赤と闇の狭間で

作者:幾夜緋琉

●赤と闇の狭間で
 東京都江東区、豊洲。
 街中に広大なキャンパスが建ち、学ぶは工学部と建築学部の学生、及び大学院生達。
 ……そして、その豊洲キャンパスの屋上から、豊洲運河を静かに眺めている……白衣に身を包んだ男性。
「ふぅ……」
 何か研究に行き詰まったのだろうか、深い溜息を吐いている彼……そんな彼の元へ、そっと近づくは、エキゾチックな格好に、赤が映える女性……赤のリチウ。
「ふふ……」
 静かに微笑んだかと思うと、振り返った彼。
 しかし次の瞬間、目の前は赤く色付く……紅蓮の炎が、彼の周りに燃え盛ったのだ。
 炎に飲まれる彼……そして、炎が消えると共に、姿を現わす葉、3m程近くの巨躯の、エインヘリアル。
 その格好は、何処か中世の騎士の如く、鎧とゾディアックソードの装備に身を包んでおり……騎士然とした姿は、何処か格好良い。
 そして、そんな彼に対し、赤のリチウは。
「ん、やっぱりエインヘリアルは騎士の姿が似合うの。さぁ、貴方は選ばれた騎士として、その力を示すんだよ」
 と指示を与え……その指示に従いしエインヘリアルは、柵を乗り越え、キャンパスへと降下していった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれて感謝ッス! 早速ッスけど、説明させて貰うッスね!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達に元気よく挨拶すると、早速説明を初めて行く。
「どうも、最近になって、有力なシャイターンが次々と動き出している様なんッスけど、この中の一人、赤のリチウの動きを察知出来たッス!」
「彼女は死者の泉の力を操って、その炎で燃やし尽くした男性を、其の場でエインヘリアルにする事が可能なんッスね。そして出現させられたエインヘリアルは、グラビティ・チェインが枯渇した状態で置かれている様で、人間を殺し、グラビティ・チェインを奪おうと暴れ出してしまうんッスよ!」
「そこでケルベロスの皆さんには、急ぎ現場へ向かい、暴れるエインヘリアルの撃破を頼みたいッス!」
 更にダンテは。
「このエインヘリアルは、豊洲の理工系大学に現れ、夜の時間、屋上で休憩を取っていたこの大学の大学院生を一人、エインヘリアルに変えてしまったッス」
「夜だから、キャンパスの中にはそんな多くの学生達は残っていない様ッスけど、会社帰りのサラリーマンとか、この辺りに済む主婦の方々等が不意にこのエインヘリアルに出くわしてしまう可能性は充分高いと言えるッスね」
「そしてこのエインヘリアルは、普通のエインヘリアルと、今回のエインヘリアルはちょっと違う姿をしている様ッス。どうも西洋の鎧の様な物を身につけ、ゾディアックソードをその手に掲げる……という出で立ちをしている様なんッスね」
「又、赤のリチウに選ばれたからなのか、自分は選ばれしエインヘリアル、という意識を持って居る様なんッス。そしてそんな自分に殺されるのは名誉な事だ、とでも思っている様で……性格的に難あり、という気はするッスね」
「その鎧と武器の二つ故、攻撃力も、防御力も高いエインヘリアルの模様ッス。一体だけ、とは言えども決して油断ならぬ敵ッスから、宜しく頼むッス!!」
 そして、ダンテは最後に。
「何にしても、この様なエインヘリアル立ちの暴走を放置しておく事は出来ないッスよね! ケルベロスの皆さん、宜しく頼むッス!!」
 と、拳を振り上げるのであった。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)
朝影・纏(蠱惑魔・e21924)
真田・結城(白銀の狼・e36342)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)

■リプレイ

●流れる河に
 東京都江東区の臨海地、豊洲。
 豊洲運河の脇に作られたキャンパスには、この大学の工学部と建築学部の学生達が通い、学ぶという……。
「おー……これは凄いのだよ!!」
 と、何処か興奮気味なのは叢雲・蓮(無常迅速・e00144)。
 ……エインヘリアルと戦えるから、とか、そういった理由ではなく……ただ単に。
「工学部って……ロボット居そう!! ロボット見れるかな?」
 と、言った気持ちから。
 確かに工学部と言えば、そういったロボットを作っている……という想像をするには難くない所ではあるだろう。
 でも、今回は、そんなロボットを作ったエインヘリアル……という訳でもないし、ロボットを纏って戦うエインヘリアルという訳でも無い。
 今回は、西洋風の甲胄に身を包んだ、3m程の体躯のエインヘリアルである……という事。
「いやはや……好き勝手に人を殺し、エインヘリアルに変貌させるとは、本当困ったもんじゃわい」
 肩を竦めるソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)に真田・結城(白銀の狼・e36342)も。
「……そうですね……それに、元々の性格に難はあったかもしれませんが……本来であれば、一般人として生きていられる筈……だったんですよね……」
「うむ。生前に罪はなかったろうがの」
 頷くソルヴィン、と、それに久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)も。
「そうですね。こんなエインヘリアルを作るシャイターンとは……少し見ない間にギャグに寄ったかと思ったら、急に本腰を入れてきたりとか……よく判んないですね」
 首を傾げる征夫の通り、確かにシャイターンにも色々なパターンがある様で。
 ……と、そんな仲間達の言葉に対し、そもそもといった感じで夜陣・碧人(影灯篭・e05022)が。
「私もまぁ研究者の真似事の様な事をしていますけど……大学って甲冑騎士が生まれるような環境でしたっけ?」
 と問いかける。それにルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)も。
「んー……工学部とか建築学部っすよね、ここに入ってるのは。そこで外国の服の事も学ぶんすかね?」
 と首を傾げる。
 ただ、そんな二人の言葉に、今迄ロボットと戦える……と思いつつあった蓮が。
「え、居ないのだよ……?」
 明らかに、しょんぼりとしてしまう蓮。
 それに碧人は。
「まぁ……工学部であればロボットに一度は憧れる人達でしょうけど……今回は騎士ですね。とはいえ、何か由来があって騎士の姿をしている、という訳では無さそうですが」
「そうなのだ……騎士もカッコイイけど、絶対にロボットの方がっぽいのに……」
 ……でも、ころっと気を取り直した蓮。
「けど……騎士もカッコイイし……悪いコトされないうちに頑張ってやっつけるのだよ!!」
 握りしめた拳を振り上げる蓮。
 その元気良さに、ルフが。
「そうっすね。襲われたのは悲しいっすけど、選ばれたから殺戮が許される訳じゃないっすよね」
 と頷き、そして朝影・纏(蠱惑魔・e21924)とラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)も。
「そうね。こうなってしまったらもうどうしようもないわね。残念だけれど、被害が出る前に死んで貰わないと」
「そうだねぇ、騎士様との相対とは腕が鳴るねぇ! とは言えエインヘリアル化してしまった人間を救えぬコトも心苦しい所。罪を重ねる前に屠ってやるのが救いかねぇ?」
 と言うと、征夫、ソルヴィンも。
「そうですね。まぁ、なっちまった人には申し訳無いですが、精一杯止めさせて貰いますか」
「うむ……致し方なし。対処させて貰うぞい」
 と決意新たに。
 そして……ケルベロス達の載るヘリオンが、豊洲上空に到着すると共に。
「それじゃ、行くのだよ!!」
 と、次々と空から降下していくのであった。

●その姿の凶器
 ヘリオンより、豊洲のキャンパスへと降り立つケルベロス達。
 周りの人達は、突然現れたケルベロス達の姿に……ざわめく。
「……さて、と……」
 と短く碧人は呟くと、そのまま殺界形成を発動させる。
 殺気に包まれしその空間に、学校の学生、そして偶然近くを歩いていた一般人達は……恐怖に、自然と足は其の場から離れようとしてくれる。
 そうしていると……更に、校舎の屋上から落ちてくる影。
 3mの体躯の、巨大なエインヘリアルが降下すると共に、地面に着地……ズシン、という地響きのようなものが、其の場に響き渡る。
 そして、エインヘリアルは。
『……ふははは。さぁ、我の剣に畏れ戦け!!』
 と自信満々に笑い、その手のゾディアックソードを天高く掲げる。
 3mの体躯に相応の、これも巨大なゾディアックソード……更なる恐怖を、周りの一般人に叩き込む。
 ……そんな一般人との間に立ちはだかるように割り込むケルベロス達。
『何だ、お前達は!』
 と言うエインヘリアルに対し、肩を竦める仕草と共に、碧人が。
「騎士の真似事とは……退学だな阿呆」
 と。
 無論、エインヘリアルは、退学……というよりは、阿呆という言葉に強く反応し。
『阿呆、だぁ!? この俺に何て言葉を吐きやがる!!』
「阿呆は阿呆だ。選ばれたからと、思い上がるな」
 更なる碧人の挑発、その肩にのったボクスドラゴンのフレアも。
『ギャウ!!』
 と吠えて挑発する。
 そして、碧人の言葉に続けて、蓮やラジュラムが。
「そうだね。おにーさんは選ばれたんだよね? なら、ボク達程度はがいしゅーいっしょくに……? ボク達を倒せるんだよね?」
「ふむ。それほど強いと言うなら面白い。ほれ、選ばれし騎士よ、名誉ある死をおじさんにも分けてくれんか?」
 蓮の言葉に対し、ラジュラムはグビッ、と一献傾け、そしてニヤリと笑う。
 そんなラジュラムの所作に、拳をグググ、と振るわせながら。
『てめえ!! 俺と戦おうというのに酒だぁ!? いい気になってんじゃねぇぞ!!』
 とそのゾディアックソードをぐわん、と振り落して攻撃。
 勢い付いたその一撃……が、ラジュラムはすっ、と躱す。
「ほれ、どうした? 止まって見える様だぞ?」
 更なる挑発を投げかけるラジュラム。
 そして、ルフが。
「まぁ、君がどう考えていようとも、ここでおしまいっすよ……という訳で、殺らせて貰う」
 鋭い眼光になり、そして。
「距離、風速…もう全部OK!俺は意思のある武器!勿体ぶらずにドドンといくっすよ!」
 と、大量の弾を後方から打ち込む『飛遊星』。
 その巨体は流石に軽やかに動かせない様で……多弾、命中。
『グフ……!』
 と、少しくぐもった声を上げる彼に、更なる追撃。
 同列の結城が、接近し、月光斬の一閃で斬り抜くと、ソルヴィンもサイコフォースを放つ。
 そして、後列、スナイパーより碧人が。
「フレア、行くよ」
 と声を掛け、フレアも。
『ギャーウ!!』
 と呼応。
 そして碧人がフロストレーザーの一撃を放てば、連携したフレアがボクスブレスで攻撃する。
 更にクラッシャーの蓮と纏。
「さー、いくのだよ!!」
 どこかあどけない笑顔を浮かべながら、エインヘリアルへと最接近。
 そして、尖端を雷刃突の一閃を叩き込むと、纏は……いつのまにか回り込んでいたエインヘリアルの背後から。
「「花散らす 風の宿りは 誰か知る」…風の居所を貴方は知っているかしら?」
 と、『疾風』の飛び膝蹴りを、その顔に喰らわせる。
 そして、ディフェンダーの征夫が。
「凍てつけ、鳴龍っ!」
 『久遠・伍の太刀「鳴龍」』で、氷を吹き付けた刀で斬り払う……と、その一撃に、エインヘリアルの西洋甲冑、腰の辺りが砕ける。
『ぐぅお!?』
 と、苦悶の表情を浮かべるのを眺めつつ、ラジュラムが。
「ほら、余所見はするなよ? 地獄で閻魔様がお待ちかねだぞ!」
 と狙い澄ました達人の一撃を、その装甲の綻びから横凪に叩きつけていく。
 多少、防御の崩れた所を狙われ、エインヘリアルにとってはかなりの大ダメージに至る。
 が……そんなエインヘリアル、決して逃げようとはしない。
『くそぉ……負けてたまるかよぉ!!』
 と苛立ちながらも、再度そのゾディアックソードを掲げ……そのままの勢いで、ケルベロス達に叩きつける。
 その攻撃を真っ正面から喰らえば、重傷は免れないだろう……が、。
「左から来るぞ!!」
「おう!」『ギャウウ!!』
 征夫、ラジュラム、そしてフレアが相互に声を掛け合い、太刀筋を見切り、回避。
 不運にも避けられないとしても、直撃だけは避ける様に身体を動かす。
 そして……攻撃を受け流しつつも、他のケルベロス達からは、幾重もの波状攻撃。
「ほらほら、逃がさないのだよ!!」
 と、グラインドファイアで炎を付ける蓮に、纏も戦術超鋼拳で殴り掛かる。
 更にスナイパーからルフの跳弾射撃や、ソルヴィンのおブレイズクラッシュ、更に結城が雷刃突による服や部位で防御を削ると、碧人が撲殺釘打法のジグザグ効果で、一気にバッドステータスを倍増させる。
 不意に増加するバッドステータスに、片膝を突くエインヘリアル。
 ……そして、そんなエインヘリアルへ。
「騎士、貴様は死に選ばれた」『ギャウー!』
 と静かに碧人とフレアが通告。
 ……が、エインヘリアルは決して怯まず。
『五月蠅い……うるさいっ!!』
 と、苛々しげに、顔を振る。
 勿論、そんなエインヘリアルに対し、ケルベロス達も決して攻勢を弱める事は無い。
 そして……エインヘリアルに対峙し、八分程。
『ガ……はぁ……ッ!!』
 と、征夫の絶空斬が決まり、その場に大きく倒れ込む彼。
「ほら、どうした? もう、それで終わりか?」
 と、征夫の言葉に対し、エインヘリアルは、唇を噛みしめるが……反論出来ない。
 ただ、その目だけで、ケルベロス達を睨み付ける。
「そろそろ終わりにしてやる。来世も人間に選ばれるといいな」
 と、務めて静かに、碧人の宣告。
 その言葉と共に放たれる『空飛ぶ双魚』が、エインヘリアルに次々と纏わり付き、爆ぜる水弾となって襲いかかる。
 そして……。
「選ばれし騎士よ、最後は苦しまずに眠ってくれ……」
 と、最後の宣告と共に、ラジュラムが接近……射抜く居合い斬りの一閃を放つと、エインヘリアルは……何処か、嬉しそうな表情を浮かべながら、消え去っていった。

●河の先に
 そして、ケルベロス達は、どうにかエインヘリアルを討ち倒す。
「ふぅ……」
 と、息を吐き、空を見上げる結城。
 既にエインヘリアルの影形も失われており、最早戦闘したと実感出来るのは、其の手の手応えと……周りの破壊痕位。
「終わった終わったー……さてと、それじゃ片付けを始めるのだ。そして治ったキャンパスで学ぶ人達が作るロボットが見られる事を期待するのだ!!」
 と蓮は意気揚々と、周りの壊れた所をせっせと直し始める蓮。
 他の仲間達も、征夫のヒールドローンを始めとし、ヒールグラビティや、その手でこわれた部分を直していく。
 ……その一方、怪我人が居ないかの捜索と、居た場合の手当を結城、纏らが実施。
 そして……一人ラジュラムは、先ほどまで敵の立っていた所に立ち……持ってきていた酒を掛け、弔う。
「……成仏してくれ……」
 静かな言葉の中には、彼への同情。
 ……彼の言葉を聞き、ルフも心の中で。
(「このエインヘリアルも、元は守るべき一般人だったんだよな……」)
 と……。
 ……彼を救うことが出来なかったのは確か。
 でも、彼が一般人を殺戮する……という罪を止めたのも、確か。
 そんな割り切れない気持ちを抱きつつも……一通りの修復作業を終えると共に、纏の呼び戻した一般人達が、パラパラと其の場に戻り始める。
 次第に日常を取り戻しつつある、その場……彼が居なくなったのを、気づいてくれるのは……いるのだろうか……。
「一人になるのが危険なのか、一人になるような奴が狙われるのか……何だかなぁ……」
 とボヤク征夫に、碧人は。
「そうですね……まぁ、何にせよ、大学。落ち着いたら通ってみたいものですねえ……フレア、連れ込めるのでしょうか?」
 と言うと、それにフレアは。
『ギャウゥ?』
 と啼く。
 ……そんなフレアを見て、纏は。
「そういえば……ボクスドラゴンはホットミルク、でいいのかしら……?」
 と。
 その言葉にフレアは。
『ギャウ!!』
 と、とっても嬉しそうに啼く。それに纏いはくすりと笑い、ホットミルクを碧人に渡すと、フレアは高い声を上げて、喜びホットミルクを飲み始める。
 その仕草はどこか可愛くて……他の仲間達も、軽い笑顔と共に、一時の安らぎを覚えるのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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