秀でたるは騎士に転じて

作者:零風堂

 扇坂・慎司は、確かに優秀な男性だった。
 学校でも常に学年トップの成績で、授業態度も真面目であり、教師たちからの信頼も厚い。
 学習塾にも真面目に通い、時には講師に鋭い質問を投げかけることもあった。
「すべてを確実に、効率よく」
 慎司はひとり、学習塾の講師用パソコンを操作していた。密かに調べ上げたある講師のパスワードを使い、試験用のデータを盗み出していく。
「僕の能力をもってすれば、この程度の問題を解くことは難しくはない。けれど、万が一ということもあるし、試験範囲の全てを完璧にしておくほど、僕も暇じゃあないんでね」
 無人の室内で、慎司は誰にともなく呟いていた。或いはそれは、悪事を働く自分に対する言い訳だったのかもしれない。
「勝負は、戦い始める前から既に始まっている、ってことだね。どんな準備をしておくかが、大切ってことさ」
「ん。思った通り、優秀な人間みたいなの」
「誰だ!」
 唐突に掛けられた声に、慎司が振り返る。
 そこには、どこか濁りを感じさせる瞳で慎司を見つめる、褐色の少女が佇んでいた。
「ぐわああっ!」
 次の瞬間、赤く鮮やかな炎が、慎司の身体を包み込んだ。
「全てを効率的に、最少の労力で最大の成果を挙げようとする人間。躊躇も罪悪感もなく、最短の手段を選ぶその精神、見事なの」
「…………」
 炎に包まれ、倒れた慎司からの返事はない。
 しかしすぐに、炎の中から巨躯を起こし、整然とした姿の騎士が現れた。
「ん、やっぱり、エインヘリアルは騎士が似合うの。さぁ、選ばれた騎士として、その力を示すんだよ」
「…………ははっ」
 エインヘリアルに変じた慎司は、巨体ながらも跪き、自らを生み出したシャイターンの言葉に耳を傾けている様子だ。
「ほかの人間を襲ってグラビティ・チェインを奪うの。あなたの力が高まったら、迎えに来てあげるから」
 そう言い残し、シャイターンは去っていく。残されたエインヘリアルは、部屋の扉を易々と破壊し、夜の街へと飛び出して行くのだった。

「この度はお集まりいただきありがとうございます。それでは事件について説明しますね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言って、集まったケルベロスたちに話し始める。
「今回の事件は、有力なシャイターンたちの動きが原因になっているようです。彼女たちは死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、その場でエインヘリアルにする事ができるそうです」
 既にそういった事例は出始めているというセリカに、ケルベロスたちも頷く。
「出現したエインヘリアルは、グラビティ・チェインが枯渇した状態なので、人間を殺してそれを奪おうとします。急いで現場に向かい、人を襲おうとするエインヘリアルを倒すようお願いします」

「エインヘリアルが現れるのは駅前の商店街で、時刻は夜になります。帰宅ラッシュの時間帯は過ぎていますが、まだ仕事帰りの方々の往来があり、商店街で働く人たちの姿も見られます」
 敵を止めなければ、この人たちが犠牲となってしまうことだろう。
「エインヘリアルは身長3mほどの巨躯を鎧で包み、両手にそれぞれゾディアックソードを携えているので、すぐに発見できると思います」
 セリカは真剣な眼差しで、言葉を続ける。
「このエインヘリアルはプライドが高く、殺人を行うことを『優秀な自分が強くなるための糧になれることを喜んで欲しいくらいだ』と考えていて、躊躇いなどはありません。急いで現場に向かい、このエインヘリアルによる虐殺を止めて下さい」
 セリカに言われ、ケルベロスたちも真剣な眼差しで頷くのだった。


参加者
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
シオン・プリム(蕾・e02964)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
陽山・人機(見習いヒーローのレプリカント・e41259)

■リプレイ

●己のために、奪う
 駅に辿り着いた列車が、多くの人々を降ろし、また多くの人々を乗せて動き始める。
 ひと言で表現すれば、ただの雑踏。しかしその一人一人には生活があり、帰りを待つ家族がいる。
 その平穏な暮らしが幾つも集まって、社会を、世界を作っているのだ。
「……殺す」
 駅から繋がる商店街に、異質な人影が現れる。3メートルはあろうかという巨体に、ふた振りの剣。鎧で包んでも覆い隠せぬほどの殺気が、その騎士――エインヘリアルからは発せられていた。
 異変を感じ、騒いで逃げ惑う通行人たち。ひとりの女性がつまづいて転び、気づいた騎士が飛び込んでいく。
「僕の力になれることを、喜ぶがいい」
 倒れ込んだ女性を狙って、騎士の手にした剣が振り上げられた。
 がきん!
 硬い音を響かせて、飛来した何かが騎士の剣を弾く。斬撃の軌道が逸れて、女性は間一髪で難を逃れた。
「こうなる前に止められなかったのは悪ィが、これ以上の事はさせねえ」
 投げ込まれたのは螺旋手裏剣。グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)が騎士の暴挙を止めるため、駆け付けざまに放った一撃である。
「よぅ、ケルベロスが来たぜ……。んじゃま、Assemble!」
 燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)が、女性の前に立ちふさがるよう陣取って、不敵な態度で言い放つ。騎士は剣を握り直すと、こちらに視線を向けてきた。
「ケルベロス……。なるほど、おまえたちを倒さなければ、グラビティ・チェインの回収も不可能だな」
 騎士は冷静な口調で呟くと、二刀を構えてこちらとの間合いを詰め始める。
「努力と根性を知らない悪者はこの俺が! 俺達が! ぶっ倒してやるぞ!」
 陽山・人機(見習いヒーローのレプリカント・e41259)は気圧されぬよう胸を張り、大声で、騎士に向かって言い放つ。これも相手の注意を引くための作戦だ。言い終わった直後に軽く目配せして女性に逃げるよう促し、気づいた女性が慌ててその場から走り去っていった。
「早急に片付けさせてもらおう。おまえたちと遊んでいられるほど、僕も暇じゃあない」
 女性は追わず、騎士はケルベロスたちのほうに突っ込んでくる。
「お前を殺すのに、一切の躊躇をしなくて済むのが、楽でいいよ」
 カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)が鎗を手に、その進行を食い止めた。
「さぁ……、殺すね」
 敵との距離を計りながら、カタリーナは反逆の記憶を蘇らせ、次の一手の準備に入った。

「絶対に守り抜く。だから落ち着いて、この場から離れて」
 その間にもシオン・プリム(蕾・e02964)が、通りがかった人や商店に残っていた人に声を届け、この場から離れるよう促していく。
「気づいているかもしれないけれど、ここは危ないからね。さ、早くお逃げなさい」
 ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)も逃げ遅れる人が出ないよう、子供や女性、お年寄りなどが取り残されていないか手助けしていった。
「ここも鎖が導いた戦場だね。変身っ……!」
 ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)がプリズムファクターにチェーンキーを差し込み、フォームチェンジする。
「さぁて、勝利へ繋ぐとしようか!」
 ライゼルは付近の状況を見回すと、人々の逃げる流れと敵の位置、そこからどう逃げればいいかを確かめた。
「あっちだ。ボクはこの辺りの人を逃がすから、先導は任せたよ」
 ライゼルから指示を受けて、ティニ・ローゼジィ(レプリカントの螺旋忍者・en0028)が素早く駆け出す。
「少しでも力になれるよう、全力を尽くします……!」
 玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)とティニが先導し、逃げ惑う人々に流れが生まれ、戦場から遠ざかっていく。
「焦らず、ここから避難しなさい! 人を突き飛ばしたりしないように!」
 ライゼルは引き続き戦場に残り、近くで逃げ遅れた人へ危険が及ばないよう、声を上げ続けた。

「愚かな。逃げても無駄……、恐怖が長く続くだけであろうに」
 騎士は逃げていく人々と立ちはだかるケルベロスとを交互に見て、つまらなそうに呟く。
「――ハッ。無知蒙昧な馬鹿はこれだから」
 その目前に、カタリーナが滑り込んだ。敵も反応して無造作に剣を突き出すが、カタリーナは怯まずに掻い潜る。濃褐色のカタリーナの髪のひと房が刃に掠められ、ぱしっと跳ねた。
 高速演算で見抜いた鎧の最も弱い部分を狙い、鋭い一撃を叩き付ける。
「……この程度、大した障害ではない」
 騎士は憮然とした態度で呟く。その攻防の間に、倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)が支援のための無人機を生み出していった。
「……カイロ、お願いね」
 ウイングキャット『カイロ』が清浄なる翼を羽ばたかせ、邪気に抗う力を高めさせてゆく。その加護を受けながら、亞狼は力を解き放つ。
「ぁ? 文句あんのかよ」
 亞狼の背に浮かぶは黒い日輪。強烈な熱波を感じさせる黒炎の輝きだが、それを認識しているのは敵の騎士だけだった。
「ちっ、下等な連中め……」
 騎士は露骨な敵意を滲ませながら、亞狼の姿を睨みつける。
「ここで止めねえとな!」
 グレインの身に纏うオウガメタルが、煌めく粒子を放って仲間たちの感覚を研ぎ澄ましていく。しかし相対する騎士も高々と剣を振り上げて、重力を込めた一撃を振り下ろしてきた。
「っ……!」
 シオンが五角盾で刃を受けるが、衝撃と振動が全身を貫くかのように伝わってくる。
 みしみしと、シオンの身体を包む桜銀の甲冑が悲鳴を上げた。
「……何の恨みもなく人々を傷付けるなど」
 しかしシオンは一歩も退かず、闘志を燃やしながら鉄塊剣を握り締める。
「許せない……!」
 鋭い眼光で敵を見据え、シオンが思い切り剣を振り出した。相手の鎧を力強く叩き、盛大な音が響き渡る。
「当たって砕けろ、ドリルパニッシャー!」
 シオンと打ち合う騎士の側面に、人機が回り込む。携えるパイルバンカーの杭を回転させて一撃を繰り出すも、剣のひと振りで弾かれてしまった。
「っ!? ……でも、諦めない!」
 せめて反撃を受けないよう、仲間の邪魔にならないようにと人機は後ろに飛び退る。
「口ほどにもない。己の無力を思い知れ」
 微かに笑みを浮かべる騎士だったが、人機が下がったスペースを利用し、ユーシスが狙いを定めていた。
「やれやれ、つまんない坊やみたいね。効率ばかりじゃあ、いい女は靡かないわよ?」
 視野が狭い。と微かに呟き、ユーシスは魔力を導いていく。直後に騎士の足元から雷が立ち昇り、騎士の全身を貫いた。
「壁を作り、人々を逃がす際は不落無双陣。やっぱり遊び心と余裕がある方が、おばちゃん的には好みかしら」
 揺らぐ騎士の姿を見据え、伊達眼鏡を掛け直し、ユーシスは小さく呟く。

「元となった人は、かなり傲慢な奴みたいだね」
 ライゼルは小さく呟きながら、キープアウトテープで戦場に、新たに近づく人が出ないよう封鎖していく。
「それはそうと被害を拡大させるわけにはいかない。ここでストップさせてもらうよ」
 言いながら、ライゼルの腕が地獄の炎を猛らせる。
「愛しき子に加護を。そして、魔を払え。心を許すな」
 炎の中から現れた小動物が鎖を引いて駆け巡る。ライゼルは魔を打ち破る力を高めながら、騎士の姿を鋭く見据えた。
「おぅコラ、こっちだ」
 亞狼が素早くナイフを持ち替え、騎士の脚に傷を刻み付けていく。
「……あまり調子に乗らないように」
 騎士が剣を構え、星座のオーラが輝いた。咄嗟に亞狼は後ろに跳んで、腕を交差させる。
「消えろっ!」
 星の力が冷気を呼び、亞狼や人機を氷で覆っていった。
「すぐに立て直しましょう!」
 ティニが分身を生み出して、人機が立ち上がる隙を作り出す。
「っ……! でもまだだ。ヒーローは、努力と気力と根性だ!」
 奥歯を噛みしめライフルを構え、人機はゼログラビトンを撃ち出した! エネルギー弾が騎士の胸を打ち、僅かに動きを揺るがした。
「それでも、誰かを守るという意思は潰えていない」
 一瞬の隙を突いてシオンが駆ける。柚子が展開を続ける無人機を盾にしながら距離を詰め、指輪から生み出した光の剣を振り上げた。
「ふん。優れた者を認めたがらない、凡人風情が!」
 騎士が剣を立て、シオンの一撃を受け止めようとする。しかし両者の刃が衝突する瞬間に、シオンは光の剣を消滅させていた。
「!?」
 剣を空振りしてしまい、騎士の体勢が崩れた。シオンは敵の剣を紙一重で避けると、再び光の剣を生み出す。
 至近距離から繰り出された一撃が、騎士の左腿に深々と突き刺さる。
「ちっ……!」
 忌々しく呟き、騎士はシオンから距離を取る。ダメージの程度を確かめるかのように、軽く身体を揺すっていた。
「在りし日の残光。栄光の記録。血塗られた記憶。我が手に宿りし数多の覚悟よ。この痛みを誓約として剣を成す」
 その間にカタリーナが『神喰らう血濡れの剣』によって次の手に備える。
 グレインもオウガメタルから光の粒子を放出し、後列の仲間の感覚を高めていった。
「一気に仕掛ける際は、疾風神破陣とかいう感じ?」
 ユーシスが呟きながら、ケルベロスチェインを伸ばしていく。騎士の動きを目で追いながら、最高の一瞬を狙う。
「……だって、陣形の名前要るんでしょ? おばちゃん、毎度はずかしいけど考えてるのよ?」
 三度のフェイントを織り交ぜて、騎士の動きが僅かに乱れた。その瞬間にユーシスが意識を集中させ、周囲の鎖が一気に騎士へと絡みついた。

●無駄な道程など無い
「おのれ、おのれ、おのれ……!」
 傷つき苛立った様子で、騎士が剣を振り回し始めた。
「うおっ!?」
「わっ!」
 亞狼が間合いを外されて、人機が後ろに弾き飛ばされる。がしゃんと商店の看板をぶち抜いたところで、辛うじて人機は踏み止まった。
「何故、優秀な僕の邪魔をする? 下等な連中はせめて、優れた者の糧くらいにはなれよ!」
 騎士が両手の剣を振り上げて、一気に重力を収束させる。勢い良く振り下ろされた十文字の衝撃が、シオンの身体に叩き付けられた。
「…………!」
 みしみしと響くのは、甲冑の軋みか肉体の悲鳴か。シオンの身体が歪み、押し潰されるように地面に倒される。
「今のは……!」
 まずい。柚子が急いで快楽エネルギーを凝縮させ、桃色の霧に変えてシオンへと飛ばした。
「…………」
 シオンは身体の痛みに耐えて立ち上がり、鉄塊剣を握り締める。
 己の欲望の為だけに、人を傷つけること。それはまさに凶行と呼ぶに相応しい。
 絶対に、止めてみせる!
 呼気と共に、地を蹴って腕を振る。身体ごと回転させるように刃を振り抜き、騎士の胴を強烈に叩いた。
「このっ!」
 シオンを叩き落とそうと、騎士が剣を振り上げる。
「力ってのは、大切なものを守るために使うもんだ」
 そこにグレインが踏み込んだ。対する敵は巨躯の騎士・エインヘリアル。生まれたてとは言え、確かに強力。そういう意味では確かに相手の方が、優秀なのかもしれない。
 だが、それでも。
「――星辰の力、そんな事に使わせねえぜ」
 牡牛の星辰が輝きとなって、グレインの剣に宿る。その力を掲げて示すようにグレインは跳び、騎士に思い切り叩き付けた。
「確実に効率よく。ねえ……、機械的で浪漫がないわ」
 戦いの中で、ユーシスは呆れたように小さく呟いていた。
「結果も大事だけど、その過程で問題をどうやって克服し、次に繋げたか。そういうのが『人』を作ると思ってる古い女だから」
 ユーシスは魔力を集中させながら、九尾扇を立てて構える。伊達眼鏡越しの瞳は冷たく、軽蔑の意志を込めて騎士を見据えていた。
「さて、ひっぱたいて分からない子には……、お仕置きしないとね」
 息を吐き、竜の言葉を魔法に変える。
「理に背く者共よ……、大地より飛び立つ雷竜に穿たれるがよい!」
 敵の足元から立ち昇るドラゴンの幻影が、雷と共にその身体を貫いて過ぎる。バチバチと耳障りな音を響かせながら、騎士の身体が僅かに揺れた。
「く……、全てが僕の、計画通りに……」
 騎士が震える腕で、剣を振り始める。精彩を欠いたその攻撃を、亞狼が素早く避けて懐に入り込んだ。
「ぁ? なもん知るかよ」
 亞狼が騎士の腿を蹴り、胸元に刃を突き立てる。そのまま飛び降りざまに敵の身体を切り裂いて、血飛沫を上げさせた。
「お前は何にもわかってない! 努力や根性無しじゃ真の強さは掴めないんだぞ!」
 人機が傷ついた体に鞭打ち、走り出す。構えたパイルバンカーに螺旋力を込めて、ぐっと握り締めた。
「突撃だ! デッドエンド……、インパクトーー!」
 絶叫と同時にジェット噴射で急加速し、騎士の土手っ腹に杭をぶち込んだ。
「ぬぅ……! 何故、ここまでの、力を……っ!」
 衝撃で後退る騎士だが、辛うじて剣を握り続けている。
「理解できないだろうね。自分のことしか考えていない者には」
 ライゼルのライドキャリバー『クラヴィク』が、炎を纏って加速する。ライゼルはその背に飛び乗り、ぐっと拳を握りしめた。
「大切なものを守ろうとする心が、ボクたちの力だっ!」
 虹のブレストプレートが光り、腕に虹の鎖が巻き付く。突撃するクラヴィクの勢いと共に、鋼の拳を真っ直ぐに突き出す。
「ライダー……、パンチッ!」
 一撃が、騎士の胸を穿つ。しかし相手も剣を振り抜き、ライゼルとクラヴィクをぶっ飛ばしていた。
「くっ、ははは……。それでも、僕の方が上だ。所詮おまえたちは、僕の踏み台になるしかない」
 嘲笑の笑みを零す騎士だったが、その前に、白光の鎗を携えたカタリーナが立つ。
「本当に優秀な奴はそんなことしなくたって、考えるまでもなく正解を導くもの――」
 白き輝きと共に、カタリーナが走る。雷光を思わせる突きが駆け抜け、騎士の胸を一瞬で貫いた。
「お前なんてただの屑、それだけだよ」
 その言葉に対する返事はなく、我欲に溺れた騎士はその場に崩れ落ちる。

「……ふぅ、つまらなかった」
 カタリーナは静かに、敵に対する嫌悪を濯ぐかのように呟いた。
「魅入られた坊やも被害者よねえ」
 ユーシスもその最後を見届けて、物憂げに言葉を落とす。
「お疲れ様さん。避難誘導のお陰で被害も軽微だ」
「何よりの結果ですね。あとは片付けて帰還しましょう」
 グレインの言葉にティニも頷く。エインヘリアルが現れたのはまだ人通りのある商店街だったものの、敵の気を引いて避難を促したこともあり、犠牲者は出ずに済んだのだ。
 戦いを終えてすぐにこの場を離れる者、ヒールや後片付けをする者……、それぞれが思う行動を終えて、一同は帰路につくのであった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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