夏草に咲く

作者:朱凪

●暴徒、芽吹く
 それは雑草が地を覆うように迅速に無慈悲に、景色を一変させた。
 真新しく建てられたばかりのビルの裏手がむせ返るような濃密な血の匂いで満ちる。そこに在るのは、ほとんど死体と化した男達。まだ年若い。
 ひゃははと笑った金色の髪の男が、かろうじて命を繋ぎ、呻きを零すひとりの男の身体を蹴った。年の頃は同じくらいだろう。彼の後ろには同じように下卑た笑みを浮かべる男達が同じように地に伏せる男達を更に痛めつけている。
「聞いたかよ? 『化け物ぉ』とか情けない声出してさ」
 彼の言葉に、同調するような嘲笑がさざめく。
 それに気を良くしたように、金髪の男は『なあ』と壁際に佇む男へと振り向いた。
「確かに『化け物』であることに違いねぇけ、」
 ど。最後のひと文字が、声にならない。
 音もなく彼の喉に巻き付いた太い蔓が、彼の気道を締め潰して呼吸を止める。文字通り、息の根も。
「かっ……ッ、……」
「はは」
 壁際に立つ男が、焦点の合わない目で乾いた笑いを零す。その顔には絡みつくように、根を張るように、裏葉色の植物が融合している。顔だけではない。金髪の彼を絞め殺した蔓は男の右腕から伸びている。
「ごめんごめん。耳障りだったから殺しちゃったよ」
 元の顔付きはひと好きのするようなそれだったのだろうと、蔓の浸食のない目鼻立ちから想像されるが、けれど彼は既に歪み切っていた。
「君達も気を付けてよね。殺されたくなかったら、殺しても良い奴らがたむろしてる場所に連れてって。判るね?」
 にこ。植物に侵された男が壊れた笑みを向けると、仲間であったはずのグループの中からまたひとつ、断末魔の悲鳴が締め潰される音が響いた。

●地獄の番犬、奔る
 丸いパンダの耳を心なしかしょんぼりさせた少女──笹島・ねむは、振り切るように首を振った。
「みんな、集まってくれてありがとうなのです。さっそくですが、お仕事です!」
 なんとか笑顔を向ける彼女の大きな瞳が、期待を込めてケルベロス達を見渡す。
 関東圏の地図を広げ、彼女はある一帯に指先で円を描いた。
「場所は茨城県のかすみがうら市。最近急にビルがたくさん建ったりして、若者の街なんて言われてるらしいですね! でもなんだか良くないひと達のグループ同士が争ったりしてるみたいなんです」
 危ないですね! と意気込む、ねむ。けれど、ただそれだけならば、ケルベロスが関わる必要はない。そのあとに続くであろう言葉を察した数人の視線を受けて、ねむはこっくりと肯いた。
 彼女はヘリオライダーだ。ケルベロスの宿敵である、デウスエクスによる事件を『予知』することができる。
「そうなんです。コードネーム『デウスエクス・ユグドラシル』。攻性植物とか呼ばれたりするんですけど、それを受け入れちゃって異形化したひとが、良くないひと達のグループに紛れ込んでいて、どんどんひとを殺してるみたいなんです……!」
 ぎゅ、と小さな手を握って、ねむが告げる。
「でも攻性植物を受け入れたひとは、ひとりだけです! みんなと戦い始めたら、他のひと達は逃げ出すと思うから、周りのひとには気を配らなくて良さそうです」
 攻性植物は、身体に融合した植物部位を任意に変形させることができる。
 敵へ絡みつき締め上げる蔓触手形態。
 地に根を張るようにして浸食し敵群を呑み込む埋葬形態。
 ハエトリグサのような棘で敵へ喰らいつき毒を注入する捕食形態。
 攻撃方法はその3つだと考えて良い。
「戦う場所もビルの裏ですが、狭いってわけでもないみたいなので、存分に力を振るえると思います! 近くまではねむがヘリオンでご案内するので、大丈夫ですよ!」
「……了解」
 集まったケルベロスのひとりである相沢・創介は小さく肯き、立てかけてあった愛用のチェーンソー剣を掴んだ。そして同じように集った面々の顔を見渡す。
「行こうか。……放っておけないからね」


参加者
藤咲・うるる(サニーガール・e00086)
ロベルト・スライフィールド(世界で二番目にカッコイイ豚・e00652)
紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)
大粟・還(うさぎのおやつ・e02487)
大野・智衣(恩師の面影を慕う黒衣の探究者・e02530)
山吹・翠(根無し草・e02673)
七星・さくら(桜花の理・e04235)
桜井・夕月(獣と眠る・e04469)

■リプレイ

●戦地へ落つ
 ヘリオンから見下ろすのは、真新しいビルが立ち並ぶ街。
 一見すれば成長を孕み活気に溢れているようにも見えるけれど。
「随分と治安の悪い場所なのね」
 ぽつり、藤咲・うるる(サニーガール・e00086)が告げてしまうのも仕方ない。若者同士の抗争が日常茶飯事となっているのだから。そこにデウスエクスが巣食うとあれば、放っておくわけにはいかない。
「だって私たちはケルベロスだものね。ここはひとつ、皆で力を合わせて頑張りましょ!」
 にっこり笑って、彼女は翼を広げ、ひょいと空へと飛び込んだ。
「もう少しダラダラしてたかったんですけどねー」
 くるくるとスマートフォンを眺めていた大粟・還(うさぎのおやつ・e02487)も、気怠げな様子を隠すことなく立ち上がると、倒れ込むようにして落ちていく。ばさ、と下方で翼の広がる音。
 着物の袖が広がらぬよう、そして戦いの際に邪魔にならぬよう黙々とたすき掛けをして、山吹・翠(根無し草・e02673)も後に続く。
「なにはともあれ。一緒に頑張りましょうね、創介」
「刈り取るのは得意だよ。……任せて」
 作戦の段取りを伝え、紫・恋苗(紫世を継ぐ者・e01389)が告げれば、相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)は静かに肯いた。
 仲間達が平然と飛び降りていく中、降下を経験するのは初めてなのだと言う七星・さくら(桜花の理・e04235)がぎゅうと手すりを掴む。
「ちょっと怖いわね……」
「先に行きますよ?」
 告げたのは優しさなのか呆れなのか真意は不明なれど、桜井・夕月(獣と眠る・e04469)が翼のない背でタラップを蹴る。それを見送って、うんとさくらも意を決した。
 踏み込む、空。
「──きゃっ……!」
 翼より早くしなやかに、彼女のスカートが風を孕んで翻った。

●夏空と緑
 血の匂い。
 顔を僅かしかめたのは、ロベルト・スライフィールド(世界で二番目にカッコイイ豚・e00652)だけではない。ふつふつと胸に湧き起こる憤りを治めるように、大野・智衣(恩師の面影を慕う黒衣の探究者・e02530)は静かに細く息を吐いた。そして見上げる、夏の空。
 ──先生……行って来ます……!
 駆け込んだビルの裏手は、恐怖に支配されていた。凍ったように、突然の来訪者をただ目を見張って見つめる、十数人の男達。
 いくつも転がる息絶えた人間に、夕月はほんの少し右目の下にしわを刻んだ。恋苗の視線の先には、半身を裏葉色の蔓に浸食された男がゆらりと振り向く。その植物の先には、だらりと力を失くした男の死体。
 ──攻性植物。あたしも扱ってはいるけど……本来、危険なものなのよね……。
 それを、受け入れてしまった人間。
「……はは? あれも殺していいのかな?」
 焦点を失った目で男が告げて、蔓が締め殺したばかりの死体を無造作に放り出した。きゅと唇を引き結び、恋苗は自らの腕にも獰猛な戦闘植物を纏わせる。
「とにかく、止めるしかないわね」
「ひっ?!」
「あ、あいつもだ!」
 既に恐慌状態であった一般人だ、『デウスエクス・ユグドラシル』に浸食されているか否か、見分けなどつかないのだろう。しかし、好都合だ。
「貴方達。殺されたくなかったらどこかへ行って頂戴」
「そうだね。やっこさんと殴り合えない子はさっさと立ち去りな! あたしらも彼も君らも、死んだらそれで終いなんだからねぇ!」
 恋苗の静かな脅迫を、翠が煽る。
 ──兵どもが夢の跡……と言えば聞こえは良いのでしょうけど。
 地に伏した男達、及び腰になって蜘蛛の子を散らすように不恰好に逃げ出していく男達。自ら『抗争』するような彼らではあるけれど、『殺されて良い』理由にはならない。
 ──力に溺れた無慈悲な殺し合いなど私達の手で終わらせましょう。
「ココは私達に任せて、皆さんはこの場から離れて下さい……!」
 智衣の丁寧な声掛けの向こう側、
「はい、危ないんでさっさと逃げちゃってくださいねー」
「邪魔だ、さっさと失せな」
 どこか緊張感に欠ける還の声と、感情を滲ませないロベルトの声が重なる。その様子を黙って眺めていた男が、
「……はは」
 乾いた笑いと共に、無造作に持ち上げた腕。
「!」
 伸びた蔓。絡み合うように形を変えた鋭い棘のハエトリグサが、脚をもつれさせて逃げるひとりの青年の背へと急襲する。

 ざくり。
「ぐっ……!」

 深々と突き刺さったのは、左肩。流れ込む毒の感覚に眩暈がする。けれど、痛苦に顔を歪めたのは僅かのこと。『彼女』は、夕月は、笑った。
「楽しみの為に殺してもいい奴なんていないんですよ……ってもわかってくれませんかね。君の攻撃は、通しませんよ」
「へーぇ? ──っと……?!」
 たんッ、と地を蹴った小柄な身体が、男の胸倉を掴み寄せ、闇の力纏う右腕で思い切り、その横っ面を殴り飛ばした。派手な音を立てて転がった男の前に、拳の主、うるるがふわりと降り立つ。
「そんなに戦いたいなら、私たちがお相手する」
「……っはは、面白いね。殺し甲斐が、ありそうだ」
 壁に崩れたまま、男が笑う。仲間がそれを取り囲み、その隙に夕月は彼女自身が突き飛ばしたお蔭で腰を抜かしている青年に振り向いた。
「ほらほら、さっさと逃げてくださいね?」
「あ……あ、あの、」
「そうね。あなた達はまだまだ若いんだから、こんなところで良くないことなんてしてないで、もっと皆が笑顔になるようなことをした方が、人生楽しいわよ?」
 言葉が見付からない様子の青年に手を貸して、さくらも告げる。さぁ行って、と。
 青年が転がるようにして路地へ駆け出したのと同時、攻性植物を纏った男が立ち上がる。その前に立ち塞がって、翠が笑う。
 悪魔の角を顕現して前髪が揺れ、隠れていた金の瞳が好戦的な光を宿した。
「多対一で悪いけど、お相手願うよ」
 ──全力で!

●交戦、幾許
「おう。豚さんが芝刈りに来たぜ、雑草野郎」
 降魔を宿すうるるの一撃に、敵の脚がふらついたその間隙。
 ロベルトは銀縁の眼鏡の奥、鋭さの中に穏やかさすら浮かべた赤茶の瞳を、僅か眇める。
「見えるぞ」
 数瞬先を見据えた、予測射撃。幾多の修練に裏打ちされた弾丸は、狙い澄ますというよりも自ら吸い込まれて行くかのように、敵の膝を貫いた。
「がッ……!」
「ええ。悪い草は刈取る。でないと、他の健康な枝葉も腐ってしまうわ」
 恋苗の構えた刃に映り込んだ、男のトラウマはなんだっただろう。
「……はは、うるさい、煩いッ! 僕は、間違ってない……!」
 ただでさえ狂気を宿した男の攻性植物が、規則性を失って闇雲に暴れ回る。鞭のようにしなり襲い来るそれを、恋苗は青褐の翼を広げ、危なげなく避けた。
「あたし、これでも植物園を守ってるのよ。……花の扱いなら、少しくらいは心得てるわ」
「ん、ちょっと親近感ですねー。ま、雑草は駆除しなきゃダメですからね。頑張りますか」
 還の『自宅』は実家の畑。
 今目の前に立ち塞がる攻性植物を受け入れた男は彼女にとって、畑に蔓延り作物をダメにする雑草と相違ない。故に、掛ける慈悲もない。
「それっ」
 畑仕事は力仕事。思い切り振り下ろされたスマートフォンの角が、がつんと鈍い音を立てて男の頭頂へと直撃する。想像以上の衝撃に瞬時視界の揺れた男の顔へ、彼女のウィングキャット・るーさんが飛び掛かってばりばりと引っ掻いた。
「うぅうっ……! くそっくそっ! なんでだ! 僕は間違ってないのに!」
 それを振り払うようにしてたたらを踏む。それを見遣って、翠は内心で首を傾げる。
 ──さて、異形化を受け入れるような子だったから、そういうグループにいたのか。
 それとも異形化を受け入れてから、グループに入るようになったのか。
 ふぅむと零した息は、一回分。
 ──うん、考えてもしょうがないか。
 判るはずもなければ、興味もない。ひゅ、と懐へ潜り込んだ彼女は無造作にも見える仕種で指一本、男の喉元に突き立てた。
「さあて、君にとって殺していい相手ってのはどんな奴なんだい?」
「決まってるだろ! 力もない癖にいきがってる莫迦共だ!」
 彼が叫ぶと、みしり、と石が軋むような音がする。魂が千切れるような声に、智衣の瞳が揺れた。
 ──力が、あれば。
 男の願いは、そこにあったのだろう。
 智衣の経験した二度の喪失、そのとき。願わなかっただろうか。祈らなかっただろうか。同じように、力があれば、と。
「……っ」
 ぎゅ、と握り締めた長剣。落ち着かせるように呼吸をひとつ、ふたつ。そして智衣はその剣を振り上げる。
「我が生まれの星の下に、その身に絡み付いた呪縛、断ち斬ってみせましょう……!」
 籠める力は宙を泳ぐ魚のそれ。
 重力を纏う刃が男の胸を深く裂いた。

 男は、確かに執念じみていた。
 けれど九人とサーヴァントを相手取り、ジャマーのふたりによって増幅されたトラウマや毒に苛まれながらも今なお戦い続ける気力は勿論のこと、彼等ケルベロスの攻撃に対しての適応力も常軌を逸していた。そのために、彼等の刃が空を斬ることも少なくはなかったのだ。
 それだけ、『デウスエクス・ユグドラシル』との融合が進んでしまっているのだろう。ただの一般人の執念だけで成せる業ではない。
 さくらは男をまっすぐに見つめて、その名の通りの桜色の瞳に憂いを宿した。
 ──攻性植物を受け入れてしまった人は、もう元には戻れないのかしら……。
 本当は答えなんて判っている。それでも、願わずには、疑わずにはいられない。
 草花は好きだし、緑は心を和ませると思う。だが、無暗にひとを傷付けるために使う植物、それも本来の人格をも浸食してしまうとなれば、歓待はできない。
「……ならせめて、被害が広がる前に終わらせてあげたいわ」
「ん、ここで終わらせましょう」
 伝えるつもりのなかったさくらの声に、返ったのは夕月の肯き。ふたりは目配せ交わすと同時に敵へと駆けた。刹那、敵が判断に迷う。
 それを狙い、さくらは纏う黒の液体──ブラックスライムを槍状へ変化させるが速いか、敵の腕を串刺しにした。
「が、ッ……!」
「夕月ちゃん!」
「はーい」
 ──……異形化したひとも、助けれるんだったら助けたいんですけどね。
 このデウスエクスを放置することで、より多くの命が奪われる。ならば大の為に小を切り捨てることを夕月は選ぶ。
「……ごめんね」
 呻く敵へ、その槍を足場に高く跳ぶ。応じるように槍が液状と化し露わになった傷口へ、あやまたず夕月の斬撃が喰らいつく。敵は声にならない咆哮をあげた。ぎりと向けられた顔は、憎しみに醜く歪む。
「くそっ……くそっ! ひとりじゃ、なにもできない癖に……っ! みんなみんな、殺してやる……!!」
 両の腕に伸びた攻性植物の浸食。
 男はその掌を、だん、と地に突いた。
 アスファルトに罅を走らせ割り裂いて、その蔓──否、根は大地を浸食し、そして激しい地揺れと共にケルベロス達の足許を大きく崩した。
「きゃああっ!」
 前衛達を呑み込んだ上に、崩れた固い破片が降り注ぐ。埋葬形態。肩で息をする男の瞳に喜色が浮かぶのを見て、智衣はウィッチドクターの証、ライトニングロッドを構える。
「やはり、貴方は間違ってます……ひとを傷付けて喜ぶ力なんて! 迸る稲妻よ……賦活の力、癒しと共に与えたまえ……!」
 奔った稲妻はまっすぐにアスファルトの割れ目の中へと墜ちた。轟音の余韻も消えぬ間に、雷纏ったかのような金色の髪のオラトリオ──うるるが上空へと舞い上がる。
「あなたの言う通りよ、智衣!」
 癒え切らない傷を四肢に刻みながらもうるるは微笑む。彼女自身、病魔と闘い、克服した。そこに生への渇望はあれど、死を望む気持ちの付け入る隙はない。
「さあ、受け止めてみせて! あなたに愛をあげる!」
 全重力を乗せた直下降。全身を弾丸にして叩き込む、愛は万有引力。
「が、は……ッ!」
 文字通り血反吐を吐いて転がり、壁にぶち当たって蹲った男の前に、恋苗が立った。静かに見下ろすその瞳には、哀しみとも憤りともつかないいろが浮かぶ。
「力を欲する気持ちは、よく判るわ。少し、似ているとも思う」
 彼女はそっと瞼を閉じた。
「でも、あなたは間違えた」
「うる、さい……うるさい……僕は! 僕は間違ってない!」
「いいえ」
 苦し紛れに突き出された蔓を踏み付け、しゃ、と音だけが残る。鋭い刃に掻き斬られた蔓の一部が、ぼたりと割れた地面に落ちた。
「あたし、見た目程静かにしてる女じゃないの」
「があぁあああああ!!」
 吹き出す血に、男が喚く。その首を、ひょう、と風切り還の痛烈な跳び蹴りが叩きのめす。
「うるさいです、雑草さん」
「あァ──」
 還の作ったこの上ない、大きな隙。くらり、視点の定まらない男の額に標準を定め、ロベルトは小さく嘆息した。かちり、ひとつ回すリボルバー。
「雑草は、根から断たねえとな」
 そして、軽くすら感じる引き金を、引いた。
 タぁン、とビルの間に銃声が木霊した。

●すべての後に
「……ちょっと暴れすぎたかしら、ね」
 罅割れたアスファルトにヒールを施すと、見る間に見事な赤レンガの道が出来上がった。
 黒と赤のストライプになった路地をそっと撫でて恋苗が呟くが、敵は一体、全員が集中して狙いを定めることができたが故に、周囲への被害は少ない方だと言えた。
 元より路地に伏せっていた男達。そして攻性植物を受け入れてしまった男の遺骸は丁寧に整え、瞼を下ろしてやった。
 どこか困ったようにそれを見下ろして、口許を隠すようにして、ロベルトは太い指に煙草を挟んだ。
「あんなもん、受け入れやがってよ。……馬鹿が」
 もっと他の道があっただろうに。逃げ散った他の若者達が、こんな結末を迎えないことを、あとはただ願うのみだ。
「正直、馬鹿やってたひと達には良い薬だとは思いますけどね」
 夕月の素直な言葉に、そうね、とさくらも肯く。それでも、と告げて、彼女は地面に眠る男達へと穏やかな視線を向けた。
「花が枯れ、残った種がまた芽吹くように。あなたが再びこの世界に生まれる日まで、……おやすみなさい」
 見上げれば夏空。
 ──先生……罪を憎んで人を憎まず、ですよね。
 智衣は改めて思う。
 ──これからも、何処かから見守っていて下さいね……?
 それは、この先も道を踏み外すことのないようにと祈りを籠めた、誓いの言葉でもあったのかもしれない。
 めいめいに路地をあとにしながら、還は一度だけ、振り返る。
「……」
 るーさんがその顔を覗き込む。ただ首を振った彼女は、結局なにも言わなかった。

作者:朱凪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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