惨殺ナイフが閃く。
「あっ、ガ――――!」
急所を正確に貫いた一撃。
あまりの痛みにそれ以上の進軍を止めたエインヘリアルの背中へと、ヴィルフレッドは弾丸を呑み込ませる。
絶え間ない銃撃、銃撃、銃撃――振り向いた時にはヴィルフレッドは既に身を翻し、エインヘリアルの視界からは消えていた。
「品の無い、品の無い戦い方しやがってぇぇ!」
悔しさを滲ませて叫ぶエインヘリアル。
影士は目を細め、思う。
(「決して褒められる人間性の持ち主では無かった故に選ばれてしまった、か……」)
ならば害為す前に滅ぼすしかない、影士は毒を塗布した手裏剣でエインヘリアルを斬る。
「気品が無い、か……。エインヘリアルになってデウスエクスの意のままに人々を殺戮する貴様の方がよっぽど品が無い様に見えるがな……」
セイヤはそう独りごち、一瞬のうちにエインヘリアルとの距離を詰める。
至近からの斬撃を回避する術などはない。ざあっと血の流れる音が、セイヤの聴覚を埋め尽くす。
己の血に全身を汚すエインヘリアルは、ぎょろりとした目つきでケルベロスを睨みつける。
息は荒く、体中から発散する闘気は野蛮そのものと思えた――睨みつけられて、アデレードはびくっと肩をすくめる。
「ぬわー!? そのような戦い方がキシドーだとでもいうのか!? よ、よいか、戦いというものはもっと優雅に可憐で正義な感じでやらねばかっこうつかんじゃろ!?」
こんな風に! と光の翼で羽ばたくアデレード。
ひらりひらりと飛び回り、頭上から吸魂の鎌を投擲。
「品がなきゃ殺しても良いってか? んじゃ、テメェが殺されても文句ねェよな?」
滲むように笑んで、いなせは戦場を煙で満たす。
西洋剣術が使えるだけで、このエインヘリアルは騎士道とは程遠い――思って、いなせは呟く。
「ビタ」
煙の中から姿を見せたビタは、吹き荒れる風で戦場を切り開いた。
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エインヘリアルのゾディアックソードが描く守護星座。
その煌めきと描かれたものがあまりにも美しく繊細で、思わずデレクは笑ってしまう。
「くだらねえ」
一笑に付して刃で抉れば、与えられたはずの加護も台無し。
デレクの刃を受けてなおエインヘリアルは油断なく周囲を見回していた。
何かの影がエインヘリアルの視界をよぎる――そちらに焦点を合わせようとしたエインヘリアルだったが、遅い。
「君の事なんてお見通しさ……ほら、ここ!」
フェイントで引っ掛けたのはヴィルフレッド。
見透かしたように笑いながら撃ち込まれた弾丸。責めるような目つきのエインヘリアルに、リボルバー銃『farfalla nero』を片手で弄びながらヴィルフレッドは言う。
「戦闘で上品も気品求めて勝てるなら苦労しないよ。生き汚いほうが勝つんだ。そして僕は汚なかろうと勝てる方法を取らせてもらうよ」
それは、程度に差こそあれここに集まったケルベロスたちが思っていたことでもある。
アデレードは光の翼を打ってエインヘリアルに迫ると、得物で肩口へと食らいつく。
「――ぐ、ググ」
痛みに呻いたエインヘリアルの目は血走り、唇の端には唾液が泡となって溜まっている。
知性や品性があるとはとても思えない表情……それを見て、アデライードは呟く。
「ぬぅ、何故、シャイターンどもはこういった連中ばかりエインヘリアルにするのかのぅ……。見る目がないんかのぅ……」
影二は稲妻の霊力を帯びた手裏剣に、螺旋の力を宿して放つ。
急激に鋭敏になった感覚が把握出来ず、立ち尽くすエインヘリアル。
ぐるりぐるりと回り始める眼球を見れば、放ったものが思い通りの効果をもたらしたことが分かった。
「身動きも出来まい」
戦況は有利に傾いている――それでも、ビタといなせは癒しに徹する。
ダメージのすべてを癒しきったわけではなく、有利といえどもここから逆転される可能性が無いわけではない。
ならばといなせは風の中、fast aidを行う。
「応急処置だ」
遠目にではあっても、癒しが届いて満ちるのがいなせには感じられた。
「萃、いけるな?」
「勿論だ、伽藍堂」
いなせとビタ、そしてウルからも癒しを受け取った楼芳の言葉は、ごく短く。
「穿て、【四奪】!」
グラビティの杭がエインヘリアルを戒める。
杭の突き立てられた瞬間にエインヘリアルへと飛びかかるのは万。
足元からは炎。エインヘリアルに飛び乗れば炎も乗り移り、すぐに全身へと燃え移った。
もはや火だるまと呼ぶにふさわしい状態のエインヘリアル――しかし、まだ命の火は消えていない。
炎に呑まれたゾディアックソードは赤熱している。迫る刃に臆することなく、セイヤは降魔刀「叢雲」を抜き。
「神速の刃に散れ……ッ!」
交差の瞬間に、その刃で切り伏せた。
――エインヘリアルの体がずれるのが、妙にゆっくりに見えた。
「俺の……俺達の、勝ちだ……!」
巨体の伏す音を聞いて、セイヤはそう言うのだった。
●
「……討伐完了」
呟いて影二が武器を収め、戦いは終了した。
住宅地という場所柄、戦闘の物音に不安を覚えている人もいるようだ。いなせはそうした人たちへと、何があったかの説明を行った。
アデレードは空の上、周囲に損傷した建物がないかの確認中。
「大丈夫そうじゃの」
言葉にうなずくのは、周辺のヒールを行っていた楼芳、そしてヴィルフレッドだ。
「無事に片付いたな」
「うん。みんな無事で何よりだね」
戦いの痕跡が残っていては不安の種になる。これだけヒールすれば問題ないだろう――そう確認してから、セイヤはエインヘリアルの倒れた辺りで瞑目する。
一人の剣士として、この剣術家の冥福を祈るために。
万はといえば、携帯電話を操作しながら口を開く。
「口直しに飲みに行くかァ、誰か来るか?」
飲み仲間から教わったお勧めの店リストを漁りつつ、既にスキットルから酒を飲んでいる。
「酒か。イイ事聞いたぜ」
ニヤリと笑うのはデレク。酔えるならば何でもいい、とでも言うような表情で、二人は飲みの計画を立てる。
――迫る日暮れの気配の中、ケルベロスたちはそれぞれの帰るべき場所へと向かうのだった。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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